「は、ああ…、…な、なぎさ、…んんっ、き、気持ちいい…」
「そう?よかった…ぼくもすごくいいよ、速水さん」
グプッ…、ヌプッ!ジュプッ…ズププッ!
ぼくはベッドに両膝で立ち、手のひらにちょうど収まる美乳を揉みながら、四つん這いの速水さんにバックでズポズポと挿入している。
首筋から香る甘い匂い、背中で光る彼女の汗。トップアイドルのカラダをぼくはたっぷりと堪能していた。
「ねえ…、そろそろ私が下になっていい?」
「もちろんいいよ」
ラストスパートしてって自分からおねだりかー、速水さんてこう見えて結構エッチだよね。
ジュププッ…!
「はあんッッ…!い、いいッ…!!」
ズリュッ…!ジュポッ、ジュププッ、ヌプッッ!
「あ、あ、あんッ…!やああッ…!(き、気持ちいいとこ全部当たって、る…)…も、もうだめぇッ!」
ふふ…だらしない顔しちゃって。普段のクールさはどこいったのかなあ。ぼくはいつものドSが発動して、わざと適当な抽挿をすることにした。
ヌポ…、グプ…、ジュプ…
「…ああ、なぎさ、お、お願い…!そ、そろそろわたしイきたいの、…も、もっと激しくして!」
「ふーん、そうなんだ、だったら…」
ジュポッッ…
ぼくは速水さんの愛液したたる温膣から、あっさりと肉棒を引き抜いた。
「…え?ち、ちょっと…」
「この続きが欲しかったら、ぼくの質問に答えてくれる?」
「…な、なに?」
「ぼくと千葉くんのチ○ポ、速水さんはどっちを気に入ってるの?」
「え…?…そ、そんな、の…」
速水さんはあきらかに当惑した表情になった。
「答えられるよね?もちろん」
「え、あ…」
ぼくはわざと彼女にいきり立つ肉棒を見せつける。かわいいなあ、恥じらいながらも目が離せないんだね。そんなに欲しいんだ、これが。
「答えないなら、ぼくそろそろ帰ろうかな」
「え?…そ、そんな、ちょっと待ってよ…」
「ほらー、はやく答えてよ」
「わ、わかったわよ…、私が、き、気持ちいいのは……」
「気持ちいいのは?ぼく?それとも千葉くんの?」
「そ、それ、は……
ジリリリリリリリリリリリリリリッッッ…!!!
う、うわあっ!び、びっくりした!?!?
…な、なんだ目覚まし時計か、はー…。
安アパートの真っ暗な部屋。
ぼくは思わず寝床から飛び起きてしまった。
うー…やけにリアルすぎる夢だったなあ。
あの速水さんとエッチだなんて…。なんでこんなの見ちゃったんだろう……あ、そうか。
ぼくは辺りに散らばるウイスキーの空き瓶やコップを手にとってちゃぶ台の上に置いた。そう、昨晩は相当深酒したんだった。
「あ、いてて…」
あー…二日酔いで頭がガンガンする。流しに行き、コップで大量の水を飲む。
残業続きで疲れてたので昨夜は早く寝ようと思ってたのに、そういうときに限ってカルマくんがやって来るんだよな…。
ピンポーン…
一瞬あのとき悪い予感がしたんだ。なのについ仏心を出したのが間違いだった。扉を開けると赤い悪魔が両手にたっぷりのお酒とおつまみを持って立っていた。
「なぎさく~ん、元気~?」
そのままガチャンと扉を閉めようとすると、すかさず彼は硬いブーツのつま先でガード。
「今夜は死ぬまで呑もうね~!」
……。
ぼくの目の前で次々とハイボールを作って並べていくカルマくんは、実は超売れっ子の舞台演出家だ。
「さあグイグイいこう!」
「わっ、ちょっとこぼれるって!」
本来ならこんなボロアパートに来るような人間じゃないのに、なぜか時々やってきては、毎回ぼくをヘベレケにして帰っていく。
彼との出会いは、ぼくがまだ磨瀬榛名のマネージャーをしてたときにさかのぼる。子役を卒業するため、演技の幅を拡げようとしていた磨瀬といっしょに、天才演出家として売り出し中の彼を訪ねたのが、ちょうど3年前。
