※この作品はR-18です。

5P erosuna4   作:夜叉五郎

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小西早紀は攻略対象ではありません。


第01章 愚者

<VELVET ROOM 2011年4月11日MAN 雨/曇 --:-->

 

霧の中を疾走するリムジン。

その豪勢な内装の車中、奥のソファに腰掛ける人物が二人。

 

「ようこそベルベッドルームへ」

 

正面に座った長い鼻が特徴の老人が語りかけてくる。

 

「ほう、これはまた素晴らしい定めをお持ちの方がいらっしゃったようだ。ふふふ。私の名はイゴール。お初にお目にかかります」

 

横に控えて座る妙齢の金髪美人秘書が続いて挨拶。

 

「私はお客様の旅のお供を務めて参ります、マーガレットと申します」

 

イゴールがタロットカードを取り出す。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所」

 

テーブルの上に七枚のタロットカードが並べられていく。

 

「本来は何かの形で契約を果たされた方が来る部屋。むっ!?」

 

その中の一枚をイゴールが捲ろうとした瞬間、タロットは霧散した。

 

「これは・・・」

 

主のタロット占いが初めて失敗する光景を目にし、驚くマーガレット。

 

「ほうほう、そういうことですか。老人の出番など無いと。では仕方ありますまい」

 

パチりとイゴールが指を鳴らすとリムジンが静かに停車した。

 

「邪魔な私は退散致しましょう。後のことはこのマーガレットに任せると致しましょうか」

 

立ち上がったイゴールがシルクハットを冠る。

 

「あ、主・・・」

 

突然のことに動転するマーガレットに一言声をかける。

 

「ではマーガレット。この方の性欲が暴走せぬよう、その躰を使ってしっかりと発散させておやりなさい」

 

イゴールがマーガレットの躰を下から上まで嘗めるように凝視し、うむうむと頷いた。

 

「おっといけない。ソファでは何かと不自由でしょう」

 

再びイゴールがパチりと指を鳴らすと、リムジンの内装が一瞬で様変わりして広いベッドが現れる。

 

「やはり初めてはベッドの方がよろしいのではないですかな?」

 

そのベッドの上には、呆然とした表情のマーガレットが横たわっていた。

 

「では、ごゆっくり。ふふふ」

 

そう言ってイゴールはリムジンから降りていった。

 

 

 

<VELVET ROOM 2011年4月11日MAN 雨/曇 --:-->

 

イゴールから供物としての役割を押し付けられたマーガレットが覚悟を決める。

 

「主の命令は絶対です。不肖の身ですが、お客様の初めてのお相手を誠心誠意勤めさせて頂きます」

 

ベルベッドな手触りのベッドの上で膝を付き、三つ指をついて初夜の挨拶をするマーガレット。

 

「こういうことは私も、は、初めてですので至らぬ点があるとは思いますが、ご容赦願います」

 

顔を赤らめながら青いスーツのボタンを一つ一つ外していき、白く輝く肌を曝していく。

 

「その、真に申し上げにくいのですが・・・優しくして、下さいませ」

 

黒いストッキングを脱ぎ捨て、下着姿になったマーガレットが恥ずかしげに誘いの言葉を紡いだ。

 

「あっ、ああーーーっ」

 

やがて悪路でもないのに霧の中を走るリムジンは激しく揺れ始める。

 

 

 

<VELVET ROOM 2011年4月11日MAN 雨/曇 --:-->

 

事を終えて身繕いするマーガレット。

 

「とてもご立派でしたわ。お客様」

 

ベッドの白いシーツには赤いシミが残る。

 

「いっぱい出されましたね。お客様の雄々しいマーラ様がまだ私の中にいるみたい」

 

処女を散らされたばかりの秘唇に手をあて、垂れてくるペルソナ液を抑えている。

 

「またいらして下さい。次にいらしたときまで、私ももっと男と女の営みを勉強しておきます。んっ」

 

不意に顔を寄せてキス。

 

「フフッ。では再びお会いするそのときまで。ごきげんよう」

 

 

 

<SYSOP 2011年4月11日MAN 雨/曇 --:-->

 

マーガレットで童貞を捨てたため、性技がガッチリ高まりました。

性技のパラメータが"初心者"に上昇します。

 

――――――――――――

鳴上悠

70/70

41/41

 

通常パラメータ

知識5:生き字引

勇気5:豪傑

根気5:タフガイ

寛容5:オカン級

伝達Z:マタヨシ級

 

隠しパラメータ

性技1:初心者(↑)

精力5:孕ませ王

色気5:媚薬級

――――――――――――

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 15:00>

 

うぉっ?

凄いエロい夢を見ていた気がする。

ヤバッ。

 

慌てて股間を確認する。

夢精はしてないようだ。

良かった〜!

 

しかし凄かったな。

金髪の美女とあんなことやこんなことまで・・・。

 

あれ?

金髪の美女?

どんな夢だっけ。

・・・まあいっか。

 

首都高から中央自動車道で一路山梨県へ。

こちらは朝から雨模様だったようだが既に雨も上がっていた。

渋滞も無く快適なツーリングとなる。

約束の時間まで結構あったのでサービスエリアのベンチで一休み。

 

春の午後の陽気についウトウトしてしまっていたようだ。

そろそろ稲羽市に向かおう。

 

でもなんだろう。

凄くスッキリした感がある。

腰回りが特に。

オナ禁後に出しまくった後のような感覚だった。

 

不思議に思いながらも俺はバイクを駆り続けた。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 15:50>

 

<ドッドッドッドッドッ、カチリ>

 

ここが八十稲羽駅か。

駅前にバイクを止める。

見事な地方の駅だった。

駅前は何もない。

 

「おおーもう着いたか。やっぱバイクだと早いな」

 

小さな女の子の手を引いた、スーツ姿の渋い男性が声を掛けてきた。

この人が叔父の堂島遼太郎さんか。

そして菜々子ちゃん。

可愛らしい女の子だった。

 

菜々子ちゃんは人見知りが激しいらしい。

上手くコミュニケーションが取れなかった。

しゃがみ込んで頭を撫でてあげたら、頬を染めて叔父さんの影に隠れてしまった。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 16:00>

 

まずは堂島邸に移動だ。

千里さんにもきちんと挨拶をしよう。

 

バイクに跨って堂島さんの車の後を追う。

信号で止まったタイミングで道路沿いの商店を観察する。

ディスプレイのガラスにりせちーのポスターが張ってあった。

 

うぉ、あれ欲しい!

