※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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69、Illyasviel in Eppelheim 13

 ジョギングから3人が帰って来た頃に、パミとミトも現れた。朝の挨拶を交わし、私とセラとで用意した朝食を皆んなで頂いた。『エル』の話だと、お兄ちゃんとアルさんは臨時に建てた『詰め所』か、アサシンのアジトだろうとの事だった。

 

「ベントレーやらアストンマーチンやら、朝からクルマがわんさかです。お昼の11時に開始ですから、それぞれ準備をお願いします」

 

 食後のお茶を頂いていると『エル』がそう言った。ドイツに来た当初に『エル』から聞いた予定と少し変化している。最初はホッケンハイムを2日借り切って、1日目の午前から並べた建機の撮影だった。そしてその日の夜にパーティ。2日目にバイクでの走行シーン撮影の予定だった。

 けれどパーティが前倒しになった。それは想定以上に一族が集まる可能性が高まったからだ。そして本日がそのパーティ当日なのだけど、既に100台近いクルマが集まって来ているという。空間操作だと思うけれど、地下の駐車場ってそんなに広いの?

 

「いえ、通常空間は狭いです。というのは館の地下は倉庫なので、館正面から見て左側のごく一部にしか、地下が作れませんでした。ですけど、そのスロープだけを利用して、地下に降りる先から空間操作すれば」

「そのスロープを人工の亜空間と繋げるの?」

「ええ、昔からある拡張空間ですね。バトラー・スタイルに扮したお兄ちゃんやアサシンが、お客様からキーを預かり、そちらに格納しています。普段は霊脈に繋げた分の魔力で十分なのですが、本日はそこに小型の魔力炉心を繋げています。現在の稼働状態は出力40%ですから、10時頃にもっと大型の炉心に繋ぎ替えないといけないかも知れませんね」

 

 お茶を頂いた後、私はミトと『エル』に妹達の事を頼んで、パミの案内でガレージを見学させて頂いた。

 館の右側はこの広い庭と各々の家があって、地下には館までの通路や『倉庫』と称するコレクション置き場なんかもあるから、通常空間での地下ガレージは、本当に左側のごく一部にしか作れなかったようだ。そもそもこの館の左側は地上にメイドや家人のガレージが建っていて、そこに『エル』の『Mercedes-Benz MB90(パネルバン/Kastenwagen)』や、『Honda Accord CN2(ディーゼル・ワゴン)』、『エル』とミトの『Mazda MX-5(ロードスター)』、パミの『Honda Civic Type-R(EP3)』などが置かれてあった。

 けれどミトの『Aston Martin DB9』や『Porsche』、パミの『CRX』、『エル』の『CRX』などは見掛けなかったので、きっとそっちは宝具で地下の倉庫にでも移動して、別口で保管しているのだろう。

 このガレージ見学は『Type-R』が見たかった私がパミにお願いし、妹達の用意をミトと『エル』に託す事で実現したのだけれど、操縦席に座ってエンジンを掛けさせて貰えば本当にシビレた。それでパミがサービスで道路に出てくれ、誰も通らない道路で席を代わってくれた。シフトレバーが意外と使いやすくとっても良かったけれど、クラッチペダルがやたら重く感じた。

 そのガレージにはメイドに使って貰うためのクルマや、個人のも置かれてあるようで、面白いものがあった。好きな人なら丸目の『VW GolfⅡ』や、柔らかなシルエットになった『VW PoloⅢ』が気になるかも知れない。どちらも色は青だけれど、その横に赤い真新しい『VW Lupo』があった。おそらくフリューゲルのものだと思うのだけれど、どうだろうか。そしてその横に謎のパネルバンがあった。

 

「これは?」

「東ドイツの『Barkas B1000』ですよ」

 

 リッターエンジンで45馬力しか出ない、現代となっては『使えない』共産圏の遺物だけれど、6~7人が乗れてあの牧場まで走れてしまうくらいの性能はあるから、お買い物には何ら不便も問題もないそうだ。しかも、トラバントと違って実用的だから、愛好家が結構いるのだとか。『エル』でなくミトの提供らしい。彼女も好きだねぇ。

 この後に2人でバスに入り、『エル』とミトがドイツ版の80系『Supra』と、『RX-7(FD3S)』をそれぞれ持っている事を教えられた。どちらもヨーロッパでは排ガス規制の関係で1994年頃に消えている。なので『エル』の持っている『Supra』が、8歳になる前に買った新品で、ミト『RX-7』が後から中古で手に入れたものだとわかった。