初めて会ったときから、ぼくのことが気に入ったみたいで、こうしてお忍びでボロアパートに遊びに来てくれる関係になった。彼の名声を考えればとても不思議なことだけど。
あ、ボロとか安アパートとか言ってるけど、会社から少し遠くだったら、そこそこ立派な部屋を借りられるだけの手当はもらっている。
でもぼくはちょっとでも長く寝ていたいほうだから、なるべく会社に近い物件が借りたいんだよね。
「ところでさー、神崎さんの俳優としてのポテンシャルってどう思う?」
「…あれ、意外と真面目な話なの?今日は」
「渚くぅん、ぼくはいつだって真面目だよぅ?」
どこがだよ…。
「逆にカルマくんはどう思ってんの?ぼくは普段の彼女をよく知ってるから、あんまり客観的に見れないよ」
「実はすんごく買ってんだよね」
「え…!そうなんだ、君から買ってるって言われたら、彼女めっちゃくちゃ喜ぶと思うよ」
「あの子なら根性ありそうだし打たれ強いかなって」
「へ…?」
「ぼくの演出する舞台って、よく魔物が棲んでるとかって言われるんだよね。単にぼくがとことん妥協しないからそう言われてるだけなんだけど」
「たしかに神崎さんは強いからね、ああ見えて」
「でもさ、アイドルだからグループの活動がやっぱ優先でしょ?ほんとはうちの小屋(劇場)でしばらく預かってみたいんだけどなあ…」
「だったら上に話してみようか?」
「それはまあいいけどね。それより羨ましいなあ、渚くんは」
「なにが?」
カルマくんはいつも突然話題を変える。まあ、お互いお酒が入ってるからこんなもんだけど。
「アイドルのマネージャーとか、最高じゃない?」
「どこが。毎日しんどいことばっかだよ」
「えー?あんなかわいい子たちといつもいっしょなんでしょ?間違いとかしないの?」
「え…?し、仕事だよ?…そ、そんなのないって」
「うそうそー、渚さ、小動物みたいな顔してるけど裏では担当アイドルとズポズポしてるって、もっぱらのウワサだよ?」
ブフォォッッ…!
「き、汚ないなあ、渚くん…」
「…カ、カルマくんが変なこと言うからでしょ!?」
「あれ、もしかして図星?」
「ち、違うよ…」
「まあ呑んで呑んで」
ちょっとやめてよ、もう何杯だっけ?ぼくハイボール飲むとヤバいんだけど。こら、そんなにウイスキー入れたらダメでしょうが。
「ところでさ、話変わるけど渚くんの会社って、マクラ営業とかしてないの?」
そ、そんなのするわけないじゃん。うちは社長が厳しいからそういうのは御法度なんだ。
以前ぼくも副社長に訊いたら「もし隠れてやってたらそいつもマネージャーも両方クビ」って言ってたくらいだし。
「ふーん、ああ見えてあのビッチさんって、意外と常識人なんだね」
失礼だぞカルマくん。うちの副社長はとてもいい人だよ?アイドル一人ずつのフォローもちゃんとやってるし。神崎さんと矢田さんがぼくと…
「ぼくと?」
エッチしたときもホテル代からなにから全部会社で支払ってくれたし。
「へー、すごいな渚の会社」
でしょ?あんないい会社他にないよ?なんならカルマくんも勤める?
「じゃあさ、渚が好きな子ってだれ?」
カルマくん、そんな直球で質問してだれが真面目に答えるっていうの?そりゃあね、ぼくだって人間だから好みはあるし、あ…でも「E組ガールズ」はみんなすごくかわいいからね。
え…?そんな普通のマネージャーみたいなこと言わなくていいって?
「じゃ、次にエッチしたいのは?」
エッチか、そうだなあ…。
なんといってもあのツートップとしちゃったからね。そういうのぼく実は結構うるさいよ?中村さんはぼくにセクハラしてくるから苦手だし、片岡さんはぼくのこと子ども扱いするからなあ。
…あ、でもあの二人に反撃するシチュエーションとか燃えるよね。ガンガン突いて、アンアン言わせて、ごめんなさいわたしが悪かったからもう許してって……あれ?なんでカルマくんドン引きしてるの?
