※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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54、Chlöe in Fuyuki 05 & Elva in Kumamoto 05

 帰りの会が終わった私は、急いで教室を出た。廊下で隣のクラスを覗くと、気付いたイリヤから念話があった。

 

(ゴメン、長引きそう。美遊を迎えに行って先に帰っていて)

(りょーかい)

 

 それで2年生の階まで降りて美遊の教室に向かった。すると良いタイミングで美遊が廊下に出てきた。だから声を掛けて一緒に下校した。

 ここの学園はバスの通る道路に面していて、正門には守衛さんの見守る守衛室が門と並んで建っていた。なので部外者が校内に入るには、必ず守衛室前の受付で身分証明になるもの提示して、入校時間と氏名、訪問要件を記帳する必要があった。厳しいけれど、これはクロエ達のところも同じだった。

 それでその門から先を説明すると、まず正面に高等部校舎がでで~んと目の前にある。ここの1階に事務室や学園長室に校長室などがあって、学生の教室は2階から上になっていた。校舎に入らず右に行くと弓道場と並んで大講堂が建っていて、主に全校集会や生徒総会、保護者との会合はここで開かれている。なので普段、部活で使われる事はあまりなかった。

 この高等部校舎から道路を越える歩道橋が伸びていて、そちらは反対側にある高等部専用グラウンドに通じていた。他の世界では見られない、広く大きなグラウンドだ。また、このグラウンドには新しく建った第二体育館とクラブ棟もあった。第二体育館は2棟がドッキングしたような作りで、低い方の棟は屋上が観覧席付きの50mのプールになっていて、その下に女子のダンスや卓球部が使う小体育館が3つあった。高い方の棟には2階3階が吹き抜けの天井の高い大体育館があって、主にバスケ部やバレー部に使われている。ちなみに学園祭のステージもここだ。その下の1階は体育教官室や倉庫などが並び、部室棟とも繋がっていた。

 またこの歩道橋は横に広い。それは半分が校舎からグランドへの校内歩道橋であり、後の半分が反対側のバス停から、校門側に渡るための、一般の人も使える歩道橋だからだ。夜間はその一般側の通路も鉄柵で閉じられる。だけど昼間、体育の授業でグラウンドに行く生徒は、柵で隔たった通路側から体操服姿を見られるので、女子に不評なのだとか。と言っても、実質学園専用歩道橋だし、そもそもこんな山の上にある学校だから、誰も歩いていないんだけどね。

 

 そして私達の初等部校舎は、正面から左奥に行ったところにあり、そこに並んで初等部だけの食堂や体育館に芸術棟がくっついていた。この芸術棟は屋上に25mプールやシャワーがあり、その下に書道室や音楽室、美術室、理科室、工作室、家庭科室、家庭科実習室などが3階・2階・1階に渡ってあった。その横の体育館は1階部分が食堂で、給食はここで食べる事になっている。

 各学年3クラスだから、18クラスの人が一斉に給食をとれる広さがあるから凄い。1年生から6年生まで全員白い給食スモックだったから、初めての時はイリヤと2人でびっくりした。そしてここが工夫なんだろうね。給食調理室は少し出っ張っていて、中等部の給食調理室と繋がっていた。そしてこの2つの調理室の脇から伸びた道路は、裏門へ通じる専用道路に繋がっていて、業者さんは正門の守衛さんから鍵を受け取って専用道を通って食材や教材を運んでいた。この辺はクロエ達の世界に近い。作りは違うけれど、私がクロエと以前金網越しに話していたのも、この専用道路からだった。

 中等部の校舎が初等部(あっちは小学部)のもっと奥にあるのも、あっちと同じだ。けれど中等部と兼用の高等部芸術・特別教室棟はもっと大きく広く、図書館も、その上にあるコンピューター室も広く大きかった。もっと言うと、学園生なら初等部生や中等部生でも高等部の図書館に出入り自由で本も借りられた。また6年生からの情報授業や英語は、この高等部に移動して受ける日もある。なので初等部も中等部も、コンピューター室や図書室はかなり貧相で、半ば部室と化している。ま、附属小学校ってこんなものなんだろうね。でも理科室や家庭科室などの芸術棟や食堂は、他校にはないものだし、設備も素晴らしいと評判なのだそうだ。

 

 それで美遊と歩道橋を渡って、バス停に向かって歩いていたら『しばらくお待ちなさい』と声が掛かった。声の主は間違いなくルヴィアだ。お姉ちゃん達や凜の親友であり、エルお姉ちゃんの猛烈なシンパでもある。だけど印象と違ってとってもオトナで優しい人でもあった。私とイリヤは4年生の時の秋にルヴィアに大変お世話になり、そういう人なのだと初めて知ったのだった。

 そんなルヴィアが日本にいるのは、一昨年前の11月頃から穂群原に留学していたからだ。

 フィンランドの中学を卒業後、エーデルフェルトの跡取りが決まっているルヴィアには一般の進学を選ぶ理由もメリットもなかった。おまけにこちらの世界は、親友の凜が穂群原卒業後に時計塔の講師として倫敦に赴く事が決まっている。なのでエルお姉ちゃんと凜を頼って留学を決めた。要は凜とともに時計塔に行こうと考え、それまでの間、冬木で腰掛けようという算段なのだ。