 またミトは『Subaru Impreza Holzer Edition』という98年頃の赤い『VersionⅤ GC8ドイツ限定モデル』も持っているらしかった。ノンターボの2リットルモデルだけど雪の積もる南ドイツでは大活躍だという。それに触発されてパミは今年出たばかりの、『EJ25-Turbo』を積んだ『WRX STi(DGF-G)』を発注しているそうだ。日本の『EJ20-Turbo』と同じ280馬力らしいけれど、あの吊目はどうなんだろうね? 私は今の型なら最初の丸目が好きだな。『エル』は『前方後円目(涙目と言いたいらしい)が良い』というけれど。

 ちなみにインプレッサはラリーでの活躍もあってヨーロッパでも人気がある。何よりライバルのエボが2004年までカリスマGTなんて変な名前だったから、詳しいマニア以外の人気はイマイチだった。その点インプレッサは雪の降る地域だと『使えるクルマ』と高い評価を得ていた。問題はドイツでインプレッサを買うとなると今までは『WRX』や『WRX STi』といった高価格帯ばかりだったから、関税で割高になり、実用価格帯のラインナップが充実しているアウディの方が安くなる場合がある事だった。だから今年から四駆の1.5Rや2.0Rを出したスバルは偉いと思うし、実際ノンターボモデルで馬力の低い方が雪道では走りやすいと思う。

 そういう理由から、私はヴィッツやフィットといったコンパクトカーやハッチバックには余り興味が無かった。それだけに欧州版シビックが気になった自分自身に驚いている。

 

(日本の雪国でもGC8の時代は1.5や1.6がかなり売れていたらしい。2代目から1.6や1.8が消えて1.5に絞られたのもそれが一番売れ筋だからだろう。今も手に入るなら丸目の1.5スポーツワゴン(スポルト)が欲しい。なお、この2代目インプレッサ・スポーツワゴンに『STi』があったのは、この丸目だけだった)

 

 こういう私の考えは『エル』も賛成していて、日本やヨーロッパで『使えて遊べるクルマ』はスポーツワゴンの他は、『Legacy Touring Wagon』か『Lancaster』や『Outback』だと言う。初代は良いけれど、2代目となった『Forester』まで行くと『SUV然』としてしまってイマイチらしい。じゃ、『Audi allroad quattro』かと思うと、あっちは重過ぎて良くないという。5ナンバーのBE/BH系も3ナンバーになったBL/BP系も、どっちも好きだと話しているし、私と同じで『自分だけが遊び目的に出るなら『Sportswagon』一択』とまで言い切っていた。

 というのは、私や『エル』の身長なら、ウィンタースポーツの道具と着替えを積んで、車中泊が楽勝で行えるからだ(レンタカーで試した)。車幅もそんなにないので狭い道も割と平気で行けるし、何より1.5リットルなら150万前後だ。ベンツェはおろか、オフロードバイクでも行けない真冬のゲレンデへ前の晩に走って、リフトが動き出す頃に銀世界へ足を踏み出す。最高だよ?

 

(私は寒いのは苦手だけれど、ウィンタースポーツはかなり好きで、子供の頃からスキーやスノーボードをやっていた。多分、今は『エル』以上にスノボは巧い自信がある。『エル』はスキーもサーフィンも上手いけれど、両足が固定されてしまうスノボは苦手なのだ。周囲の人には『半身になるのが耐えられない』なんて訳のわからない事を話しているが、嫌いではないようで、私が誘えばホイホイ付いて来る。けれど夜行バスは『ムカつく』のでクルマの免許を取るまで大変だった。断りも入れずに座席を倒すマナーのなっていない大学生や社会人を、今まで何人気絶させたり洗脳した事か……。1日リフト券をその人達に買わせたりもしていたから、あくどい事この上ない。いくらムカついたとしてもそれは無いだろうと思うよ)

 

 ところで私のベンツェは『SLK55 AMG』だけれど、これは全額私が出したとは言えないクルマだった。実は長年お世話になった建機メーカーのオーナーが、私がモデル業を引退するにあたって、予想外なまでのボーナス(小切手)を『今までのお礼』と称して手渡して下さったのだ。

 その際にオーナーから『それ(小切手)で総裁の姉に相応しいクルマを手に入れなさい』と片目を瞑って言われた。当然私は驚いた。すると『私も魔術師名の姓はアインツベルンだよ』と明かして下さった。『Bernhard Michel Von Einzbern(ベルンハルト・ミヒェル・フォン・アインツベルン)』……『Bernhard Wörner Harwey(ベルンハルト・ヴェルナー・ハーウェイ)』さんは、なんと五大老の一角ミヒェル家に連なる人だったのだ。

 

『もしやミヒェル家の次期当主様?』

『いや、当主は兄だ。私には魔術師としての才能がなかった。けれど商才はあった。だから父や祖父の跡を継いで家業であったこの会社をね。また、大伯父が大老を務めているのは事実だよ』

 

