先に土下座しておきますが、今回はちょいとテイストが違います。
後々ちゃんと酷くしますので、見逃してください!
モブ目線です!
「公演禁止だと…」
魔王が倒された平和な世界。人類の危機が去ったその世界で、むしろ僕らは最大の危機を迎えていた。
「はい…演劇の内容が、王族に対し不敬であるとの事です…」
新米吟遊詩人の僕は、今日も劇団長に届いた手紙を読み上げる。ただ、今回ばかりはその内容があまりにも重く、普段通りとは行かなかった。
「仕方ない!いくらか握らせて交渉するぞ!その仲介人は!」
「検察官のセナ…鉄の女です…」
「よしやめよう!余罪が増えるからな!」
実のところ、こういう演劇への抗議というのは珍しくない。お互いの認識のズレや原作者の意向、時には名前の使用料欲しさにこう言った話はまぁまぁ出てくる。その時は、ちょっとした修正を入れたり、いくらかお金を渡して公演を続けるのだが……今回ばかりは相手と内容が悪かった。多分、お金なんて受け取ってくれないし、不敬とされる部分を削ると殆ど何も残らない。
「どうする…既に全国公演の会場を予約して、多くの貴族に招待状まで送っている…公演中止は、劇団の終わりと言っても過言ではないぞ…」
「しかし、公演を続ければ不敬罪で逮捕すると通告が来ており…違約金と一緒に投獄の可能性も…」
うちの劇団で公演しているサトウカズマの英雄譚。ちょっと…いや、かなり大人向けの内容ではあったが、刺激を求める紳士淑女に好評で、すぐさま全国公演が決まった。しかし、このタイミングで事件は起こった。アイリス王女がその英雄と婚約、サトウカズマは王族の身内に…その結果、この演劇は不敬な内容であると、王族に公演の禁止を言い渡されてしまったのだ。
「このまま公演を続けるのは不可能…しかし、既にサトウカズマの英雄譚を公開すると広告をしてしまっている以上、異なる物語で納得などして貰えないだろう…あるえ氏の原作使用許可が降りれば、直ぐにでもそちらの演目に切り替えるのだが…」
「それなのですが…あるえ氏より「人のコンプレックスをネタにする劇団には、使用許可は出せない」との回答が書かれた封書が…」
「くそっ!!この作品の何処に英雄のコンプレックスがあったと言うのだ!」
そりゃあんたの趣味で採用しためぐみん様役の女優でしょう…本物と似ても似つかないし、本人のプロフィール見て「こいつ、英雄にしては貧相すぎるだろ(笑)」とか言ってたじゃないですか…あえて言いませんけど…
「それとサトウカズマの英雄譚なのですが、ほぼ作者があるえ氏の物しかありません。恐らく、あの人が英雄になるなんて誰も予想していなかったが為に、情報が残っていなかったものと思われます」
ちなみに、情報がまったく無い訳ではない。前科は沢山残っている。あと悪名も…
「くっ!最近何かと話題だから食いついてみたが、もはや既存の作品には頼れないというわけか…ならば最後の手段だ……新人!」
「はい?」
「…お前…ちょっとシナリオ書け」
「……は?…はぁぁぁ?!」
_____翌日____
「それでアクセルまで本人に会いに来たのかよ…なんつーか、あんたすげー貧乏くじ引いたんだな…」
ここはアクセルの街の冒険者ギルド。そして、彼はダストさん。ギルドの受付さんに紹介されたカズマさんの友人。どう見てもチンピラにしか見えないけれど、パーティーメンバーを除けばカズマさんの一番の悪友と言うことらしい。
「事実を知らずに下手なものを世に出せば、次こそ劇団の取り潰しになりかねません。こういう時は先ずは取材をして、相手のことを理解する所からです」
シナリオの不評により劇団が潰れても、無職になるのは変わらない。少しでも完成度の高い作品を描く為に、僕はカズマさんのパーティに同行をお願いしようとしたのですが…
