深雪と校門で別れた達也は、自分のクラスである1-Eを目指した。二科である事を気にしている生徒ばかりかと思っていたが、昨日あった四人は特に気にしてる様子もなかったので、気にするだけ無駄だと分かっていると達也は解釈した。
「司波君、おはよー!」
クラスに入ると真っ先にエリカが挨拶をしてきた。そんなに目立つ顔立ちではないと思っている達也は、良く気付いたものだと思っていたが、クラスに居た女子全員が達也の事を見ていたので当然エリカも気付くのだ。
「おはよう千葉さん。美月はまた隣だな、よろしく」
「よろしくね、達也君」
(良かった、達也君と隣になれた♪一杯エッチなこと出来たらいいな……)
何なら時間の許す限り、達也の顔を胸に抱いて甘えさせたいと考えている美月。まあ、下の方もオマンコで包み込むつもりだが。
「何か私だけ仲間外れな気がするなー」
口調から冗談だと分かった達也は、この流れに乗ることにした。
「千葉さんを仲間外れにするのは難しそうだ」
「何よそれ~!」
達也の冗談に、笑いながら抗議をするエリカ。周りは初対面なのに随分と仲の良い二人だと思っていたが、真横に居た美月はかなり焦った。
「二人共、喧嘩は駄目だよ!?」
「ん?」
「ちょっと美月? 冗談だからね?」
「え……も、もちろん分かってますよ?」
しどろもどろになった美月を、達也もエリカも生暖かい目で見ていた。
「何ですかその目は~!」
「美月が怒った~」
楽しそうにしている二人を横目に、達也は再び生暖かい目を向けながらも、端末にIDを差し込んでいた。
「ん? 司波君、何してるの?」
「受講登録を済ませておこうと思ってね」
そう言ってもの凄い速さでキーボードオンリーで受講登録をしている達也を、エリカも美月もあんぐりと口を開けて見ていた。
達也の操作方法に関心してたのは何も二人だけではなかった。
「スゲー!」
「ん?」
「あ!」
達也の前に座っていた男子が、達也の打ち込みの速さと珍しいキーボードオンリーのやり方に感嘆の声を漏らしたのだ。
「別に見られて問題のある事では無いんだが、あまりジッと見られるのは気分の良いものじゃないな」
「おっとすまねぇな。今時キーボードオンリーなんて珍しいからな」
「そうか? 慣れるとこっちの方が楽なんだ」
「そうなのか……おっと自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフでお袋がクォーターなんでな。レオって呼んでくれ」
「司波達也だ。俺の事も達也で良い」
今の時代、レオのような外国の血が混じってる魔法師はそう珍しくない。能力開発の為に様々な血を混ぜ合わせるのは当然だと思っている集団も居るくらいなのだから。
その後エリカとレオがちょっとしたイザコザを起こしたのだが、達也と美月に諌めらて二人は渋々席に着いたのだった。
〔───5分後にオリエンテーションを始めますので、自席で待機してください。IDカードを端末にセットしていない生徒は、速やかにセットしてください───〕
そんなメッセージが教室前面のスクリーンに映し出される。
しかし、既に選択授業の登録まで終えてしまった達也にとっては意味のないメッセージである。
と、そこで予想外のことが起こる。本鈴と共に、前側のドアが開き、スーツを着た若い女性が入ってきたのだ。───それなりの美人でそれ以上に愛嬌の感じられる女性だ。その女性は、せり上がってきた教卓の前に立つと、小脇に抱えていた大型携帯端末の様な物を卓上に置き教室を見渡す。
「はい、欠席者はいないようですね。それでは皆さん、入学、おめでとうございます」
というかそもそも彼女は何なのだろう?