 またまた『エル』にヤラれていた。子供の頃からお世話になっているオーナーが、まさか魔術師の家系で、しかもアインツベルンだったとは。瞳は……カラコンだろうなぁ。髪も染めているのか……参った。事務所の件といい、こちらの会社といい、完全に手のひら上だった訳だ。

 

『クルマの事がわからなければ、ノイント老に相談しなさい』

 

 それでお祖父様に相談した。最終的に『SLK』に決まるまで、かなりの紆余曲折があった。それは巫女の姉が居たからだ。彼女は幼い頃に母と別れている。なので『SL』というクルマに並々ならぬ思い入れがあって、出逢った頃から『買うなら『SL600 6.0 AMG』にしなさいな』なんて話していた。これは93年か94年頃に出て、2001年頃まで売られていたモデルだ。6リッターもあるV型12気筒エンジンは自然吸気で、440psに61.2kg-mものトルクを発生していた。そのオバケトルクのために最初期型は4速オートマしかなかったくらいだ。

 その後、R129はR230にモデルチェンジした。ここでルーフが電動となり、久しぶりにライトが丸目になった。往年の『300SL』より大きく重くなったけれど、巫女の姉はこのモデルに惚れ込み、頻りに私や『エル』に、『免許を取ったら手に入れなさい』と訴えていた。儲けのある『エル』ならいざ知らず、私にそんなお金なんてない。だから自分で買いなよと言うと悲しそうな顔をする。お金が無いのは一緒なのだ。けれど憧れていたんだろうね。

 そんな姉を不憫に思ったのか、『エル』はマーヤさんにルオンさん、アルトリア姉さんにお母様を仲間に引き入れ、巫女の姉に免許を取らせた。これはバイクもクルマもだ。朝早くから巫女のアルバイトはあるけれど、午後からは基本暇な人だ。それに出した本がそこそこ売れて気力も充実していた頃だった。

 この直向(ひたむき)なまでの上昇思考がこの姉の魅力だろう。こういう人だから聖杯の中でも生き延びれ、周りが応援するのだと思う。けれどどこか抜けていて、今だにバイク免許の取得は私達を出し抜いたと信じていた。こっちが出し抜かれたと感じているのは大型免許取得の方だ。まさか普通から大型と連続して教習を受けるなんて誰も考えない。それもバイクとクルマの両方だ。お母様を通じて『エル』が教習代を出したらしいけれど、クルマの大型まで取ろうとするから驚いたと話していたのを覚えている。

 それで晴れて免許を取った姉に『エル』でなくお祖父様が、『SL600』の『AMG仕様』をプレゼントした。5513ccのV型12気筒エンジンはツインターボで武装され、馬力は530ps、トルクは86.6kg-mも叩き出していた。だから当然5速オートマ。外装は雪よりも白い純白で、内装は真っ赤な本革だ(私の『SLK』もこの仕様)。当然ながらこれは特注モデルで、カタログモデルではない。世界に1台だけの『SL600』だった。

 そして私達が学園に登校している間にこのクルマが届き、日中に少し走ったそうだ。そして夜、姉は母をドライブに誘った。この時ばかりは母も空気を読んだ。助手席に座り、姉の運転で出ていったのだ。ガレージからスロープを上っていくクルマを見送る私達。

 

『あんな高級車に初心者マークって……』

 

 抜群のタイミングで言うな。思いっ切り吹いた私だ。けれどそれはおいて、中々帰って来ない。

 

『どこまで行ったんだろう?』

『そう遠くまで行ってませんよ』

『じゃ、お母様が代われって?』

『いえ。きっと姉さん、泣いてしまって休憩を取っているのだと。今だけはお母様も姉さんの『お母様』ですよ』

 

 こういう事があったので、そこまで『SL』に思い入れのない私は、『SLK』にしたのだ。『エル』なんて私に合わせただけとしか思えない。

 ともあれ、お祖父様の口利きで、各所の仕上げが良くなるとわかっていたから注文した、私には過ぎたクルマが『SLK』だったのだ。おまけに凝ったせいか、まだ日本に届いていない。なので届いたとしてもここぞという時以外は、あまりフラフラと乗りたくない。そういう理由でスポーツワゴンを自分で買いたいと考えている訳だ。

 で、結局私は今年のゴールデンウィーク前に、ご縁があって丸目のスポーツワゴンのワンオーナーカーを手に入れた。色はシャイニーレッド・マイカ。前オーナーも女性で非喫煙者だ。車格は1.5でなく2.0の20N(ノンターボ/155ps/5MT)である。見付けて来たのは巫女の姉で、前の持ち主は巫女仲間でやはりスノボが好きな人だった。だからノンターボのマニュアル・ミッションなのだ。それでゲレンデで出逢った男性と6月に結婚するので(彼氏がクルマを持っているから)手放す事になったそうだ。3年……いや4年落ちに近い。けれど車検はタップリ残っているし走行距離も短い。新車価格は1,998,000円だったのが、キセノンヘッドライトやナビなどのオプション

