私の話にしてはこれはかなり重い展開なのでは無いかと勝手に自己評価して笑ってる私です。
血で血を洗いつつ、飽きたらそこに重曹をぶっこむ世界観ではございますが、またお暇な時にでもお付き合いください。
決闘。それは互いのプライドをかけた戦い。ガンマンなら早撃ち、剣豪なら打ち合いと、己の威信をかけた真っ向勝負のことである。それなのに……
「あ〜〜……」「ほげ~…」「かゆ…」「……うま」「…ペラペラソース…」
「なぁ、なんか物凄い数のアンデッドがひしめいてんだけど……これ俺が知ってる決闘と違うんだけど……」
「相手は地獄から無尽蔵に魔力が使えるのですから、これくらいのことはするでしょう。しかし、これら全てを吹き飛ばすのが爆裂魔法なのです!さぁカズマ、マナタイトを!」
「いや、そこ結局俺頼りかよ……用意してあるけどさ……」
準備期間を設けてやると言う魔王の娘に従ったところ、俺たちの仲違いはアインズ相手の戦争のようになっていた。今度あったら言ってやろう。こりゃ流石に帝国が気の毒だと……
「それにしてもおかしい。エリスの前を陣取っているのに、何故かこちらに突っ込んでこないぞ?」
「陣取るというのはどうかと思いますが……確かにこれは不思議ですね?統率されているのでしょうか?」
だとしたら、アイツはマジでアインズ級のチートボスと言うことになる。多少ステータスで勝っていても、万全に準備したアインズみたいな魔法使いを相手にするのは普通に自殺行為だ。まぁ、こっちにもアークウィザードなら沢山居るんだが、こんな周到な奴はいない。と言うか魔法使いってのは知能補正キャラの筈なのに、うちのアークウィザードは脳筋が過ぎる。
「一応アンデッドは使役が可能なので、それで命令を下してる可能性はあると思うのですが……」
「だとしてもこの数は流石にエグいわよ…事前に簡単な命令を入れておく位しか出来ないでしょ…」
だとしても合図で一斉に襲えとかだったら普通にやばいよね?
「ははははは!恐れ入ったかチンチクリン!私が用意したアンデッド兵は圧巻であろう!今から土下座して許しを請えば許してやらん事もないぞ!」
「ふっ!こんな烏合の衆など、アクアを囮に一発撃てばイチコロですよ!」
「ねぇ待って?それ私も死ぬんですけど?!普通に消し飛びかねないんですけど?!」
「ほぅ……ならばやってみるがいい!開戦だぁ!!」
その声を聞いたアンデッドは一斉に俺達へ向けて走り出す。やはりこれはそういう作戦だったようだ。しかし、それがアンデッドならやりようはある!
「ダクネス!アクアを担いで走れ!」
「任せろ!!」
ガッ、ズダダダ!
「ちょっ?!結局その作戦なの?!あっ!クリスになってるし!」
「……ご、ごめんなさい先輩」
この数のアンデットを相手にするのは流石に分が悪い。そうなればもう、集めて一網打尽にする他はない。当然、逃げ道はちゃんと用意している。
「アクアさん!フォルスファイアだ!私とテレポートで飛ぶよ!」
「あるえぇ!もうアクシズ教の役職あげるぅ!!」
「…………私だけ飛ぼうかな…」
「なんでよぉ?!」
いや、そりゃそうだろうさ。アクシズ教は嫌だろうさ。
「冗談だから!ほら、早く魔法を!」
「分かったから置いてかないで!『フォルスファイア』!」
めぐみんの爆裂がギリギリ届かない距離で、アクアのフォルスファイアが打ち上がる。ただでさえアンデッドに愛されるアクアが誘導魔法まで使ったんだ。普通に考えれば一網打尽になる。はずなのだ……
「今だめぐみん!『テレポート』!」
「『エクスプロージョン』!!」
カッ!
