※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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10、偽装と打ち合わせ

 2月3日、自分の誕生日をすっかり忘れていた私のもとに、差出人不明の小包とも言えない小さな箱が入った封筒が届いた。今朝、朝食前にチェックした郵便受けに入っていたのだ。昨日の夕方には無かったから、昨晩入れたのだろう。こんな時期だから、恐る恐る封筒を開けてみれば、中には綺麗にラッピングされたペンケースのような箱。それも開けてみれば可愛いロケット付きのペンダントが入っていた。トップには小さいながらもルビーが嵌め込まれ、チェーンも縁飾りも本物の銀だ。

 メッセージカードには『ハッピーバースデー』の1行のみ。アーチャーと顔を見合わせてロケットを開くと、中には笑顔の桜が……。

 

「さ、桜から? い、いや、慎二か、これ。い、一体、どういうつもりなのよ?」

「君、ニヤけながら怒るというのも器用なものだな?」

「うっさいわね!」

 

 これは直接本人に聞かなきゃ埒が明かない。そう思った私は顔を洗って朝食を頂いて……。

 

「よもや、2回も洗面するとはな。冬なのだから乾燥に気をつけ給えよ」

 

 そう従者に、誂(からか)われれながら登校したのだった。

 

 

 

「し、間桐君!」

 

 下足室で偶然会った慎二に私は声を掛けた。

 

「ああ、お早う。何かな?」

「お早う、じゃなくて、これ!」

「うわぁ、付けてきてくれたんだ。感激だなぁ」

 

 やっぱりコイツか……。私は慎二を階段の陰に誘った。

 

「一体どういうつもりなの?」

「だって遠坂、今日誕生日だろ? これからも桜を見守ってやってくれって意味さ。それと来月、桜の誕生日なんだ。何か考えてやってくれないかな?」

 

 なんて事を爽やかな笑顔で言い残して、『それじゃ』と去られた。ちょっと、干渉するなって盟約はどうなったの……?

 

〈君、本当に器用な表情を作るな?〉

(ウッサイ!)

 

 わかってる。私は『こんな時期』なのに浮かれている。もう頭の中のほとんどが『来月、どうしよう』に塗り替わっていた。心の奥底に仕舞った『大切な妹』との思い出が溢れ返って止まらない。2回もフッてやった、見た目だけで中身のないチャラチャラしたヤツは、どういう訳か聖杯戦争を迎えてから『粋』になっていた。

 慎二はC組だ。教室は2つ隣だし、合同授業とも無縁だった。なのに私の知る限りの範囲でも、A組やB組の女子から人気があった。前々からそうだったという言う人も居るが、綾子のように1月半ばから徐々に変わったという人も居る。私も綾子に賛成だ。

 

「よっす、遠坂」

「お早うございます、美綴さん。その『よっす』とは何です?」

「『お早う』と『オッス』の複合語だ。陸上部で流行っているらしい」

「あら……」

 

 親友というと彼女に失礼だろう。魔術師である私は、その神秘を悟らせないためと、亡くなった両親に恥じないためにも『優美』で『優雅』であろうと日々努めている。つまりネコを被っている。あ、ちなみに『遠坂たるもの優雅であれ』、本当にこんなのが家訓だったりするので、被っているなと自覚するのも、3分の1くらいだ。中学生頃は半分以上演技だった。なので小学生時代の私を知っている人は、この穂群原に通う今の私を見れば驚くのではないだろうか。ま、それが成長という事で。

 だけどそんな私の仮面を……知っている数少ない人が、級友であり桜の選んだ弓道部の部長も務める美綴綾子だった。

 

『遠坂、無理してない?』

『何を言っているのかしら?』

 

『やっぱり無理してるだろ?』

『あんたが私の何を知っているって言うのよ!』

 

 穏やかな会話から始まった筈なのに、何故か口論になっていたいつかの2人。だけどそれが途中で楽しくなってしまって……。本音で話せる友人も居なかったんだなぁって……。そんな事を改めて気付かせてくれたのが綾子だった。また綾子と同じく級友の陸上部の三人娘とも、この2年A組で知りあえたから、今の私は以前より結構肩の力が抜けていると自覚していた。

 私は基本学校を休まない。品行方正を保ちたいから休まないというのが以前の私だが、今は級友達の顔を見、空気を感じたいから学園を休みたくないという気持ちが強かった。

 

「ところで綾子、間桐君って……?」

 

 机に鞄を掛けながら、声を潜めて綾子に尋ねた。

 

「遠坂も驚いたろ? 日増しにイケメン度が上がってな。前のような気難しさや理不尽な癇癪が消えて、今じゃ頼れる副部長だ。部長の私としては喜ばしい事だな」

 

 綾子は慎二の変化を肯定的に捉えているようだった。それが普通の見方だし、間違っていないとも思う。だけど、私は何故か喉に小骨が引っ掛かったような気分だった。だけどそんな小骨も授業が始まれば忘れてしまうし、例え夜に怪しい儀式が行われていても、日中は淡々と時が進んで行くものだ。なのにお昼休みに変化があった。

 

 いつも食堂か購買のパンでお昼を済ます私は、チャイム後にこれまたいつも通りに食堂に向かって廊下を歩いていた。お決まりのように私のA組は、校舎の一番端にある。だから階段まで隣のB組やC組の前を通るのだけど。ちらりと横目でC組を見れば、慎二がつまらなさそうにお弁当を食べていた。彼……?

