「マスター、それは?」
「ああ……。現段階でわかっている陣営の名です」
セイバー/私、士郎クン。
アーチャー/遠坂。
ランサー/マキリ、間桐。慎二クン? 実質のマスターは義妹の桜。
ライダー/?
キャスター/?
アサシン/?
バーサーカー/アインツベルン、イリヤスフィール。
「む? マスター、マトウは確定ですか?」
「少し怪しいけれど、彼女が昨夜ワルキューレだと教えてくれたのよ」
「は? 自分で正体をバラしたのですか?」
「セイバーはご飯を食べていて、聞いてなかったのね?」
「あ、あぅ……」
「彼、お料理が上手だったしね?」
「はい。とても繊細で……美味でした」
私も料理は作るし、何度かセイバーにも出して来たけれど、どうにも口に合わないようだ。逆に私は士郎クンの料理の繊細さが今ひとつわからなかった。腕は確かだと思うのに。きっと国の違いで、日本の家庭料理に慣れていないからだと思う。昨日の夜(ほとんど今朝)の事だ。間桐の動きのお陰で姉と話す機会を得た私は、士郎クンの提案で彼の家に行った。そこでお腹が空いたというセイバーのために、彼が料理を振る舞ってくれたのだ。
ここだけの話、セイバーはかなり特殊な英霊だった。実は彼女、まだ死んでいない。最後を迎える場(カムランの丘)で、世界に祈り、こうして聖杯を求めあちこちを流離っていたのだ。だから霊体化できないという難点があった。それでも私とほぼ同じサイズなので衣類には困らない。問題は私もセイバーも、昼間だととても目立つ容姿をしている事だった。それはさておき、そんな彼女の願いは『王国の滅びを失くしたい。できれば自分でない者が王位に就いて欲しい』だった。
思うところはタップリある。現在の私達から見れば、もう歴史が確定してしまっているのに、過去を変えてどうするのだと。また、信仰だけで英霊に数えられる場合があるとも聞く。『実在』していないあなたが、どこの王国を救うのだ? とも。だけど私はそれを正そうとは思わなかった。
前者は人に言われてどうこうでなく、彼女が自分で見付けて理解するものだ。だってその滅びは政治の世界ではありがちな、人と人との綾が紡ぎ出したものだからだ。つまり王を替えても意味はない。騎士全員の顔触れからして替えないと。そして後者は、残酷な結果を招くだけだ。何故なら彼女の変えたい国は、過去にあった本物のブリテンとは異なるからだ。きっと聖杯を得ても何も起こらない。どこかの誰かが『if』物語を書く可能性が高まるだけだと思う。
そもそも聖杯に世界を変革するだけのチカラはない。それも過去となると。過去に干渉するには魔法が必要だし、歴史をやり直すとは、当時の政治・経済を全部変えるという事だ。セイバーの時代を生きた人なら、誰が王になろうとあの情勢は変えられなかったと思うのだ。騎士が全員入れ替わっても、確率はどの程度上がるだろうか? かなり怪しいと思う。
そういう諸々の理由で、私は彼女を正そうと思わない。もし後者……『実在しない』事を語らずに、前者……何億人もの未来を壊す可能性を語っても片手落ちだ。もし、周囲の人の思いがどうこうと感情論で彼女を正そうとする者が居たなら、そいつは偽善家だ。だから今後、違う聖杯を求めるにしても、そういう『自分の欲しい答えを相手に押し付ける』偽善には乗ってはいけないとだけ話してあった。だって答えはいつだって、自分の中にしか無いから。
ワルキューレか……。確かにセイバーの疑問は尤もだ。ライダーにも当て嵌まるし、アーチャーやランサーにも当て嵌まる。なんてサーヴァントを喚ぶのだろう。
私とセイバーは朝食を頂きに、アパートメント(マンション)近くのカフェ(喫茶店)に来ていた。僅か4ドル弱(豪ドル。日本円で300円プラス消費税)で、なんとコーヒーか紅茶に、トーストとゆで卵にサラダが付いて来る。これをモーニング・サービス・セットと言って、まず日本でしか見られないコスパ最強のものだった。
もちろん、牛丼や立ち食いの麺類があるのも知っている。だけど、私はオージーだ。朝はパンの方がありがたかった。もちろんセイバーには、このセット以外にコンビニかスーパーで好きなのを買ってあげる。
「マスター、私はマトウにはまだ裏があると思う」
「どういう意味で?」
「うまく言えませんが……ランサーは別に居るのではないかと」
私も迷っていた部分を、彼女は知らせようとしてくれているのか。
「幻獣に乗って加勢してくれた人がランサーだと? 確かに彼はランスを持っていたものね?」
「そこです。そこがまやかしの元となっている気がするのです」
「と言うと?」
「マスターはその部分に翻弄されず、ワルキューレという情報から裏を読んでいます。私もマスターの予測が正しいと思います。ですので加勢してくれたあの者がライダーだと……」
セイバーはこの時、顔を伏せた。セイバーと士郎クンの代わりに、彼が斬られた事を理解しているのだ。そして幻獣ごと消えた。セイバーと士郎クンに気を取られた私は、その消え方を詳しく見ていなかった。だから迷っていたのだ。そこをキチンと見ておけば、霊体化したのか、魔術で転移したのかの判断が着いていたと思う。
