アイリスが加入したのにフォーカスが少ない気がしたので、たまにはこうやってメインにしてみました。特に何もない平和な日々を過ごすアイリスなんて、きっと需要がある筈です。
と言うことで、またお暇な時にでもお付き合いください。
目の前に広がる広い草原と、ほのかに香る土の匂い。特に何もない日と言うのは、私にはとても貴重でした。お兄様と結ばれてからは、少しずつそんな時間を過ごす事も増えています。
「アイリス、お茶を淹れたから一休みするか?」
「ありがとうございます、お兄様」
王族の職務も戦争もない、ただ愛する人と過ごすなんてことのない日。私はこんな平和な日こそ、日記にしたためるようにしているのです。
………平和なキャラ紹介………
アイリス
カズマの嫁に来た王女様。先妻のエリスとアクアの影響力が強過ぎるとの事で、表向き王族ではなくなった。と言っても国民の人気が高すぎるので、今でも全国民に王女として扱われている。王様的にはカズマを国王にして、女神を娶った強国ムーブをかましたいらしいが、宗教戦争になるので辞めた。
サトウカズマ
巻き込まれ体質の主人公。パーティーにトラブルメーカーしか居なかったので、ずっと気苦労が絶えなかった。と言ってもそのトラブルメーカーを嫁にしたので、英雄になった今もトラブルには事欠かない。
あるえ
実は常識人のサブヒロイン。創作活動時以外は常識人であり、需要を把握すべく紅魔族以外の常識も知ってる。ただしトラブルを止めようとしないので、どっちかと言うとトラブルメーカー。
メル
雷の精霊で非常識代表。悪戯が生き甲斐のクレイジーガールなので、勿論トラブルメーカー。
ウォルバク
常識人筆頭の女神。ただし加減を知らないスーパー魔法使いなので、結果的に問題を大きくする。歩くだけで少年達の性癖を歪めるので、PTAにはToLOVEるメーカーと呼ばれている。
エリス
常識的で可愛い女神。幸運の女神の力が時折トラブルに繋がるが、基本的には善良な常識人。可愛い。
……………………
「全く、王女様が平和な日々なんてフラグを建てるからこんな事に……」
「違いますよ?!いざ行かん日常回って言いながら走り出したあるえさんがぶつかったからですよ!あと、面白がって王女様って言うの辞めてください!」
そんな平和な日常を楽しもうと思った矢先に、この悲劇は起きました。お兄様の大切にしていた壺を、あるえさんが割ってしまったのです。これはかなり高価な品らしく、ウィズさんの店では買い取れなかったとか……
「どうしましょうあるえさん!こんな高価な品を破損するなんて、さっそく平和な日常じゃなくなってしまいましたよ?!」
「まったくアイリスは心配性だね。高価と言ってもカズマさんのコレクションだよ?そんな途方もない価値があるものなら、こんな無造作に置くわけがないだろう?」
あるえさんはそう言って棚の引き出しを漁っていますが、お兄様が鑑定書を保管するってだけで相当な逸品です。神器でさえ物干し竿に使うんですから、凄くハードルが高いと思います。
「さて、鑑定書のお値段は………いや、鑑定書なんて誰かが勝手に決めた物差しだ。こんなものに流されるのは辞めよう……」
「あるえさんの伸縮する物差しより信頼できますよ。結局いくらだったんですか?」
「……………25
億」
「えっと、0の数が間違ってるとか………」
「3回数えたから確実かな……」
あっ、どうしましょう本当です。間違いないようにくっきり書かれて、読み違える方が難しそうです。
「いやいや、いくらなんでも額がおかしいですよ。こういうのは変な鑑定士が面白がって発行してたり……」
『王族公認印』〈ミトメル〉
「どうやら王族の物差しも、伸縮自在で扱い難いみたいだね?」
どうしましょう詰みました。私の家が馬鹿と認めるか、それともこの膨大な金額を認めるか、どちらにしても私は詰みです。でも、それならまだ金額を信じた方がマシです。
