地味に好きだったサブキャラを、ほんの少しだけ深掘りしたい。そんな思い付きで過去へと飛ばすのが、この生き当たりばったりのストーリーです。
またお暇な時にでもお付き合いください。
剣聖。それは剣の道を極めし者。今はシェリーがそう呼ばれているが、その歴史はかなり古い。ベルゼルグ王国の建国直後から、剣聖の文化はあったそうだ。
「で、あんたがその3代目の剣聖だと……」
「あぁ、立ち会いで勝って継いだ名前だ。負けるまでは俺が剣聖って事になるな」
目の前に広がる広大な草原と、少々作りの古い王都の城壁。そして、目の前にいるのが3代目の剣聖となれば、嫌でもこの状況が分かると言うものだ。
「うん、これ絶対タイムトラベルだわ……」
恐らくこの世界初のタイムトラベルは、この世界でもっとも下らないタイムトラベルになった。どうしよう。これはどうやって帰れば良いんだろう。
…………キャラ紹介…………
サトウカズマ
魔王討伐の英雄にして、大人の世界では聖剣と呼ばれる男。剣聖ではなく聖剣。なお、聖剣なのは下半身であり、別に剣技が凄いとかじゃない。神器によりタイムトラベルをして過去に来たが、トラブル慣れしていてこの余裕である。
エリス
古今東西で最も可愛い女神。神器の作用でタイムトラベルしてしまった。歴史が変わると厄介なので、この時代の自分に助けを求めようか考え中。
アイリス
古今東西で最も可愛い姫様。カズマの側に居たのでタイムトラベルに巻き込まれた。剣聖候補だったのだが、聖剣ビームは剣技じゃないと却下された。なお、却下した貴族はシンフォニア家から嫌がらせを受けて没落した。
3代目剣聖
歴史上の人物。剣の腕は歴代剣聖でも群を抜いていたとのことだが、素行に問題があって情けない話ばかりが後世に伝わっている。
…………ってことで本編…………
「ここ何処?!」
眩い光が晴れた先には、見覚えのない緑の平原。遥か遠くに見える石造りの城門からして、一応は人里の近くらしい。神器が光ったので何事かと思ったが、取り敢えず天国とかじゃなくて良かった。昔の剣聖に文句を言うために死んだなんて、流石に対価が大き過ぎる。
「地形だけで判断するなら、王都近くの平原にも見えますが……」
「でも、あんな石を積んだだけの城壁、ベルゼルグ王国には残されてませんよ?」
「つまり昔はあったってことだよな……」
しかし、そうなると考えられるのは2つだ。過去の剣聖が悪霊となって、何処かの国に存在するケース。そして、俺達が過去へと飛ばされたケースだ。ちなみにこれがフラグとした場合、大抵は悪い方が正解になる。
「おい馬鹿共!お前らなんて所に居るんだ!!」
などと考えを巡らせていたら、突然声を上げて走ってくる騎士。それだけなら素直に話をすべきだろうが、問題は相手が抜刀していることだ。こちらが武器を抜いていないのに、抜刀して駆け寄るのは流石にヤバい。
「け、剣を納めなさい!騎士や衛兵であろうとも、無抵抗な人間に抜刀など許されません!」
「あぁうん。それ今度クレアにも言って?」
「今家臣への愚痴を零すタイミングでした?!」
だってアイツ直ぐに抜くじゃん。感情的になると直ぐ抜刀して、冒険者にヤバい女と思われてんじゃん。
「悪いが、それは聴けん相談だ!!」
「くっ!ならば迎撃を!!」
真っ直ぐに走ってくる鎧の騎士へ、聖剣を抜いたアイリスが迫る。高レベルなソードマスターの聖剣持ちなんて、まともな人間なら相手にもならない。彼には彼なりの都合がありそうだが、それは縛り上げてから聞くことにしよう。
「すまんな嬢ちゃん。今は剣の稽古をする暇はないんだ」
「へっ?!」
アイリス渾身の一撃に対し、その騎士は剣先で軌道を変える。普通に受ければ勢いが衰え、アイリスも2の太刀を振るえただろう。しかしその一撃は勢いを失わず、トップスピードのまま空を切った。その流れる様な剣捌きは、まさに神業と言って差し支えない。