 

「あのいつも壮健な衛宮殿が休みとは……」

「だよな。身体が丈夫なのだけが取り柄と豪語していたのにな」

「まぁ、今年の風邪はそれだけキツイんだよ。テレビでも言ってたろ?」

 

 ああ、衛宮君が休みなのか……。驚きすぎて、慎二にはきちんとペンダントのお礼も言えてなかったし……定食じゃなくパンにして、後で陣中見舞いでもしてあげるか。

 

 そうして私はパンとジュースを2パック持って、C組の人に慎二を呼び出して貰った。口実は『物理で聞きたい事がある』だった。自慢じゃないが私の成績は良い。ただ、物理と整合性のとれない魔術なんてものを知っているだけに、苦手ではないが時々ミスをする。まぁ、テストでマイナス1~3点の範囲だけど。

 対する慎二も成績は良く、理数は私や、成績トップを私と競う生徒会長の柳洞君より良い場合があると綾子情報で前々からわかっていた。

 ああ見えて慎二も運動部の男子なので食事は早い。だからスッと廊下に出て来た。そしてその表情は……寂しそうな、嬉しそうな……何とも言えない物憂げな顔で……。改めてこうして見ると、結構整った顔をしているのねと妙な感想を持ってしまった。

 

「どうしたの遠坂? 聞きたい事があったんじゃないの?」

「ああ、いや……それは口実で……。何だか元気がないなって気になったと言うか……」

 

 連れ出した屋上の階段室裏で、慎二にジュースを手渡しながらあたふたする私……。何なのよ……?

 

「元気? ああ、ちょっと複雑な感情というべきなかな。衛宮からの報告でね。聖杯戦争から降りるそうだ」

「え?」

「サーヴァントが負けて消えたのさ。それでマスターの人が衛宮を気遣ってくれて『全部忘れて、日常に戻れ』と言ったらしい。それで衛宮はショックを受けてね。そういう理由で衛宮は本日休みだった。僕が妙に見えたのは残念だという気持ちと、ホッとした気持ちがないまぜになっているからだと思うよ。心配を掛けて悪かったね」

 

 衛宮君の陣営ってセイバーよね?

 

「ウソッ! セイバーが負けたの!?」

「らしいよ。昨日の夜にね。多勢に無勢と言うのかな? 宝具と思うんだけど……無数の剣を浴びせられ、一溜りも無かったらしい。遠坂はそんなサーヴァントに心当たりはない?」

「ない……わ」

 

 だけど、その戦法は投擲だか何かよね? それって『アーチャー』という枠に引っ掛かる?

 慎二と別れた、予鈴の鳴る廊下で従者が教えてくれた。

 

〈確かにその戦法は『アーチャー』に引っ掛かるだろう。そして私も似たような戦法を奥の手として持っている〉

(まさか、あなた……?)

〈信じる信じないは君の判断に任せるが、君の護衛をしている私にそんな時間はないぞ? それに君が眠っている時でも、魔力の流れはわかるだろう?〉

 

 それは確かに。では、一体誰が……?

 

 

 

 

 2月の3日。かれこれ、この儀式が始まって十日になろうかという頃だ。先日、テレフォンナンバーを交換したアーデルハイドからコールがあった。その声はとても沈んでいて……。

 

「え? セイバーがヤられただって!?」

 

 一体どこのどいつに?

 

「相手は? うん、うん……そっか……、で、どうするんだ?」

『私は最後まで見届けるつもりですが、一旦降りたフリをします』

 

 その理由はエミヤにあった。ヤツの生い立ちを考えれば降りる事なんてできないだろう。だけど降りさせないと危険だ。アーデルハイドはそう判断して、暫くエミヤのフォローに回るという。それが正解だろう。

 

「わかった。何かあったら、絶対に連絡してくれ」

 

 そう言って通話を切った。

 

 いよいよ事態が動き出したわけだが、真っ先にセイバーが脱落するとは。見た目は可愛い女の子だけど、英霊はその最盛期で召喚されるから関係ない。まして男か女かも意味を成さない。生前培った技術や技もあるが、最大の真価はその内包する神秘と宝具にあった。しかもあのサーヴァントの正体は、聖剣エクスカリバーを担うアーサー王だ。

 セイバーの闘いぶりを、間近に見たアストルフォの評価も高かったんだ。それだけにアッサリ負けて消えたというのが解せなかった。思い浮かぶ相手は一人居るが、求婚相手をそう簡単に斃すとは思えなかった。大昔の王なだけあって、現代のモラルやコモンセンスを求めても意味はない。それでもあの王なりの芯はきちんとあって、当時の風習や習慣を思えば、かなり真っ当で賢王だったとエルは教えてくれた。となると……あの王を除外すれば誰だ?

 そんな状況だったので、この報にはアントニーもアストルフォもオレと同じく首を捻っていた。事情をいまいち飲み込めていないクロエに至ってはキョトンとするばかりだ。だだ、エルだけは少し違った反応をしていた。

 

「何だ、エル?」

「私も誰かの掌の上で踊らされて……。皆んな、騙されている?」

「え?」

 

 エルはそこから自身の思考の中に埋没していった。

 

「アントニー?」

「エルヴァ、誰かが途中参戦したとか?」

「ありそうだな……」

 

 途中参戦……アーデルハイドが直接襲われていないらしいので、令呪は奪われていないだろう。テレフォンでもそんな様子は見られなかった。きっとセイバーの消滅とともに消えた筈だ。となると令呪や召喚がどうこうでなく、聖杯だけを横合いから奪う目的か……?

