夏といえば素麺、そして素麺と言えば流し、そんな空気で思い付いた1話です。
またお暇な時にでもお付き合いください。
夏の暑さを乗り切ろうとした時、諸君らは何を考えるだろう。科学文明があればエアコンが使えて、魔法文明があれば冷気魔法って手段もある。だが日本人ならば、もっと風情のある方法が望ましい。
「と言うことで、第1回流し素麺会を開催します!」
「「「「おぉー!」」」」
そんな理由で集まれちゃうのが、いつものカルテットな仲間たちである。
…………ネタを消化する用のキャラ紹介…………
サトウカズマ
誰もが知る英雄であり主人公。夏の暑さに負けないようにと、健康的な納涼を求めた。しかし、この世界は流し素麺も一筋縄にはいかない。
ナツキスバル
死に戻り系主人公。最近仕事が一段落したので、休暇ついでに遊びに来た。エミリアを労うのも目的の1つ。素麺に謎のアレンジを加えるチャレンジャーだが、今回はそんな遊びを挟む余裕などない。
ターニャ・デグレチャフ
最近また忙しい幼女系主人公。過酷な戦場にばかり居るので、こうしてこの世界に羽休めに来るのが楽しみになっている。今回は来るんじゃなかったと後悔している。
鈴木悟
骨系ダークヒーロー主人公。ダークヒーローの癖にノリツッコミも出来る常識人。実は一番人間が出来ている気がするが、カルマ低い設定を思い出すとまた残酷な魔王になる。なお、振る舞わされる側になると弱いので、今回はしっかり辛い目にあう。なお、飯を食うために本日は人間の姿でお送りします。
……………ってことで本編…………
「流し素麺機って……なんでこんなものがこの世界に?」
ウィズの店の返品処理を手伝っていたら、何処かで聞いた名前が目に入った。素麺はこの世界でも作られているのだが、流し素麺は聞いたことが無い。何より装置の見た目がピッチングマシーンのようだったので、余計に目を引いたのだと思う。
「あぁ、それは転生者が作った数十人が一緒に楽しめるアイテムだそうだ。だが、水流やコース生成も魔力で行う為、常人では起動することさえ出来なくてな。故に倉庫で埃を被って、魔道具の墓場まで流れてきた訳だ」
「バニルさん?確かに私達はアンデッドですが、ここは墓場では無いんですが……あの、なんでカズマさんまでそんな悲しそうな顔を?!」
普段なら訳あり商品を警戒するところだが、流し素麺機なら懸念はないだろう。何せ起動不可って欠陥が明らかなのだから、それより先を心配する必要がない。と言うことで、その時の俺は即決だった。
…………
「で、出来たのがこの長いコースか……日本のバラエティが好きそうな魔道具だな……」
「涼を感じるには見た目も大事だ。だから、こういう遊び心も悪くないだろう」
「あぁ、少し派手な方が盛り上がるしな。アクアの犠牲に感謝しよう……」
「うぅ……魔力を凄く持っていかれたわ……」
スバルとターニャ、アインズの反応からも分かる通り、起動した魔道具はアスレチックのようなコースを生成した。それは素麺を流すというより、水を用いたジェットコースターのコースに見える。これを魔力で生成するとなれば、人では厳しいのも仕方がない。エンターテイメントに拘った結果、予算がかかるのは世の常である。
「素麺とは、小麦で出来た細麺を茹でたもの。それを良く冷やし、出汁と醤油を合わせた汁に浸して食すのが、日本の夏の定番なのさ」
「いや、なんで呼んでねぇのにエキドナが居るんだよ……」
「ふっ、無理にでも出てくればレギュラーっぽくなるだろう?そうすれば、君達はボクを雑に扱えない訳だよ!」
どうやら強欲の魔女様はお暇なようで、割り箸をカチカチしながらドヤ顔をしている。以前少しばかり酷いことをしたので、素麺くらいは奢ってやろう。
「そして、流し素麺ならば上流の方が獲得チャンスが多く。開始直後のカーブに陣取ることで、減速した麺を確実にすくい取れると言うわけだ……さぁ、早く麺を流してくれたまえ!」
「あっ!ズルいぞエキドナ!一番上流は初体験のエミリアたんだろ?!」
「そんな事で喧嘩するなよ。沢山あるから、仲良く食えって……」
パァン!
