お付き合いお願いします。
「クリスって強いの?」
皆で朝食を取っているなか、アクアは唐突に話をふった。
「盗賊って、戦うイメージないわよね?ダンジョン攻略では優秀だけど、うちのパーティーってめぐみんが居るから、あまりダンジョンに潜らないじゃない?」
言われて見れば、盗賊のスキルは、バインド、敵感知、潜伏、スティール、逃走と基本的に直接攻撃はない。バインドで捕まえて刺しまくる位か?
「まぁ、確かに戦闘職では無いけど、一応それなりに修羅場をくぐってきてるからね。足手まといにはならないよ!」
と言うことで伝統のこれ。
『ジャイアントトードを討伐せよ』
「アクア!敵のヘイトを集めろ!」
「任せて!『フォルスファイア』ー!」
カエルをアクアに集める。すぐにアクアを掴み、逃走で距離を開く、カエルの舌は、今の俺には余裕で回避できる。
「めぐみん!」
「エクスプロージョン!!」
集めたカエルは一撃で殲滅。あとはヘイトから逸れたカエルをダクネスに寄せ、各個撃破が普段のスタンス、なのだが
「デコイ!頼むぞクリス!」
「任せて!」
ダクネスを狙うカエルの頭部に、的確にダガーを突き立てて行くクリス。昔から付き合いがある二人は、既にチームプレーが成立していた。しかし、やっている事は地味なのだが、その身のこなしがずば抜けて速い。
「クリス!一匹跳躍してくる!」
大きく跳躍し、ダクネスとの距離を詰めるカエルが一匹、このパターンは飲み込まれるか?!まぁ良くある事なんだが!
「バインド!」
クリスのバインドが、伸ばしたカエルの舌を地面に縫い付けて固定した。
「くぅ!ありがとうクリス!」
「一瞬悔しそうだったよ!?」
特殊な技は使わない。ただ、素早く的確。それはこのパーティーに足りない『安定感』を補うには充分な能力だ。
「ナイスだクリス!大活躍じゃないか!」
殲滅を確認し、小柄なクリスの頭を撫でる。
「あっ…うん、ありがとう」
おやおや、なんだいその可愛らしい反応は。昨晩の夢を思い出して、俺もちょっと意識するぞ?
「その、なんかスマン。頭を撫でられるのは嫌だったか?」
「嫌じゃないよ!でも、少し恥ずかしいと言うか…」
二人の間に何故か甘ったるい空気が流れる。なんだこれ?
「カズマ、まさかクリスに手を……」
「最低のクズね!どれだけ手が早いのかしら…」
「おいやめろ!無実だ!」
あれは夢だった。しかし、今のクリスの反応はマジだ。
「か、カズマのナデナデがヤバイんだよ!ほら、皆もされてみれば分かるから!」
何だろうクリス。俺の手はなんだと思ってるんだ?
「カズマさん、ちょっと私を撫でなさいよ」
「ハイハイ。俺はそんな能力はないぞ?」
取りあえず撫でてみる。サキュバスに習った性技が発動するのかも知れない。
「うーん。普通に頭を撫でられている感覚しか無いわね」
「そうか、じゃあ」
撫でるのを辞めると、アクアは俺の手を握る。
「もっと本気で来なさい!まだ分からないわ!」
「こんなもんに本気もないだろ……」
と言いつつ、なんかスキルは発動しないかと模索する。サキュバスさんが言うには、ムードとかが大切らしい。なので、クリスを抱いた夢を思い出しながら、アクアの頭を再度撫でる。
「んっ…あれ?なんかこれ……」
「どうしたアクア?」
「何でもないわよ。続けなさいよ…」
「何でもないなら辞めて良いだろ?」
疲れてきたので手をアクアから離す
「イジワル…」
アクアは何か名残惜しそうだ。
「カズマ、私も素晴らしい爆裂魔法が撃てました!誉めて撫でてください!」
「しょうがねぇな」
もう一度、昨晩を思い出しつつ…
「んん…カズマのナデナデは、なんか凄く気持ちいいです。安心すると言うか、でももっと欲しくなると言うか…」
