※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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22、本当に? In Huntington Beach 03

「エルヴァ、ダーウィンの進化論が怪しいという意味がわかりますか?」

 

『エル』からだ。いきなり来たなぁ。

 なお彼女達は、ここに来てから日本語を一切使っていない。かと言って英語でもなく、スイス・ドイツ語で話していた。それは私のためでなく、どうやらアオレアールのためらしかった。そのアオレアールが片目を瞑って教えてくれたのだ。香港では広東語が使われているとされるけれど、それは自称で、実際は広州の一部の人が使う方言の広東語とは違うらしい。だから広東語というより香港語という方が正確なのだそうだけど、慣例として広東語と呼ぶそうだ。アオレアールはその香港の公用語である広東語と英語はペラペラなのだけれど、ここ2年北京語を学びつつ使っていたので、スイス・ドイツ語が少し危うくなっていた(本人がそう思い込んでいる)らしい。そこを『エル』が気を遣っていた訳だ。

 また『エル』から『YZF600R』と『SR500』の話も聞けた。『懐かしい』と私が思ったのは勘違いだった。

 

『アルトリア姉さんが乗っていたのは、『YZF1000R(ThunderAce)』ですよ。それもごく短期間でした。SSは『CBR900RR(SC28)』『YZF-R1(4XV)』『GSX-R1000(K1)』『CBR1000RR(SC57)』と出た順に買って、今は『MV Agusta F4J SPECIAL』と随分多いですが』

 

 これらと並行して『ZZ-R1100』や『CBR1100XX』のようなツアラーなんかも持っていたので凄まじいバイク好きだ。だけど、どうして『YZF1000R(ThunderAce)』と『YZF600R(ThunderCat)』を混同したのだろう?

 

『ああ、あの『YZF600R』は私が新車で買ったものです。足も届かないのに一目惚れして』

 

 その頃は小学生だよね!? まさかこの『SR500』も?

 

『いえ。ご存知の通り、日本国内で手に入る『SR400』と『SR500(1999年に絶版)』の限定モノや、『XJR400R』の気になる色は初等部時代から集めていましたよ? けれど高等部時代は『SR400(カフェレーサー仕様)』『SRV250(ノーマル。何故か彼女は惚れきっている)』『TW225(私も好き)』と『SEROW225(森へはこれで。館に行くなら最高のバイクだと思う)』がメインで、たまに『R1-Z(キャブを入れ替えてあり、かなりピーキー)』や『XJR400R(ツーリング用。ハンドル周りが換えてある)』に乗る程度でした。『YZF600R』は限定解除後に初めて火を入れたのですから』

 

 ずっと凍結して保管していたらしい。解除後に大型をすぐ手に入れたと思っていたら。この他にも、クルマやバイクをかなり凍結してあるようだ。

 

『それはアメリカの免許取得で叶えられる事でしょう? ですから日本で大型を取る前から、アメリカでは『883 Sportster』と、あの『SR500』に乗っていました。よく見て下さい、ウインドウの外を。ノーマルっぽくしてあっても、シートのアンコがかなり削ってあるところは同じでしょう? あれは中古で買って宝具で日本に持ち帰り、コツコツと中等部時代から仕上げた、あなたも知っているココアで乗っていたものですよ。今回は外見をスタンダードなオリジナル風にしていますが、エンジンはボアアップしてあって650ccです』

 

 ああ……あちらのフロリダで乗っていた、あの古い『SR500』だったのか。全然違うじゃないか。多分タンクとサイドカバーは最初期型(2J3)と同じ色に塗り替えてあり、ラインも同じだと思う。シートも最初期型と同じで後ろの差し色の部分がない。だけど張り替えてあって、座面がやや薄い茶色で、切り替えしたサイド部分は焦げ茶色だった。身体の小ささに合わせてシートのアンコはかなり抜いてある。

 マフラーは最近の新品だろうか。フレームはマットブラックに塗り替えてあり、オリジナルではバフ仕上げだったエンジンのカバー類が、こちらは全部ピンクゴールドメッキになっている。シリンダーはフィンの内部が耐熱だろうマットな黒塗装だけど、フィンの端っこはバフでシルバーに輝いている。チェーンケースもフェンダーもピンクゴールド。だけど前後のサスはオレンジゴールドのメッキだ。しかもスプリングは青い塗装なので、どこかのブランドのモノに交換されているっぽい。メーター類も新品に交換されたのか、カバーがピカピカなピンクゴールドだった。ハンドルはコンチハンかな? 少しアップしているので一文字じゃない。そしてそれはマフラーやタンデムバーと同じくシルバーメッキのままだった。

 シルエットはノーマルデザインなのに、細かいところが目新しくカッコいい。空冷なのにボアアップしてあって、それなのにオイルクーラーを着けたりもしていない。魔術を使って冷やすんだろうなぁ。彼女はこんなのを宝具で持って来た。決して見せびらかすためじゃなく、そうでもしないと乗る時間が取れないからだとすぐにわかってしまった。だけど650の単気筒をキックだけって……。