「ごふっ!!」
スバルとエキドナの微笑ましいやり取りの最中、何故かエキドナがエビのように後ろに跳ねた。その腹部には白い塊がめり込んでいて、原因が何かは明らかだ。
「ば、馬鹿な……ボクの知る素麺は……こんな速度では流れて来ない……」
「安心しろ。それは皆が感じた感想だ……」
「くっ……まさかボクを……出落ちキャラに……がくっ」
「エキドナー!!」
「いや自分でがくって言ってんじゃん。実はノリ良いよな強欲の魔女……」
「それよりも問題はこっちの方だろう……なんだこの流し素麺機は……」
スバルとエキドナの寸劇はさておき、確かにこの魔道具は何処かおかしい。明らかにコースアウトするような勢いで素麺を発射するなんて、流し素麺機にあるまじき威力だ。
「カズマさん!この機械、裏側に流し素麺奉行って書いてあるよ!!」
「そんな……まさか危険だからと紅魔の里から売りに出されたあの魔道具が?!」
あるえからまさかの出処が判明したわけだが、紅魔族関係だと尚のことヤバい。あの里を作ったのがあの転生者で、現代の職人がひょいざぶろーさんなのだから、良い方に転ぶ理由など皆無だ。
「我を知る者が居るとは……どうやら黙っている必要はないようだな……」
「えっ?何この魔道具喋るの?!」
ただでさえ厄介な魔道具なのに、そんな個性は要らないんですけど?!
「我は清く楽しく流し素麺をするべく生み出された存在!我が前で不敬な行いをすれば、容赦なく制裁を下すのが我よ!さぁ、正しく流し素麺を味わうが良い!」
「くっ!まさか流し素麺さえ大人しく食えないなんて!」
「何処までも馬鹿な世界だなここは!」
「また私の世界への風評被害が?!」
「いや、これが増えたところで誤差だと思うぞ?」
異世界メンバーには好き放題言われているが、確かにこれは厄介が過ぎる。流し素麺なマナーだなんて、どこへ行ったら習えるんだ?
「どうやら真の女神の教養を見せる時みたいね……天使、手伝いなさい」
「はい!アクア様!」
「えっ?お前ら2人が何とか出来るの?」
唖然とする俺たちの前に、アクアと天使が歩みを進める。その手には調味料や食材があり、何故かカセットコンロまで準備されている。どうしよう。すでに嫌な予感しかしない。
「先ず、このガレオン船さえ沈める大昆布を1切れ水へ……そして、お湯を沸かしながら山の中で見付けた天然の鰹節を削るわ」
「産地と背景が色々とおかしいが……アクアは美食家として素麺に向き合うと言うわけか……」
「奉行って言うくらいだから、その手は有効な気がするな……」
「なんか美味◯んぼみたいなノリだけどな……」
正直馬鹿みたいな光景に見えるが、精霊の冬将軍に土下座が通じるのがこの世界。流し素麺を仕切るゴーレムに、グルメ漫画のノリが通じる可能性だってある。
「そしてその汁を魔法で冷やして、ネギと練りわさびを加えて頂けば…[パァン!]…ぎゃふん!」
「アクア様?!くっ!やはりワサビが伊豆産では無かったから……」
「いや、普通に麺が伸びるからだが……」
「なら最初からツッコんで貰えます?!」
何という正論。そりゃ突然クッキングを始めようものなら、茹でた素麺は伸びてしまう。それに、万が一語るタイプが許されるなら、エキドナが出落ちになる事も無かった。にしてもその伊豆への信頼感は何なんだ?神様はどんだけ伊豆が好きなんだ。
「アクアさんでも駄目と来たら、どうやら私達の出番みたいだね?」
「出来たら私は遠慮したいよ……」
「なんで2人ともバレーボールユニフォーム?!」