「なんだそれ!私にも頼む!」
「ハイハイ」
反対の手でダクネスを撫でてみる。
「んぁ…なんだ!このカズマに汚されたような感覚は!頭以外にもゾクゾクくりゅう!」
「お前らふざけてるだろ?」
ちょっぴりイケない気持ちになりそうだったので、ナデナデは中断した。やはり、ダクネスとめぐみんも何となく名残惜しそうではある。
「ほら、クエスト報酬貰いに行こうよ」
クリスに続き、俺たちはギルドに向かう。凄く安定したパーティーになった気がする。
「カズマさんのパーティー、クリスさんが加入してから上手くいってるようですね」
「いやー、ホントもっと早く誘うべきでしたね!」
「パンツ奪った人からの誘いに乗った事に私はそもそも驚いているのですが……」
受け付けさんの目が痛い。俺だって反省はしているんだ。
「さて、そんな絶好調な英雄カズマさんにお願いが…」
「厄介ごとですか?」
「英雄のカズマさんには大したことありませんよ」
最近、受付さんはとんでもない無茶振りをかましてくる。
『貴族の娘を救出せよ』
「衛兵の仕事では?」
「衛兵を呼んだら娘を殺すそうで」
「要求とか無いんですが?」
「その貴族一族の死を要求してます」
「いや、何があったらそんなに恨み買うんですが…」
中々に無茶な話である
「元領主のアルダープの一族なんですが…」
「死ねばいいんじゃないですか?」
つい即答してしまった。
「待てカズマ。アルダープはクズだが、息子や一族はクズでは無いんだ!」
それを当のダクネスに言われるとなぁ……
「お願いです!こんな高難易度の依頼、カズマさん位しか頼れないんです!」
受付さんがすがり付いてくる。
「パーティーメンバーと相談させてください」
取りあえず気乗りはしないが、みんなにクエストの説明をした。
「滅べば良いわ」「滅べば良いです」
めぐみんとアクアは即答だった。
「確かにアルダープの件はアタシもゆるせないんだけどさ。クエストの内容を考えて見てよ」
クリスだけ冷静にクエストの説明を読む
「これは人質の救出なんだけどね?もし人質が殺されたらどうなると思う?」
「そいつら、全員衛兵に殺されるだろうな」
「カズマ、その犯罪者を助けるつもりはない?」
なるほど、言われて見れば、俺たちはそちら側になっていた可能性が十分にあるんだ。
「そう言う事かよ…しょうがねぇな!やるか!」
「そう言う意味なら異論はありませんよ」
「そうね、同じアルダープの被害者だもんね!」
と、言うことで、俺達はそのクエストを受けた。
________
「貴方が英雄のカズマ様ですね!お会いできて光栄です!」
衛兵に挨拶をされた。なるほど、素直に受け止める人間から言われる分には悪くない肩書きだ。
「貴族令嬢を拉致した組織ですが、今は無人だった貴族の別宅に潜んでいます。どうも感知スキル持ちが居るようで、その家の管理人が近付いた際には、狙撃による警告射撃を受けています」
なんと言う無理ゲー。潜入がバレたら人質が殺される可能性があるのに、感知スキル持ちは相性最悪だろ。
「その一族の動きは?」
「アルダープ氏のご子息のバルター氏が交渉の準備をしております。お会いになりますか?」
「あぁ、通してくれ」
あの見合い相手か、真面目過ぎて変な事しなきゃ良いけど…
「カズマさん。ララティーナお嬢様!来てくださったんですね」
「大変な事になってるようですね」
武装をしていない。コイツは一人で責任背負って殺されるつもりだろうな。
「お二人にお願いがあります」
「自分が殺されたとしても、奴等を罪人として扱うな。とでも言うつもりか?」