それとこれは内緒なんだけど、最近倉橋さんとぼく、すごくいい感じなんだよね。あと一押しすればイケそうだよ。それとやっぱり速水さんかな。あのクールな彼女を力ずくで屈服させてみたいなって。
…え?やればいいじゃんって?速水さんは彼氏がいるんだよ!?そんなことしたらさすがにぼくの身がヤバいよ!
あれ…そんなことよりなんだか眠たくなってきた。そこのマクラ営業、じゃなかったクッション取ってよ。そうそれ、じゃあ、お先にごめん、おやすみなさ~い…zzz
……。
や、やっちゃった……
あ、あいつが無理やり飲ますからだ…。隠し事を全部バラしてしまった。や、ヤバいな…、これがバレたら、ぼ、ぼく、またクビだ(震え)。
あいつが誰かにこの話を言う…のは、さすがにないとは思うけど、これをネタに一生ぼくをいじり続けるくらいは覚悟しないといけない。
…ま、まあ、それぐらいならいっか。クビになるよりはマシだから。
ぼくは何度もため息をついて着替えを済ませ、最寄り駅へと向かった。
「よう渚」
「おはよう前原くん。そのスーツ、カッコいいね」
「渚、例の番組の件は上にオッケーもらったよ」
「ありがとう三村くん、恩に着るよ」
「渚ぁ、いいかげん矢田さんの携帯番号教えてくれよぉー」
「そんなのだめに決まってるでしょ岡島くん、ねえ渚」
「あ、おはよう不破さん」
「おい渚、なんか酒臭いぞ」
「ごめん菅谷くん、昨夜もまたカルマが…」
「あー、そりゃご苦労さん」
今日はE組ガールズの今後のプロモーション方針を決める大事な企画会議。
前原くんは大手広告代理店 広報堂の社員。いつもうちの会社に入り浸っては新人アイドルにナンパばかりしてるけど、実はとっても優秀。
三村くんは台場テレビのディレクターで、映像センス抜群のアイドルオタク。彼がいなければうちの映像プロモーションは成り立たない。
この二人はうちの会社に肩入ればかりして、本業は大丈夫なのかと心配になるけど、二人とも上から「どんどん協力してあげて」と言われているらしい。それもこれもイリーナさんの手腕のおかげだ。
岡島くんはグラビア専門の売れっ子フリーカメラマン。うちの出す出版物のほとんどはこの彼が撮影している。その独特な感性で撮る写真集はハズレがない。
不破さんは大手出版社 集○社の企画担当。前原くんや三村くんと組んで、うちのメディアミックス戦略の仕掛人でもある。
菅谷くんは服飾とメイクの専門家で、うちの事務所の所属タレントがよくおしゃれだと言われるのは、彼のコーディネートのおかげ。彼はカルマくんの舞台演出にも深く関わっている。
この5人衆にイリーナさんと企画推進室長の竹林くんの7名が会議の主要メンバーで、あとはその日の議題に合わせて担当マネージャーが参加するルールになっている。
ちなみに今日の会議はすべてE組ガールズ関係なので、リーダーの磯貝くんと同僚の千葉くんも参加。
「みんなそろったわね」
「では始めましょう」
司会役の竹林くんがメガネのフレームをクイッとあげた。
「さて、いつもならまず神崎さんについての話し合いですが、今回は副社長案件となりましたので延期します」
いきなりブレーキがかかった。どういうことだろう?
