友人がメイド喫茶でバイトをしていて、当時のチェキが黒歴史と化したそうです。
と言うことで、メイドで1ネタご用意しました。
またお暇な時にでもお付き合いください。
メイド。それは貴族や裕福な家庭で見かける、住み込みで家事やら身の回りの世話をしてくれる女性使用人の総称である。彼女らの仕事は多岐に渡り、中には殆ど主に顔を見せない役職もいるらしい。そして、そんなメイドの頂点がいま……
「ベルゼルグ王にお仕えさせて頂いております。ハウスキーパーのコガラシです。本日より、ダスティネス家のメイド教育を担当させて頂きます」
「受けて立ちます!!」
「めぐみんは黙って!そういうものじゃないから!」
馬鹿の頂点と相まみえている。
………………
「成程。ダクネスの懐妊を祝うために王様が……」
息子の破裂から蘇生して半日後。皆に合流した俺の前に、困り顔のイグニスさんがやって来た。何でもダクネスの懐妊を聞きつけた王様が、祝うついでに遊びに来るそうだ。それだけなら歓迎の手伝いで良いのだが、問題はそれだけでは終わらない。
「歓迎だけなら慣れたものなんだが、問題はその前なんだ。国王に不自由があってはならないと、指導役のメイドが先に来ると言い出していて……」
「ダスティネス家にそんな懸念を?」
娘がアレなのは懸念だろうが、ダスティネスのメイドはとても優秀だ。何せアレを飼い慣らして、立派にここまで育てた訳だし……
「それが、国王が落とし穴に落とされたとか、媚薬を使ったハニートラップに遭遇したとか言われていてね。指導役のメイドは随分とやる気のようで、うちの使用人には無関係な理由で辛い思いをさせたくない」
「そ、それは確かにお気の毒で……」
どうしよう。それどっちもウチの関係者だ。
「だから頼むよカズマくん!どうか君の方でメイドを用意してくれないか?!君は国王の親族にあたるし、無礼を働いても見逃して貰える筈だから!」
「畜生やっぱりそういう事か!そんな優秀なのが居るわけ無いでしょう!うちの連中を何だと思ってるんですか!」
「君たち英雄のパーティーのはずだよね?!」
「誰もそうは思ってないです!!」
何なら俺が一番思ってないです!!
………………………………
「で、結局押し切られちゃったのね?」
「親子揃っての泣き落としは反則だろ……」
翌日。俺達は執事服とメイド服に身を包み、ダスティネス家の正門に集まった。既に慣れたものだと思っていたのに、やはりダクネスの泣き落としには抗えない。何でもするなんて言われて抱き着かれたら、抗える男子など居ないと思う。お腹の中に赤ちゃんが居るので、明日は後ろでお楽しみだ。
「これ絶対にやらしい取引とかあったわね……」
「まぁ、ダクネスなら喜びそうですし……」
おっと!顔に出てしまっていたようだ。
「ところで、どうしてカズマまで使用人の格好をしているのですか?ダクネスの旦那という立場なのですから、奉仕される側だと思うのですが……」
「相手は国王直下のメイドの長だぞ?イグニスさんの面子もあるんだし、相応の家事能力は見せなきゃ不味いだろ?」
「すみません……頼りにならなくて……」
恐らく俺の顔は知らないだろうし、俺も使用人側で参加することにした。最悪身分を明かしてしまえば、俺には強く言えないだろう。イグニスさんの面子を守る意味でも、俺はこっち側に居たほうが良い。
「国王のハウスキーパー、コガラシ様が間もなく到着されます」
「良し!お前ら気合入れてけ!俺達の家事能力を見せてやろうぜ!!」
「「「「「はい!」」」」」
ちなみにアイリスはゲスト側なのだが、女神3人はメイド側にいる。どうしてそんな罰当たりな事をって?俺が可愛いメイド服を着せたいからですが?