 大きな青いロールスロイスが、坂を上った先にあるバスの回転場でUターンして私達の前に停まった。それで執事のオーギュストがドアを開いてくれた。

 

「送りますわ。お乗りなさい」

 

 私と美遊は、オーギュストとルヴィアに頭を下げお礼を言った。

 

「ありがとう、お言葉に甘えます」

 

 それを見て、後部座席の奥で足を組んでいたルヴィアが微笑んだ。

 

「あら? イリヤスフィールは?」

「帰りの会が長引いているみたい。それで美遊を連れて先に帰っていてって」

「そうでしたの。仕方ありませんわね」

 

 それでルヴィアは組んでいた足を下ろし、シートベルトを締め直した。勿論、私達にもベルトを促す。その後、運転席のオーギュストに合図を送った。

 こちらのエーデルフェルト邸は深山町の洋館街には建っていない。少し驚きだけど、アインツベルンの森の北側、国道に面したところに建っていた。国道を挟んだ真向かいはJRと海で、そこから右手奥に海水浴場やボートハウスが遠くに見える。海水浴場にタツコの家の浜茶屋があるのはどこでも同じらしい。だけど海水浴場から水族館のある海浜公園までの間にボートハウスがあるのはここくらいだと思う。それでそのボートハウスは釣具店や喫茶店も中にあり、主に釣り船を預かる専門のハウスなのだけど、釣り好きの集まる一大拠点にもなっていた。これらはシロウさんが人に任せて経営しているのだけど、当然自分のボートもそこに係留している。ウチのビルの2階にある『割烹 凜』で、どれだけ儲けているのだろう? それは一先ずおいて、対する左側は、隣の県までテトラポッドが延々と積まれていて、穴釣り好きがあちこちからやって来る、別の意味での名所だった。

 ではどうしてこんなところにエーデルフェルトの別宅が建っているのか? それはルヴィアとエルお姉ちゃんが交渉した結果だった。アインツベルンの森の北側とは、並行世界での言峰神父の侵入経路だ。言ってみれば『穴』だった。なのでお姉ちゃんはこちらにかなり堅牢な結界を張っていた。そこに監視所を設け、アサシンを配備したりしていた。その後、南側の入口を塞ぎ、こちらを森への入り口にしていたらしい。やがて森の倉庫代わりの館周辺を整備し直し、ログハウスやアスレチック、キャンプ場などを建て、家族のための別荘兼遊び場にしていった。これらの設備が源泉掛け流しの温泉(そんなものが昔からあったという。今は改装も終えてもっと綺麗だ)から館までの間にあり、やがて魔術を併用した発電機だけでは心許なくなった。

 そうなるといよいよ霊脈や地球の自転を利用した天然発電になる。だけどこの自然発電は、これまでの人類には秘匿されてきた完全なフリーエネルギーだった。アメリカのニコラ・テスラが再発見したものだ。そしてこれらの技術は、石油事業などを行っている、世界を裏から支配する者達にとって絶対に表に出せない技術だった。また、アインツベルンやエーデルフェルトといった魔術協会の重鎮もそれは同じだった。(以上、お姉ちゃんからの受け売りです)

 そこでお姉ちゃんはルヴィアの留学話が持ち上がった時に、協力を要請したのだ。対価は土地の無償貸与。ただし条件があった。それはその別宅の横に変電所を建てさせ、エーデルフェルトは電力会社と全うに契約を済ませておく事をだ。こうする事でお姉ちゃんは森の中で自然発電を自由に行える環境ができた。

 しかも冬木市の公共事業にも多数噛んでいるから、未遠川上流にあるゴミ焼却場とその熱を利用した発電で、電気はビルに送電していたし、一部は電力会社に売ってもいた。また冷えてお湯になった排水は濾過し、焼却場と並ぶスーパー銭湯施設にも利用されていた。更にそのゴミは冬木市だけでなく近隣の市からも入札を勝ち取りアサシン達に運営させていた。現在県北部と隣県北部のゴミ事業を独占中で、同業他社を廃業に追い込んだとされている。そして森からこのゴミ焼却・発電所へ電気を送って電力会社に売れば?

 そしてこれらは冬木市内の山に、太陽光パネルや風力発電機を設置させないためでもあった。なので未遠や遠坂一族からも感謝されていたし、もっと言うなら今の冬木市は局所的なバブルだ。だから家やマンションがどんどん建ち、凜のところや間桐のところも、土地価格が跳ね上がった事から大きく儲けられた。こんな風にどこもかしこもウィン=ウィン状態なんだけど、この年この市1番の高額納税者はセカンドオーナーは勿論、この市に工場などを建てている企業を抜いてお姉ちゃんだろうと言われている。(凜 談)

 まだ3月頭なので、わからないとお姉ちゃんは話していたけれど……。

 

「それでオーギュスト、わかりましたの?」

「ええ。9月発売ですな。ただしマニュアル・ミッション車は10月のようです」

「まぁ。それは仕方ありませんわね」

 

 私がポカンとしていると、先に美遊が気付いた。

 

「クロお姉ちゃん、何かラリー用のクルマだと思うよ?」

「あ、そっか。何だろう?」

「スズキのスイフトスポーツですわよ。今年はついに自動車免許を取得できますからね」

 

 そうだ。今年の誕生日で18歳になるんだった。免許は本国と日本の両方で取るのかな?

