心の奥底で燻っていた『迷い』のようなものが、アーデルハイドさんと出逢ってから薄れていく気がした。だってそれは『この世すべての悪』という存在を出現させないための闘いであり、アーデルハイドさんのお姉さんを救けるための闘いであると理解できたからだ。
俺だって正直言って肉の壁はイヤだ。仮にそれが最終手段なら仕方ないと思う自分もある。それでも違う方法があるなら、そっちで役立ちたいと考えた。なので魔術を習ったりしているが、やっぱり付け焼き刃は付け焼き刃なワケで。
『士郎クンは、この土地に根ざす神秘と関係あるのか特殊なタイプですね。1番成功率が高いのが解析と投影です。次が強化。ここから想像できるものは? 現代でも過去にあったものでも良いですよ』
俺もセイバーも首を捻った。そもそもその『もの』がわからない。
『あ、失礼。そこは職業でもスポーツでも何でも良いです』
暫く考えたが、思い浮かんだのが赤茶けた大地へ無数に突き刺さった剣だった。それを打ち明けると……。
『あ、なるほど。鞘の影響ですね。私の見立てでは元は『火』だったと思うのですが、セイバーの鞘で火傷が癒やされるのと同時に、魔術属性などが書き換えられたのだと思います。もしかしたら本当は、その鞘をキミに埋めた瞬間に一度死に、次の瞬間に蘇生したのかも。記憶の件もこれで説明がつきますよね?』
これは納得だ。だけど。
『ですが、そんな事より重要な事があります』
『重要な?』
『はい、キミの言葉です。手伝いたいから、役立ちたいへと変化していました。何故役立ちたいと?』
鋭い。この人に下手な嘘はつけない。なので俺は観念して親父が死んだあの日に交わした約束の事、親父のような正義の味方になりたい事などを話した。
『お年寄りみたいな事を言いますね』
笑われると思っていたのにお年寄りと来た。
『生かされたから、活かしたいと考えたのでしょう? 普通の人は肉の壁になれなんて言うと怒ります。それをすんなり受けた段階で、かなり深刻なサバイヴァーズギルトだと判断していました。人様の役に立ちたい。これは良いと思います。そういう仕事を見付ければ良い。育った街や国に恩を返したい。これも良いですね。ですが若い間は目標にできても難しいものです。だから人様に役立つ事業を始め、成功して引退した後に、今度は慈善活動で恩を返そう。そう考えるものですよ。心が目指すものは間違っていません。ですが、正義の味方は職業にはなりませんよ? 災害を防いだり救助活動に従事するのは、この国なら消防官や自衛官ですよね? 犯罪なら警察官があります。そういう組織があるにも関わらず個人で活動したいと考えるに至った理由は、『ギリギリの状態にある人を救ってあげたい』から。つまり……』
『その通りだ。俺も馬鹿じゃない。散々考えた。でも、あの時の親父の笑顔が忘れられないし、それが美しいなって、そう思ったんだ』
『なら、もう達成していますよ』
『え?』
『きっと父はキミに救われた。犯した罪をそこで赦されたのだと思います』
だから今度はこの街の人達の平穏を護りましょう。そう言われたんだ。人は身近な事から、原点から始めないといけないと言われたんだ。恩返しの方法は一つじゃないと言われたんだ。
『あの日のキミを作らないし、必ずこの街の人達を護りましょう』
こんな事、藤ねえにも言われた事がない。俺は嬉しかった。俺だけじゃ見えなかったものが見えた気がしたんだ。だからこの日の俺は、早く授業が終わらないかと気持ちが焦っていた。それが態度に出ていたんだと思う。
「衛宮、何だか楽しそうだな?」
「慎二……」
友人ではあるが、この地に残る魔術師の一つ、間桐家の長男……。今も信じられない。何よりどちらかと言えば気難しい面のあるコイツが、この聖杯戦争前後から妙におとなしい。いや、おとなしいどころか一成が見違えたほど冷静沈着で、周囲をとても気遣っていた。それが今までのようなある一定の女子に対してだけでなく、男子に対してもだった。
だからこの数日で慎二の株はどんどん上がっていた。陰口を叩く奴が一気に減った。何より、ああ見えて慎二は口先だけで腕っぷしはからきしだ。性根が座ってない。なので他校のワルの使いっぱなところもあった。これは裏返せば顔が広く、金だか何だか知らないが、一声掛ければそれだけの人を集められる奴でもあったんだ。
そんなちょっと暗い部分があった、普通の高校生には少し重荷な裏のチカラを持った奴が、友好的に級友達と接していた。要は聖杯戦争があるから、本性を隠している……そんな風に俺は捉えていた訳だ。そんな奴が5時間目が終わると声を掛けてきた。
廊下にでも連れ出されると思っていたら、その潜めた言葉は意外にもストレートだった。
「悪いことは言わない。衛宮、本当なら2~3週間旅にでも出て欲しい。それが無理なら、風邪でもひいた事にして学園を休め」
だから俺も正直に答えた。
「悪い……。俺はこの街を護りたい」
「チッ……。やっぱりどこかの陣営と……。決めたならもういい。だけど……死ぬなよ?」
「ああ、お前こそ。でないと弓道部から身を引いた意味がなくなる」
「一言余計だ」
そう言って皮肉げな笑みを残して慎二は席に戻った。その瞬間にピタリとチャイムが鳴った。
何となくだけど、衛宮は『わかっている』人が居る陣営と接触できたような気がした。できればあいつの抱える悩みを僕が解決したかったけれど、人には自身が望んでも違う役割が振られる場合がある。後は桜を伝書鳩にして良い方向に向かうよう願う他はないだろうね。
その後は『屋上で待つ』と、一方的に遠坂に呼び出されたんだ。でも、こっちは時間があまりなかった。なので今夜電話すると番号を聞き出し、僕は当初の目的通りに弓道場に向かった。焦っていた理由はこれだ。道場に桜の弓道着の予備を借りて立つ『一』が居た。
事の顛末は知らない。桜とどういう会話があって、何かがあったのかそれも知らない。ただ朝食の時に『一』から、今日の放課後、弓道場に見学に行くと聞いただけだ。そして『謎の杖』の魔術のせいか、藤村も美綴も『一』が弓を握っているのを気にしていない。ここに居て当然と思っている風だ。
「桜、あいつ……」
「兄さん。ランサーって本当にランサー?」
「どういう意味だ?」
桜が目で『一を見て』というので、そちらに視線をやった。驚いた。そりゃもう、見事な執弓の姿勢から射場に入り、流れるような体配で八節に入っていくんだ。
「待て、待て。西欧の英霊がどうして和弓の体配を知っているんだ? というか、どう見ても有段者の動きだぞ?」
呆気に取られている内に、『一』はそりゃもう美しい会に入り、『嗚呼』と溜め息しか出ない離れを見せた。
カシュッ、パーン!
