※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第四部 ホムンクルス篇   作:炭団

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ここより第三章です。お兄ちゃんの思い出は、こちらでも少し出します。


第三章 魔眼蒐集列車事件篇
80、魔眼蒐集列車事件 Ⅰ


 魔眼のオークション専用列車の出発はいよいよ明日の夜だ。駅までの道中は、エルメロイⅡ世先生がお迎えに来て下さる。持っていく衣類などを詰め込み終えたカバンを玄関脇に置いて、私はダイニングでコーヒーを啜りながらまったりしていた。

 この時計塔から借りている家は職員用で、ここでは二戸一が3棟並んでいる。『ここでは』という意味は、テムズ川のこちら側にこういう棟が幾つかあったからだ。要は街の歯抜けになった土地を買い上げ設計図を使い廻し、こういう職員用の家を建てているのだろう。ただこの家は本来職員用で、教員や講師、学生の寮は別の建物となる。例えばエルメロイⅡ世先生の自宅は(割と御近所)、4階建てアパートの2階にあるのだけれど、時計塔が斡旋しただけで大家さんは時計塔とは関係ない一般の方だったりする。何かを警戒しているのか、気を使いたくないからかは知らないけれど、そういう講師や寮から飛び出る学生も一部には居る。魔術師らしいエピソードだ。

 一方私は、講師用の寮が気に食わず(狭いから)、職員用の個別住居へ無理を言って棲ませて貰っていた。まさか地下室に先住民が居るとは思わなかったが、調べてみるとその悪霊は家に憑いているのでなく、この土地に縛られた存在だったのは意外だった。降霊科の講師は、私が借りる予定の家がたまたまその悪霊3匹のテリトリーだったので、それを活性化(煽った)しただけだった。つまり腕試しを兼ねた軽いイタズラだったのだ。ただし、自分がそういう事をしたと記憶に残っていない者も居たので、そのイタズラが第三者に乗っ取られた感は否めない。まぁ、その乗っ取り犯人も概ね見当は付いているのだけど。

 

 なおこの家はリビングが東向きで、玄関やキッチンが西になる。南は隣の家と壁一枚で、北は裏庭に出る通路を挟んで幼稚園だ。その東に面した陽当り良好な裏庭の先には私道を挟んで公園となり、そこが良い感じの借景となっている。だから本当はそこで一服付く方が良いのだけれど、現在リビングはアルファ・ベータ・ガンマの元悪霊3人娘に占拠され、ピコピコでなく、おどろおどろしいゲーム音が鳴り響いていた。つまりこの家は2階奥の子供部屋もリビングも元悪霊に明け渡したようなものだった。

 

「バザーで安かったから買ってあげたのだけど……ゲームキューブから離れないな、あの子達……」

 

 先月(3月)ユーロで発売されたばかりの『バイ◯ハザード4』。元『地下室の幽霊』は、何故かこのゲームにドハマリしていた。『新しいのも買ってあげるよ? 何か欲しいゲームソフトはある?』と聞くと、最初から決めてあったのかそれを指名してきたのだ。当然最初に買ってあげたゲームは、ゲームキューブを買う時に一緒に並んでいた中古の女の子らしいゲームだった。だけど3人はどこからか中古で『バイ◯ハザード・コレクターズボックス』を手に入れていた。そこからこのシリーズにハマったっぽい。後で価格を知ってビックリしたのだけど、この地にン百年も居た霊だから、こちらが思っている以上に隠し金を持っているようだった。

 ああ、念の為。あの子達はトリートメント(再調整)してあるので、ウソの付けないとてもいい子達だ。そろそろ学校に通わせるべきか真剣に悩んでたところだ。

 

 ちなみにこのダイニングもキッチンにも窓はあれど、庭先にガレージが建っているので、想像以上に陽当りが悪い。だから電灯が必須なのだけれど、私は節電のために掃除と食事の時以外は電気を使わなかった。というか、2階の自室でも掃除とPC操作以外で電気を余り使わない。これはエーデルフェルトの別宅で居候している頃からで、無駄に夜目が効く私は、普段アロマをミックスしたロウソクを使っていたからだ。

『1/f揺らぎ』やら『癒やし』やらの効果もあるけれど、元々魔術師なのに普段からアウトドア好きでキャンプ好きな私が、凛から戴いたアロマ入りのティーライトキャンドルにハマったからというのも大きい。現在専用のキャンドル・ランタンは4つほど持っているが、先日その4つ目を手に入れたばかりだ。アンティーク調のブラス製で、ここのダイニングとよく合う。

 ただ光量がもっと欲しい時は、これまたアンティーク調なハリケーンランタンを使っている。ハリケーンランタンとは名の通り、ハリケーンの暴風雨の中でも消えないというオイル・ランタンで、元々は米国はニューヨークのブルックリンにあったデイツ社が謳った文句だ。けれど似た構造のオイル・ランタンが独ハーマンニアー社からも出ていて、そちらの商品名『フュアーハンド』ともども、ハリケーンランタンと呼称されるに至った経緯がある(だからといって暴風雨の中を持って歩いていい訳ではない。確実にオイルが漏れるし、事故の元だから)。

 どちらのメーカーも大小様々な型を出しているが、有名なのはデイツなら『76』か『78』、フュアーハンドなら『ベイビースペシャル276』という小型のもので、私はブロンズ仕上げの『ベイビースペシャル276』と錫メッキの『76』を日本で持っている。どちらも穂群原に編入した頃に買ったものだから1年ほど前に手に入れた事になる。さすがにそれは持って来れなかったので、今月頭にアウトドア用品店で赤くペイントされた『ベイビースペシャル276』を手に入れ(19ポンドだった。だから日本円で3000円ちょいくらい)、それをダイニングとキッチンとの間にある小窓に置いていた。この小窓にステンドグラスでも嵌め込んであれば味があると思うのだけど、ガラスも扉も何もない構造なのでオイル・ランタンを置いている。

