「じゃ、送ろうか」
やっとこさコーヒーが飲めて満足したオレは、連れ帰ったシロウを自宅に送ってやった。身振り手振りで寄ってくれというシロウ。だけどそれは断った。言葉が通じないのでもどかしいんだが、今は休んで明日に備えるべきだ。なにせ明日は大聖杯に行かなきゃならない。それにイリヤのトコで、スクールや世話になっている人に明日も休むと連絡すると話していたんだ。なら、優先すべきはそっちだろ?
こっちもそれを身振り手振りで話したら、何とかわかってくれた。それで帰ってきた訳だが……コタツテーブルでエルが眠っていて(100%オレのせい。今朝も話していたが寝不足らしい)、それに寄り添うようにクロエも眠っていた。姿の見えないアントニー達はダイニングだった。気を遣ったのだろう。
「アントニー、あれってどう思う?」
「やっぱりイヌなのかなぁ。君はどう思う?」
アントニーの膝には、アダムが乗っていた。今日は白ネコだ。ああ、アダムは自分の気分で毛の色を変えられるんだ。
『むむむ……クロエがイヌとは考えもしなかったな。『我思う故に我あり』だが、私も自らのアイデンティティに疑問を懐き始めている。申し開きがあるなら聞こうじゃないか、造物主殿?』
アダムは見た目がまんまネコだ。そのネコが親友に撫でられながら、そんな事を言った。アストルフォがクスクス笑っている。
「一番最初の鋳造はマニュアル通り。ヘンな事はしていない。ネコに改良する時は知っての通りだ。だから動物のスピリッツが入る余地はないと思うんだけど?」
『フラスコの小人』を広口のビーカーでなく、栓のできるフラスコや瓶で造るのは、その容れ物自体が最小限の結界でミニ工房になるからだった。だから初心者向けとされているんだ。けど、ボトルシップと同じでベテランでもこれを造ったりする。オレ、一度体長2インチくらいのボトルに入った妖精を見たことある。勿論人造のホムンクルスだ。だけど背中に蝶のような羽の生えた可愛い女の子で、まんま妖精なんだよな。腕が良くて凝る人だとこんなのを鋳造するんだぜ?
「クロエはあれだ。オレの腕だと、自分の部屋全体を覆う結界が張り切れなかったからだと思う」
『穴があったか、綻びがあったと?』
「多分な」
『私はクロエが気に入っている。あの性格も好ましい。なので責めはしないが、反省は必要だな』
「ああ、反省するよ」
と、まぁこんな具合で、オレよりアダムの方が真っ当で賢い。
「アダム、君さ。クロエの買ってきたキャットフードって、日本でしか手に入らなかったらどうする?」
『何!? 嘘だろう? 冗談と言ってくれ、アントニー。それは困る。とても困るぞ……』
何がアイデンティティだ。留守番させたクロエに同情して、オレをやり込めたいだけだった。それもオレ達の居ない間の餌が、アダムにかなりマッチしたようだった。オレはキッチンに行き、隅に置かれたネコ缶とイヌ缶を見た。随分と高級そうだ。1缶いくらだ?
窓から見える裏庭ではバルナバスが何かを齧っていた。
「あいつは何を齧ってるんだ?」
『そこの袋にないかい? 私のお気に入りとともにクロエが買ってきたものだよ』
袋の中にはネコやイヌのオモチャがたっぷりと入っていた。きっと齧っているのはオモチャの骨なんだろう。
「アダム。お前は人の姿になりたいとは思わないのか?」
アダムがアントニーの膝から飛び降りた。いつの間にか置かれてある水入れで水を飲んでいる。
『以前も話したろう? 今の方が思索に耽るのに都合が良い。何より君やクロエの負担が少ない。バルナバスも同じだよ』
オレの足に頭を擦り付けてから、アダムは2階に行った。親愛のしるしか? それとも口を拭いていっただけか? きっと後者だ。
アストルフォがデッキに出てバルナバスを呼んだ。脚を拭いてから中に入れている。この騎士様は詩人じゃないが、自然や動物は好きらしく、接し方が上手いんでバルナバスも素直だった。ライダーの資格ってこういうところに出るんだなと、改めて思った。
オレの失敗という訳ではないが、アダムと違ってバルナバスは言葉が話せない。ブラウニーは、と言うより助手代わりの小人には会話機能を持たせないものなんだ。言葉が話せないのはそれがある。だけど知能は人と変わらないので、そこらのイヌより高い。このまま警察犬や軍用犬になれるんじゃないか?
