※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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13、集合

「おお、ランサーかえ。守備はどうじゃ?」

〈あ~? あ、もしかしてゾウケンのジジイか? 声が若ぇな?〉

「うむ。今は孫の身体を借りとるのよ。多少なりと残してやりたくてな」

 

 残すと言っても知れとるが、儂という魂が慎二の身体を使う事で、霊的なものはそこそこ残る。それが慎二の今後に少しでも役立ってくれると良いが。

 

〈あぁ、なるほどね。で、この電話が掛かったって事は、いよいよってか?〉

「うむ。こちらは話が通った。セイバー陣営の参加はわからんが、後はそちらだけじゃ。が……決戦の場もの」

〈こっちでって事だよな……。けど、今な。キャスターがイリヤの嬢ちゃんを治しているらしくてな。もう少し時間が欲しいトコだ〉

「そんなもの、終わってからで良かろうに」

〈それがな。あのキャスター、ただもんじゃねぇ。驚くなよ、ここのキリツグを降霊しやがった〉

「ああ。時臣を降霊したあの者なら、何れは切嗣も降ろすと読んどったが……。大きくなった娘をと、気を利かせたのかの。読み通りではあるんじゃが……キャスターも『エル』やエルヴァと同じで動きが早いのぅ。ただ、大昔の者だけあって、読めんところもあるな。その情報は内部で?」

〈そうだ。4人ほどルーンを掛けて潜り込ませた〉

「では10人ばかり、こちらに戻らせてくれい。そ奴らと交代してそちらに向かおうぞ」

〈おう〉

「それでお主は。ぼちぼちと内部の者と接触せよ」

〈わかった。全部話してあるんだよな?〉

「うむ、エルマがライダー組とキャスター組に話しておる。メイドを説得してもらえ」

〈了解〉

 

 これが、すき焼きを食らう前に掛けた電話じゃった。若い者はええの。あれだけの肉を全部胃に収めよった。儂は胸がムカムカしてならんぞ。

 

「何で、僕の身体で胸焼けになるの?」

「の? 不思議じゃ」

 

 今、桜とエルマ(一)が風呂に入っておる。その間に衛宮の小倅とアーチャーはどこぞで2人だけで語りあっておった。勿論、万一の事があってはいかんので、エルマ(三)がこっそりと着いておる。あのアーチャーが何番目かは知らんが(多分3番目じゃろう)、自分殺しは諦めたようじゃ。それで六代目とエルマ(二)は今後の事を別室で話しておる。うっかりなのかのぅ。それとも話術にあるのか、六代目はすっかりエルマ(二)に気を許しておった。儂と慎二か? 儂らはこうして居間で、張った腹が治まるのを待っておるのよ。

 

「慎二。腹が治まったら森へ行くぞ」

「はい。でも、衛宮も?」

「うむ。その空気を読んでアーチャーも語っておるのよ」

「アイツって何時の時代の英雄なんだろう?」

「何じゃ、慎二。まだわからんのか?」

「え?」

 

 まぁ、見た目が変わり過ぎよるからの。致し方ないであろう。しかしここで重要なのは、衛宮士郎でなくアーチャーにこそ、真の敵を教える事にあるんじゃ。そしてこの世界で数十年は、慎二やアインツベルンの小僧どもを手伝わせる。そうして自分の身の振り方を決めさせるのじゃ。その残るための方法を伝授せねばならん。これは六代目の手を借りれば慎二にもできる。要は己の魔力でサーヴァントを背負うのでなく、このホシに委ねるんじゃ。つまり目の前の分霊を座から切り離し、アラヤでなくガイア側にシフトさせると言い換えれば良いじゃろうか。

 この理論は元々『エル』が考えておったそうじゃ。それをエルマとトロンメルが完成させよった。それにより、エルマはより多くの英霊を支えられるようになりおったんじゃ。並行世界の『エル』は世界の『しすてむ』に介入し、己の思うままに世界を塗り替える程の魔術師じゃった。その『エル』と儂らの知る『エル』は別人じゃが、今回のキャスターの転生体には変わりない。そんな『エル』が自信を持って造り、エルヴァが情緒面を育てたエルマとトロンメルはまさに傑作よ。儂も蟲であった頃より、研究の幅が広がり、日々が楽しくて仕方ない。