 そのランタンの火入れ式は終わっているが、今の処はロウソクより光量が欲しくなったときの予備で、そういう時間帯になると電灯を点けるので、滅多に出番がない。なお、ランタンの明るさはロウソク<オイル<ガソリン<ガスの順番だ。ガソリン(ホワイトガソリン)のランタンは灯油も使えるのでオイル・ランタンと同じものと言っても良い。ただ何のオイルを入れたかで使い所が異なってくる。一酸化炭素の問題もあるので、狭いテントでの使用は厳禁だ。ガスボンベを繋ぐガスランタンが一番明るいが、これも屋内使用は良くない。ただ、パラフィンオイルを入れたオイル・ランタンとキャンドル・ランタンだけは、隙間風で十分換気になる。

 前者が行灯(あんどん)なら後者は提灯(ちょうちん)だ。一酸化炭素中毒なんて言葉は知らなくとも、その危険性を昔の人は経験則でちゃんと知っていたのだ。そしてロウソクも芯を太くし、蝋の部分も大きくすれば火は大きく明るくなる。星明かりで夜道を歩け、月が出ていたら十分明るいと感じていた昔の人なら、ロウソクはかなり明るい照明だったろう。

 私は懐中電灯なら麦球や豆球のものが好みで、最近出回ってきたLEDは好きではない(LEDランタンなどはまだ出ていなかった頃。なので電池を使うランタンは据え置き型の懐中電灯だった。それの蛍光灯機能付きがチラホラ出ていた頃でもある)。だから部屋の電灯も蛍光灯でなくロウソクのシャンデリアを模したようなタイプを見付けてきて、それを天井からぶら下げている。

 

 温められ素敵な芳香を漂わすアロマの香りを楽しみながらコーヒーを飲み干すと、明日から休む旨を、ベルフェバン代理から紹介されたバイト先へ念押しに報告しに出ていたセイバーが戻ってきた。カフェで働く彼女のアルバイトは、基本週に3日だ。バイクやクルマで、自分が消費した分のガソリン代を稼いでくれればそれで良いのだ。

『馬のエサ代の用意と手入れは自分でする』。昨年にモードレッドがエーデルフェルトで話していた言葉だ。これに何も感じないセイバーではない。ましてお互いに大切な友人と考えている私が、この倫敦同行への感謝としてバイクを贈ったのだ。だからこのアルバイトもセイバーから言い始めた事だった。

 

「おかえりなさい。問題なく?」

「はい。本来の次のシフトは明後日でしたが、快く来週まで延期できました」

「良かった」

 

 今回の仕事は日本で言うところのゴールデン・ウィーク期間になる。勿論それは日本独自のもので、休日や祭日も日本のものだ。なので英国のこちらは平日ばかりとなる。そういう理由と、人と会ってばかりで気疲れも感じていたので、オークションから戻って手が空いたら、セイバーと2泊3日くらいでキャンプに行きたいと考えていた。勿論、彼女のバイトの予定や私の予定もあるので難しいところもあるけれど。コペンは無理でも、ロードスターならトランクに道具を積んで何とか行けそうだし、行けるならコーンウォルかウェールズにあるキャンプ場に行きたいと考えている。

 なお英国にもキャンプ用品の専門店はある。だけど食べる事に興味がない人が多いのか、クッカー(コッヘル)のコーナーが妙にスカスカなのが私の印象だった。MSRやトランギアのものはあるけれど、『このクッカー良いなぁ』というのはない。ただ『これって普通に家庭用の鍋じゃないの?』というのがチラホラあるから、キャンプの意味がファミリーキャンプに偏っているのだと思う。つまりキャンプという行為がバカンス寄りなのだ。

 その点、ドイツ系スイス人もフランス系スイス人も、週末で晴れているならヒョイヒョイとハイキングやキャンプに行く。冬になると雪で覆われるから『太陽ラヴ』が炸裂し、老若男女を問わず外に出るのだ。今時分から夏に掛けてのシーズンは特にだ。高地(南部)ドイツもそうで、誰かしら庭先で屋外料理を楽しんでいる。まぁ、大抵ジャガイモかアスパラを湯がいているのだけど。そういう理由からキャンプはバカンスでなく、週末の行楽という認識の人が多いように思う。

 更にクッカー(コッヘル)のコーナーで感じた違和感は、英国の料理がどうこうの前に、軍用のそれが余り発展しなかったからとも考えられた。米軍のそれも同じで、英国のクッカーは料理をするものでなく、出来上がりを配って貰うものなのだ。一方旧ドイツ軍も日本軍も、ユーロの各国軍もそれで自炊しろとクッカー(コッヘル)や飯盒が配られている。旧ドイツ軍のあれを後世の人がどう捉えたかもあるのだろう。やはり行軍には便利なのだ。

 それでも軽量化が必須の登山家には自炊用クッカー(コッヘル)も重いものだったろうし、ご飯文化の日本だと小学生の間から飯盒炊飯を教えるというのはよく分かる。そして煮炊きものにはドイツのキドニー(腎臓)型クッカー(コッヘル)と、その発展型や改良型がベターであるのは間違いない。それで今のイタリア軍やスウェーデン軍の飯盒は拡張性が妙に高い(『エル』はキャンプ道具のコレクターでもあるが、こういう軍用飯盒のコレクターでもある)。あれでキャンプに行き、ご飯を炊くとどうなるのかなと私でも気になる。これがドイツ系と日系の考え方なのだろう。

 ただ、ガッカリ感の大きな英国のキャンプ用品コーナーでも唸らされるところはあった。それはティーポッドやケトルだ。何時如何なる場所でも『お茶をシバくのは本気』という異常性を感じさせる姿勢は、魔術師の持つ感性と類似性があって好ましい。表現がアレだけど、これは褒め言葉だ。隙がない完璧に近い人より、どこか穴のある、少し偏った人の方が人間らしいと思うのは誰しも同じだろう。それに伊達に協会の総本山がある訳ではないのだと知ってほっこりした。

