※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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18、第二の基地

「息が苦しいな……」

「本能だ。本能がここの澱んだ空気を体内に入れるなと命じているのだ」

 

 衛宮とアーチャーの声だ。ゴツゴツした足元はぴちゃぴちゃと濡れていて、入り口からの光はとっくにない。なので衛宮は懐中電灯で足元を照らしていた。昭和の遺物なのか、随分暗い。だけど使っている電池はきっと単1電池3~4本だろう。対するエルヴァはミニマグライトだ。あれは僕も持っていて、単3電池2本のタイプだ。アントニーに至っては、この当時まだまだ珍しかったLEDのライトだった。1人だけ異様な明るさを放っていた。

 その明るい光のお陰で、衛宮の懐中電灯はほとんど意味がない。だけど1番電池が持つだろうから、帰りには役立つかも知れない。

 

「衛宮、電池を温存しよう。お前のは帰りに役立つと思う」

「そ、そうだな……」

「何で僕にビクつくんだ?」

「いや、だってお前……こん中で1人だけ蒸着してるんだぞ? しかも慎二自身が光ってるし」

 

 そうなのだ。僕のこのスーツは淡く発光していて、ヘルメットの額部分からは直進性の高いヘッドライトが、白い光の筋を伸ばし、左右のこめかみ部分からはフォグランプが、オレンジっぽい色の光を拡散していたんだ。ジジイが豪語している。

 

『慎二、このスーツを着込んだお主は、まず傷付かん。その性能は干将莫耶も弾き返し、『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』の爆発すらものともせん。じゃから安心せい』

 

 意味不明な性能解説だ。ブロークン・ファンタズムって何だ?

 

「だ~~~! 貴様!」

 

 アーチャーが突然、僕のヘルメットの上で寛ぐジジイに向かって怒り出した。

 

『青いわ。並行世界のお主で試験を重ねたと気付かんか?』

「何ッ?」

『英霊化による次元上昇(アセンション)で、見えぬものが見えたのであろう?』

「……何が言いたい?」

『何人のお主がそこに気付くのかのぅ。英雄の死後の奴隷化。英霊システムという、人類では思いも付かん死者への冒涜。お主はこの詐欺に気付いた。拠って飛び込んでしまった己は仕方ないと諦めも付くが、今正に飛び込まんとする自身の並行世界存在は何としても止めたかった。例え、相手を殺す事になろうとも。概ね、そんな辺りじゃろ?』

「…………」

 

 そ、そういう事だったのか……。そして僕はジジイがわざとアーチャーを怒らせ、自分に近づくように仕向けたのだと、ここで漸く気付いた。

 

『アーチャー。英霊エミヤは確認しとる限り5体おる。最初の1体は既に座が摩滅し消滅した。2体目の最後と言ってもいい分霊は、エルマを造った魔術師が保護しとる。3体目は世界への侵入者にも気付かず、何度も自分殺しを達成しておるらしいの……』

「何? それでどうなった?」

『どうにもならんよ。座に囚われたままじゃ』

「やはりな……」

『そしてその3体目まではシステムを作った者の存在に気付いておらん。気付いたのは4体目じゃ。いや、そこに気付ける者じゃったから新たなる座を得られたのじゃろう』

「買い被りだ。私も最初は自分殺しによるパラドックスで、この牢獄を抜け出せないかと考えた愚か者だよ」

『じゃが、エルマに仕えると決めたのじゃろう?』

「ああ」

『それは、その英霊システムを作った者どもを、思い出せたからじゃろう?』

「その通りだ。しかし……何故それを?」

 

 この会話、衛宮が近いだけに際どい。しかもアーチャーのマスターである遠坂はイリヤ達と外だ。だけど衛宮はエルヴァやキャスターに話し掛けられ、こちらに気付いていない。これは多分、エルマとエルマの意を汲んだ……と言うか、考えを読んでいるキャスターのアシストだ。

 

『ククク……お主以外の4番目(4体目)の、また別の分霊を知っておるからじゃ』

「2体目、3体目と言うのも驚きだが、4体目という私の分霊……」

『5体目までおるからの。信じられんとは思うが、仲間になるならここは嘘偽りなく明さんと考えた次第じゃ』

「そいつはどうも」

『そう邪険にせんでくれ。こう見えてもお主の事を考えてなんじゃ』

「そのステッキ姿で言われてもな」

 

 皮肉っぽい口調だけど、意外と気が合っているようだった。

 

「ゾウケン君」

『うむ。これは酷いの』

 

 ヘルメットと一体になったマスクのレンズ越しに見た大聖杯は、ブシュブシュと真っ黒いタールのような粘液を吹き出していた。

 

「こ、これは……?」

『考えたものよ。何騎の聖堂騎士団を焚べたのかは知らんが、贄になった者達の信仰を反転させて餌にしておるんじゃろう。この手があったかと感心するわい』

「ゾウケン君、そういう悪の幹部っぽい言い方は駄目」

『すまんのぅ、エルマや。悪かったぞい』

 

 素直なジジイにも慣れた。ジジイにとって、やっぱりエルマは特別なんだろう。だけどこの汚染された大聖杯はどうする?