アクアが何も出来ず脱落した直後、何故かバレーボールユニフォームに着替えたあるえとゆんゆんが前にでる。もはや素麺とは全く関係ない気がするが、何となくやろうとしてる事は分かった。
「どんなに速い弾道であっても、勢いを殺せばそれは素麺。私のレシーブで見事受け止め、しっかり食べてあげようじゃないか!」
「へぇ、それは悪くない考えだわ。アインズ様の素麺は、私の素肌で受け止めてみせる!!」
「なら私はもう離れて良いよね?!」
何故かあるえとアルベドが意気投合し、ゆんゆんを押しのけてアルベドが前に。たしかにアルベドの防御力なら、あの素麺だって耐えられる気がする。あるえは防御力こそ無いものの、柔らかな包容力があるので期待しておこう。
「ふざけるな!!それが素麺の楽しみ方か?!」
「私はアインズ様の為、素麺女体盛りを再現するのよ!!」
バァン!
まるで豪速球を受けたかのような、乾いた音が辺りに響く。思い切り打ち出された素麺の一撃は、アルベドの身体を1mほど後ろへ下げた。しかし、それでも歴戦の猛者は倒れず、アルベドの谷間には、一束の素麺が乗っかっていた。
「ふっ……素麺奉行なんて、私の愛の前には大した脅威では……」
パパパァン!
「ごふっ!!そんな……トリプルバーストなんて……」
バタッ
「アルベドー!!」
余りにも残酷かつ無慈悲な連打で、アルベドの素麺は地面へと落ちた。食べ物を無駄にするのもどうかと思うが、それ以上に素麺の威力が化け物じみている。このスペックは何と言うか、暗殺用なのではと疑いたくなるレベルだ。
「アルベドさんの犠牲は無駄にはしないよ……さぁ!今度は私が相手をしようか!!」
「だから素麺で遊ぶんじゃない!!」
パァン!!
再び打ち出された危険な白球は、真っ直ぐにあるえの胸へと向かう。普段なら谷間で受け取れそうだが、今回のこれはそんな次元ではない。アルベドが吹っ飛ぶ豪速球なんて、まともに受けたら間違いなく大怪我だ。ちなみに遊ぶなっていう奴が素麺を発射しているわけだが、そこは誰もツッコまないらしい。
「ふっ……かかったようだね!素麺奉行!!」
「なっ?!風魔法による減速だと?!」
あたかもバレーボールの技術で受けるかのように見せつつ、その本命は得意の魔法。自然とフェードアウトしたゆんゆんの右手から、激しい強風が素麺を襲う。
「十分減速されていれば、私でも十分に受け止められる!!そのまま頼むよゆんゆん!」
「任せて!!」
「くっ!まさか2人がかりだと?!」
何だこの激しいバトル展開。素麺マシンと紅魔族のガチバトルなんて、納涼目的に発生していいものじゃない。今回の原因は俺だから黙っているが、いつもなら直ぐに帰らせる所だ。
「膝は柔らかく……弾道は真っ直ぐ……そして正面で………って熱っ?!!」
「馬鹿め!!受け止めて食すつもりと分かっていながら、素直に締めた麺を発射するものか!それは茹でたて熱々の素麺だ!!」
「くっ!騙し討ちとは……君にはプライドが無いのかな!!」
「貴様らの家には鏡はないのか?!」
「あるけどあいつら見ないんだろうな……」
それはもう素麺マシンが正論過ぎるので、あるえとゆんゆんには素直に引き下がって貰おう。納涼の為の素麺だと言うのに、バトル展開なんて誰も望んでいない。
「しょうがねぇな。この素麺マシンは危険みたいだし、やっぱり家の中で素麺食おうぜ?随分と高性能な魔道具みたいだし、半日もすれば魔力も切れるだろ……」
「そうだな。アルベドがやられるような相手なんだし、素直に流し素麺は諦め………」
ゴッ
「「…………嘘だろ?」」