 それとゲートの正体も教えられた。答えは『ラインの黄金』の変則使用だった。1度目の移動は凜か先生の魔法が必要だけど、あちらとこちらに宝具の出入り口を作ると、後は並行世界間の移動が彼女でもできてしまうらしい。ズルすぎないか、それ? 魔法使い涙目だよ。ともあれ彼女は今回冬木の円蔵山を使わず、カリフォルニアのマリブにあるという別荘(知らなかった!)から、前回こっちで作ったという出入り口(場所は秘密らしい)を通って世界を渡り、そこでアオレアールと合流し、バイクでこのハンティントン・ビーチまで走ってきたそうだ。アオレアールのツナギにグローブやメットも『エル』の用意したもので、『YZF600R』ごと彼女にプレゼントしたという。

 

『イイなぁ~』

『結婚祝いに包丁のセットを贈ったでしょう? それにそれなりのキャッシュも。倫敦の彼女もいる訳ですから、そこまで依怙贔屓できません。『TW200』なら北米でも手に入るでしょう? 自分で買って下さい』

 

 まったくもってその通り。元々、私はそこまでバイクに興味がない。なのでちょこっと走れる『TW』か『バンバン』があれば十分だった。ただ、アメリカで売られている『TW』は『225』でなく旧型の『200』だ。それも前後ドラム・ブレーキで角型ヘッド・ライトの初期型そのままだった。それはこのバイクのエンジンが持つ数字に現れにくい低速域のトルクや、キャブに付いた高度補正機構(高度が高くなると酸素が薄くなり混合気がリッチになってカブる。その空気を多く取り込むための調節ツマミの事)、どんな場所でも走れるビッグなタイヤなどなどがアメリカ人に愛されたからだ。

 日本だとバイクのライトを小さな丸型にして、水色のタンクに換え、白く薄いシートにして、バッテリーを取っ払ったスタイルがTVドラマに出た事でウケて、そこからスイングアームを長くしたりといったダートラ風味のスカスカ・チューンが流行り、冒険バイクとしての色合いが一気に失せた。『エル』はそんな『TW225』のEが付かない初期型(2002年のみ。色はレディッシュイエローカクテル2)をシート以外ほぼノーマルで乗っていた。私というか倫敦のエルヴァが『王様』から贈られたのも『TW225E』で、そちらは2004年のビビッドオレンジメタリック2だけど、それもノーマルのままだった。私も『TW』と『SEROW』はノーマルの方が良いと思う。両車の真価を考えるなら、エアクリーナーを取り払う改造はおかしい。低速低回転のトルクが味であり命なのに、レース用の高回転エンジンみたいに空気のヌケを良くしてどうするの? しかもほとんどの人が自分で燃調を調整できない。単気筒なんだから、せめてそれくらいはしようよと思う。少なからず『エル』は自分で整備をし、燃調を調整している。ボアアップした『SR』のキャブをもっと大きなのに換えて、それも自分で調整している。

 一方、『バンバン200』のエンジンは『ジェベル200』や『SX200R』と基本は同じで、こちらも『TW200』のエンジンと並ぶ名機だった。『パワーはないけど耐久性が高く、女の子をどこにでも連れて行ってくれる』と力説していたのは『姉のイリヤ』だ。『エル』もそれを聞いて、それならと『TW200』を調べ『TW225』に決めたと思う。だというのにあの『姉』が選んだのは『グラストラッカー』だった。どういうこっちゃと思うかも知れないが、どの世界線でも『イリヤ』という人は気まぐれだ。

 とは言え、そっちのエンジンも息の長いエンジン(『GN250E』『ボルティー』『マローダ250』と来て『グラストラッカー』『ST250』)で名機には違いない。だからそう来るのかと驚いた覚えがある。きっとプラス50の差が、彼女の中では大きかったのだろう。

 ところで『エル』が乗ってきた『SR500』は、さっきも言ったように排気量を上げた分キャブが大きくなっている。そのせいでかなりの曲者(クセモノ)らしい。聞けばバイク慣れした人でも、一発でエンジンが掛けられないという(当然だ。しかもセル無しのキック始動のみだ)。また更によく聞けば、『YZF600R』はダブついたからプレゼントしたのだとわかった。

 ダブつくって何だと思うが、まず前提として欧州も北米も日本の免許制度や保険制度とは異なる。なので中間排気量でも気にせず、実用性が高く、タンデムの人も安心して乗れるバイクは初心者からベテランにまで愛されるのだ。例えばネイキッドなら『GS500』や『NT650』、フルカウルなら『CBR600F4』に『YZF600R』、『Ninja 500R』、ハーフなら『FZS600 Fazer』や『SV650S』などだ。

『エル』はその中でもフルカウルの『YZF600R』と『CBR600F4i』を軽快な『ツアラー』兼『並行世界に於ける聖杯戦争時の足』として高く評価していたらしい。この2車の何れかに2スト・オフロードを足せば、まず困らないという。そこはわかる。アインツベルンの森は歩くには遠いからね。

 

『姉さん(イリヤ)の手前、ツーリング用に『XJR400R』を買いましたが、『ZZR250』で必要十分でした』

 

 姉さんが『Inazuma(400)』だったので、ネイキッドの『XJR400R』で合わせたのは確かだ。その記憶は私にもある。だけど『ZZR250』はどうなのかなぁ? 周囲が大型だと置いていかれるし、エンジンへの負荷も大きい。単独ツーリングでないと厳しいと思う。だからこその『XJR400R』だった。とは言え『ZZR250』は、この北米でも『Ninja 250R』という名で売られていて、若い女性ライダーがよく乗っている。決して悪いバイクではないと思うが……。ああ、荷物を全部宝具に収めて、身軽に単独で走る積もりだったのかな?

