───お庭番、詰所。
「…というわけで、南町奉行所から情報が漏れたということは間違いないようです」
「そうなんだ…そりゃ、前原くんショックだったろうね」
先日のカエデ姫襲撃事件の顛末について、ぼくは神崎さんから報告を受けていた。
やさしい瞳に尖った顎、とびきり美人で真面目な彼女を目の前にすると、こっちの気持ちまで引き締まってくる。
情報が漏れたというのは、同心のひとりが酒に酔った勢いで子飼いの岡っ引きに姫のお忍びについてうっかり話してしまった、ということらしい。
「その岡っ引きは顔が広い上に賭場にも出入りしていたようです」
「あー、表向きは情報収集なんだろうけど、犯罪者とどっこいどっこいだからね、あの連中。まあ調べても真相は闇の中かな」
浅野家の手の者はすでに市中に根を下ろして活動している。おまけにシロとかいう正体不明の連中も暗躍しているし…本当に困ったことだ。
「殿よりその件で二つほど指示がありまして」
「うん」
「ひとつは浅野家の手の者を城下から根絶やしにするように」
「うんうん」
それはまあ、磯貝くんたち奉行所メンバーと一緒にがんばろう。前原くんも名誉挽回したいだろうし。
「もうひとつは、浅野家の領内に赴き、この度の返礼として手痛いお灸を据えてくるように、と」
「ほう…手痛いお灸というのはどの程度をお考えなのかな?」
「浅野家のあるじ学秀殿は独身で、兄弟はおろか関係の深い親戚もありません。むしろ対象は重臣四人衆、そのなかからこの度の仕掛人とおぼしき者を特定し、殺害せよとの仰せです」
「なるほど、さてどうするかなあ」
「殿は少人数のくノ一で実行するように言われまして、速水さんをご指名です」
「え…!そ、そうなの?」
「はい、必ず討ち果たしてくるようにと」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、殿もご無体な。そういうことはぼくらが考えることだと思うんだけど」
「はい、ですが殿もこのたびの事には大層お怒りでして…」
「ま、まあ、それはわかる。妹君が狙われたわけだからそれはわかるんだけどさ、あきらかにこれヤバすぎる任務だよ…?それに速水さんの身にもしなにかあったら困るし…」
「え?」
「あ…、いや、その、うちのメンバー構成で考えたら、だよ?」
もちろん矢田さんや神崎さんにしてもだ、敵の巣窟にわずかな人数で行ってこいだなんて、そんなことぼくには命令できないよ…
「ですがこれは殿のご命令です。姫の護衛は当面わたくしが引き受けますので、それでよろしいですね?」
「う、うん…」
も、もし速水さんが、敵に殺られでもしたら…
「わたしの話を聞いてますか?元締」
「えっ…?あ、も、もちろん…」
はあ~…と神崎さんが深いため息をついた。
「元締のやさしいお気持ちはありがたいですが、わたしたちは赤羽家の家臣。いかに非情な命令であろうとそれは覚悟しております」
「わかってる、わかってるよそんなこと…」
「いえ、お分かりではありません」
「えっ…?」
「くノ一は任務を果たしてこそ無上の喜び、たとえそれが死を免れぬ任務であったとしても。無論、速水さんも気持ちは同じです」
うん…まあ、その通りかもしれない。で、でもやっぱりぼくにそんなつらい命令なんてできない…
もしかしてカルマ様は、ぼくを試しているのかな…
………
───隣国、浅野家居城。
「…で、シロとか申すおぬし、そのペドナなる薬はどこにある」
「フォッホッホ、実物はここにはござらんが、ご所望とあらばいかほどにも」
シロの目の前には浅野家当主、浅野学秀。そしてシロのすぐ後ろには例の鷹岡明が控えている。
「フン、その手には乗らぬわ。そもそも俺はそのような物に興味はない」
「左様で、ならばお役には立てませぬかな?」
「いや、そうでもないな」
「ほう」
「おい」
「はっ…!」
バシン、バシンッ…!
