チュンチュン、チュンチュン…
「よう、邪魔するぜ」
「こ、これはこれはお奉行様ともあろうお方が、このようなところから…」
「気にすんな。それよりこれ、ふたり分な」
早朝、与力ひとりをお供に連れて城下のとある銭湯の裏木戸に顔を出したのは、南町奉行の前原陽斗。
「お代など結構で…」
「いいからいいから、タダで入ったりしたら俺が殿から叱られるよ」
笑いながら番台をくぐり、前原らが向かったのはなんと女風呂。実は早朝の女風呂に入れるというのは奉行所の特権なのだ。
通常、女性は朝の支度で忙しく明け方に風呂に来ることが少ない。そこを利用して男風呂から漏れ聞こえてくる噂話、お上の評判など世間の声を知るというのが目的だ(決してスケベ目的などではない)。
また早朝に来る輩には筋者(やくざ)が多いのも事実で、そうした裏家業の連中の噂話から、思わぬ事件解決に繋がることもある。
ザバーン…
「ふう、一番風呂は最高だな。湯が肌にかぶりついてくるぜ、なあ安田」
「ええ、結構な湯加減にございます」
「それよりよ、お前最近こっちはどうなんだ?」
小指を立てる前原。
「私共は生来の武骨者、なかなかそのような…」
「へへ、隠すな隠すな」
「それこそお奉行様こそ、そろそろ身をお固めになってもよろしいのでは?いいお相手がおありでしょうに」
「俺か?へへ、よりどりみどりのモテモテだからなかなか決まらんよ」
「おや、烏間先生のとこの岡野さんと大変仲がよろしいとお聞きしておりますが」
「ごほッ…!ごほッ、ど、どこからそのようなことを…!?」
「奉行所のみんなが言ってますよ。実は本命なんじゃないかって」
「い、言わなくていいんだよそんなこと。…おや?だれか来たな」
ガラガラ…
『お、今朝は俺たちだけか』
『へへ、のんびりしようぜ』
男風呂に入ってくるふたりの声。
バシャバシャ、ザバーン…
『ふう~!いい湯だな』
『ぷは~たまんねえぜ、まったく』
しばらく他愛のない話をしていたふたりだが…
『それより今日の仕事のことだけどよ』
『おい、こんなとこでそんな話を持ち出すなって』
『心配すんな、女風呂はまだ開いてねえから誰も聞いちゃいねえよ』
『そうか?ならいいけどよ』
『相手はなんと、北町奉行の奥方だとよ』
『へえ…!そりゃすげえな』
なんだなんだ?磯貝の嫁さんがどうしたって?前原は耳をそばだてた。
『お花の稽古の帰りを狙うらしい。さんざん楽しんでから人質にして奉行を脅すって算段だ。へへ、やることがえげつないだろ?』
『へえ、そりゃあ気の毒に。奥方はべっぴんなのか?』
『もちろんよ、すらっと背の高い美人らしいぜ』
『おほ、そりゃ楽しみだな、当然俺たちにも分け前はあるんだろ?』
『当たり前だぜ、げっへっへ!』
た、たいへんだ…!
「安田、やつらを尾行しろ。俺は磯貝に知らせる」
「わかりました!」
………
───その夜、お城の詰所。
「あっはっは!最高だったね、悪党連中のあのびっくりした顔!」
「まさか奥方が元くノ一だとはだれも思わないよ」
「片岡さん、さすがです」
前原くんの情報で、磯貝くんの妻メグさんが襲われることが事前にわかり、ぼくらは奉行所と謀って逆に悪党どもを罠にかけることに成功した。
駕籠に乗った奥方がまさか手練れの元くノ一だとは夢にも思わなかっただろう。悪党どもはあわてふためき、次々と与力に捕縛され、引っ立てられた。
「さて、遅くなったしそろそろ帰ろうか」
「「はーい!」」
矢田さん神崎さんと三人でお城を後にしたぼくらは、お堀端を談笑しながら歩いた。
「じゃ、わたしはここで」
「気をつけてね、矢田さん」
「だいじょーぶ!……あれ?」
「どうかしたの?矢田さん」
「…いや、気のせいかな」
「…?」
ばいば~い!と手をふって別れたあと、ぼくは神崎さんを椚ヶ丘神社に送り届け(神崎さんは巫女なのだ)、ひとりで町外れのお堂の前に差し掛かった。
さて、ここならだれもいないな。
そのときのぼくはこのお堂が敵のアジトのひとつだとは全く知らなかった。単なる偶然だったのだ。
「お疲れさま、もう出て来ていいよ」
「…ほう、何もかもお見通しってわけか」
ぼくの呼び掛けに応じて土塀の陰から現れたのは、先日の若い浪人。そして…
「しおりちゃん、それにさやかさんも」
「な、なぎさ…」
「ふふふ、お久しぶりね元締」
「潮田渚、アジトにわざわざやってくるとは貴様もなかなか豪胆だな」
え、なにそれ、知らないんだけど。
「俺は逃げも隠れもせん。このふたりには手出しをさせぬゆえ、サシで勝負しろ」
なに言ってるのかぼくにはさっぱりわからない。まあ、それはいいんだけど。
「居合で戦うというのかい?」
「そうだ」
居合とは向かい合うお互いの隙を見抜き、一瞬で刀を抜いて相手を斬る、一撃必殺の勝負のことだ。
「わかった、いつでもいいよ」
互いに両腕をだらりと下ろし、向かい合うその距離はわずか3尺ほど(約90センチ)。
いつ相手が刀に手をかけるか、ぼくとその浪人とのあいだに凄まじい緊張が走る。勝負はまさに一瞬。
浪人の額からポトリと汗が落ちた瞬間だった。どちらが先に刀に手をかけたかはわからない。
シュバッッ…!!ブシュウウウウッッ…!!
