※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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12、救出

 夕食前にアストルフォに頼んで、ヒポグリフを喚んでもらった。理由は道端に止めたクルマを森側に入れるためだった。アストルフォの後ろに乗って約10分ってとこか。徒歩小一時間の距離が、空から幻獣で行くとこんなものだった。ついでにハンディフォンでクロエに連絡を入れる事にした。数時間の留守番なら今まで何度かあったけど、丸々一日以上は初めてだ。だからオレは心配でならなかった。

 とは言ってもエルが家に結界を張っているので、誘拐や襲撃なんかは心配していなかった。心配だったのは1人なので、羽目を外し過ぎないかだったんだ。イリヤスフィールも子供っぽいが、中身はオレと同い年なだけあって締めるところは締めているんだなと本日わかった。だけどクロエは見た目14~15歳で、頭脳もそれくらい。でも、この世を自己認識できたのは、ほんの数年前なんだ。

 元はフラスコの小人と言ってもいい、ホムンクルスの試作品だったネコの『アダム』や、元は自動人形だったイヌの『バルナバス』も、クロエが自分のカバンに押し込んでいたのは知っているので、きっとあいつらを出しているだろう。オレとしては、正直あれをエルに見られるのは恥ずかしい。その程度の出来だ。だけど思い入れはそれなりにある。だから、ネコやイヌにしたんだからな。

 特にアダムとは長いな。かれこれ8~9年になるのかな? アントニーと一緒に、ルオン先生から学んで初めて鋳造した人造生命体だったんだ。なのでアントニーも似たようなのを持っている。けどアントニーは意外とシビアで、不出来だからとテキサスの家に置きっぱだ。オレみたいに2体目、3体目を鋳造しようとはしなかった。あれだけ優秀な奴なのにな。人には向き不向きがあるんだなってその時に強く思ったもんだ。

 

「じゃ、アストルフォ。テレフォンの間、待っててくれ」

「うん。クロエによろしくね」

 

 それでクロエはコール2回で出た。

 

『マスター』

「おう。ハンディフォンが繋がるところまで出てこれたんでな。寂しいだろうけど明日の夜には帰れると思う。火の元に注意して、暖かくして寝ろよ?」

『はい、マスター。アダムもバルナバスも居ますから』

「そうか」

 

 それで通話を切った。やっぱり出していたな。アダムにアダムという名を付けたのは、アイツが元から賢いからだ。アインツベルン式のホムンクルスって、鋳造後の学習がすっごく大事なんだよ。ところがアダムとバルナバスは、敢えてアインツベルンでない方法を試した。

 アダムは広く知られる『フラスコの中の小人』だった。まぁ、エレメンタリー(アメリカでの小学校。英国だとプライマリー)のホームワーク(宿題)レベルだ。けど、フラスコの中という限定空間でしか存在できないので、知性をガンガン上げられるというメリットがあった。しかもやり方次第で、世界の外(の根源なんか)は無理でも『ホシの記憶』や『ホシの根源』には繋げられたんだ。

 で、オレのアダムは偶然に『ホシの真理』と言っても良いようなところと繋がっていた。先生もビックリしていた。いきなりそんなトコに繋がっていたからな。なのでアダムは、オレやアントニーより遥かに賢かった。それでアダムと先生が名付けてくれたってワケだ。最初から知恵の実を齧っていたって意味だ。ちなみにアップル・コンピューターのあのマークもそういう意味だぞ?

 それでそのアダムがある日、口頭でこうこうしてくれと話し始めたのが、フラスコの小人に外で生きられる肉体を与える方法だった。

 

『人なんて無理だぞ? そんなに材料を買えるほど小遣いもないし』

『おいおい、エルヴァ。もうジュニア・ハイスクール(中学生)なんだから、アルバイトでもしろよ』

『え~』

 

 で、お互いの妥協と懐事情からネコになった。しかも最初は猛烈に反対していたアダムだけど、今のネコ姿をエラく気に入っていた。気ままに何時でも思考に耽けられるかららしい。そんなアダムをネコにした頃にバルナバスを造った。コイツは最初から外で生きられる小人としてデザインした。普通の知性だったけど、イメージしたのがブラウニーだったから、クロエの前は良いアシスタントだった。

 そして満を持してハイスクール時代に造ったのがクロエだ。情操教育に良いかなと、そん時にバルナバスをイヌに改造した。勿論、バルナバスもクロエも設計の基礎部分はアダムだ。だから今のエルが改良したクロエに逢ったら、アダムの奴、驚くだろうな。

 

「お待たせ、アストルフォ。戻ろうか」

「もう良いの?」

「ああ」

 

 館に戻ったオレはオヤジと話した。オフクロの事を訊きたかったんだ。場所はまたまたあのサロン。

 

『そうだね。僕を埋めてくれる人だったな』

「埋める……? どういう意味だ?」

『君とここまで話したんだ。僕は何かが足りない人間だったとわかるだろう? アイリはその足りない部分を埋めてくれる存在だった。だから子供を作ろうと思えたんだよ。まぁ、でも君には悪いが……イリヤを抱くのは怖かったな』

「どうしてまた?」

『こんな血で穢れた手で、純粋無垢な存在を抱いて良いものか、とね?』

「それも予知だな」

『え? 予知……?』

「ああ。純粋無垢な聖杯は、あなたが手にする前に誰かによって穢されていたって」

『ああ……そういうのを感じ取れるんだ?』

「まぁね。見た目はイリヤ達と違って、こんなガタイだけどさ。一応、オレも自然の触覚だったんだなって。振り返れば、今になって気付かされる思い出がたくさんあるよ」

『そうか……』

 