「話が早くて助かります。彼らは父に苦しめられた民です。父が失踪した今、私が責任を負うのが道理です。当然、彼らに罪はない。魔王を倒した英雄が立会人であるならば、衛兵も逆らえないでしょう」
こいつにアルダープの血が流れている事が信じられん。
「アルダープが殺されるなら、俺も何も言わない。でも、息子だからってお前が死ぬのは違うだろ」
「他に方法が無いんです…償えるなら償いたい…でも、今さらそんな話が出来る状況では無いんです…」
正しいことをしようとしてる奴がバカを見るのは俺も納得は行かない。
「命はかけずに、一族で償う覚悟はあるんだな?」
「はい。父が悪事により得た地位など、捨てる覚悟です」
その言葉を聞いて、俺の最初の動きは決まった。
「要求を聞き出してやる。その先はお前ら次第だ」
「お願いです!彼らに罪は!」
「手荒な真似はしない。でも、色んなモノを失う覚悟はしておけよ」
_________
「一族で償う意思があるようなので、俺は反乱側に着く」
「潜入捜査か?しかし、相手に信用される手段は考えてあるのか?」
「それは全く問題ない。今回の仕事はアクアに別行動を取ってもらうが、良いか?」
「私にしか出来ない仕事ね!任せて!」
「よし、作戦開始だ!」
________
「反乱分子に告ぐ!俺は魔王討伐の英雄、サトウカズマだ!諸君らの代表と話がしたい!」
そう、最初の一手は真正面からの交渉だ。
「英雄様がなんだ!!俺達はアルダープに全てを奪われた!」
俺が信用されないのは分かっている。しかし、この作戦はここからだ。
「俺はなぁ!魔王幹部を倒したのに、その時の町の損害を払わされたんだぞ!それで借金漬けの日々だよ!」
「え?英雄のカズマ様がそんなこと……」
「挙げ句なぁ!権力で不正裁判されて、危うく死刑になりかけたぞ!」
「うそだろ」「でも、アルダープなら…」
話を聞く状態には持ち込めたようだ。さて、そろそろ
「カズマー!検察官の人を連れてきたわ!」
「サトウカズマさん。なんで私は連れてこられたんですか?アクアさん、言うことめちゃくちゃなのに嘘ではありませんし、断るならアクシズ教団が布教に来るって脅すんですけど!」
アクアがセナを連れてきた。その手にはあの忌々しい嘘発見器が見える。アクアはあれに引っ掛からないので、セナを連れてくるには丁度良い。
「セナさん!俺はアルダープに正当な裁判で判決を受けましたか?!」
「そ、その件は権力に屈する形での不当裁判となってしまい、私としても不本意でした。本当に申し訳ありません!」
「検察官がそう言うなら……」「マジかよ英雄だぞ?」
よし、完全に話を聞く雰囲気が出来た。
「セナさん!彼氏は出来ましたか?」
「わ、私だって少しは素敵な出会いくらい!」
チーン
「嘘ですよね?」
「はい……」
よし、この装置は正常。それはなんとなく反乱分子にも伝わったようだ。
「聞け諸君!俺は同じアルダープの被害者として、君達を犯罪者にしたくない!」
当然ベルは鳴らない。
「ここにはダスティネス家の令嬢、ララティーナが居る!諸君らの身の安全を保証し、しかるべき償いを要求するぞ!」
「待てカズマ!私はそんな話聞いてないぞ?!」
「ララティーナお嬢様は、アルダープをぶっ殺してやりたいと思ってないのか?」
「私はそんなこと!」
チーン…
「見ろ!ダスティネス家にも見限られた貴族だ!英雄となった俺と、正当に償いをさせてやろうぜ!」
「カズマさん!それは法的には反乱です!貴方は英雄として、その行いは問題ですよ!」
「いやー別に良いんですよ?俺がやるのは、『魔王軍に対して、アクセル以外の町は守らない』って宣言するだけの事なので?まぁ領民を守らない連中を、守ってやる義理ってなんですかねぇ?」