 が付いて1,000,000円ポッキリ。色も好みだし安いと即決した。

 というのは大学へのバイク通学で雨に遭ったのだ。帰りの途中で土砂降りだ。元々バイク通学を快く思っていない両親にクルマで通いなさいと言われたが『AMG』は無いだろう。けれど新歓後に弓道部に入ったから、結局クルマが必要になった。そういう諸々の事情が重なって私はインプレッサ・スポーツワゴンを手に入れたのだった。

 

 

 パミはこの案内中、色んな事を教えてくれた。例えばコレクターとして有名でもあるお祖父様だけど、『乗って楽しいか?』を重要視していてブランドにに余り拘らないところもあって、『Porsche』から『Volkswagenwerk』に声が掛かり、『Bugatti Automobiles』から新型車を如何かと案内があったらしい。けれどクラッチのない2ペダルである事、試乗車がない事から、お試しの1台だけ注文してみると座席を合わせに来いとか煩いので、人形とわかった上で『エル』に行かせたそうだ。つまりその時点で『興味を失った』訳だ。夏か秋には残金を『エル』が支払う事で、『Veyron』がやって来るそうだ。

 

「そんな押し売りがあってたまるかって、プンスカ怒っていますよ。これまでも飛行機で騙され(社用でエアバスの旅客機を2機も購入した)ていましたからねぇ」

 

 あのセイバーにプレゼントしたという『Lamborghini Gallardo』も、来年か再来年に出るだろう『Audi R8』の『お試し』としてお祖父様が買ってみて、足回りがランボルギーニとは思えないほど良かったから『エル』にも薦めたという経緯があったそうだ。ちなみにアウディ傘下に入ってからの4WD・ランボルギーニは『やっとマシになった』そうで、それまで余り好きではなかったらしい。

 またお祖父様の哲学として、『クルマは楽しい事が最上』というのがあって、一瞬の速さや加速だけを追い求めるなら、頑丈なブロックを持つアメリカンV8に過給器を付けて、徹底的に低重心・軽量に仕上げれば大方の人は満足するだろうと話しているらしい。それでも過給器を付けたバイクには負けるだろうとも。

 けれどそういうある意味乱暴なコンセプトのクルマは昔からあって、二駆の時代でアメリカンV8の自然吸気なら『AC Cobra』や『De Tomaso Pantera』がそうだった。マニアはそこにターボを積んだりしたけれど、結局あの時代だと『タイヤが保たない』のと『二駆だからどこに行くかわからない』事で、皆んな諦めるのだそうだ。その意味でも二期目の『Nissan Skyline GT-R』は画期的で凄かったらしい。ただし、ブレーキが追っ付かない点と、四駆の新機構がダメダメだった点、欧州には入って来なかった点から、『Audi R8』の期待は大きいそうだ。だから『Gallardo』の感想を『エル』から聞きたかったらしいけれど、『エル』も一筋縄では行かない子だから、何が気に食わないのか数回乗っただけでセイバーにあっさりと譲ってしまった。どういう事だと本人に問い質すと、遠い日本ではインプレッサやランエボ、もしくは『Type-R』ばかりを集めている子だから、ハナからクルマの好みがお祖父様と全然違っていただけだった。だからこっちでも輸入品の日本車が目立つのだった。

 

「沼にハマるからと、『Porsche』と『Ferrari』を封印させておいてよく言いますよね?」

 

 その二つを封印されたら、そういう好みに偏るのもわかる気がする。そもそもラリー好きで、サーキット走行も好きなのだから。おまけにお祖父様のご指導通りのバイク好きでもある。となるとたまのドライブはオープンカーで、それ以外は荷物や人が多く載せられるクルマとなるのは必然だった。

 この他の情報として、フリューゲルも意外とバイク好きなのがわかった。しかも『エル』が姉にと、これまた珍しいドイツ版の『Zephyr 750』を贈っていた事も判明した。バイクを贈った事自体にヤキモチは焼かなかったけれど、それがよりによって『Zephyr 750』だったのには少しムカッとした。それより先にドイツに『Zephyr』の輸出車があった事に驚いたのだけれど。でも『550』『750』『1100』と、アメリカと同じものが1999年まで輸出されていたそうだ。今まで『Zephyr』なんて見た覚えが全然ないのだけれど。

 

 

 

 ついでに言うとこの庭の各家や本館に地下施設、それらにほとんど外から引いた電線の電力は使われていない。冬木と同じで地球の自転で起きる電磁場の揺らぎや、大気中に含まれたエーテルとくっついた水分子から電力を得ているのだ。冬木のビルはホテルの一室、ペントハウス型のスイートルームを、こちらが用意した電力と引き換えに借りている体裁となっていて、その伝票上のやり取りで税金対策ともしていた。あんな家、普通に借りると毎月500万以上が消えるだろう。

