ウィズとセレナ回です。
またお暇な時にでもお付き合いください。
日本で言う所の年度の切り替わり、俺は旅に出る。税金の徴…おっと…新しい自分に出会う為に!
「カズマさん、あの…一応納税は義務なので…」
「セナさん…教会へのお布施って税金はかかりましたっけ?」
「え?お布施はかかりませんが……カズマさん!まさか貴方は!!」
「俺の財産は…全額女神エリスに寄付しました!」
「ズルいです!そんなの夫婦なんだから共有財産ですよね?!」
「なら俺は不在なので、税を取りたいなら教会で洗礼をしているエリスから取るしかないですね?」
この時期、貴族に取られる位ならと教会に寄付をする人が多く、頻繁に洗礼が行われている。今年はお手伝いと言う事でエリスが洗礼をしてくれるので参加者も多く、教会には長蛇の列。ほとんど一日中洗礼している。
「それは流石に反則ですよ!教会に、しかもエリス様相手に徴税人が押し掛けたりなんかしたら、その貴族と徴税人は全エリス教会を敵にまわします!」
「でしょうね!人は今まで散々エリスに甘えてきたんですから、エリスの為の金を奪わせません!」
これで対策はオッケー!なにせ女神から税を取れる奴なんて居ない!取れるものなら取ってみろ!上手くやったとしても、俺がエリス教に言うからな!
「そりゃ、無能な貴族にくれてやるよりは…カズマさんは良い事に使うとは思いますが…」
おや、嬉しい信頼。しかし、セナさんが納得しても徴税人は見逃してくれない。
「じゃあ、俺は少しだけ雲隠れします!それでは、素晴らしき旅と経験を!」
※ウィズのマネ
「あ、ちょっと?!」
エリスの部屋に書き置きを残して、俺は旅に出た。
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「うん、考えることは皆同じ!」
馬車がない。というか予約でいっぱいで、あっても乗れない。
「徒歩は論外として…テレポートのポイントだとダクネスにはバレそうだ。追手を振り切るならやっぱり馬車だよな…」
「税金は登録された所在地で払うルールですから、街から出ていれば税金から逃れられるんでしたっけ?」
「そういうこと。奇遇だなウィズ…」
ウィズは…多分税金を払えるほど儲けて無いし、今日も仕入れに行くんだろう。商品を探すとなれば、登録ポイントが少ないテレポートでは不向きだろうし。
「ウィズもこれだと、仕入れに行けないだろ?」
「そうなんですよ。でも、このまま待ってれば無料の御者が来るって…バニルさんが」
マジで!御者が?!
「ウィズ、一緒に行こう!俺も行きたい!」
ついでに仕入れを確認したい。
「喜んで。本当なら昨日の予定だったんですが、バニルさんが、「1日遅らせれば小僧が一緒に行くだろう!更に15分待てばあのポンコツプリーストが一緒になるぞ!」って言ってたんですよ」
「…どっちが来るんだ?」
うちにポンコツなプリーストは二人居る。
「多分、セレナさんです。さっき……」
…………………………………
「ここは教会です!このお金はお布施です!」
「馬鹿な!どう見ても診療所じゃないか!そうやって何でも教会と言い張れば誤魔化せると思うなよ!医療品を出せ!薬品は高価な財産だから徴税対象だ!」
「ありません!祈りと信仰で治療してるんです!」
「馬鹿な!エリス教会でも出来ないのに、そんなマイナー女神が出来るか!お前だって実は呪術師なんだろ?」
「んだとこらぁ!レジーナ様がマイナーだぁ?!私はれっきとしたアークプリーストだってんだ!」
「ちょ?!お前?!さっきとキャラが……」
「帰れ!この腐れ貴族がぁ!」ゲシゲシ
「おい、やめろ!こら!執行妨害だぞ!」
…………………………………
「ってやってましたので…そろそろ」
いや、そこは止めてやれよ。あ、馬車が1台凄い勢いで…
「えぇ?!ぶつかりますよ!」
「やばい!下がれウィズ!」
ズザー
ドリフトして横に止まった。なんだこの無駄ポテンシャル。
「おっと!カズマ、ウィズ、奇遇だな!どうしたんだ?」
「おっとじゃねぇよ!お前は何しても暴走するな自称聖女!」
しかし、そのテクニックは流石だ。多分逃げ慣れているんだろう。
「私は仕入れに行きたくて、カズマさんは税金対策で街を出たいんです。でも馬車がなくて……セレナさんは?」
「あたしは徴税人を蹴り出したから少しだけ身を隠すとこ。でも、馬車を借りたら持ち合わせが無くなってさ…他の街でクエストしないとなーなんて考えてた」
うん、話が早くて助かるわコイツ。と言うか、それだけの手持ちなら馬車代納税したら良かったのでは?俺には都合いいけど…
「良し!なら旅費は俺が持つ!」
「そう来なきゃ!ついでだ、ウィズも乗りな!」
「あ、ありがとうございます」
ここに、税を払いたくない奴、払えない奴、本来払わなくていい奴という異色のパーティーが出来上がった。なんだろう…俺だけ悪い奴みたいじゃん!