「あるえさん……短い間ですけど、お世話になりました……」
「いや待って!私も本当は慌ててるから!アイリスも何か考えてくれない?!」
「ですが辞世の句も謝罪文も、文才的にあるえさんの方が……」
「明らかにカズマさんに毒されてるツッコミ!まだ諦めないで!私の為に知恵を出して?!」
それはちょっと複雑な気分ですが、でもここから入れる保険はありません。先ずはやってしまった事実を受け止め、25億分のエッチなお仕置きを受け入れるしか無いのです。まぁ、ちょっとくらいなら代わってあげても良いですけど……
「しかたない。取り敢えず謝罪文をしたためて貼り付けたから、ウィズさんのお店で解決案を探そう……ほら、一緒に行くよアイリス」
「あっ、これ最後まで付き合う流れなんですね……」
別に暇だから良いですけど、出来たら平和に過ごしたかったです。
……………………
「と言うことなんだけど、何か素晴らしいアイテムはないかな?」
さっきの状況をウィズさんに話したあるえさんは、またいつものテンションに戻っていました。これはお兄様にも言えることですが、この家の皆さんはもう少し反省が長くても良いと思います。特にめぐみんさんとアクアさんは、反省しているかも怪しいところです。
「それなら、この超浸透で超接着のスーパー接着剤がお勧めです!一滴垂らせば全面に広がり、ムラなく完璧な接着が可能な優れものなんです!」
「それは凄い!で、勿論欠陥があるんだろう?」
もはやこの流れはお約束ですが、これはつまり瞬間接着剤。しかも部品の全面に広がったら、間違いなく手にくっついてしまいます。既に商品としてアウトですけど、一応話は聞きましょう。
「勿論って言い方は辞めてください!まぁ、強いて欠陥を挙げるとしたら、空気に触れると0.2秒で固まっちゃうくらいかと……」
「それ、開けた瞬間に固まって終わりなんじゃ……」
「い、一応急げば使えないことも……無かったような気が……」
まぁ、何となく駄目な予感はしてましたけど、どうしてあるえさんはここに来たんでしょう。これもネタ探しってやつなのでしょうか?
「そ、そんな時はこの溶剤です!コレを使えば乾くのに2分!ちょっと浸透能力は下がりますが、これを混ぜればとても使いやすい筈です!!」
「流石はウィズさん!この商売上手め!」
「ふふん!私だって日々進歩してるんですよ!」
お二人が楽しそうなので言い難いのですが、それはもう倍のお金で普通の接着剤買うのと同じです。そして何より問題なのは………
「あるえさん。接着剤ではただ見た目を誤魔化してるだけで、なんの解決にもなってないですよね?」
「「………あっ」」
それについてはなんと言いますか、接着剤が出た時に気付いてください。
…………………
「成程。とても高価な壺を割ってしまったから、魔法でなんとか出来ないかと……」
「接着等の誤魔化しではなく、根本的な修繕が出来たらベストなんだけど……流石に都合が良過ぎるかな?」
あれからいくつかの魔道具を見ましたが、結局根本的な解決には至りませんでした。結局魔法に頼るべきだと、今度はウォルバクさんを頼っているのです。
「時間逆行の魔法で良いなら、出来ないことも無いけれど……」
「えっ?そんなこと出来るんですか?!」
「そりゃ、使えないとソフトクリームが垂れちゃうでしょ?横から舐めてると間に合わないし、角度間違えると落としちゃうし……」
「どう考えても横から舐める方が簡単だけど、流石はウォルバクさん!頑張り方がストイックだね!」
「そう言われると悪い気はしないわね!」
それはストイックと言うか頑張り方を間違えているだけだと思いますが、頑張ったら出来るようになるのは流石としか言えません。ですがこれで問題は解決、後は壺を直してもらえば、平和な休暇を楽しめます。
「取り敢えず1日戻せば良いかしら?」
「そうだね。壊したのは今日だから、昨日だったら問題は無いかな」