 エルマと話しておったんじゃ、何とかキャスターとゆっくり話す時間が欲しいとな。

 

「ねぇ、お祖父様」

「何じゃな?」

「エルマって彼氏いるの?」

「モテるんじゃが、居らんのぅ。ま、双子というか三つ子の妹が……」

「三つ子!?」

「おう、三つ子じゃ。その妹が1年の頃に彼氏を作っておってな。相手は1学年上じゃったが、男の大学進学で遠距離になり自然解消じゃった。そういうのを間近に見ておったのもあるし、元々彼氏なんて要らんというタイプでのぅ。数回告白されとるが、全部断っとる」

「うっわ……」

「何じゃ。気にいったのか? 口添えしてやるぞ?」

「OK貰っても、とんでもない遠距離恋愛ですよね? いいです。聞いてみただけだから」

「そうか」

 

 桜達が風呂から上がり、六代目とエルマ(二)が風呂に向かった。そこへエルマ(三)が戻った。

 

「目を離して良いのか」

「小次郎さんに頼みました」

 

 おお、やっと小次郎を出してやったのか。小次郎はエルマの奥の手の一つでな、ランサーと同じ世界から連れ帰ったのがかれこれ2年前じゃ。英霊と呼ぶには存在が薄かったので維持に工夫が要ったんじゃが、介入した世界で居ったなら、毎回連れ帰り、魂を結合させ存在を強めていった。なので今はかなりしっかりしとる。また、こやつはアルトリアの師でもあっての。トロンメルと一緒に今回は留守番じゃが、何度か介入に連れ出しておった。

 しかしエルマはアルトリアを連れ出しても、トロンメルだけは連れ出さんのぅ。過去2回ほど手伝って貰っただけじゃ。エルマが言うには、通常の事は自分以上でも、こういう臨機応変な対応が求められる仕事には向かんらしい。エルマと違ってトロンメルは楽器の演奏が上手い。特にギターは。即興で演奏もしよるんじゃ。なのに、人が複雑に絡む介入では上手く動けんのじゃ。その者の向き不向きは、似た傾向の事柄であっても如実に出よる。まぁ、そこが個性の差と言えばそれまでなんじゃが。

 

「森からのアサシンは?」

「戻ってますよ。もう、日本家屋の方へ」

「そうか」

 

 桜を部屋に戻し、エルマ(一)も向かったじゃろう。

 

「私もお風呂に行ってきます」

「おう。しっかり温まってくるが良い」

 

 儂は風呂好きでの。ゆったり伸び伸びと入りたいので、この家の風呂は当初から大人3人が悠々入れる設計になっておる。浴槽は一辺が一間あるんじゃぞ? 深さもあるので湯を一杯に張れば、子供なら4人は浸かれよう。それで洗い場も3箇所あったんじゃ。儂のところでは。じゃから、エルヴァはルヴィアや凛を誘っておったのよ。

 ところがここの儂は、相当身体がヘタっておったようじゃ。洗い場を一つ潰し、寝そべって入れる浴槽を追加で設置しておった。そこそこのボイラーがあるので給湯に問題はないが、慎二や桜に介護させておったのかのぅ。

 

「慎二、ここの儂は1人で風呂に入れておったか?」

「それ、桜の役目でした」

「薄情じゃの。お主も手伝わんかい」

「お祖父様が桜でないと嫌だと言ったんですよ。食事くらい僕も手伝う時がありましたけど、お風呂やトイレとなると、女の子の方が良いみたいで」

「そうじゃったのか……」

 

 遊びたい盛りの10代の若者が、老人の入浴介護や食事、排泄介護なぞに従事させられるとは堪らんのぅ。専門の者を雇う事も、市のサービスも頼めんのも、他人に見せられん程の身体じゃったから。そうしたのは己自身じゃというのにの。こうして冴えた頭で考えると己の異様さがようわかる。『永遠の命を手に入れる』とは、宝くじの当たりより遠いじゃろう。10年後の儂は、それが確実に当たると信じ込んで散財ばかりする馬鹿者同然なんじゃろうな。

 

 

 

『ああ……イ、イリヤ……!』

 

 地下の一室に籠もっていた、イリヤスフィールとエルがサロンに現れた。大きくなれば本当にアーデルハイドにそっくりだ。これは並ぶと見分けがつかないぞ?