だけどカッコいいシェパードじゃない。たまたま開いた雑誌に載っていたイヌがモデルなんで犬種はわからないが、まぁそう賢そうには見えないし好かれるタイプでもない。けど、実際は賢いし妹達(家族なんで、オレが魔術師なのは知っている)からは人気があった。そんな訳だから、基本オレとクロエにアダム、それと妹達にしか懐かなかったんだ。それが会って数時間のアストルフォに懐いていた。だからオレはアストルフォを見直したんだ。
「こちらですね」
『うん、ありがとう』
エルヴァやアーデルハイドの存在にも驚かされたが、ランサー(エルマ君)にも驚いた。明かされた話は奇想天外どころではない。何とこの子は、エルヴァの並行世界存在が造ったホムンクルスだった。そしてその女の子のエルヴァ(『エル』)は、エルマ君に並行世界を渡らせ、サーヴァントの枠を奪い、イリヤやシロウを守りつつ、この戦争を無事に終わらせろと命じていたんだ。
この世界にイリヤ以外の妹弟が居ることは事前にわかっていたらしい。だけどエルヴァの召喚したキャスターが、彼とその『エル君』にとっての過去世であったとは想像だにできなかったという。それはそうだろう。なので当初の予定とはかなり異なった状況になってしまったと話してくれた。
本来こういう介入はサクサク進め、一気に終わらせるのだそうだ。大体、長くても3日で済むという。これは様々な並行世界を体験した事で、ある種のパターンを掴んでいるからできる芸当だろう。観測した時点でそこの時間が決まる(難しくてよくわからない)らしく、場合によっては10年前の場合もあるそうだ。そこでは必ず僕を降ろさせアイリを救い、第五次ならイリヤを救い、シロウを守ってくれている……。
それをこの子は『アインツベルンの不始末だから』という命令だけで、こうして動いてくれていたんだ。ならキャスターに降霊されたこの状況は絶好の機会だ。手伝える事があるなら手伝う積もりだった。だから僕は、彼女からアサシンを通して、こうしてコンテンダーを持って来て貰ったんだ。勿論士郎と入れ違いになるよう計算してだ。
サーヴァント同士の闘いだったあの決戦では出る幕がなかったけれど、次の大聖杯解体はそうは行かないだろう。アハトは滅んだらしいが、僕も読みが甘かった。いや、見識が狭かったと言うべきだろう。まさか都市伝説とも言われていた存在が、ここまでの事をしていたなんて。何よりエルマ君も臓硯改めゾウケンも、この世界が特に酷いと話していた。
確かにカバールやディープステートなどと呼称される存在は、人の弱い心に巣食う悪性腫瘍のようなものだから、どこにでもあると言えばどこにでもあるものなのだそうだ。少し違うのはそのネットワークの張り方と、組織の腐り具合だという。ここはそれが、聖堂教会に顕著だった。きっとバチカンも同じように腐っているのだろう。そう思えたのは、僕が仕掛けた爆弾が綺麗に撤去されていたからだ。これも間違いなく教会の仕業だ。
アーデルハイドは養父のカール(複雑な気分だ)と祖父であるノイント(この人がアインツベルンの九代目)の援助と後援で、この聖杯戦争に参加していた。それはこの儀式で引き起こされる災害を隠れ蓑として、人身売買用の児童誘拐などが行われている事を察知したからだった。
僕が前回召喚に使った聖遺物が士郎の身体にあると睨んだハイディは、冬木でのアジトを決めると現況確認のための調べに掛かり、それを終えるとすぐさま士郎に接触し、その日の深夜にセイバーを召喚したという。どういう会話がなされたかは知らないが、義憤に駆られた士郎もハイディを手伝うと進言し、セイバーも聖杯奪取でなく誘拐された子供達を救ける事を承諾してくれたそうだ。つまりハイディは最初から聖杯なんて求めていなかった。それはエルヴァにアントニー君、間桐に潜り込んだエルマ君も同じだった。アハトの命令があったイリヤと、災害を起こしたかった言峰以外は、全員がこの儀式を平穏無事に終え、大聖杯を解体する事を目的としていた。