 

 でも、クッカーは日本の方が凄いよね。モリタの流れを汲むユニフレーム製品(山シリーズ/私はこれの角型セットが好き)にFan5シリーズ(双子の姉のイリヤはこれのduoとDXの両セットと、それぞれのガラス蓋を持っていて、『エル』はduoとツアラープラス(廃番/改良型が後のごはんクッカープラス)を持っている。家族向けのクッカーなので、私もおチビちゃん達に教える上で両セットを買っていた。あのコンパクトさで家族全員分のご飯がきちんと炊けるのは凄い。難点はフライパンの小さいところだけれど、魚の煮物やソテーには丁度いいと思う)、ニュートップ5点セットクッカーや、東京トップ3点セットやホープ3点セットの流れを汲み、食器にもなるEPIのアルミ6点や3点のセット、スノーピークのアルミ・パーソナルクッカーなどは、スヴェア123Rと一緒に絶対持っていたい逸品だと思う。取皿タイプはポッチが弱いって? 柔らかいアルミなんだからポンチでバコンと行こう。注ぎ口も台座が必要だけどタガネで一発だ。

 

(『エル』はツアラープラスを手に入れた後にアルミ・パーソナルクッカーを手に入れ、どちらも業者に頼んでフッ素加工を施していた。あのパーソナルクッカーは最強だと思う。フッ素加工に何万円掛かったのかは知らないけれど。注ぎのキレが甘い行平鍋の注ぎ口をタガネで整形して使える鍋にしたりするのも『エル』なら、買ったは良いが自分の用途に合わなかったと、巫女の姉にケトルNo.1を譲り、タコパの粉継ぎにしろとアドヴァイスを送ったのも『エル』だ。当然その注ぎ口は改造してある。

 なお、『行平』とは『在原行平』の事で、須磨で海女に塩を焼かせた故事から来ているそうだ。そしてその塩を焼いた鍋は柄が付き注ぎ口のある鋳鉄の鍋だったらしい。一方急須のような土器もあって、そちらは『雪平』という。その名残りで、現代では注ぎ口のある柄付きの片手鍋を『行平』、或いは『雪平』と呼ぶ。この両者、どちらが先に名が付いたか、現代となっては不明だし、素材もほとんどがアルミの打ち出しになっている。熱伝導率の高いアルミ素材を打ち出して凹凸を付けているから、14~15cmの行平で、水を半分ほど張れば、ものの数分でお湯が沸く。軽いのでコイツをアウトドアに持って行きたいと思う人は居ると思う。けれど本来は家で落し蓋をして煮物を作るための鍋なので、業務用の高いのは思った以上に高いし(手頃なサイズで3~4000円はする)、ホームセンターでも1000円以上は覚悟した方が良い。つまりお鍋ひとつと考えれば、クッカーの方が安いよという事だ。そして100均のペナペナ中国製行平鍋は、アルミの質が悪いので人体に悪そうな粉を吹く。あれとか放射線を放っていそうな包丁とかを買って、研いで『切れるよ』という人は何だろうって思う。研げば切れるのは当たり前だ。長切れするかどうかでしょう?)

 

 このスヴェア123Rは、海の家近くで出逢った藤原優佳さんを思い出させる。彼女とは時折メールのやりとりをする仲だが、私が高等部卒業後に英国に行くと知って随分と驚いていたっけ。そんな彼女の持つスヴェア123Rは、随分と使い込まれているのにも係わらず、ピカピカに磨かれ、各部のパーツがオリジナルに換わっていてとても格好良かった。私もスヴェア123Rを買ったら、ああいう風にしたい。

 そして彼女は私が余り好きではない、背の高い円筒形のクッカー(深型)を愛用していた。ズバリ言うと、スノーピークのトレック900と700のチタン・モデルだ。長年のカタログモデルで銘品と言っても良い部類のギアだ。だけど私個人は1400や900、700といった深型のトレック・シリーズは『どうなのかな?』と考えている。お湯を沸かすのに把手を伸ばして蓋をしていると、その蓋が落ちるところが嫌だし(バランスが悪い)、湯沸やレトルトを温める湯煎には良いとしても、深型で煮物は圧倒的に不利だ。その深さが煮魚などに向かないし、底の面積の小ささが効率の悪さやムラを生み出しているように感じてならない。ましてアルミでなくチタンだと、ご飯ですらまともに炊けない(ステンレスと同じく熱伝導率が悪いから)。幾ら登山向けに軽さに拘った製品だと知っても『う~ん』となる。

 そもそも一体どれだけの人がそんな数十グラムの差に価値を見出すのか? 誰もがそんな高山に登る訳ではないのだから、マーケットがニッチ過ぎないか? 私はそう思う。何より煮魚に向かないと示したように、深型の円筒形は料理の幅が狭まる。シチューやスープしか作らないのなら、アルミでトレックより使い勝手の良い製品がたくさんあるしね。例えば『エル』がホットン社のブルドッグ・ビリー缶のセットを持っているのだけれど、そちらの方が遥かに使い勝手が良い。フタの合わせ目とか質感はスノーピークだけれどね。でも焚き火の上に三脚を組んで、ぶら下げたビリー缶で作ったシチューは雰囲気もあって本当に美味しい。

 この辺りの感じ方が、私が登山派でなくキャンプ派の証なのだろう。やっぱり料理ありきなんだよ。料理に拘る人は概ね浅型のクッカーを選んでいると思う。ランスロットさんと意気投合するのもここだ。あの人もアウトドアグッズが大好きな人だけれど、きちんと料理の事を考えている。だからあの人の愛用品はスノーピークのアルミ・パーソナルクッカーだ。