 

「良かったね」

「ああ。ありがと、アントニー。アストルフォも心配掛けた」

「ううん。ボク達は良いから、エルを労ってあげなよ」

「そうだな」

 

 そうしてオレはシスター(イリヤ)を治してくれたエルを抱きしめた。とても良い香りがした。

 

「あれ?」

「先にイリヤスフィールとバス(お風呂)に。丸一日でしたし、彼女の介護もあって」

 

 ああ。体調だけでなく、急に大きくなったから……。バランスとかあるもんなぁ。

 

「それだけじゃありませんよ」

 

 そう言ってエルは、念話でオレにわかる範囲の事を教えてくれた。それは心理的な部分と生理的な部分に関してだった。イリヤは子供のような身体でも、オレやハイディと同い年だった。

 

〈子供から急に年頃の女の子ですよ? 大きくなったのは胸だけではありません。最初は心理的な葛藤が出てくると思います。次に月のものも始まるでしょう。アーデルハイドがイリヤスフィールに一緒に暮らそうと誘ったのは、それだけ彼女が賢明だからです。エルヴァ、あなたはそんな対処ができますか?〉

 

 無理だ。女の子用の衣類くらいなら買えない事もないが、生理用品なんてカートに入れたらコップ(警察)を呼ばれそうだ。それもたちまち街の噂になってダチにもやいやい言われるのが目に見えている。オレは、ここにはいないハイディと、目の前のエルに感謝した。

 

 イリヤスフィールの衣類はこの館に元々あったものらしく、多分、オフクロ(アイリスフィール)のものだろうとエルは教えてくれた。どうやらオフクロは、成長したイリヤスフィールより背が高かったようだ。少し服が大きい。

 

「おい、イリヤスフィール。オヤジを無視してセラやリーゼリットばかりに抱きつくな」

「もう~。弟ってこんなにウルサイものなの? それとエルヴァ。私の事はイリヤで良いよ」

「じゃ、イリヤ。オレとオヤジのところへ」

「は~い」

 

 それでオレはイリヤをエスコートして、オヤジの下に行った。

 

『イリヤ、イリヤ、イリヤ……。ああ……。皆んな、ありがとう、ありがとう』

 

 この部分は、多分、日本語だ。そして2人は日本語で話し始めた。やがて2人はオレ達やエルに頭を下げた。エルの説明では、おかしな調整が無ければイリヤの寿命は元々普通の人と変わらないくらいあったそうだ。今回はその調整部分や小聖杯の術式を全部解除して、それらも材料にしたという。それでも身長分や成長分を補填できないと思うんだけど、小聖杯の中に溜まっていた魔力を使って補えたそうだ。

 ただし令呪はイリヤのままだけど、バーサーカーに魔力を送るのはエルに切り替えたという。

 

「大丈夫なのか?」

「魔力なんて、このホシが生きている間はいくらでも取り出せますよ」

 

 そんなセリフ、言ってみたいぞ。そんなエルにイリヤが声を掛けた。

 

「エル、疲れていると思うけど……。お母様を降霊できないかしら?」

 

 家族の事だからエルなら一も二もなく受けると思っていたら、少々困った顔をした。

 

「どうしたの?」

「その方は前回の聖杯(小聖杯)だったでしょう? 囚われている可能性があります」

 

 降霊とともに、汚染の元であるアンリ・マユの一部が出て来る可能性があるという事だった。

 

「でも、私、お母様と話せるのよ?」

「どういう事だ?」

「聖杯に選ばれたアインツベルンの女は、歴代の聖杯と繋がっているの」

 

 オ~、そんな事が……。ああ、わかった。先代がこの儀式のレクチャー係なんだ。

 