そちらに意識が取られてしまう。

そのせいで信号が青になったのに気づくのに遅れる俺。

 

叔父さんの車に置いてかれそうになった。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 16:15>

 

どうやらガソリンスタンドに寄るようだ。

ついでなのでこちらも給油しておこうか。

 

車から菜々子ちゃんが降りてきた。

トイレに行きたいらしい。

 

ヘルメットを取る。

するとガソリンスタンドの店員の兄ちゃんが声をかけてきた。

 

「ちょっと待ってて。こっち入れ終わったらそっちやるんで」

 

店員は一人のようだ。

叔父さんの車への給油が終わるまで待つ。

 

お、あれはアルバイト募集の張り紙。

田舎のガソリンスタンド。

時給いくらだろう。

 

「ねぇ、もしかしてバイト興味あるの?」

 

給油を終わったらしい。

店員が話掛けてきた。

煩わしかったので適当に応対してやる。

 

「・・・ええ。何をするにしても軍資金は必要でしょうから」

 

こちらのバイクへの給油に取りかかる店員さん。

 

「へー。キミ高校生くらいだよね。この町、何もなくてビックリするでしょ。実際バイトでもしないと退屈すると思うよ」

 

何だろう。

初対面なのに妙に馴れ馴れしい。

田舎の狭いコミュニティだとこれが普通なのか?

 

「ガソリン代だって店員価格になるしさ。バイトの候補に入れといてよ。よろしく」

 

右手を差し出される。

無視するのも業腹なので戸惑いつつも握り返す。

 

<<ドクン>>

 

一瞬心臓が跳ね上がる。

なんだ?

 

「そっちはまだ終わってないのか?」

 

叔父さんが戻ってきた。

バイトのお兄さんは仕事に戻っていく。

今の感触はなんだったのだろうか?

 

・・・まさか?

 

ひ、一目惚れ??

 

そんな馬鹿な。

俺がホモだと!?

ありえん。

 

慌てて店員のお兄さんを追う。

 

「すみません!【もう一度握手して下さい!!】」

 

「・・・え、な、何?」

 

警戒した表情を見せるバイトのお兄さん。

構わずその手を取って握る。

 

胸がドキドキ・・・しない。

ホッ。

 

「ありがとう!」

 

まさかのホモ疑惑が晴れる。

俺はそのままバイトのお兄さんの手をブンブンと振り回してしまった。

 

「・・・お兄ちゃん何やってんの?」

 

菜々子ちゃんの無垢な目が痛かった。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 16:30>

 

堂島宅に到着する。

ニ階建ての広い家だ。

 

「はじめまして悠君」

 

初めてとなる千里さんとの会合。

想像通りの美人だった。

菜々子ちゃんは母親似のようだ。

良かったな、菜々子ちゃん。

 

聞いていたとおり悪阻が酷いのか若干顔が青白い。

無理をさせてはいけないと思ったが、せめて夕飯は一緒にということでご相伴に預かることにする。

 

と言っても出前の寿司だったが。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 18:00>

 

食事中に叔父さんの携帯が鳴る。

事件らしい。

刑事は大変だ。

 

「食べ終わった後、マンションに案内する予定だったんだが。これが鍵だ。それと地図はこれだ。ここから歩いて10分ほどになる。すまんが一人で行ってくれ。引越しの荷物はもうある程度荷解き終わらせているから。千里、あとは頼んだぞ。何かあったらすぐ電話しろ」

 

慌ただしく叔父さんが出て行く。

 

「悠、外は雨だぞ!危ないから歩いていけ!傘適当に使っていいからな!バイクは後で取りに来い!」

 

「お父さん行ってらっしゃーい」

 

<ブロロロロー>

 

「もう、いっつもあーなのよ」

 

「はぁ」

 

刑事の奥さんは大変だな。

でもやることやってるんだよな。

千里さんの細い腰をチラ見。

 

「エブディ〜ヤンライ、じゅーねーす」

 

菜々子ちゃん早く大きくなんないかな。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 19:00>

 

叔父さんの分も寿司をガッツリ頂いてから堂島邸を辞去する。

千里さんが明日の朝ご飯にとチャーハンを持たさせてくれた。

美味しく頂きます。

 

外は結構な本降りだった。

天気予報もたまには外れる。

雨に濡れないように借りた傘をさしてマンションに移動する。

 

マンションは稲葉中央通り商店街の裏手にあった。

堂島宅よりも転校先の八十神高等学校に近いようだ。

八十神高校はバイクでの通学は禁止されている。

こちらから通った方が朝は楽なようで正直ありがたい。

 

部屋は五階建てのマンションの四階の奥。

日当たりもまずまずの様子。

 

部屋を見て回る。

3LDKで一人で暮らすには広すぎるくらいだ。

聞いていたとおりダイニングキッチンには42インチのブラン管が鎮座している。

 

ダイニングキッチンと連結している和室には布団袋が置かれていた。

しばらくはここで寝ることになるだろう。

 

小さい方の洋室には東京から送った学習机と本棚が設置されている。

勉強部屋として使うべきなんだろうが物置になりそう。

 

使い道が決まっていないのが広い方の洋室だ。

普通なら夫婦のベッドルームになる場所なんだろうけども。

引越し支度金の二十万、節約してベッドでも買おうかな。

 

水回りも広々。

バスルームは洗い場も含めてかなりゆったりなサイズだった。

 

新しい住居に満足した俺はダイニングキッチンに戻り荷解きを始める。

これからここで一年か。

 

 

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月11日MAN 雨/曇 24:00>

 

気がついたら霧の中にいた。

 

荷解きに疲れて寝落ちしてしまったようだ。

しかし夢にしてはやけにリアル。

霧の向こうから声が聞こえる。

 

『お前は何者だ・・・』

 

こちらを警戒している凄みを含んだ声。

 

ピンッときた。

ついに始まったんだな!

俺のゲームが!!

理由もなくそう確信する。

 

この世界はRPGゲームを模して作られている。

そのゲームが今やっと始まった。

恐らくこの霧の中のイベントはゲームの導入部分なんだろう。

一年間も待たせられたんだ。

はりきって行くぞ!

 

『このプレッシャー・・・ありえん・・・』

 

声に向かって走る。

すぐに扉に突き当たった。

速攻突入。

 

霧の中に誰かの影が。

 

『お前は・・・真実など求めてないのだな・・・』

 

強烈な敵意を感じる。

これが敵とのファーストコンタクトになるのか。

よしいくぞっておおっ?

 

そう言えば俺何も持っていない。

何か武器になるものないかな。

バタバタと学生服のポケットを探る。

当然武器になりそうなものは何もない。

困った。

 

ん、待てよ?

ここがゲームの中の世界というのなら。

もしかして武器を召喚できる能力があるかもしれない。

 

「【来い!エクスカリバー!!!】」

 

気取ったポーズを取って武器の名前を叫んでみる。

すると。

 

<ぴかっーーーーー!>

 

天からの光が霧を裂き俺を照らす。

そして光の粒子が手に集まり。

気がつくと見事なエクスカリバーが俺の手に握られていた。

 

おおっ!

やってみるもんだな!

そうかー。

この世界は想いの力が形になるんだな!