 だからこそ対策は万全で、賃貸人は『エル』の持つホテル、賃借人は『エル』が持つ別の法人となっている。この『別の法人』がごみ焼却場を運営管理している会社で、電力を冬木市や幾つかの企業のビルや工場に売っているのだ。日本の電力会社が太刀打ちできない超格安で。当然そうなると、供給している電力量とごみ焼却で発電される電力量が合わない事を突き止める者が出て来るものだ。

 だけどそれこそが『アイツラ』を釣る罠だと巫女の姉は言う。そんな『アイツラ』も『エル』には手を出せなかったのだ。出す前に仲間や都合の良い手駒が次々と(アサシンに拐われて)消えるからだ。おまけに『エル』はレプを人類と見做していないから『不殺の誓い』適用外だし、むしろあらゆる者を生かす方向にある『宇宙の意志』にも反するので、害虫駆除程度にしか考えていない。

『神秘』という解析できない謎のチカラを扱い、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』とか言う超常兵器を7つも持つ魔女は、お金でも財宝でも地位や名誉でも動かないから、『アイツラ』からすれば理解不能な魔王そのものだったのだ。

 けれど巫女の姉から聞いた時に私は、『エル』の言いそうなセリフが頭にありありと浮かんだ。

 

『名誉は第三者が後から付けて来る霞のようなもの』

『地位は、雇われなら服に着いてきた埃と同じ。自分で起業しないなら意味はない』

『お金は無いよりあった方が良いけれど、それがその人のすべてを表すバロメーターではない。財宝や財産も同じ』

 

 こう言えるのは、世界がガラリと変わって、お金の価値が消えても平気だからだ。例えば千円の定食を食べたい時に、お金のチカラが失くなったら? 物々交換か何かの芸を披露しないと食べていけない世界になったら? とんでもない天変地異が起きて文明が滅んでも、陸の孤島のような生きるのが困難な状況に陥ったとしても、それでもあの妹は最善を尽くして生きて行くとわかるのだ。

 自分の前に道なんて無いし、レールもない。自分が歩いたり走ったりした後ろにそれができていくだけ。要は人間力が根本的に強く逞しい。クルマの好みは違っても、こういう部分はお祖父様からしっかり伝わっている。そしてそれはある意味で、父の切嗣にも通じるものだった。巫女の姉は言う。

 

『アルさんがバーサーカーだった頃、吹雪の中を放り出されたの。ちゃんと扱えるようになるまで戻って来るなって。万年雪の結界の中だから、ヨーロッパ・オオカミの群れが生息していてね。そのオオカミに襲われた事でバーサーカーが反応してくれたのよ。『エル』が8歳なら厳しかったと思うけど、それでもあの子なら戦おうとするのが目に見えているわ。ならもっと早く反応したと思うの。それで18歳の今なら……。バーサーカーどころか理性を取り戻したアルさんでも、出る幕はないでしょうね』

 

 だからこの姉は並行世界を渡ったら、真っ先にそこの『イリヤスフィール』に降伏を薦めるという。その方が確実に救かる率が上がるからだった。ガレージから出た私はずっと考えていた。アインツベルンの本家に加わる事の意味と重さを、今更ながらに。

 

 

 

 

 

 朝、目が覚めた私は同室の姉を起こし(この姉はいつもマイペース)、それなりの服に着替えてから隣室の先生とルヴィアに声を掛け、4人で階下の食堂に向かった。その食堂は正面玄関ホールの真上にあり、吹き抜けになった本日のパーティ会場でもあるレセプション・ホールから回遊廊を巡って行ける構造だ。

 そして何も正面玄関まで行かずともこの回遊廊の各所に小部屋が幾つも並んでいて、そこでもお客は食事を摂れるようになっている。ところがどこも使われていて、空いていたのがVIP用の正面玄関の上だった。しかも相席。五大老揃い踏みなので、ルヴィアも少し驚いていた。各人にご挨拶を申し上げ、フリューゲルの引くイスに腰掛けた。彼女にチラッと聞いたら、ここはフリューゲルと大婆様が担当だそうだ。どうやら大婆にフリューゲルが頼んでこうなったらしい。

 また大婆は朝早くから、私の姉であるイリヤのセラを呼んで、小部屋の方の給仕を手伝わせて居るらしい。結構、セラを気に入ったようだ。私もあのセラにはママ達と変わらない信頼を寄せている。それくらい彼女は他のセラと違っていた。『セラ』という肉体に入っているので『型にはまった魂』はセラとして出力されるのだけど、鋳造時の御魂入れに使われたものが、どうも違うような気がする。

