料理というか飯のネタです。相変わらず酷いネタですが、お暇なときにでもお付き合いください。
うちのパーティーは、基本的に食事を当番制で作っており、全員がそれなりの技術を持っている。しかし、各自にも弱点と言うものがあり、高い食材を前にすると手が震えるめぐみんや、得意料理が魚しかないウォルバク。そして、そもそも味覚が独特すぎて料理は上手いのに美味いものにならないアクアなどが代表例にあげられるのだが…
「カズマ見てくれ!お前のために仕留めたワイバーンだぞ!これで私が最高の逸品を作るからな!」
こうやってやる気に満ち溢れたダクネスも、不器用と空回りが原因で盛大にやらかすことがある。
「それは有り難いんだけどさ…ワイバーンって、ここまで脂乗ってたっけ?」
「ああ、これは繁殖前の群れのボスだ。繁殖を控えたボスは配下に狩りをさせるため肥えていて、もはや過剰と言われる程に脂が乗っているんだ。あぁ…私もいつか、カズマを肥えさせるために顎でこき使われるのだろうか…」ゾクゾク
「うん、それはしないし別に肥えたい訳じゃないから帰っておいで?」
そもそも脂が乗っている生物の、更に過剰なほど脂が乗っている個体を用意する辺り、既にダクネスの暴走は始まっているとしか思えない。しかし、こんなに嬉しそうにワイバーン肉の良さを語られては、「脂ヤバくて食うの辛いからいらない」なんて言えるわけがない。
「その上質でしつこくない脂はいくらでも食べられてしまうって魔王軍のトロールやオーガには評判だったわ。まぁ、魔王は胃痛と胸焼けで死にかけてたから、私は食べてないけれど…」
そう思ったなら止めろよウォルバク。なんだよ…食べやすいだけで普通に胃にダメージはあるのかよ…
「えっと…ちなみにダクネスはこれで何を作るんだ?」
「コースの肉料理だ!」
「へぇ……え?!」
……コース?ダクネスが?!
「驚くのも無理はない。しかし、カズマが不在の間。私は実家で何をしていたと思う?」
「筋トレ?」
「違う!私をすぐ筋肉に結び付けるな!」
いやね?俺は結構好きだよ?腹筋撫でると可愛い反応する所とか、めっちゃ締まる所とか。
「カズマに子作りを迫る練習じゃないの?」
「…そ、そんな練習はしてない!し、してないからな?!」
「うん、なんかごめんね?」
別に普通に誘えば良いのに…
「私はカズマが不在の間に、メイド達に頼み込んで花嫁修業をしていたのだ。もはや今までの私と思われては困るな」
「「おぉー!…………お?」」
今の言葉に、自然と疑問が生まれる。ウォルバクも同じことを思ったようで、俺の方に顔を寄せた。やだ…美人だから近いとドキドキする…
「……つまり、その努力は数日だけってことよね?」(小声)
「やっぱりそうなるよな…俺が不在だった期間だけだもんな…」(小声)
どんなにダスティネスのメイドが優秀だとしても、たった数日であの不器用なダクネスがコース料理など作れるようになるのだろうか?器用さを人並みにするだけでも、レベルを20は上げて全部器用さに振る必要があると思うのだが…
「ねぇダクネス…コース料理なんて不器用な貴女が数日で覚えられる気がしないのだけど…助手は何人つくのかしら?」
「私だって恋する乙女だぞ?!なんで家庭料理にメイドを使う前提なんだ!」
「「だって不器用だし?」」
「ひゃうん!」ビクンッ
しかし、ダクネスは不器用で暴走しがちだが馬鹿ではない。俺の為の料理に、そんなギャンブルをするとも思えないのだが…
「私は自分が不器用なのは承知している。だから、私でも出来るようにメイドたちがレシピは用意してくれたのだ…」
そう言ってダクネスが取り出したのは可愛らしいメモ帳。こんな紙切れでダクネスがコース料理なんて作れるようになるとは思えないが…
『サラダの作り方(お嬢様用)適当に葉野菜を手でちぎります。油は小さじだけ、塩は一摘みだけにしてください。味が薄いと感じたら、そのままでも食べられるすりおろしチーズで味を調整してください。包丁は使わないでください。お願いですから、まな板とキッチンは切らないでください…』
………これ、後半なにがあった?
『ポタージュの作り方(お嬢様用)柔らかくなるまで煮込んだカボチャをザルに押し当てて濾します。牛乳を入れてのばしたら、またかき混ぜながら煮てください。下手なことはしないで小瓶の塩だけで味を調整してください。あと、グツグツのかぼちゃを素手で握るのはやめてください。飛び散った欠片も凄く熱いです…絶対に握りつぶしてポタージュにしないでください…熱さを楽しまないでください…熱いから気をつけてって言うのはフリではありません…』
うわぁ…予想通りだよこのバカ。
「おいダクネス。お前、その数日でどんだけメイドさんに迷惑かけた?」
「待ってくれ!キッチンも別に切断したわけじゃないんだ!ちょっと包丁が食い込んだだけなんだ!ポタージュだって多少飛んだが美味しくできたぞ!」
うん、それ普通にクソ迷惑。
「なるほど…だからうちのまな板って頻繁に新しくなるのね…でも、ダスティネス家の人たちは分かった上でそれを渡したんでしょ?だったら、ダクネスでも本当にコース料理が作れるんじゃないかしら?」
「そう言われると、この内容なら大きな間違いは起こらないような気がするけど…」
実際、多少雑な内容ではあるものの、大きく失敗しないようなレシピ構成になっている。これなら、ダクネスが張り切りすぎても変なものが出てくることは…
『肉料理の作り方(お嬢様用)なるべく新鮮で柔らかい牛肉を厚めに切り、高温の鉄板で表面だけ焼いてください。大丈夫です…新鮮な肉は生でもいけます…余計なことをするくらいなら、下手な調味料を使うくらいなら…まだ生肉のほうが…ま…し…』
「……遺書だな」
「…遺書ね」
「誰も死んでないぞ?!」
文章が後半に進むにつれて、何故か文字が歪んでいくメモ。肉がワイバーンになったのはほぼ確定として。まだクラーケンが出てきて居ない。さて、次は……
『魚料理の作り方(お嬢様用)茹でたパスタにイカの墨をかけて軽く熱してください。あの、本当に大丈夫なんで!もうそれだけで美味しいんで!アルコールとか調味料とか手に取らないでください!具とか無くても全然美味しいですからぁ!……ごめんなさい先輩……お嬢様は、私の手には負えません…』
これまたなにがあったのだろう。字体が変わったのだが、先輩とやらはどうなってしまったのだろう……
「ねぇカズマ…この体で貴方の元に来てまだ日は浅いけど、それでも私は本気で貴方を愛してる……だから、どんなに辛くても絶対に帰って来てね…」グスンッ
「あぁ、俺がお前たちを置いていく筈がないだろ…」
「約束だからね!」
むぎゅっ
あっ…なんて大きなマシュマロ…でも、流石に命の危険があったら食べなくてもいいよね?