斬り裂かれた右脇の動脈から、派手に吹き出る浪人の血飛沫。
「ぐぉおおッ…!?」
男は目を見開き、呆然とした表情で地面の血溜まりにドサリと崩れ落ちた。
「て…天龍寺ッ!!」
駆け寄るさやかさん。ぼくは刀の血糊を振り払うと、パチリと鞘にしまった。
「さて、これからどうするの?」
「……」
「まさかこのぼくと戦うとか、言わないよね?」
ズイッと前に出ると、怯んださやかさんが一歩後ずさりした。
「…な、なぎさ、本当にごめんなさい!」
しおりちゃんが突然地面にひれ伏してぼくに頭を下げた。
「ふたりで矢田先輩をびっくりさせようとしただけで、悪気なんかなかったの。本当よ!」
「だったらどうして逃げたりしたんだい?」
ぼくは冷たく言い放った。
「矢田先輩があんなことになるだなんて思ってなくて、大騒ぎになったからふたりでヤケになっちゃって、おまけにお尋ね者にまでなってしまって…わ、わたしもさやかも本当はこんなこと、したくなかったの…!!」
しおりちゃんはポロポロと泣きながら捲し立てた。
「わかった、わかったからとりあえず土下座はやめようよ」
「うっ…うっ…」
「さ、泣かないで起きて」
しおりちゃんはまだ泣き続けている。
あまりの真剣な訴えぶりに、ぼくは思わず心を動かされてしまった。まさかしおりちゃんがこのぼくを騙すだなんて思いもしなかったから、そのときは…
「しおりの言う通り、わたしらは流されてここにいるだけで、本心ではないんです。その証拠に元締に見せたい物があります」
「なんだい、さやかさん」
「実はシロが持っている例のクスリ、ほとんどがこのお堂の地下に隠してあるんです」
「なんだって…!?それはほんとかい?」
「奴らは明日の朝、浅野家の領地から戻ってきます。押収するなら今しかないです」
「どこにあるの?」
「こっちです」
ぼくはさやかさんについて急いでお堂に入り、しおりちゃんもその後に続いた。
「ここです」
行き止まりにある壁板を小突くと、ガタリと外れて真っ暗な通路が現れた。そこは地下に通じる階段で、下からすうっと冷たい風が流れてくる。
「灯りある?」
「待ってなぎさ、今持ってくるから」
「うん、よろしく、む、むぐっ…!?」
突然背後からぼくはしおりちゃんに手拭いで口と鼻を覆われてしまった。
し、しまった…!!
こ、これは例のクスリ…!?!?
「ごめんね、なぎさ。わたしはもう汚れた人間なの」
「しっ…しおり、ちゃ…ん……?」
ああ、頭がぼーっとして…身体のちからが、ぬ、抜け…ていく…
「フン、バカな元締だこと」
「や、やめるんだ、さ、さやかさん……」
ガクッ…
ぼくは膝から崩れるように床にへたりこみ、ズルズルとふたりに引きずられて地下室に放りこまれてしまった。
………
───その頃。浅野家重臣、瀬尾智也の邸宅。
ゴーン…ゴーン……
屋敷の灯りが消えてちょうど一刻、作戦開始の時間だ。
サッ…
速水の合図で土塀を飛び越え、配置に着く谷原あやめと渋谷さゆり。このふたりには護衛の侍たちの足止めを頼んである。
速水自身は倉橋と組んで敵くノ一を排除し、獲物である瀬尾を仕留めることになっている。
谷原と渋谷が無事配置に着いたのを見届けると、速水は倉橋と共に瀬尾の寝室に向かった。
シーン…と静まりかえる邸宅内。
おかしい…なんだかうまくいきすぎてる。
敵が我々赤羽家の報復を恐れているなら、今夜は特に警戒を怠らないはずだ。
罠、かもしれない…速水は内心冷や汗をかきながら、静かに探索して回った。
何事もなく瀬尾の寝室にたどり着いた。
静かに襖を開けると、部屋の真ん中に敷かれた掛け布団が呼吸で上下に動いている。
そろりと布団に近づき、両側から刀の先で串刺しにしようとしたその瞬間…
シュバッッ…!!あぶないっ…!!