 また人はその人生後に『一』に還って転生する際に、世界を渡る場合があるとされている。その一方、それ以外に本人の『気付き』に寄っても『精神だけ』が並行世界を渡る場合もあると先生は話している。つまり上昇しようとする精神は、自分に甘い下降して行く精神と入れ替わるというのだ。

 良い心は、より良い世界に向かい、悪い心は更に悪い世界に堕ちていく。いかにもありそうな話だ。だから私は姉のセラはそういう心を持った人なのではないかと考えている。現に固いところはあるけれど、他人にツンケンとした態度を取らないし(並行世界でそういうセラに出会い、そこのイリヤスフィールを差し置いて姉は怒鳴った事がある)、ママ達とも仲が良い友人だ。強いて言うならエルヴァの世界のセラさんと近い。これも、彼女がそういう性格だから、より良い世界に行った証左なのかも知れない。

 弱肉強食……。奪えば奪い返され、殺せば殺される、死と恐怖が終わる事のない連鎖を、子々孫々にまで延々と繰り返される煉獄。私は聖杯戦争の起きる世界は、そういう歪んだ魂が堕ちていった世界だと考えている。セラに限らず、『衛宮切嗣』も『衛宮士郎』も、そういう煉獄を死しては再度堕ちていくのではないかという持論を仮説として抱いている。

 そして本来はこの世界も、世界ごと堕ちて行く世界だったのだろう。けれど1つ変え、2つ変え……『人々が生きていて楽しい』と思える世界にすべく、災害となり得る事象を防いだり遠ざければ、世界を包む空気や雰囲気、人々の気質やあり方までもが変化した。良い精神がこちらに集まっているのが実感できるのだ。こうなると、アラヤへの信仰も世界毎に変化するのだと想像が付くと思う。

 アラヤとは人類が無意識に持つ総体的な深層心理だ。けれどそれは世界毎の『個別』だろうか? それとも全並行世界を生きる人々の総体意思だろうか? 実は大魔導師の先生も、親友の凜もこれに答えを出せていない。けれど私はその両方を含むケースがあるという風に感じている。つまり我々の精神のベクトルが宇宙が求める使命に近ければ、全並行世界というような『均された薄いチカラ』でなく、『個々の世界に対応したチカラ』となってより実現に近づく、つまり願いや祈りが通りやすくなるのではないかという風にまで考えているのだ。

 だからこそスリップして来たおチビちゃんやクロちゃんを大切にしたいと思う。ちぃ姉さんを大切にしたいと考えている。3人の精神や魂がより良き方向に磨かれて行く事を願って。この考えは前々からあったのだけれど、あのエルヴァが流れた世界のお母様やおチビちゃんにクロエちゃん、そしてセラと知り合って、この考えが正しいという気持ちが強くなった。これらの事を考えると、帰る場所の失くなった、妹のおチビちゃんやクロちゃんが私達の下に来た事は奇蹟だ。本来、もっと『良い世界』に流されて然るべき魂であり精神なのだ。だからこそ私は、あの子達が住まうに相応しい、より良い世界を構築し提示しなければならない。美味しい朝食を頂きながら、私はそう強く考えたのだった。

 

 それには理由がある。先生が話してくれた、平行世界領域にあるという『フラットアース』だ。衝撃だった。『負の精神エナジー』を得て生を永らえるのならば、備えるために牧場や農場を作るのが知的生命体だ。けれど私達の生きる並行世界領域だと、どの世界も地球は宇宙に浮かぶ球体で、自転する事で昼夜を数え、月日を、年月を数えている。

 そして『負の精神エナジー』を発する人々は、まるで牧場の柵を飛び越えるように、『気付き』を得れば異なる並行世界に出て行ってしまう。おそらく上層に向かう精神や魂の方が、堕ちて来るそれよりも遥かに多く、やがて人が居なくなった世界は閉じられるか消えるのではないか?

 となると恒常的なエナジーを得るためには、カニ籠やウナギ籠のような罠が必要だ。それも回収しやすい岸に近い方が良い。平行世界領域にあるという『フラットアース』はきっと罠だ。『負の精神エナジー』を大量に発する『堕ちて堕ちて堕ちまくった』、他人の足を引っ張る事も、嘘を吐く事も出鱈目を吹聴する事も厭わない、拝金主義者達がハマるようになった罠だ。きっとそこは階級のピラミッド構造や対立構造が、こちらの並行世界領域の地球よりも極まっている事だろう。