「カズマさん!8時方向!」
「8時?!」
正面から迫る騎士を前にし、エリスから突然方向の指示。普通に考えれば迎撃優先。しかも化物地味た実力者とくれば、脇見をすることさえ考えられない。だが、そんなセオリーなんてどうでも良いくらい、俺はエリスを優先する。エリスがそう判断したのなら、そっちが上手くいくルートって事だ。幸運の女神がそう言うんだから、疑う余地など何処にもない。
「良い目だ!俺は左をやる!」
「左って……アレか?!」
そうして咄嗟に振り返った先、遠くに見える城壁から、3本の槍が迫ってきている。それは余りにも高速で飛来しており、恐らくは攻城兵器から放たれたもの。歩兵に向かってバリスタを放つとは、随分と治安の悪い国らしい。
「『パワースラッシュ』!」
「『スティール』!からの、『投擲』『デスブリンガー』!!」
俺は咄嗟にスティールを放ち、飛来する槍の一本を掴む。そして、スティール発動と同時に投擲姿勢を取った俺は、手の重さと同時に投擲を放つ。投げられた槍は必中スキルで3本目に当たり、砕けながら地面へと落ちた。ちなみに走ってきた騎士の足元には、既に真っ二つにされた槍が落ちている。
「驚いた……こちらで2本落とすつもりだったんだが、随分と手練れだったようだ」
「こういう状況向きのスキルがあっただけだよ。それで、これはどういう状況なんだ?」
「それを話す前にさっさと走るぞ。ここは交戦区域に入っているんだ。また次の槍に狙われたくないだろ?」
「いやそれは真っ先に言えよ?!」
俺達はこの状況を脱するべく、騎士と一緒に街道へと走った。殆どもうネタバレされたようなものだが、多分この人が剣聖なんだと思う。
…………………
「成程。つまりお前達は未来から来て、帰り方が解らないって事か……まぁ、勇者の神器ならあり得なくもないか……」
こうして俺達は三代目の剣聖と出会い、ギルドの酒場で冒頭の話へと戻る。取り敢えず確実に言える事は、神器って本当にクソだって事と、それはこの時代でも同じってことだ。
「すみません……本来なら所有者にしか発動できないアイテムなのですが、調整の為か女神なら扱えるようで……」
「エリスが悪いとは思ってないよ。何なら、願望を話したのは俺だしな」
だが、これは一体どういう状況なのだろう。三代目剣聖には会えた訳だが、だからって帰れるような感じもしない。そもそもダンジョンメーカーって神器なのだから、ダンジョンが現れなきゃ何も始まらない。こんな手掛かりもなくタイムトラベルするなんて、こういう試練とか言わないだろうな?
「カズマの状況には同情するが、そういうのは魔道士の領分だ。1杯奢って貰ってから言うのも心苦しいが、俺はこれで失礼させて貰う」
「気にすんなよ剣聖。あんたには十分救われたぜ?」
俺は剣聖へ笑顔を返し、それとなく気にするなと伝えた。クールなベテラン冒険者であれば、それだけで色々と伝わるものだ。ちょっとクール過ぎる気もするが、今の俺達にはこれで丁度良い。
「じゃあ、俺達も手掛かりを探しに行こうか……」
「あっ、あのお客様?!」
「分かってるよ。釣りは要らないぜ?」
俺はテーブルに5,000エリスを置き、そのままクールに背を向ける。ここが過去の世界であるなら、俺は悪評も気にせずクールな冒険者になれるって訳だ。
「いや、これ偽札ですよね?」
「……………あっ」
そう言えば過去の通貨って、今と同じとは限らないよな……
…………
「で、皿洗いから1日でシェフってか?お前本当に何者なんだよ……」
「料理は少し得意なんだよ。間違いなく戦闘よりもな」