 

(後に日本に帰って結婚した後、私はスノーピークのアルミ・パーソナルクッカーを2セット買った。コーちゃんと私の分だ。子供ができて幼稚園に入る頃、キャプテンスタッグのマウントクッカー、それの12cmと14cmに買い替えた。そんな2020年前後、オーバーモントDS-300アルミクッカーセットといった類似の中華製激安セットには手を出さなかったが、コールマンのパッカウェイクッカーセット(子供用)とアルミクッカーコンボ(屋外料理の幅を広げるため)、スタックできるパッカウェイケトル、ロッジのダッチオーブンとスキレットを手に入れた。これらは大正解だった。ダッチオーブンとスキレットは重いけれど料理の幅が本当に広がったし、子供達も喜んでくれた。個人的にはコンボのライスクッカーとウォックパンが気に入っている)

 

 このパーソナルクッカーにもチタンモデルがあるけれど、断然アルミの方が料理の幅が広い。特に蓋。小で350ml、大で500mlもあるのでフライパン代わりにするという単純な発想だけでなく、枝豆を湯がいたり煮魚を作ったり、パスタソースを合わせたりできる。勿論アルミシートを敷いて焼き肉もできるし(シートを敷かないとくっつく)、クッキングシートを敷いて焼き魚も作れる。ご飯は小の方を使えば、まるでトランギアのメスティンのように固形燃料で1合自動炊きできるのも良い(固形燃料の大きさと容積で決まるから他のアルミクッカーでもできると言えばできる)。

 大小はスタックできるし、小の中に250のOD缶と小型のバーナーが入るのも良い。更にご飯を炊かない人でも必要十分な料理が可能なところが何と言っても素晴らしい。ただしアルミの蓋に直での焼き肉や目玉焼きは×だ。アルミシートは必須だし、理想を言えばお肉は鉄のフライパンか、網を用いての炭焼きに限る。万能なアルミ・パーソナルクッカーの弱点が、この焼き物だった(だからこそのフッ素加工だ)。と言うか焼き物とアルミは相性が悪いのだ。家の中でも煮詰めるためのソースパンと、煮炊用の行平鍋くらいしかアルミ製は使った覚えがない。自転車で旅をしていた藤原優佳さんが鉄のフライパンに拘っていたのも頷けるところだ。

 彼女はリバーライトの16cmのフライパン(現在は売っていない、『極』になる前の自分で焼き入れるモデル)を使っていた。特徴的な白い木柄は焚き火だとアウトだろうけど、スヴェア123Rなら問題ない。バックアップにエスビットのような簡易五徳と固形燃料、折り畳み風防を持ち運べば123Rに穴はない。五徳も広げれば大抵のものが載せられるし、丸い網か排水口の蓋を流用すればもっと多用途になる。更に藤原さんはあの日、あのスヴェアとスタッキングできるカップで私へのコーヒーを淹れてくれたのだ。それとフライパンを見て私は、この人は『旅慣れている』と感じたのだった。

 ランスロットさんの鋭いところは、業務用の柄まで鉄のフライパンを屋外で使うところだった。メーカーはエンドウ、16cm、24cm、26cmの3つを使っている。ここのはサイズが2cm刻みで揃えられ、26cmより小さいサイズだと1500円以下で入手可能で、最大の40cmでも5000円しないというお手頃価格なのだ。だから使っているプロは想像以上に多い(カウンターのある洋食屋さんに行けば何を使っているか一発でわかる)。

 ママ達や姉のイリヤはタークというドイツ製の柄まで一枚の鉄板から叩き出したフライパンを家で愛用しているが、『エル』は主に卵料理や炒めもの用として先のリバーライトを使い、肉用にこのエンドウを良く使っている。そしてアウトドアでは18cmのエンドウを愛用していた。その理由は1人前のパエリアやチャーハンが作れ、冷凍餃子が9個(1人前半)載り、200グラムのステーキやトンテキが焼け、アヒージョが楽しめるからだ。目玉焼きも卵2個分イケるし、フレンチトーストが1枚キレイに載る。料理をする女の子のソロ(バイクで行く)ならではのチョイスだ。

 そして彼女はこのフライパンを持ちたいがために、マルチツールやアウトドア・ナイフを持ち歩かない。スイスで幼少期を過ごしているのでマルチツールは大好きで、ナイフともどもかなりのコレクターであるにも係わらずだ。包丁以外の刃物を持ち歩かないというのは、一見日本の法規に添った行為にも見えるが、本音はバイクの荷物を少しでも軽くしたいからだ。ここは藤原優佳さんに通じるものがあると思う。

 因みに私もナイフ類は持たない。『エル』の影響で私も好きなのだけど(ウェンガーのソルジャーやビクトリノクスのソルジャー、カデット、ファーマーなどのアルミハンドル・モデルが好き。『エル』は両社の主だったモノをコレクションしているので、かなり詳しい。彼女はウェンガーのソルジャーとビクトリノクスのクラシック(アルミハンドル)をこよなく愛していて、レザーマンのマイクラとともに、まるでパーリングナイフ(ペティナイフの事)かのように家のどこかに幾つも置いていた)、例えアウトドアでも持ち歩かないのは『投影』した方が早いからだ。それよりかキャンプ場には使い慣れた包丁と菜箸を持って行きたい。そこが私の拘りだったりする(と言うか、これは無意識の『エル』への対抗心でもある。あんなソルジャーの小さなブレードで20cmクラスの魚を捌いたり、リンゴやナシの皮を剥く技術は特筆ものだ。そもそもアイツは穂群原初等部時代にイワシの解剖(動物愛護の観点からフナやカエルでなく後で食べられるイワシだった)で見事に三枚に卸した女だった。

