コンコンッ!
「失礼しまーす」
──汐留にある某テレビ局、出演者控室。
扉を開けると部屋いっぱいに香る、くらくらするほど甘い女の子たちの匂い。
ぼくの名前は潮田渚。
今をときめくアイドルグループ「E組ガールズ」の専属マネージャーだ。
「そろそろリハーサルですよー」
「「「「「「はーい!」」」」」」
E組ガールズは大物アイドルのバックダンサーから選抜されたメンバー6名で結成、三年前にデビューした。
最初はなかなか人気が出なかったけど、敏腕副社長イリーナさんのおかげで去年大ブレイク。メンバーはそれぞれ中学から一緒に厳しい練習を積んできた仲間同士で、みな仲が良くていい子ばかりだ。
特に人気が高いのがこの三人。
一人目は神崎有希子さん。歌がとても上手く、美人で聡明、おしとやかな性格はまさに正統派アイドル。グループ1の人気者で、今年は某携帯キャリアのCMに、主演映画が二本。高い演技力で俳優業は順風満帆。
二人目は矢田桃花さん。プロも唸るダンスに、巨乳とポニーテールと愛らしい顔立ちで、テレビのバラエティーに引っ張りだこ。芸人たちのエロトークをさらりといなす大物ぶりに、グループの枠を超えてお茶の間人気が急上昇。
このツートップの二人に対して、今年猛烈に追い上げてきたのが三人目の速水凛香さん。クールな美人で歌もダンスもハイレベルだけどなぜか地味ポジションだった彼女が、週刊誌に猫デレデレ写真を撮られてからギャップ萌えで一気にブレイク。ネット民に人気が高く、熱狂的ファン多し。
「渚、収録済んだらマッサージしてくれる?」
「あー、ずるーい。わたしもお願い!」
「えー!わたしも頼むよぉ!」
「ハハハ…」
みんな連日のテレビ出演で疲れてるみたい。それもこれも今度のドームツアーの宣伝だから仕方ないけどね。
「渚、荷物片付けておいたぞ」
ふいに背中に声をかけてきたのは、ぼくと同じく「E組ガールズ」の付き人兼マネージャーを務める千葉くんだ。
「ありがとう、助かるよ」
特徴的な長い前髪と高い身長、冷静な性格の彼は事務処理能力が抜群で、メンバーのボディーガードも務めている。聞けば烏間社長直々のスカウトらしい。
アイドルは、人気と背中合わせで常に危険の伴う稼業だから、ぼくらマネージャーはとても神経を使っている。なかには危ないファンもいるので、大量にもらうプレゼントや花束をひとつひとつ安全かどうか確認する必要がある。
そういう面倒な作業でも黙々とこなす千葉くんは、メンバーからとても信頼されている。というか、隠れイケメンだと熱い視線を浴びているのだ。彼はまるで気にしてないみたいだけど。
「じゃ、カメラテストいきまーす」
「「「「はーい!」」」」
あれ、なんだか神崎さんと矢田さんが少し元気がない気がするけど気のせいかな?この収録が終われば明日一日お休みだから、あと少しだけがんばってほしい。
そんなことをぼんやり考えながらスタジオ収録を見守っていると、突然背中をポンと叩かれた。
「お疲れさま、渚」
「あ、副社長」
副社長のイリーナさんは烏間社長の奥さん。セクシーなブロンド美人でやり手のアイドルプロデューサーだ。業界関係者からの信頼が絶大で、この人のおかげで仕事が来ていると言っても過言じゃない。
「みんな元気?」
「神崎さんと矢田さん、少し元気がないですね」
「…ほう、渚はよく見てるわね」
「なにか(本人から)聞いてるんですか?」
イリーナさんは何故かそれには答えず、話題を変えた。
「凛香に化粧品のCMの話が来たわ」
「え、よかったですね」
「あの子、ちょっと口下手だからCMの仕事はぴったりよね」
「あー、たしかに」
速水さんは最初クールで取っ付きにくい印象だったけど、話せばやさしくてさりげなくぼくに気遣いをしてくれる。
「最近笑顔が増えたし、性格も変わったと思わない?」
「言われてみればそうですね。人気が出て自信がついてきたんでしょうか」
「ふふ、私が言いたいのは、その人気が出るようになったきっかけの話よ」
「…?」
「さて、渚も今日はこれでお仕事終わりよね?」
「はい、明後日からツアーなんで」
「あとであんたに大事なお願いがあるから、21時に○○ホテルのロビーに来てくれない?」
「わかりました」
ホテルは事務所から歩いてすぐにある。なんだろう、大事なお願いって…?