「はじめまして。私は当校で総合カウンセラーを務めています、小野遥です」
(ああ……いたな、そういうのが……)
と、悩みを誰かに相談する、というアイデアが基本欠如している達也はその辺りを読み飛ばしていた。深雪に「お兄様、何かお悩みですか?」と聞かれ、そこからイチャイチャ、ということもあるが。
「カウンセリングは端末を通しても出来ますし、直接相談に来ていただいても構いません。通信には量子暗号を使用し、カウンセリング結果はスタンドアロンのデータバンクに保存されますので、皆さんのプライバシーが漏洩することはありません。本校は皆さんが充実した学生生活を送ることが出来るよう、全力でサポートします。……という訳で、皆さん、よろしくお願いしますね」
それまでの生真面目な口調が、一転して砕けた、柔らかなものになり、教室内に脱力した空気が漂う。
どうにも、女スパイとしても十分やっていけそうな場数を感じさせる、油断ならない人だ。
その後は履修登録についての話となり、終了した者は退室して構わない、と言われると一人の少年が退室し、それを見て達也は────。
(あまり目立つのもな)
と考え、何を調べて時間をつぶそうかと思案していると、ふと、視線を感じ顔を上げる。
教卓の向こう側から、遥が見ていた。視線が合っても遥は目を逸らそうとせず、達也に向けてニッコリ微笑む。
達也は、彼女の意図を測りかねていた。自分は異性の気を引きやすいと考えている達也としては色目を使われているのかと、達也は終了時間まで考えていたのだった。
~~side 遥~~
司波達也君、か。先生から聞いてた通り、色々な意味で手強そうな子ね。けど、何処か可愛い感じがする。今度誘惑してみようかしら?場合によってはそのまま……。
~~side out~~
あの後も気づいて見れば、遥が笑いかけてきていた。ずっと、ではなく、他の生徒に不審を抱かれない程度ではあったが。むしろそれが秘密めかした雰囲気を醸し出していた。初対面なのは断言出来るが───。
(なんだったんだろうな……)
「達也、昼までどうする?」
登録を済ませた後は、昼まで自由にしていて良いのだ。
「特に決めてないんだが…付き合おう」
「それじゃあ工房見学に行こうぜ!」
「工房?」
少しばかり意外に思う達也。
(見た目からして闘技場の方が似合うような気がするが……)
「硬化魔法は武器術との組み合わせで力を発揮するからな」
「なるほど、確かにな」
「あの、だったら一緒に良いかな?」
「美月も工房に?」
「うん、私も魔工師志望だから……」
「えっ、司波君って魔工師志望なの? ちょっと意外」
「オメーは如何見ても闘技場だろ。さっさと行ったら如何だ?」
「アンタに言われたく無いわよ!」
またも口喧嘩に発展する二人。やはり本当は相性が良いのではないだろうか?そんな二人の姿に美月はオロオロとして、不安げな顔で達也に縋っている。というか美月の豊満な胸が右腕を挟んでいる。
「そこまでにしておけ……美月が困ってるだろう」
「え! う、ううん……私は別に……」
無意識だったのか、達也に縋っていた事を自覚して美月は顔を赤らめた。それでも離れようとはせず、逆に抱きつく力を強めたが。
「工房に行くなら早く行くぞ」
美月に離れるように言うこともなく、達也はそのまま美月を連れ廊下に出た。完全にカップルの歩き方である。
「おい達也! 待てっての!」
「待ってよ!」
ちなみにエリカとレオは移動中もにらみ合っていた。途中で互いにそっぽを向いていたが。
「如何して二人はこんなに仲が悪いのかな?」
「さぁな。でも、仲が悪い訳では無いと思うぞ。喧嘩するほど仲がいい、という言葉もあるしな」
「だと良いけど……」
不安そうにしている美月。達也はそんな美月の頭にポン、と手を置くと、優しく撫でる。
「心配要らないさ、俺を信じてくれ、美月」
「達也君……うん、ありがとう」
達也に撫でられ心地良さそうにしながら美月は感謝を込めた笑顔を浮かべた。
そして二人はそのまま寄り添いながら工房に向かった───。
ちなみに工房に着けば美月は熱心に見学していたのだった。達也からそれほど離れようとせず、ではあるが。