家庭の味とかいうワードで思いついたネタです。
コーンフレークじゃないのでご安心ください。
またお暇なときにでも、お付き合いください。
「ほう、これが新たな商品のアイデアか…」
「あぁ、この世界の食品事情を変えると言っても過言じゃないはずだ」
日本から帰還した俺は、バニルの元へ新しい儲け話を持ってきた。今回は、新たな製品の開発アイデアだ。
「ふむ、今回は加工法からとはな…して、どのような?」
「急激に冷やした食品を真空に入れ、特殊な保存食を作る。この案なら、魔法を使えば出来る筈だ」
俺は簡単な草案をバニルに差し出す。今回はこのアイデアがメインと言っても過言ではない。そこからできる商品に関しては、過去にアイデアだけは提案したことがあり、既にバニルも把握している。当然、その加工法が分からなかったので、無期限凍結となっていたのだ。
「ふむ。密閉可能な容器の中を氷結した後、逆止弁のついた蓋をして風魔法で空気を抜くか…これなら確かに可能だ。さほど難しい工夫もいらん」
そう、これはいわゆるフリーズドライ製法。これが可能なら作れるはずなのだ。カップ麺を始めとする多くの保存食が!ちなみにこれは、弟の漫画から得た知識だけど…
「じゃあ、俺の持ち帰った製法と魔法があれば、ついにカップラーメンが作れるわけだな!どうだバニル、これは売れるだろ?!」
「あぁ、これは素晴らしい!これならまさに市場独占!キャンプ時の調理が焼くだけ煮るだけが精々な冒険者界隈では、かなりの需要が見込めるぞ!」
流石に日本レベルの保存期間は望めないだろうが、クエストに持ち込むなら5日も保てば十分だ。だって、そこを比較される競争相手なんて、そもそもこの世界には居ないのだから!
「あの、お二人の言うとおりにするだけなら私でも可能ですが…それを美味しくするのは結局自力なんですよね?私、そんなプロ並みの技量は無いですよ…」
ウィズの気にする部分も確かに課題ではあるが、そこに関しては期間限定で凄いのが味方にいる。そう、バニルの隣の、布の中に……
「ふはははは!よくぞ聞いてくれたぞウィズ!そうだ!確かに美味ければ美味いだけ客層はより一般層へ広がるであろう!そこで、こやつの出番という訳だ!」バサッ!
「むー!むー!!」
バニルが何かに被せた布を外すと、そこには縛られた天使がいる。バニルには何か個人的な遺恨があるらしいが、この状況に俺は文句を言う権利はない。なぜなら……
「え?これ大丈夫なんですか?!バニルさんが天使様にこんなことしたら、天界と地獄の戦争になるんじゃないですか?!」
「いや、これをやったのは盗賊女神であり我輩ではない。借金返済のための働き口を探しているとの事だったので、馬車馬のように扱き使うつもりだったのだが…いやはや、役立ちそうな仕事がちょうど飛び込んできおったわ!」
「………え?これエリス様が?!」
そう、天使を拘束した犯人はエリスなのだ。
……………………
「あんまりです!いくら私が真面目に働かないからって、まさか悪魔の元で強制労働なんてありますか?!そんなの女神でも許されない命令ですよ!」
逃亡防止に簀巻きのまま轡だけを外してやると、案の定天使が喚き出す。真面目に働かない事を自覚していて、良くもまぁそんな強気に文句が言えるもんだ…
「やかましいわ!命令があれば邪神にも仕える天使が何を偉そうに!」
あ、そうなんだ…邪神でもコイツの面倒は嫌がりそうだけど…
「しかし、安心しろ下っ端天使。貴様はあくまでオーナーの小僧のもとで働くのだ。だが、その職場には人材管理として吾輩がおり、サボったら見張りのバニル人形が自爆するというだけである!」
「くぅ…なんで私がこんな目に!」
「いや、なんでってお前…無賃入園した分を働いて返金させる為にエリスが連れ戻したんだろ…」
「……おい貴様、本当に天使なのか?」
「……」プイッ
なお、公安のマークしてる取調室から犯人が消えたので、ちょっと日本の警察はてんやわんやしている。なんか迷宮なしの名探偵まで調査に参加しているそうだ。真実は異世界転移!分かったとしたらソイツは探偵じゃない。多分エスパーだ。
「まぁ良い。貴様の仕事は、愛するラーメンのレシピをここに書き記してくれれば良いだけだ。そうすれば汝の出番は終わり、後は我々の仕事だからな」
「天使の舌は凄いからさ。美味しいラーメンの作り方も知らないかなって…」
「…分かりましたよ。カズマ様に期待されては断るわけにはいきません。私の知るラーメンのレシピを……えっ?まさか全部ですか?!」
「え?そりゃ出来る限り全部のつもりだけど?」
そんなに驚く内容だろうか?