 

「フィンランドも18歳からなんだよね?」

「そうですわよ。世界で一番難しい免許ですわ」

 

 この『難しい』とは雪の国だからだ。徹底的に滑る路面がどういうものかを叩き込まれるのだとか。こういう国だからラリーが盛んになり、世界的に有名なドライバーが数々輩出されるのだろう。

 

「ノルウェーでは16歳になりましたら、バイクよりスノーモービルと言われますのよ。残念ながらフィンランドでは、自動車の免許が必須ですので必然18歳以上ですが」

 

 納得だ。でも交通法規は知っておくべきだと、ルヴィアは16歳でモペットの免許は取っていたし、草ラリーのコ・ドライバーも何度もしていて、夏の間は自転車で遠出したりキャンプに出る人でもあった。キャンプはクルマと同じく国民性だけど、自転車はお姉ちゃんの影響だ。

 

(お姉ちゃんの説明によると、フィンランド人にとってのキャンプは、サウナと同じく生活に欠かせない娯楽らしく、特に人口の多いヘルシンキの人にその傾向が強く見られるのだとか。『これは常日頃から他者との物理的距離を置く(social distancing)国民性にあるのでしょうね。長年に渡って人口が増えないのは、厳しい冬があるからだと言われる事が多いですが、バスでも何でも並ぶとなれば、決まって2メートル近い間隔を空けるところに、国民性や民族性、フィンランド人独特の社会性が見てとれます』と話していた。また『本来の人間はそれくらいのパーソナル・スペースが必要な生物であると、教わっている気分になる』そうだ。私はこのお姉ちゃんの言葉で、日本人ともフィンランド人とも違うスイス人の持つ特有の距離感や(ドイツ人のそれとも違う)、どうしてあんなにオフロードバイクにコダワルのか、その気持ちがわかった気がした)

 

 

「免許は日本でも取るの?」

「迷いどころですわね。ですがチャレンジしようかと考えていますのよ」

 

 これはお姉ちゃんを見習ってだろうな。エルお姉ちゃんはスイス国籍だからEUの免許を持っている。だけど日本の学校に通う学生でもあったから、日本の免許もキチンと正規に取っていた。16歳で原付き、原付二種、小型特殊、普通自動二輪、特殊小型船舶、二級小型船舶を取り、18歳で大型特殊、大型自動二輪、普通自動車、けん引、一級小型船舶なんかを取っていた。

 この他に自動車整備士(何級とかそういうのは知らない)、ボイラー技士、食品衛生管理者(高2で取った)、ふぐ調理師(調理師免許がなくても、この県は取れるらしい)や罠猟免許などなどの資格も持っていた。アーチャーのお兄ちゃん曰く『あいつはオカシイ』だ。でもこのお兄ちゃんは大型自動車も大型特殊も大型自動二輪も一級小型船舶も取っていたし、ユーロ(ドイツ)でも似たような免許を取っていた。また、日本限定だけど調理師もふぐ調理師の資格もシロウさんのお店を手伝いながら取っていた。それを活かして、最近ドイツの調理師免許を取得した。

 これは後ろでイヴ食品(お姉ちゃんの会社)が力添えしたからだと、巫女のお姉ちゃんが話していた。こういう専門職の資格は国籍が違ってもそれなりに取れるものだけど、長期滞在は国籍を取得しないと厳しいのと同じで、お店は単純に開けないそうだ。それをイヴ食品は支援する活動もしていて、お兄ちゃんはその支援制度を利用したらしい。

 こんな支援制度があるのはお姉ちゃんが料理好きと言うのもあるけれど、その食品会社が商品を紹介するアンテナショップを持っていても、レストランなどを展開していないからでもあった。経営方針はパミやミトという人も絡むから、お姉ちゃんでなくその2人のどちらかの抵抗がその支援活動ではないかとは巫女のお姉ちゃんの推測だ。

 

 

 

 

 朝からバラバラになっているスポークやリムを磨いていて、さすがに少し疲れたなぁと時計を見れば、とっくにお昼の1時を回っていた。この人形を使う魔術はメイドなら皆んな知っている。なので地下のガレージから上に戻ってお昼を頼む手もあるけれど、『課題』は師匠と弟子だけのものだ。だから『私』は私にお金を置いていったんだし。ふむ。

 

「ハサン、居る?」

『は。何か、クロ殿』

「悪いけど、お弁当とお茶を買って来てくれない?」

 

 それで私は作業台の隅に『私』から預かった1000円札を置いた。『承知』という声とともにお札が消えた。それから15分ほどでお茶とお弁当が届いた。お釣りもある。自分のジュースくらい買っても良いのに。ん? お釣りが多い?