…………………
「コガラシ殿。遠路遥々の訪問、ありがとうございます」
「「「「「ありがとうございます」」」」」
俺達は馬車の前に整列すると、ダクネスに続いて頭を下げる。使用人だからと勘違いされるが、メイドになるのはそれなりの身分の人間だ。しかも国王の直属となれば、下手な貴族など比較にもならない。
「このような歓迎、身に余る光栄です。ですが、我々がもてなすのはあくまで国王、指導に手は抜きません。それはお分かりですね?ララティーナ様」
「えぇ、望むところです。彼女らも遊びでやっている訳ではございませんので、不足があれば容赦なく仰ってください。それこそ、私を強く非難して頂いても構いません!」
「成程、ララティーナ様がそこまで。これは期待して宜しいようですね?」
「えぇ、むしろ私が期待しております!」
「……んっ?」
微妙なすれ違いが起きているようだが、出来ることならネタバラシはしたくない。イグニスさんの名誉の為に、ダクネスの性癖悪化を防ぐ為に、そして俺らが怒られない為に、ここからは全力でやらせて貰おう。
「ではコガラシ様、どうぞお手を……」
「あら、これは親切にありがとう。流石はダスティネスのメイドですね」
コガラシさんが馬車から降りようとした所へ、すかさずあるえがその手を取った。何度かメイドさんプレイをしたことがあるが、不安定な足場ではすかさず手を差し伸べたモノだ。ちなみに手を差し伸べたのは俺で、足腰立たなくしたのも俺である。
「こちらはぬかるんでおりますので、こちらの道をご案内します」
「貴女もありがとう。ずいぶんと細やかな気配りですね」
あるえの後に続くゆんゆんは、ぬかるんだ場所に立って動線を確保する。流石は紅魔の知識人2人だが、それより先ず手荷物を預かった方が良いと思う。
「おっと、これは気が利かず申し訳ございません……」
「あら、貴女は………何のために此処へ?」
セレナが彼女の隣に立ったので、てっきり荷物に気が付いたと思った。しかしセレナは荷物も持たず、何故か少し前を歩き続ける。コガラシさんも苦笑いなので、悪ふざけなら辞めて頂きたい。
「嫌ですわコガラシ様。この場所を狙撃して貴女を狙うなら、あちらの監視塔が最適ポイントなのはお気付きでしょう?」
「人生初の指摘なのですが?!えっ、貴女は盾になる位置に?!」
優雅で高貴な筈のメイド長が、セレナの指摘に声を荒げる。そりゃそういうのは騎士がやることだし、メイド長が把握する情報ではない。
「プロ意識が高いのは素晴らしいことですが、相応しくないと烙印を押された者も多いはず。それを逆恨んでの犯行など、何も珍しくありませんわ」
「この距離を狙撃する程の努力が出来るなら、普通にメイド業務くらいこなせそうですが……いや、確かにあそこから狙われたら……」
ここで頭から否定しないのは、何かしら思う所があるんだろう。国王の暗殺計画なんて、この時代では珍しくもない。
「ご安心くださいコガラシ様、それなら私が……」
「待って。私への言葉を聞く前に、貴女のメイド服に付いて話をして良いかしら?」
畳み掛けるようにウォルバクが前に出るが、その言葉は先に遮られる。流石は国王直下のメイド長、ウォルバクのカチューシャが少しズレてる事に気が付いたのだろう。一般人の視点は巨乳と美貌に吸われてしまうが、やはり国王直属は違う。
「あら、何か不都合が?」
「不都合と言うか……何なのですかこの胸は?!しかもこんな大胆にはだけて!サイズが合っていないのでは無くて?!」
「これでも特注サイズで、これ以上は物理的に入らないって……」
「どんな乳?!主のララティーナ様も大概なドスケベボディでしたが、それを上回るってどういう事?!あとカチューシャも曲がってましてよ!」
「コガラシ殿?!私も巻き込んでは居ませんか?!」
俺は既に見慣れ、吸いなれ、挟まれ慣れたものだが、確かにアレは規格外にも程がある。真面目な彼女には、見逃せない不健全ポイントなのだろう。
「それで、貴女は何を言うつもりだったの?」
「狙撃や奇襲の防備として、この辺りには結界を張っております。コガラシ様が2歩横にズレた所へ、小石を投げたら蒸発します」
「……へっ?」
ジュッ
気を取り直したウォルバクの一投は、結界の強度を証明するには十分だった。投げた小石は粉微塵どころか、量子単位で分解されている。事前に何かしていたとは思っていたが、これはまた見事な殺人トラップだ。
「そ、それこそ真っ先に言ってくれます?!私がよろけたらどうなっていたんですか?!」
「……………じゅっ?」
「貴女が実は暗殺者じゃないわよね?!」
流石と言うべきか呆れるべきか、うちの連中はこんな時でもいつも通りだ。高貴で優雅なはずのメイド長が、ここまで大声を出すなんて……
「そんなに熱くならないで。ほら、あぶら取り紙をあげるから、その沸き立った脂汗を拭いたらどう?」
「沸き立ったのも貴女方のせいですよ?!まったく、その気配りだけは評価しますが……『入信書』……ふんっ!!」
パァン!