「おいやめろ!それでは私の料理がおかしいみたいではないか!キッチンをメチャクチャにした心労で1人倒れただけだ!料理を食べて倒れたんじゃない!」
「やっぱり迷惑かけてんじゃねぇか!そのキッチンはどうしたんだよ?!」
「……今、改装してる」
…なにがどうなれば改装なんてことになるんだ?
「でも、料理は本当にちゃんと出来たんだ!父に感想も貰ったんだぞ!」
「へぇスゴイね」
「本当だからな?!」
どうだろう…あの父親だからな。甘々判定だと思うが…さて、続きは…
『デザートの作り方(お嬢様用)もう、いちごでも凍らせておいてください…』
折れた?!ここに来てついにメイドの心が折れたぞ!
「たしかに初夏には良いとは思うけど…これは料理なのかしら?」
「私も最初はそう思っていた。しかし、この1連のレシピを作って分かったんだ。手間をかけるだけではなく、食材を活かすのもまた料理だと!」
え?じゃあなんで食材変えてんの?グレード上がれば完全上位互換だとでも思ってんの?!違うから!過ぎたるは及ばざるが如しって言葉があるから!
「で、これの次に親父さんの感想が来る訳だろ…」
『最初は不安しか無かったが、
意外な程に娘の料理の腕は上がっていた。
強引にメイドに習ったときは焦ったが
美味しいものをカズマくんに食べさせたいなんて
魅力的な女性に育ったと思う。
老体には少し重かったがとても美味しい料理だった』
「あら、これだけ見ると料理はちゃんと出来ているのかしら?」
「あぁ、料理中には色々あったが、料理はそれなりの物が出来たと自負している!」
その感想を綴った文字は震えていて、きっと親父さんは娘の成長に感激して震えていたんだろう………なんて美しい話がこんな所に有るわけがない。縦読みだろ?最後を見ろってことだろ?こんな5ページしかないレシピのために、メモ帳丸ごとなんてありえないからな!
「よし!二人は少し離れてくれ」
「「……これでいい(か)?」」
うん、素直。さて、なにが出てくるのか…
『カズマくんがこのメモ書きを読んでいるとき、きっと私は人と話せる状態ではないだろう。だから、このような手段を取らせて頂く』
いやこれ、マジの遺書だろ…
『仮面の男から買った薬で、なんとか娘の笑顔を守ることは出来た。しかし、いまは我が家にトイレが複数あったことを心から感謝せねばならない状況に陥っている。猛烈な腹痛とは、もはや刃物で刺されたとかそういうレベルのダメージだった』
嘘だろ?!これそんな薬なの!
『だが、飲まずには居られなかった。生焼けの魚介に濃すぎる調味料。次々と出てくる脂の多い食材。脂が乗っているという言葉を、欠点として捉えたのは人生で初めてだ。本当ならその場で吐き出して逃げてしまいたかった。岩塩を握り潰してかける娘を叱りたかった…』
前半はともかく、岩塩の件は叱ってくれません?
『でも、愛する人と一緒になれて舞い上がっている娘を、あんな真剣にフライパンを燃やして頑張る娘を、私には止めることなんて出来なかったのだ。すまない…カズマくん』
お願いだから止めてください。フライパンから火が出た段階ですぐに止めてください。
『でも、きっとこの気持ちは、カズマくんも同じだと思う。愛する人に手料理を振る舞うことに浮かれてしまい。ほんの少しだけ周りが見えなくなっただけの可愛い失敗を、君はきっと受け止めるだろう。だから、君の家にもこの薬を送ろうと思う。耐えきれないと思ったら飲んでくれ。翌日…と言うか大体10時間くらいで凄いことになるので、飲むなら直前のほうが良い。食前酒に見えるように、ワインの小瓶に詰めて送る。イグニス』
激しい腹痛と便意の中で書かれたと思われるそのメモは、ものすごい走り書きで綴られていて、あの薬の苦しさと辛さを物語っている。恐らくは一般の食材で作られたであろう料理でさえ、王の懐刀の膝につかせた。それを、さらにハイグレードにしたものがこれから出てくるのだ。本音を言えば逃げたい。でも……
「なぁダクネス、当然味見はしたんだよな?」
「当たり前だろう。そりゃカズマ達が作る食事ほど美味しくは出来なかったが…それでも私なりに本気で作ったんだぞ…」
このダクネスが時折見せる女の顔。親父さんも多分、こういう一面にやられたのだ。それなら仕方ない。苦労ばかりかけられた俺でさえ折れてしまうんだ。実の父が抗える道理などない。
「分かった…期待しとくよ」
「……あぁ!楽しみに待っていてくれ!」
だからコレで良い。ダクネスを幸せにすると誓った以上、親父さんにだってダクネスを想う気持ちで負ける訳にはいかない。この真っ直ぐな笑顔のためなら、俺は何度だって苦しんでやろうと思う。
「さぁウォルバク!次はデザートのところてんスライムだ!」
「えっ?いちご凍らせるとかじゃないの?!」
「カズマが期待してくれたんだ!私は昨日までの私を超えるぞ!」
うん…程々にお願いします……
________________
「あ…カズマ…」
「よぉめぐみん。アクア見てないか?」
アクアを探して市場まで来たところ、買い出しを終えためぐみんに遭遇した。しかし、なんでそんなばつの悪い顔をするのだろう?