「有希子の今後については、前回話した通り俳優活動に力を入れていく。そのための布石を今いくつか打ってるところよ。それがはっきりするまではわたしに預けておいてほしいの」
「なにか皆さんで補足は、じゃあ三村」
「うちのプロデューサーと来期のドラマ編成を話してまして、神崎さん主役前提で一本企画が進んでます」
「ありがと、いつも助かるわ」
三村くんは神崎さん推しだから動きが速いなあ。
「じゃあ次は矢田さんについて」
「わたしから。うちの人気連載マンガ『俺の彼女が南の島で大人気すぎる件』の実写映画化が来年夏の公開予定で進んでて、ヒロインが矢田さんでほぼほぼ決定。だよね、三村くん」
「ついでにいうと、アニメの声優も彼女で決まりそう」
「おおー、それはすごい!」
え…!?そのマンガ、初めて読んだときからヒロインが矢田さんにぴったりだと思ってたんだよね。うれしいよ不破さん、ほんとにありがとう。
それと前原くんからお菓子と車のCM、それもシリーズ物の企画だ。
あといくつか進行中の報告と相談が相次ぐ。すごいなあ、これで矢田さんをテレビで見ない日はないと言っていい。
「さて次は速水さんだね(クイッ)」
「待って、本人を呼ぶわ」
イリーナさんが扉を開けると、すでに彼女は待機していた。この会議にアイドル本人が参加すること自体が珍しく、特に速水さんは初めてのことだ。
彼女はペコリとみんなに会釈すると、副社長に促されてためらいがちに竹林くんの隣に座った。トップアイドルの彼女がそこにいるだけで周囲の空気がパッと華やぐ。
ぼくは今朝の夢のことが後ろめたくて(ゴホンゴホン…)あまりじろじろ観察してないけど、今更ながら彼女はほんとに美人だと思う。
「ではまず企画推進室が進めている案件から。消○庁の防災ポスター起用、警○庁薬物追放ポスターの起用、東京湾○署の1日警察署長…などなど、彼女はお堅いとこからの引き合いが多いね」
「ネットで人気あるから、うちの絡みで超大型コミケのステージ出演を頼みたい」と前原くん。
「そのことだけど、これも話題にしてくれないかな」
竹林くんが手提げ袋からフィギュアを取り出して机に置いた。
「う…!うおおっ!すげー」
「おー、こりゃよくできてるな」
「中村さんがラジオ番組で言ってた凛香ちゃん人形の試作品、海○堂さんがさっそく作ってくれた」
これは中村さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組に速水さんがゲスト出演した回で「凛香が可愛すぎてヤバい!だれか彼女の人形を作ってー!」と騒いで話題になったやつだ。まさか本当に作っちゃうなんて。
「完成度めっちゃ高えな…」
「どれどれ、これパンツはいてるのか?…ぐわっ!痛ってえ!!」
岡島くんの額に千葉くんの投げた消しゴムがクリーンヒット。当の速水さんは顔を赤くして下を向いている。
「ファンクラブ会員限定で1,000体、コミケでも同数売ろうかと」
「少な過ぎる。それだと確実に大騒ぎになるぞ」
「いいんだよ話題作りだから」
「いいの?凛香はそれで」
副社長に促されて速水さんは顔を上げた。
「いいと思います。お任せします」
あれ…?ずいぶん積極的になったなあ。以前なら絶対不愉快そうにしたにちがいない。この心境の変化はいったいなんなんだろう。
そのあと三村くんからバラエティーへのゲスト出演の話が出て、それも断らない彼女に今度こそびっくりした。ああいうの、すごく嫌がってたのに…。
それ以外にもみんなからたくさんの企画が持ち上がって、ぼくは驚くばかりだった。もちろんうちの事務所が意図的に推してるのはわかる。だけど一番驚いたのは、速水さん本人の心境の変化だった。
「では今日のところはこれで」
「みんな、お疲れさま」
終わってからしばらくさっきのメンバーと立ち話をしたぼくは、トイレに向かう途中、レオタード姿で稽古をしている速水さんを見た。
千葉くんと入念にダンスのステップを確認している彼女の姿はとても真剣で、2週間後に迫ったオーディションに向けて激しい闘志を燃やしているように見えた。
もちろんそれは他のメンバーだって同じ。片岡さんは磯貝くん相手に頻繁に練習しているし、中村さんはこれから菅谷くんと衣装選び。矢田さんや神崎さんも多忙の合間を縫って…
「ねえなぎさ、いま声かけていい?」
ふいに後ろから倉橋さんに声をかけられた。ゆるふわの明るいショートカットの髪に、シャルトルーズグリーンのかわいい瞳。いつも明るいその表情を見てるとそれだけでこっちまで心が暖かくなる。
「なあに?どうかしたの」
「わたしの選んだ曲、聴いてもらっていい?アドバイス欲しくて」
「ぼくでいいならお安い御用だよ」
「うれしいありがとう!」
パッと花が綻ぶように彼女が微笑んだ。
どきんっ!