「エル?」

「そうですね。彼女を触媒にして降霊すれば、邪霊は来れない可能性がありますね。やってみましょうか」

「ああ、頼む」

 

 それでサロンから移動して、前回の儀式でオフクロが使っていたという部屋に行った。イリヤが今着ている服も、ここのクローゼットから漁ったものらしい。部屋全体に軽い時間凍結がしてあるらしく、どれもこれも綺麗なままだった。その理由は何も掃除をサボろうというのでなく、サーヴァントの魂を取り込めば、やがてオフクロが動けなるからだった。その規定数(限界)は、3~4騎だったらしいが……。

 

「オヤジ、オカシイだろうが!? 小聖杯のオフクロが動けなくなったら、誰が大聖杯が作り出した、世界の外への孔を制御したり固定するんだ?」

 

 オレはオヤジの胸ぐらを掴んで言った。唖然とした顔……やっぱり、考えてなかったか……。今回はセラが制御係、リーゼリットがイリヤの補助だとセラから既に聞いていた。それで変に思ったんだ。アハトが考えなしなのか、オヤジがメイドの安全を考えて本国に帰らせたのか……。そこは知らないけど随分と杜撰じゃないか?

 

「エルヴァ、わかった? 私だっていつまでも子供じゃないよ。そこに気付いて思ったの。お母様を犠牲にするような儀式なのに、キリツグはいい加減だって。だから何もかもに腹が立ったの。生きていたら、養子にした子供と一緒に殺そう。死んでいたら、せめて養子を殺そうって」

「イリヤ……」

「うん、シロウには理不尽な事だってわかっているわ。でもね、こんないい加減なら、本気で聖杯を取るつもりだったのかって思わない?」

 

 ああ……。

 

「オヤジ、セイバーとの事も含めれば言い訳できないぞ?」

 

 オヤジは床に手をついて嗚咽していた。

 

「少しは反省しろ。ともかくイリヤ。シロウにはもう?」

「うん。八つ当たりだってわかっているから。それに小聖杯はもうないわ。後は大聖杯解体の道筋を作るだけよ」

 

 そういう事だ。儀式は終わったんだ。大聖杯があるからサーヴァントは健在だけど、これは裏返すと大聖杯側の魔力タンクがカラに近いって事だ。そして小聖杯がないから、サーヴァントが斃れても聖杯は降りない。つまり孔も空かないし、災害も起きないんだ。儀式は完全に破綻した。後は……エルには悪いが、ギルガメッシュと神父を斃すだけだった。

 オヤジの泣き声と反省のセリフの中で、降霊術は完成した。この部屋の時間凍結の結界が、触媒としてのイリヤの効率を高めてくれたらしい。見事、エルが簡易的に水(!)で描いた陣の中に、イリヤより大人びた女性が現れた。しかもその人は際どくおかしな服装で、無駄にでかい王冠を被っていた。

 

「天の衣よ。儀式の最後の部分は、あれを着て臨むのよ」

 

 同じのを持っているらしい。そして見るものが見ればわかるそうだが、その衣装は金を錬成した半霊体で、アインツベルンのホムンクルスかサーヴァントでないと、触れると元の金に戻るという。

 

「錬成ってこれだな?」

 

 アントニーが左右の手を胸の前でパンッと合わせた。

 

「何それ?」

「イリヤは知らない? ジャパニメーションだよ。多分、中国からネットで流れて来るんだ」

 

 こいつ……torrent とかやってんな?