「あぁ!新商品なのに!」
続くアクアの波状攻撃に、流石のメイド長も冷静さを欠いてしまった。そろそろ手荷物を預かってあげて欲しいが、なんかもうそんな話ではないらしい。
……………翌朝(夜明け前)…………
「ふむ、全員しっかり起床しているとは、基礎は完璧に仕込まれているようですね」
1流メイドの朝は早い。まだ朝日も昇らないというのに、俺達は広間に集められた。俺はベッドの後始末の為に慣れているのだが、こいつらはよく起きられたな。
「爆裂散歩の為に習慣づいてますから!」
「「付き合わされてますから……」」
「不意打ち奇襲は早朝狙いが多いので……」
「盗賊の活動も早朝狙いが多いですから……」
「時空間魔法で16時間寝てきたわ」
「貰ったお酒飲んでて寝てないわ」
「返品作業は早朝なので……」
誰一人健全な理由が居ないのは、取り敢えず今日は置いておくとする。
「皆さん。国王を来賓として迎えるからには、チリの1つさえ許されないと思いなさい。強く高貴な国王に相応しい環境を用意すべく、これから徹底的な清掃を開始します!」
「強く高貴なのに、ハウスダストには弱いのね?」
「違いますよ先輩。アレルギーは防御反応だから、強い方が症状が出るんですよ」
「そう言うことではありません!取り敢えず清掃を開始しなさい!」
まさかのエリスとアクアに容赦ないツッコミ。やはり一流のメイドは違う。明らかに何か感じ取っているのに、然るべき時は女神も叱る。
…………………
「さて、掃除も終わったようなので、これから朝食の仕込みをします。キッチンメイド、カトラリーメイドと呼ばれる台所担当のメイドは、地味ですが責任重大です。新鮮な子牛と若鶏を仕入れてますので、まず解体作業から始めま……」
「こ、ここには何も居ませんから!」
朝の台所へ集められ、次は屋敷の者の朝食と、国王も食べる昼食を作る。なんてありふれた仕事でさえも、ぶち壊せるのがうちの連中だ。
「えっと……明らかにモーモーコケコケいってますし、それが本日の食材なんですが……」
「他の子にしてください!この子たちは私にご飯を求めてきてくれたんです!あらゆる動物が私からご飯は受け取ってくれないのに!めぐみん以外に初の餌付け成功なんです!!」
「それは解体前で極限の空腹だったからだと思いますが……」
「私も餌付けされてた訳では……」
「そ、そんな事……ないよね?」
「「「……………」」」
「どうして黙るの?!」
まさか動物にまで拒否されるとは、ゆんゆんには謎の才能がありそうだ。動物達はゆんゆんを無視して、誘導されるまま屠殺所へと入っていった。
「食事を与えたなら尚更のことスピード勝負です。良いですか皆さん、肉は骨と筋繊維に沿って……」
「「「「「「出来ました!」」」」」」
「えっ、何これ普通に優秀……あれ?ダスティネスのメイドなら当然なのかしら?」
突如として有能になったように見えるだろうが、そもそも冒険者は獲物の解体などお手の物だ。何もしなければただの死体でも、精肉すれば資金源になる。殆どの新人冒険者が最初に弟子入りするのが、商店街の肉屋だ。
「どうやら料理に口出しする必要はないみたいですね。これほどの腕を持つ者がこれだけ居るなら、料理は貴女たちに任せ……お待ちなさい」
