※この作品はR-18です。

ただ今10時ぴったり可愛い後輩にキスをされました   作:猫又二丁目。

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26夜目 鈍感な自分と歪み始めた歯車から...逃げたい。

綾乃さんにキスをされた後、私は八神と一緒に近くのタイ料理屋にご飯を食べに来ていた。

「それで、これがここのお店の定番なんですけど...さ、佐藤先輩...?」

 

第一いくらなんでも変わりすぎじゃない?私の知ってる綾乃さんはもう少しスマートで、大人で、余裕があって、それに、必死な顔なんて全くみなかったし、私が付き合ってた頃に見れたのは照れて赤面する顔だけだった。それも、3回ぐらいしか。

 

「っ...先輩!!」

 

「へ!?」

八神が急に机を拳で叩いた。

 

「...さっきから、...他のことばかり考えて...目の前の私には目も当ててくれなくて...。」

 

あ、あの八神が...怒ってる...!?

 

「いや、その。ごめんなさい。少しハプニングがあって、違うの。八神の事を見てなかったわけじゃ」

 

「...一条先輩のことですか。」

 

「は?」

な、何を言ってるのこの子は...?

 

「一条先輩と...付き合ってるんですよね。」

 

泣きそうな瞳。でも、真っ直ぐに私を見つめる。

私は八神から目が離せなくなり、生唾を飲む。

 

「..え...?....ぃや...その...」

 

「先輩...こたえてっ...下さい...。」

 

ついには八神は目に溜めた雫を頬をつたい、零した。

 

なんで、この子は泣いてるの?分からない。

 

『鈍感』

 

今まで言われ続けた言葉。意味が分からなくて、イラついてきた言葉。

 

違うの。知ってるわよ。私は、私は鈍感なんかじゃなくて。

 

「...そう、ね。付き合ってる。」

 

ただ、人の好意が怖くて逃げてただけってことを。

 

「...!私...わたしっ佐藤先輩のことが...」

 

あぁ、言われてしまう。真っ直ぐに見つめられた目が乾く。

栞菜ごめんなさい。私は今まで貴方や他の子達をどれだけ傷つけてきたんだろう。ちゃんと、聞かないと...

 

「なぁぎ。」

 

ヒュッ

 

嫌に響いた息を吸う音。

肩に置かれた冷たい手。後ろから聞こえる嫌に粘っこい綺麗な声。

 

グギギ、という音がなりそうなくらいに硬い動きで私は後ろを振り向く。

 

愛おしそうに私を見つめる色素の薄い瞳。目が細く伸び、長いまつ毛が彼女の頬にあたる。

 

綺麗...。

 

「私も一緒にご飯食べたかったのに...。ここの店、迷ってた時私もええなぁって思ってたんよ。なぎ辛いの好きやろ?やから一緒に食べたいなぁ思っててん。」

 

そんなことをつらつらと並べながら、私の背中に胸部を密着させ、上体を私ごと前に傾けさせる。

 

「そうそう、これ。この人気のやつも美味しいけどさ、なぎはこれが好きやと思うで?ここのは分からんけど、ほかの店でなぎが好きそうな味やったから。」

 

「...っぁやのさん...は、なれてや..っ。」

 

そう言うと、耳元でんふふ、と綾乃さんは愉快そうな笑いを零した。

 

「なぁ、この子が付き合ってる子?」

 

愉快そうな笑いを零した直後、背中に悪寒が走るくらいの酷く冷めた声で私に言った。

 

「ち、違う。」

 

緊張が異常に膨張して、声が震えて吃る。

 

「...はっ、派遣さんが、何の用ですか...?佐藤先輩の...知り合いの方...ですか...。」

 

「あはは。この子怯えてて可愛いなぁ。確かにこんな気弱そうな子、なぎはぜーんぜん、タイプやないもんなぁ?」

 

わざと八神を煽るような言い方で綾乃さんは言い放つ。あながち、さっきの会話を盗み聞きでもしていたのだろうか。それとも、この人は鋭いから。もしかすると、八神の私への好意に気付いたのかもしれない。

 

「綾乃さん!...やめてや。」

肩に顎を乗っける綾乃さんを睨む。

 

「...なんで怒んの?」

無表情。何の心情も察せないくらいの無。綾乃さんってこんな人だった...?