 

『あなたは、SSには乗らないのですか?』

『いえ、持っていますよ。サーキットの走行会用で、『YZF-R6』の『5MT(2001)』と『2C0(2006)』、それと『CBR600RR(PC37/2004)』の3台です』

 

 走行会と来た。それも600ccばかり。ピンと来るものがあったので訊ねてみた。

 

『イリヤ姉さんも?』

『そうです。相変わらずのスズ菌で、あちらは『GSX-R1000(K5)』と『GSX-R750(K4)』ですね』

 

 アルトリア姉さんから譲られた『GSX-R1000(K1)』も手放さずに乗っているという。お母様の血だなぁ。ルオン・ママ(この人もスズ菌で特にオイル臭い(油冷マニアの意味))の影響も当然ある。そのルオン・ママから『SV400S』を2人で乗ってと贈られていた筈だ。

 

『『SV400S』は?』

『それも今となっては姉さん専用です。高等部時代のオフ車やストリートも全部凍結して、オンロードばかりです。クルマの免許を取っても、クルマにはほとんど乗らないですね。あの人は私以上のバイク好きですよ』

 

 何を言って……。どう聞いてもあなたの方が持っている台数が多いじゃないか。身体が一つに限らない人はやる事が違う。とまぁ、そんな彼女の考えがわかったからと言って、スポーツバイクにサーフボードは載せられない。やっぱりアメリカではバイクよりもピックアップ・トラックだと思った。

 このハンティントン・ビーチはセダンやSUVも走っているけど、ピックアップは多い。特によく見掛けるのはフォードのレンジャー(マツダ・Bシリーズ)だ。初心者向けというか学生向けというか、同じフォードのFシリーズよりコンパクトだからと、こんな厳ついトラックがデートカーとして売れているのがアメリカだ。パミちゃんですら免許を取ったら、黄色いレンジャーのスーパーキャブ(2ドアだけど、後ろが少し広いのでほんの少しリクライニングができる)に乗りたいと言っている。

 私の赤いダコタもフルサイズのラムの下だから、ミドルやコンパクトと言われるサイズだけど、こっちは4ドアのクルーキャブ(日本的に言うとダブルキャブ)で、しかも他社と違いV8(他社はV6までの設定しかない)だ。それを私は便利で可愛いと思っている。燃費も二酸化炭素排出量もあまり気にならない。アメリカに住むと誰だってこうなる。それくらい道が広く、買い物は多く、街と街が離れているのだ。

 

 さて、もとの話に戻ろう。

 

「進化論が怪しいのは、ミッシングリンクが埋められないからですか?」

 

 憶測で『エル』の質問に返事をした。

 

「違います。進化論そのものが間違っていたという話ですよ」

 

 あ。SFに良くある人工進化論だ。異星か異世界の『知性ある者』が、お猿さんのDNAを人工的に改造して霊長類に据えたというアレ。この『知性ある者』が所謂神話に於ける『神』となり、ローカルな宗教が生まれる。だけど私達魔術師の間では、そういう存在は人類史に介入して強制進化させた『者』であって『神』ではない。強いて私達が『神』と認める存在があるなら、それはアカシックレコードを作り、その記録を自由に読める存在、即ちこの世界のシステムを創った者だけだ。『魔法使い』とは、その神が綴った本を盗み見た者を指す。だから立ち読みするなと抑止がハタキでパタパタしに来るのだ。

 

「あ。抑止のシステムを押さえたから『彼女』は……?」

「まぁ、魔法に至っているかも知れませんね。この世界を閉じる方法とかも、それを匂わせます。ですが重要なのはそこではありません。『彼女』が欲したのはまさに『抑止そのもの』でした」

 

 どういう? でも世界のシステムを奪ったのだから、『エル』が以前指摘した、『彼女こそが新たなる神』というのも納得できる話ではある。だけど私の個人的な感想というか感触だけど、『彼女』は『神』になりたかった訳ではないと思う。どこまでもパミちゃんを護りたかっただけで。

 

「ですがそれは私利私欲でなく、パミちゃんを護るためですよね?」

「それだけですと十分私利私欲ですが、『彼女』はあの子を取り巻く世界ごと護るつもりだったのです」

 

 それはわからなくもないけれど、『エル』は何を……?