長かった収録がようやく終わり、事務所に戻るとぼくはリーダーの片岡さん、中村さん、倉橋さんの順にマッサージをした。
「ん…、あ…、いい…」
自分ではよくわからないけど、みんな口々に「触り方が絶妙ですごく気持ちいい」という。今もうつ伏せの倉橋さんの太ももをやさしく揉むと、時折ため息まじりのかわいい喘ぎが漏れる。
「なぎさ…もっと上のほう、そう付け根のあたり、そう…んんっ!」
倉橋さんの全身がピクッと痙攣した。もっとこういう反応が見たくて、ぼくは焦らすように手を彼女の膝裏あたりまで戻す。
「ああ…だめだよ渚ぁ、もう少ししてぇ…」
「ごめん、あんまり時間ないんだ」
「じゃ、もう一回だけさっきのとこ、して?」
「いいよ、こう?」
「あんんっ…!やああ…」
切ない喘ぎのあと、倉橋さんは急に膝をたてて起き上がった。
「どうかしたの?」
「え?ううん、なんでも…」
よく見ると、倉橋さんのグレーのジャージパンツの股に小さな染みが浮かんでいた。
「み、見ちゃった…?」
「なんのこと?」
「な、なんでもない。ちょっと着替えてくるね?」
倉橋さんはいつも明るくてグループのムードメーカーだ。頭の回転が早く、どんな相手でも自分のペースに巻き込む力がある。今はまだ他のメンバーに隠れているけど、バラエティーや舞台などこれからもっと活躍していく存在だと思う。
「ばいばい!なぎさ」
倉橋さんを会社の車でマンションまで送り届けたぼくは、イリーナさんに渡す書類を思い出して、もう一度事務所に戻った。
IDカードをかざして中に入り自分の机を漁る。中堅の芸能プロダクションとして、それなりに羽振りのいいうちの事務所は少し古いビルのフロアを丸ごと借りきって使っている。
「おや…?」
廊下の奥のレッスンルームに電気が灯っている。だれか練習してるのかな?
得意のナンバ歩きで静かに近寄ると、中から男女の気配がする。
ちらりと扉の隙間から覗きこむと、ついたての下から二人分の脚が見えた。男の足許にはズボンがずり落ち、向かい合う女は両ひざを床についている。
「ん…んむ…、はむ…(チュポッ)」
「く…、うあ、き、気持ちいい……」
…な、な、な、なにやってるの!?!?
驚いたぼくは、この二人が誰なのかを確かめるべく、ソロリと足音を忍ばせて隣の音響調整ルームに入り込んだ。
この部屋のガラスはオーディション用にレッスンルームを一望出来るようになっていて、しかもこちら側が見えない仕掛けになっている。
ああ…やっぱり。
ぼくの予想通り、この二人は速水さんと千葉くんだった。しかも速水さんは…なんと千葉くんの下半身を口で奉仕している。
超人気アイドル「E組ガールズ」のあの速水凛香が、今日テレビで着たばかりのコスチュームで、上目遣いで男性器を愛おしそうに舌で舐めては口に含むを繰り返しているのだ。
ゴクリ…。思わずぼくは生唾を呑み込んだ。
「ん…ん…(レロッ)、んむ…(チュプッ)」
「う、ああ…、り、凛香……」
千葉くん、すごく気持ちよさそう。時折速水さんの頭を押さえてなんとか射精をセーブしている。でも、しっかりと根元まで含もうとする速水さんに押され気味でもう限界が近い。
もし彼女に入れ込んでいる数多のファンがこの光景を見たら、卒倒するか憤死するにちがいない。それくらいこの現実は残酷だ。
「ん、ん、ん…!んんっ…!」
「だめ…だ、い、イクッ…!」
ぼくは千葉くんが速水さんの口のなかで果てる瞬間を見てしまった。
ブビュッ…ドプドプッ!ビクンッビクン!