 なお、プレーンオムレツを焼くフライパンでの肉料理はご法度だ。これは『伝説』にも近いのだけど、一度でもお肉を焼いたフライパンでオムレツを作ると、毎回洗ってあっても『味や風味が移る』とされるからだ。だから卵焼き器でソーセージを炒めたり、ベーコンエッグを焼いたりしてはイケないし、お肉を焼くなんて以ての外という人は多い。そしてフライパンは使うその人が育てるもので、他人が触って良いものではない。包丁と並ぶパーソナルな調理道具がフライパンなのだった。

 

 それはさておき、こんな風に業務用の道具を野外料理で使うのは賛否両論あると思うが、私はアリだと考えている。アルマイトの両手鍋(給食の調理室にあるような鍋)も、探せば16cmや20cmという小型のものがあるし、旅館などで使われている1人前用の鍋や釜も道具屋で売っている。重そうに見える里鍋や田舎鍋(囲炉裏鍋)も、鋳鉄でなく見た目は黒い宴会用のアルミ製がある。こういうのはキャンプで映えるよ。しかもメスティンの自動炊飯と同じく固形燃料1個で仕上がるのだから、利用しない手はないと思う。冬なら前の晩の鍋の残り汁を取り置き、翌朝雑炊を作っても良いし、朝っぱらから釜飯を炊いても良い。

 もし、重さと熱伝導率の低さ、価格の高さが気にならないなら、ステンレス製のお鍋もアリだ。そちらでも煮物と炊きものは問題なく行えるからね。もっと言えば現地まで運べ、焚き火に掛けて良いのかどうかを自己判断できるなら、ホームセンターで特売されているアルミの家庭用鍋や激安鉄フライパンでも良いのだ。

(焚き火厳禁だけれどテフロン加工された、キャンプ向けの少し軽いアルミ製フライパンは本当に便利だ。16~20cmくらいが多いけれど、選ぶなら20cmが良いと思う。これならサバやイワシの味噌煮もバッチリだ)

 これらの事を踏まえると、通販などに時折出るステンレス単層の激安パーソナルクッカーもどきはない。こちらも煮物、汁物専用と割り切ればちゃんと使えるのだけど、やはりご飯は三層以上のステンレスでないと美味しく炊けない。鉄の一種なのに合金になるといきなり使い勝手が極端になる。刃物とお鍋を比べて考えるとステンレスって何だろうっていつも思う。そんなステンレス鍋の最大のメリットは保温性だ。何故洋食の厨房にはステンレス製の鍋がチラホラあり、大きな寸胴鍋はアルミ製なのか、どうして和食の調理場にはアルミ製の鍋が多いのか? 答えはそんなところにある。

(なおアサシン達が森の中で使うクッカーは、人数が多いのでそういう業務用に固まっている。大型の寸胴鍋もシュウ酸アルマイトの両手鍋もあるらしいが、中華鍋を使う人とシュウ酸アルマイトの鍋を使う人が結構多いとエルマから聞いていた)

 

 ただし、例えアウトドア料理でも包丁だけはそこそこ良いものを買って持って行こう。三徳包丁1本で良いので(お薦めは船行か短くなった柳刃)、鋼の刃が使われた最低でも5000円以上のもの。こんな風に私が言うのは、ナイフは『切る』という必要最低限の性能を持った道具であって、大根を切るとか魚を捌くといった調理に特化した包丁とは根本的に違うからだ。憧れて買った格好良いナイフで、下味も自分で付けたステーキを切って口に運べば幸せだろうけど、タング(ツバ)が出ていたり、柄の高さと刃(アゴ)の高さが近いとまともな調理なんてできやしない。ましてやバトニングに耐えられる、峰の厚いナイフだと野菜が割れていく。なのでわかっている人はオピネルでも先が反ったフィレナイフを選ぶし、ビクトリノックスの料理用ナイフやパーリングナイフをアウトドア用に揃えているものだ。

 だから私は自分の小屋の前でしか料理をしないなら、まな板と普通の包丁を買った方が良いとランスロットさんにアドヴァイスしたのだった。それが最初の頃で、それ以降折を見ては料理を教えた。基本手先の器用な人だし、繰り返し練習をする人だから覚えは早かった。冬は鍋料理や煮込み料理を中心に教えて、倫敦に来るまでにセイバーを感動させるまでの腕前になっていた(裏でアーチャーさんやランサーの協力もあったと思う。何より私がランスロットさんを教える場にはランサーも居たのだ。あの人も器用で、聞いて見た物事は大抵再現できる腕がある)。

 そんなランスロットさんの小屋の壁には、各社から出ている様々な素材のシェラカップが所狭しと掛けられていた。あの人が何故アレにハマったのかは謎だ。きっとアウトドア雑誌の影響だろうけど、とにかく凄い。最初は十数個だったのが、倫敦に来る前は壁一面に掛かっていたのだから。

 

 因みに『シェラカップ』は日本での通称で、本当は『シエラ・クラブ・カップ(レプリカ)』が正しい。アメリカの『自然保護の父』ジョン・ミューアに拠って設立された自然保護団体『シエラ・クラブ』が会員に配ったアウトドア用カップがその始まりだ。知名度が上がったのは第2回配布以降、一般販売もされたから。確か販売価格の数%が活動基金に充てられていたと思う。

 そのオリジナル・カップが90年代頃までは日本でも買え(本家とかオリジナルと呼ばれていた。元の世界のお父さんや『エル』が持っていた)、それに倣って各アウトドア用品メーカーから計量メモリ入りやアルミ製(オリジナルはステンレス)、チタン製などなどが出回るようになったのだ。当然カタチの違うものやサイズ違いもあって(オリジナルは350ml)、通常は200~400ml、少し大きいサイズが400~600ml(違う呼び方があって、一部でロッキー・カップという)、もっと大きな600~1000mlとザックリ3種類に分けて考える人が多いようだ。それは使用用途がそのカタチ(浅型や深型など)やサイズ(容量)から変化するからだ。計量カップ代わりやお玉の代わりに使うなら浅型が良いと思うし、器として使うなら深型が良いと誰でも思うだろう。