 

「あなた、もしかして……。おとめ座銀河団の彼方からやって来た異星人が太古の火星にでも入植し、その子孫が地球開拓を始め、現地労働力確保のため、お猿さんを人工進化させたとでも考えている?」

「え? それはこれだけの銀河なのですから、どこかの腕で知的生命が発生している可能性はあると思いますよ? ですけど、現地で出会った生物を人工進化させるほどの知性は、銀河内宇宙航行でなく銀河間宇宙航行を達成するだけの科学力が必要ではありませんか? そういう人達の残した工具などが『王の財宝』の一部でしょう?」

 

 アオレアールがプッと笑った。

 

「あなた、ハードSFの読み過ぎです」

「いや、微妙に合っているから面白い。何より知性ある者は善であるという発想が素晴らしいです」

 

『エル』からは呆れられ、アオレアールからは褒められた。

 

「いえ、だって、賢いのに悪意のある者なんて居ますか? 単なる星間旅行じゃ無いですよ? 狭い中で何世代にも渡る交代が必要な銀河間旅行ですよ? コールドスリープにもワープにも限界があるでしょうし。何より重要なのは移民希望者が、そのスピリッツを継承できる文化遺産を船内で保持し続ける精神性を構築できているかどうかです。そうとなればそこには絶対に『愛』が欠かせない筈です」

 

 宇宙の移民船団で重要なのは、そういう人らしい愛ある営みを伝えられるかどうかなのだ。

 

「あかん。こいつ、マクロスで止まってる。音楽素養を上げ過ぎて、脳がボンバーしてます」

「酷い言いざまだ……ここで『愛』と言えるから彼女は素晴らしいんでしょう?」

 

 今度は『エル』から更に呆れられ、アオレアールからは同情された。

 

「あのですね? 私達は口からものを食べ、その栄養素を内蔵で搾り取り、お尻から残り滓を『ンコ』にして出す訳ですよ」

 

 何を言い出すんだこの女。胎教に悪いだろうが。アオレアールも呆れ、おもむろにツナギのジッパーを下ろし、袖から腕を抜いた。話が長くなるぞという気構えと、気分転換なのだろう。その袖を腰に巻き、冷えた飲み物はないかと尋ねてきた。なので事務所にある冷蔵庫からペットボトルを取ってこようとしたら、彼女が冷蔵庫に気づき(扉がないので見えていた)私を制して取りに行った。

 

「あなたも20歳でしょう? 成人なのですから、もう少し言葉を選びましょうよ」

 

 私がそう言うと『エル』は一瞬上を向いて『失礼』と言い、言葉を続けた。アオレアールは冷蔵庫の前にしゃがんで、何を飲もうかと吟味していた。私はミネラルウォーターか豆乳(アメリカにもある)、或いはアーモンドミルクが多いけれど、一応お客様向けに冷蔵庫の中には色々入れてあった。そして彼女はドクターペッパーを持ってきた。ルートビアと並んで好きな人は好きだからね。

 

「言いたいのは生態の違いですよ。お尻からものを食べるとは言いませんが、他の生物の感情や精神をエナジーとして摂取し、自らの活動源にする種族などがいる訳ですよ」

「それは?」

「そうですねぇ。わかりやすく言えば『天使』と『悪魔』などですか」

「へ?」

 

 思わず間抜けな声が出た。

 

「魔術師の指す概念的なそれでなく、私達とは異なる次元にシフトした、太古の生物の事です。もっとわかりやすく言えば有翼の、異世界から来た巨人族です。彼らは食事を取らず、『天使』とされる者は『正の感情』からエナジーを取り込み、『悪魔』とされる者は『負の感情』からエナジーを取り込めました」

 

 ああ、そういう……。

 

「この『天使』や『悪魔』という固有名詞に意味はありません。が、彼らこそが後世『アヌンナキ』とされる、私達人類を人工進化させた者でもあったのです。それで地球や火星に入植した彼らは、各地で人工進化を試みた。理由は労働力(奴隷)の確保と精神エナジー(餌)の確保です。そして彼らはある日、子孫か部下……『エンキ』や『エンリル』などをこの地に残して自分達の世界に帰りました。これはこの方面での『精神エナジー牧場』が完成したからです。ポータルか何かで母星へエナジーだけ送っていたのでしょうね。それで、その無翼の巨人『エンキ』が治めていた地が『アトランティス』でした」

 

 は?

 

「一晩で沈んだという、あの幻の大陸?」

「ええ。ですがそれは進化させた人類を飼う海洋プラントの一つが、事故で沈んだだけです。そりゃ、お猿さんに毛が生えた程度でしかない当時の人(奴隷)だと、それが人工島であっても大陸が沈んだようにしか思えないでしょう」

 

 なんだそれ……。私の驚きをよそに『エル』は続けた。

 

「『アトランティス』はその巨大な人工島の名であると同時に、その人工島で行われていた『精神エナジー搾取システム』の名でもあったのです。ですが『エンリル』は、この『エンキ』の『精神エナジー搾取システム』が、あまり効率が良くない方法だと考えていました。そこで何人かの人々を、太平洋にあった予備の人工島に移動させました。そこが『ムー』です。ここで花開いた新たなシステムが『レムリア』な訳です」

 

 レムリアって大陸の名じゃ……?