「ですが……それでもランサーは別に存在する気がするのです」
私は暫く考えた後、ある考えが浮かんだ。歴代のワルキューレには魔術師も混ざっていた事をだ。つまり、こういう仮説が成り立ってしまう。彼女はキャスターで、何らかの方法でランサーを別口で召喚している可能性。
「そうか……この聖杯戦争のもう一つの穴はキャスターだったんだ……」
セイバーも直感だけで話していたようで、私の仮説に『ああ』と驚いていた。
「令呪なんて誰かから奪えばいい。ましてその令呪を開発したのがあの家でした。後は魔力の調達だけです」
「はい。断定は危険ですが、サーヴァントがサーヴァントを持つ可能性も無碍にはできません」
となるとキャスターを兼任できるサーヴァントを持つ陣営が、二組以上存在する可能性も否めなくなる。
「セイバー? キャスターで召喚されても可怪しくない剣士や槍師も、昔は居たんですよね?」
「あ、はい。魔法剣士などですね。居ましたよ……マスター?」
「そうです。仮にですが、ランサーのワルキューレが万一優れた魔術師であるなら、別のランサーを大聖杯とは別口で召喚している可能性があります。更にライダーとキャスターが組んでいて、そのキャスターがアサシンを召喚している可能性もあるだろうと……。私はこれだと思います」
「え? 加勢してくれたあの者がライダーで、本来のキャスターが別に居るというのは理解できますが、どうして組んでいると? しかもアサシンをも召喚しているという考えはどこから?」
そこで私はこの考えに至った理由を話した。少し失礼ではあるけど、順序立てないとわからないと思ったのだ。
「セイバー。てんでバラバラな7つのクラス。これをどう思います? バランスが悪いと思いませんか? 剣士なら剣士をぶつけるべきと考えるのが普通ではありませんか?」
「確かにそうは言えますが、これはそう定められた……」
「命を懸けた戦争ですよ? そのルールを、見知らぬ者にイニシアティブを握られて良しとしますか?」
「つまり……クラスがバラバラなのは、敢えてそうしてあると?」
「そうです。剣技の戦いとなってしまうと、自ずと聖遺物の奪い合いが前哨戦となってしまいます。ですので、それは避けたい。そして鍵となるのがキャスターを兼任できる英霊、もしくはキャスターなのだと思います」
「どういう……?」
私はセイバーの目を見て、次の事を話した。
「生贄の4家、始まりの3家。どう見ても外来の方が多いでしょう? それらを確実に潰すには?」
「もしかして、その始まりの3家だけが必ず勝ち上がるようになっている?」
「はい、そういう仕組みがあると思います」
これを考えないなら、こういう戦いには向かない人だ。
「それで、セイバー。例えば終盤で、新たにサーヴァントが召喚できるとするなら?」
「それは! 7騎と決まって……あ」
「そうです。8騎目、9騎目が喚べる可能性があります。また、プライドの高い魔術師なら、自分より高名な過去の魔術師なんて喚びたくないでしょう。それに策略家や策謀家も多いとされています。となると余計にキャスターや、相手マスターを狙うのみのアサシン、過剰な魔力が必要となるバーサーカーは敬遠されます。では、残る4騎の中から、あなたはどのクラスを選びます? 剣士としてでなく、軍略を知る王として考えてみて下さい」
彼女のプライドを傷付けないよう、微笑み混じりの質問だ。
「む。悔しいですが、ライダーでしょうか」
「その通りです。その機動力と宝具の豊富さ。また、英霊次第でセイバー・ランサー・アーチャーの要素も併せ持つ戦術上の柔軟さ。つまり有利に事を進められる表の札がライダーで、裏の札がキャスターな訳です。セイバー、もしもの話ですが、マスター同士が同レベルの魔術師で、最初から組んでいるならこの2騎を取るのが現代でのセオリーかと思います」
「セオリー?」
「ええ。隠蔽工作や隠密行動が必須だからです。どこを歩いても、この街は民家だらけです。人の目が少なくなった夜であっても、戦いの場は昨夜の公園か河川敷、あるいは山や森のような場所に限られてしまいます。人命を無視する非道な魔術師でも、隠蔽を怠る事はできません。この儀式が開始された200年前とは、余りにも日本という国の様相が変わってしまった。ですから現代のセオリー、と」
「ああ、そういう意味でしたか」
「はい。更に先の2騎に、後半に備えた裏技を使えば。知識があれば始まりの3家をも、食えるかも知れません。おまけにあの幻獣のサーヴァントは、他者の危機に飛び込める勇敢さと清廉さを併せ持っていました。もう、完全にあなたを攻略に来ているとしか思えません」
「な!?」
「わかっていますよ、偶然だと。ですが私はこの偶然を必然であると考えます」
そうなのだ。マスターとサーヴァントは気質が似通うという。きっとライダーのマスターもそういう人なのだろう。そしてそんな人とともに、こんな戦いに身を投じられるキャスターのマスター。
「姉が話していた、その森へ来たという男性が気になります」