 

「ライダーとキャスターに、それぞれのマスターはここで待機。異界に送るか……」

「あなたのその……王の宝を奪った魔術はどこに繋がって?」

 

 エルマにキャスターが声を掛けた。

 

「私が体内に持つ宝具ですが、繋がっているのは魔術で創られた異空間です。ですから吸い上げられても、気分的に……」

「なるほど。悪影響も考えられますものね」

「でも、バイパス機能もあるので、バキュームしながらあなたのアレに送る事は可能です。あなたは大丈夫ですか?」

「私自身はあの泥に問題ありますが、穴の向こうは関係ありません」

「じゃ?」

「はい」

 

 2人の意見が纏まったようだ。

 

『慎二。エルマに道を作るぞい』

「うえぇえ!?」

 

 意味はわかるよ?! あの触手みたいなの、意思があるように動くもんね!? だからって僕も囮になるの?!

 そして僕はジジイに引っ張られるようにしてオゾマシイ大聖杯の前に立った。

 

「ひッ!?」

『恐れるでない! ゾウケン・ジャンプ!』

 

 僕は瞬時に跳んでいた。20メートルは跳んだんじゃないか? チャンスを逃さず、上手い具合にエルマは駆けて行った。その姿が、なんとも不思議な獣耳付きだった。だけどこの滞空時間が隙きになったか。触手が僕を待ち構えていた。

 

「慎二ィ~~~~ッ!!」

「衛宮!?」

 

 バカ! 危ない!

 

「うぉおおおおおおっっ!!!」

 

 なんと衛宮は森で見た剣を出し、僕を待ち構える触手を斬ろうとしていた。

 

「チィッ!」

 

 アーチャーが舌打ちして衛宮のフォローに入った。だけどイケるかと思ったのは幻想だった。触手が2本3本と増えている。着地した僕はジジイに訊いた。

 

「武器! 武器はないの!?」

『儂が武器に転身できるんじゃが、あんなのに触れとうない。エンガチョじゃ』

 

 ここに来て使えないなぁ!

 

「間桐慎二! これを使え!」

 

 アーチャーが剣を投げてきた。その剣はクルクルと回って僕の目の前の地面に刺さった。『サンキュー』と叫びながら、『こういう場面だと、どうしてこうも上手く足元に刺さるのか? カランと落ちてもおかしくないのに』なんて事を考えていた。勿論目は、触手の動きを追っている。さっきより増えた? もう、10本近く出ているぞ?

 

『体術はコントロールしてやる。慎二、恐れず斬り伏せい』

「おう!」

 

 僕は無我夢中で剣を振るった。斬り飛ばした触手が地面に落ちて、ビチビチと跳ねている。ここまでデカいとマジで気持ち悪いんですけど!? いやいや、その前に衛宮は? 見れば、アーチャーとともに触手を次々と斬っていた。やるじゃないか。当然、双剣を握るアーチャーの方が多く斬っている。何より英霊だし。でも、衛宮のあの動きは良い。触手の読みづらい動きを攻めやすく躱しやすいステップだ。

 そこで僕は気付いた。衛宮の動きはアーチャーの真似だった。いや、完全な真似じゃない。それぞれの手で持つ双剣と、両手剣の違いがあるし、何より体格が違う。衛宮だとロングソードに振り回されるようなところがあるのだ。と言うか、何で僕がそういうのを見てわかるんだ? きっとそれがこのスーツの能力なんだろう。

 

 バガーン!!

 

「何だ!?」

『慎二、上よ』

「え?」

 

 大聖杯のあるここは広いだけでなく、上にも空間が広がっていた。その上空をあの公園で見た馬のような鳥のような何かが飛んでいた。ライダーとエルヴァ?! なんとエルヴァはライダーの後ろでライフルを撃っていた。エルマへの援護だ。

 

『長銃でなく散弾銃じゃ。見てわからんか?』

「わかりませんっ! でやっ!」

 

 触手は斬っても斬っても減らない。むしろ増えている。おまけに斬り飛ばした部分が、蠢きながら合体し、そこからミニ触手を振り回しているんだ。

 

「何だよ、これ!? 不死身?」

『不死身ではない。魔力が多いだけじゃ。慎二、エルマが着いた。吸い上げよるぞ!』

 

 黒い粘液がずももももっと、エルマが開いた穴に吸い込まれ始めた。それがキャスターの開けた穴の前に開いた出口から吹き出した。キャスターは穴を調整して粘液を上手く自分の穴に取り込んでいる。

 調子よく行っているその時だ。誰かに斬り飛ばされた触手の一部が合体しようとでもしたのか、自分からキャスターの穴に向かった。その動きが穴に入っていく粘液の動きを乱したんだ。

 

「危ない! エル!」

 

 キャスターを粘液から守ろうと押し出したアントニーが、粘液の奔流をまともに受けてしまった。

 

「アントニー!」

「アントニー!」

 

 キャスターの叫びのすぐ後に、ライダーとエルヴァが叫んだ。こうなるとライダーもエルヴァも後退せざるを得ない。

 

『慎二、前に出てエルマの援護じゃ! 気張れ!』

 

 そう残してジジイはキャスターのもとに飛んでいった。おい! ジジイのコントロール無しで僕はエルマの援護に行かなきゃなんないの!?