元から世界を守るつもりなんて無い俺は、要請があろうと無視するだろうけど、この発言こそ彼らの信用を得るための物だ。
「カズマ様がそこまで我々の事を!!」
「身分なんて関係ないんだ!カズマ様万歳!」
「カズマ!!カズマ!!」
完全に流れを掴んだ。
「よーし!俺がそちらに加わる。めぐみん?」
「分かってますよ。……エクスプロージョン!!」
俺の合図でマタナイトを使っためぐみんが上空にエクスプロージョンを放つ。当然、マタナイトを使っているのでめぐみんが倒れる事はない。
「衛兵はバルターの指示に従え!もし独断で攻撃があった場合、こちらには最強のアークウィザードがいる!1発で軍隊1つ消し飛ぶ覚悟があるなら、制圧に来ても構わないぜ?」
「あの威力の爆裂魔法で倒れないぞ?!」「化物じゃねえか!」「カズマ様のパーティーはスゲーぜ!」
この、『嘘は1つも言わない』脅迫と交渉。我ながら完璧だ。これで武力制圧を牽制しておく。
「悪いな。俺が守りたいのは、権力じゃないんだよ!」
「「カズマさまー!」」
__________________
と、言うことで無事に反乱分子に潜入した。
「よし、お前ら全員。アルダープの被害を書き込んでくれ。あと要求も一緒に」
俺は全員に紙を渡し、被害と要求を書かせていった。
「基本は金で何とかなるが……命はなぁ…」
アルダープの失踪後、正式に判明した殺人や失踪、恐らく失踪も結構な数が死体が見付かってないだけだと思われる。
「アタシが調べようか?」
クリスが手をあげるが、恐らくエリスとして調べるのだろう。
「魂から調べてしまえば間違いないよな?」
「そうするつもり」
クリスと小声で打ち合わせる。こう言うのだよ。俺が欲しかったチートと言うのは…さて
『人々を救う際の、必要だった犠牲の補填。人々を守った事への正当な報酬』
俺も不満だった件を書いておこう。
「よーし、集まったな!これをアルダープの一族に出すぞ。死者や行方不明者の件は俺も交渉の場に参加する」
「あぁ、カズマ様は本物の英雄です。ありがとうございます」
英雄って本来こう言うものだよね?なんでクズイメージが勝ってんの俺…
___________
「ほら、約束通り集めてきたぞ?」
「本当に貴方は、予想を常に越えていく人だ」
俺だけ戻り、バルターに約束の要求一覧を渡す。バルターの人望と俺の脅迫が効いたのか、衛兵たちは大人しいものだ。
「金銭的な部分は、我々の一族がどうなろうとお支払します。しかし、人命はどう償えば良いのか……」
「だよなぁ…俺もそればっかりは」
二人で頭を悩ませていると、クリスが戻ってきた。
「カズマ、ちょっと事態が面倒な事に…」
「よし、バルター別室を借りるぞ?」
「あぁ、構いませんよ」
と言うことでクリスから話を聞いたところ。アルダープの魂も、その被害者の魂も天界には来ていないらしい。しかし、地上にも確認できないそうだ。
「そうなると…頼れるのはアイツか…」
「カズマには、あてがあるの?」
「一応な?交渉に行こう。テレポート!」
ウィズ魔道具店。正直、アイツがダメならお手上げだ。
「小僧、我輩の所に来たのは英断だ。マクスウェルの件だな?」
「あぁ、バニルなら何か掴んでると思ったぜ!」
「ふむ、好意のある女の前だからと、そんなに分かりやすいハッタリは流石に吾輩もどうかと思うが?」
やっちまった。こいつにノリを求めた俺がバカだった。悪感情食われるのが分かってたのに…
「ふむ、シチュエーションによるものなのか、大したことない悪感情がここまで増幅されるのは珍しい。大変美味だぞ小僧よ」
「好意ねぇーふーん?」
クリスとバニルがニヤニヤしている。女神と悪魔に同時に責められる人間って初なんじゃない?