見ないでもわかる。中って当たり前の空気だった。
「カケも道衣も、あの弓も自前らしいです」
「はぁ……?」
何者だよ、あいつ……?
『流石じゃのぅ、エルマは』
『ですね~。今年は高3ですから頑張ってます』
『じゃな。世界を渡っても練習を怠らんとは立派じゃ。どちらのエルヴァも安心じゃな』
『はい。アメリカの方のエルヴァさんも、やがてご出産です。春から縁起が良いですよ』
『じゃのぅ』
何を話しているんだ、あの2本は……? それはともかく、『一』は普通に女子部員達に溶け込んで、請われて指導までしていた。さすがに『おいおい』とは思ったけれど、少し見て指導慣れしている事にも驚いた。まるで強豪校の部長か主将だ。桜までもが姿勢が良くなり、離で馬手が下がる癖を指摘されていた。
内心思った。僕や、もう辞めてしまった衛宮より巧いんじゃないのかと。だけど槍兵でも弓を引く人は居たと思う…………それなのに妙だ、この感覚。なぜ『一』が現役の高校生のように見えるんだろう? それにどうして和弓に詳しい? 更におかしなのはこの既視感だ。こういう場面を前にも見ていないかったか? 道場で『一』に疑問を感じたのは、本当に今日が初めてか?
だけどその謎も、着替え終えて道場を出てしまうと忘れてしまった。
「慎二さん?」
学園からの帰りの話だ。桜も今日は衛宮の家に行かないと言うので、こうして僕と桜と『一』の3人で学園坂を下っていた。何故か『一』は学園の制服姿だった。きっと桜の予備を借りたのだろう。そう思う事にした。何故か詮索してはいけない気がしたんだ。
そんな『一』が途中で声を掛けてきた。
「あの家は?」
「ああ……」
坂を下りきった十字路のある角家だ。
「そこは一家惨殺があったんだ」
ほんの数日前だ。犯人は不明。なので理由も動機もわからない。ともかく家族全員が一晩で全員惨殺されていた。おまけに鍵の掛かった状態だった。だから一家の主による無理心中かとの話もあったが、その最後に自死したであろう男性には躊躇い傷は皆無で、心臓を一突きだったという。警察の検死結果は全員刺し傷だったと新聞にはあった。
立ち止まった『一』は、進入不可の帯がある玄関前で見えない誰かと話し始めた。
「犯人はサーヴァントですね」
はぁ?
「お、お前?」
「ええ、お察しの通りです。幽霊と話しました」
僕と桜は顔を見合わせた。
「桜。魔術回路を起動して私と手を繋いで」
そう『一』に促されて、桜は『一』と手を繋いだ。
「あ!」
「何だ?」
「兄さん、血まみれの男性が……」
ああいう家で育ったから、幽霊の存在は知っているし、あるものと思っている。だけど僕自身はそういう体験がない。魔術回路を起動するとこうもあっさり見えるものなのか……? いや、桜にしたって『一』と手を繋がないと見えないのだ。
「男性はジャーナリストで、子供の失踪事件を追っていたようです。そこで10年前にあった災害時に『助かったはずの子供が消えた』事件に行き着いたようですね」
『助かったはずの子供が消えた』だって? そんな事件があったのか?