「おっとぉ?!オーナーのご意向が全部であれば、吾輩はもう汝に全部書いて貰うしかあるまい!いやー!心苦しい!実に心苦しいぞ!!……ほれっ!」
ドサッ
天使の目の前に放り投げられたのは、まるで国語辞典のような厚みの紙の束。その一枚一枚に書かれているのは、俺でも知ってるラーメン店の数々…
「え、天使ってこの名店の味を全部把握してんの?なんのプロなの?!」
「さっと見通しただけで少なくとも4000。各店舗で複数のレシピを把握していれば更に数倍といった所か…さぁ、いつ終わるかなぁ?!あぁ、今日終わらなければ、時給3時間分を差し引いて店主の部屋へ泊めてやるぞ?」
うわぁ、煽る煽る…そして巻き込まれるウィズ…
「え?それじゃ私は…」
「小僧の部屋で預かって貰う。明日は定休日であるし、どうせラーメン作りには小僧が必要なのだ。明後日からは一緒に通勤すれば良い。なに、吾輩から新婚への粋な計らいである!」
「天使様……何日かけてもいいですよ!」キラキラ
天界との確執か、それとも個人的な遺恨なのか、天使に対するバニルはいつもより嫌なヤツだ。こうしてウィズと言う逃げ道まで封じるのだから…
「くっ!悪魔め!私の特技をあえて困難に繋げようとは!これがお前らの、やり方かぁ!!」
でも、そんなに多いなら話は別だろう…流石にそんなに俺も作れないし…
「別に無理しなくて良いんだぞ?別に美味しい順に10軒もあれば十分で…」
「カズマ様まで何を言うのですか?!私が選んだ店は全てが満点と言える店!そこに優劣を付けろと言うのですか?!」
あ、こいつ真面目な時も面倒くさいタイプだ…
「いや構わんさ!汝が面倒だと思う程度の店は不要であるぞ!どうせその程度の店だろうからなぁ?!」
「ぐぬぬ!良いでしょう、やってやりますよ!全店舗きっちり書いて、私が味を証明してやりますよ!私は、ラーメンに嘘は付かないって証明してやりますよぉ!!!」
なんで仕事より、ラーメンに誠実に向き合ってんのコイツ…
「はははは!やってみるがいい!吾輩を唸らせたら土下座でも何でもしてやるぞ!」
「その言葉を忘れんなよ!このクソ悪魔がぁ!!」カリカリカリ!!