 

「しかしある日、並行世界でなく、平行世界に存在する異世界の宇宙から、餌場を求めて新たな種族がやって来ました。それが『レプティリアン(爬虫類型知的生命体)』でした。こいつらも精神のエナジーを栄養素とする種族で、しかも狡猾で暗示やマインドコントロールが得意でした。彼らは『アヌンナキ』とよく混同されますが、全然違います。『アヌンナキ』も『エンキ』や『エンリル』も、人類の進化は喜んでいたのです。『正』であれ『負』であれ、大きく強い感情を持つにはそれなりの知性が必要でしたから。だから『エンリル』は新しい試みとして『ムー』の者達に『知恵』を与えたのです。『エデンの園』とは『ムー』の事です。また『知恵』を与えた理由は、馬鹿なままだと『アトランティス』のように事故を起こすからです。つまり『アトランティス型精神エナジー搾取システム』の改革こそが『ムー島で行われたレムリア型精神エナジー搾取システム』だったのです」

 

 ち、地球は牧場だった……?

 

「それにこの知性の人工進化には『アヌンナキ』による『保険』がありました。それが人類に対する第六感以上の封印です。ちなみに第六感が直感力、第七感が感応力、第八感が創造力とされていますね。第九感は宇宙そのものを指すので『アヌンナキ』も持っていません」

「ちょっと待って下さい! 人間って、そいつらの家畜だったんですか?!」

「その言葉から直しましょうか」

 

 そう言って『エル』は日本語に切り替えた。

 

「日本語で個人を指すなら『人』ですが、種全体を指す場合は『人類』です。『人間』は、『人』と『人』の間に立つ者。つまり『王様』のような立場の人に使う言葉で、本来間違った用法なんですよ?」

 

 知らんわ、と言いたいところだけど、『王』という言葉が『監督者』という意味だってわかってしまった。言語が再び英語に戻った。『王様』も『アルさん』も『神の血を引く』。ああ……。

 

「そして後から来た『レプティリアン(爬虫類型知的生命体)』は、『エンキ』の方法を高く評価しました。そうして『エンキ』を騙して殺し、『エンリル』から残った『ムー』を奪い取り、『アトランティス』の生き残り共々、『人類』という家畜を自分達のものにしました。その最初の実験牧場が『シュメール』の『ウバイド』などだったとされています」

 

 ウバイドはメソポタミア前期の南北統一王朝だ。ここから南が独立してウルクとなった。ウバイド成立が紀元前5千年前くらいで、ウルク独立が紀元前4千年前くらいだったと思う。

 

「わかります? 人工島だから曳航して人々を移住できたんですよ。ですが割合自由だった『ムー』の者にまで『アトランティス型の飼育』を行った。この時の管理者の子孫と言うか思想を引き継いだ者達が……」

「……あちら側?」

 

 アオレアールが私の問い掛けに頷いた。

 

「エジプトやマヤのピラミッドは『レプティリアン』が、残っていた無翼の巨人族やその末裔を使って建てさせた、有翼巨人族が戻ってこないかどうかを探る観測所だったようですね」

 

 そんな……なんて酷い。この話だと『神』も『悪魔』も搾取する側で、後から来た『レプティリアン』は牧場乗っ取りだ……。

 

「牧場、牧場と。あなたは甘い。『エンキ』も『エンリル』も人工島とは言っても開放鶏舎でした。だからそう思うのかもしれませんが、『レプティリアン』が行う方法はウィンドレス鶏舎そのものですよ。メディアを押さえた情報統制とはそういう事です。西鶏舎が資本主義だとか東鶏舎が共産主義だとかどうでもいいのです。日々卵を産むかどうかの方が重要なのですから」

 

 もっと酷かった。『エル』達はそこから長い搾取の歴史と、こんな惨めな人類を憐れんで味方をしてくれたのにも関わらず、『レプティリアン』どもに逆に滅ぼされてしまった異世界人や異星人の話をしてくれた。『グレイ』というETは完全に滅ぼされ、今いるのは全部『レプティリアン』が奴隷として再生したクローンだという。『トールグレイ』という『レプティリアン』なみに精神感応力の強い種も居るが、その分他者への共感度が低く、人類でも『グレイ』でも気に食わなければすぐに殺すという。円盤に拉致したり、牛を大量に殺したりしていたのもこの種族らしい。

『ドラコニアン』は『水棲龍人』とも言い、日本風に言うと龍神の一族となり、大昔から人類の味方だった。だから西欧の『ドラゴン(レプティリアンの暗喩)』は悪しき存在と描かれ、東洋の『龍』は神々しく描かれるのだという。また『巨人族』も『レプティリアン』に洗脳され遺伝子改造を受け、人類の敵となってしまった者や、『レプティリアン』から逃亡し人類とともに暮らしていた人達も居たという。その最後の巨人族(ネフィリム/堕ちて来た者という意味)が残した街がロシアのサンクトペテルブルク(レニングラード)やヴォルゴグラード(スターリングラード)だったという。だから両都市には、今もアトランティス風の建造物とムー風の建造物が並び建ち、地球の自転から電力を得る(フリーエネルギー)集電所の建物が残っていた。その集電所がロシア正教の教会だそうだ。またエルミタージュ美術館などは巨人達が建てた宮殿だったという。この後、二度に渡る天変地異(気象兵器。洪水だったと言われる)があって、巨人族は更に奥地(タルタリア)に逃げ、ついには居なくなった。