 

「慎二!」

 

 衛宮とアーチャーがこっちに来た。助かったぁ~。

 

「衛宮、エルマの援護に行かなきゃなんない。僕だけじゃ足りないと思う」

「わかった、俺も行こう」

「私も行こう」

 

 良しっ! 狙い通り! 僕の頭の計算機は衛宮の心理を『エルマの援護=大正義(誰が考えても公正な正義)≧僕の援護』『(衛宮の考える)正義≫僕の援護』と、弾き出していたから助かった。こういうのを『ピンチをチャンスに』って言うんだろう。柳洞なら『毒を以って薬と為す』とでも言うんだろうか? ちょっと違うか。ともあれ、当然ながら僕自身の計算は『衛宮≦アーチャー≪僕』だった。誰だって自分が可愛いんだよ。

 

「行くぞ!」

「「おう!」」

 

 アントニーが心配だったけど、僕達は声を揃えてアーチャーの後を追った。だって、それしかできないからだ。

 

 

 

 エルマの下に行けと慎二に指示を出した儂は、アントニー達のところへ飛んで行った。アントニーを介抱しようとするライダーとエルヴァ。キャスターも心配そうじゃが、エルヴァに言われたのじゃろう。穴の操作に集中しておった。儂はエーテルを出力しキャスターに声を掛けた。

 

「キャスター」

「あなたはステッキ?」

 

 驚くのも無理はない。今の儂は慎二でなく、在りし日のマキリ・ゾォルケンじゃった。

 

「うむ。優先順位を理解しているようで助かる。そこでキャスター、無理を承知で頼みがある」

「何でしょう?」

「今……この状態で、ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンを降霊して欲しい」

「話す余裕はあっても……。何より、触媒となる2人が……」

「イリヤスフィールとアイリスフィールであろう? その2人はこの鍾乳洞の真上よ」

 

 キャスターはしばし目を瞑った。そして目を開くと頷いた。儂は隙かさずアントニーの下へ行った。

 

「エルヴァ、代わろう。こういう瘴状は儂の方が慣れておる。それとライダー?」

「何? ボクにできる事があるなら何でもするよ」

 

 素直で物わかりの良い奴じゃ。

 

「お主のマスターはごっそりと魔力を吸われショック状態なんじゃ。こ奴に回す魔力が必要じゃ。そこの岩の陰で、エルヴァから魔力を分けて貰うがいい。儂もできる限り魔力を回す」

「わかったよ。でもどうやって?」

「別に尻を使わんでもよい。口淫で構わんよ」

 

 ここでエルヴァが異議を申し立ててきおった。

 

「オレにそっちの趣味はないぞ」

「嘘じゃろ? お主とアントニーは……?」

「違~~~~う!」

「冗談じゃ。友を救うためぞ。目を瞑ってキャスターの顔でも思い浮かべながら2~3発抜いてこい」

「マジか…………」

「早う行け」

 

 エルヴァとライダーが行ったところで、儂は意識をアントニーと同調した。そしてアントニーに憑依した。中からアンリ・マユの呪いを排除するんじゃ。と同時に儂の魔力をアントニーに回す意味もある。いざこのような窮地に陥っておっても、儂は何一つ心配しておらなんだ。その理由はエルマをそれだけ信頼しておるのもあるが、ルビーの存在にもあったんじゃ。

 あれだけ高性能な杖だけあって、ルビーにせよサファイアにせよその扱いは難しい。アインツベルン本家が宝石翁に注文したという4本の杖は、本来はホムンクルス専用の礼装だったんじゃ。しかし4本の中でもルビーだけは人工精霊に難有りと烙印を押されておった。ルビーは『魔法少女』というものにとことん拘る。その理由は永人の家に逗留しておった宝石翁が、たまたま持っておったルビーの人工精霊をそのように改造したからなんじゃ(※)。そしてその杖を永人の娘(二代目遠坂)に授けたんじゃよ。

 

※)アインツベルン本家では、ルビーとサファイアをアハトに売却した事になっとるらしい。そしてアハトが第二次で立てたマスターにルビーを持たせたところ、遠坂に奪われた事になっとるようじゃ。が、儂の記憶では日本に来る前に本家からルビーは返品されておった。サファイアが第三次でエーデルフェルトに奪われたのは事実なので、それとごっちゃになっとるのかもしれん。

 

 そして翁はドイツでも、その改造を姉妹であるサファイアに施した。じゃからホムンクルスの血を引かぬルヴィアや美遊にもサファイアが使えたんじゃ。また、儂の知っとるどのルビーも、二代目遠坂との思い出は語らん。永人の娘の子供の頃は、子孫の凛とよく似た可愛い子であった。『魔法少女』への拘りは、この辺りにあると儂は思うんじゃ。

 そんな対象年齢12歳以下と自分で決めとる杖が、認めた対象年齢外がエルマであり凛だったんじゃ。二代目遠坂の血を引く凛はわかるし、ホムンクルスのエルマもわかる。しかし全部のルビーが、使いこなしはエルマが1番と口を揃えおる。むしろ『エル』は、エルマをそのように造ったのではないかと儂は考えておる。