 

『!?』

 

俺が武器を召喚したことに霧の向こうの影は驚いているようだ。

隙あり!

 

「ていっ」

 

駆け寄ってエクスカリバーで斬りかかる。

霧を切り裂き聖剣が影に迫る。

 

<ザシュッ!>

 

『・・・っ!?』

 

影の横を駆け抜けながらの斬撃。

手応えあり!

 

「安心しろ、峰打ちだ」

 

カッコつけてみる。

嘘です。

しっかり手応えありました。

 

首を捻って肩越しに背後を確認。

 

見えない・・・。

霧が深過ぎる。

ええい邪魔だ!

 

聖剣の力を開放。

 

「おおおおっ、エクスカリバー!!!」

 

『ーーーッ、ーーー、・・・、・・、・』

 

振り向き様の返しの一刀で一気に霧を消滅させる。

すると体育館程度の広さの殺風景な部屋に俺は立っていた。

ここはどこなのだろうか。

 

おっとそうだった。

切り倒したはずの敵の姿は、と。

あれ?

どこにもいない・・・だと!?

 

クソッ。

逃げられたか!

せっかく待ち焦がれていた敵に遭遇したのに!!

 

部屋の外か?

扉に向かって駆け出し、部屋の外に勢い良く飛び出る。

そこで意識が途切れた。

 

 

 

<SYSOP 2011年4月12日TUE 雨/曇 --:-->

 

国譲りが発動しました。

稲羽市の支配権は鳴上悠に譲渡されました。

 

 

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 7:30>

 

気がついたら朝だった。

 

くそっ。

あの異世界から放り出されたらしい。

手がかりは何も無い。

どうすべきか・・・。

 

しかし俺をこの世界へ引き込んだ黒幕がこの街にいることは確かだ。

今はその正体を追うことは出来ないが、いずれまた接触してくるだろう。

焦るな。

自分に言い聞かせる。

 

そして今日は八十神高等学校への初登校日。

初日からサボるわけにもいかない。

方針はまだ定まっていないが、まずは学校だ。

昨日千里さんから貰ったチャーハンをかっくらって家を出る。

 

昨晩からの雨はまだ止まない。

堂島邸にバイクを取りに行くのは帰りだな。

傘をさして歩いて登校する。

 

登校途中、傘さし運転でヨロヨロと進む学生に遭遇。

危ないと思ったら案の定ゴミ捨て場に突っ込んでいった。

 

そっとしておこう。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 8:35>

 

出っ歯の担任に連れられて二年二組に入る。

 

「転校生を紹介する。爛れた」

 

「先生、【自分で挨拶します】」

 

「・・・う、うむ」

 

「鳴上悠です。東京から来ました。趣味は・・・」

 

やはり新天地だし最初はスマートにいかないとな。

自分から自己紹介してみた。

クラスがざわめいているがどうしたんだろう?

 

俺の席はどこになるのかな。

ミドリ色のジャージの上着を着込んだショートボブの女の子の隣の席が空いていた。

なかなか可愛い娘だ。

よし、決めた!

 

「先生、【自分の席、あそこにして下さい】」

 

「・・・いいだろう。さっさと席に着け!」

 

先生の気が変わる前にさっさとその席に移動。

席に座るとさっきチェックした隣の娘が話かけてきた。

 

「モロキン黙らせるなんてやるじゃん。あの先生諸岡金四郎っていうの。通称モロキン。普段はもっと煩いんだよ」

 

年頃なのに異性でも話しかけやすい雰囲気がある女の子だった。

 

「へー。それより君の名前は?」

 

「え、あたし?あたしは里中千枝」

 

何か武道でもやっているのだろうか。

椅子に座っている状態からでも体幹が鍛えられているのがわかる。

躰のラインが引き締まっている。

意外なところで磨けば光る逸材がいるものだと感心する。

 

「そこ、静かにせんかーーーっ!!」

 

あ、確かに煩いな。

腐ったミカン帳ってなんだ?

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 10:30>

 

退屈な始業式を通して二年二組のクラスメイトを一人ひとりチェック。

 

隣の里中千枝。

喜怒哀楽が顔に出やすい性格のようでコロコロと表情が変わる。

見ていて楽しい。

 

感情を顔に出し過ぎてるせいであまり目立ってないが、よくよく見ると顔立ち自体はかなり整っていることがわかる。

もう少し落ち着きが出てくれば、とんでもない美女に化けるんじゃなかろうか。

 

里中さん以外では・・・。

斜め前の席に座っていた女生徒が特別目を引く。

 

黒髪ロングのお嬢様然とした娘。

天城雪子という名前らしい。

 

目にも鮮やかな赤いカーディガンを羽織っている。

一応学校指定の服ではあるが、着ているのは彼女一人。

かなり目立っていた。

 

ベクトルは違うけれどあの"りせちー"に匹敵する美形だ。

礼儀正しい所作も相まってまさしく学園のマドンナという感じの女の子だった。

 

格式の高い場所で客商売に従事している者特有の立ち振舞。

それをナチュラルに行なっているところを見ると、高級旅館の跡取り娘というあたりだろうか。

確か稲羽市には温泉宿も多くあったはず。

 

里中千枝と天城雪子は親友のようだ。

美人コミュニティってやっぱりあるもんなんだな。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 12:40>

 

今日は始業式ということで午前中で学校は終了である。

最初から最後まで煩わしいモロキンから開放されるとドッとクラスメイトが押し寄せきた。

 

どこに住んでるの、彼女はいるの、好きな食べ物は、部活は何に入るの。

質問攻めに会い困惑する。

 

「ほらほら鳴上君困ってるじゃない。散った散った!」

 

里中さんが助けてくれる。

 

<ピンポンパンポン>

 

突然の校内放送。

 

<全校生徒にお知らせします>

 

学区内で事件が発生したようだ。

放送は落ち着いて速やかに下校するように呼びかけていた。

 

クラスがざわめいている。

まさか昨日の敵の仕業ではないだろうな。

これは調査だ。

 

席を立つ。

すると天城さんと一緒の里中さんが声を掛けてきた。

 

「鳴上君、一人で帰るの?良かったらあたしたちをエスコートしてくれないかなーなんて。なんか物騒だしさー」

 

まいったな。

調査もそうだけど、バイクも取りに行かないといけないんだけど。

 

「千枝大胆過ぎ・・・。いきなりごめんね」

 

「べ、別に逆ナンとかじゃないって!一緒に帰るついでにちょっと話を聞きたいなーって。あ、こっちはアタシの親友の天城雪子ね」

 

女の子だけで下校するのが心細いのは確かだろう。

この世界に来て「あ、いいな」とマーラ様が反応した生身の女の子はこの娘たちが初めてだ。

断れなかった。

 

ごめん"りせちー"。

浮気しちゃいそうです。

 

「いいよ。一緒に帰ろう。改めてよろしく。鳴上悠です」

 

お近づきの印にスッと握手を求める。

二人とも少し戸惑った様子だったが気軽に応じてくれた。

 

「あ、うん。そのぅ、あはは・・・。よ、よろしくっ」

 

「・・・天城雪子です」

 

里中さんの手は握りやすくて温かみがあった。

天城さんの手は嫋やかで少しひんやりしている。

 

あまり男性に触れた経験がないのだろう。

二人とも頬を赤らめて可愛い。

どちらもとてもいい匂いがした。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 12:45>

 

二人と一緒に教室を出ようとする。

そのタイミングで男子生徒が里中さんに声をかけてきた。

 

後ろの席でずっと寝ていた男子生徒。

朝に自転車でゴミ集積所に突っ込んでた生徒だった。

確か花村という名前だったか?