「居たぞあそこだ!逃がすな!」
「ちっ!出すぞ!」
…あのセレナさん?指名手配とか、されてないよね?
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「それにしても、プリーストなのに馬車の運転が出来るって凄いよな。やっぱり諜報だったからか?」
馬車に揺られアクセルを出る。レジーナの傀儡に使う鎧が2つ置いてあるが、馬車の中は割と広いので普通に快適な旅になりそうだ。
「アクシズ教の…パシリだった時に覚えた…」
あ、地雷だった…
「あいつら…女の純潔を脅しに使うって…最低だろ。あたしら魔王軍だって…不要な殺戮や拷問なんてしないのに…」ブツブツ
ヤバい。トラウマが深い。下向かないで!危ないから!
「これからは俺が守るから、それじゃ駄目かな?」(精一杯のイケボ)
「……カズマ…」
こう言うフォローを自然に出来るなんて、俺もカッコイイ主人公の仲間入りを果たしたと…
「最弱職でそれはねぇよ…」
はい正論。前見てるから顔は分かんないけど、呆れ顔してるんだろうなと思う。
「そこは乗ってくれない?!」
「いや、なんで守るなんだよ。一緒にいるとかで良いだろ?今のはカズマのチョイスが悪い!」
「それは…ちょっとカッコつけた!」
「なんだよその素直さ…」
なんか予想と違う!まぁ、元気にはなったし、もう前を見ているから…良いか‥
「全く、守ってくれなくても側に居てくれれば…あたしはそれで良いよ…」
「…セレナ」
コイツ、なんて可愛いことを…
「なぁ、ウィズ……カズマ照れた?」
やられた!このやろう!楽しそうな声出しやがって!
「すごく照れてます!」
「からかったな!ウィズも言わなくていいから!…くそぅ!」
「残念だったな!あたしはそう簡単には堕ちないぞ!」
なんか悔しい。あれ?ウィズが今度はセレナの方を覗きに…
「ふふ、セレナさんも真っ赤じゃないですか」
「おいやめろ!あたしの顔は覗くんじゃねぇ!」
「そんなにニヤニヤしちゃって、本当は嬉しかったんですよね?」
それが本当なら、俺も慣れない事した甲斐があった。
「バラすなよ!本当に空気とか状況読まねぇなウィズは!」
「えぇ?!私、人の恋愛事情とか察するの上手いほうですよ!」
「問題なのは察した後だよ!その観察眼が無駄になってんだよ!空気も読めよ!」
「そんなぁ!これは素直に言ったほうがお互いに幸せじゃないですか?」
「そ、それは…だって…」
ほほう…嫌いじゃない。素直になれないだけって確信がもてるタイプのツンデレは、嫌いじゃない!
「もう!ウィズはカズマと商売の話でもしとけよ!」
あ、振り返った。
「本当だ。真っ赤じゃん」
「もうやめろ!」
可愛い奴め!でも前見て!!
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「馬って割と休ませるんだな?」
アルカンレティア旅行とは違い。今回は馬車1台に借り物の馬が1頭、割と頻繁に休憩を取る。と言っても、急ぐ旅でもないし構わない。
「あたしには馬術系のスキルが無いから馬も大変だろうし…あと、ケツが痛い…」
「確かにそれは大変だな…マッサージする?」
純粋な親切心で
「…カズマって、大義名分さえあったらマジで欲望に忠実だよな…あたしの胸が重そうだから持ち続けるとか言ってたし…」
「カズマさん…それはちょっと…」
「すみません…冗談です…それも忘れてください…」
この二人、反応がリアルだから結構傷つく。
「全く…素直に触りたいって言えば…あたしだって嫌じゃ…」
「じゃあ触りたいです」むにゅ
[おっと!それは復讐対象です!]