「それじゃ、時空間魔法発動!」
ウォルバクさんが両手をかざすと、バラバラになった壺の部品が徐々にその姿を取り戻していきます。これは下手をすると永遠の命さえ得られそうな魔法ですが、言葉にするとフラグになるので、取り敢えず私は見なかった事にするのです。
「あれ?元に戻った筈なのに、ここに小さな穴が残ってませんか?」
「あら本当ね?何故か穴には糸が通って……内側にテープで止めてあるわ……」
「成程。私は罠にハメられたって事か……」
その糸の先には結び目があり、おそらく何かに引っ掛けていたのでしょう。それにあるえさんが引っ掛かったのなら、確かに悪質な罠と言えます。ただ、実際には思い切り手がぶつかっていたので、それは言い訳として苦しいです。
「私の推理が確かなら、真犯人は間違いなくメルだ!ちょっと推理の詳細は省くけど、取り敢えず彼女を捕まえて来て、洗い浚い吐かせて責任を取らせよう!」
「他の方はこんなことしませんからね。とは言え高価な壺に穴を空けた罪、償ってもらう必要がありますね」
ただ損傷の9割はあるえさんですけど、きっと全部押し付けるんでしょうね。
………………………
「ごめんなさい……深く反省してますの……」
「あるえさんって、案外容赦ないですよね……」
リビングに大人しく正座するメルさんは、素直にいたずらを認めました。てっきり言い逃れをするかと思いましたが、流石に炎の渦の中心に入れられると、彼女も正直になるようです。
「しかしメルさん、どうして高価な壺を狙ったりしたのさ?こんな高価な壺を壊されたと知ったら、流石のカズマさんも許してくれないかも知れないよ?」
「もうそう言うスタンスなんですね……」
シレッと自分の罪をなかったことにしてますが、あるえさんは糸には引っかかってません。このまま全責任をメルさんに押し付ける気のようです。
「わたくしもそんなに高価とは知らなくて……それに仕掛けてる途中でカズマに見付かったので、悪戯は未完成だったとばかり……」
「未完成で私を陥れるなんて……流石はプロの悪戯師と言った所かな……」
「そ、そんな事が……わたくしも自分の才能が怖いですの……」
騙されてますよメルさん。まぁ、貴方も反省した方が良い方なので、私は何も言いませんが……
「しかし、これで犯人も捕まり壺も元に戻る。アイリスがフラグを建てた時はどうなるかと思ったけど、これでまた平穏な日々が帰ってくる訳だね?」
「そういう事を言うのもフラグだって、お兄様は言ってました。なんて、流石にこれ以上はないですよね」
魔王の倒された平和な世界。そこで繰り広げられる小さな冒険。英雄譚には語られないこんな日々も、たまには悪くないですね。
…………
「…………粘土と塗料まで戻っちゃった」
「「…………えっ?」」
なんて言うとこうなるんだって、お兄様が言ってました。えぇ、本当になるとは思ってませんでしたけど……
「ち、違うの!本当は1週間ずつ戻していたの!でも、魔法の最中にムズっとして、くしゃみと同時につい魔力が……」
「結構な年代物だと思ったんですけど、これ何年戻ったんですか?」
「……3000年くらい?」
「実質即死魔法じゃないですか!ソフトクリームの為にそんな魔法を?!」
女神の皆さんが桁違いなのは理解しています。ただ、ウォルバクさんだけネジの飛び方が違うんです。ウォルバクさんは魔法しか出来ないって言うより、魔法で何でも出来るから他が不要なだけなんです。
「…………この場合、わたくしの犯行など実質なかった事になりませんか?」
「確かに跡形もなくなってしまったら、私達の罪は測れないような……」
「誰かに死体を遺棄させたからって、殺人犯は殺人犯のままですよ……」
「どういうことなの?私、死体遺棄の犯人にされてない?」