 

「あ。のり弁だぁ」

 

 ここからだと公園内のコンビニに行くより、ほか弁を買いに行く方が早い。警察や消防署が建つ方とは反対の道路と、ビル内とでお弁当屋さんが2軒ほどあるのだ。スーパーの惣菜コーナーまで含めると選択肢は3つになる。市役所の手前、冬木駅前の次のバス停まで行くと、お昼だけの路上販売も2軒ほど並んでいる。もう1時だから無理だけど、あっちはお味噌汁付きで税込み500円だ。

 

「久しぶりだな、のり弁なんて」

 

 文句を言っている訳じゃない。何も希望や注文を言わないなら何を買って来るのかわからない。しかも百貌の誰が走ってくれたのかもわからない。それが楽しいのだ。とにかく今日の担当はのり弁を選んだ。それはそれで面白いなと思った。揚げたてアツアツの白身魚フライとちくわ天。敷き詰められたご飯の上の海苔ときんぴら。その下にはおかかエリアと昆布の佃煮エリアがある。これでどこで買ったかがわかっちゃう。

 以前は多いと思っていたほか弁のご飯も、ぺろっと食べられるようになった。そんな自分の成長を実感できる『人形』。今、イリヤや美遊と学校に行っている方が『本体』だという自覚もある。だと言うのに、あちらがクロなら私もクロという、『意識』に対する『自覚』があって、そこに矛盾はない。これがお姉ちゃんが鋳造する『人形』だった。

 この『人形』は、意識を切り離し『本体』に戻っても、私とともに成長する。だからこうしてお腹も空くし、トイレにも行く。だからこそ、意識を離す時は必ず専用のベッドで保管しなきゃならない。このためだけに私の部屋は二段ベッドで、下の段はカプセル型の魔術装置とこの『人形』に占領されていた。宿題を手分けしてするくらいなら汗もかかないから良いけれど、学校に行って体育があった日や、今日みたいな作業のある日は必ずお風呂に入らないとダメだし、使った日は上で眠る私も装置を着けて『記憶』を並列化しないとならない。

 面倒くさいことこの上ないのだけど、2人になると便利な事も多いから文句は言えなかった。何より私はお姉ちゃんみたいに『ラインの黄金』という宝具を持っていないし、魔術師としてもまだまだ未熟だ。だからこの『人形』の中に私をアシストする機能が満載だった。つまりこっちの『人形の身体』には『ラインの黄金』があり、『全自動モード』や『半自動モード』『マニュアル・モード』などが選べ、『全自動モード』なら意識を移さなくても人工精霊を使った自律行動が可能だった。

 

 この『人形』は昨年の秋に貰ったものだ。あっちのエルヴァお姉ちゃんがとっても危険な目にあったらしく、その反省から私に何かあったらと考え鋳造してくれたものだ。イリヤの分がないのは現在制作の途中だからだ。『小聖杯』はイリヤが持っている。受肉して別の身体を得た今は関係ないけど、以前魔力供給の効率がイリヤが1番だった理由もそこにあった。つまり私の投影魔術も何もかもが、イリヤの身体が持つ『小聖杯』を起動して行っていたものだったのだ。

 それはそれで奇跡だし、凄いなぁとも思うけど、『それ、私の身体でしょう?』なんて『可愛い妹』には言えないしさぁ。だから出逢った時からお姉ちゃんは私を不憫に思い、あれこれと考えていてくれた。その一環がこの『人形の身体』だったのだ。そしてこの身体は私に色々な事を気付かせてくれる。

 

『素体(人形)を利用する魔術の要諦は、分割思考とは関係ありません。その本質は意識の複製であり、複製した意識のリ・デザインにこそ、その妙味がある訳です。そしてその先に意識の独立性(自律性)があります。自律行動には『魂魄』という要素が必要不可欠です。ここはホムンクルスと同じですね』

 

 この『要素』という言葉が重要で、『魂』……特に次元上昇して『一』に還ろうという『魂』に自我は希薄だ。低次元で輪回を繰り返している間は自意識が結構あるし、最後に失った肉体が持っていた『記憶』は特によく憶えているものなのだとか。

 

『さて、そこで降霊術ですよ。特に『口寄せ』。『霊』というか『魂魄』が低次元な間は理解できます。降霊術が上手な人であり、かつターゲットがまだ輪回している状態であるのなら、難易度が高くなっても前世や前々世の『意識』を降ろす事は可能だとわかりますよね? では『一』に還り解脱した『魂』は、もう降ろせないのか? ところがこれを降ろせる人がこの世には居る訳です』

『それって?』

『『記録』ですよ。有り体に言えば『アカシックレコード』から降ろしているのです。さて、『根源』ってどこにあるんでしたっけ?』

『え? あ!』

『『得る』ものは『魔法』でなく『知識』であるべきなんです。自分から『輪廻』を逃れずとも、『一』に向かえば勝手に解脱します。『苦行の道』を選ぶのでなく、今の人生を最大限に楽しみ、強く生きる。それが『宇宙』がヒトと言わず、生きとし生ける全生命に与えた使命なんですよ。そこを理解すれば、『根源』なんてそこいらに転がっているのが見えて来ます』

 