「アクアは見ていませんが…その、私に言いたいことがあるのではないですか?」
言いたいこと?
「大好きだぞ」
「そ、そういうことではありません!…まぁ、私も負けないくらい大好きですけど…」モジモジ
あれ?女の子がそう言う濁した言い方するときって、謝罪か愛情表現が欲しいとかじゃないのか?でも、怒ってる感じでもないし…
「えっと……私が家庭の味だなんて騒いでしまったから、カズマには嫌なことを思い出させてしまったかと…」
「あぁ…そりゃ切ない思い出ではあるけど…もう俺にとっての家庭の味は、これからは皆が作ってくれる味だ。だったら、今更悲しむことなんてないだろ?」
ウィズにもそう伝えたし、母の思い出の味はコーンフレークだし…
「それは私としても望むところですけど、おふくろの味が恋しくなったら申し訳ないと思いまして……」
あぁ成程…だからクレアがあんなことを…
________
「……私たちの決意とか、この夕飯の材料費とか、色々と返してもらっていいですか?」
「え?これ俺が悪いの?」
めぐみんに事の真相を話したところ、なんとも言えない顔で文句を言われてしまった。気持ち的にはめぐみんちのシャバシャバお粥みたいな物だから、そんな深刻に捉えられてもむしろ困る。
「私の母もろくなもの作れませんけど、カズマの母親も似たようなものですか…」
「うちは両親は共働きだったからな。よく勤め先のお惣菜とか貰ってきて、それを夕飯に並べてたよ。だから、料理はたまにって感じで、そこまで料理上手じゃ無かったな…」
そう考えたら、アクアがバイト先で惣菜を貰ってくるのも母の味と言えるのかも知れない。認めたくないけど…
「そのたまにの料理は覚えてないのですか?」
「いやまったく。だから、これはめぐみんの不戦勝だな」
覚えていないことは少しだけ切ないが、それ以上に大切なものが目の前にある。だったら、俺はそれだけで十分だ。
「残念ですが、カズマのお母さんに勝っても勝利ではないようですよ。後ろ、見てください」
「ん?あぁ…成程な…」
後ろを振り返ると、闘志に燃えるあるえとゆんゆんがそこに居た。ほんと、紅魔族ってやつは負けず嫌いばっかりで困る。
「悪いけど、私も引く気は全く無いよ!」
「わ、私も!この勝負だけは構ってもらうだけじゃ満足しないんだから!」
あ、やっぱり普段は構って貰うだけで満足なんだ…
「おぉ、なんと素晴らしい!愛するものを心から想うその気持ち!なら、その勝負は吾輩が預からせて貰おうではないか!」
「…おいバニル、お前は何処から湧いて出た?」
「本当ですよ。一体なんの用ですか?」
「おっと、友人の前でカッコつけた手前、皆の前で怒られたら恥ずかしいので先に謝るタイミングを見計らっていた娘よ!この話はお互いに悪くない話であるぞ?」
「ち、ちがわい!カズマに叱られようと、私は自分の愛を貫いてましたよ!」
あれ?さっきメッチャ不安そうだったような…
「そこの一瞬デザートに我が身を差し出そうとした娘と、自信がないからと小僧監修のミックススパイスを買った娘も聞くが良い!」
「そ、そんなこと考えてません!」
「こ、これはカズマさんの好みを把握するために買ったんだよ!」
バニル、今日はなんか絶好調だな。
「まぁ悪感情は程々に本題だ。汝らの料理対決は、公平な審査がされると思うか?」
「は?カズマが八百長なんてするとは思えませんが…」
「そうだぞバニル。俺はそこら辺で嘘をつくのは苦手なんだ」
「ほう、では生クリームにいちごを乗せたものをデザートとして出したら?」
「それだけじゃ5点だな」
「では、それをそこの娘の胸の谷間に乗せたらどうする?」
「95点…は?!」
しまった!あるえの胸の魔力にやられた!なんなら少し食い気味に答えてしまった!
「ほれ見たことか!これではデザートは私!なんて事をする奴が優勝間違い無しと言うことではないか!」
「み、見ないでください!私を見ないでください!!やってないもん!ちょっと考えただけだもん!」
考えたんだ…しかし、ゆんゆんは多少サイズで劣っても93は硬いな…
「でも、確かにこれは公正な審査とはならないのかも知れないね…まぁ、私としては構わないけど?」
「あるえずるい!私も構わないですからね!」
マジで?!今夜のメインディッシュが女体に?!
「それ、ダクネスと師匠にやられたらどうします?」
「「……あっ」」
なるほど、確かに食べるという意味では食べごたえがあるのはあっちだ…
「さて、話もまとまったようなので本題に戻るが……その勝負の審査員として、舌だけは確かなうちの従業員を貸そうと思っている。あやつらは料理にだけは嘘はつかんし、商品ラインナップも増やせて一石二鳥でもある。そして、なにより賄いにできるからな!」
「あぁ、そう言えばこれ保存食の話から始まったんだっけ…ていうか賄い制度なんてあったか?」
「あやつ、文無しのくせに腹の虫が煩くてな…」
あ、なるほど…
「いいでしょう!いずれは我が子にも食べさせる料理です。私が誰もが唸るものを用意してみせます!」
「私も負けない!元々皆に食べさせるために頑張ってきたんだもん!」
「あぁ!望むところさ!不得手だからと逃げては、紅魔の名が廃るからね!」
食う量が分散される訳だから、俺は文句なんて言わない。ただ、バニルを絡めたら少し面倒な事になる気がするけど…
______________
「ではここに、第一回!目指せ良妻賢母、家庭料理グランプリを開催します!実況は私、アクセル冒険者ギルドのルナ。解説はエリスコーポレーションのバニル常務にお願いしております!」
「ふはは!よろしくお願いするぞ!」
予想はしていたが、バニルが絡むと全部お祭り騒ぎだ。どうせこれも、保存食の広告に利用するつもりなんだろうな…
「今回はカズマさん秘伝の料理レシピをギルドに提供して頂けるとの事で、会場は冒険者ギルドをお貸ししてお送りします。私も花嫁修業のため、カズマさんのレシピで勉強したいと思います!」
それ、別に秘伝でもなんでもないし、そもそも手料理を振る舞う所まで行ってから考えましょうよ…
「では、最初の審査員!皆さんご存知、救世の英雄にして女神の伴侶!若くしての成功者で歩くモテ属性、サトウカズマさんです!」
「はいカズマです………ってその紹介なに?!」
そんなにモテてねぇし?!