お兄様に黙って画策した以上、ここに無実な人はいません。本当なら、私も直ぐにお兄様の元へ走るべきでした。ですが同じ家族の一員として、やっぱり揉め事は起こしたくないです。皆が仲良く平和に過ごせるなら、それ以上のことはありません。
「仕方ありませんの。絶対にカズマにバレてしまいますが、ここはエリスに相談しましょう!粘土を壺に戻すなんて奇跡、その名の通り奇跡を起こせる方にしか出来ませんわ!」
「そうね。これ以上の手は思い付かないし、エリスに頼る頃合いかしら……」
「頼ってどうにかなるかは賭けだけど、もう他に手も浮かばないしね……」
ちなみに我が家の風潮として、エリス様に頼るのは最後の手段です。幸運で何とかしてくれそうとか考える方もいると思いますが、エリス様の幸運はお兄様が最優先。何より1番の座を譲るつもりは毛頭なく、普通に運悪く蹴落とされる可能性もあるのです。
………………
「幸運で壺の再生は無理ですし、それ以前に先ずカズマさんに謝るべきかと……」
「「「「……仰る通りです」」」」
それ以前にまず常識人なので、こういうケースだと普通に叱られます。それでも敢えて相談するのは、何だかんだで面倒見が良いからです。
「でも、確かに粘土のままでは格好もつきませんし、これを壺にするお手伝いならしてあげます。当然ですけど、皆さんにもちゃんと働いて貰いますからね?」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
そしてここで別の宝物を作ろうって発想が出てくるのも、エリス様の強みだと思います。この前向きかつ程よくあざとい姿勢、見習わないとですね!
「じゃあ、私はアーネスとホーストを呼んで釜を作るわ!色付けとか器用なのはアクアかしら?」
「私はウィズさんの所からろくろを買ってくるよ!何故か沢山置いてあったし!」
「わたくしもお手伝いしますわ!あんなプロ御用達サイズ、絶対一人では持てませんもの!」
話がどんどん大きくなっている気がしますが、言い逃れるよりこっちの方が健全です。取り敢えず私もお兄様の作ってくれた粘土ヘラセットを持って参加しましょう。別にやましいことはありませんが、仲間外れは寂しいですからね!
……………………
「成程。それで壺が別物になってたのか……すみません。わざわざ来て頂いたのに……」
「「「「「大変申し訳ございませんでした」」」」」
それから3日間の格闘の末、遂に私達は壺を完成させました。でもこう言うのもフラグとなるようで、完成と同時に国家認定鑑定士に見付かってしまいました。入れ替えても直ぐバレたでしょうけど、お兄様に事前に連絡できなかったことは、私達の落ち度と言えます。
「大変申し訳ございません。国家認定の貴方が来たと言うことは、恐らく博物館への寄贈とかでしょうか?」
「えぇ、あれは大変素晴らしい逸品でしたから。とは言え、形あるものはいつか崩れ去るものです。今回は縁がなかったと思うことに致します」
言葉ではそう言っていますが、25億の品なんてそう簡単にはお目にかかれません。それを壊したなんて言われたのですから、本当は相当なショックを受けている筈です。
「しかし、そうなると目玉の展示がなくなってしまいます。アレだけ大々的に広告をしただけに、展示に穴を空けるのは何としても避けたいのです。そこで、宜しければこの新しい壺を展示に加えたいのですが……」
「これが25億の代わりになるかは分かりませんが、皆が良いなら俺は構いません。皆もそれで良いかな?」
「「「「「異議ないです」」」」」
と言うことで一獲千金とはなりませんでしたが、一応お兄様の面目は保たれました。ちょっとだけドタバタしてしまいましたが、これも平和な日々の1ページだと思うことにします。
「さて、来客も帰ったし…………取り敢えずメルはこっち来い。お前らはマジで反省させるから……」
「……はいですの」
………この先は私には関係ないので、平和な日々の1ページとしておきたいと思います!