 また当時(17世紀~18世紀)から大英帝国は『レプティリアン』の国だった。だからアメリカに逃げた巨人族を追い詰め殲滅するべく戦争を仕掛けた。移民の独立よりも、人類を目覚めさせかねない巨人族の残党が問題だったのだ。だから北米では時折巨人族の骨が発見されたりしている。が、これらはUFOと同じく政府というより軍部によって隠されているそうだ。

 ナポレオンがロシアに進行したのも、ロシアの奥地(タルタリア)に潜んでいた巨人族と手を組むためだったという。ところがナポレオンは『レプティリアン』の反撃で、引き返さざるを得なくなった。一部で核爆弾を使われたためらしい。そうして『レプティリアン』の下僕である『あちら側』が、金融による人類搾取の地盤を固めた。

 この17世紀~18世紀頃、ロシアの東側やモンゴル、満洲、中国の北部(新疆)やチベット、蝦夷(北海道)、アラスカまでがタルタリアという幻の巨大帝国だった。だけどロシア革命以降、それらは滅ぼされ、その存在を記録どころか記憶からも抹消された。それは巨人族が残したフリーエネルギーなどの技術を抹消するためだった。金融システムと化石燃料で搾取したい『あちら側』はそれらを尽く破壊し、歴史から消した。それらはニコラ・テスラが発明したのでなく、彼が偶然再発見したか、密かに残された書物を読んだからで、今の人類の想像を絶する科学力が、ほんの2~3百年前までは巷に溢れていたのだ。

 

 なお余談だが、ナチス・ドイツがソ連に侵攻したのは、その巨人族が残した科学技術を手に入れるためだったという。そしてナチの科学者や軍人は最終局面でベルリンにクローンを残して、アルゼンチンに逃亡した。だからヒトラーは、1980年代まで生きていたといい、南極にその旧ナチの円盤兵器を隠す秘密基地が今もあるのだそうだ。

 

 ともかく江戸時代はそんな世界情勢だった。なので幕府は他国との交渉を表面上の最低限にしていたという。だけど『彼ら』は色々な方法で介入し、老中に食い入ったり、将軍の子を若死にさせたり殺したりしていた。そして開国を促進させるべく『坂本龍馬』などに代表される倒幕派の傀儡を造った。

 現代のアメリカも日本を属国にして搾取している。この執拗なまでの虐めは、所謂南方系日本人(縄文人)が『ムー』の末裔で、北方系日本人(アイヌなど)がタルタリアの生き残り、大陸系渡来人(弥生人)が『アトランティス』の末裔とされるからだ。即ち大陸系渡来人(弥生人)の王朝成立とは、ユダヤの失われた十支族(そちらは縄文人とされる)とは別で、『アトランティス型搾取システム』を継承する者達の日本列島入植と植民地化の完了を指す。そしてそれは、それまであった縄文人の国の滅亡を意味する(大国主/出雲大社)。これが大和朝廷であり、近畿に遷都する前は邪馬台国と中国に書かれていた国であるという。

 

「ですから卑弥呼は女王ではなく『日の巫女』、つまり何代も続いた役職名なのですね。だから金印も何も残っていないのです。ですが朝廷を固める弥生人でなく、歴代の彼女達が縄文人の血を引くのは明白です」

 

 この理由が奮っている。封印された第六感以上の感覚を取り戻す者は、人種に限らず決まって『ムー』の末裔だったからだ。西欧魔術の大家にも、この『ムー』の血を引く者が多いという。しかも『レプティリアン』にも扱えない魔術なんてものが使える。時計塔が倫敦にあるのは、その地下と繋がった異界にアルビオンという、今も呪体が採掘できる宝のような遺産(巨大なドラゴンの化石≒鉱山)があるからだ。アインツベルンのご先祖がどうだったのかは知らないが、お祖父様やアルトゥルお兄様が『エル(私達)』へ至る芽を創ったのは、これが理由だったのかと納得できた私だった。

 また、ルヴィアや凛にロシアでの礼装探索を薦めたのは、エーデルフェルト家の意向もあったという。

 

「あの家も歴史ある旧家です。ロマノフ朝の前からサンクトペテルブルクに会社を持っていました。つまり隠される前の真の歴史を知っていたのです。そこに気付けるかどうかが、本当の課題なのです」

 

 という事だった。それに現大統領も元KGB出身だけあって、こういう事を知っている『目覚めた人』なのだそう。だからお祖父様や『エル』はアメリカでなくロシアを選んだ。それはアメリカが『目覚めていない人ばかりの奴隷国家』だからだ。独立記念日でチャイコフスキーの『1912』を演奏する意味。同時代のマーラーがどうして交響曲に『巨人』や『復活』なんてタイトルを付けたのか。これらも『目覚めなさい』という『善意ある人達』からのメッセージなのだった。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

「あ、はい」

 

 あまりの話なので呆然と固まってしまった。何より考える事が多過ぎる。これらの事がどうして私の知識にないのか? そういう状態なら、このアメリカで暮らすというのはマズいのではないか? 何か対策があるのか? などなどだ。

 

「そこは大丈夫。こちらのお祖父様とお父さんが動いていますし、十分対応できる条件を『現象の彼女』が作ってくれてました」

「それは……?」

「麻薬産地の壊滅と同時期に、『レプティリアン』のような者達を問答無用で英霊を使って壊滅させ、この世界を一時的に閉じていたからですよ。そこに感じ入ったのか、コーバック・アルカトラスを含む何人かの死徒も陰で動いてくれていました。その『千年錠の死徒』に新たな迷宮を造る場所を提供したのはお祖父様のようです。中国とアメリカの腐った奴らは彼女(アオレアール)が抑えましたし、英国を含む各国の腐った要人も完全に抑えました。一時日本で事件があったでしょう? あれもこの作戦の一環です。ですから、もうこの世界は大丈夫です。そもそも『彼女』が早期に異星人や異世界人を追い払ったり絶滅させていたから、あなたとエルのエリア51の霊地確保が可能だったのですよ」

 

 ああ!