俺とスバルが玄関に向かって歩き出したところ、何故か見えない壁に頭をぶつけた。スバルだけならギャグと思うが、俺達2人が完璧な同時だと、そんなの疑う余地もない。
「我は流し素麺を楽しく美味しく食べる為の魔道具。猛暑日を再現した空間を生み出し、真冬でも流し素麺を美味しく食べさせる事も可能なのだ!」
「素麺の為に監禁機能を?!しかも何だこの馬鹿みたいな強度?!」
「しかも空間の温度が上がっている!これでは猛暑日だぞ!」
「これもう実質兵器の部類だろ?!」
便利な商品が兵器になるのは、この世界じゃもはやお決まりの展開だ。だが、だからって素麺でやる事じゃない。納涼くらい楽しませろ。
「仕方ありません。アインズ様をご無事に返す為、私共も本気でかかりましょう」
「マカセロ」
「くっ、流石に今回は頼むぞ皆!」
人間体のアインズが熱にやられそうな姿を見て、直ぐに戦闘モードに変わる階層守護者達。素麺を食べるには苦労する相手でも、戦って倒すなら勝機はある。何せ相手は素麺を飛ばすだけ。どんなに高威力な攻撃だろうと、素麺であれば防ぎようはある。
「コキュートスは最前線!私とシャルティアが後ろからカバーします!所詮は麺類を打ち出すだけの機械!タンクとアタッカーが分散すれば、それ程の脅威では……」
ザシュッ
「…………えっ、何ですかこれ?」
物凄く格好良く戦場を支配していると思われたデミウルゴスが、頬の出血に一瞬固まる。目にも留まらぬ斬撃など、素麺マシンが出来ていい技じゃない。それが可能なマシンだとすれば、それはもはや殺人マシーンだ。
「くっ……まさかこれは……聖属性の針……」
「シャルティア?!まさか属性も自在だと言うのですか?!纏う魔力にも神々しさが見える!!」
それについてはアクアの魔力を込めたからですが、言うと怒られそうなので黙っています。
「チガウ…コレ……ユデテナイ…メン……」
バタッ
「こ、コキュートスがトゲアリトゲナシトゲトゲに?!」
「そんな物に……聖属性の付与を……」
バタッ
「シャルティアのゴスドレスが世紀末のヒャッハー鎧みたいに?!」
「カズマとスバルは少し黙りなさい!この状況を打破しないとならなっ……ごふっ……」
「「デミウルゴスだけ普通にやられた?!」」
「それ、凄く傷付くので本当に辞めてください……ガクッ」
まさか階層守護者でも打倒できないなんて、どんだけ強いんだこのパーティー用家電。あんまり家の庭で頼りたくなかったが、ここはこっちもチートを出すべきか……
「すまんウォルバク!相手が思ったよりチートだった!お前の手を貸してくれ!」
「仕方ないわね。システムに頼り切りのひよっこ達に、本当の魔法を見せてあげるわ!」
そう言ってウォルバクが一歩前に出た瞬間、周りの空気が明らかに冷え込む。アインズ組は確かに強いが、それでもゲームシステム故のバランスというものがある。そんなものガン無視して不条理で殴るのが、世界を管理する神の力だ。
「どんなに激しい攻撃だろうと、所詮は食品を撃ち出すだけ……なら、一瞬で蒸発させてあげる!『インフェルノ』!」
「なっ、何だこの計り知れない熱量は?!」
「これが女神の使う魔法……もはや炎ってより光の壁だぞ?!」
強引に魔力で底上げされた魔法は、炎を光の壁まで昇華する。打ち出された麺は跡形も残らず、ただ蒸発する音を残して消失した。その熱は余りにも強大で、最初に空間ごと冷やしてなければ、全員熱中症でやられていただろう。いや待て?ここがこんだけ暑いって事は……
「くっ!もはやこれまで………んっ?」