「そして、アクセルの良妻と言えばこの人。お料理教室に裁縫教室、彼女のセミナーは半年先まで予約でいっぱい。なぜこれで未婚なのかが未だに謎と言われる女子力の化身、シルビアさんです!」
「はいどうも。……ん?未婚で良妻っておかしくない?!」
そうだね。そもそも男だしね。ていうかお前も手広くやってるのな…
「この方はちょっと女神様有利か?絶対味覚の天界からの使者、天使さんです!」
「お腹すきました…」クキュルルル
あ、露骨に元気がない…意外な一面だな…
「ちなみに、今回一位になった選手には、スポンサーのウィズ魔法具店より、商品券100万エリス分を進呈するぞ!」
「「「「おぉー!!」」」」
……なんで今だけウィズ魔法具店と名乗ったのかは聞かないでおこう。
「なお、本日はギルドのキッチンが使えないため、冒険者の皆さんは特濃カレーVS特濃パンケーキの戦いにお付き合いください。どちらも500エリスと大変お安くなっております!」
え?あいつらまだやってんの?!
「むぐむぐ…スープストックがタダの水では論外です。玉ねぎを飴色に炒めるとか、肉の解体時に出た牛骨で出汁を取るなどの工夫は最低限欲しいです。ロースカツの筋も切れてなければ、カレーに合わせるからと下味を怠った事も伺えます。30点です」
「しょ、精進します…」
いや、天使そっちも食うの?!そして助言が的確過ぎる?!
「ん〜……クリームばかりに目が行きがちだけど、もっとメレンゲをちゃんと立てればパンケーキの方も2倍の厚さに出来るわね。あと、これだけの量を乗せるなら生クリーム100%は流石に重すぎるわ。植物性ホイップを3割混ぜるとかの工夫は必要よ。同じく30点で!」
「も、申し訳ございません…」
シルビアも辛辣!こいつらマジで食い物の話には容赦がない!
「さて、デモンストレーションで分かったと思うが…今回の審査員は情け容赦などない。引き下がるなら今のうちであるぞ?まぁ、吾輩は両名に70点やろう。素晴らしい悪感情である!」
なるほど、これ実はバニルも楽しんでるのか…
「その指摘が的確であるならば、むしろ望むところ……最初は私が参ります!」
「一番手に名乗りを挙げたのはアイリス王女です。普通最初は躊躇するかと思ったのですが、やはり牽制のためでしょうか?」
「無論それも無いとは言わないが、此度の戦いは食事。つまり、審査員が空腹な方が有利とも言える」
「成程…だから天使様はカレーを?」
「いや、あやつはただ食い意地が張っているだけだ」
うん、俺もそう思う。さて、アイリスの料理は…
「私のメニューは、牛ステーキです!」
予想はしていたが、やはり出てきたのはあのサシの凄い牛肉。セレナのお陰で多少回復はしているが、やはりこれは重い…
「んっ…良いお肉だけど、肉を常温に戻さず焼いてしまったようね。そして、付け合せの野菜の大きさもバラバラ。料理慣れしてないみたいだし、ステーキソースも出来合のものでしょ?」
「はぅ…ごめんなさい…」
シルビアさん、食が進まない俺が言っても説得力ないけど、うちの妹をあんまりイジメないでくれませんか?!まだ12歳なんですよ!
「私もお兄様に美味しいものを用意したかったんですが、普段料理をしない私には、これくらいしか出来なくて…」
「お、俺としてはもう、それだけで加点したいのだけど…駄目だよね?」
「そうね。指を絆創膏だらけにしているところから必死さは伝わるけど、料理は遊びではないわ。だからこれは…」
「いえ、そこは大幅加点です!」
「「……え?」」
天使?!この流れでそれはありなのか?!
「はぁ…シルビアさんは分かってませんね。まだアイリス様は結婚年齢前ですよ?いまはまだ恋に恋するお年頃…そんな娘が、いきなり完璧なフルコースなんて用意したらどうですか?」
「そう言われると、なんかエリートっぽくて嫌味な奴にも感じるかも…」
エリート嫌味なアイリス…俺への好感度がそのままなら、俺的にはアリだな。分からせたい。いや、返り討ちだな…
「では、両手絆創膏だらけで不器用なりに作ったこれを見て、男はなんて思いますか!」
愛おしいな。
「確かにこれは愛おしい!まさかこれ、計算されていると言うの?!」
「そうです!第一王女は恐ろしい子なのです!」
「し、してませんよ!私、そんな悪い子じゃありませんよ!」
うん、アイリスはそんな子じゃない。それは俺が一番良く知ってる。
「狙っていたらただ計算高い嫌な奴です!しかし、これを素で、天然でやるから恐ろしいのです!おぼつかないリザーブ、不安げな顔で評価を聞く姿勢……そしてカズマ様が食べるたびに少しだけ綻ぶ顔!そして、このステーキソースは実は使いかけで、しかもカズマ様のブランドなのです!カズマ様の好みを想像しながら日常使いしているのです!どうですか?こんなの減点できますか?!」
「出来るはず無いじゃない!こんなの天使だもん!貴女より天使だもん!」
「くっ!やっぱりうちの妹は本物の天使だったか!偽物とは違うな!」
「おっと、何故か私がディスられている!しかし仕方ない!アイリス様はマジ天使なのだから仕方ないのです!!」
なんか、こいつも腹が膨れてから絶好調になってないか?