 

「じゃ、森のイリヤスフィールが一番危ないじゃないか!」

 

 そんな逸るオレの腕を引いて抑えたのがエルだった。

 

「以前、森へ入った時に例の粉を撒いていました。なので飛ぼうと思えば、いつでも飛べます。何よりあの森は今、ランサー達が囲んでいます」

 

 あの山で跳躍の時に座標となっていた粉を撒いていたのか。

 

「ランサーが?」

「正確には、あちらのアサシンです。私と同じで、一番危ないのは孤立した場所にいて、小聖杯を持つ彼女だとマトウも考えたのでしょう」

「じゃ、オレ達はどうする?」

 

 暫く考えていたエルがこう呟いた。

 

「トオサカに動きがあるかも……」

 

 トオサカに?

 

「どういう理由でだ?」

「あの陣営だけが、公園に居ませんでした。その時かその後に、ランサー陣営とセイバー陣営が何らかの打ち合わせをしていたとしたら? つまり、あの陣営はこの件に関して情報が孤立しています」

 

 そこはオレも気になっていた。オレ達をハメるために、トオサカをダシにする。ありがちな手だ。

 

「その情報の無さを狙うとしたら……マトウか」

「はい。そしてこの動きは悪意からでなく、裏でこの街の人々を護るためではないかと」

 

 大筋が読めた。

 

「その目的は? 何を隠していると思う?」

「部隊の人員だけでは足りなくなり、セイバーの手も借りているのではないかと」

 

 オレもアントニーも大きく頷いた。外部から干渉する組織が予想以上に大きかったのだと思う。

 

「エルヴァ、君が居たからだろうね」

「聖杯戦争やイリヤスフィールの事はオレ達に任せたって事か?」

「おそらく。言い方を変えれば、そのアーデルハイドって人は最初からそのつもりだったと思うんだ。だから彼女の養父であるカールという人もお祖父様と同じでさ。正義感のある人なんじゃないかな? それでもって、世界の闇と闘っているのかも知れない。そしてマトウもそれに乗ったか、あるいはあちらも最初からそうだった気がするよ。僕達はゴーストから手に入れた情報がある。それを渡そう」

「だな」

 

 しかし聖杯戦争中にサーヴァントともども抜けて、闇の勢力と闘うのか……何とも大胆だ。でも、アントニーの言う通りだな。アーデルハイドはオレと違って理知的に感じた。きっと深い計画を建てた上での行動なんだろう。

 

「アントニー、でも現段階では冬木限定でしょうね」

「わからないよ、エル。その人も優秀な魔術師なら。今後も自力でセイバーを支えるのかも」

「それをセイバーが良しとするかどうかは別ですよ?」

「まぁ、そうだね」

 

 この話し合いにアストルフォは一切発言しなかった。パラディン(光の騎士)は静かに怒っていたんだ。

 

「アントニー。そろそろオレ達もマトウと話し合いの場を作るべきじゃないか?」

「うん、そうだね」

 

 そこで魔術師の家に、正面から『普通』に訪ねようと言ったのがエルとアストルフォだ。

 

「やっぱり、堂々とするべきだよ」

「ですね。何かお土産を用意しませんと」

 

 どこかズレているアストルフォとエルだった。

 

 

 

 ────『セイバーを失った』。

 

 アーデルハイドさんはそう言った。とても悲しそうに。そしてこの戦争から降りようと言ったんだ。

 

『暗い……夜の闘いの事は忘れて、これからは明るい、未来ある日常を送って下さい』

 

 勿論、俺は反発した。街の人はどうなるんだって。セイバーを失ったのは痛いさ。サーヴァントに対抗するには、サーヴァントが必要だって言うのもわかる。だけど、だからと言ってこのまま終わったら……。それで、知らないところで誰かが消え、やがて新聞やテレビで信じられないような『嘘』の災害が報道されて、大勢の人の犠牲が発表されるのか? それを黙って見過ごすのか? 知っているのに指を咥えて待つのか?

 半人前の俺にだって、何かできる事はある筈だ。たった1人でもいい。誰かを救ける事ができる筈だ。だから俺はアーデルハイドさんと言い争う事はヤメて、大人しく話を聞き入れた風を装った。だけど、現実問題としてサーヴァントが居ないと厳しいわけで……。そこで思い付いたのが遠坂と間桐だった。どちらかの陣営に加えて貰う。それしか街を守る方法を思い付かなかった。

 だから、俺は────桜に相談した────。

 

 

 

 今日は部活がなかったらしい。招かれた家は、数年前に数回来たきりの大豪邸だ。

 

「あれ? 桜、ここに樹がなかったか?」

「ああ、あっちですよ、先パイ。玄関前だと、影ができて暗いイメージだからって」

「植え替えたのか……」

 

 いつ植え替えたのか知らないけれど、育った樹の植え替えは難しいと聞いた。でも効果は大きく、玄関前がこんな冬でも明るく感じた。

 

「慎二、居るのか?」

「さて、どうでしょう? 部活がない日は新都に行くのが、ここ最近の習慣のようですから」

「また、遊んでるのか?」

「いえ、本屋さんですよ。先パイの事は伝えてありますから、出ていてもすぐ戻ると思います」

 

