魔王城でおやすみなさい―MASEX!― 作:( ˘ω˘)スヤァーリンおじさん
人界で最も高貴な姫君、オーロラ・
(……至福とはこの事か)
魔王にさらわれてから早一週間。
王宮では日々の執務で不眠気味だった身体も、今では十分な休養を取れていた。
それに人界における魔族のイメージとは異なり、人質だからといってこちらを全く害してこない。
というよりも魔族の少年一人しか今の所接触しておらず、ほぼ隔離されていた。
とはいえご飯もきちんと三食出され、しかも割と美味。
魔王城食堂メニューからのリクエストも可能であり、最近の姫のトレンドは「怪鳥茶碗蒸し」。
そして何より素晴らしいのは、十秒もあれば眠れるふかふかベッド。
下手をすれば姫が使っていた王宮の物よりも質が良かった。
「ここが私の、安眠の地か……(※魔王城)」
思う存分に熟睡し、眠りの快楽を堪能する。
とても敵陣の中枢である魔王城だとは思えない、至れり尽くせりの環境だった。
ただ強いて不満を挙げるとすれば、姫が付けていた冠を取り上げられた事くらいだろうか。
頭を締め付けるあの感覚がないと、何だか落ち着かない気分になる。
だが姫がその事をお付きの少年に告げた所、すぐに対応してくれた。
その際に自分で作れると言ったからか、要望通りの素材と必要な道具まで手配してくれた。
針や鋏など金属類の道具を使っている間は、監視のためか魔族の少年がずっと傍に居たが、特に邪魔をするでもなく気配を消していたので、気付けばその存在を忘れてしまう事が多々あった。
そして完成した冠型ヘアバンドは姫会心の出来であり、唯一不満だった点もあっさりと解消されたのだった。
それに細かな不満があったとしても、大抵の願いは魔族の少年に言えば叶えてくれる。
これぞ正に、人類の姫たる者に相応しい天上人の生活。
王宮にいた頃のような公務もなく、睡眠時間を削るほどの仕事もない。
書類の山に埋もれることもなければ、公務で各地を飛び交う事もない。
――安住の地(※魔王城)は、ここにあったのだ。
唯一贅沢な悩みとしては、暇になりがちである事が難点といえば難点だったが、冠型ヘアバンドの一件で姫の手先が器用な事を知られたからか、少年から刺繍や裁縫などを勧められた。
これがとらわれの姫としての仕事といえば仕事であり、姫は自分用の衣服や小物等を制作した後は、手慰みに自分では使わないが、いざとなれば予備になる物を作り始めた。
これも少年からの提案で、その品々は魔王城内で売りに出され、その売上は姫のお小遣いとなっている。
もちろん人質の姫がそれを直接管理しているわけではないが、自分で作った作品を評価され、その代価である
特に、稼いだお金で買う好物の「おうさまチョコマシュマロ」は格別だった。(一粒時価1000G)
ちなみに城内では魔物達の間で姫様ブランドが空前の大流行をしており、売り子を手伝ってくれたさっきゅんが
人質の身でありながら着々と魔物達から金を巻き上げ、その貯蓄を増やしていく姫だったが、金庫番である少年の収支報告は大抵聞き流しているのでその事実に全く気付いていない。
(会ったことないけど、私をさらった魔王には感謝しないとな……)
さらわれる間、ずっと寝ていた姫。
魔王とは未だに会話したことすらなかった。
(こんなにも素晴らしい安眠の地を、私にくれたのだから……すやぁ)
ここが魔王城である事を心の底からどうでもよさそうにしながら、姫は今日も安眠する。
(……そういえばあの子の名前、なんだっけ?)
姫専属の世話係であり、姫が快適に過ごせるようにと、常に気を配ってくれている執事服の少年。
その見た目は魔族とは思えないほど人間に近く、女の子かと思ったら男の子で、小柄な体は執事服に着られている様に思えながら、その仕事は丁寧かつ迅速。規模の大きくなった姫牢の清掃や管理を一手に担っていた。
姫は瞼の裏で思い返す。
そういえば何かの折に、自己紹介されたような、されてないような。
『姫様、あの……僕は淫魔なんですが、傍に控えても問題ありませんか? もちろん決して姫様がご不快になるような、変なことなどいたしませんが、それでも僕(淫魔)の事がご不快であれば、お付きの役目を他の者と交代いたしますので……』
どこか申し訳なさそうに、何やら言い訳がましく言ってた気がする。
『(何だかよくわからないけど別にどうでも)いいよ、君で』
『い、良いんですか!? 僕って淫魔なんですよ!?』
驚く少年だったが、姫は彼が何に対して驚いているのか、全くわからなかった。
『(いんま? って……なんだそれ? けどなんだか眠くなったし、うーん、もー)いいよ、君のままで』
『……あ、ありがとうございます、姫様っ!』
淫魔である事を否定され、遠ざけられる覚悟をしていた少年にとって、姫の態度は正に高貴なる者の大器を感じさせた。さす姫さす姫。
そうして眠りに落ちる間際、思い出すのは魔族の少年に初めて会った時の事。
涙を流す少年の顔が、姫の記憶に何故か鮮烈なまでに焼き付いていた。
あんなにもただ透明で、見る者を切なくさせるような泣き顔を、姫は他に知らない。
(次に目覚めたら、あの子と少し、話してみようかな……)
そんな事を考えながら、姫は夢の世界へと旅立つのだった。
「……スヤァ」
( ˘ω˘)スヤァ