めぐみんの爆裂は、さっきまでアクアが居た場所へ……全てのアンデッドが居るはずの場所に叩き込まれた。しかし、爆炎の中から出てきたのは、どう見ても直撃を免れた多くの個体。そして、その直撃を免れた個体達は、そのまま真っ直ぐに俺達から離れていく。その方角には王都かあるというのに。
「おい!このアンデッドの狙いはアクアじゃないぞ!いや、数体アクアを狙っている奴もいたが、殆どが俺たちを無視して前進してる!」
「おや?以前人里を攻める為に用意したからか、こいつらは街へ向かう命令が残っているらしい。このまま放置すれば、王都やアクセルが危険なことになるかも知れんな?」
「くそっ!お前!それ絶対に確信犯だろ?!」
この場を離れていくアンデッドの数は100や200じゃ済まない。そして、そのアンデッドの中には明らかに普通のゾンビやスケルトンではない個体がいる。明確にめぐみんの爆裂を避け、しかも若干宙に浮いていて、何故か魔法の杖を持ったスケルトンとゾンビが……
「おいウィズ。あの中に明らかに魔法職の奴居るよな?」
「……居ますね。スケルトンメイジやゾンビウィザードが紛れています。あと、地味にゾンビウォーリアーとかアンデッドナイト、デスナイトまで……」
それガチの戦争仕掛けられる奴じゃん!!
「お前これ停戦違反だろ!と言うか決闘から見ても普通に反則だろこんなの!」
「何をいう。我々はこれで無関係な誰かを傷付けてなどいないぞ?はぐれアンデッドが街に現れたとしたら、それはもう不幸な事故であろう?なにせ、ちゃんと埋葬された人間はアンデッドになどならぬのだからな?」
「くそっ!ゆんゆん、ダクネスと一緒にアクセル方面の奴らを止めろ!あるえ、お前はセレナと一緒に王都方面に向かう奴らを頼む!」
こちらの有利だった手数がこれで封じられた。前回は俺達の不意打ちだったから良かったものの、やり口がバレてるとやはり対策してくる。本当に攻撃をするかなんて分からないが、それでも放っておく訳にはいかない。くそう!馬鹿じゃないってだけでやりにくい!
「それなら、出処を叩くのみです!『エクスプロージョン』!」
「そうはいかん!『エクスプロージョン』!」
カッ!
轟く爆音は殆ど同じタイミングで炸裂し、その威力を相殺する。威力も射程もめぐみんのほうが上だが、その差は余波で相手を消し飛ばす程の差はない。そうなると根比べになってしまうのだが、この状況では流石に……
「『ターンアンデッド』!『ターンアンデッド』!もう、なんなのこの数!」
「『カースド・クリスタルプリズン』!もう!全然終わりが見えませんよ!」
「ははははは!どうしたチンチクリン!以前のように根比べをするか?それとも逃げて不意打ちを狙うか?それまで仲間達が保てば良いがな!」
あぁ、やっぱり前回のやり口を根に持ってやがる……この状況はやっぱりめぐみん対策だ。
「そもそものルールが総大将を倒せば良いなら、最初から狙うべきはこっちよ!『ロックブレイク』!」
全長5mの大岩が形成され、そのまま魔王城に向けられる。確かに言われてみれば、魔王が倒れれば俺たちの勝ちなのだ。それなら、こんなチートを相手にする必要もない。
「おぉ!流石だウォルバク!ルール上は魔王の娘を倒せば俺たちの勝ちだ!こっちが駄目でも、向こうに白旗を挙げさせれば!」
ズドォーン!
え?いや、いま魔王城に直撃したよな?なんで庇わなかった?!