「日が短いからもう暗いけど、こんなに早くから幽霊って居るものなのか?」
「居ますよ。明るかろうが暗かろうが、霊も人と同じです。ただ死んだ後は霊の次元にシフトするので視え辛くなるだけで。何も『あの世』に行くわけでなく、存在がシフトするだけです」
「じゃ、そこらにうじゃうじゃ……?」
「いえ。段階を追ってどんどん違う次元にシフトして、最後は生まれ変わるか、他の魂と融合します」
濾過される水のようなものだと『一』はいう。しかもホシのランクによって保有する『魂の素』は、総量が決まってしまうともいう。また現世はヒトが増えると動物や虫が減り、ヒトが少ないと動物や昆虫が増えるのだそうだ。これらも環境などに左右され、一気に失われる場合(大量絶滅)もあれば、今の時代のように増え続ける場合もある。それでも総量は決まっていて、ヒトが何百兆にも増える事はないだろうとの話だった。
「だって、そんなに増えたら他の生物が居なくなって、かえってヒトが死んでいきます」
眉唾だけど、全部が全部、デタラメとも思えなかった。『魂の素』ねぇ……。生きとし生けるもの、すべてがその『一』に集まり、それをして『根源』だ……なんてね。だけどアカシックレコードと言い換えるなら、それは『記録』だ。この思考に重要なのは、記録には閲覧する者が必要になる点だ。無ければ記録としての意味をなさない。DNAの螺旋構造にしても閲覧しているのは本人の体細胞だ。ちっぽけでも参照している存在があるんだ。
では、世界の記録を閲覧するのは誰だ? 神か? 違うと思う。きっとそれがこの世界のあり方、構造なんだ。だからただの霊とは異なる高次存在となった英霊なんてものも存在する。そう思えば身近に霊現象があっても可怪しくはないのか……ただ、気付かないだけで。
「となると宇宙に出ると異なるホシが持つ『魂』が使える?」
「そうです」
なるほど。魂というか霊というか、それをある種のエネルギーとして捉えると納得できる。例えば英霊なら、平均的なヒトの数千倍のエネルギーを擁しているとなれば。それを7騎焚べて、やっと世界の外への孔が拡がる訳だ。
「じゃ、サーヴァントにヒトを襲わせて魂を奪えば強くなる……?」
「存在感が強くなるだけです。1000対1ですよ? 効果はドリンク1本分くらい?」
言われてみればそうだな。
「だからブーストできる令呪が凄い訳です。その奇跡を引っ張り出す神秘のエネルギーは、どこから持って来ているのかですよ」
「それはそうだな。どこだ?」
「この街の死者?」
え?
「この儀式の凄まじいところは、死者の魂すら利用しているところですよ。間桐臓硯は天才です」
『一』の髪に潜んでいたジジイがむせた。帰ってから聞こう。こんな往来で、ファンシーな飾りのようなモノに話し掛けたら怪しさ満点だから。
家に戻って自室に入ってもジジイだけが空中を漂いながら着いて来た。
「僕に何か用?」
『うむ。面白いものを見せてやろう』
そう言ってジジイは玄関を出て、裏庭に僕を連れて行った。この家の土地は裏より横の方が広い。なので横手には噴水や庭園があって、その先にジジイが使っていた平屋で茶室付きの日本家屋が建っている。その裏にも小さな日本庭園があるそうだけど、あいにく僕は行った事がない。そして裏庭だけど。そっちには洋風の東屋や花壇があり、こっちは幼い頃から何度も来ていた。まぁ、言ってみれば遊び場だ。
「懐かしいな。こっちに来るのは何年振りだろう」
ジジイの目らしきモノがチカチカ光った。
『若い頃は菜園なども造っておったし、薬草となるハーブも植えておった。戦争の時は芋を植えておったぞ』
第二次世界大戦……太平洋戦争の事だな。ジジイはもう自分が初代である事、本名をマキリ・ゾォルケンである事を隠さなかった。あの大勢のアラブ人が掃除をしてくれたのだろう。春になったら業者に頼もうかと考えていたので、この裏庭が思った以上に綺麗な事に驚いた。
『ここじゃ』
そう言ったところに倉庫のような建物があった。樹木で見えなかったのだと思う。今まで知らなかった。
「この歳になっても知らない場所があったなんて……」
『お前は外で遊ぶか、自分の部屋に篭もるばかりじゃったからな』
「…………」
あんたが怖かったからだ。顔も合わせたくなかったんだよ。
『儂も若造の頃はそうじゃった。じゃが、取り巻く周りがのんびりとはさせてくれんかった』
そしてジジイはその倉庫のような建物のドアの鍵穴に柄を差し込み、羽でガチャリとノブを回した。開いた……。解呪の呪文じゃなく、物理的な鍵の掛かったドアだったのだ。それを柄の部分でピッキングした……。頭ではわかるけど、どこか腑に落ちない。あの柄の先っぽは、鍵などに変形するのか?
「暗いな。電灯はないの?」
『その入口近くにスイッチがある。しかし、しばし待て』
そう言ってジジイはフヨフヨと漂い、その室内の四隅に何かをしていった。そしてそれが終わると呪文を唱えた。それから1~2分もすると、開きっぱなしだったドアがバンッと勝手に閉まった。背筋が冷たくなり、室内の温度も一気に下がった気がした。
「お、お祖父様……?」
妙だ……。どこかで人の気配がする。
『慌てるな。簡単な降霊術じゃよ。それに喚んだのは間桐の者じゃ。怖がらんでいい』
間桐の? 雁夜叔父様か? でも、違うようだ。ジジイが呪文を重ねると、僕の目にも白い靄(もや)が見え、それが最後は、はっきりとしたヒトガタになった。目鼻立ちもわかる。だけど向こうが透けて見えた。着ているのは軍服か……?