 そんな話をしていたら、オフクロが自意識を覚醒した。回路がいきなり繋がったという感じだった。

 

『え? イリヤちゃん?』

 

 エルが目線と指でイリヤを指した。やっぱ似てるよな? 並ぶとエルとイリヤは違うってわかる。ハイディもそうだ。けど、姉妹と言われれば信じてしまう程には似ている。他人の空似どころじゃないってのに、これで血は繋がっていないんだ。そして5千年以上も時が隔たっているのに、オレと同じ名……。

 これは偶然じゃない。名付ける側の親の意識にまで影響を与えてるって意味だ。オレは今回の事から、その『影響』ってモノを考えるようになった。

 

「お母様!」

 

 イリヤがオフクロに飛んでいき、オヤジも泣き止んでオフクロを見上げた。

 

『イリヤちゃん? キリツグ?』

『ああ、その子がイリヤだよ。大きくなったろう?』

 

 そこから感動のミニ・ドラマが始まった。それで逃げようとしたら、アントニーとアストルフォに捕まってしまった。それで観念してオフクロに自己紹介したんだ。するとオフクロはこれでもかってくらい喜んでくれた。何と、オフクロはイリヤを前にして『本当は男の子が欲しかった』なんて堂々と言ったんだ。それでオレの手を握ったり、ペタペタ触ったりしていた。

 

 

『三つ子になるの? じゃ、もう1人の子は?』

『アイリ、今は違う場所だそうだ。もうじき逢えるよ』

 

 オレもアントニーも頷いた。勿論、オヤジは養子のシロウの事も話した。サロンに戻ってからの話だ。まだ男の子が居るのかと、シロウの事もオフクロは喜んでいた。想像と違って脳天気な人だった。だけどオヤジの言う『埋めてくれる人』という意味が、何となくわかった。包容力が大きいんだ。

 

「起源ですねぇ」

 

 思わずそう呟いたエルを見た。それがオフクロの気を引いてしまった。そしてエルをじっと見て……。

 

『もしかして。エルヴァ君の……。そう、そんな人をキャスターで喚べたのね』

 

 と、何かを悟ったかのように頷いていた。この人、天然っぽいのは演技なのか? 結構、鋭いぞ?

 

『それで、私を降霊したのは何故?』

「成長した子供達に逢わせてあげたいものありましたが、一つはあなたを叩き台にして、大聖杯の礎石となった人を降霊したかったからです」

 

 エルは大聖杯解体の方法を考えていたんだ。

 

「それとイリヤスフィールの身体を治す事はできても、マスターが望むリーゼリットの延命方法が、今ひとつわからないのもありました」

『そのリーゼリットという人は、イリヤちゃんのメイド?』

「はい。セラのような標準型を高出力型に改造しただけなら簡単ですが、最初から高出力型として鋳造してある場合の延命方法がわからないのです。これがイリヤスフィールのような魂のある人ならば、新しい身体を用意して、その魂魄と記憶や意識を移し替えるだけです。ですが、リーゼリットは言ってみれば血肉を持った自動人形です。先に精神の次元を上げて魂魄を獲得させ、その後に別の身体に移し替えるしか、私には思い浮かびません」

『その、心と精神の次元を上げる前に寿命が尽きるのね?』

「はい」

 

 驚いた。まだリズの事は何も話していないんだぜ? なのにエルは、オレの心がどう動くのかを先に読んでくれていたんだ。それもリズと出会う前に。と言うのはオヤジの降霊も、オフクロの降霊の触媒になっている筈だからだ。そしてエルは礎になった人をも降霊すると言ったんだ。今度はオフクロ(と、おそらくイリヤも)を触媒にして。この先読みがエルの巫女としての能力だろうか? オヤジもオレもアントニーも、皆んな口をポカンと開けるばかりだった。

 ちなみにエルは魂(スピリッツ)を、魂魄(ゴースト)と言っていた。

 

「なるほど、少佐の言った意味がやっとわかったよ」

「アントニー。お前も鋳造師なら、人を人たらしめるのは高次元の魂があってこそだって知っているだろ?」

「ボクには君のアダムのようなホムンクルスは造れない。これも向き不向きさ」

 

 これにエルが気付いた。

 

「エルヴァ、アダムって?」

「ああ、クロエの前に造ったんだ。いわゆる『フラスコの小人』だ。今はネコだけど」

「ネコ! 嫌~~~~!」

 

 イリヤが心底嫌そうな顔で叫んでいる。何だ?

 

『ああ、気にしないで。この子、どうしてかネコが駄目なの』

「お母様! あんなのの名前を口にしないで!」

 

 う~ん……。アレルギーなのか?