いや無理だろ。バニルは人の食い物は食わないし…
「おっと、そうだ小僧。お前の方でもう1つ考えて欲しいものがあるのだが…」
「あぁ、別に良いけど…」
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※めぐみん視点
「家庭の味…おふくろの味…」
「よしよ〜し…ママですよ〜」
夜遅くに仕事から戻ったカズマは、何故か暗い顔をしてウィズに手を引かれて帰って来ました。そして、何も言わずアクアの膝に頭を乗せると、何かをつぶやき始めて今に至ります。
「ウィズ、カズマはなんであんなことになってるんですか?」
「分かりません…バニルさんが家庭的な味の製品も欲しいと相談してから、ずっとあんな感じで悩んでいて…」
家庭の味?それでカズマがあんなことに…
「不本意な形とはいえ里帰りしてたんですし、家庭の味は味わったと思うのですけど…」
「むしろ、味わってしまったから…じゃないかな。終わりが確約された再会、最後になると分かってて感じる母の温もり…今のカズマさんは、失ったことを嫌でも実感させられていると思うんだ…」
「そ、そっか…本当は再会しちゃ駄目なんだもんね…」
ゆんゆんとあるえは、紅魔の里を出る時に少しだけ泣いていました。私は爆裂魔法の為に乗り越えることが出来ましたが、カズマは望んでこの世界に来たわけではない。きっと、この二人よりも家族への渇望は強い筈です…
「あるえ、ゆんゆん。明日は早くから料理をしませんか、紅魔の里はカズマの祖国と似たような文化だった筈です。味噌汁もすき焼きも、全部カズマの国から伝承されたものだそうですし…」
「……それは、忘れたいことを思い出させてしまうんじゃないかな?」
「そうだよめぐみん…今はそっとしてあげよ?」
今故郷の味を思い出せば、カズマが辛いことくらい分かっています。でも、私は…
「私は負けたくない。カズマの思い出に負けたくないんです。和食を食べたら、隣で笑う私達を思い出して欲しい。味噌汁を飲んだらゆんゆんを、生姜焼きを食べたらあるえを、おにぎりを食べたら私の顔を思い出して欲しいんです。美味しい物を食べる時は、私達と一緒に笑顔で居て欲しい!だから、落ち込むカズマの記憶を塗り替えてやりたいんです!」
「めぐみん……」
「めぐみんさん……」
でも、これは私の身勝手。カズマがそれを望んでいるかなんてわかりません。叱られるかも知れませんし、少しだけ嫌われるかも知れません。だから、駄目なら私だけでも…
「あぁ…そうだ、そうだとも!私達は紅魔族だ!何もしないで敵が去るのを待つなんてあり得ない!勝とう!16年の思い出が辛いなら、30年先まで幸福な未来を見せてやろうじゃないか!」
「うん!私も、カズマさんのお母さんにも負けない料理を作るわ!」
「はい!他の皆さんも巻き込みましょう!カズマさんの家庭の味は、今度は私達が作るんですから!」
敵はカズマの人生そのもので、それを判定するのもカズマ。余りに無謀な戦いに、私達は挑むのです。そう、ただ笑顔があふれる食卓の為に!
……
「ねぇ、カズマさん…今からでも何か食べる?」
「……霜降り赤蟹」
「…ちょっと…本当は割と余裕でしょ?」ジトー
※母の味がコーンフレークしか浮かばなくて切なくなっているだけです
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※再びのカズマ視点
「んっ…おはようウィズ」
「…おはようございます」
目覚めと同時に、視界に映るのは甘えた顔のウィズ。上級淫魔のスキルを重ねることにより、精気を吸う力は互角になった。これで命の危険なくウィズの事を抱けるようになった訳だが…
「ウィズは精気が吸えないと、甘えん坊の欲しがりになるんだな…」
「それはもう…忘れてください…」
かわいい。昨晩も含めてとても可愛い。
「と言うか、私カズマさんに食べたいものを聞いたじゃないですか!なんでこんな事になるんですか?!」
「ウィズの身体は、どこも最高に美味しかったよ?」
「あ、ありがとうございますぅ…」
お礼言っちゃったよ…いいのか…
「いえ、そうじゃなくて!私を食べたいなら…それは何時でも良いんですけど…今はカズマさんの為に家庭の味を届けたいんです!だから、ご両親との思い出の味とか聞きたくて…」
「えっ、それって…」
そっか、俺が母さんのコーンフレークに凹んでるのを見て…
「それなら、ウィズが1番得意な料理を頼むよ。俺にとっての家庭の味は、もう母さんの味じゃないんだからさ…」
「カズマさん……はい!私、妻として恥ずかしくない一品を用意しますね!」
表情が明るくなったウィズは、いそいそと身支度を整えると、一礼して俺の部屋から出ていった。全く…俺は本当に果報者だな…
「さて、じゃあまだ朝早いし、俺は二度寝を……」
バターン!