『慎二は知らんじゃろうが、鶴野の二代前。三代目間桐当主の弟で、貴様の祖叔父になる。戴鷺や。久しいの』
その人は間桐戴鷺(だいき)という、僕の本当の祖父の弟で大戦前夜は陸軍の中尉だったらしい。杖姿のジジイにビクッとしている。それで恐怖心が一気に失せた。話によると、第三次聖杯戦争で、大聖杯というこの儀式の根幹となる魔術装置を守るために亡くなったのだという。しかも戦った相手は参加者でなく、横入りしてきた魔術師の家とナチスだった。
「まさか……」
『第三次は戦争前夜で、暢気なアインツベルンを除いては、どいつもやり手が揃っておってな。陽動や偽の情報が多かったんじゃ。それで闘いが当時の東京にまで飛び火してな。それを隠すために『二・二六事件』が起きたと言っても良い』
何だって?
「お祖父様?」
『結論から言おうかい。奴らの目的は大聖杯の簒奪じゃった。戴鷺と遠坂、そしてアインツベルン本家の者が手を組んで、東京に赴いておった儂に代わって大聖杯を護ってくれたんじゃ。慎二や。おそらく今回の聖杯戦争はアインベルン本家が出てきておる。あの大聖杯を護った者の子孫がな』
僕が呆気に取られていると、幽霊となった、どこか僕似の祖叔父は僕の肩に手を置いて頭を下げた。その手を気持ち悪いとは思わなかった。
【頼む……子孫はきっと敵ではない……】
そんな言葉が脳裏に響いた。だから僕は頷いた。
『戴鷺、しかし儂は大聖杯を壊そうと思う』
霊が揺れた。乱れたと言っても良い。だけどジジイは真摯に、その聖杯の汚染と第四次で起きた災害を、霊に向かって話した。
『それに儂はこの姿になり、仲間とともに世界のために既に闘っとる』
結構大きなラップ音が響いた。そして再び脳に声が響いた。
【……そうか】
そうしてジジイによる降霊術が終わった。
『もう電灯を点けても良いぞい』
その言葉で僕はスイッチを手探りで入れた。匂いでそうじゃないかと思ったけれど、やはりそこは僕の知らないガレージだった。古いくすんだような埃の匂いに、少しオイルの匂いが混ざっていた。きっと正面奥の大きな跳ね上げ式の木製扉が裏通りに面しているのだろう。
「ここは?」
『鶴野と雁夜のガレージじゃ。ほれ、あの単車も車も奴らの残したものよ』
うちには表通りに面した大きなガレージがある。そこには親父が運転してジジイを後ろに乗せていた、それなりのクルマが置いてあった。だからもう一つガレージがあるなんて夢にも思わなかった。
「だけど、どうしてあそこで降霊を?」
『なに、簡単な理由じゃよ。結界を張り巡らせた魔術師の家に霊は入れんじゃろう?』
「あ、ここは結界の外?」
『このガレージだけの。間桐の神秘と流儀を守っておるなら、儂は寛大なんじゃぞ? 少なからず金銭や三度のメシで家族を困らせた事はない』
「だけど桜を!」
あ……。だけどジジイは叱らずにいてくれた。
『いい訳じゃが、間桐としての子を産めるようにしたかったんじゃ。慎二、回路がないから失望したのは事実じゃ。じゃが、それでもお前は一族じゃ。無いものは無い、そう達観できんと道は拓けん。新たなる道を目指すなら、儂はそれも良しと考えておったよ』
ホントかよ?
『儂が狂ったのは聖杯戦争のせいじゃな』
そんな事をポツリという。
「何を目指していたんだ? 聖杯の事じゃなく、根源を得てしたかった事だけど」
『この世から悪を廃絶したかった』
「衛宮かよ!?」
『ぴゅ、ぴゅあと言え!』
ピュアって……。けど、何となくわかった。こういうヘンな者が目指すのが魔術なんだな……。それはおいて、僕はジジイに訊きたい事があった。なので部屋にジジイを招いた。
『訊きたい事とは?』
「ああ、霊の事。さっきの事じゃなく、霊体の事だよ。基本霊体化すればサーヴァントでも壁をすり抜けられ、モノが持てなくなったりするんだろう?」
『なに、それも簡単な事じゃ。確かに霊となれば次元の異なる存在になるので物質には触れられん。じゃがな、それも練習次第じゃ。経験と才能もある。足が速いとか計算が得意とかと同じじゃよ。なので物が勝手に動いたとか、誰もおらん部屋で足音がしたとかといった奇妙な現象があるんじゃ。概ねは死んで数ヶ月から数年の者じゃな。大抵はその後、次元がシフトして浄化(濾過)されよる。ところが稀に……『未練』や『恨み』だけでなく強い『愛情』で浄化されん者もおる。また土地に縛られる者も居るし、記憶が薄らボケた頃に低級霊に乗っ取られる者も居る』
なるほど。そんなのに住み着かれたら堪ったものじゃない。遠坂の家も幽霊屋敷として噂になっているけど、ここも大概だ。だけどジジイ以外の怪奇現象はなかった。結界が効いているのだろう。