 この並行世界を渡る活動は、恋を知り愛する者ができた場合、エルヴァには厳しいだろうと『エル』は考えておったのじゃろう(自分の分身のようなものじゃから、よりわかったんじゃろうなぁ)。

 ともあれアントニーと同調しておるところにルビーが現れたので儂はぎょっとした。

 

「お主。エルマは?」

『エルマさんは、ちゃんとご自分のルビーちゃんと居ます。私はここのルビーちゃんです』

 

 おっと、そうじゃったか。

 

「そうか。何用じゃ?」

『伝令とお手伝いです。私とキャスターさんが仮契約すれば、より簡単に降霊が行えると、エルマさんの案です』

「なるほど」

 

 何故簡単に行えるのか。それはこの魔法のステッキが、本来は術者が頭の中で行う演算を補助する目的で作られておるからじゃ。また、この時間差はエルマの持つ改造ルビーから『でぇた』を流して貰っておったからじゃろう。儂はすぐさまキャスターの下に行けと指示を出した。

 徐々にアントニーの顔色が良くなった。エルヴァもライダーも頑張っておるようじゃ。その顔へスッと白い指が伸び、頬を撫でおった。

 

『この人にも、今ここにいる皆さんにも迷惑を掛けました』

「ユスティーツァ……」

『マキリ、お久しぶりです。あなたは変わりないようですね』

「今の儂は、宝石翁の創りし礼装を参考にした杖がその本性よ」

『まぁ、そのようにして延命を?』

「ま、まぁの。ユスティーツァ、それよりもこの大聖杯の中身じゃ」

『ええ。このまま冥府へ吸い上げれば終わります。純粋な余剰魔力を残しますので、それをサーヴァントに使わせて大聖杯を壊して下さい』

「そうか……。ユスティーツァ、時間はあるのか?」

『はい。おにぎりを頂くくらいの時間は』

 

 儂は笑った。そうじゃったな。村人の差し入れてくれた握り飯を一緒に食ったな。齧り付くのが初めての主(ぬし)は、育ちの良いのが災いして頬が米粒だらけじゃった。

 

「懐かしいの」

『ええ、本当に……』

 

 エルマ達がこちらへ来た。もう触手も粘液も出んようになったらしい。衛宮の小倅がアーチャーと慎二に支えられておる。怪我は擦り傷程度じゃろう。頑張ったんじゃな。疲労困憊という様子じゃ。

 儂は小倅を洞窟の壁にもたせ掛けよと慎二に命じた。エルマがコーラを取り出し、アーチャーに栓抜きを投影しろと言った。

 

「どこから出した? また何故コーラ? しかも瓶だ」

「水分と糖分の補給ですよ。慎二さん、士郎さんに飲ませてあげて下さい」

「え~、僕が?」

 

 そう言いつつも慎二は小倅にコーラを飲ませておった。瓶じゃと口が窄まっておるので、こういう場面では役立つのよ。そしてエルマが栓抜きを持って居らん筈がない。これもアーチャーへのヒントなんじゃ。

 

『まぁ、あの子……! ここまで完成度の高い子が?』

 

 ユスティーツァならエルマに気付くのは当然じゃ。

 

『あなたは何世代目?』

「ユスティーツァ様、私は第六世代で名をエルマと申します」

『第六……想像よりも完成度が高いわ。九世代や十世代目と言われても信じられる。鋳造者の腕がいいのね?』

「はい。あのお方は世界最高の鋳造師であり、人形師です。ですがユスティーツァ様。どうしても戦闘用に鋳造されたホムンクルスの延命方法がわかりません。何か手がありませんでしょうか?」

『記憶と形骸を残したいという意味ね?』

「はい」

 

 ユスティーツァは顎に人差し指を当てて考えておった。この仕草は儂の知るアイリスフィールもイリヤスフィールも同じじゃし、エルヴァまで時折しておった。遺伝ではなかろうに何じゃろうな? そしてユスティーツァが考え込んどるのを良い事に、エルマはアーチャーのカードから再びランサーのカードに替えた。これは儂にも読めた。今の内に、アイリスフィールやイリヤスフィール達をここへ転移させるんじゃろう。程なくしてワルキューレとなったエルマ達が、面々を連れて帰って来たんじゃ。

 そこでユスティーツァがやっと声を出した。ユスティーツァに何か(挨拶じゃろうか?)言おうとするアイリスフィールをエルマ(一)が制した。ユスティーツァはエルマ(一)を手招き、耳打ちで話しておった。他家には漏らせぬという意思表示じゃな。

 

『エルヴァ、居るかい?』

 

 む? 衛宮切嗣か。

 

『ハイディから電話があった。もう一つのアジトが今になってわかったんだ』

 

 すると岩の陰からエルヴァがズボンのチャックを閉めながら現れたんじゃ。何発抜いたのやらと思っておったら、エルヴァが指を4本立てた。友のためとはいえ、この短時間で頑張ったのぅ。口淫矢の如しとはこの事ぞ。エルヴァはちらりとアントニーを見、血色の良さに安堵しておった。それはええんじゃが……。

 