 ふ~ん。お邪魔しますと扉の内側に入り、上がり框で桜が出してくれたスリッパに履き替えた。以前は暖色系の暗い灯りしかなかった廊下が、昼光色の電灯に変えられていた。

 

「明るくなったな?」

「はい。この廊下、長いのに窓がありませんでしたから、電灯から変えようって」

「うん、良いと思うぞ」

 

 桜が魔術師の『卵』だっていうのは、もうわかっていた。それで豊富な魔力を持っているから、ランサーを召喚した事も。でも、表立って動くのは兄の慎二で……。あいつはあいつで妹の桜を守るために、敢えて危険なこの闘いに臨んでいたんだ。そいつを慎二の態度や、アイツらしい、わかりにくい言葉で察した俺は感動していた。だからアイツの気持ちを蔑ろにはできない。お互いに知っていても、桜に魔術の話はしない。桜に案内された部屋でお茶をよばれ、こうして慎二の帰りを待つだけだった。

 

 やがて桜が、着物姿で何故か丸刈りになった慎二と、あの空飛ぶ馬に跨って弓を引いていたサーヴァントを連れて入って来た。

 

「慎二……俺」

「勘違いさせたようじゃ。儂は慎二ではない。慎二はこちらに戻っとる最中よ」

 

 あ。確か親戚の人って言ってた、あの人か……。髪の毛、どうしたんだろう?

 

「す、すみません。俺に何か?」

「何かではなかろう? 慎二に用があるのは、まだまだ降りる気がないからなんじゃろ?」

 

 う、この人は……?

 

「安心せい、衛宮の。お主の事も、こちらは織り込み済みじゃ。ともに『この街のために』、闘おうぞい」

 

 ホッとした。この人も『正しい人』だったんだ。

 

 

 

 いつの時代も、最優先されるのは『情報』だ。鮮度の高い『情報』を得られるからこそ、他企業や他国に先んじて手が打て、利益なり国益を自分達へ呼び込めるものなのだ。勿論、その『情報』を活かせる能力や頭脳が必須なのは言うまでもない。

 また、太古の昔から同じ『情報』を得るなら鮮度を飛び越え、収穫する前から……いや、種を蒔いた時点で豊作か凶作を知りたいと誰しもが考えるものだ。これは一次産業に従事する民だけではない。より真摯に、切羽詰まった飢餓状態で求めたのが王侯貴族……いわゆる時の為政者であり、権力を持つ者達だったのは想像に難くないだろう。

 だから大昔から占術があった。お呪い(おまじない)にも満たない根拠の薄いものから、星の運行や気候の変動を観察し運気を観るもの、果ては個人の持つ異能とそれらが組み合わさって、より高度な未来を読む者もこれまでの歴史の中で散見された。

 農民も漁民も天候までは為政者から教えられたか、その筋から敢えて流された方法で占うか観る術を得ていた。現代の国家も、その国がまともであれば政府が天気予報程度は民間が予測する程度は許している。またその精度がその国の国力を現していると言っても良いかも知れない。

 

「現代では『ルッキンググラス』という装置が権力者に独占されています」

 

 そんな装置があったのかと、それも驚きだ。だけどそれに対抗し得る、より精度の高い未来を視る者が居るという。それが今話してくれているランサーの造物主なのだそうだ。この女の子のランサーは、オレ達を知り抜いていた。そこまで調べ上げていたのかという思いもあるが、驚くべき事はそこじゃない。最大の驚きは、並行世界のオレ(ランサーの鋳造者)には『並行世界を視る能力』があり、自分という魂を通じて『前世(過去)』や『来世(未来)』を『視る』点にあった。

 エルを見ながら熱心に話してくれるランサー。エルに『読まれる』事も想定内だったという。今回の『介入』はオレの意識改革と、エミヤの意識改革を、『少し変わったマトウ』に乗り込んで行う事にあったそうだ。そのキーパーソンとなるのがアーデルハイドだったという。

 

「アーデルハイドさんが先にこちらと連絡を取られて、セイバー脱落を提案してくれました」

 

 エミヤの持つ後天的な精神疾患も聞かされた。そしてそこから来る精神年齢の問題と、精神年齢から来る思考と認識の範囲の狭さも教えられた。だからこの先は『この街を守った』という『満足感』を与える事で、世界の裏に潜む『真の悪』の存在は知らせないのだそうだ。

 だけどオレとアントニー、そしてこの先この家を担うシンジと、最初から知っているアーデルハイドに、後の事を全部託したいと言った。それは自分自身の元の世界に帰らなければならないからだった。

 

「この世界を救うのは私達でなく、この世界に生きるあなた達でなければなりません。その資格があるかどうか、そのチカラがあるかどうかをこれまで見ていたのです。そして私の造物主はキャスターと出逢ったあなた方なら大丈夫と判断して、私達をこの世界に送り出してくれたのです」

 

 オレやアントニーが『造物者』や『鋳造者』と言うものだから、ランサーまでが『造物主』という言葉を使っていた。少し前は『エル様』と言っていたのに。エル(キャスター)が『分け隔てしない』と話していたから、きっと彼女の『エルヴァ』もそうなのだろう。