「「痛ったぁ!!」」
結構マジだった!
「馬鹿!今は痛いって言ってるだろ!」
「ごめん…つい…」
しかし、セレナに苦痛を与えたからって、レジーナは道や馬車に攻撃とかしないよな?馬車が壊れたら困るんだけど…
[いま、整備不良品を掴ませた馬屋の店主の肛門にそのダメージを返しています]
そっちか!やり口がエグい…復讐ってこんな間接的でも良いんだ…
[また、馬車職人による手抜きは見つかってませんので、セーフとします]
あ、そこは良心的。て言うか、どこまで責任追及するんだろう…
「カズマ、馬とか買わねぇ?あと馬車作ってくれよ。乗り心地が良いやつ!」
運転出来ない俺に買わせるのかよ…
「レジーナの傀儡術でさ、馬って用意できないの?馬車は作れても…流石に馬は生き物だからさ…」
「カズマ…流石にそんなに便利に使えないだろ…凄くナチュラルに話してくれるけど、相手は神様だからな?」
「でもカズマさんは、エリス様にお使いさせたり、アクア様にトイレ掃除させてますから…」
女神は種族名。そうやって扱ったほうが関係は上手くいく。それ言ったらウィズも不死の王だしな。ちなみに、エリスがお使いに行くと、金が増えたりオマケのほうが多かったりするので、とても助かっている。
[ごめんなさい。死ぬまでゼスタに引かせる方法くらいしか…]
「「あぁ…」」
「あの、私には聞こえないんですけど…レジーナ様はなんて言ったんですか?」
「「中年のドMに馬車を引かせる事なら出来るって」」
「え…あの…端折りすぎて…凄いことイメージしちゃったんですけど…」
「良いんだウィズ…多分、それで合ってるから…」
セレナの目は、この世界ではない何かを見ているような遠い目をしている。俺としても絵面が汚いので勘弁願いたい。
「馬用の鎧とか傀儡化出来ないのか?」
[出来なくも無い]
「出来るんですかレジーナ様?!」
おぉ、これは維持費がかからない移動手段か?!
[でも多分、高速移動したら二足歩行になると思う…馬なんてやったこと無いから…]
馬が二足歩行?!
「…通報されるので…結構です」
[それが賢明です]
…移動手段は今後の課題だな。
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セレナの尻にヒールをかけ、馬車に揺られて3時間。ここは何てこと無い隣町。アクセルよりは少しだけ魔物が強いが、治安も良いし、ダスティネスの支配圏なのでそれほどの違いはない。折角なので馬車を止めて、露店を見ながら宿を探すことにした。
「ウィズは仕入れに来たんだろ?ここで良いのか?」
「はい。こう言う意外な所に、掘り出し物があるんです。既に話題の売れているモノは、どうせ誰もうちのお店に探しには来ませんから…ブームが去ってから見つかって「なつかしー」とか言われるんですよ…」
なにそれ切ない…
「むしろ、辺境に行ってやばいハズレ引くより、手近で犯人確保が容易なエリアの方が安全か…」
「カズマさん?なんで私が騙される前提なんですか?!」
いやもうそれは…ねぇ?
「ウィズって出来る女だと思ってたんだけど…そんなにやばいのか?」
「100エリスで仕入れたモノを100エリスで売るくらいヤバい」
手数料の計算無視。
「そ、それならまだプラスマイナスゼロですよ!」
「マジで言ってんのか?!ウィズの給料もゼロだろそれ…」
そこまで考える余裕も無いんです。
「すみません…仕入れたモノの大半が売れ残ったり、売れても原価割れって良くあったので…もうそれが勝ちみたいな感覚に…」
「マジかよ…カズマの冷たくて甘い奴は?」
「それは黒字です。あれの黒字がなければ家賃が払えてません…でも、私が考えた新しい味は大抵が売れなくて…赤字に…」
「ちなみに、今度は何味を考えたんだ?」
「…竜田揚げ味を」
「鶏肉から離れよう?!」
どうしよう…ソフトクリームって冬はキツイのに、このままでは追い出されそう!