アパートに帰ってから、私は養父であるカールに問い合わせた。もしや私の知らない弟が居たりはしないかと。また、冬木に入っている部隊のリーダーにも、心当たりはないかと電話を掛けたのだった。
意識は戻ったし、表面上の傷は癒えたと言っても、まだまだ本調子には遠いだろうというアストルフォの容態。それと、昨夜の一戦を最後まで見ていた訳ではないが、何となく休戦が結ばれる可能性が読めた。なので本日と明日の両日は完全なオフにしようと皆んなで話して決めた。
その休戦の可能性は、一番前線に居たアストルフォの証言からの推測もある。あの猛烈なダッシュを決めたエミヤの後ろに居た女性が、アストルフォが言うにはエルにそっくりで、ランサーにも似ていたそうだ。それに驚いて脱出のタイミングを見誤った結果が今回の怪我だった。そこだけでも十分大きな理由になる。
『エルヴァ、君の事だからお祖父様のお話を聞き間違えたんじゃないの?』
それはあるかもな。双子の姉。オレにとっての双子なのか、それとも双子の『姉達』が居るのかだ。言葉は難しいぜ。そこに輪を掛けてのエルの一言だ。それはセイバーのマスターもオレの姉であると占いで出ちまった事だ。また、ベッドで聞いたランサーの正体もある。並行世界から来た、オレや姉達の妹だという────。憶測だ、当てずっぽうだと、最高とも言えるキャスターへ軽々に言える現代魔術師は居ないだろう。
つまり、バーサーカーがアインツベルンなら、オレ達もアインツベルンだし、セイバーやランサーにもアインツベルンが絡んでいる事になっちまう。突拍子もない話だけど、オレにはそういう事もあるだろうと思えた。これは運命だ。運命がそう導いてくれている。なら、流れも見えるし、そこに乗るだけだ。そう結論付けてのオフだったんだ。
目の前をエルとクロエが姉妹のように手を繋いで歩いている。オレとエルとクロエの3人は、商店の建ち並ぶストリートに来ていた。アメリカじゃ、どこもでっかいスーパーだ。クルマで行ってカートに1週間から10日分の食材を買うのが普通だった。だけどこうも街がちまちましたニッポンでは、その都度買い物に歩いて行くらしい。だから家で料理をする人がやたら多いのだとも聞いた。
外食の飲食店も多いのに、こうも小さな店が並ぶとは。このストリートにはアメリカほどじゃないが、スーパーもあるのにだ。お互いに食い潰してないか? それが心配になる。
ともかく、『姉を救え』が『姉達を救え』だという可能性もある。エミヤの動きを見逃したのが、ここに来て響いてるな。
「エミヤに会うか」
ホームもハイスクールもわかってるんだしな。
「エル、アサシンは?」
「今はそのエミヤを護らせています」
「助かるぜ。それとトオサカの動きは?」
「あちらも昨夜交戦があったらしく、アーチャーが怪我を負っているようです」
この情報はいくつかの点から、何かクるものがあった。調査ルートは多眼の虫、オレの監視カメラへの干渉、アサシンと、エルならいくらでもあるだろう。だけどそれよりも『アーチャーが怪我を負った』という、この情報から導き出されるものの方がオレにはキた。
バトル・ディスタンスが一番離れている、言ってみれば狙撃に徹すべきアーチャーが怪我を負った。つまり距離をある程度無視できる宝具合戦になったか、柄モノの距離に持ち込まれたか、あるいは敢えて乗って返り討ちにあったかだ。
「相手は?」
「おそらく、隠されたランサー」
そんな気がした。本気で『強いランサー』を、ランサーは持っているんだ。自分のディスタンスに持ち込みたくとも、あのトオサカと『同行』ならどうしようもない。アーチャーはマスターを護りつつ闘わないといけなくなる。もはやこれでトオサカは敵ではなくなった。魔術の腕は知らないが、バトルはアマチュアだと露呈したからだ。
正直、姉達と闘う羽目になったとしても、勝てる芽があるとオレは睨んでいる。けど、あの『妹』には勝てる気が一向にしなかった。まず間違いなく、その『強いランサー』に鍛えられている。そんな時間が過去にあったればこそだろう。おそらくは『ソイツ』の宝具の天翔ける馬に跨がれ、抜群の神秘を秘めた矢を扱えていた。しかも腕がやたら良い。そんなのがマキリに着いている。
そこをオレは運命だと感じた。何かが起きて変化する。エミヤからセイバーのマスターである姉と接触しようと考えたが、そうとなれば先にマキリと接触するのも面白いかも知れない。
「どう思う?」
「100g4千円が高いのかどうか。私には一向にわかりません」
気づけば、目的のミートショップだった。血になるものを食わせようって事で、ステーキはどうだとアントニーと相談したら、アストルフォまでがベッドから身を乗り出して賛成したんだ。それでオレ達が買い出しに来ていたって訳だ。
「1ポンドならいくらになる?」
「450gですので、1万8千円。ドルに換算して185ドルくらいです」
オレの『どう思う?』を肉の価格と勘違いしたエルの言葉を、クロエが数値化してくれた。だけど、高い! 高過ぎだろ! リブアイの良いとこよりも高いじゃないか!