「おはようカズマ!朝食が…なんで裸なのだお前は?!」
「おやおや、カズマ様は裸で寝るタイプでしたか…ふふっ」
えっ、なにこれ?なんでクレアとレインが来てんの?!
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「まったく…こんな朝早くからどうしたんだよ…」
流石に客人を無視して布団に入っているわけにもいかず、俺は観念してリビングに降りてきた。にしても、クレアとレインだけとは珍しい。アイリスに付いてくるなら分かるけど…
「ふん!お前がまだ乳離れ出来ていないと紅魔の娘どもから聞いてな!笑ってやるついでに朝飯を持って来てやったんだ!」
「クレア、カズマ様の裸にドキドキが止まらないのは理解しますが、せめて顔を見て話しては?」
「ドキドキしてない!」
逆にレインはずっとガン見してたけどな…ムッツリか?
「と言うか乳離れって…別に両親が恋しくて凹んでたんじゃないぞ。むしろ乳をかけて食うものしか浮かばなくて凹んでたくらいだしな…」
「なんだそれ…まぁ良い!少し予定とは違ったが、可哀想なお前に私の得意料理を振る舞ってやろう!ありがたく思え!」
「え…まさかアレを…」
自信満々なクレアに対して、少し心配そうなレイン。しかし、素直じゃないだけで俺を心配してくれたことに変わりはない。なら、今回くらいは素直にクレアの気持ちを受け取ろう。多少の不出来は多めに見ても…
「ほらカズマ…カレーだ…」コトッ
「……え?」
なんか、すっごいドロドロで濃厚なのが出てきたんですけど…うわ、肉がデカい!
「どうだ!この食欲を誘う香り!私が武力だけの馬鹿な女では無いことが少しは分かったんじゃないか?謝るなら週5位でなら作ってやらなくも…」
「いや、馬鹿って認識は何1つ変わらねぇよ?!朝からカレーって正気かお前!」
朝からこれは重いだろ!
「ふんっ!やはりお前は一筋縄では行かないようだな…仕方ない。ほら、ロースカツだ…」サクッ
あら、揚げたてジューシー…
「いや、やっぱり馬鹿だろ?!更に重くしてどうすんだよ!なんで朝からカツカレーなんだよ!!」
「馬鹿はカズマだ!我々は冒険者だぞ!朝からしっかり食べないでどうする?!そしてついでに勝負にも勝つのだ!」
「栄養になる前に腹痛くなるわ!むしろ負け要素が増えてるじゃねぇか!」
「えっ…そんな筈は……」
駄目だ!前衛職は体育会系で、俺たち後衛職とは根本的な部分が違う!と言うか、クレアにはそう言う教養は無いのかよ…
「だから言ったではないですか……朝からカレーなどありえません。では、ちょうど当て馬が恥を晒しましたので、カズマ様には私の朝食をご用意しますね?」
「レインって、実はしたたかだよな…まぁ、常識面では信頼してるけど…」
まぁ、それでもレインは常識的だ。流石にクレアのような暴挙には出ないだろう。クレアには悪いが、俺は安心してレインの朝食を…
「では、私の得意料理、パンケーキです」
「おぉ!お洒落で貴族っぽ……くない?!なんだこの生クリームとチョコソースの量?!」
これ写真用のやつだろ!食うためのバランスじゃないぞ!
「あ、そうですよね!カズマ様は男の子ですもんね!では、追いクリームを…」
「おい馬鹿が増えたぞ?!いらねぇよ!むしろクリーム半分でいいわ!」
「そんな!それでは何を食べるというのですか?!」
「パンケーキ食わせて?!」
くそぅ!なんかレインもおかしい!これは普通に栄養になる部分で比較したらクレアのほうがまだマシだ!