「………あんた、実は決闘なんてする気ないでしょ?」
「何のことだ?この程度の攻撃、私が庇わずとも魔王の娘ならばなんの問題もなく対応できる。まぁ、それでも城が崩れれば何人も死ぬだろうがね?」
いくらなんでもその反応はおかしい。確かに勝負のルールはそうだとしても、魔王の娘はあそこにいる仲間を大切にしている。その気持ちを汲むのであれば、大切に思っているのであれば、せめて魔法を逸らすくらいのことはするはずで……
「まぁ、少なくとも彼女はこんな事で敗北を宣言する程弱くはないさ。さぁ、やるならもっと本気でやりたまえ!『インフェルノ』!」
「くっ!『ウィンドブラスト』!」
後ろを振り返ることもしないまま、再びその魔法はウォルバクへと向かう。よくよく考えればこれだっておかしい。全てのアンデッドを俺にけしかければ勝利は目前だし、そもそもアンデッドの中に魔法が使えるモノが紛れているなら、それで一斉攻撃をしても良い。そうなれば俺は簡単にやられて、決闘の勝利はほぼ確実と言える筈だ。なんでそれをしないのか、その理由をシンプルに考えるなら……
「なぁ、俺が白旗を挙げてここで終わりにしたいっていったら、お前は受け入れるか?」
「……………あぁ、受け入れはするだろうさ。この攻撃の手は緩めんがな!!」
「畜生!やっぱり、そう言う事かよ!」
やはりウォルバクの予想は的中している。これは決闘なんかじゃない。決闘を理由に正当性を持たせた、ただの戦争準備だ。何も理由もなく大量のアンデッド兵を配備すれば、それは間違いなく国との戦争準備でも、英雄との個人的な決闘ってことにしときゃ文句は言われない。そして何よりも、仇討ちの決闘を邪魔したって事になれば、新たな戦争の理由が王国側の責任になる。
「お前が魔王の沽券を利用したように、私もお前の沽券を利用させて貰ったのだ!お前には誇りなどなくとも、周りの者は手が出せまい!英雄の面目を外から潰すなど、誰も望まぬであろうからな!」
「畜生!これに関しては全面的に俺が悪いから文句言えない!」
しかもそれで魔王殺してるからな!
「うわぁカズマさん流石に引くわそれ…完全に魔王サイドじゃない…そこまでやってたの?」
「それは魔王とは言え、ちょっと気の毒過ぎないかな……」
「あれ?女神サイドからもこの言いよう?!」
いやまぁ気持ちは分かるんだけどさ!
「皮肉なものだな!今度は貴様が……いや、同じ手で国が滅ぶと言うのだからなぁ!『エクスプロージョン』!」
「くそっ!めぐみん!」
「分かっています!『エクスプロージョン』!」
カッ!
……………………………
「いやはや、このギリギリの綱渡りをここまでこなすとは……サトウカズマ、お前は将としては間違いなく優秀だな」
「そりゃどうも…そんな俺と敵対するのは上策じゃねぇだろ?ここで手打ちにしとこうぜ?」
度重なる魔法の相殺により、俺達はもう戦闘の継続が難しい状態となっていた。向こうは地獄から無尽蔵に魔力を取り出す事が可能で、撃ち合いになればリソースで負ける。だが、あるえとゆんゆん、ダクネスとセレナがこの状況を誰かに伝えていれば……
「見え見えの時間稼ぎだな。どのみちいくら待っても援軍など現れぬ。なにせ、送り込んだアンデッドもまた私と同じように魔力を回復出来るのだ。王国軍も紅魔族も、打ち倒すのには何日も要するだろう」
「あ、あの数を本当に使役していると言うの?!そんなのいくらなんでも不可能よ!」
「バカを言うな。私が使役して契約しているのはリッチー4体だけだ。しかし、そいつらがウィザードスケルトンを、そしてウィザードスケルトンがウォーリアー共を使役していたら、この話は成立するとは思わないか?」
「なるほど……確かにそれなら、簡易な支配が可能な上に、魔力の伝達パイプが出来ます……それでも、そんな膨大な魔力を受け取るあなたは……」
「あぁ…全身を激痛が走り続け、魂はどんどん消耗している…しかし、これで悲願が叶うのだ…こんな苦痛などどうでもいい!女神エリス!女神アクア!貴様らからこの世界を貰い、私が新たな神となるのだからな!」
この状況でとんでもねぇ悲願を語りやがるな!なんだよコイツ!狙いは主神の座だったってのか?!