 だからお姉ちゃんは『聖杯戦争の術式がオカシイ、そもそも基本的な部分の考えが間違っている』と、パパやママにお別れを言うために訪れたアハトの城で気付いちゃった。当時8歳だ。第四次は11月に始まったから、正確には8歳と3ヶ月。しかもその時にイリヤお姉ちゃんのために『お友達』として、3人ほど意識を分割したエーテルの人形を置いて、パパやアルトリアお姉ちゃん達と日本に向かったのだ。

 

『実は『エルヴァ』……47番は、数回死んでいます。昨年の『危険な状態』と話したそれもそうでした』

『まさか復活……?』

『死んでシフトしようとする魂を掴まえて保管し、肉体が用意できるのならチャンスはあります。まぁ、幸いな事に私はそういう礼装(魔術装置)をいつも持ち歩いていますので可能と言えば可能です。ですが、あまりそういう事はしない方が良いですね』

『どうして? 奇跡だよ?』

『『奇跡』とは、世界のルールを逸脱した反則行為です。抑止に睨まれやすいんですよ。ですのでそれを誤魔化すために、目眩ましとしてアーサー王(幻想)のブリテンを丸ごと召喚する必要がありました』

 

 ああ……。

 

『ですが、私の思考の一部で、仮初の自我と意識を持たせていた頃なら、そんな労力を払わずに『復活』可能だったのですが』

 

 独立した人格や自我を、独立した肉体に与えたから難しくなったという。つまりエルヴァお姉ちゃんは、流されて、あっちで肉体を得た瞬間から、もうお姉ちゃんの複製ではなかったという事だ。それと『意識の分割』はまだ良いけれど、『魂の分割』は世界の禁忌に触れるのか、お姉ちゃんも1回しか成功していないという。その僅か1回のチャンスで百分割したというから凄まじい。それが5歳頃の話で、それ以前から『アカシックレコード』にある自分の前世や前々世の『記録された魂』を降ろして、ホムンクルスの肉体を与え、別人として働いて貰っているそうだ。

 ドイツにあるお姉ちゃんの家で出逢った『ボーデン』という人や、一時冬木にいて、イリヤお姉ちゃんを見守っていた『シュラム』という人、今は並行世界の中国にいるという『アオレアール』という人なんかがそういう存在らしい。時々お姉ちゃんと入れ替わっている『ミント』のお姉ちゃんや、ドイツのミトやパミのお姉ちゃんは百分割の方だ。『29番』だったから『肉→ミート』でミト。『83番』だったからそのままパミ。『ミント』のお姉ちゃんは『31番』だからアイスから。お姉ちゃんはチョコミントが好きなのだ。エルヴァお姉ちゃんは元『47番』。以前のアダ名は『スジ』や『イーソウ』『イーピン』。麻雀用語からだそうだ。どういう思考からだろうか?

 

『それって禁忌に触れないの?』

『穴なんてどこにでもありますよ。失くなれば必ず自動的に補填される『図書館』なんて万引し放題です。監視カメラの設置場所も、書士さんが詰める場所も、頭を捻れば想像可能でしょう?』

 

 こういう人だ。

 

『『魂』というのも、所詮はその配列に鍵が掛かった素粒子でしかありません。ですがこの鍵を開けられるのは世界(宇宙)だけなのでしょうね。ですから『魂の複製』は『魂の分割』以上の禁忌なのです。あのアニメの『ゴーストコピー』は危険というのはそこですよ?』

 

 時々、マンガやアニメ、小説などに真実の一端が描かれる場合がある。それはその作家やクリエーターが、『並行世界の自分からアイデアを貰っている』場合もあれば、『アカシックレコードの一部に偶然触れている』場合もあるのだとか。第六感や直感のもっともっと上の感覚。『産みの苦しみ』を知っている、それこそ朝に顔を洗う瞬間からトイレも夜のお風呂もその事ばかり考えている人に起きやすい現象なのだそうだ。

 

『写真家のアンリ・カルティエ・ブレッソンもそれと似た事を言葉に残していますね。神経が研ぎ澄まされた状態だと、決定的瞬間が訪れる前に予感があるらしいです。だからシャッターを切れるんだよって』

 

 つまり『予知』だ。だけどこの『予知』は諸刃の剣で、場合によれば禁忌に触れるらしい。ところがそれを『カメラを持った時だけ』『剣を握った時だけ』という風に自分に枷を嵌めれば、世界(宇宙)は見逃してくれるという。ダメなのは自分で直接番号を書いたり選んだりするクジなのだそうだ。それはそこに『労力』がないからではないかとお姉ちゃんは話していた。

 

 

 また魔術師は魔術回路の保全のために、五感だけでなく、C繊維や迷走神経なども鋭敏にしておく必要があった。『人形』はその学習にもってこいの教材だ。それに年が明けてからこっち、こういうのを含めた魔術師としての基礎応用知識と性に関する知識の学習も、以前よりもっと掘り下げたものになり始めた。それは学校でも性の教育が始まっていたからだ。