「きゅぅ……」
「あっ、やっぱり熱中症起こしてる!!」
「ホースト!氷枕を用意しろ!あたしがウォルバク様を運ぶ!!」
「ったく!だから派手な魔法は控えてくれって言ってるんですよ!!」
物凄い勝ちパターンに見えただろうが、それでやらかすのがうちのパーティー。ウォルバクの魔力と魔法はチート級だが、そのフィジカルは産まれたての子猫より弱い。適温から7℃くらい外れると、直ぐにバテてこのざまである。
「なぁカズマ。ひょっとしてウォルバク女史も、アクアと同様にポンコツ女神なのか?」
「アクアよりはマシなんだが……ポンコツについては否定できない……」
凄い部分も多々あるのに、どうしてこの世界ってこんなバランスしてんのかね……
「熱中症か……良く冷えた素麺とは言うのは、環境が暑けれは暑いだけ美味なものだ。さぁ、仕切り直しといこうではないか!!」
その言葉と共に放たれた麺は、縦横無尽にコースを駆ける。その光景は楽しげではあるが、それを楽しむ余裕などない。意識を刈り取りそうな酷暑の中、素麺なしだとマジで死にかねない。
「どんなに発射速度が速くても、結局はコースを流れるだけ……そんなに素麺を食べさせたいなら、僕が最初に頂くよ!」
「流石は鈴…アインズ!相手が流し素麺である以上、最終的にはコースに戻る!」
「つまり程よく距離を取れば、飛んできてぶつかることはないって事だな!何処ぞの強欲より賢いぞアインズ!」
「なんか馬鹿にされてないそれ?!」
別に馬鹿にするつもりは無いのだが、恐らく誰一人上手くいくとは思ってない。そんな素直な奴が相手なら、俺達も苦労する必要はない。
「良いだろう!ならば真正面から素麺対決だ!!」
「あぁ、掛かってこい素麺奉行!!」
素麺マシンから数メートル先の竹のコースへ、アインズの箸が静かに沈む。真っ向勝負と言いつつ送りバントみたいな構えだが、素麺としてはあれが正しい。と言うかこの勝負って負けようがあるのだろうか?コースが絞られてて待ってるだけなら、別に負ける要素はないと思う。
「来たっ!速いけどコースが絞れていれば……」
「ふっ、甘いわ!!」
ギシッ
「なっ!コースの竹が下にしなっただと?!」
まるでフォークボールでも投げられたかのように、竹のコースが突然落ちる。それはアインズの箸を軽く振り切り、素麺はコースの先へと流れていった。
「残念だったな!自在なのは素麺だけにあらず!この魔法で構築したコースもまた、自在に動かせるという訳よ!!」
「それもう食わせる気ないだろ?!お前本当に素麺奉行か?!」
アインズは繰り返し竹を追うが、自在にしなる竹は捉えきれない。時には素麺が宙を舞い、時には竹のコースを急加速し、また突然の減速で読みを外す。そんなアクティブ過ぎる素麺コースに、もはや人の数など無意味だった。
「くそっ!皆で参加しても駄目かよ!」
「どんだけ高難易度な流し素麺だ……」
「そろそろ体力的にキツくなってきたかも…」
スバルとエミリアに連携してみるが、それでも素麺は捉えきれない。エミリアの魔法もスバルの奇策も、強引な力業で回避されてしまう。俺の放ったデスブリンガーでさえ、確保出来たのは麺2本だけだ。そろそろ本格的に何とかしないと、ウォルバクの冷房も何時まで保つか分からない。
「いや、既に勝負は決しているよ!!」
「ま、まさか3人の影で?!」
「行けぇ!」
「頼んだぞチグリス!!」
「だからユリウスだと言ってるだろ?!」