 

「とは言え、知識に関しては『ゴメンナサイ』です。あなたは倫敦の彼女より、制限がキツめになっていますから」

「それはどうしてですか?」

「フンボルト君と結ばれるのがわかっていたのと、この世界で次の時代を担うのが、エルヴァちゃんとパミちゃん、そしてあなたのお腹の子だとわかっていたからですよ。その子達の子や孫が、来(きた)る宇宙時代のアインツベルンを率いてくれます。『現象の彼女』もよくぞここを選んだものです」

 

 そして私はエルマが最近渡ったという世界の話を聞かされた。

 

「男の子の私というかあなた!?」

「そうです。ですので暫くあちらを注視したく思います。また世界的にここに近い領域の中に、幾つかここのように『現象の彼女』が手を出した世界があります。全部が全部判明した訳ではありませんが、凜達がそれを調べています。優先順位がわかり次第介入しようと思います。エルヴァ?」

「はい?」

「あなたが剥離した原因の『座の風』……。『彼女』の仕業のような気がしますね? だって倫敦に行った彼女が心配だからと、苦しい思いをさせるのがわかっているのに、どうして私はあなたまで作ったのでしょう?」

 

 ええ~~~っ?

 

「操作されていた?」

「……ような気がします。エルヴァちゃんのためだけならエルだけで良かった。彼女とフンボルト君をくっつけるように仕向けてる手もあった。なのにそれはイケナイ気がして……。『神』には逆らえないって事ですね」

 

 そう言って『エル』は微笑んだ。

 

「いらっしゃいませ~(ウェルカム)」

 

 お客さんが来たので、席を外した。小物を幾つかお買い上げ頂いたが、実際ウチはギターやベースの制作が入らないと余り儲からない。次点は買い取った中古の『修理販売』だけど、こちらは馴染みの中古店の顔もあって大っぴらにはやっていない。なので中古の『修理販売』でなく、オリジナル・ピックアップを付けての『修理改造販売』だ。その分利幅は大きいけれど、そうそう売れるものでもない。ましてオリジナル・ギターは特にだ。

 ロック専門雑誌に当然広告を出しているし、ネットのホームページでもアピールしている。ギター製作は1本3千ドルからで、平均単価は5千ドルくらい。年に13~4本も注文が入れば良い方だ。だから日本円で換算して年間売上は諸々で800万くらいだった。フンボルトは年間20本は作れると言っているので、1千200万、つまり12万ドルは売上を出したいところだ。現状、ドイツにあるフンボルトの口座に振り込まれる『現象の彼女』からの養育費(全部貯金してある)の方が多い訳だし、スイスにある私の口座に、霊脈賃貸料という名目でお祖父様から振り込まれる額の方が多いままだ。しかも生活費の持ち出しは、アコードの窓を割ったあの人からの振り込みだったりする(お気の毒様だけど連絡先がわからない)。

 

 お客さんが帰った後、どうしたものかと考えつつ商談席に戻ったら、アオレアールと『エル』がそれぞれスケッチを広げて待っていた。

 

「何です、それ?」

「ギターの制作依頼ですよ。私の希望はこの通り。希望の木材はありますが、仕様など詳しくは図面に描いています」

 

『エル』のそれは『Les Paul』というより『Zemaitis』だった。基本どれも芯材は自由。それでトップは彫金でなく、杢目を生かして錬金術で銅やステンレスなど異なる金属を融合させて下地模様を出し、その上にイラストにある絵を描く。錬金でこれは……? 『Zemaitis』の彫金やパール・インレイとはまた違うカスタムだ。

 

「そのアイデアは好きに使って下さい。それで私は図案を6枚用意しました。再来年の新年を期限にして6本制作して下さい」

「私はこちらで2本です。期限は来年いっぱいでどうでしょう?」

 

 それで2人して、どこからかアタッシェケースを取り出した。蓋を開いた中は札束がぎっしりだ。

 

「少し待って下さい。私じゃ売値を決められません。夫(フンボルト)を喚びますので」

 

 そうして私は事務所の電話を工房に繋いだ。これこれこうでと軽く事情を説明したら、フンボルトがすぐに来てくれた。

 

「やぁ、『エル』。久しぶりだね? 元気だった?」

「はい、フンボルト。あなたも元気そうで。幸せ太り?」

「太ってない、太ってない。毎日走り込んでいるよ。彼女に嫌われたくないんでね」

 

 アオレアールへの挨拶と自己紹介の後、そこから商談に入った。安くしてあげたいけれど、どうしても『エル』の希望通りだと、1本1万ドル(百万円)からになる。アオレアールの2本は7千ドルと9千ドルだった。2人の8本分は総額だと、見積もりの段階で14万ドル(1500万)だった。手付として1割だけと言ったのに、全額プラスアルファを現金で渡された。レジに入らん!