…か、かわいいなあ…倉橋さん。
───オーディション当日。
朝からうちの事務所はみんなバタバタだ。
審査を務めるのは、この業界の名だたる重鎮5人だと聞いてるけど、それが誰なのかは完全に機密扱い。
おまけに会場のレッスンルームと審査を行う音響調整室の前には警備員が立ち、マネージャーのぼくらでさえ完全シャットアウトとなっている。
「ねえ千葉くん、次はだれの番?」
「まったくわからんな。さっきは中村さんだったみたいだけど」
審査を受けるアイドル本人は、呼ばれるまでそれぞれ別々の部屋に待機し、ぼくらマネージャーは全員控え室に閉じ込められて小さなモニター画面を注視している。
みんなが雑用に追われていたので、やっと今この控え室に集まったばかり。審査がどうなっているのかすら誰にもわからない。
「お、次は速水さんか」
磯貝くんのその言葉に、千葉くんの肩がピクンと反応した。
速水さんは水色の衣装で会場に入るなり、丁寧に頭を下げ、すぐに始まったアップテンポの伴奏に合わせて小気味良くステップを踏み始めた。
芯のある大人っぽいアルトの声でしっとりと歌いながら、間奏では緻密なダンスで魅せる。すごい…これまでの彼女とは段違いだ。
「素晴らしいね、速水さん」
「あ、ああ…」
千葉くんも少しホッとしたみたい。
肝心の歌も、破綻がないどころかハイトーンまでしっかりと延びて聴いててとても気持ちよく、もっともっと聴いていたいと思わせる、それくらい完璧な歌唱だった。
これは評価が高いだろう。もしかしたら現時点でトップの可能性もある。さて、結果はどうなるか…。
ガチャ…
「ここにいたのか君たち」
「あ、社長」
いつもより緊張した表情で烏間さんがぼくらの控え室に顔を出した。
「磯貝君、イリーナがどこに行ったか知らないか?」
「副社長なら先ほど神崎さんと下の控え室です」
「そうか、すまない」
「社長、審査ってあと何人なんですか?」
「次の矢田さんで最後だ」
「え…?次が最後?」
モニター画面にオレンジの衣装の矢田さんが現れた。物怖じする気配はまるでなく、ピッと胸を反らして堂々とマイクを構えている。
元気よく始まった曲に合わせた見事なダンス。やさしい声の質も曲によく合っていて、掴みからバッチリだ。
なによりしっかりと聴き手を見据えた真剣な眼差しとかわいい笑顔、そして最大の武器である彼女のボディのセクシーさが、この曲とダンスの魅力を最大限に引き出している。
曲が終わると矢田さんはペコリと頭を下げて悠々と会場を後にした。
…これはすごい。
ぼくは心のなかで密かに彼女の出来映えに喝采をあげていた。結果がどう出るかはわからないけど、彼女が確実にトップ争いに入るのは間違いなさそうだ。
30分の休憩を挟み、ぼくらも会場のレッスンルームに移動した。
…いよいよ結果発表だ。
会場に審査員の姿はなく、審査を受けたE組ガールズのメンバー以外はうちの会社の役員と幹部、そしてぼくらマネージャーだけが集まっている。
「それでは結果を副社長が発表します」
竹林くんのアナウンスに続いてイリーナさんが演壇に立った。
「E組ガールズのメンバーの皆さん、本当にお疲れさまでした。今日の日のために皆が大変な努力をしてきたことに心から感謝します」
「オーディションはあくまで今日のパフォーマンスと、これまでの活躍について相対的に評価したもの。この先の一年間については今日の結果を謙虚に受けとめて、明日から新しいスタートラインに立って努力してほしい」
「「「「「「はい!」」」」」」
いよいよ結果発表か…
ドクン…ドクン…
ぼくは口から心臓が出そうなくらい緊張していた。隣の磯貝くんと千葉くんもそれは同じだろう。
「発表の前に、皆さんに大事な報告があります」
ん…?なんだろう。
「有希子、ここに来て」
神崎さんが副社長の横に並んだ。
「E組ガールズ、神崎有希子は本格的な俳優活動に入るため、明日からグループを離れます」
えっ…!?!?