 全部が全部、先に教えられていた訳ではなく、キャスターの存在は謎だったという。だけど、本当に100人に分裂できるアサシンを彼女は2騎も抱えていて(合計200人!?)、もう2年近い付き合いなのだという。また、あちらのオレは、やはり分割思考が上手く魂の扱いにも長けていた。その『エルヴァ』自身が100にも及ぶ思考を駆使して行動していて、その内の『47番目』の思考が、とあるアクシデントで並行世界に飛ばされ、そこで肉体を得て暮らしていた。

 その人こそがランサーにとっての姉であり、『エルヴァ』の方は鋳造者という意味と畏敬の念を込め、『エル様』と呼び分けているそうだ。そんな姉に妹と認められ、更に『エルマ』という名も贈られていた。だからだろう。『エル様』を語るよりも、姉を語るときの方が『視線が熱い』。

 クロエがオレを見る視線以上かも知れない。だけどそれは、午後からマトウに来ていて一通りの話も終えた俺達にもわかる立派な理由があった。姉のエルヴァは『エルヴァ』の思考の一部でしか無いが、あの手この手で、その流された並行世界でのイリヤスフィール達を守るための手段を取っていた。その果てに英霊の能力を取り込んでいると言う。それと同じ方法でエルマも様々な英霊の能力が扱えるらしい。それがあるから生身なのに『枠(クラス)』が取れるとの事だった。

 

 やがてシンジというこの家の長男がスクールから返って来た。彼はオレ達を見て少々驚いていたが、エルマの説明で理解したようだ。日本語なのでサッパリだったが、エルとアストルフォがオレとアントニーに、何を話しているかを説明してくれた。

 その後、シンジは部屋に一旦戻り、着替えてから資料を持って現れた。

 

「こちらの日本語版は、僕が調べた限りの事を纏めたものだ。こんなの図書館に参考となる本があるでもなし、ネットでも検索できないようになっているんだと思う。だから正直、かなり限定された内容だろうね。だけど、足りない部分はアーデルハイドがかなり補ってくれたと思う。それがこっちの英語版。アーデルハイドがPCのエディタで打ってくれた文章のコピーだから、そこにそちらの知っている事を書き加えてくれると助かる」

 

 それで日本語版をエルが声を出して読み、英語版をオレとアントニーが、吐き気を堪えながら声を出して読んだ。アストルフォは顔を真っ赤にして怒っていた。エルは涙を流していた。英語版のそれには、悪魔崇拝者の犠牲となった様々な子供達の事例が書かれてあったのだ。シンジも結構調べていた。だけどそれは表面上のものがほとんどで、実際にアイツラが何をやっていたのかの実態までは無理だったのだ。

 ある少女は9歳で初めて男を知り、それ以降奴らが集まる度にレイプされていた。比較的大人しく美少女だったその子は、生贄にされる事もなくただただ犯されていた。何も大人だけが相手じゃない。相手は同世代の子供も居たし、数歳上の者も居た。更にはショーとしてヤギやヒツジともセックスさせらたいう。そして11歳の時に誰の子かわからぬ赤ん坊を産み、それっきりその赤ん坊とは会っていない。どこかに連れて行かれたのだ。

 幼いながらも母性はあるもので、子供に会いたいと願っているそうだ。だけど最悪の事態はまだまだあった。2回目以降の妊娠は必ず堕胎させられ、その胎児を悪魔どもは調理し喰っていたという。14歳頃には堕胎した自分の子を料理しろと命令され、料理したという。

 それを命じたのも、こんな過酷な運命をその子に与えたのも、親であり祖母だったという。これは1980年代の英国で起きたリアルな事件であり、警察に救け出された15歳の少女の体験談であった。

 

「アメリカじゃ、セラピストが植え付けた偽の記憶とされているんだ。理由は真実を覆い隠すためだよ」

 

 アントニーの言葉だ。親が悪魔崇拝者とは限らない。単に親の育児放棄や、レイプを伴う虐待の場合もある。そういう事例と混同させるのだ。それがカバールという、政府や警察といった社会組織に深く根を張った者達だった。奴らは裏切れないよう、子供を犯す映像などを保管している。だけどこんなのも地方で行われている、昔からあった事でしかない。

 現在はもっと幅広く組織立てられ、コカインなどと一緒に金銭で他国から子供が買われ、餌食となっていた。つまり現地にはそういう誘拐組織があるのだ。それで以って尖ったヤツは、その子達を買い、犯し、苦痛を与え、最後は眼球から注射針を刺して松果体を抜き取りアドレノクロムを抽出していた。

 そんな悪魔のような奴らを葬り去ろうとアーデルハイドは動いていたのだ。

 

「シンジ、お前もヤるのか?」

 

 そういう道に進むのかという意味だ。

 

「僕は立ち上がる人の情報屋として動きたい」

 

 エルの通訳はそんな内容だった。そしてそれが無難だと思った。今は無理だが、動くならオレとアントニーだ。そしてアーデルハイドを手伝えるのもオレ達が適任だろう。

 

「兄さん、先パイをお連れしました」

 

 ノックの後に入って来たのは、シンジの妹であり、本当のマスターであるサクラという少女だった。

 

「わかった。応接室に通しておいて。後で行くよ」

「はい」

 