そんな俺の不安を囮に、最優の騎士が箸を振るう。3人を突破した素麺の束は、素直にコースを流れていた。そこに最速最短で割り込まれれば、どんな魔道具でも対応は出来ない。ちなみに俺は気付いてなかったので、このセリフは完全に乗っかりである。
「これまでだ素麺奉行!この素麺は僕が貰った!!」
ちゅるっ
「………ば、馬鹿な……蕎麦……だと……」
バタッ
「「「ユリウスー!!!」」」
満面のドヤ顔で素麺を啜ったユリウスだったが、それは素麺ではなく蕎麦だった。だから何だと思うだろうが、あんな素麺マシーンに裏をかかれたら、誇り高いユリウスは耐えられない。と言うか食う前に気付きそうなものだが、日本人じゃないので大目に見て欲しい。
「自在な変化に高度なフェイント……まさかここまでの難敵だとはな……」
「納涼の為にこんなに汗をかくなんて……これがニホンの流し素麺……」
「勘違いしないでエミリアたん!カズマの世界だけだからコレ!」
「俺の世界でも特殊なパターンだよ!!」
しかしこの素麺マシーン、何故か攻撃してこなくなったな。さっきまで物凄い猛攻だったのに、一体何が起きているのか……
「すみませんカズマ。麺つゆのおかわりはありますか?」
「どうしたんだめぐみん?まさか猛攻を受けて落としたとか……へっ?!」
俺の側に駆け寄ってきためぐみんの手には、素麺の詰まったお椀がある。あの猛攻を掻い潜ったなんて、普通に考えたらあるはずがない。いくら食い意地が張っていても、どんだけフィジカルが強めだとしても、めぐみんのステータスはアークウィザードだ。
「ま、まさか下流の方は低難度なんじゃ……ってやっぱり自在に暴れるぞコレ?!」
「なら何でめぐみんはそんなに……」
「私も普通に食べられるのだが……」
「私もそんな妨害は受けてませんが……」
おっと、これはひょっとして子供には優しい装置なのか?めぐみんとターニャとアイリスなんて、まさに子供って感じの3人だ。殺意が無ければ攻撃はしないし、小さな子には素麺を食わせる。この素麺を巡るやり取りさえ、安全と分かれば娯楽の1つだ。
「お前、本来は人畜無害なアイテムだったりする?」
「当然だろう?流し素麺を正しく楽しむ為の魔道具の私が、人に害を成す必要などない。主の命に従い、攻撃するのは迷惑客へ対処する時と、自己防衛に限られている。何なら流す難易度だって、高いと言われたら下げるつもりだ」
「そういうのは真っ先に説明してもらえません?!」
だが、それが判れば恐れることは無い。アインズやスバルはニンマリと笑い、再び箸をコースへと向ける。これがアミューズメントだと確定していれば、男子でこれを嫌う者は居ないだろう。
「おい素麺奉行。そこの2人は迎撃されたのに、私には優しいのはどういう事ですか?」
「知れたことよ。悪ふざけする大人と、無害なお子様の扱いが違うだけだ」
「へぇ…大人と……お子様ですかぁ……」
あっ、やばいこれ地雷踏んだ気が!
「そこの2人と私は、同年齢の同学年ですが?」
「何を馬鹿な。あの山岳とこの大平原が同学年?紅魔族は発育が良いんだ。幼女ちゃんは無駄な背伸びのんてしないで……」
「………『エクスプロージョン』」
「ちょっ!皆伏せろー!!」
カッ!
眩く光る閃光の中、俺は吹き飛んでいく素麺マシーンと、瓦礫とかしていく自宅を見た。まさか流し素麺して爆発オチなんて、変態魔導具よりうちの嫁の方がヤバかったようだ。
最後でお付き合い頂きありがとうございます。
最近更新頻度が落ちてますが、まだリタイアする気は無いのでご安心を!
また不定期ではございますが、お暇な時にでもお付き合いください。