 以前の世界での5年生の時は、1学期を終えたばかりだったので、そういうのはまだ始まっていなかった。偏っていたかも知れないけれど、魔術師としての知識を植えられていた私は、周囲がまだまだ子供なのに驚いていたものだ。だけどお姉ちゃんが催眠装置で送ってくる知識は、アハトのレベルじゃなかった。聖杯になって消えるのでなく、一女魔術師として子供を産み、育てて行く、未来のある知識だ。それだけに内容も濃いし、実践的でもあった。そして私が『人形』を得ればしそうな事をまるっと見破られていた。

 美遊やイリヤとお風呂に入るのは平気なので、2人の前で裸になるのは慣れている。だけどいくら双子でも、イリヤとはそういう事はしたくない。散々魔力供給をねだっておいてなんだけど。いや、そういう過去があったからこそかな。やっぱりあの子の方がココロの成長が遅い。まぁ、そこで私は『人形』とヤッちゃった訳だ。と言うか意識を分けた夜はお風呂に入って眠る前にたいていしていた。自分ではあるけれど、自分でない指や肌の感覚と刺激は、自分だけだと得られないものだ。またそういう事を私がすると知っているだろうお姉ちゃんも、叱っては来ない。ただハマり過ぎるなと遠くから言うだけだった。それはやっぱり魔術師として知っておかなきゃならない知識でもあったからだ。

 

 お昼を終えて、作業を続けた。磨き上がったスポークを見て思う。

 

「これ、自分で組めって言って来そう」

 

 しかもそれで走って来いって。イリヤの『人形』ができる頃に、高校生になった私の『人形』ができるからだ。

 

『エルヴァというモデルが居るので楽勝です』

 

 なんて言っていたもの。これはお姉ちゃんだけでなく、リンやシロウさんも私に期待してくれているからだった。イリヤは……う~ん……。イリヤお姉ちゃんが許可しないだろうなぁ。『小聖杯』の頼っていた頃の私と同じで、イリヤはルビーに頼り過ぎる。カードの使い方とかは上手いんだけど、『自分の魔術』がなっていない。それにいつまでもあんなヒラヒラしたドレスっていうのもね?

 まぁ、そこは得手不得手もあるだろうし、あの子の師匠であるイリヤお姉ちゃんが、ゆっくり育てているからというのもあるから、私が口出しできる事ではない。巫女のお姉ちゃんも話していた。

 

『魔術を覚えたいって、あの子から言ってくれただけでもめっけ物よ。家族だからって頑張ってくれているわ。そこはわかってあげないと』

 

 だよね。だから今はそれで十分。私は私の道を進むだけだ。そこでガレージに『私』が来た。あれっと時計を見たら、もう4時前だった。だけどいつもの時間より少し帰るのが早い。

 

「おかえり。早くない?」

「ただいま。帰りはルヴィアに送ってもらったから。美遊は先に上」

「それで着替えていないのか……」

 

 公園側でなくビルの正面側まで送ってくれたのだろう。だから美遊をエレベーターで見送って、こっちに下りて来たのだと想像がついた。

 

「どう、だいぶ進んだ?」

「うん、後少しだね。だけど残りはお姉ちゃんが居ないと」

 

『私』が本日の作業の成果を見た。

 

「頑張ったね~、ご苦労さま」

「いいえ、どう致しまして」

 

 それでクスクスと笑い合っていたら、カチャンとどこかで音がしたような気がした。私だけでなく『私』も訝しげに音の聞こえた方に顔を向けた。

 

「何?」

「あっちだわ。バイクの置いてある方」

 

 それで2人でそっちに行くと、エルお姉ちゃんのバイクが置いてあるところに知らないバイクが増えていた。それも2台。

 

「これって?」

「ここまでで課題クリアって事?」

「第一関門は突破したって事かな?」

 

 そこでその増えたバイクに関する知識が私の頭に浮かんだ。

 

「こっちの赤黒でカウルの付いたのが『Suzuki Bandit250VZ(GJ77A)』で、こっちの青いのが『Yamaha Zeal(3YX)』だって」

「え?」

「この身体がお姉ちゃんの造った『人形』だからでしょう? そういう知識が課題クリア後に流れるようになっていたとかさ」

「ああ、なるほど。でもどういう?」

「赤黒のカウル付きは97年製で新車のままだって。青いのも96年製で、お姉ちゃんが中学時代に乗っていたものだそうね」

「無免許運転だし……」

「公道は出たのかな? 走行距離が2000kmよ?」

「新車同然じゃない」

 

 そこからバンディットのシート高が745mmで、ジールのシート高が735mmだという情報と、『時々跨ってエンジンを掛けなさい』『ガレージ内なら乗っても良いですよ。2人にあげるから』『高校生になって免許が取れたら、おチビちゃんにも貸してあげなさい』って情報も来た。それを教えたら『私』が隙かさずバンディットに跨った。初等部の制服姿だと妖しい光景だ。スカートが短いからパンツ見えてたし。それで私もたまらずジールに跨った。結構足が地面に届いている。4気筒だから重いけど、良いなこれ。