「あたしの経験上、こういう露店にはさ、職人が趣味で作った物があんだよ。それが意外と流行ったりするから探してみようぜ?」
なるほど、それは中々の掘り出し物になりそうだ。
「凄いですセレナさん!そんな経験がお有りなんですね!」
「……アクシズ教時代に、それを探せってパシらされたから…」
過去のエピソードにちょこちょこ地雷が埋まっている…
「そ、それならこれです!これは売れます!」
ウィズからこのワードを聞いたら、まずは疑ってかかりましょう。私は怪しいものではありません!位の信憑性だと思って。
「おぉ、お客さんお目が高い!これはアクシズ教の洗礼を受けた洗濯桶だ!ここに衣類を入れ聖水で浸しておくと、聖なる力を浄化の力に変えてくれる優れものだ!」
「これなら洗剤いらずです!聖水ならアンデッド対策で冒険者の皆さん持ってますもんね!」
アンデッドに使いたい聖水を洗濯に使うバカは居ないし、聖水は洗剤の3倍は高いのに、それを浸るほど使う。そして、冒険にそんな馬鹿でかい桶を持っていく奴は居ない。という理由から、これは売れないだろう事が容易に想像がつくと思うが…
「じゃあ、取り敢えず20個…」
「要らねぇよ!聖水の方が洗剤より高いし、なによりデケェよ!」
「あたしも絶対に要らない!むしろピュリフィケーションの方が早いし!」
「「そんなぁ?!」」
マジか…露店の店主もこれが売れると思っていたのか…
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「うぅ…お二人が厳しいです…」
「厳しくねぇよ…むしろ良くそれで店をやれてたよな…あたしよりセンス無いぞ…」
昼食のために入った店で反省会。魔力を込めた奴が真っ先に消し炭にされる自動迎撃の魔法人形とか、清潔感を保ち過ぎて、触れた食事が即座に無味無臭になるスプーンとか…どうやったらそんな変なもんばっかり見つけられるんだよ…天才かよ…
「ご注文は?」
「俺はこの定食。食事は俺が持つから何でもいいぞ?」
「じゃあ、あたしこの1番高いステーキ」
「えぇ、流石にカズマさんに遠慮は…」
「御者の代金と、あと尻触られた分だ!」
セレナはこれで水に流してくれるし、俺としては安い出費だ。
「良いよ別に、魔王を倒して得た金だ。二人の退職金だと思って頼ってくれ」
と言うか、ファミレス程度の店で遠慮されるのも切ない。それにしても皆こっちを見ている。こんな美人二人連れているのだから、まぁ当然だろうけど…
「じゃあ、私はパンケーキとパフェを…」
意外にも可愛らしいチョイスだ。いや、砂糖水で凌いでるイメージが強すぎるのか…
「あたし、男の前でだけそうやって可愛いって思われるようなメニュー頼む女って…どうかと思う」
「狙ってませんよ?!」
「ウィズって前は菜食だったろ!」
「あ、あれは体型が気になって…でも、今は殆ど固形物食べられて無いので…」
「…あ、なんか、ごめん…」
辛い…それは聞いてる方が辛い…
「気にすんなよ。俺はステーキ頬張ってる女も可愛いと思えるタイプだから」
めぐみんがデカい唐揚げにかぶり付いてるのとか、結構好きで眺めてた。「あげませんよ!」って言われたけど…
「…カズマって女なら何でも良いのか?」
「そんなわけ無いだろ…いや、けど…」
「「けど?」」
これ言うのは恥ずかしいな…でも、本当だし…
「相手がウィズとセレナだったら、何してても可愛いから何でも良いかもって…」
「そ、それは…」
「うぅ…」
我ながら美人には甘い…と言うか二人共真っ赤になって黙らないで!なんか空気が…
「すみませーん!クッソ苦いコーヒーください!」「紅茶を限界まで渋くしてください!」「抹茶をジョッキで下さい!」
やめて!お食事中の皆さん!煽らないで!俺が悪かったから!
「お客様、こちらシェフからお客様に、『シェフの気まぐれサラダ』のサービスです」
「スライスしたゴーヤしか乗ってませんけど?!」
「気まぐれなので」
「気まぐれが過ぎる!」
「お客様が甘過ぎましたので…」
「なんかごめんなさい!」
もう、早く出たい!