「もちろん脱退とか卒業ではなく、本人たっての希望でメンバーとしての籍は残すから安心してちょうだい」
…そ、そうなんだ、ちょっとだけホッとした。でもまだみんなのザワザワが収まらない。
「お静かに。それと渚、しばらく有希子の専属マネージャーをあんたに頼みたいの。詳しい説明は明日の記者会見のあとで」
「は、はい」
神崎さんがぼくに微笑んで頭を下げた。
これまで彼女の相棒を務めてきた矢田さんの表情が暗く沈んでいる。
「さてオーディションの結果発表の前に、有希子の代わりの新メンバーを紹介します」
えっ…!?し、新メンバーだなんて、ほんと寝耳に水だよ…?今日はいったいどうなってるんだ!?
「さ、入って」
ガチャ…と扉が開き、小柄でショートボブの活発そうな女の子がぎこちなく頭を下げた。
「あ!ひなたちゃん!」
倉橋さんがうれしそうに呼びかけたその相手は、新人アイドルの岡野ひなたさん。格闘技が得意で、アクション映画への出演が決まっている期待の星だ。
ついでにいうと、先日ナンパしようとしてきた前原くんに回し蹴りをしたことで一躍事務所内の話題になった。
「さて、いよいよ審査の結果を発表するわ」
ダダダダダダダダタ…!!
ぼくの頭のなかで架空のドラムロールが鳴り響いた。
「二位、速水凛香!
そして映えある第一位は……
矢田桃花!!」
わああああああっっ…!!このビルを揺るがすほどの大きな歓声が上がった。
「おめでとう桃花ちゃん!」
「あ、ありがとう…陽菜乃」
「やるわね矢田さん、本当におめでとう」
「うう…メグぅぅっ!」
「これまでほんとにありがとう。わたしの分までがんばってね」
「か、神崎さん…う、う、う、うえーん!!」
みんなに囲まれて次々と祝福され泣いている矢田さんに、イリーナさんが特製ティアラを持ってきた。
「おめでとう新女王」
「…あ、ありがとうございます!」
「「「「おめでとう桃花ちゃん!!!」」」」
その祝福の輪から少し離れた場所に、速水さんが淋しそうに立っていた。その顔はあきらかに落胆で曇っている。ぼくはマズいものを見た気がして慌てて目を逸らした。
すると、その速水さんに矢田さんがスッと近づいていく。
「凛香、明日から新コンビ、よろしくね」
「矢田…」
矢田さんが伸ばした手に、速水さんがためらいがちにおずおずと握手した。それを見てひとまずみんなが胸を撫で下ろした。
「さあ、片付けるか」
磯貝くんの合図で会場の片付けが始まった。速水さんは千葉くんと目配せして会場を出ようとしたところでイリーナさんに捕まった。
「千葉、今夜は凛香を借りるわね」
「わ、わかりました」
「凛香、着替えたらわたしについてきて」
「は、はい」
***
いつものホテル、57階にある会員制のショットバー。
「マスター、久しぶり」
「こちらこそ。おや珍しい、お連れ様ですか」
「ええ、この子知ってる?」
「もちろんです、テレビで何度か」
「今日は他に予約入ってるの?」
「ないです。どうぞ心置きなくごゆっくりと。イェラビッチ様はいつものシャンパンでよろしいですか?」
「ええ、この子も同じで」
「私まだ未成年です。あと半年ですけど」
「そうだっけ、じゃジュースでも飲む?」
「ペリエくださいマスター」
「かしこまりました」
「ねえ、凛香」
「はい、副社長」
「他人行儀ね、こんなときくらい名前で呼べばいいのよ、遠慮なんていらないから」
「じゃあ、イリーナさん」
「それでいいわ」
「どうぞ」
二人の前に置かれたグラスに、天井の照明がキラキラと反射している。
イリーナは極細のメンソールを取り出して火を着けた。
「煙草、吸われるんですね。知りませんでした」
「普段は吸わないけどね、なんかあると無性に吸いたくなるの。今日みたいな日は特にね」
「…大変ですね」
「なにが?」