「ふっ!やはりレインのそれはおかしいではないか!よくも私のカレーを馬鹿に出来たものだな!」
「聞き捨てなりませんね!これはカズマ様が甘いのが苦手なだけです!このパンケーキは王都で大ブームになり、皆が朝から並んでいるんですからね!」
「朝から並んでも食えるのは昼からだろうが!それならカレーは不動の人気だ!」
「カレー専門店も朝はやってませんから!」
「「ぐぬぬ!」」
え?なにこの馬鹿な争い。俺これ逃げて良い奴?絶対にどちらの味方にも付きたくないんだけど…
「カズマのところの爆裂娘は、朝から私のカレーを喜んで食べていたぞ!」
「その後に私のパンケーキで口直ししてましたけどね!」
うわ、めぐみんすげぇ…多分それデザートだよな…あいつの胃袋はマジでなんの参考にもならねぇけど…
「やはり食べて貰って雌雄を決する他ないようだな…」
「えぇ!望むところです!」
やべ!早く逃げないと…
ガシッ
「おいカズマ?どこへ行こうと言うんだ?」
「カズマ様、私のパンケーキが減ってませんよ?」
「…これ、食べないと駄目なやつ?」
「最後は結局味だからな!」「食べずに料理の良さはわかりませんからね!」
うん、違うんだよ。味とか良さとかの次元じゃないんだ…
「いや、食えるよ?食えるけどその後の事とかは…」
「「さぁ、召 し 上 が れ 」」
駄目だ!こいつら有無を言わせるつもりがない!
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「いや、なんで逃げないんだよ…そんな腹痛起こしてたら、あたしの所に来るのも辛かったろ…」
逃げ道を失った俺は、観念してカレーとパンケーキを完食した。そして、油分の多量摂取により腹痛を起こしてセレナの元に来た。正直、片方だけにしておけばこんな辛い思いはしていなかったとは思うのだが…
「あんな泣きそうな顔されたら断れねぇよ…」
女ってズルい。特に美人ってズルい。要らないって単語に露骨にショック受けるのは本当にズルい。
「ったく…本当にカズマは馬鹿だな。そんなことだから付け込まれるんだぞ?」
「セレナに言われるとスゲー説得力だよ…マジで…」
こいつ、そう言う駆け引きのプロだしな…
「ほら、楽になりたきゃこれ食いな」
「いや、腹痛いときにサンドイッチってお前…」
何コイツ、嫌がらせか?
「油で胃が辛いときはキャベツが良いんだ。胃の粘膜を治してくれるからな」
「マジか…焼肉の最初のキャベツってちゃんと理に適ってたんだな…」
セレナの勧めてくれたサンドイッチは、瑞々しい野菜サンド。普段ならハムくらい求めてしまうところではあるが、腹の辛い状況ではこれがありがたい。では、早速…
シャキッ
「…美味っ!なにこれスゲー美味い!薬草や香草も入ってる!」
口の中に香草や薬草の独特の香りが広がるが、それが不快になることはない。こういう健康食品は我慢して食うものだと思っていたが、これは自分から食べたいレベルだ。
「子供が野菜食わないって相談を受けたりもするからさ。あたしもいつか母親になるかも知れないわけだし、ちょっと頑張ってみようかなって…」
「そっか…こりゃ良い母親になるわ」モシャモシャ
食事とは娯楽でもあるが、やはりメインは栄養摂取だ。こうしてどちらも叶えられるのが理想的な食事であり、育児には必要不可欠だろう。そして、薬草まで美味しく食べられるなら、これはもう投薬とも言えるレベルだ。もう、これだけで随分と腹が楽になった気がする。
「なぁカズマ……母親には、一人じゃなれないんだって…知ってるよな?」
俺の言葉を聞いたセレナは、窓の看板を休診中に切り替える。切れ長の凛々しい目は挑発的で甘えた視線になり、その頬はこの後を期待して朱に染まっている。だが…
「いや、流石にカレーとパンケーキに胃をやられている訳だし…今はちょっとそう言う気分には…」
「ふ〜ん?ここは素直な癖に…」
あれ、息子さん?なんかフルパワー状態ですか?!いやいや、そんな馬鹿な?!