…………………………………
「ご利用ありがとうございました」
支払いを終え店を出る。なんか、飯食っただけなのに凄い疲れた。
「カズマのせいで味わかんなかった…」
「わ、私も…顔が熱くて…」
「ごめん…なんか、ごめん…」
しかし、嘘はついてないし、どんな女でも良いと思われるのも心外だ。他に方法があったなら教えて欲しい。
「まだ尻も少し痛いし…もう宿探そうぜ?」
「宿…そうですよね…私達、今日は一緒に…」
…あれ、そう言えば確かに…これはチャンスなのか?!
「ウィズ…あんた、それわざとなの?溜まってんの?!」
「違います!そんな欲求不満みたいな言い方…別にそんな訳では…」
おや?これ宿で期待して良いやつじゃない?!
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「おぉ!貴女はもしや、闘病の女神を信仰する聖女様では?!」
部屋を取った所、宿屋の店主にセレナがバレた。なんでだろう。俺が平和だと周りのやつが巻き込まれる。これは呪いか?
「いえ、それは誰かが勝手に言っているだけのこと…私はレジーナ様を信仰するただのアークプリーストです。しかし、困り事があるならばお聞きしましょう…」
うん。変装して自分で広めてたよね?聖女の噂話。紅魔の3人に土産屋の中二アイテム渡して広めさせてもいたよね?
「あぁ、なんと言う謙虚さ!そして慈愛に満ちた姿勢!まさに貴女こそ聖女!」
「うふふ、そこまで言われては…期待に応えるしかありませんね」
このカッコイイ聖女様は受けるんだろうな…この厄介ごと…
……………………………………
潰れた教会にゴーストが出たらしい。跡地とは言え聖なる場所に入れるとなればそれなりの高レベルである可能性があるので、こちらのかっこいい聖女様に討伐依頼が出された。ちなみに、そのカッコイイ聖女様は俺の腰にしがみついている。なんだよコイツ。
「カズマぁ…一緒に来てぇ」
「なんで受けたんだよ…と言うか、お前は元魔王軍だしプリーストだろ?専門家じゃないか…」
「カズマは知らないのか?ゴースト系モンスターはこちらの所在を魂で完璧に察知して、普通に物理攻撃してくるんだぞ?!別に雑魚なら良いけどさ!」
「知ってる。何度か死んだ」
「あ…ごめん…」
しかし、これは想定外だ。そうだよな。こいつにとって、高レベルなゴーストは全員仲間だったんだもんな。俺だって、頭のおかしい紅魔族とか、ドMのクルセイダーをなんとかしろと言われたら嫌だもん…厄介だって知ってるし…
「あの、私がなんとかしましょうか?」
「ウィズが?プリーストのスキルなんて使えないだろ!どうするんだよ?!」
「そこは、話し合いで…」
アクセルの墓地ではそんな感じで何とかしてたし、話し合いが出来るならそれがベストだ。
「じゃあ、俺とウィズが行くから、セレナは宿で…」
ガシッ
「独りは無理ぃ…」
ほんと、何こいつ…
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「うぅ、カズマの背中がこんなに頼もしいなんて…」
夜の廃教会に来てみたが…駄目だ。このアークプリーストはゴーストが払えそうにない。
[大丈夫…私の加護なら、霊も苦痛は感じるから]
「レジーナ様の技って、先にあたしが痛いんですからね?!」
そうだね。嫌だよね。
「あの、カズマさん、セレナさん。この教会はまだ少しピリピリします。多分、封鎖されて間もないのかと…そうなると、ここにいるゴーストはそれなりの強敵かも知れません…」
「分かった。最悪の場合、俺が『ターンアンデッド』を使う。基本はアクアバージョンを使うけど、相手が強敵だったり多かったら一度逃げてエリスバージョンを使って教会まるごと払ってしまおう」
「分かった。ウィズ、他になんか作戦はあるか?あたし、ゴースト戦はこれが初だからさ…」
「取り憑く系統の技はここにいる全員に効きません。物理的、魔法的な攻撃だけ警戒すれば大丈夫な筈です。あと、魔法なら普通に効きますから…」
そうなると、問題は先手を取られることだな。アクアとエリスが居ないから、死ぬ訳にもいかないし…
「でも今んところ敵感知に反応ないし…ただの見間違いとか悪戯じゃないのか?」
「あたし、これが悪戯だったら、犯人に小一時間説教してやる。人の迷惑考えろって…」
おい元魔王軍、お前にそんなこと言われても…
「それにしても暗いな…カズマってこれで見えてんのかよ…」
「あぁ、千里眼と暗視で…」
これが冒険者の強みだしな。
「うぅ、頼もしい…惚れそう…」
「今までは?惚れてなかったの?!」
なんか納得行かない!そこは惚れててくれよ!