 オヤジが微笑んだ。

 

『君は背が高いね? 190cmはあるだろう?』

「そうだな。センチメートルで直すと、そんなものかもな」

 

 オヤジも東洋人にしては背が高い方じゃないか? そういや言ってたな。性格がオフクロに似てるって。って事は身体はオヤジからか。残念ながらシロウはチビのままかね? オヤジに頼まれたのもあるけど、こうなるとどうにもシロウが気になった。まぁ、言ってみればアイツはリトル・ブラザーだからな。

 

「オヤジ?」

『ん、何だい?』

「イリヤはハイディ(アーデルハイドという名の愛称)に任せるとして、シロウはオレが引き取ろうか? と言っても、オレとアントニーが時計塔を出てからだけど」

『士郎は今何年生だろうか?』

「ハイスクールの2年だ。何だったらアメリカに戻る前に倫敦で暮らして貰っても良い」

 

 オヤジはキョトンとした。

 

『アメリカって、君は……?』

「オレとアントニーはテキサン(テキサス人)だよ」

『道理で……。君や彼の英語が、随分訛っているなと思っていたんだ。どうしてドイツ語で話さないのかってね』

「残念。オレはドイツ語はからっきしだ。簡単な単語ならわかるけどな。イリヤが英語で話してくれるんで助かってる」

『そうか。じゃ、イリヤもアメリカに……』

「いや。ハイディはオーストラリア人だ」

『ええ!? 本家ってワールドワイドなんだねぇ』

 

 それでオレは祖父さんが率いる現代の本家(9代目アインツベルン)の事と親族の事、それとオレが知る限りのアハトの家の立ち位置を話した。

 

『そうか……。アメリカがブルーノで、オーストラリアがカールか』

「そうそう。その子孫が今のアインツベルン本家の主立った家だな。その総数は100家を越えるらしい」

『そんなにも?』

「ああ。だからカールの名を知っていても、ハイディなんて養女が居るなんて知らなかったよ」

『あ。もしかしてカールの養女なら、その子の方が本家に近い?』

「そういう事だ。オレなんてブルーノから数えて何代目の家だ? 養父母には魔術回路もないしな。末端も末端だよ」

『でも、ここまで育てて貰ったんだろう?』

「ああ。だから養父母の事は大好きだよ。それと何となく察しているとは思うけど、オレはひとりっ子じゃない。頼れる兄貴と、デキの良い弟、そんで可愛い妹が2人居るんだ」

『結構な大家族? そんな中で養子って……』

「心配ないよ。そういう想像するような、別け隔てなんてない家だから。それにアメリカじゃ養子縁組は結構多いんだ」

『そうなの?』

「そうだよ。オレとしては、逆にアントニーが心配だ。ひとりっ子なのに、アストルフォとあんな仲になっちまって……」

『まぁ、個人の好きずきと思うと同時に不毛だなとも思うね。子孫が望めないんだから』

「だろう? だからオレも文句は言わないけど、子供はどうすんだって思ってしまうな」

『それでも、期間限定だよ。そこまで心配しなくとも……』

「怪しいんだよなぁ。アストルフォを残す手を考えていそうで」

 

 思いつめた時のアントニーはマジで凄まじいからな……。

 

『エルヴァ、食事のようだよ?』

「ああ。行こうか」

 

 食事の用意が整ったと、セラが呼びに来てくれた。別室で寛いでいたアントニー達と合流し、オレ達はセラの案内で食堂に入った。そこではリーゼリットという、もう1人のメイドが待っていてオレ達を席に着けてくれた。

 

「2人だけなのに、よくもまぁここまでテキパキと……」

 

 オレは感心していた。ハルバートの件でリーゼリットが、長い睡眠時間を必要とする短命な高出力型だとは読んでいた。それでも、食事の酒を給仕するその手付きに危なっかしさは見受けられない。また、セラの高機能振りにも驚かされる。おそらく活動時間の短いリーゼリットの分まで、細かな作業や雑用を彼女は1人でこなしていると思う。それを見ての受け止め方は人それぞれだと思うけど、鋳造者としての目から見ると『詰め込み過ぎ』に思えてならなかった。

 

「オヤジ。アハトってメイドに『人間以上』を求めていたのか?」

『おそらくね。あの人の作るメイドは皆んなそうだ。だから廃棄処分も多かったと思う……』

 

 チッ……。

 

『……その中の最高傑作が、子の産めるアイリだと聞いた憶えがあるよ』

 

 決まりだ。祖父さんがオレやハイディを譲り受けた対価は、もしかしたら妊娠機能の技術供与じゃないかと漠然と思っていた。クロエですらそれがあるからな。オレの知るアインツベルンでは、ルオン先生に教わった理論がスタンダードだ。なのにオヤジは妊娠機能があるから最高だと言った。オレの目から見たら、汎用性の高そうなセラの方が凄いんだが。

 横目で少し眺めると、本当に細かい。欧州の星が幾つも並ぶレストランのウェイターも真っ青だろう。動きの一つ一つが洗練されていて、その意味に思いを馳せると、詰まっているモノの重みに感動する。

 

『お嬢様の大切なお客様だ』『お嬢様に恥は掻かせられない』

 