「はっ?何言ってんのよ!私があんたなんかに譲るものは何一つ無いわ!そもそも、神族だとか言ってるけどね!信者さえ居ないあんたが世界の支配とか出来るわけ無いでしょ!」
「そうですよ!神として世界を求めるのなら正しき教えと導き手となって求めるべきです!そんな力尽くでなんて……」
「全てを私が決めるのだ。信仰など……まして身勝手で害悪にしかならぬ信仰心など不要だろう?」
「「「なっ?!」」」
この男、ただ支配するためにこの世界を求めていると言うのかよ?!そんなの完璧な独裁者じゃねぇか!誰が従うんだよこんなのに!
「………あんた、魔族も悪魔も人も手を取り合えるって語ってなかったかしら?」
「当然だろう?道具には木も鉄も必要なのだ。私には皆が等しく道具である。お互いを消耗し合うなど、経済価値の損失でしかない。そんな考え、改めるべきだ」
「そう……全てがあんたにとって感情は無価値って事ね……あんたを信じた魔王が浮かばれないわね…」
「いやいや、魔王は特別だとも。それなりに価値があったからな?」
ヤバい。コイツは何一つ嘘を言っていない。言っていないからこそ、コイツを神様にするのは絶対に不味い!
シュバッ!
「カズマ様!緊急伝達です!あの者が新たな魔王として登録されました!危険度はSSS、前魔王より明確に上です!」
「いや天使!お前は本当に嫌な情報ばっかり持って来やがるな!と言うか、それ今決まったのかよ?!」
「天界緊急会議の愛の女神様の開会挨拶が15分ほど長引きまして……会議は2分で終わったのですが……」
緊急会議で開会挨拶すんな!
「ほう、これで私も刺客を送られる立場となったか……では、そろそろ手早く進めるとしよう!アクセルを滅ぼし、勇者の送り先を潰させて貰う!」
周りの空気がビリビリと痺れ、そいつの上空に莫大な魔力の渦が生まれる。先程までの詠唱破棄の魔法とは明確に違う。まさに俺達を消し去るための一撃が、そこにはあった。
「私が大技を使うと、アンデッド共への供給が絶たれてしまうからあまり使いたくないのだが、お前たち相手に温存していては時間がかかるからな。遅れは後から取り戻すとしよう…さぁ、どうする英雄共?」
「なら発動を妨害します!『カースド・クリスタルプリズン』!」
「『インフェルノ』!」
パァン!
「そんな?!」
ウィズの放った氷結魔法は、禍々しいオーラを持つリッチーにより防がれる。どうやら、こいつはこれも準備していたようだ。自分を守らせる為の4体のリッチーに、大量の魔力を注ぎ込んで……
「魂ごと消し去るには、これくらいの威力が必要だからな。済まないが女神にも英雄にも蘇生されるのはゴメンだ。このまま、何も感じる事なく安らかに眠るがいい!」
その手に詰まる多量の魔力は、まるでブラックホールのような漆黒。素人目に見ても、こんなの防げるとは思えない!
「くそっ!めぐみん!全力でぶちかませ!」
「勿論準備済みです!『エクスプロージョン』!!」
「「『エクスプロージョン』!」」
カッ!!
俺達のまさに切り札と呼べる一撃は、リッチー2体のエクスプロージョンにより相殺される。いや、それでもめぐみんの一撃は勝っていたのだ。ただ、一体のリッチーが身を挺して庇って居なければ、あの魔法は止められていた筈だった。
「人の身でそれほでの威力とは、やはり魂ごと消さねば危険だな。さぁ、世界への別れは済んだか!」
「くそっ!こんなの絶対に止まらねぇじゃんか!一旦テレポートで逃げるか?!」
「駄目よ。今逃げたら、あいつは同じ技を各主要都市に打ち込むわ。だから、この一発は私が……」
「ウォルバク?お前、なんか身体が透けて……」
「……ごめんねカズマ、めぐみん。今の私には、こんな方法しか浮かばなくて……」
そんな悲しそうな顔で…お前は本当に何を………
「自分の神格を魔力にして撃つ気?!そんなことしたら、本当に存在が消滅するわよ?!」
「おいふざけんな!それでウォルバクが消えてどうすんだよ!なんでこんな所で自己犠牲精神を発揮してんだよ!」
「邪神の私を、女神に戻してくれたのは二人だもの…だから、女神として、こうして恩を返すしかないじゃない!」
「駄目です!女神なんてどうでも良いですから!師匠はちゃんと生きてください!また私の前から居なくならないでください!!」
「……それで貴女が消えるより、こっちのほうがずっと良いわ。だから、ごめんね」
駄目だ!そんなの駄目だ考えろ!無尽蔵の魔力をどうすれば抑え込める?!ディスペルをしてこのアンデッドを乗り切れるか?!そもそも相殺なんて可能なのか?!地獄の魔力を延々と手にできるってそんなチート……はっ?!