「あ、マスター。プライスタグのところに『KOBE BEEF』とありますね」
「え? ああ、そうか……。ここだと本物だろうな。よし。奮発して、それを買うか」
付け合せや他の料理はエルとクロエに任せ、オレは『KOBE BEEF』を4ポンド買った。サーロインってとこしか無かったけど、まぁ良いか。合計で745ドル。支払いは7万2千円。財布が一気に軽くなった。と言っても、今使っている家の鍵を先にフユキに入っていたエージェントから預かる際に、祖父さんからだとニッポンの銀行のキャッシュカードと、現金で300万を渡されていたんだ。軍資金って事だろうけど、口座には3千万も入っていた。学生の身分だと随分な金額だが、英霊を喚んでの命懸けのミッションともなれば、案外と安いのかも知れない。かつて、親父はいくらで請け負ったのか気になるところだ。
それはさておき、この頃ちょうどニッポンの1万円札のデザインが変わっていて、紙幣が新旧混ざっていた時期だった。表の人物は同じだが、裏のバードがぜんぜん違う。旧がサンダーバード、新がジャパニーズ・フェニックスだ。だけど偽札と疑われる事は無かった。後々、ニッポンは先進国の中でもキャッシュレスが遅いと聞いたけれど、こういう小さな商店ストリートがどこにでもあるなら、それも当然だと思えた。
また雑踏を歩く客に、ママさんがやたら多く感じた。皆んな冷凍モノや出来合いのモノでなく、その日に並んだ野菜や魚を買っていた。きちんと家で料理ができる。こういう良いトコは、ずっと残って欲しいなと思ったものだ。プラスチック・バッグ(ビニール袋)が今も使われているのは頂けないけどな。
買い物も終わり、帰ろうかという時にクロエが甘い匂いに誘われた。しかもその店の前に白いメイドが見えた。セラってメイドと、もう1人はハルバートを持っていたメイドだ。あちらも買い物らしく、それなりの荷物を抱えていた。この店に立ち寄ったのは、きっと自分達へのご褒美(お駄賃)なのだろう。しかし……あの森からここまで買い出しとは。不便だなぁ。
「セラさん」
「おや、あなた方は……。割って入って下さったサーヴァントにお礼を伝えて下さい」
「え?」
「いえ。あの場で、もしセイバーを斃していたら、事態がややこしくなった可能性があった事がわかりましたので」
そうして、お礼の気持ですと『回転焼き』という食べ物を奢ってくれた。
「お幾つ必要ですか?」
「う~んと。1人2個として10個」
クロエが乗せられた。こっちの人数をバラしてどうすんだ? そこは嘘でも、『では10個』で良いんだよ。さっきの会話から休戦協定が組まれたのは確定だ。となると各々が、それぞれのバックに、それぞれの疑問を問い合わせている事だろう。オレは礼を言ってそそくさとその場を去った。なぜなら、セラさんはジッとエルを見ていたからだ。ある意味、最大の謎だろうからな。
ショップ・ストリートから横道に入った。来た道とは違うが、何となくこっちの方が近いような気がしたんだ。重い荷物は、全部エルが魔術的な空間に入れてくれている。オレの財布の拡張空間と同じだ。エルの時代からあったんだなぁ。アインツベルンって、絶対にエルから端を発しているよな?
「待ちな」
突然、横合いから声を掛けられた。ギョッとして右の脇道を見れば、青い髪の獣のような男だった。後ろ髪だけ伸ばしているヘンな髪型、両耳のチャラチャラした飾り、丸いサングラスにアロハシャツ。何か売り付けられそうで嫌な感じがする。
「押し売りか強盗か?」
「違ぇ~よ。ショボいもん売って旅費を稼ぎたい訳でもねぇ。そこの女。お前、キャスターか?」
エルの顔色が変わり、俺とクロエを自分の後ろに押しやった。そうして相手を睨みつけた。
「何者か?」
「わかってんだろ? オレがランサーだ。ちょっと顔を貸せ」
そいつが背を向けた瞬間に、50人以上の気配がした。知らない間にそれだけのサーヴァントに囲まれていた。
「エル?」
「悔しいですが、今はおとなしく着いて行きましょう。しまった……秘匿されていたランサーまでもが魔術を使えるなんて……」
「それで、アイツの気配に気付かなかったのか?」
「はい、すみません。ただ……この囲んでいる者達も全員アサシンです」
「嘘だろ?!」
思わずエルの顔を二度見した。オレ達の方のアサシンは、以前、別のアサシンが存在する可能性を話していた。姿や気配を隠しながらだけど。だけどその時に言った『百貌』という言葉。その意味がわかった。
(エル、魔術が使えるのは、あの女の子のランサーと、このランサーの2人って認識で良いのか?)
〈私の方のアサシンが、教団の中には魔術が使える者もいたと話していましたので、あのアサシンも魔術が使える可能性はあります〉
こんな多人数のアサシンが本当に存在するのか? マスター側の供給魔力を考えれば、魔術による分身か分裂という線もある。
(何てこった。女の子のランサーが並行世界の妹って情報だけでも気が重いのに……)
〈ですが、会ってみたいと話していましたよね?〉
(まぁな。多分、この情報だけはお前のお陰でオレ達が一番早い筈だ。何で並行世界を渡って介入してきたのか……)
〈あなたのように、あちらのお祖父様に頼まれたか、それこそ姉の依頼か〉
(だな。つまり、並行世界のオレは魔法使いか?)