 

里中さんから借りていたDVDを返却に来たらしい。

パッケージを里中さんに押し付けてサッと去ろうとする。

 

不審に感じた里中さんがその花村君の脚をサッと引っ掛ける。

そしてパッケージを開けると中身のDVDが割れていた。

 

「な、何よ、これーっ!?割れてんじゃん!」

 

朝の事故が原因のようだ。

憤慨する里中さんに詰られる花村君。

 

「バイト代が入るまで待ってくれ〜」

 

倒れたまま里中さんの罵倒を甘んじて受け入れていた。

悪い男ではないみたいだが・・・。

 

そっとしておこう。

天城さんと連れ立って先に外に出る。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 12:50>

 

元気の良い里中さんはポンポンといろんな質問を投げかけてくる。

それをお淑やかな天城さんが窘めつつもしっかりフォロー。

対照的な二人との会話はとても心地良かった。

 

ん?

視線を感じる。

校門の影。

誰かいる。

 

男子生徒がこちらを伺っていた。

制服が違う。

他校の生徒。

狙いは俺か。

いや違う。

視線の行き先は・・・。

天城さん?

 

確かにこれほどわかりやすい美人だ。

恋わずらいをしている男子の一人や二人いてもおかしくはない。

天城さん自身は気づいていないみたいだけど。

 

だが粘着質な視線にイヤなものを感じる。

悪質な部類なのかもしれない。

スッと視線を遮るように天城さんを守るポジションに入る。

俺が守ってやらないと。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 12:55>

 

下校中いろいろな話しをした。

 

天城さんの自宅の"天城屋旅館"。

里中さんの話では"隠れ家温泉"と言われるほどの稲羽市の名所だそうだ。

やっぱりな。

 

「雪子って色白で美人だと思わない?」

 

里中さんにあけすけに聞かれてしまう。

 

「そうだね」

 

素直に応えると天城さんが赤くなった。

里中さんによると天城さんは学校でもかなりモテるらしい。

なのに何故か未だに彼氏ゼロだそうだ。

 

「じゃあ俺が立候補しようかな」

 

軽く探りを入れてみるとさらに赤くなって黙ってしまう。

この娘は恥じらうと凄く淫靡なエロスを感じさせるな。

これも人気の秘密の一つか。

 

「うぉおおおお、やっと雪子に春が!」

 

俺の大胆発言に興奮する里中さん。

そんな里中さんに対してちょっとだけ訂正。

 

「でもさ。里中さんだって天城さんと同じくらい魅力的だと思うよ」

 

心からの言葉を連ねる。

 

「えぇ!?」

 

「そうよ!千枝は私なんかよりも断然可愛いんだから!」

 

戸惑う里中さんとは対照的に天城さんが激しく同意してくる。

 

「千枝の良さをわかってくれるなんて・・・」

 

里中さんを褒めたつもりが、天城さんの方が感動しているようだ。

同士よ!という感じでこちらを見つめる目が熱い。

どんだけ里中さんが好きなんだこの娘。

 

これを機に二人との距離感が逆転した。

 

里中さんはテレが入ったのか俺から少し距離を取ってしまった。

話しかける度に赤くなってしどろもどろな応対に終始。

 

逆に天城さんは仲間意識が働いたせいか積極的に寄り添ってくる。

話も弾んでコロコロと笑顔を見せるようになる。

 

それぞれの違う一面が見れてとても楽しい。

 

一つ言えることは二人ともとってもいい娘だということだ。

この娘たちならば本気のお付き合いを考えてもいいのかもしれない。

少しだけそう思えた。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月12日TUE 雨/曇 13:15>

 

偶然事件現場を通りがかる。

これ幸いと野次馬のおばさんたちの会話から情報収集。

 

最近不倫騒動で騒がれてた女性キャスターの死体が見つかったとのこと。

それもとても奇妙な状況で発見されたそうだ。

なんでも一般住宅の屋上アンテナに引っ掛けられた状態で死んでいたとか。

 

確かにどうやってアンテナまで担ぎあげたのか気になる話ではある。

もっと詳しい状況を聞き出そうとしたら・・・。

現場検証中の叔父さんに見つかってしまった。

 

「ウロウロしていないでさっさと帰れ!」

 

叔父さんに追い返されてしまう。

 

仕方がない。

二人の娘さんたちを自宅まで送り届けることを優先しよう。

先ほどとは一転して不安げな表情を浮かべているし。

俺は事件現場から立ち去ることを選択した。

 

「オロロロロロ」

 

道端で吐いている新米刑事さんはそっとしておこう。

 

まずは天城さんを自宅まで送る。

初めて見たが、天城屋旅館は大層な老舗だった。

 

次は里中さん。

普通を絵に描いたような中流家庭の一軒家だった。

 

「またね」と挨拶をし合い、それぞれと別れる。

 

さて。

堂島邸にバイクを取りに行こう。

それから事件についての情報収集だ。

叔父さんにバレないように・・・。

 

 

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月13日WED 曇 8:00>

 

結局昨日は有益な情報を何も得ることが出来なかった。

頭を悩ませつつ登校する。

 

通学路で花村君がバケツに上半身を突っ込んで倒れていた。

また自転車でコケたようだ。

あまりにも哀れな光景だったので助けてやる。

 

「ありがとな!!」

 

昨日の里中さんのDVDを割った件といい随分お茶目な性格のようだ。

改めて自己紹介し合い一緒に登校。

 

この街の名物がビフテキであることを登校中に教えてもらった。

そして助けたお礼にそのビフテキを奢ってもらうことに。

 

「その肉の話、私も乗った!」

 

振り向くと昨日の割れたDVDのパッケージをひらひらさせてる里中さんの姿が。

 

「これのお詫びの印に私にもビフテキ奢ってよ」

 

結局三人で放課後JUNESに行く約束をする。

ちょうどいい。

家電を見に行こう。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月13日WED 曇 16:00>

 

JUNESのフードコートで三人でおやつの時間。

天城さんも誘いたかったが、今日は自宅の旅館の手伝いで無理なんだそうだ。

旅館近くまで天城さんを送った後、三人でJUNESに向かう。

 