 その後は表面上は聖杯戦争で闘っているフリをしながら、情報交換をする事に決まった。とにかくシンジが言うには、神父の息の根を止め、ヤツのサーヴァントであるギルガメッシュを斃せば、この儀式は終わるだろうとの事だった。勿論、近い未来には、聖堂教会やバチカン、東方聖堂騎士団(OTO/アレイスター・クロウリーの『法の書』を実践する教団)との闘いが待っているだろう。また各国の政府……特にアメリカのそれや英国のそれとも。

 だけどそれはもっとチカラを蓄えてからだ。今のオレ達には敵が余りにも巨大で遠過ぎた。だからこそこの儀式の間に、エルマの話やアーデルハイドの話をもっと聞くべきだと思えた。

 

「ところでエミヤは?」

「ああ、心配ないよ。僕の方で何とかするから」

 

 エルの通訳でシンジがそう言ったのでオレ達はマトウの家を後にした。

 

 

 

 来客が帰ったところで、僕は衛宮の待つ応接室に向かった。『三』が言うには、ジジイと『一』が衛宮とともに居るという。なら、上手く話しているだろう。桜も既に応接室らしいがそれはいい。ともかく、ああいう折れず諦めないタイプには、適度に達成感のある作業をさせておくに限る。つまり目の前で見える範囲の『悪』を斃させ、そこで終わらせるのだ。その先の本当の悪なんて、その存在を知ったとしても、何でも1人で対処しようとしがちなアイツに追えっこないし、その数の多さと複雑さから斃せる筈もない。

 単純な利己主義や利権主義、拝金主義に走っている者から、本気で悪魔崇拝や土星信仰なんてしている者や、麻薬物質欲しさで殺人を繰り返す者も居れば、行き過ぎたロリコンやショタコンまでもが含まれてしまう幅広さだ。つまり『悪』はどの職業のどの階層にも、満遍なくありとあらゆるところに蔓延っている。そんな状態だから、普通の奴なのか悪どい奴なのか選別がとても難しい。

 だけど、衛宮みたいな奴が陥りそうなのは、目の前に現れる危機だ。それに目を囚われ過ぎて、大元にたどり着けない。クサイものは元から絶たなきゃダメと、頭ではわかっていても先に行けないんだ。大きな戦争を失くしたいなら、CIAをぶっ壊し、軍需産業を壊さないと。

 だけど衛宮にそれはできない。きっとアイツはジジイの言うように、戦地の惨劇に目を奪われそこで闘おうとする。そういう奴も確かに必要なんだけど、それは軍で良いじゃないか。僕達にできる事なんて、タカが知れている。情報を集めて『闘うチカラのある奴』に流すか、本丸に案内するだけなんだ。

 だから衛宮には、今回、聖杯戦争における本丸の内部を見せる。手足が壊死してもげ落ちても、僅かな栄養分で生かされ、供物とさせられている人達……あの人達も『衛宮と同じ』だと見せた上で、選択を迫る。幸せになれなかった人達を悼み、誰しもが幸せになるチャンスを得られる街にしたいとか、自分も必ず幸せになる……そういうポジティヴな思考や発想を持てるように促す。それしか無いと思うんだ。

 

「衛宮、ご町内のヒーローで良いんだよ。それ以上は絶対に求めるな」

 

 それが僕の本音だった。

 ややこしいんで、『三』を廊下に残して応接室に入った。驚いた事に衛宮とジジイは和やかに談笑していた。もっと驚いたのは、ジジイの頭が丸刈りになっている事だった! それ、僕の身体ですよね!? でも、衛宮の前では問い詰められない。ヤラれた……狙ったな、ジジイ……。

 だけど空気が和やかだ。僕の引き攣った笑顔とも違って、相変わらず衛宮の笑い顔は作り物っぽいけど、桜までつられて笑っているくらいだから、衛宮の笑顔もそれなりなのか?

 

「慎二、遅いではないか」

「ええ、小用の筈が中々片付かなくて……悪いな、衛宮。待たせたようだね」

「あ、いや」

 

 この後、簡単な挨拶をしてジジイと桜は出て行った。ただ『一』は残っている。

 

「慎二、俺……」

「ああ、何があったかの事情は知っている。アーデルハイドさんだっけ? 降りろって言われているんだろう?」

「だけど……」

「この街を守りたいし、理不尽な儀式は終わらせたい、だな?」

「そうなんだ」

 

 衛宮の顔が明るくなった。まぁ、僕がこれから話す事もジジイが先に話していたと思う。

 

「わかった。間桐は衛宮を仲間に迎えよう」

 

 そして僕は『一』に目線で合図した。それに『一』も頷いてくれた。こういう、いかにもそれっぽい演技を即座に返してくれるから助かる。

 

「衛宮とは同じクラスだから、学園で話せない事もない。今後の事はおいおい話すから、今日のところは帰りなよ。この後、バイトだろう?」

「ああ、助かる」

 

 そうして桜を呼んで、玄関で衛宮を見送った。

 

「兄さん」

「安心しなよ。ちょっとしたスリルと達成感を与えるだけさ。それ以上の事はさせない」

 

 外部からの侵入者はアーデルハイドとセイバー達と一部のアラブ人。冬木内部の聖杯戦争は僕とランサー、そしてキャスターとライダー陣営が対処する。小聖杯の護りも、男の方のランサーとアラブ人達がとっくに行っていた。

 

「帰ったかの?」

「はい。この後の動きは?」

「遠坂陣営と話さねばならんじゃろう」

 

 いよいよか。

 

「なら、御三家で集まった方がよくない?」

「その前にもう一つ、確かめたい事があるんじゃよ」

 

 そうしてジジイは『着替えてくる』と奥に引っ込んだ。

 

「少し汚れるかも知れませんから、慎二さんもそういう服に」

「今から出るのか?」

「早い方が良いですよ」

 

 そう促されたので、ラフな服装に着替え終えたのが15分後で、ジジイと『一』は既に玄関で待っていた。ジジイはインナーがグレイのパーカーで上にフライトジャケットだった。フードは後ろに垂らし、裾もそのまま。下はジーンズで、頭にはツバを横手に回したキャップだ。しかも『一』とペアルック?! パーカーの胸に入ったロゴが同じだ!