時代は変わった。なんて真っ当な理由なんだ。だからこそ、僕は子供達を護らなきゃならない。ハズレてばかりの僕の読みだけど、大聖杯で待ち伏せする残党は必ず居る。この読みはセイバーも同じだと言った。だから僕は士郎も知らない隠し場所をエルマ君に伝え、コンテンダーを持って来て貰ったんだ。
「『エル様』は刻印殺しみたいのや、魔術回路破壊みたいな魔弾を使っていましたね」
『相手を殺さないって意味かな? 殺さないという選択肢は、反撃や復讐などへ完全に対処できるという意味かい?』
「そうです」
『あいにく僕には、そういう知識がなかった。どういう方法を?』
「『掌握』や『魂の改竄』という魔術です。掛けられた相手は、完全に支配下に置かれるのでこちらには逆らえません。命令に逆らえないのでなく、心の底から私どもの味方になります」
『本当に? どんな敵でも?』
「はい。言峰神父がギルガメッシュに全令呪を使って自害を命じるレベルです」
それはどんな魔術だ? だけど心の底から……言峰がギルガメッシュに自害を命じるレベルというのが本当なら、これは凄まじい。
『君はそれを?』
「多少使えますが、今回はキャスターが居たので使えませんでした」
『目を盗むくらいは』
「その時間があるなら、まずは地下に幽閉された子供達の救出です」
そこで僕は初めて教会の地下であった事を聞かされた。その行為はハイディ達の意に沿ったものだ。事実、救出した子供達はハイディと連携を取り、あちらの部隊に引き渡したという。また、今回の決戦前に冬木最大の地下基地を部隊が強襲し、数百人の子供を救けたそうだ。そしてその基地は完全に破壊、爆破され震度2~3の地震があったという。
僕は知らなかったが(霊なので鈍いのかも知れない)、きっと連携を取っているだろうエルヴァ達が、僕に素知らぬ顔をしていたのはお見事だ。士郎は……日本育ちで地震に慣れっこなのか、或いは新都の再開発地区と言っていたから、深山町までには伝わらない、本当に局地的な地震だったのかもしれない。
『頼みがある』
「何でしょう?」
『イリヤだけでなく、ハイディやエルヴァも……』
「わかっていますよ。今も士郎さんの警護にアサシンを4人付けています。その内の1人は、あの佐々木小次郎です」
佐々木小次郎! さすがの僕もこれには驚いた。
『君は一体何人の英霊を……?』
「そこまでは。クー・フーリンに百貌のアサシンが2体と、その佐々木小次郎だけです。できればヘラクレスとアーチャーを連れ帰りたいですね」
『バーサーカーはわかるけど、どうしてアーチャー? 遠坂のあの子の采配が上手いだけで、大したステータスでもないんだろう?』
「息子さん、泣きますよ?」
『え?』
「あの人の正体は、どこかの世界で英霊にまで至った衛宮士郎です」
この一言が、僕の今までの人生が間違っていた事を決定づけた。認めたくなかった。振り返れなかった。心の奥底で間違っているとは思っていた。だけど父を殺し、母のように思えた人を殺し……誰かを救うために誰かを犠牲にしてきた僕に振り返る事は許されなかったんだ。
『本当に……? 彼は士郎なのか……?』
「ええ。あなたの『ユメ』を継いでしまった士郎さんの成れの果てです」
この世界じゃないのは瞬時にわかった。だけど別の世界だから関係ないとは言えない。
『どんな人生を歩めばそんな……』
「彼は第四次の災害で一度死んだのだと思います。ですが、あなたが与えた鞘で強制的に蘇生し再構築された。それで人なら持つべき生存欲のようなものが掻き消され、あなたが彼にしたような……ギリギリの絶望の中で伸びる手に憧れた。それは死ぬ瞬間に見た奇跡だったのです。だからあなたのような正義の味方になろうと……」