「ちょっと何これ!たこ焼きじゃん!」

 

「金貯めてる最中なんで、ビフテキ二枚は無理!」

 

「嘘でしょーっ!?100%肉の口になってたのに!」

 

里中さんと花村君の口喧嘩を尻目に、カウンターでビフテキを受け取って席へ運ぶ。

 

「はい、ビフテキ」

 

「え、鳴上君?」

 

驚いた表情を見せる里中さん。

 

「お近づきの印に」

 

「そんな、悪いよ〜」

 

「じゃあ半分っこしよう。この町の名物なんだろ。俺も食べてみたかったから」

 

「え、う、うん」

 

たこ焼きの熱さに悶絶している花村君は放っておく。

里中さんの方に椅子を寄せて二人で一つの皿を突っつく。

ちょっと距離が近すぎるかな。

ビフテキの臭いの中に隠れて、里中さんの爽やかな体臭が微かに香る。

 

里中さん、照れてるのか頬を染めて箸が進まないみたい。

可愛い反応だ。

 

「里中さんってお肉好きなの?」

 

「え、えへへ。肉好きの女子って引いちゃうでしょ」

 

「そんなことないよ。可愛いと思う。凄く親しみやすい感じを受けるし。はい、これも食べていいよ」

 

「て、照れちゃうな。あ〜、そうだ!な、鳴上君って最近ウワサのマヨナカテレビって知ってる?」

 

「いや。今流行ってる深夜番組のタイトルとか?」

 

ギルガメッシュナイトとかそっち系のやつだろうか。

最近TVはとんと見ないのでわからないな。

 

「全然ちげーよ。雨の夜の午前零時にだったっけ?消えてるTVを一人で見るってやつ」

 

花村君が話に割り込んできた。

 

「画面に誰か写ったらさ。それが自分の運命の相手らしいよー。今晩雨らしいし鳴上君も試してみない?」

 

「アホくさ。よくそんな幼稚なオカルトネタで一々盛り上がれるなー」

 

花村君は全く信じてないようだ。

里中さんを鼻で笑ってる。

 

「よ、ようちですって!?」

 

「お前さぁ。そんなんだから今まで一人も彼氏できねーんだよ。鳴上にも嫌われるぜ」

 

「え、そうかな・・・」

 

怯えた目でこちらを伺ってくる里中さん。

安心させるように微笑んであげる。

 

「面白そうだね。今晩試してみようかな」

 

「そ、そうだよね!良かった〜」

 

里中さんの顔に笑みが戻る。

よし。

これで里中さんとの距離がまた縮まったな。

 

というか花村君。

いつの間にか呼び捨てになってるぞ。

馴れ馴れしくてウザい。

 

もういいや。

こちらも花村と呼び捨てにしてやる。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月13日WED 曇 16:15>

 

「じゃあさ。電話しながら一緒に同じ時間にマヨナカテレビを見ようよ。電話番号とメールアドレス教えてくれないか」

 

「え!?あ、あのえとその。ちょちょっと待ってね」

 

イソイソと携帯を取り出す里中さん。

これで里中さんの連絡先をゲットだぜ!

 

この街に着てから花村に次いで二人目。

もっとも花村の連絡先は強引に押し付けられたものであったが。

 

その花村。

俺と里中さんが良い雰囲気になりかけてる中、空気を読まず突如立ち上がる。

 

「お、小西先輩だ!」

 

誰か来たようだ。

振り返るとバイトの女性がこちらに近づいて来ていた。

ソバージュでスラリとした体型をしている女の人だった。

 

ブンブンと手を振り回しながら、花村がその小西先輩とやらに駆け寄っていく。

犬みたいだな。

熱心に話しかけている。

 

「あの人、うちの学校の一個上の小西先輩っていうの。ほっそりしてて綺麗な人でしょ」

 

確かに細面の美人だ。

陰のある雰囲気があり、系統としては天城さんと同じ方向性になる。

八十稲葉中央商店街にある酒屋の娘さんとのこと。

 

「彼女だと思った?そうだったらいいんだけどね〜。まだまだただのバイト仲間って感じみたい」

 

実は花村も半年前にこの街に転校してきたらしい。

なんとこのJUNESの八十稲羽支店の支店長の息子さんなんだそうだ。

彼自身父親の手伝いがてらここでバイトしているようで、そこで小西先輩と知り合ったと。

それで猛烈アタック中というところか。

 

その小西先輩が俺に話しかけてくる。

 

「ねぇ君。君も転校生なんでしょ?」

 

「はい。鳴上悠といいます。はじめまして」

 

ん?

なんだろう。

小西先輩、表情が冴えないな。

 

「ハナちゃん、友達少ないから仲良くしてやってね。でもちょっとお節介過ぎるとこあるから、ウザかったらウザいって言いなね」

 

「ええ、もう若干」

 

おっといけない。

無理しているように見える小西先輩に気を取られて、思わず本心が溢れ出てしまった。

 

「鳴上、冗談キツいぞ〜」

 

すまん、花村。

冗談ではないんだ。

 

「そろそろ休憩時間終わりね。行かないと。またね」

 

挨拶して去っていく小西先輩。

やはり疲れているのだろうか。

その足取りは重く見えた。

 

「あ、先輩!この間の映画のチケット!」

 

「ああ、うん。いいよ。後で空いてる休みの日連絡するね」

 

花村が慌てて声をかけ、返事を貰って激しくガッツポーズをしている。

 

「なになになに?何の話?」

 

里中さんの問いかけに花村は満面のピースサインで振り返る。

そして映画のチケットらしきものを誇らしげに見せつけてきた。

どうやらデートのお誘いをOKして貰えたと思ってるようだ。

 

しかし小西先輩のあの返事は遠回しな断りの合図なのだが・・・。

哀れ花村。

 

だが良かった。

花村のターゲットは里中さんと天城さんではないということが確定した。

これで彼とは良い友達になれそうだ。

 

彼には是非あの小西先輩と懇ろな仲になってもらいたい。

そうすればいろいろと邪魔されることはなくなる。

俺も出来る限り応援しよう。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月13日WED 曇 16:30>

 

里中さんを連れ立って花村の案内でJUNESの中を回ってみる。

一人暮らしをしていると打ち明けたら、里中さんが興奮していた。

 

「いいな〜、一人暮らし憧れるよね〜」

 

「え〜、面倒なだけだと思うぜ〜」

 

うっさい花村。

さっさと案内しろ。

 

家電売場で冷蔵庫・洗濯機・炊飯ジャー・電子レンジ・掃除機を順次見てみた。

家電売場担当のバイトの花村の話では、企画モノの一人暮らしセットというのがオススメらしい。

型落ちの製品ばかりになるが、もう四月も半ばとなって在庫が余っており安く出来るのだそうだ。

 

里中さんの意見も聞いてみて機種や色を選ぶ。

配送日は土曜日の午後に設定する。

当初の予算よりもかなり節約できた。

これならベッドも買えそうだけどそれはまた今度にしよう。

 

後は・・・。

そうだ!