「んッ…!んくっ…(ゴクッ)、んん、ふう…」
千葉くんの出した白濁を嫌がるそぶりもなく飲み干し、なおも硬さを保った肉棒からゆっくりと唇を離した速水さんの横顔は、とても満足そうだった。
「ねえ、続きは私の部屋でしていい?」
「ああ、でもほんとに行っていいのか?」
「私は千葉としたいの…だめ?」
「だめなんてあるわけがないだろ」
「ふふ…(チュッ)じゃあ送ってくれる?」
「おう」
二人が片付けを始めた。ヤバい、逃げないとさすがにまずい。ぼくは急いで事務所を出て、イリーナさんと待ち合わせのホテルに向かった。
歩きながら、頭のなかは千葉くんに奉仕する速水さんでいっぱいだった。自分の担当するアイドルがあんなことをするなんて、ひどくモヤモヤして複雑な気持ちだ。
気が付かなかったなあ…まさかここまで深い仲になってたなんて。…なんだか悔しい。
ホテルのロビーに着いた。辺りを見渡してもイリーナさんの姿がない。そう思っていると従業員が近寄ってきた。
「潮田様ですね?」
「あ、はい」
「こちらへどうぞ、特別室でイェラビッチ様がお待ちです」
向かった先はエレベーター。渡された黒いカードを機械にかざすと、操作パネルにそれまで消えていた階が表示された。スーッと上階に駆け上がる。
チーン…!
エレベーターを降りると、毛足の長いカーペットが廊下一面敷かれていて、いかにもVIP専用階って感じ。恐る恐る特別室の呼び鈴を押す。
ピンポーン…、ガチャ。
「はーい、待ってたわ渚」
「副社長、ここ…すごいですね」
「まあ入って?」
中に入ると巨大窓にきらびやかな夜景が広がる素晴らしいスイートルームだった。ぼくの安アパートがいったいいくつ入るだろうかと思うぐらい、広い。
シャンパングラスを渡され、ソファーに座る。
「さて、今日の話の続きだけど」
「ああ、きっかけのことですか?」
「そう、どうして凛香が変わったのかわかる?」
「好きな人ができたから?」
「ご名答。相手はだれだと思う?」
「千葉くんですね」
「…どうしてわかったの」
「さっき見ました。二人きりでいるとこ」
「そう、なら話は早いわね」
イリーナは目の前で長い脚を組んだ。
「女というのはね、男から愛されると自信ができて、物凄く強くなれるものなの」
「はい、なんとなくわかります」
「ところで、なぜあんたがうちの事務所に拾われたのかわかる?」
…ぼくには芸能マネージャーとしての過去に汚点がある。本来売り物であるはずの所属タレントと交際し、事務所をクビになってしまったことだ。
まあ、よりによって事務所の看板スター磨瀬榛名とデキてしまったのだから仕方のない面はある。レッドカード、つまり会社からしてみれば一発退場のタブーを犯してしまったというわけだ。
クビになったあと、ぼくは以前イリーナさんから声をかけられたことを思いだしてダメ元で面接を受けたところ、なぜかすんなり採用となった。もちろん正直に話した上で、だ。
「それはわかりません、どうしてですか?」
「磨瀬が子役のイメージを振り払う難しい時期をなんとか乗り越えられたのは、あんたと男女の関係だったからでしょ?それをマスコミにバレたわけでもないのにクビにするなんて、ほんとクソだわ」
「……」
たしかにあの事務所、怒った磨瀬に逃げられてからすっかり経営が傾いたらしい。あれからお互いに多忙で、ぼくと磨瀬(本名 雪村あかり)とはすっかり疎遠になってしまった。