 そういう芯があるのに、こちらにはどこまでも控えめな対応ができていた。これで笑顔が時たま見えれば完璧だと思うけど、そこは家人の好みか。

 そしてこの料理の数々……。いつから仕込んでいた? 調理に掛かった時間は? ドイツ料理でなく、基本はアルザス辺りのフランス料理に近いと思う。オヤジにはアハトの城は南ドイツだと聞いたから、レシピのバリエーションも豊富なのだろう。

 実は掃除が上手い、洗濯が上手い、裁縫が上手い……こういう一点得化型の方が簡単に鋳造できるし、性能も平均以上が望めるんだ。だから4人、5人と鋳造してチームを交代制にするものだと先生から聞いていた。だけどオレはクロエを造るにあたって、不器用でも『自分から色々やろうとする』、知らない新しい事であっても『自分で調べてチャレンジして』、失敗を糧に成長できる奴にしたかった。アダムには無理だと言われた。それこそが人間だぞと。

 それでオレは妹達を観察し、一緒に育った思い出を漁った。上の妹はチアをしていて、家ん中でバク転してよく物を壊している。ぶっ壊されたドア修理もオレと兄貴でしたっけ。下の妹は水泳が好きで、小さい頃から庭のプールで泳ぎを覚え、キンダガートン(幼稚園)からは、地元のスイミングスクールにも通っている。2人とも体を動かすのが好きでジッとしてられない性格だ。だけどクッキーを焼いたりもするので、そこはオフクロ(マミィ)の教育だろう。なお、女の料理が壊滅的でもテキサンは余り気にしない。重要な料理(BBQ)は男の仕事だからだ。

 それでそんな妹達がメイドになったらどうなるんだろうって事を想像しながら、クロエの性格なんかを形作っていったんだ。見た目の年齢が下の妹に近いのは予算の関係だけど、失敗しても工夫してリカバリーできるところや、自分から何かを学ぼうとするところは上手く作り込めたと思う。

 何が言いたいかというと、セラって元からこうじゃなく、自分で学んでこうなったような気がしたからなんだ。それでコソッとリーゼリットを呼んだ。そろそろ時間なのか、かなり眠そうだ。

 

「あのさ。セラって元から完璧じゃないだろ。あれってイリヤのためにって、自分で工夫したからだよな?」

 

 眠そうな目が大きくなった。

 

「うん。エルヴァ、イリヤみたいにわかるんだ。セラは立派。努力家だよ」

 

 やっぱり。精神と技能の成長型じゃないか。祖父さんの技術供与はこれもあるのか?

 

「イリヤは嬉しいだろうな?」

「うん。私達も廃棄場からイリヤに拾われて助かった。だからイリヤのためになると嬉しい」

 

 やっぱ、アハトは壊れてやがる。セラみたいなタイプを作るのが難しいってのに。単一機能のメカっぽいのが良いのか?

 

「きっとイリヤも2人に逢えて嬉しいだろう。そろそろ休みなよ。ありがとうな」

「うん。おやすみ」

 

 セラがすっ飛んで来て、リーゼリットを連れて廊下に出た。

 

「リーゼリット。お客様に馴れ馴れしく……『お休み』とは何ですか?」

 

 そこは英語でなくドイツ語にしなよ。それとリーゼリットの性能ならドイツ語の他に英語が話せた段階で立派なものだ。マナーとかああやって教えているんだろうが、技能成長は見込めないだろ。そういう風に作られてないし。

 だけどこうなってくると、その短いだろう耐用年数を延ばせる方法は無いものかと考えてしまうな。エルが地下から出て来たら相談しよう。

 

 

 

 学園に登校した私は、慎二を見掛けるや下足室を抜けて校舎裏の物陰へ連れ込んだ。

 

「何? カツアゲ?」

「違うわよ! 慎二、教えて。聖杯戦争の裏で、一体何が起きているの?」

 

 暫く私の顔を見て慎二は溜め息をはいた。

 

「何かあった?」

「昨夜、新都の再開発地区で……」

 

 100人にも及ぶ海外の軍隊が動いている事、建築中のビルの地下から多分子供らしき人達が、何人も何人も担架で運び出されていた事、しかもそれを斃れた筈のセイバーが手伝っていた事……などなどを話した。すると、慎二の方がこの話に驚いていた。

 

「何でそこまで驚くのよ?」

「いや、だって。そういう子供を誘拐したりする者達が蠢いていて、それらを捕まえたり阻止する動きがあるのはわかっていたけど……。一応、日本も独立国だよ? 私兵だと思うけど、そんな100人もなんて……。それに話から思うに、地下にかなり大きな収容施設があって、そこから救助されていたんだよね? それもかなり大勢……。って事は、他府県からもとっくに掻き集められていたって事だ。ああ、そうか……。災害のどさくさで、子供の誘拐を隠蔽するという部分は間違いないけど、規模が違うんだ……」

「何が?」

「10年前もそうだけど、ニュースがそれ一色に染まる。行方不明を訴える親の声も、それが他府県であっても掻き消されるんだ……。悪党ってここまでやるのか……」

 

 そこから予鈴が鳴るまで、慎二は誘拐された子供達が本当ならどうなっていたかを教えてくれた。この時、姿を消しているアーチャーが、凄まじい怒気を発した。私や慎二だけでなく、近くを通った人まで気付いたくらいだった。

 

 起立────、礼────、着席────。

 クラス委員長の声が遠い。先生の声も隣の教室から聞こえるかと錯覚するくらい遠く感じた。それくらい私はショックを受けていた。性的暴力や暴行なんて言葉では何も伝わらない。無理矢理のレイプは当然で、適合する者が居れば生きたままの臓器摘出が行われ、とある脳内麻薬を抽出され、場合によっては生き血を啜り、肉を喰われるという……。