「すみません。今回カズマさんが受けたクエストは大規模討伐クエストですので…ギルドとしては、自殺に行くような依頼は受けられません。せめて、護衛をつけて遠くから…」
と言うことで、丁度そこにいたダストさんに護衛を依頼して、遠くから眺めさせて貰うことになった。それにしたって…
「で、見た感想は?」
「壮絶です…同行したら数秒で死んでました…」
「だろうな。カズマが居る時のあのパーティーは、マジでヤバいんだよ…」
僕はあるえと言う作家の本を少しだけ読んだことがある。だからこの光景を少しだけ予想していたのだが、やはり本物は迫力が違った…
「セレナ!ホワイトウルフの群れを頼む!ダクネス、ケンタウロスを止めろ!後衛に近付けるな!」
「「任せろ!!」」
最前線で戦うのは、鉄壁の騎士ダクネスと白銀の聖女セレナ。二人は美貌と実力を兼ね備えた実力派で、ダクネスさんはゴーレムさえ止めるほどの防御力を誇るクルセイダー。セレナさんは天界騎士と言う未知の兵を操る攻撃も可能な超変則的ヒーラー。既にこの二人だけでも、下手な軍隊ならば凌ぐ戦力と言われているのに…
「ゆんゆん!ウィズ!相手の進行ルートを絞り込め!集めろ!密集させれば動きが鈍る!」
「ウィズさん!左側をお願いします!『ライトオブセイバー』!」
「任せてください!『カースド・クリスタルプリズン』!」
カズマさんの指示に、完璧に応えるアークウィザードの二人。紅魔の蒼き雷、ゆんゆん。そして氷の魔女、ウィズ。指示が的確なのは大前提だが、その指示に120%答えられる精度の魔法使いはそうはいないだろう。
「カズマ!アンデッドモンスターが紛れ始めた!」
「こちらには下級悪魔です!」
「分かった!アクアはアンデッドを!エリスは悪魔を頼む!範囲は絞れよ!」
「任せなさい!『ターンアンデッド』!」
「行きます!『セイクリッド・エクソシズム』!」
一瞬にしてはるか上空にまで連なる魔法陣。その浄化能力はもはや浄化というより消滅に近い。この二人には説明なんて不要だろう。この目で見るまで信じられなかったが、確かに間違いない。あれは…幸運と博愛の美神、エリス様。そして、混乱と水の女神、アクア様だ。
「いいわ!モンスターが全部範囲に入った!皆下がりなさい!殿は、この子達にやらせるから『クリエイト・ゴーレム』!」
戦場に突如現れた。20体もの巨大なゴーレム。2体同時に出せれば国の精鋭と扱われるようなレベルのゴーレムを、涼しい顔して20体。あれは正しく…美しき厄災、女神ウォルバク。
「ダクネス、セレナ、テレポートするぞ!めぐみーん!!用意は良いな!」
カズマさんの撤退命令で次々と戦場を離脱する彼らは、モンスターを相手取るより緊張感がある。それもそのはず、その名前は…世界的に危険人物とされるその名前の意味するところは…
「素晴らしい!最高のシチュエーションです!今回は時間優先ですから詠唱は破棄します!『エクスプロージョン』!!」
国家戦術魔法より上を行くとされた一撃。個人の持ち得る最大火力を、極限まで高めた純粋な破壊の体現。間違いない!あれは…頭のおかしい子、めぐみん!
「おー!消し飛んだな…やっぱりこれでこそカズマのパーティって感じだわ!」
「これが英雄の力…あのほどのモンスターの群れが、こんな簡単に…」
まるで夢物語、実際に見た僕でさえ、先程の映像が信じられないでいる…それほどまでに、彼らの戦いは壮絶で、正しく英雄譚の題材に相応しい活躍だった。
「今回は順調だったな…どうだ?台本は書けそうか?」
「はい!こんな最高の戦いを見たんです!きっと活劇として最高のシナリオになりますよ!」
その日、僕の筆は自然と見たものを綴った。あの感動が瞼から離れないうちに、最高のシナリオを描く為に!