「もう辞めてください!これ普通に恥ずかしいです!結局罰ゲームみたいになってますから!」
真っ赤になって慌てるアイリスも可愛い!もう満点でも良い!
「ということで、60点ではどうでしょう?」
「「「「……は?」」」」
え?何いってんのこのハーピー亜種。そこは90以上じゃないのか?!
「えっと…あんだけ褒めてその点数なの?!」
「あんだけ褒めなきゃ30点ですよ?それに、この加点要素は本人が居ないと意味ないじゃないですか?商品化するのにアイリス様なんてつけられませんし……もしこれが喫茶店のメニューでアイリス様が接客するなら90点ですけどね?」
結局辛辣だった!しかし、こいつ実はビジネスに向いているタイプだ!
「ちょっと納得はいかないけど、まぁそこら辺が妥当よね…坊やも異論はないでしょ?」
「そうだな…可愛いかったけど料理はまだまだだし…今度俺が教えるよ」
「あ…それならむしろ30点でも良いです!お兄様に手取り足取り教えてもらえますから!」
この勝負より俺っていうのがもう…マジ天使!
「アイリス様、ありがとうございます!現在アイリス様が60点で暫定一位です!では、次はどなたですか?」
「はい!次は私が行きます!」
調理場から真っ直ぐに出てきたのはゆんゆん。我が家でもトップクラスの料理の腕を持つゆんゆんには、なんの心配もしていない。折角だからここで一息入れさせてもらうとしよう。
「私が作ったのは、唐揚げです!」
「なるほど、得意料理だな!」
揚げ物ではあるが、ゆんゆんの唐揚げなら問題はない。油はしっかりと切られ、ちゃんとキャベツを添えるという心遣いもある。やはり優勝候補筆頭は違う。
サクッ
「うん、いつも通り美味いよ」
「えへへ…ありがとうございます」
ただ、これが俺の好みだと言われたらそれまでだ。気になるのは二人の評価だが…
「こ、これを14歳が作ったと言うの!嘘でしょ?!あなた料理人の家系じゃないわよね?!」
「これはレシピの問題じゃないです!シンプルな工程にスキがないだけです!一体どれほどの数を作り続けたらこんなことになると言うのですか?!」
ほほぉ、流石はゆんゆん。うちの料理上手筆頭は本物だ。
「でも、確かに俺も気になるな。どうやってそんなに上手くなったんだ?」
「そんな特別なことは何もしてません……ただ、友達とおかず交換したくて…何度も作り続けただけですから…」
……重っ!内情知ってる俺からしたら、その理由は重すぎる!
「そうなの?これは取り合いになるでしょ?だってこんなに美味しいんだもの」
あ、シルビアやりやがった…
「いえ、めぐみんに奪われる事は多々ありましたけど、友達とのおかず交換なんて一度もありませんでした。だから、私はまだまだ未熟なんです…もっと美味しくしないと、まだ交換の輪に入れて貰えないんです…」
あぁ…ゆんゆんの目からハイライトが……
「それはもう、料理っていうかゆんゆん様の方に問題があるような…」
「そんなことありません!私にだって友達はいました!私のお金でご飯を食べに行くお友だ…」
「よし総評に行こう!ゆんゆんの唐揚げは90点で良いと思うんだけどどうかな?!」
やめろお前ら!これ以上は見てる方までいたたまれない気持ちになるぞ!この目配せに気付け!
「そ、そうね!なんか色々あるみたいだけど、お料理は間違いなく90点あげても良い出来だわ!天使も異論はないわよね?!」
「え?まぁ、間違いなく家庭的で美味しいので、そこに異論はありませんが…人の金で飯を…」パクパク
『サイレンス』
「いやぁ、おめでとうゆんゆん!いきなり優勝候補だな!俺は信じてたぞ!」
「え?まだ天使様がなにか……」
「うん、それはこれが終わってから話そう!他の人の料理が冷めちゃうからな!さぁルナさん!次に行きましょうか!」
「あっはい!ゆんゆんさん、ありがとうございました!こんど私のミートボールと交換してくださいね!では、次の方行きましょう!」
流石はルナさんだ。完璧に俺の意図を汲み取ってフォローまで入れてくれた。その気遣いをこのハーピー亜種に分けて欲しい。
「うむ、吾輩も90点をやろう!孤独の良い悪感情である!」
「もう孤独じゃないですもん!」
うん、悪魔は黙ってて欲しい。
「さて、親友が高得点を出したようだし、私も続くとしようかな!」バサッ
退場するゆんゆんの肩を叩いて、次に俺たちの前に立ったのはあるえ。ローブを翻して決めポーズをとっているが、あるえは実家暮らしだったのでお手伝い程度の家事能力しかないが……
「ふふっ、カズマさん。不安かい?」
「正直なところな…お前はノリとテンションで割とやらかすから…」
普段ならダクネスに押し付けるが、今回ばかりは逃げ道がない。しかし、なにが出てくるか…
「私は、カズマさん直伝の餃子で勝負させてもらうよ!」
「あら、坊やが心配してた割には普通ね?」
「本当だ…取り敢えず良かった…」
たまに作り方を知らないレシピを名前だけで挑戦するなんて、どこぞのバラエティみたいな事をするあるえも、流石に今回は
安定したもので勝負するようだ。取り敢えず、俺の腹は安泰で…んっ?!
「うん、普通に美味しい。餃子というチョイスもいいわね。主菜にも副菜にもなるし、おつまみでも良いもの。少し不格好なのも混ざっているけど、これくらいなら75点はあげても良いかしら?」
「そうですね。焼き具合は少しだけ不安定ですが、これくらいなら文句はありません。子供から大人まで愛されるメニューを選んだ作戦勝ちと言えますね。カズマ様もそれで……あれカズマ様?」
うん、ごめん。ちょっと待って…
「おい、あるえ…お前…ちょっと来い…」
「な、何かなカズマさん?あれ?まさかそれ…んんっ!」
俺は半分食べた残りの餃子をあるえの口に放り込んだ。この、中のキャベツが全部青唐辛子に入れ替えられた大当たりの餃子を…
「ん〜〜〜!!!ひどいよ!私の舌がおかしくなったらどうするつもりだい!」
「俺の舌は良いのかよ!変な大当たり仕込みやがって!本当にノリでとんでもないことしやがるな!」
「だって!中身が見えなくて何を入れても良い料理だなんて、こんなの絶対フリじゃないか!この根本原因を語るならば、間違いなくこんな料理を開発した人間だよ!」
「馬鹿なお約束ばっかり空気読みやがって!これだから頭のおかしい種族は!!」
くそぅ!不意打ちで胃袋に大ダメージだよ!