突然左右の襖が開き、刀を構えた侍たちが現れた。
後ろに控える鷹岡明が密かに袖から何かを出そうとして、シロに静止される。
「のこのこ現れおって、この俺がそんな罠にひっかかると思うか?そのクスリとやらで
「フッ…さすがは浅野殿、なかなか頭の切れる御仁であらせられるな。だが、それは早計というもの」
「ほう、ではなにが望みだ、言え!」
「お話ししよう。ここに控える連れの者は赤羽家の元侍大将、なぜそのような者をわざわざ連れてきたのか、賢明な貴殿ならお分かりであろう?」
「なんと無礼な物言い、失礼だぞ!」
浅野家重臣四人衆のひとり、瀬尾智也が怒鳴った。
「よい、語ってみせよ」
鷹岡が伏したままズイッと前に出る。
「我が名は鷹岡明。赤羽公に数多の面前で恥をかかされ、海より深い恨みを抱えておりまする。その復讐ができるのであれば命を賭してでも浅野家に忠誠を誓いたく、お願い申し上げる」
「ほう」
学秀は鷹岡をしばらく観察すると、四人衆のひとり荒木鉄平を呼び、ヒソヒソと話をした。
「よかろう、貴様のことは聞いている。わが家臣の末席に連なり、せいぜいその復讐とやらに精を出すがよい」
「ありがたき幸せ」
鷹岡はニヤリと小さく笑い、頭を下げた。
「シロとか申すそなたはどうするつもりだ。そのクスリとやらを我が領内で蔓延らせでもしたらただではおかぬぞ?」
「フフフ…浅野殿、覇道とはすなわち奪う者と奪われる者の両方が必要。片方だけでは成り立たぬゆえ…」
「いちいち癇に触る男だな。まあいい、お主は赤羽家を陥れるために我らに協力したいと、そう申すのか」
「ご明察の通り」
「フン、果たして奪われる哀れな役は赤羽家だけで済むかな?」
「それは殿のお心次第かと…」
「わかった、あとで使いを寄越す。それまでは城下にて待て」
「恐悦に存じます」
シロたちが退出すると、すぐに瀬尾智也が学秀ににじり寄った。
「殿…!あのような出自の知れぬ怪しい者など、どうせ口ほどの役にも立ちませぬぞ!」
「おやぁ?先日失態をしでかした貴殿の部下よりはいくらかマシかもしれぬぞよ?ギシシシシシッ!」
四人衆のもうひとり小山夏彦がせせら笑う。
「黙れ!このキモメガネが!」
「こらケンカはやめろ、殿の御前だぞ!」
あわてて止める荒木。
「俺とて根拠なく申すのではない!わが配下くノ一衆の仕上がり具合を殿にぜひお見せしたいと思っておるのだ!」
「ほう、例の土屋と申す者か」
「左様、あの者のおかげでかなりの手練れを揃えられた由、赤羽のくノ一なんぞもはや目ではござらぬ!」
「ふむ、それが真であるなら楽しみなことよ」
一方、四人衆の残り一人、榊原蓮は…
「ま、待たれよ、シロ殿」
「これは榊原殿、なに用でござるかな?」
「先ほどのクスリの件だが、少量で構わぬゆえ、わたしに分けては貰えぬだろうか」
「ほう、承知いたした」
「無論お礼ははずませてもらう。た、ただし、殿には絶対に内緒でお願いしたい」
「フフ、もちろんでござる」
………
その夜、ぼくは詰所に速水さんを呼んでふたりで話をすることにした。
「というわけで、その…」
「要するに私に乗り込めと」
「もちろん一人じゃない、あと何人か連れてだよ?」
「では、部下を三名ほどお願いいたします」
「さ、三人…!?少なすぎない?」
「いえ、その方が身軽でありがたいです」
「わかった、それと三村くんが現地で手助けしてくれる手筈だから」
「承知しました。明日の夕方には出立します」
速水さんは顔色ひとつ変えず応諾した。
「あ、あの、速水さん?」
「なんでしょう」
「た、体調とか、大丈夫?」
「いたって健康です」
「そ、そっか…」
「元締にお願いがあります」
「な、なに?」
「姫のこと、くれぐれもよろしくお願いします」
速水さんはぼくに深々と頭を下げた。
「わかった、それはいいんだけど」
「なんですか」
「い、いや、なんでもない…」
いつも以上に優柔不断なぼくを見て、彼女はなにか感じとったのか、ふいにギュッと抱きついてきた。
「わっ…!な、なに!?」
「ずるい…」
「え…?」
「なんでもないです、では失礼します」
「待って…!」
身体を離して立ち去ろうとする速水さんの腕を、ぼくはガシッと掴まえた。
驚く彼女の背中に手を回し、半ば強引にキスをする。
「んっ…!(チュッ)」
貪るように唇を舐めまわし、口のなかに舌をねじ込む。
「ん、んむ…♥️はあ…、んんっ!」
すると速水さんの腕がゆっくりとほどけ、ぼくの身体を抱きしめた。
いとおしむように彼女の胸を揉み、より深く口のなかに舌を挿し込む。
「あ…、だ、だめ…!んっ、んむっ…♥️」
互いに舌を絡ませ合い、ゆっくりと唇同士を離すと、銀の糸が速水さんの胸元に落ちた。
ぼくはすかさず彼女の耳の穴に舌を挿し込む。
「ぼ、ぼく…(レロッ)もう一度セックスしたいんだ、できれば朝まで…」
「んんッ…♥️い、いいよ、きて…なぎさ…」
ぼくは彼女をドサリと畳に押し倒した。
速水さんの翡翠の瞳にぼくの顔が映っている。なんて深くてきれいな色なんだ…
ドクン!ドクン!ドクン…!