 何それ? 何なの? 一体どういう犯罪組織がそんな事をするって言うのよ? 今まで誰もそれに気づかなかったの? そんな疑問に慎二が答えてくれた。

 

『司法の裁判長や高官含む職員、立法府の議員や政府高官に職員、行政でも長官に職員などなど。そういうところにも、この悪の仲間が蔓延っているのさ』

 

 それ以外にもたくさんあるようだけど、予鈴が鳴ったので話を切り上げたのだ。

 

(アーチャー……これって……)

〈ああ……。聖杯戦争の陰でこんな事が起きていたとは……セイバーのマスターはこれを事前に……〉

(うん。知っていたから、サーヴァントと動いた。斃されたという情報は、衛宮君の助力を断る口実かしら?)

〈間違いない。こんなもの、その衛宮某の実力がどうこうの話ではない。例え君であっても対処できんよ……〉

(よね? どうして聖杯戦争が隠れ蓑に選ばれたのかしら?)

〈何故バレたのかも疑問だが、一つ思い浮かぶ事がある。凛。監督役、或いはその者が所属する教会が、その悪事を働く者達の協力者であれば?〉

(聖杯戦争での根回しがあるから、警察もマスコミも動かない……)

〈それだろうな。最初からお膳立てがあった。そこを利用したと見るべきだろうな〉

 

 う~ん……天国の父さん。あなたの時もこんなのあったの……?

 

 

「いや、第四次でこの儀式の事が、本格的にそいつらに知られたと見るべきだ。僕の考えでは、江戸時代の第一次から一部の者にはバレていたと思う。でも、これといった利用方法が思い浮かばなかったんだろうね。なにせ本物の魔術なんて、ああいう悪魔崇拝なんてする奴らほど知らないだろうし。価値が上がったのは英霊という現象を、兵器として利用できると踏めた第三次からだと思う。これには証拠もあってね。何と遠坂の4代目とウチの4代目の弟、そしてアインツベルンの本家の人が、ナチスからこの儀式の大元である大聖杯を護ったとあるんだ」

 

 お昼休みの屋上での事だ。食欲が失せるので『闇の存在』のみを先に聞き、その悪事の内容は控えてもらった。まぁ、それだけでもかなりの情報量だった。英国王室にスイス、バチカンなどを牛耳る黒い貴族やら、有名な金融資本家やら。しかも単なる拝金主義でなく、麻薬も工作のための手段として使ってくるし(清のアヘンなんかもそう)、戦争まで金儲けの手段として起こすという。まさにこの世すべての悪だ(アーチャーがめちゃくちゃ怒っていた。案外と正義感があるらしい)。

 だけどこんなのを聞かされてもどうしようもない。私としては目の前の聖杯戦争が問題だ。なのでそこに絞って話してもらった。なお、セイバーが斃されたという偽装は、やっぱり衛宮君を遠ざけるためだと判明した。

 

「あいつは視野が狭いからね。目の前で起きた事しか見えないんだ。だから一定の満足感を与える方向に持って行って、おいおいと成長を促すよ。さもないと狭い範囲の悪を見て……そうだなぁ。中東辺りで野垂れ死にそうだ」

 

 何だ? 一瞬、アーチャーが実体化した。それもバカみたいに口を開けて。何だったの?

 

「じゃ?」

「うん。だからサーヴァントの利用は一旦棚上げされたと思うよ。何よりあいつらに扱える代物ではないって、第一次や第二次を調べてわかったろうしね。でも、テクノロジーの発達が新たな利用方法を見付けたのかも知れない。と同時に前回の災害は、世間を誤魔化す基盤が冬木で確立されている事を露呈した。この後者のウェイトが今回は大きいんだと思うな」

 

 慎二の言葉に思わず頷いた。確かにそこでしょうね。

 

「だけどね、遠坂。敵……この場合は宣教師と言おうか。この国に布教という名目でやって来た彼らの真の目的は、日本人の奴隷化だったんだ。つまり秀吉などはそれを阻止したんだね。魔術師ならわかるでしょう? 歴史の教科書がすべてじゃないって。真実はいつだって隠された裏にあるんだ」

 

 まったくその通りだった。愚の音も出ない。

 

「慎二、聖杯戦争が終わったらどうすんの?」

「衛宮を連れてアメリカにでも行くよ。それで、遠坂は桜の様子を見てやってくれないか?」

「え? 私、時計塔に……」

「英国王室のお膝元にかい? 凄いね?」

 

 あ!

 

「繋がってんの?!」

「現段階ではどこまでとは言えないよ。でも、何らかの繋がりはあると思う。でないと神秘の秘匿なんて大々的にできないだろう? それもあって僕はアメリカなんだよ。魔術師じゃないってのもあるけどさ。それに衛宮は相当特殊らしいんでね。ま、頼るわけじゃないけど、キャスターとライダーのマスターがアメリカ人なんだよ。だから伝手を持って損な相手じゃない。ちなみにあの陣営はキャスターがアサシンを召喚しているよ」

「ウソ! そんなのアリ?」

「アリというか、本当は御三家が最後に使う抜け穴さ。7騎焚べたら、誰が聖杯を制御すると思う? そこを利用されたカタチだね」

「ああ!」

「いやいや。アインツベルンは、その聖杯を制御できるホムンクルスをマスターに据えるんだよ? 遠坂は自分が勝った場合、どうする積もりだったの?」

 