「ああ、オヤジ。スマン。立ちションしてた」

 

 立ちションで済ませたか。機転の効く奴じゃ。

 

「で、どこだって?」

『驚くなよ。アインツベルンの森の敷地内だ』

「え?」

 

 アハトじゃな。聖杯戦争のない間は誰も通わぬ森じゃ。あのボンクラなら樹々を使う結界も、どうせ地上だけなんじゃろ。あんな郊外じゃから、敷地外から工事をすれば誰にもわからん。さては収入源の一つか……。ああ、何らかのカタチで噛んどるとわかっておったから、それでノイントはアハトを滅ぼしたのか……。

 エルヴァは隙かさず、一番近くに居ったエルマ(三)に声を掛けた。

 

「大聖杯は後何時間サーヴァントに魔力を送れる?」

「大雑把に言って、ざっと3時間でしょうか」

「わかった。エルとアストルフォは、アントニーと残れ。残りの全員でハイディとセイバーを手伝うぞ。子供達を救けるんだ」

 

 オーッという掛け声で若者達は出口に駆けて行きおった。エルマの転移に任せんかい。熱いのぅ。

 

「ルビー、あなたも私達と残りますよ」

 

 そう言ったのはエルマ(一)じゃった。声を掛けたのはキャスターの握るルビーにじゃ。穴はもう閉じとるので、アンリ・マユの呪いは吸い出されたんじゃろう。残るはサーヴァントへ送る3時間分の純粋な魔力のみ。儂とエルマ(三)は、若者達の先に出るよう転移した。

 

 

 

 衛宮はタフだな。コーラ1本で立ち直るか。とは言っても限界は近いと見ている。このままじゃ現地で動けないだろうな。さて、どうしたものか。

 

「慎二、勇気あるなぁ。その格好で行くのか?」

「放っとけ」

 

 対する僕はこの特殊なスーツのお陰で、全然疲れていない。その気になれば超人的なスピードとパワーが得られるし。これ、ジジイじゃないな。エルマだろう。さすがジジイをステッキにしてしまった魔術師だ。こういうのを衛宮にも用意できないかな。

 そんな事を考えながら柳洞寺の山門に続く石段のところに出ればジジイ(明るいところで見ると僕じゃなくて、スラッとした外人だった! きっとこれがジジイの若い時の姿だ)と、エルマ(三)が待っていた。

 

「意気込みは買いますが、無駄に体力を使わないで下さい。皆さん、私の側に集まって。森の入口まで一気に飛びますよ」

 

 そうして僕にジジイ、アーチャーに遠坂と親父さん、衛宮とその親父さん、エルヴァとイリヤスフィールで森へと飛んだ。入り口の前で男のランサーが出てきて(出された?)、随分と不満そうな顔だった。ジジイが言うには、あの大聖杯前の触手で出番が無かったからだとか。その分ここではエルマのアサシンと連携して、あっという間にアーデルハイドとセイバーの居場所を掴んでいた。

 ランサーの案内で向かったそこにあったのは、農機具でも置かれているようにしか見えない小屋だった。道は未舗装の農道で、その20メートルほど手前の林の少し入ったところでセイバーとアーデルハイドが手招きしていた。周囲には長さ60cmくらいの細い丸太が斜めに立て掛けてあった。椎茸? 農家の人が定期的に来るのか?

 

「偽装ではなさそうじゃな。確かに本業は農家なのかも知れんが……聖堂教会の者やも知れん。アサシン。小屋の内部はどうなのじゃ?」

 

 すると姿が見えないのに、どこかから声が聞こえてきた。

 

『は。床下に階段があり、30メートルほど下ります。その先に20メートルほどの地下通路とエレベーター。今5人ほどそのエレベーター用の隔室から、更なる下層への侵入に成功しております』

「わかった。アーデルハイド、そちらの部隊は?」

「海上保安庁や沿岸警備隊の目があるので、救護船とともに沖合です。どうしましょう……」

 

 ああ、それでここから動けなかったのか。

 

『僕達で行くしか無いだろうね』

『うむ。既に死んでいる私達なら大抵の壁も潜り抜けられる。そこへは私と衛宮、そしてサーヴァントとで行くしか無いだろう』

「エルマは? 空間転移が使えますよ?」

『いや、慎二君。一度も行った事のない場所に、そうそう転移できるものではないだろう』

 

 そう遠坂の親父さんに言われた僕は、エルマ(三)を見た。残念ながら首を横に振っていた。

 

「ただし、侵入に成功しているアサシンの眼は借りれます。それまで待って頂けるなら、転移は可能です」

『だけど今のところ、内部は一切不明なんだよね……』

「それをアサシンってサーヴァントが探っているんだろ? 親父、早くしないと時間切れだぞ?」

『その通りだ、士郎。だけど問題は一体何人の子供達が居るのか? その広さはどのくらいあるのか? なんだよ……』

「ああ……」

 

 僕も焦っているが、ここが我慢のしどころなんだろう。今は大人しく我慢して、何にでも対処できるよう備える時なんだ。エルヴァを見れば、マグナムを出して弾を確認していた。

 

「お祖父様。このスーツって他にないんですか?」

「ん? 他に……?」

 