「偉い人って、私みたいな面倒な子まで相手しないといけないから」
「ふ…、大人をからかうもんじゃないわよ」
「…でも、ほんとでしょ?」
「そうね、あんたはわたしの若い頃そっくりだわ」
「え…」
「いつも淋しそうにして、なのに素直になれなくてみんなから遠ざかって。それでも自分のプライドだけは捨てられない」
「……」
「でも今日はうれしかったわ。あんたがようやく本気になってくれて」
「…結果はダメでしたけど。アイドルになってから初めて本気で、それも精一杯戦ったのに…」
「そうね、それでも桃花には及ばなかった」
「……性格悪いですね、イリーナさん」
「あんたがそんな顔をする日が来るなんてね」
速水はいつの間にか下唇をキュッと噛みしめていた。
「くやしいのね、正直に言えばいいのよ、死にたくなるほどくやしいって…」
「イリーナ、さん…」
「泣いていいの、凛香。わたしがしっかりあんたを抱きしめてあげるから…」
速水は泣いた。
久しぶりのボロ泣きだった。こんなに涙が出たのは赤ちゃんのとき以来かもしれない。
「ひっく…ひっく…くやしい…!くやしい…!」
「ふふ…どんどん泣きなさい」
「ううっ、うえーん!ひっく…ひっく、く、くやしい…!」
「おーよしよし。元気だして凛香、あんたは今日、名実共にトップアイドルになったのよ」
「で、でも…」
速水は涙を手の甲で拭いた。
「私は神崎に、場所を譲ってもらっただけです」
「そうかもね、でも一年前の桃花もあんたと同じくらいくやしがってたのよ?」
「え…」
「あの子も負けたけど、それでも腐らずに神崎の相方として立派に彼女を支えた。そうでしょ?」
「……はい」
「あんたもいずれ1位を獲る日が必ずやってくる。それまであの子をしっかり支えてあげなさい」
「…わ、わかりました」
速水の嗚咽がようやく収まった。
「ねえマスター。この子とってもかわいいでしょ?」
「ええ…、いっぺんでファンになりました」
***
パシャッ、パシャッ!
「それではただ今より、株式会社コロ・プロモーション主催、アイドルグループ『E組ガールズ』の記者会見を始めます」
司会を務める磯貝くんの凛々しい声が会見場に響きわたる。
「進行役はわたくし同社企画推進室室長、竹林が務めます。では始めに、当社所属タレント神崎有希子の『E組ガールズ』休業と今後について説明いたします。記者の皆さんの質問については、一通りこちらの説明後によろしくお願いします」
会場に大きなどよめきが起こり、一斉にカメラのフラッシュが焚かれた。会場に設置された動画配信のモニターに視聴者から怒涛の数の嘆きコメントが流れるなか、神崎さんが自分で立ち上がって説明をした。
「次に、新規加入メンバーを紹介します」
岡野さんが立ち上がって挨拶すると、こちらもどよめきに続いて激しいフラッシュとコメントの弾幕が沸き起こった。
「最後に、昨日当社での厳正なるオーディションの結果、1位と2位のメンバーが決まりましたので報告いたします」
おおおっ…!!会場に三度目のどよめきが巻き起こった。立ち上がった矢田さんと速水さんに凄まじいフラッシュが焚かれる。
二人の挨拶のあと、記者からの質問が始まった。
「神崎さんの俳優としての見通しをどうお考えですか?」
「新しいメンバーとして岡野さんに期待することは?」
それらは事前に想定問答で用意した範囲の内容だった。一通り質問が出尽くし、竹林くんが会見を終了しようとしたそのときだ。
「すいません最後に。わたし毒日新聞文化部の荒木と申します」
きた…!司会の磯貝くんが小さく舌打ちした。
「矢田さんと速水さん、とっても期待したいコンビだとは私も思いますがぁ…」
荒木記者はいつも、こういうネチネチしたわざとらしい質問をする。