ぼくの心臓は半鐘のようにけたたましく鳴り響いていた。
………
───その頃、町外れのお堂
「ひ、ひどいじゃない、わたしを身代わりにするなんて…!」
間宮しおりは約束に遅れてやってきた大門さやかに詰めよっていた。
「あはは!そんなに怒んないでよ」
「あははじゃないでしょ!どうしてくれるのよ、わたしたちお尋ね者じゃない!な、なんでこんなことに…(グスッ、グスッ)」
「はあ…?あんたが自分で選んだことでしょ?」
「あれはさやかが言い出したことじゃない!わたしは結局あんたに嵌められたのよ!」
「わかったわかった」
「ね、ねえ、それよりこれからどうするの?わたしたち…」
「もちろん考えてるわ、ちゃーんとね」
「なにを…?」
「あんたの使い道よ」
「えっ?わたしの使い…んぐッ…!?」
しおりは鼻と口を例のクスリを仕込んだ手拭いで覆われて、あっという間にガクリと脱力した。
「楽しみましょうよ。お尋ね者ならお尋ね者らしく、とことんワルを、ね」
ギイイイ…
お堂の扉が開き、浅黒い屈強な男ふたりが入ってきた。
「ほう、なかなかかわいいじゃねえか」
「くノ一とヤれるとか最高だぜ、ヒッヒッヒ」
男のひとりがさっそくしおりの胸を揉み、キスをする。
「あはあッ…♥️んむっ…」
もうひとりの男はさやかに近づき、気安く肩に置こうとしたその手を払われる。
「ここまで用意したんだから、あんたたちも約束守んなさいよ」
「フン、わかってるって。必ずシロ殿に会わせてやるから安心しろ」
「それならいいわ」
さやかは自分からレオタードの肩を脱ぎ、男に胸を突き出した。
………
ジュプッ…グプッ、ヌプッ!チュブッ…
「あ、あん…♥️あん、はあっ…い、いい…!」
ぼくはいま、四つん這いの速水さんの腰をつかんで、背後から挿入している。
たっぷりと愛液で濡れたぼくの肉棒が、貪るように彼女の蜜壺を出入りする。
ああっ、すっごく締まって気持ちいいよ…!
「な、なぎ…さ、あんんッ…♥️わ、わたし、もう、だめッ、んんッ…♥️」
いつもはキリッとした彼女が、快楽に溺れた表情で困ったようにぼくを振り返る。
正常位で2回して、これで3回目。欲情は収まるどころか高まるばかりだ。もっともっと喘がせたい…
ぼくは速水さんの二の腕をつかんで上半身をグッとのけぞらせると、より深く挿入し直してさらに抽送ペースを速めた。
グプッ!チュブッ…!ジュプッ!ヌプッ…!
「ああんッ♥️い、いいッ…!あ、あッ♥️あんッ!はあッ…(き、気持ちいいとこに、す、すごく当たってる…)」
ドチュッ!ドチュッ…!ドチュッ!ドチュッ…!
緩急をつけて思う存分彼女のGスポットを突き上げる。
「な、なぎ、さ…、わ、わたし、あんッ…♥️も、もう、限界いッ…!あんんッ、い、イクッ…♥️」
蜜壺が肉棒をキュッと締めつけてすっごく気持ちいいッ…!
あああッ…ぼ、ぼくもイきそうだッ!!
頭からお尻まで貫くような快感が走ったその瞬間、ぼくは急いで肉棒を引き抜くと、速水さんのレオタードのお尻に向かって盛大に射精した。
ブビュッッ…!ドピュドピュッ!ビュルビュルッ…!ビクンビクンッ!