夕飯の惣菜弁当を買わなきゃ。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月13日WED 曇 18:40>

 

自宅で一人弁当を突っつきながらTVを見る。

ニュースでアナウンサー山野真由美(27歳)の死体の第一発見者のインタビューが流されていた。

ボイスチャンジャーで声は変えられていたが、あの髪型と口元は昼間会った小西先輩のものだった。

そうか、それで元気が無かったのか。

 

しかし、この山野アナの殺人事件。

あの霧の世界で出会った謎の声と関係があるのだろうか。

 

そしてこの街で噂になっているマヨナカテレビとは?

コメンテータが夢中になっている天城屋旅館の女子高生女将とは?

謎は深まるばかりだ。

 

あ、そうだ。

里中さんから電話番号とメールアドレス貰ったんだった。

早速電話してみようかな。

 

 

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 0:30>

 

「あはははは、へぇ天城さんってそんなところがあるんだ。意外だな」

 

気がつけばもう時計の針はとっくに深夜零時を回っていた。

里中さんとの電話越しのおしゃべりはとても楽しく、時間を忘れて話し込む。

この世界に来てから同年代の女の子とこんなに話し込んだのは初めてだ。

やはりこの接し易さが里中さんの魅力だと思う。

 

あれ?

何か忘れているような?

 

<じゃあもう遅いし、これで切るね。また明日学校で。おやすみ!>

 

「ん?ああ。おやすみなさい。里中さん」

 

電話を切ってから気づく。

俺たちマヨナカテレビ見忘れてんじゃん!

 

はあ、まあいいや。

また明日だな。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 15:45>

 

「マジかよ。電話に夢中になって見忘れただって?」

 

「「エヘヘヘヘ」」

 

放課後に教室で昨晩の失敗のことを話したら、花村に呆れられてしまった。

 

「俺は見たぜ。なんか人影みたいなのが映ってた。天城は?」

 

「んー、その時間私は仕事してたから」

 

・・・午前零時過ぎに仕事って。

突っ込むべきか悩んでいたら、時計を見た天城さんが席を立った。

 

「ごめんね。そろそろ私帰らなきゃ」

 

「家の手伝い?今って旅館忙しい時期だっけ?」

 

里中さんが不思議そうに問いかける。

確かにもう春休みも終わって繁忙期じゃないと思うが・・・。

 

「いろいろあってお母さんが体調崩してるの。ウチの旅館、私がいないと全然ダメだから」

 

「そうだったの!?雪子無理してない?」

 

「大丈夫」

 

ああ、そうか。

昨日のニュースでコメンテータが言っていた女子高生女将って天城さんのことか。

次期女将ともなると陣頭指揮まで任せられているんだろうか。

この歳で大変だな。

 

「天城さん、送ってくよ」

 

「そんな悪いよ」

 

「いいから」

 

最近何かと物騒だ。

少しでも彼女の心配事を減らして上げないと。

この前校門で見かけた男子生徒の件もあるし。

 

「じゃあねー。あたしは家族にお使い頼まれてて。ちょっとJUNESに買い物しに行かなきゃいけないんだ。花村付き合ってよ」

 

「えー何で俺がー」

 

「ははは、じゃあ花村。俺も後でJUNESに行くのでよろしく」

 

戯れてる二人を置いて、俺は天城さんと一緒に教室を出た。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 16:00>

 

やはりいるな。

帰宅中ずっと天城さんを追う視線を感じていた。

これは本格的にストーカーかもしれん。

 

「気をつけた方がいい。恐らく君はストーカーに狙われている」

 

「ス、ストーカー?」

 

「心当たりはない?」

 

「し、知らない」

 

天城さん酷く緊張しているように見える。

 

「あまり気負わない方がいい」

 

「ち、違うの。私、同年代の男の子と二人きりで話すのって無かったから。そうだ。千枝と電話番号交換したの?」

 

「あ、ああ」

 

いきなり話が飛んだな。

こういうところあるよな天城さんは。

 

「ふーんそうなんだ」

 

意気消沈?

里中さんとだけ電話番号交換して面白くないのだろうか。

うん、そうだな。

このストーカーの件もあるし、天城さんに連絡先は教えておいた方がいいだろう。

 

「天城さん、お願いがある」

 

「なに?」

 

「俺の携帯の電話番号とメールアドレスを教えるから、何かあったらすぐに連絡して欲しい」

 

「えっ嘘っ本当にっ?」

 

何を慌ててるんだろう。

さっきのは自分に連絡先を教えろっていう合図じゃなかったのか?

 

「えーと、あのー、そのー」

 

「大丈夫?天城さん」

 

「う、うん大丈夫。こっちも電話番号とメールアドレス教えるね!待ってて」

 

片手で傘を持ちながらカバンから電話を取ろうとしてワタワタしている。

見かねて傘を持ってあげる。

 

「あれ、スマホとの連絡先の交換ってどうするんだっけ?」

 

機械とかあまり詳しくなさそう。

 

「ちょっと見せて」

 

覗き込もうとするが、自分の両手はどちらも傘で塞がっている。

仕方ないので天城さんの傘を閉じ、広い俺の傘の方に天城さんの細身の躰を入れる。

これって図らずも相合傘?

 

雨の臭いに混じって、天城さんの甘い体臭がほのかに香る。

いい匂いだ。

ドキドキしながら携帯を操作。

 

「あの、いっつも千枝ばっかり男の子とメアド交換してて羨ましいと思ってたんだ」

 

「そうなんだ。意外だな。たくさんの男子から交換して欲しいって言われてると思ってた」

 

「そんなことないよ。ちゃんと私に頼んできたの。鳴上くんが初めてだよ」

 

"私に"ってことは里中さん経由でってのは結構あったってことか。

里中さん、男の子から見ると接しやすそうだものな。

そして天城さん思いの里中さんは、それを片っ端から断ってるってところだろう。

 

「光栄だな。最初の一人が俺だなんて」

 

「う、うん」

 

連絡先を交換し終わった携帯を大事そうに抱きしめる天城さん。

いじらしくて誤解してしまいそうになる。

いや待て落ち着け。

 

悶々としながら道を進む。

天城さんも同じだったみたいだ。

肩が触れ合いそうになって見つめ合い、恥ずかしいながらも何故か幸せな気分になる。

気がつけば相合傘のまま天城屋旅館まで歩いてしまっていた。

 

雨音に隠れてどこかからグギギという歯ぎしりの音が聞こえた。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 17:00>

 

天城さんを送り届けた後、JUNESに向かった俺は家具と寝具を見て回った。

家電コーナーでバイトしている花村をわざわざ呼び出し、各フロアの店員を紹介してもらう。

 