 そしてコイツで熱いスープは飲めないし、調理にも余り向いていないのが一度使えばわかる。今どきなら保温機能が高い二層ステンレスのマグカップがどこででも手に入るから、それの大きめなのを買ってお味噌汁やスープを入れる方が唇も熱くないし冷めにくく、冷たいものを冷たいまま味わえる。なので私はステンレスのマグカップを幾つか集めていた。この家に引っ越してから買ったカップもグラスや陶磁器よりステンレスの方が多い。その方が便利だからだ。

 

 それとランスロットさんはキャンティーン(水筒とセットになったメスキット)や飯盒も幾つか集めていた。この理由が面白い。ご飯を炊いたり調理をするためでなく、お酒をつけるために集めているのだ。世にはお酒好きが結構居る。中には小道具に拘る人も。

 

『ええ、『王』と言っては失礼だが、『チロリ(酒たんぽ)』なる器と『燗の段階』をアルトリア殿から教わりましてね。それで『チロリを湯煎するなら飯盒だぞ』と。1号(1合)ですと2つまで燗にできます。これはソロ用のクッカーですと無理ですからね』

 

 日本酒(清酒)の『燗の段階』とは、飛び切り燗(55℃)、熱燗(50℃)、上燗(45℃)、ぬる燗(40℃)、人肌燗(35℃)、日向燗(30℃)、室温(20℃)、涼冷え(15℃)、花冷え(10℃)、雪冷え(5℃)の事を言い、何故か25℃はない。アルトリア姉さんは、そういう薀蓄を王様と来た時にランスロットさんへ教えていったそうだ。そしてやはり『ぬる燗が良い』とか『室温が最適』というお酒は、きちんと温度を測ってそのようにする方が美味しいのだそうだ。その湯煎のためだけに飯盒を集めるのが湖の騎士という人だった。ワンカップ丸ごと湯煎したり、一升瓶からシェラカップに注いで火に掛けたりしないところが拘りなんだろうね。

 そんなランスロットさんへ、飯盒と缶詰の存在と木造の小屋作りを教えたのはお兄ちゃんだったと思う。だから裏庭にあるあの人の小屋は、一部お兄ちゃんやシロウさんの手が入っていたし、床下(デッキ)からしっかり作ってあった。一応この小屋には電気も水道も通っているけれど、ガスだけは通っていない。ここが英霊あるあるなのか、ランスロットさんだからなのか、目に見えない気体が『燃え』、人体に『有毒』であるという事から避けていたのだ。同じ意味でアルコールストーブも苦手らしい。だからといって料理の度に薪や炭で火を熾すのも効率が悪い。それでアウトドア用のストーブ(バーナー)を使うようになった。ガスが平気になったのもOD缶やCB缶を扱うようになってからだ(それまではホワイトガソリンのモデルばかりを灯油で使っていた。燃える水は色や匂いが違うのでわかるという安心感があるらしい。けれど昼間の炎が見えづらいアルコールは怖いそうだ。エーデルフェルトの敷地内だし、万一の火災を思えばこれは正しい姿勢だ)。

 そんな小屋の正面から見て右側の外壁に棚を作り柱や桟を通して、波状(コルゲート)のポリカーボネートで覆った。そこがこれまで集めたキャンプ用具を保管している道具小屋だ。その道具小屋の棚に国産の『4合炊き兵式飯盒』と並んで、『ドイツ連邦軍飯盒』と背の低い『戦闘飯盒2型』があった。そう聞いて『ああ』と思う人も居ると思う。

 マニアな『エル』は『兵式飯盒』も『ドイツ連邦軍飯盒』も、10数年前に消えた掛け子に仕切りのあるニュートップの『3合飯盒』なんて珍しいものも持っているが、実際に使うのはトランギア・メスティンのレギュラーサイズか、『チェコ軍アルミ・メスキット』か、『ドイツ連邦軍飯盒』だった。ここを良く考えて欲しい。『エル』も私も食事に拘る割に身体が小さく少食だ。だから普段は1合でもご飯が多い(1合でお茶碗2杯分くらいある)。『起きて半畳寝て一畳、天下とっても二合半』という戒めの言葉があるように、お米ばかり食べていた江戸時代の人でも、成人男性は1日2.5合もあれば十分だった。日本人より身体の大きなドイツ人が開発したのが『兵式飯盒』の原型である『M31』だけれど、これも後の『ドイツ連邦軍飯盒』も『掛け子(中蓋)』が深く、その掛け子があるためと『兵式飯盒』より少し小さなサイズなので4合は炊けない(と言うか、そもそも炊飯用ではない『M31』の掛け子を擦り切り2合の計量カップにして、4合炊けるように改良したものが『兵式飯盒』だ)。

 ところが普通の日本人に4合は無駄に多い。4人分でなく5人分はあると思う。コーちゃんの家? あそこは例外中の例外。クロエちゃんの居なかった頃(お父さんもお母様も海外で活躍されていた頃)の衛宮家で、ご飯は3合だったのだ。そこにクロエちゃんとお母様が加わって4合だ。私とお父さんを加えたカレー作りでやっと5合だった。それもあって私は自然学校の練習用に円筒形の飯盒を薦めたのだ。