「つまり霊体化したサーヴァントでも、物を持ったりできる奴もいるって事?」
『その通りじゃ。それも個人によるがの。ああ、この土地な。この家を建てるずっと前は日本家屋じゃったんじゃ』
「初耳だ」
『江戸時代の事じゃからな。その後、洋館、洋館と2回建て替えとる』
「へぇ~」
『それでな、これだけの広さのある土地が安かったのは、本物の幽霊屋敷じゃったからよ』
「マジで?!」
『おう。江戸の殿様から拝領した皿をな、女中がうっかり割ってしもうての。それで手打ちになったそうじゃ。それでその女中の霊が夜な夜な……』
「鍋島藩かよ!」
『鍋島は化け猫じゃろうが』
あ。
『言うなら播州か番町かじゃろう?』
「え? 2つあるの?」
『うむ。江戸の番町皿屋敷が本物で播州は浄瑠璃用に書かれたものじゃがな』
「なんだよ。でも本当に出たの?」
『出たぞ。じゃが結界を張ったらどこぞに行きおった。ま、幽霊なぞ『るんぺん』みたいなものじゃ。追い払うに限る』
サクッと言うな! ぬらりひょんみたいだったジジイも大概妖怪だったけど、喋る杖というのも不気味だ。
「追い払うって……」
『儂は祓ったりせんが、出ていくようには仕向ける。目障りじゃからな』
「目障り?」
『おうよ。先程の戴鷺などは身内じゃし、たまに会う分には良い。じゃが見知らぬ者が物陰からこちらをじっと見ておったり、コップを砕いたり投げ付けて来おったら、腹が立つじゃろう?』
ジジイはヘンな事でも百戦錬磨だったようだ。そんなポルターガイストが目の前で起きたら、僕は速攻で逃げる自信がある。
「だけど、幽霊ってあんな風に透けて見えるものなの?」
『まちまちじゃ。世間の垢が抜けきらんうちは元に近いとも言えるが、それを視る側にも見せる側にも、才能というか……さっきも言ったように慣れと向き不向きがある。それに暗い場所では白く見え、昼間は黒い影のように見える場合が多いの』
そうなんだ? 昼間っから出るのか……。
「じゃ、幽霊って人に祟ったりは……?」
『滅多にないわ。それに祟るには理由があろう? 斬り捨てられた女中も庭で土下座し、ただただ詫び言を言うだけじゃったよ。それに慎二、生きとる間に晴らせん恨みがあるなら、そいつがよほどの弱者かそういう状況下にあったという事じゃ』
だよね。これはわかる。だから前者はそうでもないだろう。問題は後者だろうか?
『いやいや、後者ならきっちり化けて晴らすじゃろう? 子供の幽霊を捕まえてみろ。ほとんどは母親に会いたい、家族に会いたいと漏らすだけじゃ。大人でも物陰からこちらを覗くだけじゃよ。存在を知らせたい、何かを伝えたい場合は物を動かしたりしよるが、恐れずに文字盤などを使えば割と簡単に慎二でも交霊はできるものじゃよ』
だからって真っ暗な病院や校舎に1人で行きたくない。
『病院なら死因は病気かあるいは事故、そして老衰じゃろう? 未練はあれど、恨みはないじゃろ。学校も皆んなともっと一緒に居たかったとかその程度じゃ。それに昔の者は潔い。武士なら特にじゃ。死ねばそれまでよと、人様をそうそう呪ったりはせんし、今の時代まで残ろうものか』
「そうなの?」
『ヨーロッパ(イオラップみたいな発音)や、アメリカ(メリケンみたいな発音)ならいざ知らず、日本人とはそういうものじゃ』
「土葬だから?」
『その恐怖心からゾンビという概念が産まれたんじゃろ? そうではなく、人の気質じゃよ。日本はな、西欧ほど出ないものなんじゃよ』
「どうして西欧には多いの?」
『陸続きで戦争が多かったのもあるが、王侯貴族からして他国の貴族と親族じゃから血腥い(ちなまぐさい)部分もあった。教会もそうじゃ。それ故か民衆にも犯罪が多い。理不尽に殺されたりしてな、恨みもまた多いんじゃよ。それと新築でなく何年も前に建った家をとっかえひっかえ借りたり買い直したりする者が多い。儂も若い頃はヨーロッパを転々としておったんで、格安の家を借りれば良く出たものじゃ』
絶対にそういう曰く付きの物件ばかり選んでますよね?
『当たり前じゃ。出るという家を安く買い取り、追い払ってから高く売る。その利鞘で日本までの旅費を稼いだんじゃぞ?』
当時は江戸時代だよな。鎖国していたのに、よく入って来れたもんだ。
「長崎の出島ルート?」
『いや、江戸から入ったわ。洋船から小舟を出しての。ユスティーツァと2人、紀州から出たばかりの樽廻船に密航したんじゃ。なんというか……駆け落ちみたいでな。ドキドキしたぞい』
大聖杯の礎となったアインツベルンの女性らしい。急にデレデレになったから、どうも今も好きっぽい。ジジイって、こんなだったのか?