お詫びの皿洗いからスピード出世した俺は、ギルドで日銭を稼ぎながら情報を集めている。料理のレベルが低い時代なら、俺の料理には高値が着く。更にエリスとアイリスと言う可愛いウェイトレスまで居たら、繁盛しない理由がない。昨晩からギルドの酒場は満員御礼で、俺達の賃金も弾んでもらった。
「で、剣聖さんは朝から外食か?やっぱそれなりに儲けてんだな?」
「そりゃ冒険者としても最高クラスだからな?飯作る暇がありゃ鍛錬して、魔物倒すほうが手っ取り早い。おっ、マジで美味いなこれ……」
朝から鍛錬って正気かよ。背丈ほどある大剣なんて、振り回すだけで重労働だ。しかも剣聖にまで至ったと言うのに、まだ鍛錬を続けるのか……
「………なぁ、アンタはどうして強くなったんだ?やっぱ魔王討伐とか目指してるのか?」
「馬鹿言うな。敵国の長を討ち取ろうなんて、勇者かアサシンのやることだ。俺が剣を振るうのは、憧れちまったからだ。強くてカッコいい騎士団長にな……」
そう言って遠い目をする剣聖は、まるで夢を語る少年のようだった。そりゃ男子として気持ちは分からなくもないが、それで頑張り続けられるのは素直に凄いと思う。
「信じられるか?グリフォンをたった1人で斬り伏せちまって、帰ってくるなりパレードみたいな人集りが出来るんだぜ?若い女が我先に駆け寄って、黄色い声援でお出迎えって訳だ」
「確かにそんなのを身近で見たら、憧れるのも分かる気がするな……」
その騎士団長ってのは、多分俺達の世代で言う御剣みたいな奴なんだろう。御剣に憧れてる子は沢山いて、玩具の魔剣グラムは飛ぶように売れたもんだ。
「だろ?しかも若い女は色気を出して、玉の輿に乗ろうとアピールしてんだぜ?そいつらを余裕の笑みで躱して、王都1の踊り子を嫁に……」
「待て。なんか方向性が狂ってきてないか?お前は騎士団長に憧れたんだよな?!」
「そりゃ女にモテるからな!」
「いやそっちが主目的かよ?!」
駄目だコイツ!頑張る事は凄く立派だが、その理由が流石に俗過ぎる。と言うかそういう面は隠せ!モテたいならそこはクールで居ろ!
「だが、俺の顔じゃそうはならなくてな。褒めてくれるのは依頼人とギルドの奴らだけで、惚れてた姫様にも逃げられちまった。俺の夢に必要だったのは、剣じゃなくて顔だったみたいでな………」
「剣聖……」
こいつの性格にも問題はあるが、それでも俺は同情してしまう。コイツはこの国最強の剣聖であり、もし顔がそれなりだったのなら、それはもう多くの人から愛されただろう。そこまで必死で努力をしたのに、顔でNGは流石に可哀想に思える。
「まぁ、だとしても俺は鍛錬を辞めない。理由は分かるか?」
「それが剣聖の誇りだからか?」
「いや…………俺が剣聖で有り続ける限り、イケメンの剣聖は絶対に産まれないからだ!」
「そういう所が駄目なんじゃねぇかな?!」
別に悪い奴じゃないんだろうけど、そういう所が人気を落とす原因だろ。まぁ、俺も人のこと言えないけど……
『緊急クエスト!緊急クエスト!城壁の南に大量のモンスターが出現!手の空いている高レベル冒険者と騎士は、至急戦闘に参加してください!』
「…………へぇ」
「へぇって、お前は行かなくて良いのか?!こういう時は真っ先に頼られるんじゃ………」
「嫌だね!ギルドは俺のファンをでっち上げて、浮かれた俺を高難易度クエストに送り出したんだ!しかも一度じゃなくて3回もだぞ?!俺の純粋な心を裏切っておきながら、都合良く助けてやると思うか?!」
「そ、それについては謝ったではないですか!!」
「「謝って許される事じゃないだろ!!」」
「なんでカズマくんまで?!」
流石にそれはショックもデカいし、ギルドの信用にも関わる問題だ。剣聖の気持ちも良くわかるし、ギルドは痛い目を見た方が良い。
「3回引っ掛かるのもどうかと思いますが……」
「辞めろアイリス。男子ってのはそういう生物なんだ」
主に俺とコイツみたいな人種は!!