 自分の跨った姿が見たくて、目を貸してと言おうとしてやめた。交代すれば良いだけだった。だから交代してもらったのだけれど、やっぱり制服だと妖しい。だけど学校に履いて行ってる靴だと足付きがもっとマシだった。私はいつものオーバーオールとスニーカーだからバンディットが意外と厳しかった。10mmの高さとシートの幅かな? 確かお姉ちゃんのゼファーは、後ろのサスを短くしてローダウンしていたと思う。水平を出したいからでなく、足付き性を良くしたらそうなっただけという感じ。現にハンドリングが悪くなるので、リアサスを短くした分、フロントフォークを何mmか突き出していたハズだ。

 こういうローダウンは、今持って行ってるセローやSL230にもしてあった。お姉ちゃんは身長153cmでも股下は78cmとかそんなだ。だからスタイルは良いんだけれど、物理的に地面に足が届くかどうかは別物だ。モトクロッサーやサーキット用のバイクなら届かなくても問題はないけれど、街乗り用や林道用だと厳しいからね。

 

「お姉ちゃんさ。このシート、イジってるね」

 

 私もそう思った。きっとその頃(中学生頃)はジールにばかり乗っていたのだろう。(意外に真面目だから、無免許はイケナイと乗らないで、触ってばかりだった可能性もある。でもクルマは乗り回していたらしく、そちらはイリヤお姉ちゃんの証言あり)

 お姉ちゃんのブースにはレストア中のものや、綺麗だけどナンバーのないものも幾つかある。誰かのイタズラなのか、タンクにセンスのない色が下手な技術で塗られたりしたバイクや、共同住宅の階段下なんかでハンドルも何もかも錆びっぱなしのバイクなど、時々お姉ちゃんはどこかからそういうのを譲り受けてきては直している。ああいうのを見掛けると悲しくなるのだそうだ。

 学生の窃盗なら、ほぼ確実に証拠を残すので警察に即通報だけど、外国人窃盗団が関与している場合はアサシンにヤードを襲わせ、全部アサシンに渡している。警察に届けるのも、売って儲けるのも関与しない。何故なら窃盗団が中々捕まらないのは、タレコミ屋(警察とは言わないけれど、そういう組織に居る場合が多い)や情報屋(どこそこのマンション駐車場に何々があるなんてのは、郵便局員、宅配業者、チラシ配布の従事者、ピザの宅配アルバイト、住宅業者、公共放送集金人などが多いらしい。良い小遣い稼ぎになるからだ)が別にいて組織化されているからだ。となると大元から断たないとどうしようもない。と言うのは国を跨いだ犯罪は警察が追えないし、場合によっては官僚や政治家がストップを掛けて来るからだった。

 

 レストア中のものはお姉ちゃん自身だけでなく、『ミント』のお姉ちゃんや他の『人形』が直している場合もあった。それも単独の場合もあれば、共同で直している時もある。しかもその『人形』は、アハトのところのホムンクルスと同じで、地脈と繋がっているんだと思う。あれは絶対にご飯が不要な作業特化型だ。だって徹夜なんてしょっちゅうだったからだ。

 それが例え自分が鋳造したホムンクルスであったとしても、自我のある第三者に眠らず働けなんて言えないしさせられないよね? アハトはそういうところがダメだとお姉ちゃんは話していた。だけどそれが自分の意識を分割させたものなら? いや私のように『全自動モード』や『半自動モード』が備わっていたら? そんな風に考えるのがお姉ちゃんだった。

 

 頂いた2台の250は私の『ラインの黄金』に取り込んだ。

 

「どうして片付けるのよ? 触りたい時、毎回あなたを起動しなきゃならないじゃない」

「もう~。イリヤじゃないんだからさ。罠にハマってどうするのよ。出しておくとホコリも溜まるし、オイルやガソリンも劣化して行くんだよ? 『時々跨ってエンジンを掛けなさい』ってのは高校生になるまで、この状態を維持しろって意味よ? 掃除くらいは良いけど、エンジンとかキャブレターとかはどうするの?」

「あ~……。もらえたって調子良く乗せられたぁ」

 

 私を鍛えるためなら遠慮がないし、容赦もしない。これもお姉ちゃんなのだった。どっちが、今『人形』に入ってるとかじゃないけれど、『人形の意識』は毎回『私』の気付かないところをこんな風にフォローしていた。この『人形』から以前も諭された記憶が、今の私にもある。つまり『本体』に還った時は、『意識』も『体験』も『記憶』も統合されるのだ。これは『英霊の座』を参考にして開発されたものだそうだけど、何とも便利だ。対する『英霊の座』って、とんでもないくらい不親切なものらしいよ。

 それから私達は上にあがった。

 

 

 

 

 大浴場には昨日と同じく3人で行った。カメラマンで頑張ってくれていたあの子は、宿に入る前に『エル』に還っていた(少し残念)。お風呂場での私達の話題は、もう本日のツーリングコースに関してばかりだった。私もセイバーも大感動だったからだ。

 

「あんなに素晴らしいところとは思いもしませんでした」

「私もよ。走りやすかったし、景色も最高。本当に良かったわ」

「気に入って下さったなら良かったです。これ以外にも滝巡りや外輪山一周などがありますし、水源巡りの関係で、今日は一部しか走れませんでしたが南阿蘇のグリーンロードも良いですよ」

 