〈それはないと思います〉
その理由は────根源に触れ、魔法を得てしまうと、生命としての次元がシフトして、通常の人間では無くなるからだった。つまりブッキョーでの悟りを得た人のように、輪廻の環から外れてしまうんだ。そうなると名声・功績があって信仰を得ても、世界が捕まえられず英霊にはならず、エルでもトレースできなくなる筈だという。それなのに、その姉の存在は感じられるらしい。
〈少々奇妙に感じるのは、きっと魂や意識を分割運用しているからだと思います〉
(分割してどうすんだ?)
〈クロエのような肉体に入って、別行動ができますね〉
ああ。魂を宿さないで身体だけを利用するのか。けど、意識の分割って……。分割思考の極まったやつだな。そんなのできる奴が居るのか。
(こっちのアサシンは『百貌』と見破ってたろ? なのに動きが追えなかったのはどうしてだ?)
〈分裂もありますが、気配遮断できるアサシンに、気配遮断の魔術を重ね掛けていたからのようです……〉
アドバンテージはあったんだ。分裂できる『百貌』も動いているって、オレ達だけが気付いていた。なのにトレースできなかった。その理由が、スキルの上に同質の魔術を重ね掛けていたからだとは……。現代の魔術師が、エルの目を盗むほどの魔術を使うって……天才かよ。
(けど、そんな天才でもヒトはヒトだろう? クラスを取っても英霊みたいに動けないだろうに。身体強化の範疇を越えてないか?)
〈そこですよ。後世に産まれた、私の知らない神秘を扱えるのかも知れません〉
(とんでもないな……)
こうやって考えると、先導するランサーより、姉(並行世界のオレ)に鍛え抜かれた『妹』の方が脅威だった。
「殺風景なとこに呼び出して悪いが、まぁ座れや」
そこは小さなパーク(公園)だった。アサシンが2人寄って来て、ランサーに缶の飲み物を手渡していた。
「お前ぇらもいいぞ。これで適当になんか買って食えや」
そう言って金を渡していた。それでオレ達には缶の飲み物を配ってくれた。
「アツッ! ホット!?」
テキサスにも倫敦にも、ホットな缶入りなんてなかった。と言うか缶飲料そのものが珍しい。あっちでは全部ペットボトルで、ホットは陶磁器のカップなんだ。だから驚いた。オレとランサーはコーヒー、女性陣にはティーだった。お礼にとクロエが回転焼きを渡していた。
「おお、あんがと。でだ、ライダーは無事か?」
え? そう来るのかよ。気付いた時は遅かった。クロエが『もう大丈夫』と答えてしまった後だった。
「つまりマスターは2人で、ライダーとキャスターは組んでいたと。友人か?」
仕方ない。
「ああ、親友だ」
「そうか。参ったね。心置きなく闘えねぇな?」
「え?」
「だからよ。これでトオサカ以外、アインツベルンが噛んでいるのは決定だろう?」
そう言いながらランサーは片目を瞑った。並行世界ではあるけど、自分もアインツベルン陣営だという意味だ。クロエのミスに対する彼なりの礼儀らしかった。
「敵なのか?」
「ん?」
「オレは姉を救けたい。それでもって、この災厄しか産まない儀式を止めたい。それを邪魔するなら……」
ランサーはオレを立たせた。
「邪魔するって言ったらどうする?」
「邪魔できないようにしてやる」
「ほぅ? どうやって?」
「こうだ」
空間拡張の真逆。空間圧縮。こんな魔術を、無限に拡がる外で掛けても意味がない。だから変な方向にオレの魔術は作用してしまう。空間のすべての圧がランサーを押し潰す。けど、サーヴァントには効かない。実際は固定化するだけだ。
「オレは不出来な奴だけど、これだけは得意なんだ。全部終わるまでそこで立ち呆けだ」
声も出せない状態なのに、コイツは瞼で合図を出した。だから魔術を解除した。
「ふぅ~……。ハハハハッ、良いぜお前。気に入った。オレの本当のマスターに逢わせてやる」
「合格か?」
「なんだ、わかってたのか?」
「いや、あんたの態度でな」
こんなものじゃない。オレの魔術なんか効かないくらいわかっていた。だけど、ここは意地を見せるところだった。そしてそれにランサーは応えてくれたのだ。詮索はしないが、本当に英雄らしい英雄だ。きっと全世界の伝承を掻き集めても、5本の指に入る高名な英霊に違いない。
「お前ぇの名は?」
「エルヴァだ。エルヴァ・ハーウェイ。魔術師名はエルヴァ・フォン・アインツベルンだよ」
「あいつが男になると、こんな兄(アン)ちゃんになるんだな……」
その呟きは聴こえないふりをした。なぜならエルをキャスターだと断定していたのに、敢えて無視してくれているからだ。そしてそれは『本当のマスター』には、全部正直に話せという意味を含んでいる。だから話はこれで終わり。本気で強いと思えた男は『じゃあな』と、とても軽く去っていった。
「私も覚悟が必要なようですね?」
「ああ」