………
「まさか私達の作った壺を見に行くだなんて、王女様は随分と物好きだね?他の展示は本物の国宝なのだから、隅っこに置かれて終わりだと思うよ?」
「良いんです。皆で作った工芸品なんですから、私にとっては特別なんです。それと、その悪ノリ王女様は辞めてください」
あの壺を買い取られてから3日後の朝。私はお兄様とあるえさんを連れて一緒に王都の博物館へとやって来ました。目的はあの壺を見ると共に、あるえさんに平和な日常の尊さを知って貰う為です。
「たまにはこう言うのも良いだろ?いつも小説のネタに刺激ばっかり求めてるけど、平穏を知るのも大切だぞ」
「そりゃ刺激に事欠かなかった人はそうだろうけど、私は博物館を楽しめるタイプじゃないかな……」
確かに刺激を求めるあるえさんには、静寂と真面目の権化である博物館は退屈かも知れません。それはお兄様も同じだと思いますが、来てくれた所に愛を感じます。
「安心しろ。俺もアイリスとあるえを見るつもりで来た」
「それじゃ私もアイリスを眺めてようかな……王族の優雅な日常が見られそうだし……」
「お願いですから展示を見てください。私なんてもう何時でも見られるじゃないですか……」
別に悪い気はしませんけど、許可すると四六時中、それも穴が空くほど私を見つめるから困ります。私にも羞恥心があるので、本当に四六時中の監視は辞めてほしいです。
「そりゃ少し位は展示も見るさ。ほら、あれが皆の作った壺で…………」
「「「………は?」」」
お兄様が見覚えのある壺を指さした所で、私達は3人揃って固まってしまいました。でもそれも仕方ありません。あの壺がメイン展示に飾られ、さらに市場価値120億なんて書かれていたら、誰だって固まるしかないのです。
「これはこれはカズマ様!この度は大変素晴らしい逸品を寄付して下さりありがとうございます!この壺のお陰で来場者は例年の50倍!お陰で閉館は免れそうです!」
「そ、それは良かったんですけど……どうしてあの壺にそんな値段が?!まさか原材料が高いとかですか?!」
「確かにあの粘土はかなり上質で、しかも歴史的価値も高いものでした。ですが、それだけでは数十万で終わりでしょう。この壺の真の価値はその陶芸家にこそあるのです!」
「「「………はっ!!」」」
そうでした!何となく家族でDIY感覚でしたが、我が家って偉人と女神の密集地帯じゃないですか!そりゃ変な付加価値も着きますよ!
「例の壺はエリス様とアクア様が作った合作で、その歴史的な価値は25億と判断されました。しかし!今回は更なる豪華メンバー!この壺にはとんでもない価値があるのです!」
「そ、それはちなみにおいくらで……」
「先ず!ろくろを回したのは我が国教の女神エリス様!前回の壺同様に、これだけでも15億の価値があります!」
つまり前回のアクアさん成分は10億相当。これは本人には黙っておきましょう。
「ですが今回は少し手元が狂ったようで、ここに小さな歪みがあります……」
「あっ、やはりそういう所はしっかり鑑定に反映されるんですね……そりゃ王国認定鑑定士ですし、そういう所はキッチリして……」
「ドジっ娘可愛いので加点5億!!」
「そんな馬鹿な付加価値が?!」
「解る!」
「お兄様も落ち着いてください!」
どうしましょう。王国認定の鑑定士が、なんか馬鹿なことを言い出しました。あなたの発言は王族の品位、つまり私の品位が疑われることになります。出来たら早々に口を閉じるか、もっとまともな事を発言してください!