「まぁ、私どもには被害がないので、ここは無難に75点あげましょう。あるえ様とカズマ様はご家族で楽しくロシアンルーレットしてください」
「そ、そうね…他にも地雷があるかも知れないし…これはもう持って帰って貰いましょう!」
なにそれ納得いかねぇ…
「ふむ、小僧の悪感情が実に美味だったので、吾輩からも80点やろう!」
「……要らないです」
まだダクネスが待ってるのに、俺の胃袋は辛味と脂で結構なダメージが蓄積している。どうしよう、これ以上ストレスを受けたら穴が開きそうだ。物理的であれ、精神的であれ…
「えっと…ちょっとしたトラブルはありましたが、中々ハイレベルな戦いが続いています!どうですかバニルさん?」
「これらの料理のレシピ本、および各種料理の元は引き続きウィズ魔道具店で販売中である。そこの片思い中の諸君!料理でアピールしてはいかがかな?」
あ、やっぱりこれ広告イベントなんだ…
「ば、バニルさんは料理上手な女性が好みですか?!」
「まぁ、出来ないよりは出来たほうが良いとは思うが…」
「本当ですか?!」
それビジネス上の話だろ…お前、人の飯食わねぇじゃん…
「あの…私もお料理をしてきたのですが、これを出しても良いんでしょうか?」
「す、すみません!お願いします!」
続いて俺たちの前に立ったのは、土鍋を持ったウィズ。あまり食材を扱っているイメージはないが、長年(意味深)の自炊で培われた家事スキルは中々のものだ。実はこちらも優勝候補と言える。
「私が用意したのは…これです!」
ウィズが土鍋を開けると、中から現れたのは野菜と卵が入った雑炊。なるほど、確かに病気の時に母親が作ってくれたような…いや、レトルトだったな…
「皆さんの美味しい料理も素敵ですが、やはり家族の温もりが欲しくなるのは病気や、身体が弱った時だと思うんです。そこで、病人にも優しいお料理を用意しました。その…大切な人が辛いときには、優しく包んであげたくて…」
……あれ?ウィズって女神だっけ?
「これは惚れます!弱った身体にこんなの出されたら惚れてしまいます!何という慈愛の精神!アクア様に爪の垢を煎じて飲ませたいです!」
「気持ちは分かるけど、それお前が言っちゃ駄目だろ…」
しかし、これは弱った俺には最高のチョイスだ。ありがとうウィズ…今日は2回も包まれちゃったな…(セクハラ)
「おぉ、味も良い。この出汁と卵の優しい味。弱った身体に最高だ!」
「まったく、恋する乙女って凄いわ…私が教えた雑炊をここまで完璧にものにするなんて…ゆんゆんと選ぶのは大変だわ…」
「本当ですね。これもまたシンプルな物を極限まで作り込んだ逸品…米と出汁と卵に、ほんの少しだけ加工されたお肉が入っています。このお肉がまた素晴らしい旨味を…んぐっ!」
あれ?なんか天使が苦しそうにしてる?喉に何か詰まったか?!
「おい!大丈夫か?水は飲め…んぐっ!」
なんだこれ!俺の方も胃の中になにか?!
「ちょっとウィズ!これ何がはいってるの?!変わった素材とか使ったでしょ?!」
「えっと、マッドサラマンダーの干し肉が少々……普段は10m近い身体が、乾季になると1m以下に小さくなる特殊なドラゴンで、その2ミリ角の中になんと4600キロカロリーも含まれるパワーフードなんです。これなら食欲がない身体でも栄養が取れますから、絶対に売れると思ったのですが…」
「あんた食材の仕入れもそんなセンスなの?!そんなのお腹痛いに決まってるじゃない!あれスープの出汁とかに使うもんだからね?!」
くそぅ!とんでもない伏兵が2連続だと?!どうなってんだこの世界……って言うか、俺の嫁もどうなってんだ?!