エルも全部話すべきだと覚悟を決めたようだ。それを見てクロエがオレと同じようにエルを心配していた。きっとこの分だと、家もとっくに突き止められている。待っていれば何かの合図があるのだろう。だからまっすぐ戻って、肉を食って、今日と明日は英気を養おう。
昼休みは衛宮を伴って生徒会室に逃げた。僕の弁当を『一』が用意してくれていたからだった。教室で蓋を開けて飛び上がった。朝の何時から作っていたんだっていうくらい凝りに凝っている。こういうのはマズい。だって衛宮という先例があるからだ。哀れ衛宮は、かつておかずのほとんどを他の男子生徒に奪われるという酷い目に会っていた。これは食堂派の僕でも耳にしていたんだ。だからすぐさま蓋を締め、衛宮に声を掛けて生徒会室に向かったんだ。
「慎二が弁当って珍しいな?」
「ランサーだよ。どういう英霊なのか、料理が巧いんだ」
「あ、それで桜……」
「桜の名を、前に出さないようにしてくれているランサーの気遣いを無碍にするなよ」
「……悪ぃ」
そんな訳で、この生徒会室の主である柳洞には気取られぬよう、上手く話を回しながら弁当を頂いた。鯖のソテー(ハーブが効いている)に、鶏肉と大根の煮物。茹でたブロッコリーに、チリメンジャコの入った玉子焼き。モヤシとカイワレの和え物(辛子マヨと酢?)には、細かく刻んだハムが入っていた。ご飯も詰めたのもでなく、全部俵型のおにぎりで、ふりかけと煎りゴマが交互にあって、味付け海苔は別添えだ。漬物は黄緑色のピーマンの微塵切りと、黄色いタクアンだった。
彩りはまぁまぁ。だけど女の子っぽさはあまり感じられない。ところがその味付けが桜だけでなく、クラスの女子までもが料理相談を持ち掛ける腕自慢の衛宮をして声を失うしかないものだったんだ。
「冷めても美味しい料理を知り抜いているな……」
柳洞も目を瞠っていたし、一切れ分けてやった玉子焼きに唸っていた。ダシ巻きではないけど、似たような下味が付けてあると衛宮が話していた。
「間桐、好き嫌いはどうした?」
柳洞には日本オタクなロシアの親戚が来ていると話してあった。これは先日の弓道部での一件で思い付いたものだ。
「これには文句言えないだろ?」
実際、僕は『一』の料理も『三』や『七』(この3人が台所に立つ事が多い)の料理にも文句を付けた覚えがない。確かにこれまでも僕の苦手な食材も時々出ていた。それでも『こんな味だったのか?』と再発見してしまう調理法なんだ。要はアレンジが豊富で味付けの幅が広いんだ。鯖なんて大っ嫌いな魚だったのに。
ちなみに僕は『四』と『六』にまだ逢っていない。『二』と『五』も一度きりだ。これに関して『一』は、7人揃うのは『終末の刻』だと話していた。
それはさておき、良い機会だから柳洞に幽霊に付いていくつか尋ねてみた。
「柳洞はさ。幽霊や人魂って見た事あるかい?」
「そんなものしょっちゅうだ」
しょっちゅうと来たぞ。そういやこいつの家は本堂とは別にあるんだが、裏手が墓地だった。
「そんなに?」
これは衛宮。
「うむ。夜中に勉強しておったら、窓の外で舞っているのをよく目撃するな」
衛宮が驚いていた。僕としてはやっぱりなという感じだけど、少々意外でもあった。だって一成と取り分け仲の良い衛宮なら、こういう話が今まであったと思うからだ。
「幽霊は?」
「うちは寺だぞ? ちゃんと見送っとるのだからそうそうは出ん。何だ、間桐。見たのか?」
「ああ……」
「どこでだ?」
「それは、まぁ墓場だ。柳洞寺じゃないけど」
「ほぅ。土葬であれば腐敗した人体から発するリンが……」
「火の玉じゃない。お前の言うように舞うように飛ぶオーブだよ」
「なら、紛う事なき人魂だな。経の一つでも唱え、あの世へと送ってやるが良い」
唱えられるか。
「間桐、幽霊も見たのか?」
「ああ、何度か見ているよ」
「慎二、見たのか!?」
衛宮……お前、そんなのでよく聖杯戦争なんかに……。サーヴァントが幽霊の上位互換だとは思わないらしい。
「まぁな。そこで柳洞に訊きたかったんだ。黒い幽霊と白い幽霊の違いは何だ?」
「おお、よく見ておるな。よく黒いのは悪霊、白いのは普通の幽霊と言うが、一概にそうとも言えん。昼か夜なのかで見え方が異なる場合もあるし、こちらに長く居過ぎて、垢のように余計なモノを纏う場合もある。また、取り憑かれて黒くなる場合もあると聞くな」
ああ、取り憑かれてか……なるほど。
「一成、そんなに幽霊って出るものなのか?」
衛宮が尋ねた。
「そうそうは出んが、それらしき現象は見た者も居るだろう。衛宮、幽霊と言っても元は人だ。死んで間もなく、天の迎えにも気付かぬなら、それは寂しかろう。拠って見る者が見れば、存外と雑踏にこそ多いものなのだ。肝試しなどで夜中に歩くなら、墓を巡るより遊園地やデパートの方が霊体験は確実だろうな」
これは納得だ。学校に怪談話がちょくちょくあるのも、昼間に人が多いからだろう。では、いつまでもお迎えが来ない(シフトできない)霊は?