 私は思わず固まってしまった。そんなの全然考えていなかった。食事は2人とも終わっていたが、固まっている内に予鈴が鳴ってしまった。

 

「5時間目は頭をリセットしろよ?」

「うん……」

 

 そうして私は慎二と別れ自分の教室に戻ったのだった。

 

 

 

 お昼休みのチャイムが鳴って、弁当を取り出せば慎二から声が掛かった。

 

「衛宮。先約があって、生徒会室には行けない。柳洞と済ませてくれ」

「ああ、わかった」

「それとこれ。柳洞に見られるなよ」

 

 そう残して手紙を渡された。

 

「うわ、噂はやっぱり?」

「噂って?」

「知らないの? A組の遠坂さんと間桐君がこのところ急接近しているって」

 

 女子の話にエッとなって廊下を見やれば、慎二を遠坂が待っていた。それで何かを話しながらどこかへ行った。先約って遠坂だったのか……。

 

「衛宮殿、怪しい匂いがするでござるな? あの2人はよもや……?」

「後藤君、それは無いと思うぞ」

「そうは言い切れん気もするがな」

 

 後藤君と別れ、俺は弁当を持って一成と生徒会室に向かった。早速お茶をいれた。

 

「さっきの、言い切れないって?」

「うん? うむ……そうだな。以前の間桐なら、遠坂は歯牙にも掛けんかったと思う。が、今の間桐を見るとな。何があって、そこまであいつを変えたのかは知らんが、あの先を見据えた目は中々だ。『男子、三日会わざれば刮目して見よ』とは本当なのだなと俺も感心している次第だ。なので遠坂が靡(なび)いたとしてもおかしくはないだろう」

 

 喜ばしい話なのに、何でか俺はムッとした。

 

「フ……衛宮。足の早い者、計算の得意な者、人それぞれだ。また、成長の度合いもな。焦らんで良い。衛宮は大器晩成だと俺は観るがな」

「そうなのか?」

「ああ。晩成と言っても、老いてから物事を識るようでは困りものだが、20代30代と歳を重ねる毎に見えるものが異なろう。10代で見えぬものも、20代、30代で見える場合もある。それがその時の己にとって、どういう意味があるのだと、感じて受け止められるかにあるだろう」

 

 一成の兄貴である零観さんのような事を言う。

 

「わかんないぞ。もっと具体的に言えないか?」

「そうさな……。ではこう例えよう。今の衛宮はピカピカの自転車に乗っている間桐が羨ましい。だが、そこを我慢し貯金をすれば、やがて車が買えるやも知れん。これは間桐を否定しているのでも、衛宮を否定しているのでもない。価値観もまた人それぞれだ。だが今現在の自分にとって本当に必要なものか、価値のあるものかは見分けんとならんな」

「遠坂は自転車かよ」

「そうは言わんが、遠くばかりを見ておれば、足元に咲く花を見落とそう。また足元ばかりを見ておれば樹などに気付かず頭を打ったりする。万事、満遍なく観るというのが肝要であろう」

「なるほど」

 

 一成も段々とお坊さんっぽくなって来たな。でも、足元の花か。そういうのを見落としちゃダメだよな。そこで突然、桜の顔が思い浮かんだ。考えてみれば、そろそろ俺がヤバいと思うくらい家事や炊事が上手くなった。控えめでモテそうな気がする。弓道部の男子は何を見てるんだ?

 

 

 

 朝風呂に入って、ソファーでウトウトしておったらエルマ(一)に起こされたんじゃ。

 

「ん? メシか?」

「ゾウケン君、慎二さんの身体でもそんなお爺ちゃんみたいな事を……」

 

 そんなにクスクス笑わんでもええじゃろ。

 

「まだ10時ですよ。少し買い物に行きたいので良いですか?」

「ああ、留守番じゃな。構わんよ」

 

 

 そうしてエルマ達(一と三)が出て行った。洗濯機の音や、上からは掃除機の音もするので『二』か『七』が残っとるのじゃろう。エルマは器用じゃ。いや、器用過ぎるとも言える。

 儂はホムンクルスの事は余りわからん。それでも、蟲を使っての魂や意識の移動は行っとったのでそちらはある程度わかる。じゃが、この離れても行動できるという意識の分割は見事と言う他無い。儂の場合は『イ』から『ロ』に、『ロ』が駄目なら『ハ』にと、言ってみれば器を移動しておっただけじゃ。

 そしてここからは儂の想像じゃが……。分割思考で百人からの多人格を操作する『エル』は、その体内にある『ラインの黄金』があってこそと聞いた覚えがあった。そして確かにエルマにもその『ラインの黄金』がある。本人は『改』やら何やら付けて呼んどるが、実質は同じじゃろう。また姉のエルヴァが以前、エルマの持つそれとトロンメルの持つそれはお互いが補完しあうようになっておると話しておった。その意味ではエルマとトロンメルのものは『エル』の『改』と言えるのやも知れん。

 しかしそれだけじゃろうか? 余りにもカードとの相性が良過ぎんか? それもイリヤや美遊では使えん、特殊なカードばかりじゃ。つまりカードではなく、エルマの方にカードの能力を補完するモノがあると考えるのが自然じゃ。そしてそれを儂は『ラインの黄金』では無いと見た。トロンメルと違い、エルマは歌は歌えるが楽器などが苦手なんじゃ。なのでエルマは選択で美術を取っとる。