「大変です!現れたモンスターは高レベル個体が多く、既に農業区画まで侵入を許している状態です!ギルドにまだ残存戦力があるなら、直ぐに援軍に向かってください!」
「民が苦しむかも知れない状況なら、私が援軍に向かいます!」
「なら、私とカズマさんも向かわないとですね?」
「愛する妻の頼みとあっちゃ、断る訳にはいかないな……」
本当は剣聖の働きに期待して居たのだろうが、そんな溝があっては無理強いは出来ない。俺達も一応高レベルなので、少しだけ手を貸してやろう。ここが過去の世界であるなら、歴史が変わる可能性もある。
「農業区画なんて殆ど人は住んでねぇ。カズマが現地に駆け付けても、畑の為に命を張る事になるぜ?」
「俺が戦うのはエリスとアイリスの為だ。そんで、俺は戦いに行くんじゃなくて、ヤバかったら2人を抱えて逃げる為に行くんだよ」
「そうかい。なら勝手にしな……」
「あぁ、そうするさ……」
そう言って俺達はギルドを後にし、その脚で農業区画へと向かった。
…………………
「って感じでクールに別れたら、普通は良いとこ見せるもんだろ?!」
「そんな余裕があるように見えるか?!」
と格好つけるまでは良かったのだが、俺達は根本的な問題を失念していた。魔物を倒すのは容易であっても、それが野菜との混戦だと話は変わる。アイリスの聖剣で吹き飛ばそうとすると、応戦している野菜も無事では済まない。住民の生活を圧迫するとなれば、アイリスは聖剣を抜く事が出来ない。
「お兄様!流石にこれ以上増えると野菜が押し切られます!」
「良し分かった!アイリスはエリスと城門まで行ってエクステリオンを放ってこい!こっちの前衛は剣聖がやる!『隠密』」
「あっ!カズマこの野郎!心配するんじゃ無かった!!」
何となくそんな気はしていたのだが、剣聖はやはりお人好しなのだろう。遠くから眺めていれば良かったものを、俺の側に来たのは明らかに手助けの為だろう。そういう事なら、俺は遠慮なく頼らせて貰う。
「まったく……前衛は俺が務めてやる!下手な援護するんじゃねぇぞ!」
「任せとけ剣聖!安全地帯じゃ俺は最強だ!絶対に俺に通すんじゃねぇぞ!」
「それなんの自慢にもならないからな?!」
…………………
「街への被害が殆どないとは、これは報酬になります」
「あ、ありがとうございます……私本来渡す側なんですけど……」
俺達の……主に剣聖とアイリスの活躍により、街への被害は殆ど無かった。と言うことで、ギルドは特別報酬を用意した訳なのだが、それで終わらないのがこの世界である。
「ふざけんな剣聖!俺達の作物がメチャクチャじゃねぇか!」「早く行けばこうはなってねぇだろ!」「無駄に勿体ぶりやがって!」
皆の為に戦った剣聖へ、容赦なく向けられる非難の声。農業を生業とする人々にとって、野菜の被害は生活に関わる。そのやり場のない怒りの矛先が、剣聖に向けられているという訳だ。
「言われっぱなしで良いのか?本来なら戦う義理なんて無いはずだろ?」
「言いたい奴には言わせとけ。嫌われるのには慣れてるよ」
この諦めにも似たこの感じは、以前俺も感じた虚無感だろうか?デストロイヤーを破壊して捕まるとか、ベルディアを洗い流して借金まみれとか、嫌な記憶が蘇ってくる。そうだな。あれだけ盾に使ったんだ。今回ばかりは盾役を交代するとしよう。
「おい、剣聖はお前達の為に戦ったって忘れたのか?本当なら無視しても良かったのに、街の為に命を賭して戦ったんだぞ?そんな相手に向ける言葉が、こんな八つ当たりの言葉なのかよ?」
「そ、それは……」
魔物は全て討伐したが、それで野菜が戻るわけじゃない。被害を受けた農家からすれば、やり場のない怒りもあることだろう。だが、それを剣聖にぶつけて良い筈はない。そりゃ確かにピーマンばかり被害を受けていた気もするし、剣聖がピーマンを嫌っているのも間違いない。でも、だからってそんな面倒かつ高度な嫌がらせをするなんて事はないはずだ。こればっかりは無いと信じたい。
「ギルドマスター。当面の間はピーマンによる剣聖除けは難しいかと……」
「くっ……合法的に嫌がらせできた唯一の方法が……」
「……しゃっ!」
いやごめん!ギルドも剣聖も想像以上に馬鹿野郎だった!ピーマン農家さんは怒って良い!