 感心したのは2人ともジーンズを下げていないところ。カーペンターでなくピッタリなシルエットのスリムだからラッパーには見えない。ラフなのに随分とスタシリッシュだ。

 

「お祖父様、服装が若すぎない?」

「お主らの世代に合わせたんじゃよ」

 

 対する僕はチェックのスラックスに、シャツとセーター。その上にダッフル・コートだ。何だかこちらの方が保護者っぽい。玄関を出るとジジイと『一』は腕を組んで歩いていた! そういう仲なの?!

 だけど思い返せば、以前『三』もジジイに抱きついたりしていた……? 例え孫と戯れるお爺ちゃん気分だとしても、そういうのってある程度の期間が必要じゃないか……?

 

「お祖父様、あなたは誰ですか?」

「慎二、やっとか」

 

 僕の前を『一』と腕を組んで歩いていたジジイは、振り向いてニヤッと笑った。

 

「慎二。英霊の座は根源と同じく世界の外にあるとされとるな?」

「はい」

「そして様々なところで召喚されよる。それは毎回同じ世界か?」

 

 あ。

 

「並行世界?」

「そうじゃ。儂も間桐臓硯で間違いない。じゃがお主の知る臓硯ではない」

 

 薄っすらとそうじゃないかとは思っていた。それに基づいての資産整理だろうとも想像していた。だけど、本人から言われると驚きだ。つまり、僕の恐れていた『あのジジイ』は本当に消えたのだろう。

 

「む? 婆さん、またか……」

「慎二さん、あそこ」

「え?」

 

 今歩いている場所は、家から10軒ほど離れた程度で同じ町内だ。『一』の指差す方向を見れば、ある家の屋根の上で老婆が優雅に座って月を眺めていた。幽霊?

 

「生霊じゃよ。普通の者には見えんが、あの家の婆さんは子供の頃からああして幽体離脱しては夜空を眺めとる」

「たまにああいう人が居ますね?」

「うむ。害などありはせんし、本人もきちんとわかっとる。身体は眠っとるが、霊は夢遊状態でなく夜の生活を楽しんどるんじゃ」

 

 そういうのがあるのか。ロマンチックな人だなぁ。

 

「今の慎二ならあれも見えよう」

 

 それは細い細い紐のようなものだった。

 

「あれがソクラテスも書き残した『魂の緒』よ。あれがあるから生霊と判断できるんじゃ」

「死神が鎌で切るってアレ?」

「そうじゃ。別に死神でなくとも、儂ら魔術師や英霊でも切れるがの。じゃから、憎い奴を幽体離脱させて切るという方法もある。かつて蟲に身をやつした儂の弱点はそこじゃった。案外と気づかれんものじゃな」

 

 ジジイの身体が蟲なのは知っていたけど、そんな弱点があったなんて……。あ、でも。普通のハサミとかじゃ無理なんだよな?

 

「お祖父様? それは魔術師でも特殊なナイフなどが?」

「ん? まぁ、専用の方が楽じゃろうが、相手が一般人であるなら、魔力をしっかり通した包丁でもできるぞい」

 

 うん?

 

「もしかして緒の強度に個人差がある?」

「そうじゃ、わかって来たの。では、慎二。もうちょい視えるようにしてやろうかい」

 

 何かの呪文の後、何も変化が無かった。僕が文句を言うその前に、ジジイは見覚えのある家の呼び鈴を押した。

 

「遠坂の家じゃん!?」

「おうよ」

 

 そしてジジイは何の躊躇いもなく、こう叫んだ。

 

「早う出い! 桜に聞いたぞ! 小学校に上がるまでおねしょが治らんかったと!」

 

 うわぁ……。速攻で遠坂が出て来た。

 

「ひ、ひ、他人んちの前で何言ってくれてるのよ!!」

 

 そして僕達を視認した遠坂は、ジジイと僕を見て叫んだ。

 

「し、し、慎二が2人!?」

 

 だけど僕は冷静に遠坂を家に押しやり、玄関のドアを締めた。それは頼まれたからだ。遠坂の後ろにいた奴だ。そいつはあのサーヴァントじゃない。学園でも気付かなかった。きっと遠坂の背後霊なんだろうね。僕は今、守護霊か何かを視ていた。その人が『入れ』と手招きしたんだ。アーチャーは廊下の奥からこちらを『何事だ?』と覗いていた。その手には布巾と皿だった。食後の洗い物だったのか……。

 僕はそれを遠くに見て、『夕飯が随分早いな?』『探索にでも出るつもりだったのか?』とか考えながら、 近くで視える守護霊の仕草を観察していた。

 

「永人に憑いておった守護霊と同じじゃな」

 