まずは家具コーナーで手頃なコタツテーブルとマットを購入。

こたつ布団の方は冬に買えばいいだろう。

 

続いて寝具フロアに移動。

いろいろ寝比べた結果、丈夫そうで広いマットレス付きのキングサイズベッドを購入。

昨日節約した分の引越し支度金を全部ベッド本体に突っ込む。

家電と同じように土曜日の午後に届けてもらうよう依頼。

 

さて、これであと必要なのはダイニングキッチンに置くソファあたりか。

あと寝室用のエアコンも必要かな。

うーん、バイト探さないと。

 

求人雑誌を手に取って家路につく。

店を出るとき花村が「毎度ありー」と満面の笑みで見送ってくれた。

なんかムカツク。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 23:30>

 

今日こそはマヨナカテレビを見なければ。

そう思い立った俺は、準備万端な体勢でテレビに向かっていた。

 

42インチのブラウン管にポータブルDVDプレイヤーを接続。

零時直前まで"りせちー"のイメージビデオを大画面で楽しむ。

 

この稲羽市に移って初めてのマス掻きである。

ここ数日溜め込んでいたこともあり、思いっきり出すつもりだった。

里中さんや天城さんに目移りしていたことを"りせちー"に詫びつつ、全裸でしこる。

 

おおっ。

この開放感!

一度やってみたかった!

 

 

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 24:00>

 

先ほどまで"りせちー"が映っていたTVを消して賢者タイムに浸る中、時計の針が深夜零時を指し示す。

ある意味、正しく全裸待機だ。

 

テンションが下がっている中、不意に再びTVに明かりが灯る。

 

「何?来たか!!」

 

いきり立ってTVにかぶりつく。

人影が現れる。

"りせちー"来い!

 

しかし映っていたのは残念ながら"りせちー"ではなかった。

画面の中には逃げ惑う一人の女性の姿が。

 

「これ誰だ?」

 

この髪型。

小西先輩!?

 

俺の運命の相手は小西先輩だったのかー。

って、んなわけがないだろ!

 

何故小西先輩が?

グッと躰を乗り出して画面の中の彼女の姿を確認しようとすると・・・。

 

「おわっ!?」

 

倒れ込みそうになって画面に触れた俺の手がその中にどんどん沈み込んで行く。

 

「おおおおおおおおぁぁぁぁぁ!?」

 

そのまま俺はTVの中の世界に引き釣り込まれていった。

 

当然フルチンのままでダイヴ。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月15日FRY 雨 0:01>

 

「ぁぁぁぁぁああああああああ!」

 

霧を引き裂いて落下する俺。

地面が迫る。

思わず俺は叫んでいた。

 

「【浮けぇぇぇぇえええええ!】」

 

慣性の法則がねじ曲がる。

落下速度が減少する。

 

「とぉう!!」

 

<ずずーん>

 

くるりと体勢を整え、脚から地面に着地。

格好良く大の字でポーズを取ってみる。

すると丁度その着地点に走りこんでくる人影が。

 

「きゃあああああああああああ!!」

 

突然現れた俺に驚いたのか、その人影は盛大にすっ転んで止まった。

 

「大丈夫ですか?」

 

思わず声をかける。

その女性はよろよろと顔を起こし。

 

「い、いや、いやよ、いやぁぁぁぁああああああああああ!」

 

俺の雄々しいマーラ様と間近でご対面。

その人物、小西先輩は悲鳴を上げ、ご丁寧にも白目を剥いて気絶してしまった。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 24:02>

 

「しかし、なんだここは?」

 

気絶中の小西先輩を抱え起こしつつ、周囲を確認する。

霧に霞んでいるが寂れた商店街のようだった。

何処と無く雰囲気は初日に迷い込んだ霧の世界に似ている。

ならば・・・。

 

「【来い!聖剣と星衣よ!】」

 

あの時と同じようにイメージする。

すると。

 

<ピカー>

 

やはりそうだった。

俺は一瞬のうちにクロスとエクスカリバーを装備していた。

ヒーローものの変身シーンのようだな。

燃え上がれ俺のコスモよ!

 

すると小西先輩が走ってきた方向から二体の化け物が飛んでくる。

明らかに敵っぽい。

 

「せいっ!」

 

聖剣の一振りで消滅させる。

簡単なものだった。

 

しかし放たれた聖剣の光に誘き寄せられたのだろうか。

四方八方から先ほどと同じ化け物が現れる。

さらにどこからともなく声が聞こえてきた。

 

『JUNESなんて無くなればいいのに』

 

斬り潰す。

 

『JUNESがこの町に来たせいで』

 

刺し潰す。

 

『そういえば小西さんちの早紀ちゃん、JUNESで働いてるんですってよ』

 

叩き潰す。

 

『まあお家の酒屋さんが大変だって時にねぇ』

 

殴り潰す。

 

『JUNESにお客を取られてこのところ売上も良くないっていうし』

 

投げ潰す。

 

『お子さんがJUNESでバイトしてるなんてご主人も苦労するわねぇ』

 

蹴り潰す。

 

『困った娘さんよねぇ。親の気もしらないで』

 

踏み潰す。

 

どうやらこいつら全て俺ではなく小西先輩を狙ってるようである。

この商店街に満ちている小西先輩への悪意が形になったもの、なのだろうか。

 

簡単に倒せるので害はないがとにかく七面倒臭い。

とりあえず小西先輩を安全な場所に移動させないと。

 

周りの建物を確認すると目の前にコニシ酒店が。

小西先輩の実家のようだ。

 

ここにしよう。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 24:10>

 

酒屋然とした内部だった。

樽やビンケースが積み重なっている。

 

しかし暗い。

とにかく暗くてジメジメしている。

明かりのスイッチはないのか?

 

ん?妙な気配が。

これは・・・。

逃げるつもりが敵の本丸に乗り込んでしまったか?

 

『何度言えば分かるんだ早紀!お前がご近所さんからどう悪し様に言われているか、お前も知らない訳じゃないだろ!』

 

小西先輩の父親の声?