(因みに『チェコ軍アルミ・メスキット』は把手付き器大と小、それと蓋がセットになった浅型の食事キットで、小を外せばEPIの6点セットやニュートップの5点セットがすっぽり入るという軍用とは思えないナイスなキットだ。ただしチェコ軍部としてはどこまでも器のセットであって、これで煮炊きしようなんて考えるのは異常なマニアだけだ。だけどソロ・クッカーには向いていた。工場と営業所があちらにあるので、『エル』はビニール包装された新品を箱買いしていて、合計で20数個持っていた。1セット250チェコ・コルナだそうだから、日本円で1300円くらいだ。そしてこのメスキットは子亀の上に親亀が乗るかのごとく、小の上に大を載せて同時に火に掛けられる構造になっている。つまり蓋のない小の蓋が大の底なのだ。そして大用の蓋は上下ひっくり返して使えた。これで1合のご飯を炊きながら、蓋で湯煎ができるのだ。だから小を外して6点セットや5点セットと組みあわせるのだった。なおこの外した小の蓋として、裏返したEPIの蓋がシンデレラを越えた鬼フィットしてしまうのもお知らせしよう。また、『チェコ軍アルミ・メスキット』は把手が絞ってあるかないかの違いだけで、ポーランド軍のメスキットと同じものだ)

 

 つまり何が言いたいかというと、昔ながらの飯盒って無闇に大きいという事だ。要はソロ・キャンパーは当然だし、少人数のグループ・キャンパーにも向かないという事だ。だからメスティンやパーソナルクッカーが持て囃されるのだし、私の1番好きなクッカーが、モリタ・スクエア・クッカーの流れを汲むユニフレームの角型3になるのだ(3と2の違いはフライパンのあるなし。モリタもフライパンなしだ)。

 蓋付きの小鍋は0.5合から炊け、最大1.2合は炊ける。これまた蓋のある大鍋はパックのおでんが温められて、袋ラーメンの麺を割らずに湯がけられる。逆転させて大鍋で炊き込みご飯なら2合は炊けるし、小鍋でインスタントのお吸い物用のお湯を沸かせる。そして3に付くテフロン加工されたちびフライパンは餃子が6個(1人前)は載る。ソーセージ2本と目玉焼き1個で丁度くらいの大きさだから、魚の切り身のソテーもできるし煮魚もできる。お肉なら120グラムくらいのステーキやハンバーグが焼けるから大抵の事ができる。

 もっと言うとご飯を少量作るため専用に家に1セット、いやいや災害時の緊急用に1人1セット持っていてもおかしくない程の逸品だと個人的には考えている。

 固形燃料に拠る自動炊きなんてキャンプ初心者や料理を普段しない人が物珍しさから囃し立てているだけで、アルミのクッカーなんだから炊けて当たり前だ。少し前までは家庭用炊飯器でも1合炊きは珍しい部類だった。なのでメスティンやパーソナルクッカーの真価は、アレが家のコンロで問題なく使えるところにあったのだ。寮やアパートといった下宿先で使え、屋外でも使える。そこが凄い訳だ。そうなると煮物・炊き物・焼き物ができる角型3が最強という事になる。唯一の欠点は小さいからめっちゃ『おままごと感』が出て、調理中少し恥ずかしいところだ。

(この『恥ずかしい』という感想を男性から聞いた覚えがない。というのも私というか『エル』が、3型を手に入れたのは間桐慎一さんから薦められたからだ。当然弟の慎ちゃんもこの3型を持っていて、彼は鍋焼きうどんのアルミ容器の空きやスカウトアルミ食器(ボーイスカウト用/どう見てもEPIの中華製アルミ食器3点セット/似たような製品がユニフレームにもあるし、道具屋さんの片隅で、国産のアルミ食器セットが転がっている。なので私はそちらをお薦めする)などと組み合わせて何でも作っていた。こんな風に慎ちゃんは男性と思えないほど料理が上手くマメだった。もし、コーちゃんがデート先で『そろそろメシにするか』とリュックからストーブと角型3やメスティンを出してきたら、私は二度惚れして喜んでおかずを買いに走るだろう。そんなのお前だけだって? そうかもね。でも男の人がご飯だけでも用意してくれたら女性は嬉しいものだよ。ただ現実は彼なら、円筒形飯盒で毎回5合は炊きそうだ。私はそれを少し分けて貰えれば十分だな)

 

 ところがだ。『ドイツ連邦軍飯盒』の掛け子は、大食いのドイツ人には第3の器となり、日本人にはそこでご飯が炊けるという裏技が使えた。その時、掛け子の下でレトルトなり缶詰なりを湯煎する。つまり同時調理が可能となるのだ。そして掛け子は1合から炊ける。これが『ドイツ連邦軍飯盒』を『エル』が自転車のポタリングやバイクのツーリングで愛用していた理由だ。おまけにあいつの『ドイツ連邦軍飯盒』は内側がフッ素加工してある(メスティンやパーソナルクッカー、ツアラープラスと一緒に出した。折り畳みの把手は自分でシリコンチューブに通している)。そしてなまじそんな加工なんてしてあるから、しゃもじもお玉もフッ素コートを傷付けないよう木製のものを使っていた。

 2012~3年頃からだろうか? コンビニやスーパーでサービスで付く、爪楊枝入りの割り箸が断面の丸いタイプになったのは。そこまでは行かないけれど、『エル』はキャンプとなれば四角い割り箸を何本も持って行き、必要に応じてナイフで丸く削っていた。これもフッ素加工を傷めないためであり、同時に削りカスを焚き付けに使うからだった。だから金属製のフォークもスプーンも彼女はキャンプで使わない。

 また彼女は、お一人様用ミニ焚き火コンロやストーブに懐疑的だった。それは枯れ枝や松ぼっくりが、どこにでも落ちているとは限らないと知っているからだ。そもそも普通の人はホームセンターかキャンプ場の売店で薪を手に入れる。そしてその薪はミニ焚き火コンロやストーブに焚べられない大きなものだ。斧や鉈(なた)を持っていって細く小さくするのは個人の自由だけれど、リラックスしたいのにそんな労力は時間と手間の無駄と考えるのが『エル』だった。

 ブッシュクラフトを気取って細めの薪を削ってフェザースティックを作るまでは良いけれど、北欧やロシアじゃないのだから、焚き付けは割り箸を削るかパキパキ折る方が早い。食っちゃ寝をしに来たのに無駄な労力は使いたくない。『サッサと火を熾してご飯を作ろうよ』。それが『エル』の発想だ。