『話を戻すが、特にアメリカは先住民の血の上に自分達の血を撒いて築いた国じゃ。そりゃもう、面白いように心霊現象が起きよるの』
この時は半信半疑だったけれど、後年動画サイトで数多くの心霊現象が投稿されるようになった。もちろん中にはヤラセもあるだろう。だけど、僕には本当にしか見えないものも数多くあったのは事実で、それは決まってアメリカ大陸かアラビア半島だった。
「この街なら新都の公園かな」
『あれは霊脈の波動が、一般人に怖気を感じさせるだけよ。別に勝手に物が動いたりもせんよ。そうじゃな……この街で一番出る場所は、遠坂の家にある貯水槽の裏手じゃろうか』
「は? どうして?」
『結界のせいなんじゃろうなぁ。霊的な落とし穴のようになっておってな、浮遊霊が嵌まりやすいんじゃよ。時臣の頃までは定期的に祓っておったようじゃがな。幽霊屋敷の噂が絶えんのは、見たものが居るからじゃよ』
マズイじゃん!
『場所だけ教えてやれ。あの娘ならなんとか自分でできるじゃろ。逆にこの街で一番、霊が寄り付かんのが柳洞寺じゃ』
「それはどうして?」
『そういう結界になっておるからじゃよ。慎二、オカルトもええ。陰謀論もええ。そうやって様々な事に興味を持ち、真実を見詰めるんじゃ。ちなみにの。1円+5円+10円+50円+100円+500円の合計は?』
『円』という限りは日本の硬貨だろう。そしてその合計は……666!? 獣の数字……! まさかと思い紙幣の場合を考えた。千円+二千円+五千円+一万円は18000だ。なんだ?
『6+6+6じゃよ。二千円札が後からできた理由は、日本が奴らの手に渡ったという証じゃ』
「げっ!?」
『と言っても、アメリカと並んで株式会社になるところを、ギリギリで抑え込んどるようじゃがな。時間の問題かも知れんが』
「どういう……?」
『前回のキャスターが召喚した怪物が、自衛隊の戦闘機を2機も落としておる。それの隠蔽に関わった者達こそが日本に於ける闇なんじゃが、戦闘機2機分の金を補填したのはアメリカでありCIAじゃよ。慎二よ、あちらの闇が悪魔教にハマっとるのはわかったじゃろ? その召喚された魔物はええ玩具に見えたじゃろうな。実は報道も入っておってな。その時のビデオは全部CIAに渡ったておったんじゃよ』
驚く僕を残してジジイは部屋から出ていった。時計を見て良い頃合いかと思った僕は、遠坂の家に電話を掛けた。とっくに戻っていると思ったから、教えられた携帯電話の番号でなく家に直接掛けたのだ。
『はい、遠坂……』
「だ、誰だお前!」
男の声だ。あ、サーヴァントか……。
「悪かった、僕は間桐慎二。遠坂と代わってくれないか」
『ああ……生憎だが凛は風呂だ。何か伝言があるなら代わりに聞くが』
風呂か……参ったな。
「じゃ、『儀式は疑え。米軍……チッ。と、ともかく! 迷ってもいいから、最後まで立ち止まるな』って伝えてくれ」
『……わかった』
「あ、それと! 貯水槽の裏。定期的に祓えととも言っといてくれ」
『はらえ? 言っておこう』
そうして電話を終えた。何だか陰気な男だったな。たぶんアーチャーで間違いないと思うけど、どうにも捻くれた奴という色合いが声にあった。遠坂も苦労しそうだ。
『慎二さ~ん! ご飯ですよ~!』
「ああ! すぐ行く!」
『一』は随分と声の通る奴だ。その日の夕食は桜と『一』の合作でビーフシチューだった。珍しく僕はお代わりした。
『慎二。食って一服ついたら出ようかい?』
「え? 僕とお祖父様とで?」
『マスターなんじゃろ? 軽い偵察じゃ』
それで小一時間後、僕はお祖父様を握って夜中の街を歩く羽目になった。玄関で見送ってくれる桜と『一』……。お前は来ないのかよ!?
お風呂から上がった私は、慎二からの言伝をアーチャーから聞き、首を捻った。
『儀式は疑え』
わかる。屋上でも話していた事だ。
『迷ってもいいから、最後まで立ち止まるな』
慎二にしては珍しい、励ましだと思った。
『貯水槽の裏を定期的に祓え』
意味がわからない……。ともあれ、着替え終えた私はアーチャーと出る事にした。
「君な。湯冷めするぞ?」
「今日、体育があって汗をかいたのよ。保温の魔術を使うから」
それで、この方が早いからとアーチャーに抱えられて向かった目的地は学園だった。新都は明日にして、今夜は深山町を回ろうと考えたのだ。それで一番外れになる学園から先に向かった訳だ。ついでに間桐のサーヴァントの痕跡でもあればと。
塀を乗り越え入った学園。校庭も校舎も真っ暗だ。それでも人の気配がある。正門の脇にある守衛受付からだ。
〈夜勤かね?〉
(ええ、守衛さんは2人詰め。昼と夜で交代ね。夜勤も仮眠を取っての交代だけど、24時間誰かが居るわ。校舎も見回りがあるし)
〈ほぅ。随分と厳重だな?〉
(ね? こんな山の上にある学校なのにね。でも、それだけに不法侵入が何度かあったらしくて)
〈そうなのか?〉
(ええ。ヘンな人達の溜まり場になったら困るじゃない。それで学園理事会が警備会社と、日中だけでなく夜間警備の契約を交わしたらしいの)
〈ふむ……凛!〉
(何? あ!)