___________
「同じような内容の本が、もうギルドに売ってる…」
見学から二日後の朝、ついにシナリオを書き終えた僕は、最初にダストさんに見せようとギルドを訪れた。しかし、そこで僕の頑張りは粉砕されることになる。
「こりゃ内容ほとんど同じだな…どこで見てたんだあいつ…しかも製本が早過ぎるだろ…」
「ど、どうしましょう!これ完全にパクリじゃないですか?!」
「まぁ、そりゃ同じ内容見て書いたらそうなるよな…しかも、あるえの本は使用スキルまで詳細だ。こう言うのは先に申請したもん勝ちだしなぁ…」
甘く見ていた。まさかあるえと言う作家がこれ程の速さで本を書くなんて…先に発表済みの本をシナリオに、しかも使用禁止を受けた相手の本を真似たと思われる内容では、絶対にセナさんは許してくれない!
「ダストさん!カズマさんはまた冒険には出ないんですか?!出来れば極秘裏に受ける仕事とかないんですか!あるえ氏に先手を取られない冒険はないんですかぁ!」
この時、僕は冷静さを欠いていたのかも知れない。そんな都合の良い話があるはずなんて無いのに、追い詰められた僕はダストさんになんて無茶を…
「……あるけど?」
「…あるんですか?!」
予想外な彼の言葉に、何故か問いかけた僕のほうが驚いてしまった。
……………………
「個人クエストですか?」
冒険者ギルドの隅っこの席で、僕はダストさんに詳しい話を聞いている。なんでも、今回カズマさんが行うクエストは、政治的に認められないクエストのため、あくまで個人的な協力要請と言うことになるらしい。報酬は、現地で手に入れたアイテムと、カズマさんの事業で使える割引券…こんな条件ではいくらカズマさんでも人は集まらないと思う。
「えっとあれだ…種族的に共存が認められてない相手っているだろ?その種族のお姫様を地獄まで助けに行くって話だ」
ダストさんの説明は煮えきらないが、そういう話なら仕方無い。今でこそ多くの他種族が共に栄えるこの国ではあるが、共存が認められていない種族は確かに実在する。ならば、カズマさんも詳しい情報は伏せるだろう。しかし、問題はその行き先である。
「地獄って…高難易度地帯より危険じゃないですか!ダストさんも参加するんですか?!」
普通に考えれば、アクセルの人間なんて即座に悪魔の餌になるだろう。しかし、何故かダストさんはそのクエストの内容を知っている。つまり、声がかかったと言う事ではないだろうか…
「その姫様には面識なんてねぇんだけどさ…同じ種族の奴に世話になってんだ。やっぱり、借りくらい返さねぇとかっこ悪いだろ?」
どうやら、僕は誤解をしていたらしい。ダストさんは街の評判も悪く、粗雑な態度からチンピラだと思っていた。でも、お世話になったなんて理由で、安い報酬で世間に認めてもらえない危険に、あえて自ら飛び込むなんて…
「ダストさん…もう一度クエストをお願いします。カズマさんの臨む戦いに、僕も連れて行ってください!報酬は先払いします!死んでも訴えないように念書も書きます!その崇高な戦いは、僕が書いて残したいんです!」
「死ぬかも知れねぇぞ?俺だってそりゃ同じだ…」
「…危険は承知の上です」
僕の本気は、ただ真っ直ぐにダストさんを見つめることしか出来ない。本来なら、僕のやっていることは無謀でしかないのだから…
「明日の朝、ギルド前で待ってる。本当に行くなら、着いてきな」
「はい!すぐに準備します!」
さぁ必要なものを揃えよう。紙とペンと、聖水、ポーション、ダガー。この先はまさしく未知の世界だ。
________________
「そんな、個人の呼び掛けでこんな…」