「え?だ、駄目なんですか!美味しいですよね?!」
「美味しくても消化器官が死ぬわよ!こんなの10点よ!もはや食べ物じゃないわよこんなの!」
「そ、そんなぁ!!」
…………………………
「カズマ大丈夫?えっと……おっぱい…揉む?」
「……揉む」
「させないわよ?!あんた何言ってんの?坊やの所でどんな生活してるの?!」
「だって…カズマがこの慰められ方はロマンって言うから…」
ジトー
「おい待て!なにも間違ってないけど今は本当に待て!周りの目とかあるだろ!」
「…揉むって言ってましたよね?」
「……すみません」
ウィズのやらかしにより、残りの参加者は一度集合して毒味をしてからの提供ということになってしまった。まぁ、本人に悪気は無かったのだから責めるつもりはないし、むしろこれでなんとなくこのあとの展開が…
「あれ?なんでウォルバクとめぐみんだけなんだ?ダクネスとエリスは来るもんかと思ってたんだけど…」
「ダクネスは台所を壊したので追い出されました。エリスはそもそも朝から見てませんから、この催しをそもそも知らないと思いますよ?」
流石にキッチン破壊は駄目だったか…しかし、エリスはどこに行ったのだろうか?嫌でも目立つし、要らん情報でもなんでも入るだろうに…
「そっか…それで、二人はなにを作ったんだ?」
「私は焼きそばです!」
「私は魚のフライを…」
うん、めぐみんは定番。そしてウォルバクはここに来て素晴らしい進歩を見せてくれた。これはどちらも期待できそうだ。
「なら、先にキャベツたっぷりのめぐみん焼きそばを頂こうかな…流石にまだフライは辛いから…」
「そうですね…私の口内はまだ二郎完食直後の状態ですから…」
その例えは俺にしか伝わらないだろうが、それはヤバい。あんなに掻き込んでいたんだ。無理もないか…
「え〜と…では毒味も済んだようなので再開しましょう!次はめぐみんさんのお料理です!」
「あれ?毒味って何?あの焼きそばそれじゃん!俺達の隠れファンって嘘なの?!」
あぁ、キースとダストか…毒味お疲れ…
「あぁ、これもまた保存食にできそうだ。美味であれば即時商品化としたいところであるな!」
そしてバニル、アイツ今日はマジでブレねぇのな…
「あぁ…この焼きそばは普通ですが、そのためかとても安心します。日常とはこうして安心できる日々を言うのでしょう…」
「そうね。こういうのって子供が大好きな定番よね。まぁ、ソースが坊やの所で作られた商品なのが少しだけ残念だけど…」
「いや、流石にソース手作りは厳しいだろ…ここは減点なしでいいと思うんだが…」
凄く普通に評価しているのが、むしろなんか違和感がある。俺はどれだけ平穏に馴れていないのだろうか…
「では、無難に85点としましょうか?これもメニュー勝ちな部分が多い気もしますが、少なくともゆんゆん様に続く出来栄えです。あるえ様の料理と比べると、少しだけ料理の技術は勝っていると思いますし…」
「「異議なし!」」
うん、これだわ。これが本来あるべき流れだわ。
「むぅ…ここまで自然に終わるとなんか物足りませんね…やはり辛子くらい仕込むべきでしたか…」
「おい辞めろ。お前マジでそれはやめろ」
しかし、あとはウォルバクだけ、衣が均一でないとか細かい粗はあるが、残念ながら波紋を起こすようなメニューには見えない。やはり優勝はゆんゆんだろうか…
「それでは、最後にウォルバクさんのお料理です!お願いします!」
「……俺たちのファンは偽物だったけど、ウォルバクさんの手料理食えたからもう良いかなって、俺は思うんだ…」
「奇遇だなキース。今更だけど、俺もすげー美味かった気がしてきているぜ!」
うん、あいつらやっぱり馬鹿だ。
「私は相手が女神であろうと、この舌に誓って嘘をつくことはありません。容赦なく採点させていただきますよ!」
「の、望むところよ!私も日々進歩してるんだから!」
うん、最初からウォルバクには贔屓なんてしないだろお前…
「んっ…これは良いサーモンです。衣が均一でないのは減点ですが、下味が薄いのは……」
「なー」ハグハグ
「ペットは家族という愛情から来たもの…減点など致しませんとも…」
「ねぇ?優しい感じ出してるけど、その子は私の半身だからね?ペットって単語やめてくれない?」
そうだね。そりゃ気を使うよね。薄めになるのも仕方ないだろうさ。
「まぁ、このタルタルソースに自信があるなら、私はそれでも全然構わないと思うわ」サクッ
「なー!」モチャモチャサクサク
いや食ってる食ってる。タルタル付けて食ってるじゃん、ちょむすけ。
「……嘘でしょ?!」
「……えぇ、信じられません!なんですかこのタルタルは?!」
ん?我が家のいつものタルタルソースが、そんなに衝撃なのだろうか?
「きゅうりはピクルスじゃなくてぬか漬けを使っているのね。でも、そのぬか漬けは単品でも実に高レベルだわ!」
「この玉ねぎの酢漬けは、カズマ様のラーメンに入っているもの。しかし、砂糖とお酢のバランスが黄金比です!そして、何故だか聖なる力さえ感じます…」
ぬか漬けはアクアが、玉ねぎはエリスが漬けてるからね。そりゃレベル高いわ。聖なる力も宿るわ。
「このマヨネーズも自家製だわ…少なくともウォルバクが作れるレベルだなんて信じられない…」
すみません。それは俺です。
「そ、その…タルタルソースは皆の合作だから、そこで加点されるとなんか申し訳なくて…」
「……家庭の味なのですから、家庭の中で日常化した食材を上手く使うのは全然問題ないと思いますが?むしろ、家族の持ち味を完璧に使いこなしたこのタルタルこそ、真の家庭の味と言っても過言ではありません」
「そうね…個性が喧嘩しそうな食材に一体感を持たせるのはむしろ凄い技術だわ。このタルタルはどうやって作ったの?」
「アクアのぬか漬けと、エリスの酢漬け玉ねぎを、カズマのマヨネーズで和えたの…」
「……あんた混ぜただけ?」
「ち、違うわよ!ゆで卵茹でたから!」
「女神3人纏めてるの実質坊やじゃない…」
その言い方だと、俺がマヨみたいだな…
「しかし、それではウォルバク様の力は半端に緩いゆで卵と衣が不均一なフライですか…それでは75点が良いところですかね…」
「そうだな…じゃあ優勝はゆんゆんって事で…」
「待ってください!カズマさんの、家庭の味をお持ちしました!」
と、俺達がまとめに入ったところで、ギルドにエリスの声が響いた。その手には、何故か日本製の鍋を持って…
「おっと!ギリギリで大本命がやってきました!やはり女神とは全てが万能なのでしょうか?!エリス様の飛び入り参戦です!」
「いや、誰一人として女神が万能だとは思っておるまい…特にこの街の人間は…」
うん、別にエリスはそこまで料理が凄いわけではないし、アクアなんてそもそも下手な方に近い。しかし、問題はあの鍋だ……
「えっと…なんか予想外に盛り上がっていますが…カズマさん。取り敢えずこれを召し上がってください」
「うん、ありがとう」
エリスが差し出したのは肉じゃが。なんの変哲もなく、代わり映えもない。でも、凄く懐かしい香りがする、日本のふるさとの味…
「あっ…これ…」
一口食べただけで、脳裏に浮かぶ日本の風景。俺個人としてはこれが故郷の味って感じが……
ポタッ
「あれ…なんでだろう?覚えてないって思ってたのに、母さんの顔が浮かんでくる…たまに食べただけの料理なのに…覚えてないって諦めていたのに……」
目頭が熱くなり、そして自然と溢れ出す涙。間違いない。これは、時々母さんが作ってくれた味そのもの…まだ素直に母さんと父さんに好きだと言えた頃の思い出の味…
「カズマさんはちゃんと覚えてたんですよ…貴方のふるさとの味を、お母様が作った味を…」
そうか…俺もまだまだ母さんのこと覚えてたんだな…なんかちょっとだけ誇らしいな…
「エリス様がこれほど完璧な和食を作れたなんて…昆布、カツオの合わせ出汁に、鳥の旨味を合わせるだなんて…」
「見える!見えるわ!この料理の向こうには何人もの職人が見える!一人一人が私を超える職人でありながら、それら全員がたった1つの答えを目指した結果生まれた味だわ!いったいどれほど修行を積めば、こんな領域にたどり着けると言うの!」
そ、そこまでなのか?!うちの母はそこまですごかったのか?!