 

「幼い頃から受けていた調整は、魔力を高効率で貯められる体質にするためだったようです。それで後天的な短命と慢性的な発熱を抱えていたのだと。アレルギーって何かを起因とする拒絶反応ですよね? それは調整で克服されていたと思いますよ?」

 

 確かに。エルの言う通りか。なら、何だろう?

 

「前世から来るものではないですか? 我々はこの世という檻で繰り返し試されており、本当はもっと気楽に生を謳歌できる存在なのだそうです。イシュタル様もエレキシュガル様も、もっと昔の神々が私達人間をそのようにしたと仰っていました」

 

 エレキシュガルが死を司るなら、イシュタルは生と繁殖を司る神だ。元はメソポタミアの神でなく、その前のシュメールから来ていて、その時の名はイナンナだ。それが中東に拡散され、レバノン辺りでアシュタルテとなった。いわゆるソロモン72柱の中のアスタロトだ。これはキリスト教による悪魔化だけど、他国の他宗教における神々を悪魔に数えるのは別に珍しい事ではない。悪魔アスタロトの夫は悪魔バールとされるが、世にいう悪魔崇拝の主神は、サタンでなくこのバールだ。おそらくエルにとってもバールは豊穣の神であり、主神の筈だろう。そして身近にあった神は、ギリシア神話の神々と同じく、気紛れで人の生死を簡単に左右し、恵みも災厄も勝手気ままに与えてきた存在でもあった。

 哀しい事だがエルも巫女なら、神々に生贄を捧げた経験があるかも知れない。そしてそれはヤギやヒツジだけではなかったろう。オレとしてはせめてイシュタルが、マリアのように血の生贄を求めない女神であってくれと祈るばかりだ。でないとオレ達も毎年イースターを祝うのが馬鹿らしくなってしまう。何の事かって? 今でこそキリストの復活を祝う日とされているが、イースターは元々イシュタルが語源なんだよ。だから繁殖の願いを込めて、卵を飾ったりするんだ。卵が復活を象徴するなんて聞いてもピンと来ないだろ?

 こんな風にある民族の神が、その敵となった民族では邪神(悪魔)に数えられてしまう。これは洋の東西を問わない。大聖杯を汚染しているアンリ・マユの配下である悪魔の総称がダエーワだけど、これはインドでのデーヴァ(善神)だ。だから地中海を渡ったギリシアではデーヴァがデウスになってしまう。つまり善悪を決めるのは神でなく、いつだって人間なんだ。

 だからこそ問われるんだよ。他者を生贄にして良いのか? 他者を食い物にして良いのか? 他者の汗と涙の上に自分を置いて良いのか? と。

 オレは養父母の教育方針で、アントニーと一緒にガキの頃からハイスクールまでカソリックの学校だった。だけど家はプロテスタントで、たまの日曜は教会に行き牧師さんの話を聞いたりもしていた。でも、祖父さんが付けてくれたルオンノタル(ルオン)先生から学ぶ時のオレは神秘を探求する魔術師だ。そしてこのフィンランド神話の女神から名付けられた女性は、祖父さんが鋳造したホムンクルスだった。オレみたいなペーペーから言わせると、そりゃもう完璧と言ってもいい程の。

 

『エルヴァ。ホムンクルスの鋳造は生命を新たに造る事です。ですが私達は神ではありません。そこは勘違いしてはいけませんよ』

 

 驕(おご)るなって意味だ。魔術師はヒトにできない事ができるせいか、どうも驕った奴が多い。時計塔の教授なんてその典型だろう。無意味に高圧的で高慢だ。だからエルの────『我々はこの世という檻で繰り返し試されており、本当はもっと気楽に生を謳歌できる存在だ』という言葉に妙に惹かれたんだ。

 

 

 

 衛宮が戻った。どこかでアーチャーに取っ捕まって、話し合っていたらしい。

 

「何を話していたんだ?」

「いや……。そうだな。俺は今まで何を見て来たんだろうな」

「え?」

 

 改めて見れば、随分とさっぱりした顔をしている。

 