カズマさんが呼びかけを始めたのは3日前。桜前線の衛兵募集期間よりも短いその期間に、彼はとんでもないものを作り上げてしまった。
「よぉ!来たぜ英雄!」「俺達の力、存分に使ってくれ!」「あぁ、恩人の為になら、命くらいかけてやるよ!」「そうだよな!俺たち、なんも返せてねぇからな!」
例の約束の場所…地獄の入口に集まったのは、何万の冒険者、紅魔族、そして…国籍と領地、種族をも超えた、何百の軍隊。そして、彼らは集まった理由に口を揃える。ただ、共存と共栄、そして借りを返す為だと…
「皆すまない。今回の件、ろくな報酬なんて用意できない。でも、俺と一緒に、囚われのお姫様を助けに行ってくれ!それが共存と共栄への第一歩だ!!」
「「「「「おぉーー!!」」」」」
全ての兵士が、真っ直ぐにカズマさんを見つめている。戦争の理由なんて、大半が利益や面子によるものなのに、彼は共存のために、これだけの人を集めた。綺麗事を言えば、種族間の亀裂は信頼があれば埋めることが出来る。しかし、それがどんなに難しいか、いくつもの戦争が、歴史が、嫌と言うほどに証明してきた。だから、僕が見ている光景は、まさしく奇跡で、これが彼の偉大さなんだ。
「怖くないか?いくら戦力が揃っていようと、この先は地獄だ。普通ならベテランも逃げ出す戦場だ。引き返すなら今のうちだぞ?」
「そりゃ怖いですよ…でも、カズマさんが証明しようとしているんです。世界が、国が、種族が…信頼を理由に共に歩めるんだって!だったら、それを伝えるのは僕の仕事です!」
「…そうだな!なら、俺たちが全力で守ってやるよ!俺達の活躍も、ちゃんと本にしてカズマに伝えてくれ!」
「はい!」
こうして僕らは、地獄の入口に踏み込んだ。
_____________
「怪我人は下がれ!前衛は交代して消耗を抑えろ!紅魔族は空の敵を近付けるな!地上のコイツは、首が多いだけでタダのデカい犬だ!魔法は使うな!同士討ちになるぞ!」
目の前に迫る巨大な犬。犬と言うには首が多く、その体躯は人を丸呑みにするほどに巨大であり獰猛。にも関わらず、誰一人重症者は居ない。その理由は、先程から叫び続けているカズマさんの指示によるところが大きい。
「常に左右に展開しろ!首が別々の方向を向いていれば飛びかかることは出来ない!ブレス攻撃を構えたら、顔に聖水を投げろ!深く吸い込ませて肺を焼け!」
「嘘だろ…遭遇して五分で攻略方を…」「あぁ、これが歴戦の英雄か…」「ここには精鋭の軍隊も居るんだぞ…なんで冒険者が一番活躍してるんだよ…」「やっぱり、底が見えねぇな…」
既に討伐した大型の魔物は30を超え、そのうち20はカズマさんの指揮下で倒した物。そして、こちらの被害は数人の怪我人のみ…消耗、及び負傷した人間はテレポートで帰還させると言う徹底した死傷者を出さないやり方で、これほどの成果はもはや異常だ。大型の魔物を、常に最低人数だけで制圧するやり口…彼はいったい何処でそんな戦術を学んだのだろうか…
「あぁ、懐かしいなこの感覚…徹夜で何度も狩り続け、欲しい物は結局得られなかったな…」
徹夜で狩り続けるってなにを言っているんですか?!歴戦の勇者でも、最強と言われた王家でさえ、そんな活躍は聞いたことがない!いや、そうじゃない無理なんだ!人は絶対に消耗する!ポーションだって身体に負担はあるし、一晩連戦するなんてどんな体力でも…
「流石に数が多いか…よし!『ドレインタッチ』!ほら、死にかけでも結構吸えるから、皆に還元するぞー」
「おー!」「頼む!」「これ便利だよなー」「生き返るー」
こ、これか?!魔王軍幹部を脅して手に入れたと言うドレインタッチ!これで相手から体力を吸い続ければ、確かに連戦は可能!それに、これは攻撃にも応用が効く!