何を言えば良いんだ? バカヤローと叫ぶべきなのか? だけど、とっくに死んだ僕には、まして並行世界の幽霊である僕にはその資格なんてない。この世界の士郎なら、イリヤもエルヴァもハイディも居る。あの子達に士郎を託せる。だけど彼は……もう、座に固定されてしまった存在だ……。
「だからですよ。だから私が引き取りたいんです。座の本体……全体は無理でも、一分霊にとことんまで正義を貫いて欲しい。それなら私の寿命が尽きて彼が座に還ったとしても、持って帰れるものがあります。その記憶は、何れ記録を侵食します。そうすれば……」
座の本体そのものが変わる。僕はエルマ君に、ただ頭を下げるだけだった。
『凛、もっと食べなさい。あなたは本当に食が細いんだから』
『まぁまぁ。葵にも経験があったのではないか? 凛もそういう年頃なんだろう』
メイドのセラさんに送られた私達だけど、後ろの席で左右に両親というのも初めてなら、その両親が幽霊というのも珍しい体験だ。ちなみに助手席はアーチャー。霊体化すると言っているのを父さんが止めたのだ。あの最後の日……今までなかったのに初めて頭を撫でられた。そして帰りの車。流石に3人だと肩がピッタリだった。だけど車が揺れても両親が支えてくれている。それが嬉しかった。そしてわかった。ただ単に厳格なだけでなく、父さんは不器用だったのだ。
目が会えば微笑む母さん。父さんが亡くなった頃におかしくなって、とうとう私を忘れ……いや、忘れてはいなかった。ただ、片時も『凛』と『桜』と名付けた人形を手放さくなっただけだ。あの人形もお棺に入れてあげた。そんな哀しい思い出が、目の前にある微笑みで消えていく。
泣きそうになるのを我慢して家に戻れば、母さんはいきなり冷蔵庫をチェックしていた。そして在り合わせの材料で遅い昼食を作り始めたのだ。そうして4人で食事を摂っているのが今だ。父さんも母さんもアーチャーに私を頼むと言っただけで、他は何も言わなかった。そして食事を薦めた。アーチャーが断りを入れる前に、彼の分まで料理が並んでいた。相当居心地が悪いと思うのだけど、母さんの強引さに負けてしまったようだ。
『アーチャーさん、お代わりは?』
「いや、結構だ」
『お口に合いません?』
「そんな事はない。十分に美味しいと思う」
この会話の間、アーチャーから悲鳴のような念話が届いていた。どうも母さんはアーチャーを見抜いていた。正体の事ではない。彼がマメで家事や炊事が得意だという事をだ。
〈おそらく家に入った瞬間に見抜かれていたようだ〉
(どういう事?)
〈母親を侮るなという事だ。学生の君では目の届かないところをチェックされた……〉
(母さんは姑さんか)
〈私も君に嫁いだ積もりはない。が、母親だけでなく、この父親もよく見ているよ〉
(え?)
〈まず間違いなく、私が現代の者だと気付いている〉
(まさか?)
〈だから家事というか整理整頓にだよ。君は育ちが良く、躾も行き届いた家の人だと一発でわかる。それでも、という事さ。ましてや娘が気付けば一人暮らしだぞ? 霊の母親を見た瞬間に悟ったろうし、想像もしていたのだろう。いくら外で気を張っていても、家に帰れば気は抜けるものだ。そして一人暮らしともなれば、自ずと君なりの抜けた部分が必ずどこかに出る。それは玄関程度を見ただけでも、わかる人にはわかるものだ。それが両親ともなれば?〉
そういう事か。私だって掃除はしているし整理整頓もしている。だけどそこには一人暮らしならではの『抜け(クセ?)』があるという事だ。ところが召喚直後からアーチャーは、そういう私だと慣れ切って見落としがちな部分も含めて掃除したり整理をしてくれていた。そこが逆に両親の疑問になったという事らしい。
よく私の事を見ていたなと、喜んでいいのか悲しんでいいのか。中学生頃なら反発していたかも。だけどその有り難みも、鬱陶しさも……全部込みでそれが親なんだなぁと思えたのは私が成長したから?