「はっ!まさか…『鑑定眼』」
サンドイッチ。『媚薬効果』『回復効果』『精力増強』
「お前これ?!」
「油断したな?気付かれずに毒を混ぜる技術があるんだから、薬や薬草なんて余裕だろ…」
こいつ!サンドイッチにそっちの薬草も仕込んでやがったか!
「辛いなら無理しなくて良い…今日はあたしが食べてあげる…」
くっ!これではまるで絵本!食べさせられてから食べられる展開になるなんて!しかし、性的にならめっちゃ食べられたい!
「お、美味しくないかも知れませんけど…」
「いいよ…いっぱい苦くしても…」
あぁ…たまにはこうして年上美人に手玉に取られるのも、悪くないかも……
…………………………
「うぅ、意地悪…」
開始たったの15分、ありえない速さの即落ち2コマでセレナが墜ちた。理由はなんとなく察しが付いているが…
「セレナ、お前味見したろ?その媚薬サンドイッチ味見したろ?!」
「だって…不味かったら悪いし…」
そりゃ自分まで高感度になってりゃしょうがない。俺には殆ど効かないのに、こいつも中々のアホだ。まぁ、俺に不味いもの渡したくないと言う部分は、可愛らしいとは思うが…
「うぅ…あたしに家庭の味なんて作れないし…こうして色仕掛けで元気付けようと思ったのに…」
家庭の味が作れないからって家庭を作ろうとする力技。魔王軍幹部、実は大胆なやつが多い。実は馬鹿とも言う。
「あ!ウィズにはサンドイッチ貰ったって言えよ!身体の方は言うなよ!」
「分かってるよ。甘いデザートは別枠で貰ったということで…」
「おいやめろ!変な笑顔で見られるから!!」
診察椅子から立てないセレナを置いて、俺は診療所を後にする。腹は楽になったわけだし、取り敢えずはアクアを探そう。あの馬鹿が悪乗りしたら、ろくな事にならないから!
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「あ、お兄様!」
「おぉアイリス……何持ってんだ?」
アクアを探していると、大きな荷物を持ったアイリスに遭遇した。あの二人が俺の話を知っていたのだから、アイリスが知らない筈もない。多分、その荷物の中身はなにかの食材で…
「これは王都から持ってきた高級なお肉です!私もめぐみん様に負けない料理を作りますからね!」
「そっか、ありがとうアイリス。うん…凄いね…サシとか脂分とか…」
なんでだよ!俺は脂に飢えているとでも思われているのか?なんでこうも重いものばかり用意されるんだ?!
「私もこれで最高の一品を作りますから!楽しみにしててくださいねー!」
「あっ、うん。ありがとう、楽しみにしておくよ…」
その無垢な天使の笑顔に、俺は辞めてくれだなんて言えない。祈ろう…誰でも良いからセレナ枠の人が居てくれることを!
「おや、良いところで会ったな小僧!実は試作の二郎系ラーメンの試食を…」
「おいやめろ確信犯!それもう名前だけで胃が痛いわ!」
「ははは!素晴らしい悪感情である!さて、ここで小僧に耳寄り商品のご紹介だ!明日猛烈な腹痛に襲われる代わりに、今日は鋼鉄の胃を手に入れられるポーションがこちら!5万エリスだが、さて、どうする?」
「なんでそんなリスキーなもんを勧めてんだ!そんなもん必よ…」
と、途中まで言いかけた所で、俺はその言葉を飲み込んだ。そう、バニルの後ろを通過するでかい荷馬車に、首を切断されたワイバーン…そして、その馬車に乗り合わせている。ダクネスとウォルバク……
「すみません…ください…」
何が出てくるかもわからないこれからの戦い。俺はもう悪魔にもすがるしか無いのだった。
「取り敢えず、私が倒すのはこれだけでいいの?」
「あぁ、既にクラーケンも手配済みだからな!」
いや、これ鋼鉄でも足りねぇだろ!
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
キャラの料理ネタを思いついたから垂れ流しましたが、朝からカツカレー出すクレアが1番のオチだった気がします。
また不定期ですが、引き続きお暇なときにでもお付き合いください。