「人には優しくとも、敵となれば正しく修羅…これが…これが英雄!」
僕はただひたすらにペンを走らせた。彼が集めた仲間たちも、彼の戦う理由も、全てがこの国の歴史に刻まれるべきものだ。この瞬間、多くの戦士が彼と共に歩んだことを、世界に残すことが僕の使命だと信じて…
………………………
「くそっ!身体が動かない…僕はまだ…英雄達の戦いを記録しないといけないのに…」
「残念だが…英雄達って言うのは間違いだ…カズマ以外、誰一人として立つことさえ出来てねぇよ…あそこで立ってるのは、悪魔とカズマだけだ」
突如この軍隊を襲った上級悪魔の範囲攻撃。僕らは血が煮えるような感覚に襲われ、次々と地面に伏せていく。その中で、何故かダストさんは膝をついただけで耐えていた。彼も実はそれなりの実力者だからだろうか…
「さっきの2発の光は、間違いなく退魔の魔法だ。あんな威力を出せる奴はカズマしか居ない。だから、俺らの運命はアイツ次第って事だな…」
この絶望的な状況でも、何故かダストさんには余裕があった。恐らくそれは、カズマさんを信じているから…
「本人はあんまり強くないって…ダストさんから聞いてたような気がするんですけどね…」
「強くはねぇよ…でも、なんとかするんだ、あいつは。そうやって魔王だって倒した男なんだぜ?よっと…」
誰も立ち上がる事もできない中、フラフラになりながらも立ちあがったダストさんは、僕に肩を貸してくれた。
「だからよ…見届けに行こうぜ依頼人…最後にアイツが、英雄だって所を…」
「いいですね…結末を見に行きましょう」
立つのが限界の脚を必死に動かし、少しずつ彼の元へ…この戦いの結末を、見届けるために…
……………
「やはり所詮はプリーストよ!人間風情では相手にならんな!」ガッ!ゴッ!
僕らがたどり着いたとき、カズマさんは禍々しい悪魔に肉弾戦で追い詰められていた。先程の閃光が彼の魔法の威力なら、彼は魔法戦闘を挑むべきなんじゃ…
「俺達か…俺達が後ろに居るから、魔法の撃ち合いが出来ないのか…」
「そうか!カズマさんの信仰がいくら強力でも、それは僕らを守る力にはならない!だから、相手に魔法を唱えさせない為に…あえて不得手な接近戦を!」
ここまで来て、僕らは結局彼の荷物にしかなれない…これだけの人が居ても、彼の隣では戦えない。そんな無力さに打ちのめされながら、それでも僕はペンを走らせる。これが、吟遊詩人の戦いだから…
「カズマ!くそっ!駄目だ!動けねぇ!」「せめてヒールが届けば…」「俺たちはなんて無力なんだ…」
無力感に苛まれているのは、僕らだけではない。彼らの悲痛な声も、僕は記録しなければならない。この結末がどうあろうと、ここまで共に戦った、彼らの崇高な魂を遺族に伝えるために…
「お前ら!絶望するのはまだだ!後少しだけ…俺のことを信じてくれ!」
しかし、この絶望的な空気の中。突然カズマさんが右手を掲げて大声を出した。その異様過ぎる光景に、悪魔も咄嗟に距離を取る。この状況で、彼は何をしようというのか…でも、僕らの答えは決まっている。僕らは全員、彼を信じてここまで来たんだから!
「あぁ!信じるぜカズマ!」「お前ならやってくれるってな!」「俺たちは、お前を信じて付いてきたんだ!」「ここで終われねぇよな!」「信じてるぜ!英雄!」
「「「「カズマ!カズマ!」」」」
この絶望の中。最後まで彼を信じる仲間たちのコール。ステータスにはなんの効果も無いはずのこの行動。でも、彼はそれさえも力に変えて…その右手に掴んだ。
バシュッ!