「そして、壺のそこには小さな赤子の手形がありました。私の鑑定眼によれば、これはカズマ様とエリス様の子供の手……この世界唯一の女神と英雄の娘ですから、歴史的価値で更に+3億は見込めます」
「それは少なくない?あんなに可愛いのにそんだけ?」
「お兄様落ち着いてください。国宝に手形付けて加点される方が異常です」
と言うか鑑定眼ってそんな所まで見えるんですね。この人は今度から王国の要注意人物にも入れとかなきゃ……
「墨入れはアクア様とその配下の天使様が行っておりますが、これは10億と2000エリスの加算になります」
「天使は2,000エリスか…減点じゃないんだな……」
「それ本人の前で言っちゃ駄目ですよ?」
絶対に面倒なことになりますから。
「そしてこの壺のくびれ!上から見るとひし形に見えるくびれの部分!これは大変素晴らしい!」
「あっ、良かった。ちゃんと陶芸としての価値も見てたんですね……私はまた馬鹿なことを言い出すのかと……」
「このウォルバク様とアーネスさんが壺を炉へ運ぶ時におっぱいに挟まれて出来たくびれは、間違いなく70億の価値があります!」
「と思ったら一番バカな加点じゃないですか?!何なんですかその鑑定は?!」
「と申されましても、結局は金を出す人間が居るか否かの問題でして……」
「この国の貴族ってお馬鹿ばっかりなんですか?!」
「「まぁ、それについては否定出来ないけど……」」
「あるえさんとお兄様まで?!」
このままじゃ駄目です!このままではこの国の品位が疑われてしまいます!そう言うのは闇市で勝手に盛り上がるべきで、国営の博物館でやる事じゃないですよ!
「あと、開口部にも付加価値があり、その額は30億を見込まれてまして……」
「そ、そこを加工したのは私ですけど、権力に媚びるような付加価値など嬉しくありません!そりゃ愛されてるのは嬉しいですけど、それをこんな形で出されても……」
「アイリス様のちっちゃい手で握られたいと、大金を出すからこの部分で型をとらせて欲しいとの問い合わせが大量に……」
「…………そのリストは後でセナさんに送ってください」
そんな事に血税を使うお馬鹿な貴族は、深めに反省して頂く必要があります。
……………………
「で、結局あの壺は王様が買い取った訳だ。最初は博物館なんて退屈かなと思ったけど、中々楽しい催しだったね。王様の親バカっぷりも知れたことだし?」
「楽しみ方が間違ってます!まさか、あんな物に血税を費やすなんて……」
不敬ではあるが罪ではなく、裁けば独裁が疑われる。司法の力も特殊な変態には無力で、結局あの壺はお父様が買い取ったそうです。ちょっとくびれの部分を撫で回していた気もしますが、私の為だったと思うことにします。
「でも、そんなに悪い話ばかりでもないよ。ほら、今朝の朝刊をみてご覧?」
「えっ、銀髪盗賊団が久々に王都に……狙われたのは、あの鑑定士?!」
新聞の一面に大きく載っているのは、鑑定士の自宅から現金とお宝を盗み出す銀髪盗賊団の写真でした。今となっては正体を知っていますが、それを問うのは野暮と言うものです。
「そりゃ平穏な日々は尊いだろうけど、誰かの為に波乱に飛び込む人が居る。私達の波乱が誰かの平穏を作っていると考えれば、波乱に満ちた日々も悪くないんじゃないかな?」
「あるえさん……」
確かに日々のトラブルの影で、いつも誰かが救われています。そういう捉え方をすれば、確かに騒がしい日々も悪くは……
「…………今度は何を壊したんですか?」
「……マットレスと羽毛の枕」
「やっぱり!また私を緩衝材にしようとしてますね!そう言うのは自分たけで謝ってください!」
「今回だけ!今回だけだから手を貸して!私今月4回目なんだ!流石にそろそろヤバそうだから、アイリスの緩衝材効果を頼らせて!」
「お断りします!今日こそ平和な1日にするんです!!」
こんな日々を過ごしていると、自然と感覚がズレていくようです。今や私の平和な日常日記は、怪我人が出なければ良しとなりました。それでも日記を付けられるのは、1週間に2日くらいなのですが……
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
たまにはこんな日常回があっても良いとか考えつつ、刺激の不足も否めません。まぁ、刺激は次回で補充ってことで、またお暇な時にでもお付き合いください。