しまった。校庭の中央部分に結界が張られていたのだ。私もアーチャーも既に入ってしまっていた。
「防音結界ね……」
そこで第三者の声がした。
「待った甲斐があったぜ。ネズミが網に掛かったな」
「だ、誰!?」
サーヴァントだろうとのツッコミはなしだ。わかっていても口を突いて出る言葉はある。
「そっちの赤い兄さんがサーヴァントだろう? 一丁、楽しませてくれや」
「凛ッ! 下がれ!」
アーチャーに突き飛ばされた私が見たものは、青い革衣の朱槍を握った戦士だった。刃先が全然見えない。それを辛うじて躱すアーチャー。その手にはいつの間にか二対の剣があった。その握った剣で見えない刃先を弾いているようだが、ここに来てアーチャーの低いステータスが響いている。召喚当日、それを見て少し気にはなったが、結局最後にものを言うのは戦略であり、アーチャーと私との相性だろうと不問にしたのだ。
「アーチャー! いいトコ見せてよ!」
「承知した!」
「よっしゃ、その意気だ。エンジン掛けるぜ!」
エンジン? どうしてそんな言葉を知っているの?
そこからランサー(おそらく)はアーチャーに驚異的な速さで近づき、槍を繰り出した。相変わらず私には見えない。今度は穂先だけでなく、ランサーの腕も見えなかった。後退する足も前進する足も見えない。これだけ視力に強化を掛けているのに。対するアーチャーの動きは強化と同時に遅く見える。夜目が効くようには既にしてあった。今、掛けたのは動体視力の強化だ。それなのにランサーの動きがブレてはっきりしない。手足も槍も、もう見えない。
あ!
アーチャーの握った剣が弾かれた。マズイ……と、思ったら、もう同じ剣を彼は握っていた。どういう事? だけどそんな私の疑問をよそに、2人のサーヴァントは動きがどんどん早くなり、青いランサーは全然見えなくなった。ただただ風切り音が耳に届くだけだ。凄い……これがサーヴァントの闘い……。そして私の目が槍の穂先を捕らえた時は、アーチャーの腕を槍が貫いた後だった。
「ク……」
「アーチャー!」
アーチャーの右腕から血がダラダラと流れ落ちる。これはダメだと駆け寄ろうとしたら、槍を引き抜いて血を払ったランサーは、なんと携帯電話に出ていた!?
「なんだよ。もう少し楽しませてくれよ。ん? 誰がオッサンに尻尾巻いただよ?! それにあいつはオッサンじゃねぇって報告したろ? ああ……どっちでもねぇと思うぜ。わかった。今夜は引くよ」
そうしてランサーは携帯をポーチのようなものに仕舞った。
「じゃあな。次を楽しみにしているぜ」
そう言い残して、ランサーは私達の前から消えた。見逃された?
「スマン、凛」
「見逃してくれたの?」
「いや、こちらを測るため、最初から様子見だったようだ」
魔力を多目に送ると、腕から流れる血が止まった。
「どう?」
「腕は明後日には治ると思う。が、あの強さ……予想以上だった」
この言葉に違和感を抱いた。
「まさか知り合い?」
「それこそまさかだ。だが、正体を探るヒントはあったぞ?」
「ええ? どこに?」
「あの槍は魔槍ゲイ・ボルクだろう。つまり遣い手はクー・フーリンだ」
「ケルト神話の?」
「ああ。あの速さ、あの強さ。何よりこの結界。クー・フーリンはルーン魔術の遣い手だ。間違いないと思う」
トンデモナイのを喚んだわね。
「マスターは君の妹だろうか?」
確かにその可能性は高い。だけど待っていたのは私達とは限らなかったと思う。ともかく敵の出没しそうな場所を選んで待ち伏せし、手当り次第出会った相手に、腕試しをしているように感じた。
「クー・フーリンってルーンで2人や3人になれるの?」
「そこはわからんが」
でしょうね。この場合、分裂できるのでなく、複数のサーヴァントを持っていると考えるべきだろう。そうなると、アーチャーが万全でない今は探索を続けても拙い(まずい)。
「仕方ない。今夜は切り上げましょうか?」
「そうだな」
夜も更けた頃。オレ達は新都に出向く事にした。今回はクロエも連れている。どうしても行きたいと、きかなかったんだ。目的は気になる場所のチェック。一つは前回の終決地、その昔に結構なホールがあったという公園だ。そのホールの真上に孔が空き、そこから災害が広がったという。また顔も知らない、本当の母親が聖杯として消えた場所でもある。一度見ておきたいというオレの要望もあった。
二つ目はやはりあの神父の居る教会だ。これはトオサカの家に群がっていた一派の片側が黒鍵を使っていた事から、聖堂教会がやはりクサイと思ったからだ。それにエルが真っ先に動いていた。アサシンに前もって調べさせていたからだ。その報告からだと、地下が怪しいとの事だった。
「カタコンベじゃないのか?」
「ニッポンは法令で基本火葬だよ。歴史のある建物ならその可能性も否めないけど、普通は地下倉庫と見るべきなんだ。だけど、アサシンが設置してくれたエルの礼装だと、裏手の居住区が十分に広いから倉庫も別にあるようなんだ。しかも礼拝堂の地下は思ったよりも広そうだ」
教会側の秘跡(神秘)のせいか、あの遠見のデカイ虫でも内部の探査が難しいらしい。それでアサシンに走って貰ったそうだけど、そのアサシンの報告では礼拝堂には地下室があり、そこがどうにも引っ掛かるとの事だった。オレもアントニーもサーヴァントの『勘』を信頼していた。