 僕と遠坂は同時にジジイを見た。けれどシシイは何も言わなかった。代わりに言ったのは、『セカンドオーナーとしての遠坂に知らせるべき重要な情報がある』だった。

 

「決して殴り込みではない。まずは話を聞いてはくれんかの?」

「あ、あなた誰? それにその女の子は?」

「儂は間桐臓硯じゃ。ナウいヤングになっとるがの」

「チョベリグ~。ランサァ~でぇす~」

 

 どんな挨拶だよ。こんな怪しい奴らに何故か遠坂の許可が出た。それで応接室に案内されたんだけど、入る時ジジイと『一』は僕の方を向いて、器用にムーンウォークで入っていった。息ぴったりだ。

 しばらくするとお茶が出て来た。アーチャーが入れたのか? こき使われてるなぁ。

 

「まぁ、あなたが臓硯というのは置いといて。重要な話って何です?」

「うむ。現在これと言った動きがない。が、それはサーヴァント同士の闘いとは別の闘いが、裏の裏で行われておるからじゃ。その別の闘いに付いては耳にした覚えがあるかの?」

 

 ジジイの静かな問いかけに、遠坂は迷いながらも小さく頷いた。何かあったな。

 

「思い当たる節があるようじゃな? そうなんじゃよ。部外者がな、聖杯が欲しいのか、サーヴァントが欲しいのか、わらわらと湧いて来おるんじゃ。時代じゃろうなぁ、特に今回は酷い。始まりは江戸時代じゃったので、江戸と毛利の忍びに気を付けるだけじゃった。二度目の明治もこんな田舎じゃと、隠蔽は意外と楽じゃった。しかしの、三度四度と続けるとな、かなりの無理があった。まして今は世紀も変わった。今回を最後にせんと本当に拙い」

「ええ……そう思います」

「そこで聞こう。聖杯の汚染は?」

「しん……間桐君にそう伺っていますし、前回の事を考えれば確かにそうかなと」

「うむ。それでアインツベルンには無期限の停止を申し込んどる。返事はまだじゃが、終わらせようと儂は思う」

 

 ジジイは、とても強い目で遠坂を見た。遠坂も僕が話してから、遠坂なりに考えてくれていたんだろう。

 

「はい。私もそれが良いと考えます」

 

 ジジイは頷いて今度はアーチャーを見た。

 

「お主もそれで良いかな?」

「ああ、異論はない」

 

 ならばと、ジジイは意外な事を話し始めた。

 

「安心せい。この世界の桜と衛宮士郎は結ばれるじゃろう。慎二が居るので、戦場には行かせんよ」

 

 アーチャーの髪の毛が逆立ち、その手には湾曲した剣が握られていた。が、一瞬にして姿が消えた。

 

「慎二、外じゃよ」

「え?」

 

 応接間の窓の外。そこに呆然としているアーチャーが突っ立っていた。

 

「何? 今、何をしたの?」

「空間転移じゃよ」

「ウ、ウソ。大魔術よ? それを自分じゃなくサーヴァントに……?」

「世の中は広いものじゃぞ。では進展があればまた連絡しようかの」

 

 そう言ってジジイは席を立った。その後、遠坂に見送られながら僕達は外に出たんだ。外には睨みつけてくるアーチャーが待っていたけど……。

 

「お主の正体は六代目遠坂には教えとらん。己の不始末で並行世界の他人に当たるでない」

「お前は何者だ」

「正義の味方、間桐臓硯じゃよ」

 

 アーチャーが盛大に顰めっ面していた。それを放っぽって、僕達は帰り道を歩いた。

 

「あいつは一体……?」

「英霊なぞ、強化幽霊じゃからな。現世への怨みつらみが残る者も居るんじゃろう。儂の言葉の何かが逆鱗に触れたのやも知れんな」

 

 短気で、おっかない奴だな。僕の身体だぞ。いい加減にして欲しい。

 

「ああ、慎二。マスをかく時は左手も使え。右に曲がっとるぞ」

 

 な!?

 

「ゾウケン君、下品~」

「クカカカカカ」

 

 だから、何で腕を組むんだよ?

 

「慎二、あの娘(むすめ)は大成する」

「え? まぁ、そうかなとは思うけど、どうしてそう言えるの?」

「守護霊じゃよ。考えてもみよ。間桐の家と同じく霊が入れぬ構造なんじゃぞ? しかもあれ程の魔術師である本人も、同じ霊であるアーチャーも気付いとらん。どれだけ高次元の存在なんじゃ」

 

 あれ? 守護霊は誰にでも……?

 

「見えないだけで、誰にでも憑くものなんじゃ?」

「それが間違いよ。魂の総量は決まっておるんじゃぞ? 人が増えた時代に、ポンポンと守護霊や指導霊が憑く筈があるまい。魂が高次に至る芽がある者にだけ憑くんじゃよ。時臣が2人の娘を案じておったのは疑うべくもないが、あの者を手元に残したのは、そういう意味もあったんじゃろうなぁ」

 

 ああ、そうか。あの家は守護霊だけには、反応しないようになっている可能性があるのか。面白いものだ。そして闘いがないせいか、帰るまでに浮遊霊を2~3見掛けた。

 

「これってお祖父様。元に戻っても?」

「慎二次第じゃが、視えるようになるかもの」

 

 後日、僕の眼は霊が視える事が確認できた。

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