 こちらの世界でも、人々を食い物にしたい勢力が蠢いていた事が透けて見える世界大戦はあった。石油利権を争う局地的な戦争や紛争、宗教やイデオロギーで対立してしまった内戦なんかもあった。けれどそれらはある程度理解できる範囲の出来事だ。私は会社を興し、一族を率いる立場でもあるので、組織や集団の利点も限界も知っている。対価ある目標には一丸となれても、理念だけでは人は動かない。宗教やイデオロギーで対立する国家は、日々食べていく事さえ困難な、対価の用意できない国と見て間違いない。日々を困る事なく食べていけ、趣味に費やす時間が取れ、生きる事が楽しいと思える人が感謝するのは、アニミズム的な概念を強く含んだモノとなり、最終的に帰するのは神なんかではなく自分を取り巻く人々であり大自然だと思う。そしてこのような考え、共通認識と言い換えてもいいが────は、人口数百人から数千までの、言ってみれば村落が限界だと私は考えている。

 だからこそ会社を成り立たせるためには、社員の地域差や背景差を埋められる、要するに『黙って動ける』対価が必要となるのだ。それが現代社会ではお金な訳だ。だから私にはブラック企業が存在している事が理解できない。私なら見合わないなと思えば辞めて次に行くし、声を上げるだろう。重要なのは、次に行くなら若く自由に体が動かせる間だけという点。中高年になった時に、それなりの仕事が得られているかどうかだから、タイムリミットは思ったよりも近いという危機感を持っているかどうかだ。

 石の上にも三年ではないが、私の場合は10歳までに芽が出なかったら、今の事業を畳んで別の事業を興す積もりだった。そして20歳までに生涯分の生活費と研究費を稼ぐ事を目標としていた。その果てにスパッと辞められない立場になってしまったけれど。

 ともあれ人と人との間にある第一の壁が親子兄弟といった家族の壁で、第二の壁が親族を含む一族、第三の壁が親族も一部含まれる村落だろうと考えている。この先にある、生まれ育った背景が異なる村落同士の交流以上となると難しい面が多々出るものだろう。そこを理解できるのなら、宗教なんて諍いの元になりかねないモノを持ち込むなんてあり得ないし、他人に押し付けるのもおかしいとわかるはずだ。だから大昔から、稼ぎに来る人が集まる『街(都会)は怖い』と言われるのだ。

 私はハサン達に最大限の考慮はするが、こちらに押し付ける場合は容赦なく罰すると話してある。とんでもなく仕事をミスればトンテキかトンカツをご馳走する事にしている。けれど古株ほど平気な者がやたら多く感じる……と言うか、楽しみにしている節まで感じられるのは何故だ?

 

 ところで昨夜の大婆様との会話だ。あの大婆様の口ぶりから察するに、きっとあの人はマアエモ・ママの魂が、お祖父様の本当のお孫さんの魂を使ったものだとは知らないし、気付いていない。お祖父様のお気持ちを考えれば、敢えて話す事もないけれど、この『気付き』は何かの予兆の気がしないでもない。それが何なのかは現段階では不明だけれど。

 

 

 そんな大婆様に声を掛け、食後のコーヒーを運んで貰った。コトリと私の前にコーヒーが置かれたタイミングで颯爽と1人の男性が入っって来た。五大老の面々に爽やかな笑顔で挨拶を交わすそいつの名は『Aloys Gabriel Von Einzbern(アロイス・ガーブリエール・フォン・アインツベルン)』だ。五大老の一角、ガーブリエール家最高の魔術師で、第12代アインツベルン総裁の筆頭候補だ。歳は29歳……いや33歳だっけか。ともかく私とは干支が一回りは違う。私が13年前に総裁に就任する時に19歳か20歳だったから、33歳で合っていると思う。

 近年稀に見る魔術の申し子は、ぽっと出の私に負け、次回の総裁選を待った。また私の魔術、『空間転移』や『異世界泡沫空間』の前に敗れても最後は笑顔で私を祝福した心根まで爽やかな人物でもある。だから12代総裁候補筆頭とずっと言われ続け、私もそう確信している訳だ。ただ、魔術には光る部分が多々見受けられたけれど、どうやら商才がイマイチらしく、経済集団であるハーウェイ総裁には届かないのではないかという噂もあった。それだけに魔術師集団であるアインツベルンの総裁のイスはあちらの家にとっては悲願だったと思う。

 けれど彼には計算があった。私の経歴や年齢、思考方法などから考え、私が何十年も総裁を務めないだろうと読んでいたのだ。だからこそ私の方も、逆に次の総裁選(13代)までに2~30年は間があるなと読めた。それが丁度いい育成時間だと考えたので、私はクロちゃんを養子に迎えたのだ。

 勿論フェアな彼だから、今回の12代を決める総裁選に家の大老を動かしたりしなかった。余計な口出しは一切させず、他の候補が他家から立つ事も認めていた。けれど第12代総裁は十中八九彼だろうとほぼ全員が認めていた。

 

「エルヴァ総裁」

 