半月状の大鉈が突然唸りをあげて速水に襲いかかった。
「くっ…!」
なんとか避けて見上げると、大鉈は鎖で天井からぶら下がり、ブンブンと大きく揺れている。まともに喰らってたら今ごろ即死だっただろう…
ガバッ…!
布団の中から現れたのは瀬尾本人ではなく、くノ一の土屋果穂。素早く起き上がり、刀を構える。
「フン、命拾いしたか赤羽の犬め!」
ザアッ…!バシンバシン…!
へやの押入れが一斉に開き、敵くノ一が飛び出してきた。その数総勢6人。大小様々な武器を構えて一斉に襲いかかってくる。
まずい…!やはり罠だったか…
「ヤアアアアッ…!!」
キーンッ…!バシッ!ズサッ…!
速水は土屋に応戦し、倉橋は庭に飛び出して残りの注意を引き付けた。
………
ピチャッ…、ジュプ…ヌチュ…
「んっ…はあ…んむ…(レロッ)」
ぼくはいま地下室の床に仰向けになり、しおりちゃんに
「んっ!んっ…!(ジュポッ…ジュポッ…)」
しおりちゃんは一生懸命だけど、ぼくの気持ちは冷めていて一向に盛り上がりそうにない。
「あれ~、どうしたの?なかなかイケないみたいだけど」
さやかさんが薄笑いを浮かべてぼくらふたりを見下ろした。
「そ、そんな、なぎさは気持ちよくないの?」
「…だ、だめだよしおりちゃん、こ、こんなこと間違ってる」
「いやっ!わたしは絶対になぎさをイかせてみせるから!」
しおりちゃんは再びぼくの肉棒を頬張ると、舌を絡ませて口全体でしごき始めた。
「ふん、埒があかないわね」
さやかさんがぼくに近づき、しおりちゃんに聞こえないように耳元で小さく囁いた。
「(ボソッ…)ほんとはこの子が速水凛香だったらいいなって思ってるでしょ、それとも矢田桃花のほうがいい?」
「…な、なにを言って」
「あんたのアソコをしごいてるのはあのふたり、そう思えばしおりの下手くそなフェラだって気持ちいいでしょ…?」
速水さんと矢田さんか…し、しまった、思わずそのふたりから交互に口淫されている姿を想像してしまった。
「…んむっ!?(き、急におっきくなった!?)」
「フフ、効果てきめんね」
さやかさんはぼくの着物の胸元をバッとはだけると、顔を近寄せてペロッと乳首を舐め、口に含んだ。
「うっ…!ああッ…!」
「ふふふ、いい声」
レロッ…ンチュッ…ピチュ…
「や、やめるんだ…!うあッ…(ビクンッ)」
ああッ…だ、だめだあッ…!!
ビクッ!ビクンビクンッ…!
ブビュブビュッ!ビュクンッビュクンッ…ビュルビュルッッ!!
「んんッ…!?(ゴクンッ)げほっ!げほっ…」
はあッ…!はあッ…!快感に負けたぼくは、腰をブリッジするように突き上げて、しおりちゃんの口のなかに白濁をぶちまけてしまった。
「さーて、そろそろわたしはシロに報告してこようかしら」
「え…?シ、シロは明日だって…」
「アハハハハ!そんなのウソに決まってるじゃない。心配しなくてもあんたたちがエッチを楽しむぐらいの時間はあげるわ。やさしいこのわたしに感謝しなさい」
さやかは高笑いをして地下室を出ていった。
「なぎさ…」
「し、しおりちゃん…?」
「わ、わたしのここ、もうがまんできない」
しおりちゃんはぼくに跨がるとレオタードのVゾーンの股布を指でずらした。
「夢だったの、なぎさとエッチするの」
「…だ、だめだって、しおりちゃんとはできないよ」
「うそ、こんなに立派に立ててるくせに」
「こ、これはクスリのせいだよ、それに…」
ぼくは君のことが全く信用できなくなった。そんな相手とするなんて…そういいかけたときだった。
バタン…!突然地下室の隠し扉が開いた。
「元締いますか!?いたら返事をしてください!」
しおりちゃんは怯えたようにビクッとなると、急いでぼくから離れた。
「ここだ!ぼくはここだよ!」
「ちッ…!」
しおりちゃんは舌打ちをして刀をつかむと、急いで階段をかけ上がった。そこで待っていたのは…
「もうおしまいよ間宮さん、観念しなさい」
先日しおりちゃんが裏切った相手、神崎さんだった。
「わ、わたしの邪魔をするなあッ…!!」
キーンッ!ガキッ…ギリギリッ!
ドスッ…!
「げふッ…!」
バキッ…!
「うぐッ…」
ドサッ…!
見なくてもわかる。刀同士が重なった音に続いて膝蹴りと手刀が決まり、しおりちゃんが床に倒れた音だ。
た、助かった…
安心したその瞬間、必死で我慢してきたぼくの理性はついに限界を越え、決壊した。
ご、ごめん、神崎さん…!!!
つづく