「す、すみません!私はもうなんの役にも立たないので帰ります!と言うか武神様とか破壊神様を呼ばなきゃどうしようも……」
「いや!むしろそれが好都合だ!天使、門を開けろ!」
「はいぃ!もうお先に失礼しま……ちょっ?!なんで足を掴むんですか?!このゲートは二人は通れな……いったぁ!挟まったぁ!」
バチンッ!
頼む!同じ条件ならこれは可能なはずだ!届け!このままウォルバクの元へ!
「………さよなら」
「「『エクスプロージョン』!!」」
「師匠〜〜!!」
ドォォーーン!!
その一撃は、正しく大地を揺るがすと言う表現が正しかった。爆心地から俺たちに向けて、アンデッドどころか土の地面さえ丸く抉れているその一撃は、護衛のリッチー達も消し飛ばし、そして俺たちの付近にいたアンデッドをちり紙のように彼方へと吹き飛ばしてしまった。そこに残っているのは、ウォルバクが高密度に放った魔法で相殺された、一部の地面とそこに乗る俺たちパーティーだけだった。
「………馬鹿な!万が一止められたとしても、なんでお前がそこに立っている!なぜ存在できる!答えろ!ウォルバク!!」
「………そうね。強いて言うなら、ちょっと旦那が最高過ぎたってところかしら!」
ウォルバクの身体は淡い光を放ち、まるで全力モードのアクアのようだ。いや、きっと本来の姿と力はあぁなのだ。無尽蔵とも言える魔力を、天界から補充出来るのなら!
「ちょっと?!羽と胴体がめちゃくちゃ挟まれているんですが?!なんなら、私いま尻壁状態なんですが?!今の状況も分からないんですが?!」
「そのままもうちょい頑張れ!今の俺達は、お前のお陰で俄然無敵って感じだからな!」
「えぇ!なぜ私の尻にそんな力が?!」
あぁ、しかしこんな馬鹿な方法が上手くいくとは思わなかった。これもちゃんと、ウォルバクが女神として復活してくれたことと、天使のやつが震えながらも俺たちに伝えに来てくれたおかげだな!
「さぁ、決着をつけましょう!孤独な邪神と、恵まれた邪神。どちらが魔術師として格上かをね!」
「……良いだろう。これは流石に予想外だが、寿命が数分伸びただけだからな!」
「「『エクスプロージョン』!!」」
カッ!!
同時に放たれた力の奔流は、若干ながら向こうの方が力強い。しかし、密度を高めたウォルバクの一撃は、きっちり俺達のいる場所を守り切っている。これはまさに、可愛い教え子達と培ってきた魔力コントロールによるものだ。
「「『カースド・クリスタルプリズン』!『カースド・ライトニング』!『インフェルノ』!」」
「拮抗はしています……しかし、この状況では………」
「あぁ、相殺を続けても勝てる訳じゃない。しかも、時間をかければ有利なのは……」
「『ターンアンデッド』!『ターンアンデッド』!ねぇ!なんでアンデッドは止まらないの?!」
「恐らく魔法陣か何かで連続発動しているんです!先輩!ウォルバクさんの方へ行かせては駄目ですよ!」
「わかってるけど多過ぎるのよぉ!!」
そう、この周到さを見れば、明らかに有利なのは向こうなのだ。散らばったアンデッドをこっちに戻されるなんて事が起きれば、流石にもうどうしようもない。完全包囲で魔法の一斉掃射なんて事に……
「カズマ!アンデッドが物凄い勢いで引き換えしてきました!完全にこっち狙いです!」
「さて、どうするウォルバク。当然私とて保険はかける。紅魔族がここに残った場合の案だったのだが、お前たちはやはりアンデッドにして使役するとしよう。大量に兵を失うとしても、それならばむしろ黒字だからな!」
「へぇ!それはそれは………狙い通りで何よりだわ!エリス!!」
「ウィズは『テレポート』!」
「えっ?!」シュッ
「はい!行きます!!『セイクリッド・ハイネス・ターンアンデッド』!!」
はるか地平線に点のように見えていたアンデッド達より、更に遥か遠くにまで広がっていく魔法陣。無尽蔵な天界の魔力があるなら、アクセルの街をまるごとブレッシング出来るエリスになら、きっとこれくらいできるって思ったぜ!