「ですが、あの乱戦の中でピーマンとモンスターだけを斬り伏せたんですよね……」
「やはり実力は本物のようです……それを正しく使うかは別として……」
ただ実力を正しく使えないなら、それはもう剣聖と呼んじゃ駄目な気がするけどな……
………………
「何となくフラグな気がしたけど、こういう時の勘だけは当たるよな……」
モンスターの出処を調べたところ、そこにあったのはダンジョンメーカー。小さな洞窟に置かれたそれは、今も大量の魔物を生み出し続けている。転送直後に見つからなかったのは、これが挑戦を促す魔道具だからだろう。出落ちでクリアしても殺されても、勇者が育つ事にはならない。
「しかし、何故モンスターが出現しているのでしょう?ダンジョン攻略させる魔道具ですよね?」
「恐らく攻城戦や対軍隊の訓練も出来る仕様なのだと思います。何故かそういう機能は充実させる傾向にあるので……」
「神々を見てきたから言えるんだけどさ。天界はもっと審査機関とか設けたほうが良いと思うぞ……」
とは言えこの状況はまずい。放っておけば街が襲われてしまうが、俺達で倒すには数が多過ぎる。アイリスの聖剣で吹き飛ばす手もあるが、ダンジョンメーカーが壊れたら未来に戻れない。軍隊相手に縛りプレイとは、どんだけ容赦がないんだダンジョンメーカー。
「で、あの中に必要なものがあるのか?」
「あぁ……って剣聖?!なんでお前まで来てんだよ?!」
俺達の調査はギルドにも言わず、しかも早朝に街を出てここまでやって来た。今のところ目立った被害は出て居ないが、過去が変われば未来も変わる。混乱や死人など起きようものなら、帰る未来が無くなるかも知れない。だから黙って来たというのに、どんだけ間が悪いんだコイツは……
「早朝は憲兵も少なくてな。共同浴場を覗くなら朝が好機なんだ。そこをカズマ達が通り掛かってな?」
「剣聖って審査基準に剣技以外無いんですか……」
「まぁ、一騎打ちで勝てば継げる制度ですからね……」
エリスとアイリスは呆れ顔だが、恐らく剣聖はそんなことしていない。鎧と武器を身に付けて覗きなんて、逃げるのに邪魔でしか無い。恐らくは俺達の事を案じて、早朝からダンジョンメーカーを探していたんだと思う。
「次々と魔物が湧いてくる魔道具か……なら、あまり時間をかけるべきじゃないな……」
「お、おい剣聖?!」
剣聖は俺達の判断も待たず、剣を抜いてゆっくりと前へ進む。目の前には途方もない数の魔物の群れ、こちらはたった4人の冒険者。普通に考えたら勝ち筋など無く、ただの自殺に見えるだろう。だが、剣聖の背中に恐怖など見えない。
「行くぜカズマ。今回は本気で手を貸しやがれ!」
「しょうがねぇなぁ!エリス、支援魔法を頼む!アイリスは剣聖のバックアップだ!剣聖を絶対に死なせるな!」
「「はい!」」
「そりゃ俺の台詞だ!しっかり守られて生き残れ!」
真っ直ぐこちらへ向かう大量の魔物を、剣1つで斬り伏せる剣聖。その太刀筋には一切の無駄がなく、最高効率で敵を斬り伏せる。これが最強の剣士と呼ばれる剣聖、一切減速せず斬り伏せ続けるなんて、マジで人間業じゃない。
「『アイシクルランス』3連!『狙撃』!!」
「やっぱり俺の死角が視えてやがる!カズマ、お前本当は相当なベテラン冒険者だろ!」
「暴走する馬鹿には合わせ慣れてるんだよ!大変不本意だけどな!!」