「何か?」
俺達の事を見直したと思った矢先、コガラシさんがめくみんの肩を掴んだ。もし彼女が掴んで無かった場合、間違いなく俺が掴んでいただろう。何故ってめぐみんの持ってるザルには、見覚えのあるアレが居るからだ。
「そのエビとロブスターの中間のような生きものはもしや……」
「ザリガニですが、何か問題が?」
「………すみません。わたくしの不勉強だったら申し訳ないのですが、紅魔族ではザリガニが美食なのですか?」
「「いえ全然」」
現れたザリガニに驚愕しつつも、コガラシさんは一応紅魔族2人にも確認を取る。どんなに馬鹿げていようと相手の文化へ歩み寄れるのは、やはり王族に仕える立場ゆえだろう。まぁ、今回は文化とかじゃないんだが……
「それならザリガニはおかしいでしょう!国王に出す食事ですよ?!」
「何がおかしいと言うのですか!これは私が厳選した最高のザリガニなのですよ!」
何が最高なのかは知らないが、ザリガニは一般的には食材とは言わない。別に毒があるとかじゃないのだが、泥臭くて言うほど美味しくない。我が家では食べ慣れ過ぎて普通に食べるが、比べると明らかに癖がある、海老の劣化品にしかならない。
「まさか、そのザリガニは何かしらの品種改良が……癖や雑味を消し去る方法を確立して……」
「いえ、近所の川で一番大きかった奴です」
「国王に出せるかそんなもん!!」
流石に近所の川のザリガニと聞いては、クールなメイド長も突っ込まざるを得ない。アイリスにザリガニを食わせた事実は、この人には絶対に黙っていよう。
……………
「部屋と食事の準備は出来ました。では、これより国王様を迎えます。各位、絶対に馬鹿な事はしないように!」
「「「「「はい!」」」」」
数多くのダメ出しと指導を乗り越え、俺達はついに国王の前に立つことになった。本来ならここでダスティネスのメイドさんに代わる予定だったのだが……
『娘から面白そうな事をしていると聞いたので、今日は早めに遊びに行きます。義理の父より。追伸、メイドには紅茶を持たせていますが、義父はペプシコー◯が飲みたいです』
と言う魔法文書が届いたので、仕方なく俺たちで対応することになった。国王も大概だと思う。
「では我々も……」
「貴女たちはお留守番です!」
だが、国王の前に出しちゃ駄目なメイドも居ると言うことで、数名はキッチンにて待機となる。ちなみにその理由と言うのが……
「貴女はザリガニを出そうとする!貴女はアクシズ教に勧誘しようとする!貴女は胸がエッチ過ぎる!」
「あっ、危険な魔法とかじゃないんだ……」
「自覚してるなら使わないでくれます?!」
こんなにしょうもない理由である。それにしても、マジでうちのパーティーに気付かないんだな。英雄だからとかじゃなく、悪い意味で結構有名なのに……
…………………
「お待ちしておりました国王様」
「「「「「お待ちしておりました」」」」」
一糸乱れぬ揃った会釈と、訓練されたかのような同時発声。メイド長の本気の指導により、俺達は更にレベルを上げた。と、1日でそんな事にはならないので、これはレジーナの力である。
「ほぅ、これは中々に見事なものだ。流石の指導力と言うべきかね?」