ペカー
「ほげぇー」「あぁー」「ガガガガガ…」
「ちっ!まさか女神エリスがこれほどの力を有しているとはな!」
「さぁ!エリスの力は一週間は残るわよ!もうあんた一人しか居ないわけだけど!これでもまだ続けるのかしら!」
「軍を奪われるとは予想外だった………お前たちは、やはりここで必ず殺す!『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』!」
「なっ?!そんな乱発は流石に『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』!……きゃっ!」
あまりにも不要な連続爆裂に、拮抗していた状態が相手に傾き始める。と言うか、実はまだ致命的な差が俺達にはあるのだ。向こうにある無尽蔵な再生能力が、こちらには誰一人として備わっていないのだから……
「お互いに魔力は無限だろうと、お前らには再生能力がない!つまり、肉を切らせて骨を断とうが、最後に立っているのは私なのだ!」
「くっ!本当になりふり構わないわね!『クリエイトゴーレム』!エリス!支援お願い!」
「『ヒール』『パワード』『プロテクション』『スピードゲイン』!ウォルバクさん!負けないでください!」
駄目だ。まだこれだけじゃ勝ちには持っていけない。相手の無尽蔵を封じる方法があれば……
「あぁ!不味いですカズマ様!そろそろ引きちぎれます!私そろそろ天/使になりそうですぅ!!」
「おい耐えろ!お前がマジの生命線だから!お前が引き千切れたら俺達は一瞬で灰になるからな!」
「先に半分こになる私を案じていただけます?!」
くそっ!確かに天使の羽と腰がなんかギチギチいってる!変なスキルや魔法は沢山あるのに、なんでこういう時に使えるモノが…いや、待てよ?使えないモノが、ある意味じゃ一番の武器なんじゃ……こんな素晴らしいチートを台無しに出来る方法があるなら、それはある意味では究極の武器なんじゃないのか?!
「アクア!エリス!ありったけの支援魔法を頼む!やってやるよ新魔王!悪いが俺には、3人も女神が付いてんだ!もう何が来ようと怖くないんだよ!」
本当はめちゃくちゃ怖い。でも、神様って祈ることはもうしない!だって、アイツラを幸福に導くのは俺の仕事だ!頼ってばっかじゃ情けないからな!
「ふん!ならばやってみるがいい!ウォルバクの背中から出られるのであればな!!」
相手との距離は約80m。爆裂の相殺をミスれば直ぐに死ねるような距離だ。でも、それでも俺にはこいつらが居る!
「めぐみん!ぶちかませ!あいつの背中に!」
走り出した俺からの指示は、本当にもう最低限のものでしかない。しかし、それでもこいつらには、ずっと一緒に居た仲間には通じてくれる筈だ!
「背中……分かりました!『エクスプロージョン』!」
カッ!
「ぐっ!爆炎で私を前に押し出すか?!しかし、それでもお前の手は届かない!『カースド・クリスタルプリズン』!」
「させないって言ってるでしょ!『インフェルノ』!」
これで60m!まだだ。まだこれじゃ全然届かない。
「くっ!それならば風魔法で押し返すのみ!『サイクロ…』」
「『ライトオブセイバー』!」
ズシャッ!
その高く掲げた腕が、光の剣により両断される。アンデッドが消えれば間違いなく戻ってきてるって思ったぜゆんゆん!さぁ、あと50m!