 ある能力を得るために、別の才能を対価にする……儂はそれではないかと睨んどるんじゃ。こと、ホムンクルスの身体や機能は『エル』やエルヴァなら知り抜いておろう。何かを得るとは、何かを捨てる事なんじゃな。熟(つくずく)そう思うぞい。

 それから儂はもう一眠りした。次に起きたら昼じゃった。『二』と2人で昼飯を喰った。美味かったが、慎二も桜も居らなんだら少し寂しいの。

 

「エルマ(二)や、エルマ達(一と三)は?」

「買い物もあると思うけど、仕込みもあると思うよ」

「何じゃ?」

「昨夜、大掛かりな軍事作戦が新都であったのね。それでかなりの数の子供達が救出されたの」

「では?」

「言峰はどうか知らないけど、見張りが手薄になっていると思う。だから今夜、行けるなら教会の地下に行くね」

「ギルガメッシュはどうなんじゃ?」

「言峰と森へ行く準備をするか、セイバーを探す用意をするかだと思うな。どっちにせよ彼は気紛れだけど、今回の救出行動は見逃すと思うよ」

 

 ふむ。

 

「慎二を連れて行けんかの?」

「そんなに気にいっちゃった?」

「まぁの。可愛いものよ」

「う~ん……なら、一石二鳥を狙おうか?」

「と言うと?」

「この家に慎二さんと士郎さん、それと凛さんを呼んで……」

 

 儂はその案に賛成したんじゃ。

 

 

 

 放課後のホームルームの事だ。珍しく桜が、僕達の教室である2-Cの前で立っていた。終礼も終わり何だと思いきや。

 

「兄さん、衛宮先パイを引き止めて!」

 

 それでもってA組に走り、何と遠坂の腕を引っ張って来た。

 

「どうしたの、桜ちゃん?」

「何でもないですよ、藤村先生」

 

 何でもない事はないだろう? 1年生が2年の階に来るなんてのは、結構勇気がいると思うし、世話になっているだろう藤村をピシャリと遮るなんて。

 

「おい、間桐? 修羅場か?」

「お兄ちゃんを取らないでって、バトル?」

 

 違うよ。仕方無い。今度は僕が、興味津々な周囲の人を振り切って、桜と遠坂と衛宮を弓道場の横手に連れて行った。

 

「桜、ここなら良いだろ。何があった? 落ち着いて話せ」

「あ、はい。ランサーからの緊急連絡で、遠坂先輩も衛宮先パイも間桐の家に来てくれと。特に遠坂先輩には治癒に使える宝石を持って来て欲しいとの事です」

 

 やっぱり……。聖杯戦争絡みか。

 

「治癒? 誰かを治すの?」

「と思います。お願いします。とにかく人手が足りないらしいので。先パイは布団を敷いたり、お湯を沸かしてタオルを絞って欲しいそうです。それと皆さん体操服持参で」

「わかった。慎二、部活は?」

「ああ、もう! 美綴に抜けると言って来る」

「じゃ、私も一旦家に戻るわ。宝石を見繕ってからそっちに行くから」

「頼みます、遠坂先輩。体操服を忘れずに」

「うん」

 

 そうして僕達はそれぞれ行動に移した。間桐の家に全員が集まったのは4時半だった。一応の敵地という事で、アーチャーには実体化してもらった。これは遠坂に対する礼儀だった。

 ジジイの提案で、日本家屋の方の広間を使う事にした。襖(ふすま)を開けて、二間続きにして、そこにあるだけの布団を敷いた。寒いので石油ストーブで部屋を暖め、備え付けのキッチンでお湯を沸かしてもいた。バスタオルやタオルも多めに用意した。敷き詰められた布団の真ん中で、バスタオルを手に持った、多分『七』? いや、『二』だな……が、すっくと立った。僕達と同じような上下長袖体操服姿だ。それも桜と同じ学年色の緑で、ゼッケンには『エルマ』だ。本当に穂群原生だった。でも3年生なんだよね。ジャージのくたびれ感というか年季が違う。

 

「来ます」

 

 そして、暫定『二』が両腕で広げたバスタオルで何かを受け取り、大切そうに抱えながら布団に下ろした。それが次々と繰り返される。

 

「遠坂さん。宝石を」

「あ、はい」

「衛宮さんとアーチャーは、外傷がない人を絞ったタオルで拭いてあげて下さい」

「おう」

「任された」

 

 それは何日どころか何年も風呂に入っていない、そんなすえた匂いと、何かが膿んだような異臭を放つ、人らしきモノだった。それでピンと来た。

 

「教会の?」

 

 忙しそうな『二』には聞けないので、ジジイに聞いた。

 

「そうじゃ。残念ながら息絶えた者も多いようじゃし、電池を取り替えるように、大勢の者が4~5年前とは異なろう」

「くっ……」

 

 許されない。こんな事は……。

 

「慎二、この人達は?」

「衛宮、後で話すから、今は作業を続けてくれ」

「……わかった」

「桜、母屋からもっとタオルを! それと包帯にマスク!」

「はい!」

 

 指が崩れ落ちた者、手足すら溶けて失くなった者も居る。遠坂、宝石は足りるか? エルマ、受け手側が『二』だけで良いのか? やがて僕が『二』から受け取り、ジジイに渡し衛宮やアーチャーが寝かせるようになった。総勢20数名。布団がいっぱいになる頃に、『一』と『三』も現れた。

 

「終わったのか?」

「はい。これで息のある人達、全員です」

 