「だから凛香が千葉と付き合うことぐらいは何も気にしてないの。恋愛がアイドルを磨くのは事実なんだし。それにそもそも二人を焚き付けたのはこのわたしだから」
「…そ、そうなんですか?」
「下手な相手より、千葉とくっついたほうが百倍安心でしょ?」
まあ、たしかに。おかしな相手と交際してケチがついたらアイドルとして台無しになるし、逆にうまく行けばタレントとしての魅力が高まる。…そこまで計算してるのだ、この人は。
「凛香はいい女よ。もし千葉と別れたらあんたがもらえばいい。なんなら今すぐ寝取ってみる?」
「…冗談はよしてください。そ、そんな大それたこと、ぼくにはできません…」
と言いながら、頭のなかでは速水さんに奉仕される相手をぼくに置き換えて考えている。
「さて、あんたに頼みがあるって言ってたことだけど」
そうだった。
「あんたにエッチをしてもらいたい相手があるの」
「ま、まさか、副社長ですか…?」
「バカなの?」
「冗談です」
「さっきから隣の部屋でずっと待ってるわ。あんたが来るのをね」
「は、はい…?」
「心置きなくのんびり楽しんでね。できればとことんアブノーマルな変態行為をして」
「冗談ですよ、ね…?」
「本気よ、本人たちも納得済みだし」
ゴクリ…。そ、そんな、だ、誰なんだろう…って、えええっ!?
「副社長、今『たち』って言いましたよね?」
「言ったわ。相手は二人だから」
「は、はああッ…!?」
「なに驚いてんの?」
「そ、そりゃ驚きますよ、理由を教えてください」
「凛香の急成長にかなり脅威を感じてるらしいの、それが理由」
「脅威…ですか?」
「そう、凛香はハンターよ。狙ったものは決して外さない。だから自分たちもうかうかしてられないって」
たしかに速水さんは歌もダンスもチームでのポジションも交際相手も全部手に入れた。そういう意味で、百発百中の凄腕ハンターだ。
「でも速水さんとその子たちの魅力は、また全然タイプが違いますよね?」
「そうね。でもまあわたしが説得するより、あんたと目一杯セックスするほうが相手も元気になるでしょ?」
「…そ、そんなもんですか?」
「そんなもんよ。アイドルは自分以外すべてライバルなんだから、たまには癒しが必要なのよ」
「は、はあ…」
ちょっとなに言ってるのかわからない。
「さあ、時間よ」
ぼくは促されるまま隣の部屋の扉をゆっくりと開いた。
そこにいたのは……
「待ちくたびれたよ、渚~」
「こっちきて座って?」
え…、えええッ…!?!?
なんとうちのツートップ、神崎さんと矢田さんだった。しかも二人ともランジェリー姿…。
「食事も頼んであるし、明日の夕方まで貸し切りだから存分に楽しんでね?もちろん経費は会社でみるから心配しないで大丈夫よ」
「ふ、副社長…?」
な、なんて太っ腹な会社なんだ!?!?
「ただし、明後日からは三人でのエッチは許すけど、個々との交際はNGだからね。破ったら渚は即刻クビ」
釘を刺された。どちらか一人に肩入れすると揉める元になるからそれはダメ、ということだろう。
しかしこの副社長、所属アイドルを成長させるためだけにここまでするとは…。たくましすぎるその商魂に、最早あきれを通り越して笑ってしまう。
「じゃ、あとはよろしくね」
イリーナさんはウインクをして部屋を出ていった。