「くっ!小娘が!先に死にたいなら貴様から!『カースド・ライト…』」
「『ライトオブセイバー』!悪いね!私の友達は、しっかり者で私のことも把握済みさ!」
「くそぅ!もう一人だと?!なぜなんの連絡もなくこんなコンビネーションを!」
「「カズマさんなら、きっとやるから!!」」
あぁ!やっぱりお前ら紅魔族は解ってやがる!どこで何をやるべきなのかを一番な!さぁ、残り40m!
「ちっ!傷は負うが……『爆発魔法』!」
「させるかぁ!」
パァン!
咄嗟に発生させた小規模な爆発は眼の前に飛び込んだダクネスにより受け止められた。ゼロ距離で爆炎と爆風を食らい、下がるどころか、左半身が吹き飛んでいる。なお、ダクネスは安定の無傷!!残り30m!
「くっ!再生しながらでは魔力が治療に流れて大規模魔法は使えんが、それでも弾数ならいくらでも用意できる!『アイスニードル』!」
「まずい!ダクネス!ゆんゆんとあるえを!」
「任せろ!私が守る!」
ガガガガガガ!
連続射出される氷柱の弾丸は、その全てが一撃必殺になりえる速度で飛んでくる。これを俺が食らえば間違いなく止まってしまうし、あのダクネスだってジワジワと下げられている。残り20m。まだ止まるわけには……
「ごふっ!わ、私の喉に攻撃だと…馬鹿な…再生が始まらな…がはぁ!」
[カズマ、先に言っておきます。貴方を支える女神は、私も含めたら4人です!]
あぁ、分かってたよ!言ったら手口がバレるから黙ってただけさ!
[なら許します!セレナ!あなたの覚悟、見届けましたよ!]
「せ、セレナさん!早く治療を!何で喉で受けるなんて無茶を?!」
「ごふっ!バカ…まだこれは…抜くんじゃ…ねぇよ…これで、届くだろ…カズマ…」
「あぁ!もうスキルの範囲内だ!これでお前は……終わりだぁ!!」
スキル一斉発動!『踏み込み』『インファイト』『突進』『斬り込み』『疾風迅雷』『高速移動』『強襲』『シールドバッシュ』『加速』『逃走』『配送』『韋駄天』『出前』『縮地法』『ピンポンダッシュ』『アクシズ式勧誘術』!
「馬鹿な!消え……」
シュバッ!
「さぁ……これで0mだ」トンッ
あぁ、届いた。本当にギリギリだったけど、ちゃんと届いた!
「………ふははは!この距離なら勝てるとでも?!魔力の炸裂で簡単に消し飛ぶ冒険者風情が!図に乗るのも大概に……おっほぉぉ!!」
ガクンッ!ビクンビクン!!
「「「「「「……………はっ?!」」」」」」
俺の一撃を食らった新魔王は、俺の前に転がって悶えだす。そりゃそうだろう。常人なら10倍でも狂うらしいからな!
「お前の魔力が無尽蔵ってことは、注ぐ量で効果の決まる魔法なら、とんでもない効果が出るって事だよな?たとえそれが、『感度上昇』の魔法陣でも!!」
そう、これはサキュバス店の新製品!感度上昇の魔法陣の
書かれたスタンプだ!それを両乳首に押してやったのさ!
「き、貴様!!この流れでなんて方法を使…ひぎぃ!!布ズレでいきゅうぅぅ!!」
ビクンビクン!!
「『鑑定眼』うわ、感度3000倍かよ……対魔忍レベルじゃん……」
なんて嬉しくない対魔忍だろうこれ。よし、ついでに全身にもスタンプしとこ!
「こ、こんな方法で勝つなど、お前には誇りも何もないのか?!くっ!魔力を練るだけでもぉ!んほぉぉぉ!!」
「悪いな。プライドとか誇りなんて全部捨ててでも、大切にしたい奴らが居るんだよ。まぁ、少しばかり人数が多いけどな」
「いや、その状況で言われてもねぇ……」
「だ、駄目ですよ先輩!死なないで初の魔王討伐なんです!どんなに汚くてもカズマさんの勝利を喜んであげなきゃ!」
うん!なんかその気遣いが辛いけどね!