「いえ、私も困惑するほどに本番に強いようで……」
国王は俺達の完成度を見て、素直に出来に感心している。本来ならメイドでないと指摘すべきところなのだろうが、この人も大概ノリが良い。
「では、エスコートを頼めるかな?」
「はい。今回は私が……」
「……ありがとうございます」
「国王様?!」
例え一国の王だとしても、国教の女神には頭が上がらない。転生者の血でのし上がった王族からすれば、その威厳はエリスのお目溢しのお陰だ。全ての特典を回収され、更に女神と転生者を敵に回せば、この国は未曾有の危機に瀕する。
「国王様、メイドにその反応は如何なものかと……」
「そ、そうでs…そうであるな!よきにはからえ!」
「国王様?口調おかしくなってますよ?」
どうしよう。これ笑ったら不敬罪かな。
「国王様、こちら射線が通りますので失礼します」
「あらセレナさん。私が居るので当たることは無いかと」
「それはどうでしょう?貴女の権能は、大多数の幸福が優先されますから……」
「もっと国民の為に一層頑張りたいと思います!」
「国王様?!なぜ突然の意思表明を?!」
もう辞めて。これ以上コントされたら本当に吹き出しちゃう。
…………
「さて、先ずはおめでとうララティーナ。イグニスにも遂に初孫か……」
「ありがとうございます」
「ありがとう…ゴフッ……ございますぅ…」
「イグニス様、流石に感動を引きずり過ぎです」
客間で国王の言葉を受け、微笑む娘とむせび泣く父。国王の反応はクールなので、きっと激しめの家臣には慣れたものなのだろう。クレアのような部下が居るのだし、これくらいなら余裕そうではある。
「アイリスにも早く世継ぎを産んで欲しいものだが、なかなか上手くいかないものだな?」チラッ
「こういうのは狙って得られるものではありませんから」チラッ
「えぇ、娘も運良くと言ったところで……」チラッ
「おっと国王様!カップが空のようですね!」
「落ち着きなさい。国王の御前ですよ」
コガラシさん以外は全員が顔見知りである為、こういう話になると俺が集中砲火を受ける。勿論アイリスとも営んでは居るが、当たるかは運なので待って欲しい。または、そっちの銀髪メイドの方を見て欲しい。
「あら?また直ぐに飲んでしまわれるなんて、こちらの茶葉が気に入りまして?」
「あっ、あぁ!これは大変素晴らしいものだ。気が抜ける前に飲み干さねば勿体ない!」
ちなみに俺のティーポッドの中には、国王の要望だったコーラが入っている。ゆえに国王はカップを置かず、注いだら直ぐに飲み干している訳だ。
「国王にそこまで言わしめるお茶を淹れるとは、本当に優秀な執事をお抱えで……」
「いえ、自分などまだまだ未熟です。これからもお嬢様のため、熱心にご奉仕させて頂く所存です」
「……んっ」ビクンッ
ご奉仕に反応したお嬢様には、お仕置きも担当させて頂く所存です。妊娠してもそんなかお前は。
「おや?手元がお留守のようですよ?」
「あっ!」
馬鹿な問答に気を取られた瞬間、国王のカップを捕らえるメイド長のポッド。そのあまりの手際に国王も拒む暇などなく、カップには熱々の紅茶が注がれてしまう。そう、キンキンに冷やしたコーラを注ぎ、しっかりと冷えたティーカップに………
パキッ!