それは英霊というポジションにまで行けたからだ。つまりそこらの英雄より上なんだ。知名度なんて参考にしかならない。現場でどれだけ磨いて来たのかだ。そしてアストルフォはエルを信頼していたし、エルもアサシンを信頼していた。それで十分だった。
教会の狙い目は朝になる前、4時頃だ。だから先に公園に向かった。時刻は2時半頃だった。冬の公園は物悲しい。これで雪でも積もっていたら絵になるんだろうけど、枯れた樹々と植え込みに、誰も座っていないベンチ以外何もない殺風景さが、より一層寒気を感じさせた。
「一般人なら幽霊でも出そうだって思い込みそうです」
クロエの言葉にオレも頷いた。だけどこれは霊気が集まっているからではない。霊脈の乱れだ。
「エル、これって霊脈を繋ぎ変えてるのかな?」
「その可能性が高いですね」
アントニーの質問にエルが答えた。やっぱりな。
「どうもこの街は、全体を囲むようにして巨大な魔方陣が敷かれているようです」
これにはオレやクロエも驚いた。
「本当に?」
「ええ。ですが、土着のものなのか……今回の儀式とは関係ないようなのです。むしろそれを壊さないために、前回はここを終決の地にした可能性があります」
そこでアントニーがポケットから地図を出した。エルから借りて、あれこれ自分なりに検討していたらしい。
「思うに、こうじゃないかな?」
そう言って、アントニーは5箇所を指した。一つはあの大聖杯のあった山、二つ目はトオサカの家。三つ目は教会、四つ目はこっち側に見える山。そして河口の先、海の部分だ。
「ファイブ・ポインテッド・スター(五芒星)になっているって事か?」
「そう。この儀式の裏に、エルの言うようなローカルな何かがあったと僕も思うんだよ。曖昧だけどゴギョウとか……」
「シントーだっけ?」
「オンミョウドーだったと思うけど、僕もよくわからない」
オレ達の会話に、エルもアストルフォもクロエも頷いていた。やっぱり裏に何かある。だけど今は眼前の問題を追うだけだ。そこでオレ達は各々に散らばって、調査を開始した。クロエが何かを見付けたようなので、そちらに向かった。するとクロエの立つすぐ目の前に、結界が張ってあった。
「エルヴァ、中で闘っている」
「みたいだな。これ、破ったら剣戟が漏れるな?」
「様子を見よう」
それでオレ達は視力を強化した。アストルフォにはエルが何かをしてくれた。そのアストルフォの声でビビった。
「ああっ!」
「でかい声出すなよ」
「ゴメン。でも、あれ……バーサーカーかな?」
そいつは身の丈8フィート半はありそうな大男で、下半身を小さな布で隠しているだけだった。石でできた剣とも斧ともつかない武器で、白銀の鎧を纏った騎士と遣り合っていたんだ。
「あれ、マズイよ。加勢に行かないと」
これには賛成だ。アストルフォの場合はヤツの信義に基づいてだろうけど、オレの場合は姉への負担を考慮してだった。だけどこの結界を破るのはマズイ。どうする?
「アストルフォ、ここから」
「よし!」
エルが裂け目を作ってくれた。これはアントニーにもできない。さすがだ。ヒポグリフに跨って一気に飛んだアストルフォを追うように、オレ達も結界の中に入った。
ギン! キン! ガシーン!
凄まじい剣戟の音が、辺り一面に響いている。バーサーカーと闘っているのはセイバーだろう。良く見ればエルと対して変わらないちっちゃな女だ。そんなのがあんな大男と? しかも大男はその見掛けとは裏腹に、スピードもあった。
「嘘だろ? エルヴァ、あいつのステータス……」
「……ああ」
オレとアントニーは同時にツバを飲んだ。セイバーもAばかりで凄い。なのにバーサーカーはAやA+ばっかりだ。この2騎が今回の最強だろう事は間違いない。体格差を物ともしないセイバーは素晴らしい。だけど掠り傷を随分負っている。紙一重で避けているのだろうが、ああいうのは消耗する。徐々に押され始め、ヤバい状態だ。このタイミングでアストルフォが加わったのは大きい。
「加勢するぞ、セイバー! 『触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)!!』」
馬上槍がバーサーカーに届いた。ヒポグリフの能力があってこそだ。それであの怪力・怪速を誇ったバーサーカーがひっくり返った。
「ええ~~! 何よ、あいつ!」
丁度オレ達の反対側にちびっこい白いのが居た。両腕を上げてプンスカ怒っている。
「エルヴァ、顔がニヤけてるよ」
「いやぁ……姉ちゃん、可愛いな」
実際、パープルのコートと帽子姿が妙に可愛い。姉というより未来の娘みたいだ。そこでオレは、ある視線に気付いた。あれは……。
そちらを見れば黒い覆面の男と女性がいた。セイバーのマスターだろう。男はおそらく、あのエミヤだ。だけど女の方は、まるで姉を大きくしたような女性で、エルとも似ていた。
「同族……?」
「まさか。アインツベルンが3陣営も出ていたって言うのかい……?」
アントニーもオレも信じられなかったし、エルまで呆けていた。