 その後、遠坂と『一』と『二』と『三』の4人で治療を始めた。欠損を治すには材料の調達と、ここの工房化(治療室化)が必要との事だった。

 

「慎二、遠坂の、聞いてくれ」

 

 

 遠坂の手が空いたところでジジイが言った。

 

「何だ?」

「何です?」

「この者達の今後よ。それぞれ何年囚われておった? 実家を探ったとしても、どうであろう? 遠坂や間桐が面倒をみるにせよ、一時凌ぎが限界じゃろう。よって、この件はアーデルハイドにも声を掛けよ」

 

 そうだ。どうなるかわからないけど、何か案なり手があるかも知れない。それから、『三』は『一』とともに部屋全体を結界で覆った。ストーブを切っていたので保温の効果があるんだろう。また、ジジイはその結界に何かをしていた。何なのか尋ねたら、地面から吸い上げた栄養を当面の体力維持に使える魔術だという。遠坂の魔術を補完するものなのだそうだ。

 

 そうして眠りに就いた彼らを日本家屋に残して、母屋の洋館に戻った僕達だったけど、衛宮がここで吠えた。まぁ、十分我慢したと思うし、何より良いタイミングだった。なのでストレートに答えてやった。

 

「衛宮。あの子達はあるサーヴァントの燃料タンクなんだ」

「慎二、どういう意味だ?」

 

 おぅおぅ、怒ってる、怒ってる。僕の胸ぐらを掴み掛からんばかりだ。

 

「言った通りさ。悪い神父の正体は前回のマスターで、しかも師匠であった遠坂の父親からサーヴァントを奪った。けど、僕と同じで魔術的な才能がなかったらしく、サーヴァントを維持するのに子供達を誘拐していたんだよ」

「な!?」

「だから神父の切り札であるサーヴァントのエネルギー源を絶ったのさ。衛宮、神父とそのサーヴァントを斃すぞ。あいつらこそが、真の悪だ」

「慎二……」

 

 ここで声を上げたのが遠坂だった。

 

「慎二……私もそれに参加するわ」

 

 俯き加減でプルプルしている。こりゃ、相当怒っているな……。

 

「ああ、歓迎するよ。1人より2人、2人より3人だ。皆んなでこの冬木を守ろう」

「おう!」

 

 そう簡単には行かないだろうけど、衛宮にはこれで良いだろう。

 

「貴様、衛宮士郎と言ったな?」

 

 何だ? アーチャー……?

 

「その意気や良しだが、貴様に闘う術(すべ)はあるのか?」

 

 へぇ~。面白いところを突くな。

 

「ない。だが、ないなら創るまでだ」

 

 つくる? 作るか? 造るなのか?

 

「取り敢えず見せてみろ」

 

 そうアーチャーに促された衛宮は、脂汗を浮かべ、どこからともなく剣を取り出した。

 

「投影魔術……? 何をやってんのよ、衛宮君」

「待て、凛」

 

 そうして3~4分待った。

 

「き、消えない……?」

「遠坂の、世の中は広い。すべての投影魔術が、必ずしも世界修正で綻ぶものでもない。己の裡なる蔵より、取り出す者もこの世には居るんじゃよ」

「裡なる蔵……も、もしかして、固有結界!?」

 

 ジジイが笑っていた。だけど、その後は何も言わなかった。ただただ、アーチャーだけを見ていた。当然、アーチャーもそんな風に見詰められたら気分を悪くする……と、思っていたんだけど、何も言わなかった。言って来たのは遠坂だった。

 

「衛宮君が特殊って言ったのはこの事?」

「うん。衛宮の本当のご両親がどうだったのか……それは不明だけど、これはもう初代と言っても良いんじゃないかな?」

「続けて。慎二の考えをもっと聞かせて」

「ああ、なら。勿論、西欧の魔術と関係ない可能性の方が高いと思う。でも、これは回路というか細胞というか……修練のせいか、西欧魔術向きになっていると思うんだ。だから衛宮には、出来ない事を無理してせず、できる事を伸ばせと話してあった。それで刃物の投影が一番しっくり来るというのでナイフでも何でもそればっかり練習しろってね」

「そこまで話していたんだ?」

「うん。でも今はここまでだ。この先は10年、20年と時間を掛けようってね」

「どうして?」

 

 アーチャーも耳をそばだてて来た。

 

「サーヴァントにはサーヴァント、人間には人間だろ? それと僕は計算する人、衛宮は動く人だ。修練は続けるべきだけど、消えない奇跡に目を奪われずに考えてみなよ。それが何の役に立つ?」

「え? 何言ってんの? これって凄い事よ?」

「それは狭い魔術師の世界限定の価値観だろう? 衛宮は人様の役に立ちたい人なんだ。この魔術はボランティア先で届いた物資の梱包を解くくらいしか役立たない。おまけに誰にも見付からないように。なら野外炊飯の腕をもっと上げるとか、海や川から魚を釣るとか、壊れた車やバイクの修理をするとか、そういうのができる方が役に立つ。ついでに言えば、その投影魔術で修理工具や特殊工具が投影できれば。それが衛宮の目指すべきものだとう思うんだ」

 

 実は、衛宮がこんな偏った魔術を使うなんて知らなかった。そもそも聖杯戦争の話はしても、魔術の話なんてした事なんてない。僕が今話したのは、遠坂の疑念を斜め上に逃すためのまったく一方的なデマカセだった。だけど魔術師じゃない僕だからこそ言わなきゃならない。遠坂が優秀な魔術師なのは間違いない。でも、そこに思考のスタンスが嵌ってしまっていて、その他の考え方がわかっていないんだ。