 ジジイはエルマ(三)を見た。それに応じてエルマ(三)がこう言った。

 

「そう言えば、それの幾つか作った試作品の最終版が……」

 

 そうして出してくれたのは厚さ7cm程のアタッシュケースだった。

 

「衛宮さんにでしょう? どうぞそれを」

「ありがとう」

 

 それで衛宮を呼んでケースを開けると、中には赤いベルトが入っていた。バックルが大き過ぎてダサい。

 

「これって、慎二のベルトと色違いか?」

「え?」

 

 臍の下を見れば、僕はそのダサいベルトの青色を腰に巻いていた。唖然としていると、衛宮は勇んでベルトを巻き、面白い事をしていた。

 

「そうではない。1号は左腕を腰に構え、右腕を身体の前で旋回し、腰に来る段で左腕を延ばすのだ。2号は両腕を左45度に伸ばし、旋回させながらファイティングポーズのように握り込む」

「詳しいな、アーチャー?」

「フン……自慢にもならん。正義の味方を標榜するなら当然の知識だ」

 

 コイツが英霊になってしまった理由が何となくわかってしまった。僕と遠坂は似たような微妙な顔になっていた。なのに衛宮の親父さんは、V3の変身ポーズを取っていた。

 

『男の子の父親って大変だな……』

「キリツグ! 何それ!? 面白~~い!」

 

 遠坂の親父さんの呟きは、無邪気な娘の声に掻き消された。

 

「壊れてるのか? 全然変身できないぞ?」

「ケースを良く見て。カードも入っているでしょう? そのカードをバックルに差し込んで下さい。ポーズも何も要りませんから」

「あ」

 

 そうして衛宮はレッドになった。僕がブルーだから……。

 

「これ、五つセット?」

「……の、予定です。まだ完成していません」

「そうか……」

 

 エルヴァはアメージングとか何とか言っていた。そして妙にベルトを羨ましげに見ていた。試しにバックルの裏にあったボタンを押せば、カードが排出され変身(ジジイは転身と言っていた)が解けた。再度カードをセットすると、またスーツとヘルメットの姿になった。これは良い。

 衛宮も変身していると疲労が抜けてチカラが漲ると言っている。それをアーデルハイドがエルヴァに翻訳していた。

 

「衛宮さん。そこの樹を殴って下さい」

「樹を……?」

 

 そうして衛宮は、皆んなから離れたところにある樹の幹を殴った。すると20cmはありそうな樹がボキリと折れた。僕の方に倒れてきたんで腕で払ったら、林の中へ飛んで行った。う~ん……ここまでパワーがあったのか……。

 

『この礼装があるだけで、筋力と骨格強化を伴う高度な身体強化が? それにどこから魔力を……?』

「時臣。この礼装はな、このホシの自転で湧き上がり渦巻く異世界の狭間より魔力を得て動けるのよ。このホシが存在し回り続ける限り、このホシの上では無限の魔力を得られるんじゃよ」

『何と……地脈や霊脈に関係なく?』

「そうじゃ。魔術基盤に於ける信仰のデッドスポットすら克服したスーツなんじゃよ」

『あ、あの子は天才ですか……?』

「うむ。とは言え、理論はアインツベルン本家に昔からあったらしいがの。おまけにエルマは火・風・土の三重属性でしかない。拠って才そのものは、五重属性を持つ主(ぬし)の娘の方が上じゃろうな。しかし主の懸念通り、その才を活かすのもまた才じゃ。時臣、娘に師を付けよ。残された時間は短いが、心当たりはあるじゃろう? それしかあるまいよ」

『た、確かに……』

 

 衛宮がその話を聞いて、マスク部分をパカリと開けて僕に訊ねてきた。

 

「慎二、遠坂って凄い魔術師なんだろ? 時計塔ってとこに行くって……?」

「その時計塔も、今回の子供の事件に絡む可能性があるんだ。その懸念があるのと、遠坂って万遍なく優秀じゃん。それはそれで大したものだけど、そういう風になまじ才能が高いから、潰しが効かない部分があるんじゃないかな? どんな事でもそうだけど、現場で役立つアイデアを持っているかどうかだからね。魔術師は一種の学者だって割り切れるなら良いけど、臨機応変さを求めるなら良い師匠に付くというのは間違いじゃないよ」

「ああ……。『機に臨み変に応ず』だな」

「そうそう、それだよ。すべてに優秀って、裏返せば得意がない、尖った部分がないって意味だからね。そうだなぁ……衛宮ならこう例えるともっとわかるかな? 遠坂はホームセンターなんかでは取り扱われない、高級工具ブランドの工具箱付き25点セットなんだ。だけど自転車やバイク用と思うと、無駄に大きく使い勝手も悪い。特にハンドル周りの工具がないのは致命的だ。それをそういう専用工具も揃えた、作業台付き100点セットや200点セットにするためにはって話さ」

「なんだか、遠坂が気の毒になるような例えだな? わかりやすかったけど」

 

