私こと二葉さながみかづき荘に身を置くようになって月日が経つ。
実家で実母と義父、義兄、義弟と暮らしていた時期は苦い思い出だ。
実家を家出した理由は、私の居場所がなかったから。
それ以上説明しようがない。
月日が経つと言えば、私が魔法少女として契約してからもそうだ。
私は魔法少女になる際に叶えた願いで得た能力で、一般人からは不可視の存在となった。
別の言い方をすれば、魔法少女にしか私の姿は認識できない。
これは魔法少女として生きる上で助けとなった。
しかし、一人の人間として生きる上では所々で自分を苦しめている。
例えば、何か物を手に取れば宙に浮いているようにしか見えないのだ。
一般人からすれば私がすることの殆どはポルターガイストに見えなくもない。
私が得た能力は日常生活の何気ない一幕で不便を被っている。
能力がもたらすのは決して恩恵ばかりではない。
ある日、私は自分の学校をさぼり、義弟が通学に利用している路線にいた。
車両がホームに滑り込んできて扉を開くと、私は義弟を追って乗り込む。
義弟が通学に使っている路線は、私が通学に使ってるそれと比較して空いている。
とはいっても席はすべて埋まっているし、立っている乗客がまばらな程度。
扉の前で仁王立ちのように立つ義弟の真後ろに移動すると、私は彼の臀部をぎゅっと掴んだ。
「痛てぇ!」
魔法少女として身体能力が向上しているため、力加減は抑えた。
それでもダメージは大きかったらしく、義弟は思い切り声をあげた。
義弟はこちらを向いたが私のことは見えておらず、左右の座席に座る乗客を見渡した。
近くに人はいるが距離は離れているので誰を疑えばいいか分からない顔をしている。
乗客たちの何人かは義弟を怪訝な表情で見るが、すぐに関心を失った。
「なんだ今の……」
しばらくは不穏な空気が流れたが、やがて義弟は手元のスマホへ視線を落とした。
それを見計らってまたお尻の肉をつまむと、今度は体を捩って大げさに周囲を見渡した。
少し離れて様子を見ているうちに、車両は義弟の下車駅に到着した。
それから義弟が学校に着くまで同じことを繰り返した。
距離を置いて後を追い、立ち止まる度に臀部をつまんでやる。
敢えて人が多い場所を選んで痛みを与え、尾行されていることを認識させるのだ。
学校に近づくにつれて義弟は足早になっていく。
警戒のそぶりも見せたけどそんなことは無駄。
その後は勿論教室までついていった。
クラスメイトの前で痛みに悪態をつく彼の様子に周囲は面白がる。
それを見て鬱屈としていた自分の心が軽くなる感覚を覚えた。
その刹那、世間でいじめが横行する理由を垣間見たような気がする。
一時限目の授業が始まる頃、私は教室を後にした。