 

ガタンっ

 

八神は、テーブルに手を付き勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「っ...ごめんなさい...帰ります...っ。」

 

「八神...!」

 

俯いてたから、見間違えたのかもしれないけど。

 

八神は泣いていた。

 

「...あーあ。帰ってもたなぁ?じゃあ2人でご飯でも...」

 

「...ほんまにええ加減にしてほしいねんけど.....帰る。すみません、少しトラブルがあったので帰ります。また来ますね。」

 

店員さんに軽く会釈をしてから店を出る。

 

「待ってやなぎ。怒らんとって...。ごめんなさい。あの子なぎのこと好きやろ?なぎのこと取られたくないから...ごめんなさい。」

 

店を出たあと直ぐに私を追ってきて、綾乃さんは私に後ろから抱きついた。

 

「...あのさ。自分が勝手に浮気して、私の事泣かせて、私が他の人の彼女になったら急に独占欲湧くってだいぶ頭おかしいと思うし、自己中やと思うんやけど。」

「ごめんなさい。あの時はほんまに...自分が間違ってた。でも、絶対間違わへんから次こそ...」

 

「やからなんで次があるって思ってんのって!!」

 

「...え?」

「次って!私が傷ついたのをなかったことみたいに次はってさ。私が傷つけられて、綾乃さんは選択を間違った。次なんかないんよ。綾乃さん、人生は一回だけなんよ。テスト試験と一緒。一回間違った問題は採点されたあと絶対に正解には戻せんの。それか、綾乃さんからしたら修復可能な問題やった?」

「違うねん...そうじゃなくてさ...」

「私と付き合ってる時に他の男とも付き合ってて、私が綾乃さんのことしか考えへんで必死にバイトして自分の金で買ったペアルック、それを私自身に捨てさせたんは誰や?私が綾乃さんのことだけ考えて、バイトしてた時に他の男とセックスしてたんは誰や?」

「...なぎ、ごめん...。」

 

「あんたや...!」

 

「泣かんでよ.....なぎ。ごめんなさい。そんな、泣かんとって。」

 

綾乃さんは私を振り向かせ、正面から強く、強く抱き締めた。

 

「っ...うぅ...ひっく...あほぉ...。」

 

「なぎ...好き。ごめんなさい、それでも、なぎのことどれだけ傷つけても、やっぱり好き...。最低でごめん。なぎ...私だけ愛してや。」

 

辛い。悲しい。この人といると負の感情ばかりが溢れる。

なのにどうして、

 

 

こんなにも暖かいんだろう。

 

 

「...綾乃さんがご飯食べるの邪魔するせいで...お腹...空いたから、奢って。」

 

「えっ、ふふ、うん...ごめんな。...お鼻が真っ赤よ、なぎトナ。」

綾乃さんが人差し指でツン、と私の鼻をつつく。

 

「...うるさい。」

 

あの頃のように私が拗ねると綾乃さんが笑う。そんな幸せだった日々が戻ってきたような気がした。

 

 

 

現在午後2時14分

 

「佐藤先輩〜!これ、どうやるんでしたっけ〜?」

「ん?あぁ、これはここをこっちのタグに...」

 

結局あの後、綾乃さんとご飯を食べてから戻った。八神はあれから目も合わせてくれないし、話も聞いてくれない。

 

「先輩...。ここ、教えて下さい。」

私の席の横に立って私の机の上に書類を軽く乗せた。

「かん...一条。どこ?」

栞菜はここです、と言いながら教えて欲しい所を指で指す...と見せかけてホッチキス止めされた書類の間から付箋を取り出し、私の机の側面に貼った。

 

『あの派遣の人、綾乃さんって人?』

 

ちらりと栞菜を見ると見たこともないほどに不安そうな目をしていた。

不安...よね、そりゃ。

 

付箋を書類に貼り、説明すると見せ掛け、付箋に『あとで連絡する。』と書いて、栞菜を席に戻らした。

 

ぎし...

 

椅子の背もたれに体をのしかける。

 

私は栞菜の事が好き。ちゃんと、栞菜の事を愛してる。

 

ち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)...?

 

いつから、こんな考え方になったの?ちゃんとって、無理矢理好きになってるみたいな言い方。

 

誰の声か分からないけれど、頭の中で問われた気がした。

 

 

【じゃあ綾乃さんは?】

 

 

頭を殴られたように、グラグラと視界が揺れる。

違うの。違う。私はもう綾乃さんなんて好きじゃない。どうせまた捨てられる。信じない。好きじゃない。あの人とはもう終わったの。

 

私は不意に、今日ご飯を食べながら、こんなことを考えたなと思った。

 

綾乃さんとあの頃のように戻れて嬉(・)し(・)い(・)、なんて。

 

私は今日思ったあ(・)の(・)頃(・)がどの頃なのか知っているけれど、きっとその事実から私はまた逃げるんだろう。

 

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