 

「時間があるなら泊まっていきなよ。積もる話もあるだろうし、僕の方ももう少し詰めたいし、ストックしてある木材も見て欲しいからね」

 

 それならと『Thanksgiving Day』が終わる今週いっぱいまで、2人は泊まっていく事になった。当然お客様が来たという話はモニカさんに知らせた。ミアータさんも明後日には戻るだろうし、リンさんやリサさんも、ボストンからこちらに来るのはその頃だろう。そこへ士郎さんと凛さんが戻った。新築の家に置く家具を見に行っていたのだ。当然アコードを貸していた。早いうちにリサイクル用のクルマを買うと話していたけれど、それはウチのを貸すと言ってあった。当面は無駄遣いしないで、貯めるべきだとフンボルトも私も考えたからである。

 

「ただいま~。あら、お客さん?」

「2年ぶりです。スイスじゃない方の『エル』と、こちらはアオレアールさんです」

「え? ああ、『エル』。お久しぶりね」

 

 そこからアオレアールさんへのご挨拶と紹介が始まって、『エル』も近況と、こちらに来れなかった理由を簡単に説明した。日本とアメリカの議員や職員・官僚、更にメディアが旧共産党(CCP)と繋がっていたという中国現政権の暴露は、全世界を揺るがす社会問題となり、ここアメリカでも辞職や再編がこの2年で急激に進んだ。

 お祖父様やお父さんが裏で動いているのは私も察知していたし、士郎さんも『流石だ』と喜んでいたのだ。むしろこの流れがあったから、士郎さんも自分なりの道を見付けられたとも言えた。それはお父さんだけは士郎さんの師匠として、何度か会いに来てくれていたからだ。その時は決まって2人だけで飲みに出たり、フンボルトも交えて男の人だけで食事に出たりしていた。それがあったから、今の士郎さんは本当に落ち着いている。今もフンボルトと談笑しながら、女性陣の会話を暖かく見守っていた。

 

「じゃ、『Thanksgiving Day』が終わるまでこっちに?」

「はい。ご厄介になります」

「へぇ、私らも来月の頭に隣に引っ越しなの。何もないけど、中を見ていってよ」

 

『エル』もアオレアールさんも恐縮していたけど、凛さんはカーテンや家具以外のインテリアに対する意見を聞きたいみたい。そういうのは確かに私以外からも聞きたいだろう。

 

「エルヴァ、シロウが戻ったし、後は僕が店番するよ。月曜で暇だったろ? バイクをウチのガレージに入れて貰って、君は家に戻りなよ」

 

 それならとお言葉に甘えて、女性陣4人で家に向かった。いつもなら事務所を抜け、工房の入り口脇にある勝手口から家に戻るのだけど、今日はお店の前に出て、ガレージのシャッターを開けて空いた場所にバイクを止めて貰った。

 

「結構、工具が揃ってますね?」

 

 ガレージ奥の工具棚や作業台を見て『エル』が言った。アオレアールさんも驚いている。天井の低い方(2階のある方)は駐車スペースだけど、吹き抜けの方は整備リフトや整備坑があるのだ。このガレージができてから、クルマの整備は勿論、修理をどこかに頼んだ事はない。だけどポ◯シェとRSX以外は洗車場に突っ込んでいた。ああ、アメリカの洗車場は凄いよ? クルマが屋内に設置された洗車トンネルを、洗浄・濯ぎ・乾燥と洗濯機みたいに全自動で流されるのは圧巻だ。

 

「フンボルトも士郎さんも好きですからね。2人とも休日に予定がないなら、クルマを触っている事が多いです」

 

 まぁ、フンボルトは工房の横に造った防音スタジオ(試奏スペースでもある)に入る事も多いけど。ちなみに私のワインディングマシーンも工房に置いてある。だけどエルと集めた楽器やアンプはガレージの2階だ。そこは簡素なキッチンとトイレ(1階にもある)、ソファーも置いたリビング・ダイニングと、演奏用スペースがある。工房や防音スタジオがフンボルトの隠れ家なら、ガレージの2階は私の秘密基地だった。と言ってもピックアップを巻く時は私も工房に入るし、士郎さんはそこが仕事場だ。逆にフンボルトも士郎さんや凛さんもガレージの2階に何度も入っている。なので秘密基地と言うよりロフトという方が近いと思う。

 この普段の生活とは関係ない、気が抜ける場所の存在というのは本当に有り難い。主婦やメイドのユーティリティ・ルーム(洗濯機置場とは別のアイロンなどがある小部屋のこと)のようなものだ。エーデルフェルトも地下にあったし、『エル』のドイツの家も地下にあってメイドの息抜き場になっていた。

 

 ガレージを抜けて家の扉の鍵を開けた。目敏く温室を見付けられ、家庭菜園に含み笑いをされた。だけどそれは馬鹿にしたものでなく、感心と確信があっての笑いだった。

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