「大声出すなよ!!バレたらどうする!!」
「せ、セレナさんの方が声が大きいですよ…」
駄目だ。このプリースト、やっぱりポンコツだ。
「誰ですか?!」
「ひぃ!」
おっと!向こうから接触してきた!それにしても、ビビるセレナかわいいな。相手は…神父の…ゴーストか?
「あれ?あれは普通に…人ですね…」
確かに、悪意のない人間なら敵感知には引っかからない。ウィズの言葉は間違いないだろう。と、その時俺の後ろに居たセレナが前に出た。
「こんな夜更けに封鎖された教会に何の用ですか!貴方をゴーストと思った人々が怯えているのですよ!」
突然の強気。人は怖くないもんね。
「私はここの管理をしていた神父です。そもそも、ここは勝手に封鎖されたんです!私は認めていません!」
ん?それが本当ならここはそもそも廃教会ではないのか?
「確かに、そう言われると中は凄く綺麗だな」
「私が毎日掃除しているのです。私は、権力なんかに負けるわけにはいかないのです!」
おっと、この世界のクソワード…権力が出ましたよ…
「権力…なるほど…話を聞きましょう…」
こういう時、権力に蹴りを入れた聖女様は実に話が早い。
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「なんて酷い!そんなの、貴方は悪くないですよ!」
「あぁ、ありがとうございます!分かってくれるのですね!」
何故かリッチーと神父が手を取り合っている。要約すると、身分も宗教も関係なく、愛し合う2人であれば結婚をさせていたこの神父は、アクシズ教の貴族と、エリス教の平民を結婚させてしまった。それが貴族の怒りを買い、執拗な嫌がらせを受け、最終的に教会の封鎖となったそうだ。
「教会を名乗るには宗派が必要なんです。しかし、私の場合はあえてどちらの形式も取らなかった。愛する二人なら、教えも身分も関係ないと信じていたからです。それを貴族に指摘され、宗教を語る詐欺師だと罵られ…」
「分かります…宗派と言いつつ、基本的にはエリス教の形を求められ、それ以外にはアクシズ教の入信書を見せるハメになりますもんね…私も苦労してます…」
お前は蹴り倒してたろ…ヤクザキックで…
「しかし、それは確かに気の毒ですね…」
俺、御神体3人娶ってるけど…そろそろ怒られるのかな…
「ですが、噂になってしまったのであればもう潮時です。本当なら、私が作っていたこの結婚衣装で式を挙げたかったのですが…」
棚から取り出したのは…ウェディングドレス?!自作したのか?!
「凄いです!これほどのモノは、貴族でもそうそう着られないですよ!」
「私もこれほどの物は初めて見ました。これを着ての挙式は、一生の思い出に残りますね」
女性陣のテンションが上がる。確かにこれは見事だ。エリスの着ていた織物の女神様には及ばないが、人間の職人でこれ程のものはそうそう作れないだろう。
「結婚は人生の新しい門出です。それを最高の1日にしたくて、私は10歳の頃から少しずつこれを作りました」
何がこの人を突き動かしたんだろう…
「しかし、これを着せてあげたかった人は、私の姉は…遠い世界に…」
どうしよう。ここまで聴いてしまうと、何かしないと申し訳ない感じになる。などと思っていると、ウィズが俺とセレナに耳打ちをした。
「あの、セレナさんとカズマさんは挙式をしてませんよね?」
「それはウィズも同じでだろ?神父の願いを叶えるなら、結婚に憧れているウィズがやるべきだ」
確かに、この神父の願いを叶えると言うなら、結婚式に付き合うのが一番早いだろう。俺としてはどっちが相手でも得しかしない。
「私もあこがれますけど…駄目なんです。その人、いまでもれっきとしたプリーストですから…私じゃ消えちゃいますよ…ほら」
さっきまで触れていた両手は少しだけ透けている。確かにこれで祝福を受けるのは危険だろう。
「…そういう事なら仕方ありませんね」
セレナは神父の元に歩み寄り、手を取った。
「私はアークプリーストでありながら、彼の伴侶となることを望みました。もし、貴方がそれさえ祝福してくれると言うのであれば…貴方の最後の願い。私達でも良いでしょうか?」
「あぁ勿論です!私の作ったドレスと神父としての私に、最後に仕事をさせてください…」
と言う事で、セレナと結婚することになりました。スピード婚ってこう言うの?