「良いですねぇ。カズマさんに春が…」
「ウィズがキラキラしながらこっち見てるんだけど」
「恋を知らぬままリッチーになった憐れな店主は、他人の色恋で欲を満たしているのだ。許してやれ」
ここに俺の安息は無くなったらしい。
「さて、あのアルダープとか言う領主とマクスウェルの件であるが」
端的に言うと、アルダープの悪事を隠していたのは悪魔であり、アルダープは代償を払うために地獄に居る。そして、女神への隠蔽の為に、魂も何処かに捕らえてある可能性が高いとのこと
「なるほど、地獄に殴り込めば良いんですね?」
「エリスになるの早すぎない?」
「アクア先輩も連れていきましょう」
「殺意高すぎない?」
「冗談だと思いたいが、本気だと困るので今回は吾輩が動こう…」
バニル相手に主導権握れるのって、奇跡的状況だと思うんだよね。取りあえず、当面の動きは決まった。
「では、吾輩はマクスウェルに話を付けてくる。これは悪魔としては本来あり得ない事なのだが、ある意味では利害が一致するので協力するとしよう」
悪魔になんの得があるのか…
「俺はアルダープの屋敷に殺された人の遺体を探しに行くよ。せめて家族の元で眠らせてやりたい」
「アタシも手伝うよ」
いつクリスになったのかは分からないが、俺たちはアルダープの屋敷に向かった。
__________
「バルター、これを」
「カズマさん、これは一体?」
俺はクリスより一足先にバルターの元に戻り、大量の木箱を渡した。
「アルダープに殺されて隠されてた人の遺体だ」
「そう、ですか……父はこんなにも…」
使用人から聞き出した場所には、アルダープに殺され、存在を隠蔽された人の遺体が沢山埋まっていた。バルターは悔しそうな、悲しそうな溢れる感情を押し殺す顔をしている。
「何だアレは?!」
数分ほどバルターの側に居たが、外から衛兵の声がした。恐らくバニルの方の準備が出来たのだ。
「フハハハハ!吾輩は魔王より強いと言われし悪魔!バニルである。貴様らの悪感情を頂きに来た!別に危害は加えないので安心するが良い!」
貴族の屋敷の真ん中に、黒いモヤモヤのゲートらしきものを出して、その隣にバニルが立っている。横に頭が欠けたような悪魔が居るが、あれがマクスウェルだろうか?
「バルター。あれが見える位置に一族を集めてくれ」
「分かった」
恐らく、バニルはここにアルダープを連れてきて、奴に向けられる悪感情を食べるつもりなんだろう。そう言う意味なら俺も協力しても良い。
「さぁ、無力な人間共よ!お前らが復讐したい相手はコイツだろう?」
「ひぃ!辞めてくれ!もうこれ以上は!」
案の定、謎のゲートからアルダープが現れた。理由は知らないが、酷く怯えている。
「コイツには悪感情しか向けられていない!なんと言う美味!一年分の食事が数秒でもたらされるとは、協力して正解であったな!」
「い、今なら!」
アルダープは咄嗟に屋敷の方に向かった。そこにはアルダープに恨みを持つ者が揃っているわけで……
「積年の恨み!」「父の敵!」「恋人の恨み!」
中から次々と武装した奴等が迎撃に来た。
「や、やめろ!済まなかった!許してくれ!」
「そう言った人間にお前は何をした!」
命乞いをするアルダープだが、大切な人の命を奪われた人間が止まるはずも無かった。
「うん、苦痛の感情が美味しい!」
あのマクスウェルとか言う悪魔は苦痛の感情が主食か…バニルがそう言うタイプじゃなくて良かった
「アルダープ、このままだと死んじゃうから、治してあげるね?あ、皆はもっと殴って良いよ?アルダープはそうなる代償に、みんなの家族を隠したんだ」
このマクスウェルと言う悪魔。純粋故に悪魔と言う感じがする。
「いっそ殺してくれ!」
懇願するアルダープに、即死するような攻撃はない。そもそも戦えない領民達にアルダープを即死させることなんて出来ない。蓄積されたダメージはマクスウェルが回復する。この地獄の連鎖は終わりが見えなかった。
「カズマ…これはかなり不味い事になってるね」
クリスが小さな箱を持ってやってきた。
「それは?」
「悪魔が人の魂を隠すのに使ったアイテムだよ。この中に悪魔に隠された人たちの魂が入ってるんだ」
「魂を返した所でこの状況は…」
アルダープに対する恨みはそう簡単には晴れないだろう。しかし、俺は何故か、ここでアルダープを痛め付けることに、意味を感じることが出来なかった。