はあ…!はあ…!ヤバいよ…頭が真っ白になるほど気持ちいい…
うわ…こんなにレオタード汚しちゃった、ごめんね…
「はあ…、はあ…(ビクッ、ビクッ)んんッ…♥️」
ゆっくりと二の腕を離すと、彼女はうつぶせに倒れて、そのまま荒い息をしながら絶頂の続きを味わっていた。
「ねえ、今度はぼくが下になっていい?」
「…う、うん(うそ、まだあんなに硬い…)」
ビキイッ…とそそり立つぼくの肉棒。
速水さんはためらいがちにぼくに跨がり、ゆっくりと腰を下ろして自分で挿入した。
「はああ…!あ…んっ…♥️」
挿し込む際の快感で陶然とする彼女の表情を見たとき、ぼくは速水さんのすべてを手に入れた気がして、とても満足で幸せだった。
それから二度ほど大きな絶頂を味わったぼくらは、疲れ果てて横になった。
彼女は明け方にぼくの頬に静かにキスをすると、スックと立ち上がり、朝靄の庭に消えていった。
結局その日は顔を合わせることもなく、彼女は部下を連れて隣国浅野家の領地へと旅立っていった。
………
「行ってしまいましたね、速水さん」
「うん、そうだね…」
「あー!すっごく落ち込んでる!」
「そりゃあ、まあね」
「だいたいなぁ、なぎさぁ~」
「矢田さん、それぼくのお猪口なんだけど」
「いいのいいの、そんな細かいこと。それよりさぁ、凛香ばっかり気にして、わたしのことなんかずーっとほったらかしだよ?それどういうつもり!?(ドンッ)」
「あっ!袴にこぼれた、や、矢田さぁん…」
今夜は神崎さんと三人で飲み会。それよりぼくはなんでさっきからこんなに絡まれてるんだろう…
言い訳じゃないけど、最近矢田さんだって後輩の指導が忙しくて、ふたりきりになる機会がないのも事実なんだよね。
「こらこら矢田っち、いいかげんにしなよ。元締困ってるでしょ」
「困ってるぅ?はああ?だれがぁ?困ってるのはこのわ、た、し、だよぉ~!?」
「だめだこりゃ…」
このお店の女将は元くノ一の原寿美鈴さん。怪我をして引退してからこの店を開き、今ではすっかりくノ一仲間の溜まり場になっている。
「はい、揚げ豆腐と里芋のうま煮」
「わ!美味しそう!」
「しかしずいぶん淋しくなったね、古い仲間が減っちゃって。まあ、わたしもその原因のひとつなんだけど」
「片岡さんは磯貝様、不破さんは三村様に嫁いでしまったしね。もちろんいいことなんだけど」
神崎さんが淋しそうにつぶやいた。
「そっか、ひなたちゃんはどうしてるの?」
「岡野さんは後進の指導を頼まれて、烏間先生の道場で働いてる」
「あ~あ、今ごろメグがいてくれたらなぁ、もっと楽ができたのに。ねぇ?神崎さん」
「そうね、彼女はわたしたちよりよっぽどしっかりしたリーダーだったから…」
あらら、余計しんみりしてしまった。
いつもいる速水さんが欠けただけで、こんなに淋しい気持ちになってしまうなんて。でも、そんなときだからこそ元気を出さないとね。
「明日も早いしそろそろ失礼しようか、じゃあお勘定」
「当然、なぎさのおごりよね~?」
「うっ…(矢田さん、ぼく薄給なんだよ!?)」
ヒュー、表に出ると風が寒くてついでにぼくの懐も寒い。
「なぎさぁ~、もう一軒いこ?」
「これこれ、なに言ってんの」
満月の下、ぼくは矢田さんをおんぶして歩いている。うッ…せ、背中に彼女の大きなおっぱいが当たってます。
「のど乾いた、お店に寄りたぁい」
「はいはい、そこの長屋の井戸からお水汲んであげるから」
神崎さんになだめられて地面に足を下ろす矢田さん。ふらふらしてるけど大丈夫かな…
そのときだった。
ふわりとした髪に着流しの若い浪人が、ぼくらを見てニコッと微笑みながら通り過ぎた。
カチッ…
それは聞こえるか聞こえないかの小さな音だったけど、瞬間的にぼくは刀に手をやり、矢田さんも神崎さんもバッと身構えた。
「おっと失礼、これが鳴り申した」
男はニコニコしながら袖の袂に入れていた金属の小物入れをぼくらに見せた。
「こ…こちらこそ失礼」
おかしい…あれは絶対に刀の鯉口を切る音だった。もしあの男が本気だったら、三人のうち誰かは確実に斬られていただろう…
もしかして、こちらの腕を確かめるためにわざとあんなことを…?
「元締…」
「危なかったね、神崎さん」
「あのイケメン怖いよ~!なぎさぁ!」
「よしよし…」
すれ違うときに殺気などまるで感じなかった。こんな恐ろしい男がこの城下にいるだなんて…
いずれ近いうちにあの男と相対する日がやってくる。そんな予感がして、ぼくは満月を見ながら小さくため息をついた。
つづく