「熱っ?!」
「国王様?!」
熱衝撃。短時間に温度差を与えることで、膨張と収縮による損傷を発生させる物理現象。それによりカップが破損したことで、熱々のお茶が国王を濡らした。
「いけません!そのカップとポットは保温の魔法がかかった魔道具です!注いだお茶もそう簡単に冷めませんよ!」
「大火傷待った無しじゃないですか?!」
「あっ、だからダスティネスの2人はお茶に手を付けて無いのか……」
そんな熱々のままだったら、飲めるのは当面先になるだろうし……
「あ、熱い……そして、何故かお腹が痛い気もする…」
「すみません国王様!私のせいで胃痛まで!!」
それはお腹の中のコーラがキンキンのままだからだと思うが、こっちの責任になるから黙っておこう。
「『ブレイクスペル』『ヒール』取り敢えずこれで大丈夫かと」
「あっ、ありがとうございますエリス様!やはり女神のヒールは効果が凄いです……な…」
「いえいえ、皆さんの信仰のおかげで……あっ」
国王とエリスは朗らかに話すが、その隣ではコガラシさんの表情が凍っている。ただでさえ国王に火傷を負わせてしまい、更には女神への不遜な態度。こんな盛大なやらかしは、きっと彼女には初めてなのだろう。
「えっ、エリス様って………この国の国教の……も、申し訳ございません!少し席を外します!!」
「あっ!美しい早歩きでもう見えない……流石は一流のメイドだ……」
「今そこ感心する所か?」
いや確かに凄いんだけどね?
「くっ、まさか彼女が大きな失敗をするなんて、悪ふざけなどするんじゃなかった……」
「その深刻な物言いからして、あの人って何か訳ありなんですか?」
「うむ、我が息子カズマくんには語っても良いだろう。彼女はそう、転生者の娘なのだ」
「あ、名前からそこら辺は予想してたんで、その先の話だけで大丈夫です」
「あっはい」
「ララティーナ、カズマくんって国王にもこうなのか?」
「国王がウザいくらい父親ぶるので、段々と塩対応に……本当は丁寧に対応して欲しいのですが……」
ダスティネス家のお二人は、もう少し会話に入って来てくれ。これでもメンタルすり減ってるから!
「彼女の父は転生者だったのだ。取得経験値がブーストするタイプで、それでいて使命感に燃える完璧主義者だった」
「それほどの人間でも魔王には……」
「えっ、なんでちょっとドヤ顔なんですか?」
「………ごめん。ちょっと調子乗った」
そんな魔王倒してる訳だし、少しくらいは許して欲しい。
「違うのだ。彼は魔王とは戦っていない。彼は自らの使命であるとして、パーフェクトメイドを目指して王家に仕えていたからな」
「「「「はっ?」」」」
それはもう何と言うか、まず掲げた使命から間違っているような気がする。
「だが彼は気付いてしまった。筋骨隆々の自分では、可愛くて万能なパーフェクトメイドにはなれないのだと!必死にメイクや魔法を学ぼうとも、ゴリラが子猫にはなれないのだと!!だから、彼は自身の持つ全てを娘と弟子に伝え、教育係として城に勤めているんだ!」
「つまりいつもの変態転生者って事じゃねぇか!!」
「転生者の使命がそもそも魔王討伐ですから、スタート地点から職務放棄してますもんね……」
「そんなイカれた人間の思想を詰め込まれた娘なんて、不憫で仕方がないね……んっ?何かなカズマさん?」
「いや別に」
馬鹿な思想から産まれた一族が、それを言うのはちょっとシュールだと思っただけかな。
「諸君らの言いたいことは勿論分かる。だが、彼女の理想と思想は既に本物だ。このような致命的な失敗をして、償わずに終わるなんてことはないだろう」
「だったら話し込んでる場合じゃないな。誠心誠意主に仕えるあの覚悟、馬鹿な悪ふざけで失っていい人材じゃない」
「だな。いくら国王の悪ノリだったとしても、俺達も責任感じるしな」
「本当に頼むよカズマくん?!」
…………………
「来ないでください!私はもう、ここで命を絶つ他にないんです!!」
気遣いのプロフェッショナルであるメイドたるもの、死ぬにも当然気を遣う。と言うことで屠殺所へとやって来たわけだが、マジで居るとは流石である。
「馬鹿なことは辞めるんだ!今回の件は国王にも落ち度が……」
「国王様!」