 大老達との挨拶を終えた彼が私達の前に立った。白いスーツに淡い青のシャツ。ネクタイは少し濃い青。着こなしの難しそうな配色だけど、フワッとした淡い金髪と白い肌を引き立てている。身長は180台後半くらい? 少し痩せぎすなところが気になるけれど、人懐っこい爽やかな笑顔は昔から全然変わっていない。ルヴィアの名は知られているし巫女の姉とも面識があるのは知っている。けれど先生とは初対面だろうからきちんと紹介してあげた。

 

「こちら、私が幼い頃からお世話になっています魔法使いの先生で、名をリン・トオサカと言います。先生、こちらはアロイス・ガーブリエール・フォン・アインツベルン。次の総裁選の候補者です」

「それはそれは。トオサカ・リンですわ」

「確か時計塔に若い魔法使いが登録されたと……その名が」

「ええ。この世界の遠坂凜ですね。彼女は私の異世界同位体で、私の弟子ですわ」

「そうでしたか」

 

 そんな具合で当たり障りなく、深入りもせず淡々と話しを進めていた。実はアロイスも私にとっては、フンボルト君と並ぶ『お兄ちゃん』なのだった。そもそも私が慎ちゃんを選ばなかったら、彼がお婿さんだった。それくらいお祖父様も認める、デキる男性がアロイスだった。けれど『商才がイマイチ』って本当だろうか? それが無ければ、あのお祖父様が婿候補に考えないと思うのだけど。

 

「アロイス。あなたはガーブリエール家の家業を手伝っていませんよね? どうやって生活を?」

「魔術以外に取り柄がないですから、企業の売買やコンサルティングを」

 

 魔術で洗脳しての買収・乗っ取りか。1人じゃないなぁ。誰かと組んでいる。私は手招きして彼を横に座らせた。

 

「誰の入れ知恵ですか?」

「睨まないで下さいよ。顧客は五大老並びにアインツベルンの各家です」

「汚れ仕事を専属で請け負った?」

「まぁ、そういう事です。エルヴァ総裁。誰しもがあなたのような天才ではないですよ。自分の家であっても、末端の苦しみにまで目を光らせるなんて不可能に近い。そしてラインハルト家やラファエル家だけがアインツベルンの全てじゃない。ガーブリエール家然り、ミヒェル家然り、アーベル家然りですが、五家やそれ以外の長老家に属さない家ともなれば。一族の繁栄のためには僕のような者も必要なのは理解して下さい」

「そこまで子供ではありません。わかりますよ。ですが、よりによってあなたとは……」

 

 思わず五大老の集うテーブルを睨んでしまった。

 

「魔術師の家に生まれたなら、誰もが子供の頃に1度や2度はムカつく相手を貶めた事はあるでしょう?」

 

 あったのかよ、先生は! 優雅な顔の下ではそういうあくどい事をしてたのか!

 

「よくいう。『エル』だってあったよ。しつこくちょっかい掛けてくる女の子をぶん殴って怪我させてさ。家まで怒鳴り込んできた相手の親にすぐさま暗示を掛けて。そのイジメっ子を親に殴らせ入院するほどの怪我を負わせ、家庭崩壊に追い込んだのよ」

 

 何を言い出すんだこの人は!?

 

「ちょ、姉さん!」

「総裁~。酷いなぁ。けど、それって幾つくらいの事?」

「9歳頃かしら。イリヤの話した事は実話だからね」

「せ、先生!」

「ああ、僕が総裁に勝てなかった理由がしみじみわかりましたよ」

「この子、歴代アインツベルンの中では1番の武闘派なんでしょう? エーデルフェルトだけでなく、英霊すら味方に付けた」

「ですね」

 

 私はアロイスの耳元で囁いた。

 

「私のボディガードは見ました?」

「1人、とんでもない大男が居ますね?」

「ええ。今後、あなたが12代アインツベルンになったら私は口出ししません。あなたの方法で皆んなを導いて下さい。ですが、あなたが間違っていると思ったら、彼と60分1本勝負をして頂きます。ちなみに彼は魔術師ではありません。素人です」

「なら、そちらが不利なんじゃ?」

「ちょっと、『エル』。アロイスに何を吹き込んでいるの!」

 

 姉さんにはバレたか。

 

「いえね。総裁になって皆んなを裏切るなら、アルさんと勝負して貰うって」

「死ぬでしょうが!」

 

 そこへ大婆様がやって来た。食事を終えた気の早い人達が私と挨拶したがっているらしい。

 

「そのままお披露目に雪崩込みそうですね。では9時半から11時までと区切って告知を。私は先に着替えておきます」

 

 そうして私達というより私は、自分の自分の部屋に戻ったのだった。それは天の衣に似た式服に着替えるためだった。

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