 僕達が話しているのは皆んなと少し離れた場所だ。だから遠坂にこの話は聞かれていない。だけど衛宮に説明した事で、僕も遠坂の親父さんが懸念している事の深刻さが理解できた。贅沢な悩みとも言えるけど、総合的に秀でた遠坂を導ける人が……まずと言うか、絶対に居ないって可能性が高いんだ。第四次の頃の遠坂は、早生まれだから6~7歳だったろう。父親としても死ぬ積もりは無かったろうけど、万一の事は考えて手を打っていたと思う。それでもこうして悩むのは、父親の自分が教えられる範囲を、子供の頃の遠坂が既に越えていたからなんじゃ? そういう気がするなぁ。

 以前の僕は容姿だけで遠坂に惚れていたけど、ここまで事情を知った今は、例えOKが貰えてもお付き合いを遠慮したい。そう考えてしまう程、色んな面で面倒くさそうな子だ。ああ……桜って控え目でいい子だよな。

 

「衛宮、桜を頼む」

「し、慎二、突然何だよそれ!?」

「だからぁ……毎食フルコースのフレンチやイタリアンと、副菜の小鉢が2つは付いて、ほっこりする味噌汁もある定食とどっちが良いんだって話さ。しかも衛宮次第で味噌汁は豚汁や粕汁、しじみ汁に変更可能だ。ちなみに今の僕は、『かやくご飯(炊き込みご飯の一種/五目飯)』と『ハイカラうどん(揚げ玉の載った、関東で言うタヌキうどん)』のセットだ」

「なんてわかりやすい例えなんだ……」

「な? だから凛コースでなく桜定食がお薦めだぞ? それにその小鉢は僕やジジイじゃないから。安心しろ、な?」

 

 ハハ、迷ってやがる。だけど僕はその自分で吐いた言葉が、どういう心理から出た言葉なのかよく理解していた。基本は桜定食なのに、メインのおかずを僕好みにアレンジしてくれるエルマ……中でも『一』だ。僕は彼女に惚れていた。だけどこれが終わればお別れなんだ。この先、あんな子に出逢うチャンスなんて無いだろう。それがとても辛く悲しかった。

 

『エルマ殿』

 

 再びどこかから声が届いた。

 

『内部の確認が完了しました』

「目と映像の前に、皆さんにわかるよう口頭でも伝えて下さい」

『はっ。エレーベーター下の階は二層。上階奥は監視室と拐った者達の房が並び、手前はあちらの手の者達の個室や食堂があります。下階は手術室や拷問部屋などで、この階に廃棄物を運ぶ専用トラックが通るトンネルがありました。方角からしますと地図上は冬木でなく、隣の市の港に通じていると思われます』

「人数の内訳は?」

『上階、健常な10代の女、77人。内、外傷を負った者11人。屈強な監視3人。その他武装した者14人。以上17人は交代だと思われます。またここに6人の魔術師も含まれます。下階、息のある者8人。運び出される前の遺体……主に嬰児で50数体……。なお上階の健常な女には妊娠中の者が23人居ます』

「という事は、分娩室や保育器も?」

『はい、ありました』

 

 最悪だ。赤ちゃん工場じゃないか……。そして港からも搬入していたろうし、遺棄するための搬出も行っていたって事になる。

 

「もう、我慢ならねぇ! 止めるなよ、エルマ?」

「はい。好きなだけ暴れて下さい」

「行くぜ、アーチャー!」

 

 それで男のランサーがアーチャーに声を掛け、霊体化して小屋に入った。

 

『僕も……』

「俺も!」

 

 だからコイツは……。

 

「待て、衛宮。僕達が第二陣。遠坂やエルヴァが第三陣だ。魔術師が含まれている事を考慮しないと」

 

 これ以外にも僕の頭には嫌な考えが浮かんでいた。それは遺体の廃棄方法だ。

 

「お祖父様。まさか氷室市長も?」

「あの堅物にそれはなかろう。こんな地方都市の自治体なぞ、買収せんでも誤魔化しようはある。むしろ目を付けるなら、新都の再開発地区が聖堂教会側、こちらは魔術協会側が主導と見るべきであろうな。そしておそらくじゃが、この十数年秘密裏にこの悪事は動いておったのよ。子供も国内の誘拐だけでなく、密輸も多数あったろう」

「では、これまでの廃棄された遺体はどうしたと思います?」

 

 燃やすと臭いや煙が問題だ。だけど埋めるとなれば? 冬木の隣の市も山が多いし、採石場もある。

 

「それこそ再開発地区のビルの下などがあるじゃろうな。他の手もあると思うが……」

 

 やっぱりか……。ここは工場兼死体遺棄の中継基地でもあったんだ。沸々と怒りが込み上げる。エルマの指示で僕と衛宮が小屋の扉をぶち破った。

 

「きっとこのスーツなら弾き返すと思うけど、マシンガンなどもあると思う。覚悟は良いか、衛宮?」

「ああ、行こう。慎二」

 

 それで僕達は小屋の中の隠し階段を降りた。この隠された扉は、遠坂の親父さんか衛宮の親父さんがそのままにしてくれていたんだろう。僕達はその先にあったエレベーターのボタンを押した。

 

 

 