「あっすみません……国王様にも落ち度はある!だからそんな馬鹿な真似は辞めるんだ!」
「そうですよ!死んでなになると言うのですか!」
ドラマではカッコいい説得とかするが、あんなの素人に出来る筈がない。あれは船越さんだから出来るのであって、金田一とかだと普通に自殺を許したりする。だから、隣にセレナが居るのは説得と言うか洗脳要員である。
「国王に火傷を負わせたばかりか、国の英雄と国教の女神に無礼な態度を取ったんですよ?!こんなの死んで詫びる以外にありませんよね?!」
「そんな事はありません!貴女の今までの行いは全て、仕事に本気だからこそです!それを悪と断ずるなんて、私には出来ません!」
「……エリス様」
「えっと、一応アクア様も居るんだけど?」
流石は国教の女神だ。自分も騙した側だと言うのに、まるで救う側だと言わんばかり。これが自然と出来ると言うのも、ある意味女神の素質かも知れない。
「………懺悔しますエリス様。私は仕事を優先するあまり、思慮が欠けておりました」
「良いのです。私は貴女の献身を知っています。それくらいの罪は許されましょう……」
「アクア様のことを馬鹿っぽいと思い。実際女神だと知ってもその考えを改めなかった事も……」
「赦しましょう」
「あれ?私の意思は?!」
それについては事実だから、懺悔の必要もないと思う。
「カズマ様のことを、スケベそうな下っ端だと思ったことも……」
「………赦しましょう」
エリスの顔は全く許してないけど、それは事実なので見逃してやってくれ。後でシレッと嫌がらせはするけど。
「さて、これで死ぬ理由も無くなった訳だし。早く王様の所に戻ってやれよ。パーフェクトメイドのあんたが居なきゃ、王様がうちの馬鹿どもにザリガニ食わされるぞ?」
「それは由々しき事態ですが、1つだけ誤解は解かせてください。私は王族のメイドを取り仕切る立場ですが、まだパーフェクトメイドではありません」
「えっ、そうなの?!」
転生者の2世で城務めなのに、それでもパーフェクトメイドには成れないのか?!
「えぇ、全てのメイド業務を完璧にこなせて、初めてパーフェクトメイドを名乗れるのです。私はまだこなせない仕事がありますので、オールワークスでさえないのです」
「へぇ、ちなみにそれって……」
「乳母です」
「………へ?」
乳母って確か、子供に母乳をあげる使用人だった気が……
「国王様が孕ませてくれないので、私はまだ乳母の仕事が出来ません。つまり、オールワークスメイドも名乗れない半端物なのです」
「えっと、それは普通に結婚したら駄目なのかな?ほら、国王って妻子持ちだし……」
「何を言いますかカズマ様!主以外に尻尾を振るような卑しい女が、真のメイドを名乗れるとでも?!」
「主の家庭を破壊する方が駄目だと思うよ?!」
どうしよう!コイツ最後の最後にクソみたいな本性出して来やがった!ただのメイド狂いのヤバいやつだった!
「ご安心ください。私は国王も知らぬうちに国王に孕まされ、父親不明のまま我が子を産む。そしてオールワークスメイドからパーフェクトメイドとなり、親子で王族に尽くすだけです」
その子供が王族に該当するとか、そもそも主に何してんだとか、色々と突っ込みたいことは多々ある。しかし、ここで冷静に考えた結果……
「………そっか頑張れ」
「えっ、カズマさん?!」
「ありがとうございます!カズマ様!!」
「いやそんな真っ直ぐな目で?!」
この人が王族とチョメチョメしたとして、ぶっちゃけ俺には関係がない。そして、何よりダスティネス家への義理は通したので、後は当人の問題だ。何よりヤバイ奴には関わりたくないので、ここらで俺は手を引くことにする。
「これはこれで、何かイヤなフラグになる気が……」
「そういう事言わない!エリスがそう言うとフラグになるだろ!」
なお、勿論これはフラグとなる訳だが、それはまた別のお話である。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
私の知るメイドって主の為にチョメチョメしちゃうイメージだったんですけど、本来は馴れ合いとかしないドライな関係だったそうです。ガッカリですね。
また不定期ではございますが、お暇な時にでもお付き合いください。