「ありがたいお説教でも聞かされたのかい?」

「ハハ、そうだ」

 

 本当に説教だったのか? まぁ、良いけど。

 

 この数十分後、家に専用のワゴンが何台もやって来た。先頭車両の助手席に乗っていたのはアーデルハイドだった。ジジイに頼まれた僕からの連絡で、日本家屋で眠らせてある子供達を引き取りに来てくれたのだ。桜の警護に『二』とアサシン(日本家屋に行ってくれた10人ほどのアラブ人)を残して、『一』と『三』が着替え終えた遠坂を連れて来た。さぁ、僕達も出発だ。いよいよアインツベルンの森だ。

 

「士郎クン。降りて欲しかったな」

 

 黒いワゴンのハンドルを握るアーデルハイドにそう言われた衛宮は、ただただ『ゴメン』と謝るだけだった。それで良い。余計な言い訳なんて今は要らない。

 アーデルハイドの横は『一』と『三』。ベンチシートなので前席に3人だ。シフト操作がコラムというハンドルの根本にあるタイプで難しいと衛宮が教えてくれた。2列目はその衛宮と僕と遠坂。3列目にジジイとアーチャーだ。その後ろにはボストンバッグやアルミケースが積んであって、中身はおそらく銃器だろうとジジイが耳打ちしてくれた。衛宮の手前、アーデルハイドからは言えないようだけど、セイバーはおそらく別便か先に行ったのだと思う。

 森の周囲はこちらのアサシンとランサーが既に警戒にあたっていると、出発前にジジイが僕にだけ話していた。そして森の中にあるアインツベルンの館には、バーサーカー主従だけでなく、ライダー、キャスター組もとっくに合流済みらしい。

 森の外れまでは舗装路だし、円蔵山を迂回したとしても結構すんなり行ける。だけど中は徒歩だと聞くとウンザリだ。だって、今は夜の何時だ? 街灯も何もないから、車のライトを消したら真っ暗なんだよ?

 車から降りた僕達は、ランサー達と合流した。遠坂もアーチャーも、ここまで来ればもう何も言わない。

 

「士郎クン。剣を投影して」

「おう」

 

 衛宮は自分用にツヴァイハンダーを投影した。森を進む鉈やブッシュナイフの代わりだろう。何故ならアーデルハイドは僕達に『好きなのを選んで』と拳銃やライフルを見せてくれたからだ。

 

「相手がサーヴァントであれば意味はない。何より素人がいきなりとは危険だ。誤射で同士討ちとなっては笑えんぞ」

 

 アーチャーのその提言でアーデルハイドは『ふむ』と考え直した。だけど僕は逸早く、オートマチックの拳銃を手に取って、それをコートのポケットに忍ばせた。予備の弾薬とマガジンもだ。弾の込め方も知らないのに、箱と拳銃に書かれてあった英語だけで弾を選んだ。知識とは重要だ。マンガでも役立つ時はあるんだとその時に思えたから。

 だけどコートの片側がググッと下がる。弾の入った拳銃は思った以上に重いのだ。そしてポケットに手を突っ込むと、やたら冷たい。真冬の金属って本当に冷たいものなんだね。ああ、だからプラスチックの銃が最近増えたのか。こういうのが好きな奴がクラスに居る。もっと話を聞いておくべきだったね。

 

「慎二、セーフティは掛けてあるか? それとポケットから手を出し、引き金に指を掛けるな。弾薬はまず自然発火なぞせん。暴発の原因は一に人による誤操作、二にハンマーやストライカーの誤作動じゃ。後者の方が圧倒的に少ないんじゃぞ?」

「お祖父様は銃を?」

「持っとったし、何度も撃ったわい。魔術師じゃからと忌避する理由はない。その方が楽で効率が良いなら、そちらを使うまでよ」

 

 やっぱり僕はお祖父様似なんだな。回路もなく生まれてきた事を申し訳なく思うよ。でも僕は僕だ。僕に向いている、僕でしかしかできない事をやるだけだ。

 アーデルハイドが手渡してくれた懐中電灯を頼りに、真っ暗な森を突き進む僕達。こんな真冬の枯れ木だらけなら、衛宮の大仰な剣も意味はない。むしろ張った根が足を掬うので、剥き身の刃が危なっかしい。