 フッ素加工もその思想の延長線にある。小学生の頃に思わなかった? 林間学校は飯盒炊爨(すいさん)後の洗い物が一番辛かったって。男子は竈(かまど)の掃除をしないで遊んでいるし(なのに火の係になりたがる。きっとこれがあるからフェザースティックを火遊びの延長と感じてしまうのだと思う)、飯盒やお鍋の煤(すす)は全然落ちないし。調理中は調理中でキャンプ場が提供する包丁は全然切れないし。『どうなっとんねん!』とバイオ4みたいに叫びたくなる。5年生の当時、私は『エル』の中から彼女がやる事を呆れと感心を懐きつつ観ていた。

 別に彼女は火熾しで火の魔術を使った訳ではない。主に使ったのは風の魔術だ。とにかく酸素をホットスポットに送り込んで一気に火力を飯盒やお鍋の底が歪むくらい上げた事、自分にだけ煙や灰が来ないようにした事、宝具の中から、家でハーブや胡椒で仕込んだ牛バラ肉を取り出し、自分の班と先生用の鍋にそれを投入した事、インドで買ったスパイス・ミックス(ガラムマサラ)を先生用の鍋に入れた事、自分だけ鹿革の耐火グローブを使って、それを暗示で誤魔化した事などがあった。こんなのイリヤが勝てる筈がない。お気の毒だなと思ったよ。

 この時の事を一部クロエちゃんに教えてあげたが、さすがに全部は教えていない。『校長先生の生涯年収の何十倍もの貯金がある』。こんなの言える5年生なんて、私が先生なら受け持ちたくない。よくこんな子を慎ちゃんは見棄てずに婚約まで持って行けたなと本気で思う。

 え? あれもお前だろうって? それはそうだけど、どうなのかなぁ? 今は他人だという意識の方が強いかな。むしろアメリカに渡った彼女の方が自分という気がする(まんまそうだとしても、それなりにズレは感じているけどね)。それもホンの少し乙女チックな。そう思うのはあの結婚式に客観的に感動したからだし、彼女のウエディング・ドレス姿に自分を重ねたからというのもある。フンボルト君を脳内でコーちゃんに塗り替えてもしっくり来るくらいに、彼女は私だ。イリヤと『エル』は紛れもない半一卵生双生児だ。だけど私を含めたナンバーズは、寛大な心を持つイリヤに感謝しつつも、そうも言い難い部分があると感じている。そしてナンバーズ同士はお互いを姉妹と思えても、双子や三つ子という感覚はない。ところがアメリカのエルヴァだけは双子に近い感覚がある。イリヤ姉さんには申し訳ないけれど、どっちが上とか下とかでない本当の双子の感覚、それがあるのだ。

 だから私は仲が良い彼女とフンボルト君の事を心の底から祝福しているし、コーちゃんともああいう何でも穏やかに話し合える夫婦になりたいと願ってもいた。まぁ、コーちゃんには冬木に居た頃から、同い年の従姉妹が結婚して、仲が良いのが羨ましくてお手本にしていると話してある。メールも電話も週に1回は掛けたり送ったりしているし、夏には一度日本に戻りたいとも知らせてあった。

 心配だけど、コーちゃんの心変わりや浮気はないと信じている。何よりあのお義兄さん方やお義父さんに、お祖父様とお逢いした義伯父様やお義母さんに義伯母様がいらっしゃる。

 

『どこかの公園だと思ったらご自宅のお庭なのよ? そんなお姫様がお嫁さんだなんて……エルヴァさん、私、どうしましょう……』

『ふ、普通で居て下さい。障子の桟にホコリが残っていたら叱って下さい』

『メイドさんを何人も抱える家のお嬢様に……? 冬木でもお二人雇っておいでなのでしょう?』

『ま、まぁ……』

『しかし、操が慌てるのも無理はない。兄さんや義姉さんが言うには、敷地は江戸城より広く、お屋敷は大阪城や姫路城よりも立派だったと……』

『い、いえ。ただ、無駄に大きいだけですから……』

 

 と、こんな風に、コーちゃんのお義父さんとお義母さんを困らせてしまったのだ。だけどそれに臆するコーちゃんじゃない。むしろ『やるぞ!』と火が着いた。しかも……。

 

『弘毅、操さん。わかっとるな? 2人が結婚しても『跡取り』を急いてはいかんぞ? 吉川家は精々二百年だ。しかしあちらは千年をゆうに超えると聞いた。むしろ男の子ならあちらさんにお出しする覚悟が必要だ』

『こ、弘三の血が千年もの家に……? 良いんだろうか……』

 

 そんな事を士郎クンがコーちゃんから聞いていて、私もそれを聞いて知っていたのだ。なら私も今以上に自分という人間・女を磨くだけだ。だってあんな人達の家だから、子供が女の子でも男の子でも、きっと皆さんして喜んでくれるのは間違いないからだ。むしろ男の子だったら『跡取りだ』と喜ぶ前に、『また男か』と少しガッカリされるかも知れない。それが女の子なら、蝶よ花よと吉川一族全員が可愛がるだろうな。だから私は最初は女の子、二人目と三人目に男の子が良いなと思っている。誤用の一姫二太郎だ。いや、一姫二太郎三太郎四姫が良いな。末っ子の女の子って絶対に可愛いよ。

 

(よし来い、コーちゃん。4年で精子をバッチリ貯蔵しろよ。結婚したら無限に出産……は無理でも、バッコンバッコン産んであげるから)

 

「エル! 念話! 漏れてますよ!」

「ウ、ウソ!」

 

 そんなだから、晩御飯の時にセイバーと顔を突き合わせるのが気恥ずかしかった。どんまい、私……。

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