 それが後に『ケニーロード』として有名になる道だった。またこの時、県道339号(本来の『ミルクロード』。現在は12号から45号に掛けてもそう呼ばれている)から、県道149号を結ぶ『ラピュタの道』や、阿蘇山中岳の道も通っていなかった。そこから『エル』が、観光よりもツーリングとして『走る』ことに重きを置いていたのがわかる。要は気に入ったならもう一度来れば良いという考えなのだと思う。

 ともかく明日は霧島の『えびのスカイライン』だ。(中岳に行かなかったのは、火山を感じて走るならこっちという意味なのだろう)

 

 

 お風呂から戻れば『エル』がフロントに電話を入れた。しばらくするとどんどん料理が運ばれて来た。

 

「あ、お部屋で頂くんだ?」

「ここの旅館はそうみたいです。お、来ましたよ」

 

 それは全長80cmはありそうな見事な舟盛りだった。マダイにヒラメ、シマアジ、スズキに本マグロ……エビや貝もあるけれど全体的に白身が多い。

 

「これは?」

「天草ならヤノイヨかヤノウオ。熊本ならバリやバリゴというのかな? 冬木もバリだったと思います。アイゴですよ」

「ああ、アイゴってこういうのだったんだ?」

「ええ。これを刺し身で出すのは鮮度に自信があるからですよ。お酒も『亀萬』の吟醸を一升瓶で頂いていますから」

 

 結構良いお酒を注文していたみたい。それとアイゴは確かアンモニア臭が……。

 

「美味しい。臭みがないね?」

「でしょう? セイバーも遠慮せずイッて下さいね」

「ありがとうございます。ん、この酒はイケますね?」

「でしょう? 熊本の刺し身醤油と合うんですよ」

 

 私は長い間の疑問を『エル』に尋ねた。

 

「『エル』、どうしてあなたは舟盛りが好きなの?」

「うん? アルトリア姉さんやシロウさんからお聞きでは?」

「笑って、本人に聞けって」

「ああ……。子供の頃の勘違いですよ。『宝船』と『舟盛り』を混同していて……。食べ終えれば、それを枕にして眠るものだと思い込んでいましてね。アルトリア姉さんに『髪が臭くなるぞ』と言われて、それはそうだと気付いたというか……」

 

 日本の文化をちゃんと知らない頃だったのね。

 

「それは私が居ない頃に、家族旅行か何かで?」

「いいえ」

 

 なんと、『聖杯戦争』中の話だった。お昼に活動して夜は隣県の温泉宿を、今回のツーリングみたいに転々としていたらしい。

 

「それ、キリツグ? それともマーヤやルオンの立案?」

「ママ達ですね。そもそも、こちらは『聖杯』を成させない事が目的でしたから。ですので話合って全陣営に下りて貰う必要があります。そうなると何としても戦争したい者が動く事が予想されます。ですので私の身を案じて、夜は冬木にいない方が良いだろうと判断したのでしょう。ただ昼間は情報収集と各種手配がママ達にはありましたからまったくの別行動です。お父さんと助手の舞弥さんも最初の一泊だけ一緒で、後は別行動でした。これは別の角度から私を守るためでした」

 

 私はセイバーを見た。すると困ったようにして頷いた。やっぱりパスで『エル』の過去を見ていたみたい。当時は教会の動きがまったくなく、読めなかったそうだ。なので理事を務めていた協会側から派遣された魔術師の攻略に的を絞ったという。

 

「エルメロイ先生ね?」

「はい。それに当時は教え子だったウェイバー先生までが参加していて。しかもエルメロイ先生から聖遺物を盗んで参加していたのが判明したので、後の始末が大変でした」

 

 まぁこの子の事だし、今はどちらも時計塔の名物教授だ。上手くやったのだと思う。

 

「『エル』、ランサーとアルトリアが初戦ですか?」

「はい、コンテナの並ぶ埠頭で」

「アルトリアは怪我を?」

「ああ、そこは見えませんでしたか?」

「ええ。人の記憶を盗み見しながら、こういう言いざまも何ですが、あなたの夢は虫食いのようにしか流れて来ず……」

 

 こういう部分も『エル』よねぇ。

 

「姉さん、怪我はしていませんよ。短槍の事でしょう? フェイントで地面に置いたのは見破っていましたので、隙きを見て『空間転移』で槍を奪い、もう一度飛んで、その短槍をエルメロイ先生の喉に突きつけました。それで降参です」

「え?」

「はい?」

 

 サーヴァント同士の闘いの最中に入っていったというの?

 

「だって、お話を聞いて欲しかっただけですから。手っ取り早く降参させるには宝具を使うのが1番でしょう? それに、聖杯の汚染が明白なのですから、どの陣営のサーヴァントも斃せません。これはドイツに残したお母様の持つ『小聖杯』に影響が出ないかと危惧したからですが」

「封印したって聞いていたけれど?」

「ぶっつけ本番ですよ? 冬木に行った事で実証は得られましたけれど」

 

 そっか。確証はなかったのか……。それはそうだよね。まだ8歳だったんだから。それからも飲み食いしながらずっと第四次聖杯戦争のお話を聞いた。私とセイバーは呆れるばかりだった。

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