「ゴッドブロー!あんたのせいでカズマさんが死ぬところだったのよ!」
俺より感情的な女神が居た。
「やめろアクア!気持ちは嬉しいが、いたずらに罪人を痛め付けるのは女神としてなんか違うだろ!」
「女神の肩書きが何よ!カズマさんを殺そうとした奴には天罰が必要なの!」
「アクアさん!落ち着いてください!」
クリスも止めに入る。流石にそんな先輩見たくないらしい。
「ん?クリス、あんたなに持ってるの?」
「魂を封じると言うマジックアイテムです」
「その中に被害者の魂が入ってる訳ね?」
「そうなります」
アクアは突然冷静になった。
「カズマさん。さっき運んでた箱って」
「遺体が入ってる」
アクアは少し考え込んでいた。俺は小声でクリスに訪ねる。
「クリス、時間が経過した遺体に蘇生は可能なのか?」
「魂がここにあるので、肉体を再生して魂を定着するだけの魔力があれば可能かも知れません。ただ、時間の経過した魂の定着は難しく、リザレクションを相当研究した凄まじい魔力を持つ人で無いと…この人数は私でも無理です…」
マジの女神で無理なのかよ…
「クリス、この箱貰うわ!ちょっとそこの貴族の人!あと被害者の皆!遺体がここにない被害者の遺骨、ちょこっとでも良いから集めてきなさい!私が蘇生を試みるわ!」
「わ、わかった!」「カズマさんのパーティーだ!希望にかけてみよう!」
そう言うと、アクアは地面に魔法陣を書き始めた。それは途方もなく大きく。豪邸の庭全体を使って書かれている。
「おいアクア、無理すんなよ…お前が責任を感じることなんて無いんだぞ!」
「この人達は、私にとってのカズマさんなのよ……悪魔が身勝手に奪って良い筈ないわ!」
何だろう、この女神に俺がキュンとするとは思わなかった。そのまま汗だくになりながら、アクアは魔法陣を書き続けた。半日ほどたち、その頃にはアルダープを責める人も疲れたのか、気がはれたのか、既にアルダープから離れ、ボロボロになったアルダープは悪魔の手に返されていた。
「主人の遺骨です」「恋人の遺灰です」
遺骨や遺灰を取りに行った人も全員戻ってきて、魔方陣の真ん中に遺骨や遺灰が並べられた。
「哀れな魂たちよ。貴方達は本来あるべきではない形でその命を奪われました。悪魔を野放しにし、その悪用を許したのは女神たる私達の責。今だけは、この女神アクアが貴方たちに奇跡を授けます。リザレクション!!」
見たことがない眩い光、優しくて暖かい風。その光と風が収まると、そこには沢山の人が座り込んでいる。アクアの蘇生は成功した。
「あなた!」「お父さん!」
思い思いに会いたかった人に駆け寄る人達。何故か苦虫を噛んだような顔をするバニル。うん、悪感情とは正反対だしね。
「カズマさん、弱っちくて簡単に死んじゃうから、だから、少しずつリザレクションの効率化とか、効果上昇とか、カズマさんがどう死んでも蘇生できるように私も頑張ってたの。だから、沢山誉めてくれる?」
「ったく、少しは素直になれないのかね?」
「カズマが調子に乗らないようによ!…あと、危ないことしないようによ…」
捨て台詞を吐きながらも、俺に撫でられて嬉しそうにするアクア。今はコイツの甲斐甲斐しさを精一杯褒めてやろう。
「あぁ、アクア様!なんとお礼を言えば良いか…」
「女神だ!本物の女神様だ!」
「カズマ様のパーティーには伝説がこんなにも!」
沢山の人がアクアに感謝の気持ちを述べていた。
「良いのよ。貴方達は悪魔の被害者、私はそんな人々を救う女神なのだから…」
「お礼のお金を!」「せめて謝礼を!」
今日のアクアは最高の女神だな。これからはいつもこれでお願いしたい。
「そうね。心から私を敬ってくれるのなら…アクシズ教に入って欲しいかなって思うのよ!」
「「「すみません。それだけは勘弁してください」」」
「なんでよーー!!!」
_____________
「バルター、後の事は任せても良いよな?」
「はい!私もなんとお礼を言えば良いのか」
取りあえず事態は集約に向かっている。最後の問題は
「頼む…悪魔に対価さえ払えば…私は……」
アルダープの処遇だ。
「我ら悪魔と契約したのだ。対価を払うなら、ヤツは自由。しかし、被害者を見ての通り、そやつは好き放題やり過ぎた。その対価は300年以上続く苦痛の支払いだ」