 

「衛宮、危ないぞ。いつでも投影できるなら、一旦消すか棄てろ」

「そうだな。でも、いざ創るとなったら時間が掛かるからさ」

「そうかい。なら、気をつけろよ」

 

 1時間は歩いただろうか。やがて広場のようになったところで、例のヘンな生物とライダーが待っていた。迎えに来てくれたらしい。

 

「こっちだよ」

「おう」

 

 真っ先に返事をしたのは、槍を抱えたランサーだった。ここで『一』と『三』が馬を喚んだ。と同時に、その姿もワルキューレの衣装に変わった。そして『一』の掛け声で僕や衛宮に遠坂やアーデルハイドは、暖かな春の丘にいた。

 

「何だこれ?」

「慎二、どこよここ?」

「え、え~?」

 

 すると例のピンクの杖が目の前にいた。

 

『慎二さん。エルマちゃんから凛さんに、家にあるもう1本の私を買い取る話をしろって言われていたでしょう?』

「あ! 忘れてたよ」

『もう~。まぁ、アサシンさん達ととっくに盗んできましたけどね。どうぞ~』

『はいは~~い。おやおや、凛ちゃんじゃなくて、今は凛さんですね。すっかり成長して。少々胸は残念ですけど……』

「な、何よあんたは!!」

 

 2本の杖が宙に浮かんで喋っくっていた。そして遠坂を2本でイジっていた。なるほど。幼稚園時代に公園のすべり台の上で、遠坂凛リサイタルを開いて、子供相手に5時間もぶっ通しでワンマンショーを……ね。衣装も次々とこの杖が変えていたそうだ。

 

「き、記憶の奥底に封印していた悪夢を思い出した! あれはアンタのせいか~~~!」

 

 遠坂は、ここでやっと自分の家に伝わる魔杖の事を思い出したようだ。地下の工房にある錠前付きの木箱に厳重に保管してあったらしい。

 

「どんなに複雑な細工があろうと、それに合う鍵があれば一発よ。暗号などもそうじゃろ、慎二」

「ですよねぇ~」

 

 つまり、ジジイの相棒のルビーは事前に全部知っていて、合鍵も持っていたって事だ。だから、セカンドオーナーである遠坂家にも易々と侵入できたのだろう。

 遠坂をからかいながらフヨフヨと逃げる杖。それを両手を上げて走って追い掛ける遠坂。

 

「慎二、遠坂ってあんな?」

「面白いよねぇ」

「学校での彼女と今が違って見えるなら、それだけ彼女は普段から気を張っていたって事ですよ」

 

 アーデルハイドの言葉で衛宮も理解したようだ。そうだよ、衛宮。遠坂はそういう生き方しか選べなかったんだ。僕のようにお金に困らず、家事をする必要もない恵まれた立場とは違うのさ。衛宮と同じで、全部自分でやって、その上で成績優秀なんだよ。そこに気付けないとな。

 そんな追い掛けっ子を眺めていると、突然辺りの景色がどこかの西欧の城の中になった。

 

「ここは?」

「着きましたよ」

 

 その声は普通の服に戻っていた『一』だった。ここがアインツベルンの拠点として使われている館らしい。僕達が立っているのはそのロビーだった。

 

「ハイディ!」

「イリヤ!」

 

 階段をアーデルハイドそっくりな女の子が駆け下りてきた。どうやらあのチビっ子らしい。

 

「え! お、親父!?」

 

 僕の鼓膜が破れんばかりに衛宮が叫んだ。その見ている先に立つ男女は……。ああ、そういう事か。キャスターの仕業だろうか。感激のご対面とばかり降霊したんだろうね。ふ~ん、キャスターって思ったより気のいい奴なのかな?

 

「慎二、最終ヒントじゃ。あれを見てみい」

 

 ジジイの言うあれとは、今にも泣きそうな顔で階段の上を見上げるアーチャーだった。

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