剣聖が軍隊に大穴を開け、取り逃がした敵を俺が叩く。あらゆるゲームで学んできた理想が、剣聖と一緒なら自然と刺さる。恐らくこれこそが剣聖の凄さ。何度とない死(ゲームオーバー)を経て身に付けた技を、こいつは生身でやってのけている。
「あぁクソ!これでお前ともお別れか!こんなに息の合う馬鹿野郎はきっと二度と出会えねぇってのに!」
「悪いな剣聖!俺には帰る場所があるんだ!でも、お前のことは絶対に忘れない!」
熾烈な戦いの中で感じた一体感は、どこか友情の様にも感じられた。戦いの中で感じる疲労も、痛みや恐怖の感情でさえも、何故か充実感だと思えるくらいに……
「さて、最後の砦はレッドドラゴンだが?」
「はっ!今の俺を……いや、俺達を止めるにゃ不十分だろ!」
「言うと思ったよ!『エクスプロージョン』!」
「『ルーンオブセイバー』!」
ザシュッ
まるで少年誌に描かれた冒険譚のように、4人の冒険者が軍隊を破る。語れば絵空事の様に思えるだろうが、事実とは実にシンプルなものだ。ただ俺達には刃が届かず、剣聖の刃が先に届いた。ただ基本的な剣士の勝ち方を、数百と繰り返した結末がこれだ。
「助かったよ剣聖。やっぱりアンタはマジの英雄だ。多少スケベで馬鹿だったとしてもな?」
「スケベでバカはお前もだろ?でも、カズマに言われんなら悪い気はしねぇわ……」
俺達はダンジョンメーカーを手に取った所で、少しだけ互いの顔を見合わせた。馬鹿な英雄2人の冒険譚は、即クライマックスの後に打ち切りになる。
「さて、ダンジョンメーカー。今度は俺達を未来へ送ってくれ。剣聖には文句を言ったし、次はこの魔道具を作った奴に文句を言ってくる」
「本当、人騒がせな魔道具でしたね……」
「まぁ、たまには良いんじゃないでしょうか。カズマさんに、かけがえのない友達が出来たみたいですし……」
魔法陣が俺達を囲み、足元から光が溢れだす。唐突に始まった時を渡る大冒険は、終わる時もまた唐突に終わろうとしていた。
「そうだ剣聖。あんたの名前を教えてくれ。ずっと剣聖なんて呼んじゃいたが、それは名前じゃないよな?」
「いや知らなかったならさっさと聞けよ?!これでも二つ名持ちの大剣豪でな。チート持ち勇者を剣技のみで下し続けた俺の名は…………
勇者殺しのベルディアだ」
「「「…………へっ?!」」」
剣聖の名乗りを聞いた所で、俺達の空気が一瞬凍った。その名前は確かに魔王軍幹部、何なら二つ名もそのままだった。
「くそっ!さっきエクスプロージョン撃ったから魔力が!アイリス、あいつを聖剣で吹き飛ばせ!!」
「えぇ!さっきまで友情が芽生えてましたよね?!」
「そうだぞカズマ?!さっきまで俺達の友情は不滅って流れだったろ?!」
「知るか!お前のせいで俺は借金地獄を味わったんだ!友情なんてあるかクソ野郎!!」
「酷い!俺また人を信じられそうだったのに!俺の知らん理由でそんなのあんまりだろ?!」
俺達の友情は儚くも散り、別れ際には暴言が響いた。後々調査を実施した所、ベルディアが人々を裏切ったのは、その言い合いの直後だったらしい。ちなみに早朝の覗きもしていたようで、やっぱりクズなのは間違いなかった。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
ベルディアとか地味に好きなんで、シレッとネタにして1話書きました。
また日常編を垂れ流すので、お暇な時にでもお付き合いください。