「死に方にも拠るのであろうが、そういう長くこの世に残るものが悪しきモノに取り憑かれ、同じ悪しきモノに堕ちると聞くな。だからこそどの国も死者へ経を唱えたり、経典を唱えたりするのだ。これは仏教もキリスト教もイスラム教も同じであろう。衛宮に間桐よ、事程左様に葬式とは大切な儀式なのだぞ?」
「……そうか」
なるほど。葬式も儀式な訳だ。これは興味深い話だった。この後も柳洞は自身の霊体験を語ってくれた。こいつの人柄なのか、恐ろしい目には遭っていないようだ。中でも、毎朝登校時に挨拶を交わしていた、自宅の玄関前の道を清掃する檀家の老婆の葬式が、学園から戻ると行われていたという話は驚いた。と言うのは、亡くなる前は病院に入っていたらしいからだ。つまり柳洞は、その老婆の生前、入院中は生霊に会い、葬式の朝は幽霊に会っていた事になるのだ。
「一成と声を交わすのが、お婆さんの楽しみだったのかな?」
「どうであろうな」
「別れの挨拶か、単なる習慣か。衛宮も死んだら台所に出そうだ」
「慎二、どういう意味だよ」
しかし、学生にとって昼の休憩時間は異様に短い。気付けば予鈴が鳴り始めた。なので慌てて教室に戻る僕達だった。何せこの3人、同じクラスだから遅刻すると目立ってしようがないからね。
5時間目の後の休み時間に遠坂へ手紙を渡した。勿論、誰にも気付かれないよう、先に霊体化しているアーチャーを呼んで、彼から遠坂に教室前の窓枠に挟んだ置き手紙が行くようにした。中身は昨夜の顛末に付いてと、休戦協定に付いて、そしてライダーとキャスターが組んでいるらしき事と、敵ではない可能性に付いてだ。文章は5時間目に書いた。僕が思うに、この戦争を望んでいるのはバーサーカーのマスターの後ろに居る奴と、審判役だけのような気がする。
ジジイも杖になってから聖杯なんてどうでもいいようだし、ランサーもそんなものを望んでいないように思えた。また、それはセイバー陣営も同じだろう。むしろ衛宮があちらに付いた理由を想像すると、被害を出さずに終えたいからだとわかる。若干、僕の願望混ざりだけど、ライダーとキャスターの陣営も同じ気がする。
そこまで考えて、6時間目に閃いた事があった。これは帰ってからジジイに確認しよう。
部活を終えて家に帰ると8時前だった。僕が登校する前に風呂を沸かしていたジジイは、その後一眠りしてから、庭の端にある日本家屋へ着物を取りに行ったようだった。応接室で相対する今のジジイは、例のコスプレでなく丹前姿だったのだ。
「お祖父様」
『何じゃ?』
「今回の聖杯戦争は、儀式として聖杯の降臨を純粋に求めていたのは、バーサーカーのところだけですか?」
『多分、そうじゃろうな。ユーブスタクハイトは壊れた機械も同然じゃからの。条件が整ったのが3回目としても、4回目の前回を見れば失敗法じゃと見切りを付けようぞ。まともならな』
それをあんたが言うんかい!?
「で、ですね。僕が思うに遠坂は仕方無しの参加で、他の陣営はこの儀式を終えるために動いている気がします」
『うむ。儂もそう思う』
「それと……どうしても、この儀式を続けたいところが、もう一つ思い浮かびました」
『ほぅ。言うてみい』
「はい。それは聖堂教会ですね?」
『その通りじゃ。理由は?』
「災害を起こしたいから」
ジジイが頷いた。
『あの神父は滅びの様を見たいだけじゃろうが、教会は違う。そこに気付いたか?』
「はい。どさくさ紛れの子供の誘拐」
『そうじゃ。聖杯戦争の戦争とはサーヴァントどもの戦いを指すだけではない。その災害が子供を誘拐するのに好都合じゃからよ。前々回は戦争前じゃが、前回はバブルが弾けた後とは言え平和な時代じゃ。軍や機密組織が嗅ぎ付けただけではない。前回で味を占めた奴らが、大規模な人身売買を目論んでおるのが今回の第三の軸よ。ヒントを与えたとはいえ、ようそこに気付けた』
第三の軸。一つは知っての通り、魔術師による儀式。二つは軍の情報局関連やスパイによる動き。そして三つ目が人身売買用の子供の確保だったんだ。この聖杯戦争を終わらせるとは、この三つを食い止めるという事だった。前回、子供を確保できたのは、偶然の要素が大きかったようだ。しかし、今回は相当綿密な計画が立てられている事だろう。ジジイのヒントも大きかったが、あの血みどろの幽霊の存在もあった。その無念はどれだけ深いのだろうか。それを思って僕は身震いした。
『そう心配せんで良い。こちらも手は打っておる』
ジジイが言うには、あのアラブ人は僕や桜の護衛もあるが、基本は情報収集と誘拐組織の者達を捕らえるための人員だという。既に30数名、知らない間に捕まえてあるという。
『これは儂ら魔術師の復讐でもあるんじゃ。慎二。魔女狩りとは何も女だけが狩られたのではない。あれはカバールどもが、己の悪魔崇拝を誤魔化すために罪を擦り付けた結果じゃよ』