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「ど、どう…かな?」
やばい。どうしよう。素直に言えば見惚れている。でも気の利いた言葉が浮かばない。セレナってこんなに綺麗だったっけ?いや綺麗だったな!
「カズマさんのその表情が、もう答えですよね?」
「カズマ、あたしに見惚れた?」
「…うん。やっぱり綺麗だ」
「そ、そんな真っ直ぐに言うなよ!馬鹿!…でも、ありがと…」
どうしよう。いまのセレナは凄く可愛い!憎まれ口も可愛くて扱いに困る!馬鹿にハート付いてた気さえする!
「いやはや、お二人は本当に仲が良いのですね。まだ挙式前であった事が嘘のようです」
「まぁ、タイミングの問題とか色々ありまして…」
あと、嫁の数とか…
「では、これはきっと運命なのです…ささっ、こちらへ」
促されるままに前に進む。参列はウィズだけの簡素な式だが、セレナと挙式するならこの方が良いのかも知れない。魔王軍に参列してもらう訳にも行かないし…
「では、始めさせて頂きます」
神父は深く息をつく。伝わって来る緊張感と真っ直ぐな視線。参列者がたった一人でも、この神父は全力で祝福してくれる。だからこそ、この人はプリーストとして優秀なのだろう。
「新郎カズマ。あなたはセレナを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
ん?これ日本の奴か?誰かが宗派に関係ない言葉として教えたのかな…
「誓います」
あ、良かった。今回は噛まなかった。
「新婦セレナ。あなたはカズマを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「…誓います」
あれ?なんか成り行きとは言え、セレナが真剣に俺に愛を誓っていると思うと、なんか凄くドキドキする!
「では、誓いの口付けを‥」
促されるままにベールを持ち上げると、頬を染めたセレナの顔が露わになる。この状況は、何というか凄くドキドキする!
「あたしが結婚とか、考えたことも無かった…」
「俺の日記には、ちょっとだけ書いてたぞ。全部本当にするんだろ?」
「うん…最期の時まで…あたしはカズマの隣で幸せでいてあげる…んっ」
幸せにしてくれる訳ではないらしい。でも、そんな言葉がセレナらしい。俺はセレナと唇を重ね、その提案を受け入れた。
「ありがとう、カズマ様、セレナ様。お二人の、新たな門出に…心からの祝福を!」
少しだけ強引ではあるが、彼の夢は叶った。俺はこの純白の花嫁をきっと忘れない。このドレスを着たセレナは、一生の思い出に残るほど綺麗だったのだから…
「ひょえぇ!」
「「ウィズ?!」」
あぁ、祝福の余波でウィズが!!
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「ありがとうございました。私はこれから、姉と共に冒険者になろうと思います」
「あれ?お姉さんは遠い世界にって…」
「えぇ、バーサーカーになってしまいはち切れんばかりの筋肉でドレスが着れないのです。あんな遠い世界に行ってしまうなんて…」
確かにそれは遠い世界だけど…なんか騙された気分!
「貴方の祝福はかなりのものでした。きっとアークプリーストとして、立派な冒険者になれると思います」
セレナ、今日は上手く聖女してんな。ちなみに、ウィズは俺の背中でダウンしてます。
「ありがとうございます。そのドレスは差し上げます。私の夢を叶えてくれた、せめてものお礼です」
その言葉を残して神父は去っていった。こう言う不思議な出会いと言うのも、旅の醍醐味なのかもしれない。
「さて、俺達も帰ろうぜ。ウィズも休ませたいし、報告もしないとな?」
「あ、あのさ…その、宿に戻ったらの話なんだけどさ…」
モジモジしてどうしたのだろうか?
「もう風呂入って寝るだけだと思うけど…呑みにでも行きたいのか?それとも小腹すいた?」
「…今夜はその…初夜だから…」
神様、ありがとう!素敵な旅になりそうです!
[どういたしまして?]
まだ聞いてた!恥ずかし!
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
ウィズと結婚させようとしたらこうなりました。近々ウィズもドレスに袖を通す予定です。
今後ともお暇な時にでもお付き合いください。