『ようこそ、人類最後の砦フェンリルへ』
部屋に入ると、天井付近に設置されたスピーカーから声がかかる。
見上げると窓からは数人の白衣の研究者達と、白いコートに身を包んだ男がこちらを見ている。
『心の準備ができたら中央のケースの前に立ってくれ』
言われた通り、中央へと足を進める。
赤いケースの中には、赤と黒を基調とした巨大な剣が収められている。
持ち手に当たる部分の近くには赤い半円の物体が設置されている。
事前に受けていた説明にならい、剣の柄を握る。
「いつでも行けます」
『よろしい。それでは只今より対アラガミ部隊、ゴッドイーターの適合試験を開始する』
その声と共にケースの蓋が勢いよく閉じる。
次の瞬間、手首辺りから薬剤が注入される。
一瞬全身を違和感が襲う。同時に手首が焼けるような感覚がした。
「……っ!」
痛みに耐え、歯を食いしばる。
違和感が収まると、蓋が開く。
そこには手首と完全に癒着した無骨な腕輪と、そこに接続された何かがあった。
『おめでとう。適合試験は終了だ。君は我が極東支部の新型ゴッドイーターとなった。これから精進してくれたまえ』
剣―神機をケースに戻し、会釈をしてから部屋を後にする。
待合室に戻ると、そこには見目麗しい女性が待っていた。
「適合おめでとうと言っておこう、
「よろしくお願いします、雨宮教官」
「うむ。この後はメディカルチェックだ。ラボラトリにあるサカキ博士の研究室に向かえ。その後の予定については追って伝える」
「了解しました」
地図を受け取り、部屋を出る。
「そういえば教官、あいつは……」
「お前の幼なじみか。安心しろ、既に適合試験は終わっている。一足先にメディカルチェックに向かった」
「そうですか。では、失礼します」
「ああ」
教官と別れ、支部内を歩く。
途中で何人かの先輩とすれ違ったが、皆任務に向かうところだったようで、挨拶はできなかった。
エレベーターで下層に向かい、ラボラトリ区画で降りる。
突き当たりの部屋の前では、ピンクの髪をしたゴッドイーターと白い髪の少女が話をしている。
「天音」
声をかけると、少女がこちらを向く。
彼女は
「あっ!レイ君!無事だったんだね!」
「まあな。それで、この方は?」
「はじめまして、台場カノンです。一応先輩って事になるので、よろしくお願いしますね」
「紅零です。よろしくお願いします」
ふわふわした雰囲気の人だ。可愛らしい。
「お二人はメディカルチェックですよね。この扉の向こうがサカキ博士の部屋です」
「ありがとうございます。天音、行こう」
「うん。じゃあカノンさん、またお話しましょうね!」
「頑張ってくださいね」
ノックをして扉を開けると、中には様々な機械が所狭しと置いてある。
「失礼します。紅零です」
「白夜天音です。サカキ博士はいらっしゃいますか?」
声をかけると、数台のモニターの奥から年齢不詳の男性が顔を出す。
「よく来たね!早速だがこちらに来てくれ」
「失礼します」
二人で部屋の奥に足を進めると、彼の隣には適合試験の時に居たコートの男が立っていた。
「さて、改めて自己紹介させてもらうよ。私はペイラー・榊。気軽にサカキ博士と呼んでくれたまえ」
椅子に座った彼がやはり博士だったようだ。
「紅零です。よろしくお願いします」
「白夜天音です。お願いします!」
「うんうん。それでヨハン。君も自己紹介しなくて良いのかい?」
ヨハンと呼ばれた男は、困ったように額に手を当てながら言う。
「支部長と呼んでくれ、博士。……私はヨハネス・フォン・シックザール。この極東支部の支部長をしている」
「よろしくお願いします。支部長」
「よろしくお願いします!」
「うむ。それでは私は仕事が残っているので失礼するよ」
支部長はそう言って部屋を出ていった。
それを見届けた後、博士はキーボードを操作しながら言う。
「それじゃあメディカルチェックを始めようか。そこにあるベッドにそれぞれ寝てくれたまえ」
「分かりました」
俺達の準備が終わると、博士は腕輪に幾つもの機械を接続していく。
「今から検査を始めるけど、眠かったら寝てしまって構わないからね。次に目が覚めるのは自室のベッドの上だよ」
博士がそう言うのと同時にとてつもない睡魔に襲われ、俺は意識を手放した。
「これは……非常に興味深いね」
ペイラー・榊は二人の検査結果を見ながらコーヒーを啜った。
適合率の数値が、異常な程に高いのだ。
「これはユウ君にも匹敵するレベルだ。彼らが世界をアラガミから救う鍵になるかもしれない」
ユウと言うのは、彼らより少し先に配属された新型ゴッドイーターだ。初陣から凄まじい戦果を上げ、第一部隊隊長である雨宮リンドウからも一目置かれている。
「彼らも第一部隊に配属するようにツバキ君に言っておこうかな」
一部エラー表示の出ている画面を消し、眼鏡を押し上げる。
「感応現象とやらのメカニズムについても良いサンプルになりそうだ」