中には悪魔崇拝をしていた魔術師も居たそうだが、ほとんどは自称錬金術師か、毛が生えた程度の魔術しか扱えない程度の者ばかりで、それは現代の科学者の前身みたいなものだったのだとか。それら神秘と言うより、科学の萌芽を探求していた人達が大勢犠牲になったという。
ジジイは言う。真の悪はバチカンや他の宗教団体、或いは各国の王室に巣食っていると。あのアメリカもイギリスも金融で嵌められ、とっくの昔に国ではなく傘下の会社にされていると。それを統治統括するのが、ワシントンDCとシティという特区なのだ。調べてみると良い。首都とされるワシントンDCはまだしも、同じ倫敦内であるシティまでもが、行政体系も徴税体系も異なっている。またこのような会社組織なのに、英国王室が今も残るのは、あの家もカバールでありローマから残る十二家の一つだからだ。
これはカナンに渡った偽ユダヤ(ハザール/黒いユダヤ/サンヘドリン)とは別の、欧州王家(ハノーヴァー朝に端を発する)や貴族(ハノーヴァー朝を築いた)のグループ(300人委員会)で、彼らがバチカンを支配する白・黒・灰の法王(今は途絶えたファルネーゼ家やオルシーニ家などから端を発している)を牛耳り(サヴォイア家)、第一次や第二次の戦争を煽ったり、ロシア革命などを促した、偽ユダヤどもを操っているとされる。
いや、操っているは語弊があるか。偽ユダヤは世界の歴史をも動かすファンドなんだ。ただし、そこに投資する顧客は常連の王侯貴族に限られ、一般人が何万人何億人死のうとも、必ず彼らだけが儲かるようになっているんだ。だから持ちつ持たれつで手を組んでいるが正しいだろう。
そしてアンチエイジングの手法として、子供との性交を望み、生き血を吸い、松果体を食らう。世界を支配する悪魔は、僕達一般人が近寄れない、著名で高名で大金持ちで、対外的にも身分の高い者達だったのだ。
『慎二。怖いか? 斃すべき相手の大きさに慄(おのの)くか?』
「…………」
『あのオーストラリアから来たというアインツベルンの娘』
セイバーのマスターで衛宮の……。
『あ奴も5~6人ほどの傭兵を陰で使っておるようだ。教会の手の者と数回交戦しとる』
あ。
「もしかしてあっちは最初から……?」
『衛宮の小倅に話しておるのかどうかは知らぬが、前回も聖杯を求めて出ておったセイバーをして納得させたのは、人身売買の件を話したからじゃろう。儂の持つ情報では、前回セイバーは目の前で誘拐犯に子供達を殺されておるからの』
「英霊なのに、護りきれなかったのか?」
『おうよ。かつての儂と同じよ。つまらぬモノに眼(まなこ)を晦(くら)ませておれば、真の敵は見えんし、勝利の女神は微笑んでくれんよ』
ジジイはあのニューヨークのWTCに突っ込んだ飛行機、その2機目はハイジャックされた民間機でなく軍用機だと言った。そしてビルの倒壊は間違いなく解体爆破であると。壮大な保険金詐欺であり、イラクやイランと戦争を行うための偽装された口実作りだったという。
『あの時は株で儲けたわ』
何でも倒壊したビルに入っている会社の株をカラ売りしていたのだとか。その後は軍需産業の株でも儲けたという。
「お祖父様もカバール!?」
『馬鹿言うでない。闘うには軍資金が必要じゃろう? 蟲どもに情報を集めさせるのは当然じゃ。第一次の時も第二次の時も使った手よ』
つまり、あの同時多発テロが起きる事を事前に知っていたし、世界大戦が起きる事も読んでいたんだ。
『慎二、聡い者は理解されんものじゃ。見えておるものが周囲と異なるからの。お前はこの世の中が、嘘で固められておる事に気付いてしまった。桜がどうこうでなく、それが辛かったんじゃろ?』
「お祖父様……」
『巨悪を斃したいのか、適当に巻かれながら生きるのか、それは知らんし、どちらを選んでもお前の人生じゃ。お前の腹の中では魔術師の間桐は桜に頼むつもりじゃったのであろう? 頭に来ておったのは衛宮の小倅か?』
そうだ。僕は衛宮に腹が立っていた。才能があるくせに、自分もそう望んでいるくせに、本当の事が見えてない。
『現段階ではどうなるかわからんが、小倅はオーストラリアの娘が拾うのではないか。手を組む時が来るのは、奴がそこで鍛えられた後じゃろう』
僕はジジイを見つめた。今は僕の身体なんだから同じ顔だけど、僕よりも精悍に見えた。きっと若い頃はそういう顔だったのだと思う。
「衛宮は……元を断つという発想ができなくなるくらい、いつも目の前の事に振り回されて……」
『じゃろうなぁ。今のままでは中東などに行って、そこで終わるじゃろうな。が、あの娘が拾うなら変わるじゃろう』
僕はそこに希望を見た気がした。