妻の葵とともに、すっかり大きくなった愛娘の凛と楽しいひと時を過ごせた。この点はキャスターに感謝すべきなのだろう。しかし葵と再会できた事で、凛を残し葵も私の死後数年で後を追うように死んだと知ってショックだった。何より私の死因だ。誰に刺され息絶えた? そんな者を後見人に指名していた愚か振り。さぞやあの王も私を嗤った事だろう。その怒りは、自らの霊波が反転してしまうのではないかという程のものだった。
そんな私の精神を葵が繋ぎ止め、教会の地下から湧いてくる子供達の霊をともに匿った。子供達の証言であの第四次の裏であった、隠された非人道的な犯罪を知った。そして今回の早まった第五次……。早まった理由は、ライダーの魂が王に匹敵するものであっただけではなかった。第四回までの余剰魔力が溜まっていたのも理由として挙げられるが、真の原因は『奴ら』にあったのだ。それがどういう装置なのかは知らないが、聖堂教会は第五次を早めるために魂魄を封印したものを、大聖杯に焚べていたのだ。それもバチカンに眠る、時が過ぎれば聖人か、その候補に数えられるような高純度な魂魄をだ。そんな信じられない悪事を行う理由は、前回のような大災害を起こすためだった。
これを教えてくれた相手が、凛と年端の変わらないランサーの少女と、彼女に仕えるゾウケン君(カタカナで、しかも君付けでないと駄目なのだそうだ。臓硯とは違うという主張だろうか?)だった。この世界の間桐臓硯は彼女達がとっくに始末し、虐待染みた調整で傷んだ桜の身体も精神も治してくれていた。更には凛と同学年の間桐慎二君を、この聖杯戦争を通じて再教育していた。そんな彼の動きもあって凛もある程度の情報を得ていた。そしてこの歪んだ儀式を終えたいアインツベルン本家の動き。それをランサーの少女達は見ていて、今回の合流と決戦へと至ったのだ。
返す返すも私は愚かだった。聖杯の汚染も知らず、臓硯の真意も見抜けず桜を養子に出し、先祖代々より愛着のあるこの冬木を焼き、大勢の人達を不幸にした。その愚かさへの反省が、殺されたという個人の恨みを幾分帳消しにしてくれた。今の私にできる事は大聖杯解体を見届ける事と、その場で凛を護る事だけだ。その意味で私とアーチャーは同士だと言えた。
『彼はどういう英霊ですか?』
『詳しくは言えんが、未来の英霊よ。ステータスが低いのも知名度が無いからじゃ』
ゾウケン君はそう教えてくれた。
『未来の……?』
『そうじゃ。時臣、第三次の書き付けか何かを先代から?』
『はい』
『それで召喚範囲が西欧から中東にまで広がったと読んだんじゃな?』
『……ええ。そう考えたからこそのギルガメッシュでした』
忸怩たる思いが募る。アレを召喚したのが私の最大の失敗だった。
『アーチャーはな、面白い事にその中東で英霊に至ったのよ。それもギルガメッシュと同じクラスでの。訝しんだり邪険にせず、腹を割って話してみよ。存外、得られるものがあるやも知れん』
そんな言葉で以って、家路へと送り出されたのだった。
エルヴァに送って貰って家に着いた俺は、明日に備えて早速あちこちに連絡をしていた。学園にも藤ねえにも、慎二に教わった通り風邪で押し通した。意外とイケるんだなぁ。だけど、エルヴァも遠慮しないで上がってくれれば良いのに。まぁ、あちらなら俺以上に明日への備えがあるだろうから仕方ないとは思うけど。それで受話器を置くと、妙に風の通りが良いような気がする。
「縁側を閉めるのを忘れていた?」
そう思い廊下を曲がり、縁側のある客間のところまで行くと陣羽織の人物が座って庭を眺めていた。
「誰だ、あんた!? 泥棒か?」
「盗人を思い浮かべる前に、こういう最中でのこういう出で立ちを疑問に思わないか?」
「あ! サーヴァント……?」
「ククク……安心するが良い。我が主はランサーの少女だよ」
「あ。エルマだっけ?」
「左様だ。拙者、佐々木小次郎と申す。明日までそなたの護衛を命じられた。勝手に上がらせて貰って申し訳ないが、この屋敷の間取りの検分と敵の侵入経路を測っておった」
ああ……あの子が気を遣ってくれたのか。だけど佐々木小次郎って本当だろうか? お茶を煎れた俺はそれを小次郎さんに尋ねてみた。
「いや。ただただ、ひたすらに剣に生きた拙者は、ある日『燕を斬る剣』に目覚めたのだ。それが世界に『燕返し』と判定されたのであろう。よって偽物だよ」
「そういう事ってあるんですか? その……世界が判定って」
「ある。世界とはこの眼に映るものだけがすべてではない。サーヴァント然り、お主の父親然りだ。只人(ただびと)には見えずとも、魔道を極めれば更に大きなものも見えてくる。それは八百万の神も、そこらの付喪神も、一切合財を含めた自然そのものだ。そして自然はあるがままである。人の思惑も関係ない。我らを含めての自然であるからな」
難しいけど、何となく言いたい事はわかった気がする。
「もうお昼をとっくに過ぎましたけれど、何か食べますか?」
「お主も?」
「ええ、腹が減っちゃって」
「フ……なら頂こう」
そうして俺は奇妙な客人と1日を過ごす事となったんだ。