「ねぇ、もう一度魔王の娘とやり直さない?カズマ達と歩めば、新しい何かが見えるとおもわない?」
「ウォルバク!貴様この状況で何を?!なんなら新しい扉が見えそうで……」
「見 え る わ よ ね ?」ツンツン
「あひぃぃぃー!!変なの見えちゃうぅーー!!」
ビクンビクン!!
いや、ウォルバクさん?あなた完全にそれ憂さ晴らしですよね?
「こ、殺せぇ!こんな責め苦に晒されるなら死んだほうがマシだ!いっそ殺せぇ!」
「魔法陣が消し飛んだら困るからな。悪いけど、お前はこのまま天界に引き渡す。天使、後を頼んでも……あれ?なんか痩せた?」
ウエスト、すごく細いよ?
「ずっと天界の門に絞られてましたからね?!もうね!肋が変形しましたよね!!」
あっ、やべぇ忘れてた!
「まぁ、今回は大捕物なのでそれくらい水に流します。ほら!さっさと立ちなさいこの変態神!」
ぎゅむぅ!
「おっほぉぉー!乳首引っ張って起こすなぁ!!」
うん、コイツは二度とこの世界に降りることはないだろう。俺だったら、絶対に知り合いには会いたくないもん。
「か、カズマ……帰ったらその、私にもアレを……」
「いや、お前は本当に相変わらずだなダクネス……でも、ちゃんと全員揃って、うちに帰れるな……」
こうして、新たな魔王の脅威は去った。俺達は再び誰一人欠けること無く帰路につけたのだ。まぁ、今はこれで十分だ。消費した高密度のマナタイトも、ズタボロになった皆の装備も、こいつらの笑顔よりは安いものだから……
「あっ、そうだ天使。一応伝言頼むわ。お前のところの偉い人に向けて……」
______________
「で、新魔王の討伐特典にはウォルバクを寄越せとよ。こりゃ見事に先手を打たれたな。愛の女神」
「本当です。天使のレポートには私の開会の挨拶のことを対応が遅れた要因として書いてありますし、これでは取り上げる事など出来ないではないですか。まったく、同じレベルの危険因子をあの世界に残すことになるとは……」
「それにしては、お前は嬉しそうだぞ?」
「うふふ。それはもう、私は愛を司る女神ですから…それに、この世界最悪のシナリオの前には、こんなの些末な問題です。サトウカズマには、引き続き幸福で居てもらいましょう。すべての封印されし厄災が、この世に解き放たれぬように……」
「なぁ…そろそろ封印の女神は代替わりしねぇか?アイツ推しになんかあると封印壊れんじゃん?それでカズマが最後の砦ってどう考えてもさぁ……」
「何を言うのです!彼女は私の新卒時代の渾身のモノマネ動画も!破壊神の裸踊りも封印して持っているのですよ!それが新人に広まるくらいなら、いっそ世界なんて滅べば良い!」
「いや愛の話どこいった?!そんな自分勝手な理由かよ!」
「うるせぇ!自己愛も愛です!!」
「あっ!お前それ先輩に逆ギレした奴!と言うか、アイツがあの世界に固執した理由だってお前の責任だろ?!」
「はぁ?!可愛い女の子が担当の方が嬉しいに決まってるじゃないですか!あれは天界の可愛いものを愛でる会の総意です!私達の推薦はむしろ世界の人民のためですぅ!」
「その団体名がもう神事に口出しするべき団体じゃねぇよな?!」
ワーワーギャーギャー!
「……こ、こうして平和は守られました!と言う事で、私は何も聞かなかったことにしておきます。えぇ、関わるとろくな目に合わなそうなので……」
あぁ本当に、この世界の真の敵は神々なのではと、私もたまに思いますもん。ごめんなさいカズマ様。あなたの苦労は多分当分終わりません!
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
あの感度上昇の魔法陣を書いてからずっとやりたかったです。
それも前フリをなるべくカッコよくしてぶち壊してやりたかったんです。
こんなのばっかりの世界観ですが、またお暇なときにでもお付き合いください。