「これまでお二人はあまり、こういってはあれですけど接点がないというか、目を合わせないというか、ぶっちゃけ仲がどうなのかなってファンは心配してると思うんですけど、その点いかがですか?」
嫌らしい質問だけど核心を突いた内容だった。ぼくは矢田さんと速水さんが何と答えるか、緊張して見守っていた。
動画配信のモニターを見るとファンから荒木記者をボロカスに罵倒するコメントが弾幕になっていて思わず笑ってしまう。
「ただ今の質問についてですが…」
竹林くんが少し困って二人を見ると、矢田さんがマイクを取って話し始めた。
「わたしにとって凛香はずっとライバルで、もちろんこれからもそれは変わらないと思います」
ここで矢田さんは一呼吸おいた。
「でもそれだけじゃない。彼女は背中を預けられる、かけがえのない大事なメンバー。わたしは凛香をとても信頼しています。…これでご理解いただけたでしょうか?」
ぼくは思わず唾を呑み込んだ。矢田さんらしいまっすぐで率直なコメントだった。
「ライバルではあると。なるほど、では速水さんはいかがですか?」
「…私にとって矢…、桃花は正直言ってやっぱりいつかは越えたいライバルです。でも今は、彼女を支えるパートナーになりたいと心から思ってます。…桃花、立って」
矢田さんが、え…?という表情をして立ち上がった。
速水さんのほうから矢田さんに手を伸ばし、がっちりと握手した。そのまま笑顔でブンブンと上下に振って、新コンビの硬い絆を見せつけた。
激しく焚かれるカメラのフラッシュ。「速水さんのデレがキターーー(゚∀゚)ーーーッッ!!!」と、凄まじい数の弾幕コメント。
荒木記者は困った顔をしてそのまま黙ってしまった。それは、速水さんの思わぬ強さを垣間見せた瞬間だった。
「では以上を持ちまして株式会社コロ・プロモーションの記者会見を終了いたします」
***
《エピローグ》
三日後、ぼくは神崎さんと二人でカルマくんの事務所を訪ね、打ち合わせを終えるとエレベーターに乗り込んだ。
扉を閉めようとするともう一度扉が開き、飛び込んできた男女の様子に、すぐにぼくは同業者だと気づいた。
「あ…!」
「あ…!」
「お久しぶりね、渚」
「こちらこそ、ま、磨瀬さん…」
それは女優の磨瀬榛名とそのマネージャーだった。
「ふふ…磨瀬さん、か。以前は榛名だったのにね」
「あ、いや…」
「まあ、いいわ。それはお互い様よね。それより…」
「あ、ああ、神崎さん。うちの事務所の…」
「…よろしくね、神崎さん」
「よ、よろしくお願いします」
ポーン、1階に到着した。
「じゃ、渚。またね」
「うん、また…」
エレベーターを降りたぼくは、恐る恐る神崎さんを振り返った。
「ぷ…、ふふふ…」
「か、神崎さん…?」
「あははははっ…!」
「ど、どうかしたの…?」
「おかしくておかしくて…」
「な、なにが?」
「だってわたし、副社長の手のひらの上だったって、いま気づいたの」
「ど、どういうこと…?」
「あの磨瀬榛名さんのライバルになったってこと。いまさっき、このわたしが」
「え…」
「すごい顔してたわ、彼女」
「そ、そう…?」
「わかるの、わたしも女だから…」
「もしかして、このぼくのせい…?」
「そうね、そこをうまく利用されたわけ」
…そうか、そういう意味だったんだ。
気づくとぼくは副社長だけでなく、カルマくんの手のひらにも乗っていた。磨瀬榛名と神崎有希子、ふたりの名俳優を競わせ、化学反応させて見事な舞台(ステージ)を作り上げる。
その策略に、まんまとぼくらは騙されてしまったのだ。
「やれやれ、だね…」
「でも、なんだか楽しくなりそう」
「そ、そうかな?」
「これからもわたしを支えてね、なぎさ」
「う、うん、もちろん」
赤羽カルマの舞台には魔物が棲んでいるという。それを身をもってこれから体験することになるのだ。
ぼくらに何が待ち構えているのか。
この続きはまたいつか。