 

『彼は特殊ですから、適所も限られます。頭ごなしにあれこれ言わず、そこを見付けて例として話してあげて下さい』

 

 アーデルハイドは衛宮に関して、これだけを僕に伝えていった。

 

「衛宮君。時計塔に行かない?」

「遠坂。五教科満点の人間が、時計塔入学の華を添えたいからって、技術家庭得化型に無理強いすんなよ」

 

 これで遠坂にも笑みが出た。

 

「お、俺って技術家庭専門?」

「そうだろう? お前にとっての魔術なんて、耳の穴に耳たぶが全部入るとか、鼻の穴に1円玉が20枚入るとかと同じだ。しかもそれが誰にも披露できない芸なんだぞ? なら僕と五十歩百歩さ。隠し芸に入れあげる時間があるなら、整備書やレシピ本を読んでいる方が遥かにマシだよ」

 

 遠坂は呆れ顔で、衛宮は顰めっ面だった。だけど……。

 

「ククク……ハハハハハ」

 

 突然笑い出したのはアーチャーだった。皆んな一斉にアーチャーを見た。

 

「いや、失礼。良い友人に恵まれたな? そうだ、彼が言ったようにサーヴァントにはサーヴァントだ。術があるかと問われて、無ければつくるという言葉は、いくら何でも意地の張り過ぎだ。今後も彼の言葉をよく聞く事だ」

 

 衛宮は少し怒ったような顔だったけど、それはスッと沈めて、アーチャーの言葉を受け入れた。

 

「慎二、皆には食事をとって貰ってから帰らせい。若いんじゃから肉をな?」

「あ、うん。ストックあるの?」

「それを買いに行ってたんですよ。今夜はすき焼きにしましょう」

 

 それで『一』と『三』は何もないところから、肉の包みを大量に取り出した。

 

「と、投影? って事はないか……。そういう空間のようなものが宝具にあるの?」

 

 遠坂、鋭いな。

 

「分裂もできるようだし、あなたどういう英霊?」

「「私達はワルキューレです」」

 

『一』と『二』と『三』が声を揃えて言った。

 

「ですから全員、天駆ける馬に跨り、弓も槍も剣も使え、魔術も使えます。ほら」

 

 そう言って、衛宮みたいに唸らずあっさりと3人同時に剣を投影(?)した。

 

「こ、これは……?」

「私のはバルムンクですよ」

「私はデュランダル」

「私はカリバーンです」

「嘘だろ……?」

 

 衛宮が驚くのはわかるけど、アーチャーまでもが驚いていた。どこかで聞いたような名前の剣だから、凄いと言えば凄いんだろうけど……。

 

「私達は音楽以外、苦手がありません」

 

 遠坂が吹いた。これだよ。大したものだとは思っていたけどエルマってここまでの魔術師だったんだな。そこから桜を混じえ、エルマ達はテキパキと晩御飯を作っていった。僕達は邪魔になるだけなので居間の方へ移動した。

 

「慎二、やっとわかった。お前の弁当は、あの人達が?」

 

 今頃かよ、衛宮。

 

「と、桜だな。お陰さんでメキメキ腕を上げているよ。もう、衛宮から学ぶ事なんて無いかもな」

「クソッ!」

「冗談さ。サーヴァントなんて、いつかは座に還るものだ。だけどこの期間で得られるモノは歴史の教科書にも載らない事だ。人の面白みって、そういう見えない行間にあるような気がするよ」

「へぇ~。慎二、言うじゃない?」

「そうだな。例えば栓抜き。あれって誰が考えたんだろうね? まぁ、工業規格もあるだろうし比較的近代とは思うけど。でもさ、遠い未来で飲料や瓶が全部プルトップになって、誰も王冠の栓を知らない時代になったら、栓抜きってオーパーツになったりするんじゃないかな」

「え?」

「だから、さっきの剣だよ。有名なのは一品物かも知れないけど、あれも工業製品だろ? 造り方からして日本刀の方が凄いと思うし、でもフルアーマーにはツヴァイ・ハンダー(両手剣)だと思うし……う~ん……。上手く言えないけど、宝具という域に行くのは後世の信仰と知名度のみだと思うんだ。その部分を解明して他の物に上乗せできるなら、そこらの包丁に宝具並みの神秘を持たせられないかって。つまり僕が衛宮なら、料理でも何でもこういう考え方でアプローチするだろうって話しさ」

 

 ジジイがニヤッとした。

 

「慎二、その考え方、面白いよ」

「待って、衛宮君。慎二、それって世界の……基盤とかそういうところから操作するって事?」

「そうなるね。でもさ、誰が作ったのかもわからないプラットフォームで優劣を語るのもどうかなって思うよ? なら、そのプラットフォームに手を加えて、自分の思う通りにしたいと思わない? まぁ、それで僕も魔術が使えるようになったらなぁって考えたところから始まった妄想だよ」

「う~ん……なんて否定しづらい話をするのよ。そうよね。この聖杯戦争も大聖杯から見るべきだった。それと同じって事よね?」

「そうそう。できるできないは別として、そういう観点は持っておくべきだと思う。だから衛宮もそういう見方を覚えると得だと思うよ」

「そうだよな」

 

 ここでアーチャーがジジイに小声で言った。

 

「すべて終われば、全部明かして貰えるだろうか?」

「明かせる範囲は嘘偽りなく話そうぞ」

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