「嘘だろ…」「あれって!」「女神が使った技と同じじゃ…」
あぁ、僕はこの光景を、なんて説明すれば良いのだろう…
「馬鹿な!英雄といえど人の子に過ぎん筈だ!その力は…まるで!まるで!!」
ボロボロになった最高位の悪魔が、ただ後ずさる事しか出来ないこの状況を…
「俺の後ろに、こんな俺を信じてくれる人達が居るんだ…だから…ここで負ける訳にはいかないんだよ!」
僕らの英雄が、右手から女神様と同じ光を放っているこの状況を…
「いけぇ!カズマ!」「お前に託すぜ!俺たちの願いを!」「俺達の希望を!願いを!お前に!」
いや、きっと見たままに書けばいいのだろう。歴史の証人は、何万人と居るのだから…だから僕も…
「勝って!カズマさん!」
「喰らえ!これが…これが人の願いの力だ!『ゴッドブロー』!!」
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに突撃していく彼の身体。数mの距離を一瞬で詰め、その右手は悪魔の身体を捉えた。
ガキンッ!
「ぐおぉ!!まだだ!この鎧は悪魔の宝具!ここに我が魔力を集めれば、その切り札とて通りはしない!先に砕けるのは、貴様の右手だ!」
その言葉に嘘はないのだろう。確かにカズマさんの右手は止められた。でも、僕らは誰一人として不安など抱えていない。悪魔からは死角で見えない彼の左手。そこには、右手とは比べ物にならない光が宿っているのだから!
「これで倒せるなんて思ってねぇよ!だから、本命はぁ!」
「馬鹿な左手にも?!いや違う…これは、この技は先程のより更に!」
悪魔が焦った所でもう遅い。少しでも力を緩めれば、彼の右手が悪魔を貫く。しかし、そこに集中している限り、左手の一撃は止められない!彼はこの土壇場でも、常に先を読んで居る!
「これは!愛と悲しみの鎮魂歌!震えて眠れ!」
「くそぉ!私が人間風情にぃ!」
「『ゴッド…レクイエム』!!」ズドーン!!
眩い閃光と、鋭く打ち込まれた打撃音。その光が晴れたとき。僕らは彼に歓声を送った。
______________
「劇団長、書けました!これが僕の…最高傑作です!」
地獄から帰還した僕は、ダストさんに別れを告げ、急いでシナリオを書いて劇団に戻った。直前にあるえ氏の新刊も確認したが、今回の件は本にはなっていなかった。ダストさんの読みが当たっていたのだ。
「街から衛兵達が消えた理由はこれか…人々の知らない所でこんな偉業を…これは売れる!直ぐに台本をあげるぞ!王族だって、彼の偉業を止めようとは言わない!俺たちが彼の活動の背中を押すんだ!他種族との共存と共栄を謳えば、きっと王族も俺たちを見直すはずだ!」
こうして劇団の危機は去り、僕らはもう一度英雄譚のあり方を見つめ直した。彼の偉大な活躍は、きっとこれからも語られる。すべての種族との共存と共栄が、あたり前になるその日まで……
_____また数日後______
「なんでお前、また居るんだよ…」
実に不本意な理由だけど、僕はまたアクセルの街を訪れた。その理由は…
「だってぇ…カズマさんは人気なんて無くてぇ…綺麗所のパーティメンバーが出ない演劇はクソって言われたんですよぉ…」グスグス
残念ながら、共存や共栄なんて皆どうだって良かったのだ。そう、ただエッチだから人気が出ただけなのだ。こんなの、飲まないとやっていられない!
「えっと…じゃあ、次は綺麗所の取材にでも行くか?」
「おねがいじまずー」
こうして、僕は当面の間アクセルの街に滞在することになった。まぁ、主に違約金の取り立てから逃げる為にだけど…
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
カズマさんが英雄のようだと感じた方もいるかも知れませんが…いや、いちおう彼は英雄なんですが…すぐに次の話でぶっこわします。
例の王様の勘違いから考えたネタですので、本人目線の話が次回です。