 幽霊になってもランサーやアーチャーの脚には付いて行けない。と言うか、エレベーターの扉をすり抜けると、2人は何百メートルあるのかわからない穴に迷いなく飛び込んだんだ。眼下では途中にあったエレベーターの箱まですり抜けていた。一刻も早く下に……その思いがそうさせるのだろう。僕と遠坂が下の階に着いた時には、銃撃の音が反響し、悪党の断末魔が木霊していた。

 

「ランサー、殺しはご法度じゃないのか?」

「アサシンと違って、オレだけは自分の判断で殺せる。それがエルマとの契約なんだ」

 

『固有時制御・二重加速(タイムアルター・ダブルアクセル)』で漸く追いついた、その先で聞いた2人の会話。申し訳なかったが、時臣はもっと後ろだ。ここは休憩室か何かだろう。10人近い武装した男達が全員死んでいた。

 

「次は看守だ。行くぜ」

「わかった」

 

 彼らが走った後に時臣と、面白い格好の士郎と慎二君が現れた。

 

『これは……』

『ランサーとアーチャーだ。主立った者は斃せていると思うけど、どこかに隠れている可能性もある。気を抜くな』

『うむ』

「「はい」」

 

 僕はそこである考えが浮かんだ。この階の奥は雑居房だと思う。看守人員ならあの2人が瞬時に斃す。なら、必要なのは監禁されていた者達を運び出す人員だ。と同時に、この奥に長い作りは嫌な気配がする。言ってみれば奥に餌のある罠にも感じるんだ。だから僕はランサーとアーチャーのアシストは士郎と慎二君に任せ、時臣と2人でエレベーターを警護した。

 

『下に応援要員が?』

『ああ。外部に通じているのはアサシンの報告だと下の階だろう? このエレべーターを爆破でもされたら堪らない』

『こういう時の君は冴えるね?』

『僕は聖杯戦争に参加する前、こういう事ばかりしていたからね』

『だから息子がグレるんだよ』

『キツいぞ、遠坂。だけど、人殺しが子供を育てるべきじゃなかった……』

『そこまでは言わないよ』

 

 先日からこうして、僕と時臣は気楽に話し合える仲になっていた。鼻持ちならない貴族っぽさが、実は演技の部分も多分にあって、素の時臣は気さくなとても話しやすいタイプだった。だから時計塔時代のコネが様々あったのかと納得だった。

 

『何より、娘さん2人はとても良い子じゃないか?』

『過ぎた子だよ。特に僕の知らなかったハイディは。学生なのにこんな活動をしていたなんて……』

 

 奥からキャスター付きの寝台が慎二君と士郎の手で運ばれてきた。

 

「親父! エレベーターのボタンを!」

『わかった』

 

 寝台には怪我を負った者が寝ていて、その周囲には座れるだけの子供を座らせていた。以前のイリヤくらいの少女なのに、お腹が大きい子も居た。父として人として頭に血がのぼる。

 エレベーターの中に運び込まれる寝台……。

 

『上の階段は?』

「ランサーがここのアサシンが引いたと言っていたので、きっとエルマがアサシンやセイバーを待機させていますよ」

 

 慎二君がそう言った矢先に、エレベーターの中でアサシン数人が実体化した。こうなると奥から続々来る寝台もアサシンなのだろう。

 

『アーチャーとランサーは?』

「霊体化して下の階だよ。爆破されちゃ堪らないし、増援が来るかも知れないからって」

 

 ああ、『士郎』か……流石だな。

 

 慎二君と士郎が最後だと言った寝台を、僕と時臣は2人に任せ、見落としはないか奥を点検した。何もないのを確認してから霊体化し、下の階へ出た。もうこの段で、僕と時臣はエルマ君の采配に舌を巻いていた。こうなる事を推測しての手配だったのだ。そこは壁が乾いた血でどす黒くなっていて、子供の足や腕に頭が転がっていた。拷問部屋だった。

 通路に出て隣の部屋を覗けば巨大な冷凍室があり、中には嬰児の死体が山ほどあった。通路の奥で戦闘が起きているように感じた。

 

 時臣は冷凍庫の中を魔術で燃やし始めていた。

 

『おい、酸素?』

『我が炎は魔術だよ。せめて燃やして送ってあげないと』

『……そうだな』

 

 青白く揺らめく炎が凍った嬰児を溶かし燃やした。煙も出ず、スプリンクラーも反応しない。ただただ対象だけを燃やし尽くす魔術の炎。これが遠坂時臣の真の実力だった。僕もそこらに転がった手足や頭を持ち上げ、その青白い炎へ投げ入れた。それらが終わる頃、測ったように慎二君と士郎が現れた。

 

 4人で少し奥へ行くと、アーチャーとランサーが戻って来ていた。見知らぬ男も1人居る。

 

『誰だ?』

「ああ、キャスターのアサシンだ。先に入っていて、通路の奥に居た奴らを斃していてくれた。そこの天井はオレがぶっ壊したんでもう通れん。ここは終わりだ。出よう」

 

 そうして僕達は小屋に戻り外に出た。何台ものバンが子供達を運び出している。それを手伝うセイバーとハイディ。イリヤもバーサーカーを出して手伝わせていた。

 バンを見送ると僕達はエルマの魔術で大聖杯の前まで戻った。

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