 

『代々続いてきたこの酒屋の長女として恥ずかしくないのか!小遣いがそんなに足りねぇのか?やっぱり男か!?よりによって敵の店で働きやがって・・・』

 

声が鳴り響く都度、抱き抱えている小西先輩の顔が辛そうに歪む。

うーんこれは。

彼女の心象風景が現実になった世界と考えるのが自然だ。

 

俺がこの聖剣と星衣を想いの力で生み出したように。

この膿んだ世界は小西先輩の深層意識が創り出したものなのだろう。

あの化け物たちも彼女が存在すると思い込んでいる己への悪意が形になった化生。

だから彼女自身が狙われる。

 

「ということは、このステージのラスボスは彼女自身の心の影、ってなるのが妥当なところか」

 

そう口にした瞬間、案の定物陰からもうひとりの小西先輩が姿を表す。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 24:15>

 

バイト先のJUNESで見た小西先輩とは真逆の荒々しい印象をしたもう一人の小西早紀。

その金色の瞳をした小西先輩がいきなり思いの丈をぶち撒けてきた。

 

『私はね。JUNESのバイトなんてどうだっていいって思ってるの』

 

<がしゃーん>

 

店内の酒瓶がいっせいに割れる。

 

『たかだかJUNESができただけで潰れそうになってるウチの酒屋にもうんざり』

 

ガラスの破片が宙を舞い、ピタリと止まる。

 

『怒鳴るだけで威張ってばっかりの無能な父親なんか顔も見たくない』

 

その切っ先の全てがこちらに向けられる。

 

『好き勝手言う近所のおばさんたちも同じ。みんな消えて欲しい』

 

まずいな。

彼女を逃がす場所はないか!?

 

『そうね。全て、全て無くなればいいのよ!!あたしよ、死ねーーーーーっ!!!』

 

「そこだ!」

 

激昂した小西先輩の影が全てのガラス片を彼女の本体に向けて放った瞬間。

俺は店の片隅にあったTVの画面に彼女を押し込んでいた。

彼女の躰は24インチの横長サイズのTV画面をくぐり抜けるのに十分な細さだった。

彼女を逃した後、転がってガラス片の攻撃を避ける。

 

さて後はどうやってこの場を切り抜けるかだ。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 24:20>

 

本人がいなくなったせいか、彼女の影も若干落ち着きを取り戻したようだ。

 

『私はただ、こんな狭くて陰気臭い町から逃げ出したいだけなのよ・・・』

 

このままこの聖剣で倒すことは可能とは思うが。

現実世界に送り返した小西先輩本人にどう影響するかわからない。

可能な限り穏便に済ませたい。

 

ここにいるのは、小西先輩本人の深層意識の固まりである。

どうにか説得して表層意識との折り合いを付けさせれば・・・。

いけるかもしれない。

 

そうか!

これは単純なRPGじゃない。

きっと裁判モノや論破モノと組み合わさったゲームなんだ!

 

よーし頑張っちゃうぞー。

何か説得材料はないかな。

 

ん、あれは。

花村が小西先輩に渡したという映画のチケット?

見事に破り捨てられているな。

 

「【答えてくれ!】これはあなたが?」

 

『・・・父さんに見つかって破り捨てられたの。あんな父親いらないわ』

 

フッ。

これを突破口にしよう。

 

「では貴女自身は花村のことをどう思ってる?」

 

『同じよ。ずっと言えなかった。私、ずっと花ちゃんの事・・・ウザいと思ってた』

 

「本当に?」

 

『仲良くしてたのは彼がバイト先の店長の息子だから。都合良いってだけだったのに・・・。勘違いして盛り上がってほんとウザい』

 

「【それはちがーーーうっ!!】」

 

『ちが・・・う?」

 

ここが勝負だ!

 

「あなたは好きの反対の感情を知っているか?それは嫌いとかウザいとかじゃない。無関心だ。本当に好きではないのなら彼のことをなんとも思っていないはず!」

 

『・・・』

 

「あなたにこの世の真理を教えよう。それは、【嫌よ嫌よも好きのうち!】」

 

『す、き』

 

「あなたはウザイウザイと思いつつ花村のことが気になって仕方がない。つまり!【あなたは花村のことが好きで好きで堪らない!】そういうことだ!」

 

『ハナちゃんが好き。そう私は・・・ハナちゃんが大好き!』

 

よしいいぞ。

あとひと押し。

そう言えば彼女は新しい世界を知りたいらしい。

ならば!

 

「あなたは新しい世界に行きたいと言った。いいだろう。俺があなたにその世界への扉を指し示そう!」

 

『おし・・・えて』

 

「女は男ができると生まれ変わる。でもそれだけじゃあなたは満足しない。なぜか?」

 

『なぜ?』

 

「小西先輩。あなたはウザいウザいと思いつつ、結局耐え忍んでこの街での日々の生活を受け入れていた。つまりこれはあなたが重度の隠れマゾであることを指し示している」

 

『マゾ?私はマゾなの?』

 

「【あなたはその本性を花村の前でだけさらけ出し、立派なマゾ女となれ!】」

 

『・・・はい』

 

「【花村に尽くして尽くして尽くしまくり、花村を立派なサドに育て上げろ!そして花村と一緒にSMの新世界へ逝け!】」

 

『・・・はい!』

 

「【さあ俺の手を取れ!そして心の底から誓え!この世界に関することは全て忘れ、花村専用のマゾ奴隷になると!】」

 

『はい!誓います!!』

 

小西先輩の影が言われるがままに俺の手を取る。

 

<ピカーッ>

 

つないだ手から光が溢れた。

スッーと何かが俺の躰に入り込んでくる。

 

目を開けると小西先輩の姿だけでなく、コニシ酒屋や商店街も消えていた。

辺りは一面霧の中である。

終わったか。

 

小西先輩の心の中に花村という安全弁を作る。

そして日々の抑圧された感情を、恋人へのマゾ心という形で花村に対して吐き出させる。

 

いやーほんとによかった。

この解決策を彼女の深層意識が受け入れてくれて。

これで小西先輩は心の安定を取り戻すだろう。

 

しかし意外だった。

昼間フードコートで初めて会ったときは、花村の想いが成就するのは厳しいかなと思ってたんだけど。

俺の目は節穴だな。

 

さーて、どうやって帰ろう。

 

 

 

<YU SIDE 2011年4月14日THU 雨 25:00>

 

出口よ現れろ!と念じながら歩いているとクマっぽい着ぐるみに出会う。

いろいろ話しかけられたが、とにかく疲れていてよく覚えていない。

言われるがままにTVに入ったら自宅にいた。

 

疲れた。

寝よう。

ずるずるとそのまま和室に向かい、裸のままバタンキューする。

 

このとき俺は大事なことを忘れていた。

小西先輩本人の行方である。

実家の酒屋のTVに突っ込んだから勿論酒屋に戻ってるんだろう。

そう漠然と考えてしまっていた。

 

そのため翌朝に街が大騒ぎになってしまうことなど、この時は知る由もなかった。

 

 

 

<SYSOP 2011年4月14日THU 雨 --:-->

 

鳴上悠の「神言」により小西早紀は"異様な商店街"に関連する記憶全てを失います。

小西早紀は自分を"異様な商店街"に突き落とした犯人のことを忘れました。

鳴上悠の「神言」により小西早紀は花村陽介専用マゾ奴隷になりました。

 

鳴上悠がペルソナに目覚めません。

愚者のアルカナが消滅しました。




しょっぱなでケリがつきました。そして花村ハッピールートに分岐です。
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