バルターは重々しい表情でうつ向いている。こんなクズでも、こいつにとっては親なのだ。
「私からお支払出来るものは、ありません!」
決断した。俺から見れば当然の話だが、バルターは自分の親を切り捨てたのだ。
「いやはや、吾輩は大変得をさせて貰った」
この重苦しい空気でも悪魔はいつも通りだ。
「しかし、今回の件でこの元領主は多くの苦痛を味わった。少し位支払いを短くしてやっても良かろう?」
「そうだね。沢山の苦痛と苦悶を貰ったよ」
「だそうだ。良かったな。ドM貴族を諦めていない小僧よ!」
アルダープは今日の苦痛で多くの対価を払ったらしい。悪魔にとって、今日の出来事は得しか無かったようだ。
「では父は…」
「寿命が尽きる前に帰れるかもしれんな」
少しだけバルターの顔が緩んだようだ。
「横からすみません。アルダープ氏には多くの罪状が出ておりまして、可能なら裁判後に連れて行って頂けると…」
セナが横から申し出る。
「証拠も揃った状態で、しかも被害者が蘇生されて言い訳も出来ない裁判か…さぞ絶望の悪感情が頂けそうであるな…」
「時間は取らせません。恐らく、2割も立件されればそれ以上の判決は無くても構いません。補償はバルター氏がするようですので」
「吾輩が言うのもおかしな話だが…人間のお前の方が悪魔のようであるぞ。それ以上不要なのは、つまり『極刑』であろう?」
仕事熱心と言うか、空気が読めないと言うか、そう言う所で結婚できないと思う。
「検察官どの……このタイミングでそれは…」
流石のバルターもドン引きしている。
「現世に留まれば処刑。そのあとでマクスウェルに魂を捕らわれて苦痛を受け続けるか…苦痛を受け続けた後、延命を解いて死ぬか…」
「アクア様!助けてください!アクシズ教にも入りますから!」
まさかのここでアクア頼りかよ!
「貴様!往生際が悪いうえに、悪魔なら喜んで滅ぼす女神を頼るとは悪質だぞ!」
ゆっくりと前に進むアクア、回りに次々と魔方陣が浮かび、右手に眩ゆい光が宿る。
「待て!この男を救うのか?悪魔を滅ぼしたいだけの行動か?!」
「不味いよ!あの力は悪魔でも!」
悪魔二人が本気で狼狽する。先程の奇跡でアクアへの信仰はかなり高まっている。それこそ、アクシズ教の後ろ楯を得た時のように。
「ゴッドブロー!」
その奇跡を含んだ一撃は、真っ直ぐにアルダープの顔面を捉えていた。
「カズマさんを殺そうとしておいて、虫が良すぎるわ!自らの行いを見つめ直しなさい!」
「うむ、女神の気が変わらないうちに退くぞマクスウェル!」
焦った悪魔が失神したアルダープを連れてゲートを開く。
「アクア様、良かったのでしょうか?あの、父を救えとは言いませんが…」
バルターは疑問の表情だ。アルダープが悪いとは言え、悪魔を見逃すのは女神の本意では無い筈だ。
「あ!」
「いや、『あ!』じゃなくて…」
完全に忘れてたらしい。俺としては取引相手との関係を壊されなくて良かったが…
「今日は多くの人が救われたわ!女神としてはそれで満足よ!」
「私の爆裂魔法に多くの衛兵が畏怖し、その力を心強いと思った人々がいる。これこそ最強の魔法使いのあるべき姿です!」
「私は、領民が救われたのだから良しとするよ」
うちのパーティーメンバーが納得しているのであれば、俺から不満を言うことはしない。
「ありがとうございますカズマさん。報酬はギルドで受け取ってください」
「バルターも、これから大変だと思うけど」
「いえ、私たちの責務ですので」
珍しくいい感じにクエストが終わりそうだ
「しかしカズマさん。すみませんが、こちらは直ぐには……」
バルターは俺の修理費請求への抗議文を持っていた。
「カズマさんのお気持ちも解るのですが、金額が大きすぎまして…先に他の方の補償を…」
「カズマさん、流石にそれは……」
セナが呆れ顔でこっちを見てくる
「違うから!あくまでアルダープのやったことを明確にするために書いただけで、金欲しさに書いてないから!」
チーン
「「「うわぁぁ……」」」
「ちくしょーーー!!!」
俺が英雄に成れるのは何時になるのだろうか……
お付き合いありがとうございます。
カズマさんがモテないって話と、アクアもちゃんとカズマが好きで、頑張ってるんだよ?
って書こうとして、色々考えてたら長くなりました。
次回はまたエロ挟みます。