「でも、そんな理由は必要ないですね…」
「えぇ、坊やの顔を見れば、求めていた物が何か解るもの…」
「「優勝は、エリス様です」」
「こ、ここでまさかの大逆転です!満場一致の満点勝利!これが女神!これが本当の女神の力です!」
「え?!ちょっとそれは流石に…」
「謙遜なんてするべきではないわ…貴女はそれだけのモノを出したのよ…」
「そうです。この味わいは家庭料理としての最高峰です。エリス様、女神だからなんて関係なく、この味こそがナンバーワンですよ…」
「え?いやそう言うことじゃなくて…」
「と、言うことで!只今を持ちまして第一回!目指せ良妻賢母、家庭料理グランプリを閉会します!優勝はエリス様です!おめでとうございます!」
「流石はエリス様だぜ!」「今度から料理上手になれるように祈ります!」「可愛くて幸運で料理も出来るなんて、カズマが羨まし過ぎるぜ!」「カズマ爆発しろ」
「あぁ!違うんです!これはそうじゃなくて…話を聞いてぇ!」
こうして、俺の家庭の味はエリスにより復活を遂げる事となった。賞金はやっぱりウィズの店でしか使えない商品券で、100万エリスも欲しい物がないと言うデザート予定の悪感情は、エリスが辞退したことで食べ損なったらしい。
_______________
「チートですか」「ズルいです!」「それは無いよね」「そんなの反則じゃないですか!」「同じ女神としてどうかと思うわ」
「だ、だから話を聞いてって言ったじゃないですか!」
帰宅後にエリスにレシピを聞いたところ、ミツ○ンの白だしで芋と肉を圧力調理しただけだと判明した。しかもそれを母に直接教わりに行ったとの事で、今は参加者全員から集中砲火を受けている。その出汁を作った相手はその道のプロだし、母と全く同じ工程なのだから、旨くて完全再現なのは当然だろう。
「それで、なんでカズマはソファーに倒れているんですか?帰ってきた時は平気そうだったのに…」
「ちょっと食べ過ぎただけだ…心配すんな」
俺は無事に試食から生還したのだが、帰宅したら悔しそうな顔で延長戦をしている不器用な馬鹿を見つけてしまった。その先はもう、ご想像にお任せするとしよう。
「まったく…カズマは本当に甘いですね。そろそろトイレに行きたいんじゃないですか?肩くらい貸しますよ?」
「ごめん、お願いするよ」
あ、そう言えば、結局アクアは見てないな…
…………
「あっ、居た…」
「ち、ちがうの!これは違うのぉ!」
めぐみんの肩を借りてトイレに向かったら、青い顔をしたアクアが立て籠もっていた。こいつ、鍵もかけないで何してんだろう…
「トイレしないはずの女神が、便座に座ってどうしたんだよ。なんか盛られたのか?」
「そ、そうなの!これは私が身を挺して刺客からカズマを守った結果なの!ダスティネス家のメイドに刺客がいたのよ!」
そう言ってアクアが差し出したのは、「取り扱い注意」の張り紙が貼られた高級ワインの小瓶。なるほど、親父さんの送ってきた薬を飲んだのか。その張り紙してあって良く飲んだなコイツ……
「俺に渡せって言われなかったか?と言うか、その貼り紙でよく飲んだな…」
「だって…取り扱い注意なほどお高いお酒だと思ったから…」
うん、やっぱりこいつが一番の馬鹿だわ。あるえとかウィズはまだ可愛い。
「さて、うちにはトイレが1つしかないし、俺はそもそも限界だ。このままではトイレが大変なことになるな…」
「そ、そうね…カズマさんは何処かでトイレを……」
「おいふざけんな。このまま全員を呼んでマジでトイレの神様にしてやろうか?」
「酷い!でも私だって女の子なんだからね!カズマさんよりダメージ大きいんだからね?!」
人のもの勝手に飲んでなんてふてぶてしい…まぁ、そっちの方が罪悪感がないから良いか…
「それならすぐに楽にしてやるよ…ほら…ケツをこっちに向けろ」
「へ?なんで指からクリエイトウォーターしてるの?楽にするってヒールとかじゃないの?!」
「馬鹿だなー。ヒールの性能でアクアに勝てるやつなんて居るわけ無いだろ?………全部出ちゃえばトイレは不要だよな?」
そう、腸内洗浄で楽にしてやる。
「う、嘘よね…ねぇ、めぐみんも何か言って…」
「あー!そういえばちょむすけのご飯がまだでしたー!アクア、強く生きてくださいね…」
「え、嘘よね?待ってよ?私女神だから!女神が浣腸されて垂れ流すとか有りえないから!!」
「うん…それじゃ、出てくる前に浄化がんばれ…『クリエイトウォーター』!」ズプッ
「あぁぁぁーーー!!!」
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
色々詰め込んだらこんなに長くなってしまいました。
え?料理回なのにオチが汚いって?私の作品に綺麗なものを求めるなんて正気ですか?!
と言うことで、今後とも暇なときにでもお付き合いください。