「いい加減に諦めたらどうなんですか? 深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるじゃないですか!」
時は放課後。今現在、達也たちがいるのは校門付近であった。
「お兄様……」
「謝ったりするなよ、深雪。お前のせいじゃない」
「はい、ですが……」
達也と深雪の前ではエリカ、レオ、美月と深雪のクラスメートらしい一科生の連中が口論になっていた。連中の中心はあの時の森崎という男子らしい。
事の発端は昼食時の食堂。深雪が達也たち(というか達也)と昼食を共にしようとしていた際、深雪と一緒に行動したいらしい一科生らの一人が邪魔をしては悪い、一科と二科のけじめだの、雑草と相席なんてやめた方がいい、というようなことを言って下手に揉め事を起こすのも不味い、と達也がキレそうなレオたちを引かせ、その場は事なきを得た。ちなみに深雪はその一科生たちとは別の場所に移っていたが。
その後、午後の演習見学でもイザコザがあり、今も揉めている。にしても意外と美月も好戦的な所があるらしい。
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
そう勝手な言い分を述べる一科生。それに対し───。
「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
レオがそれを笑い飛ばす。更に便乗してエリカも一科生たちを煽る。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
「……同じ新入生じゃないですか。 今の段階であなたたちブルームがどれだけ優れているって言うんですか!」
……これは不味いことになるな。
「……どれだけ優れているか、知りたいか?」
「ハッ!おもしれぇ!是非とも教えてもらおうか」
最早今更だが売り言葉に買い言葉、とはこのことだろう。レオも森崎もやる気である。
「だったら教えてやる!これが才能の差だ!」
キレた森崎が、腰につけていたホルスターからCADを引き抜き、あろう事か達也に照準を合わせた。レオが掴みかかり、エリカが警棒でCADを弾き飛ばそうとしたが、それよりも早く達也が森崎の手を蹴り飛ばしCADを弾き飛ばした。
「そこまでにしておけ。あまり物騒だと嫌われるぞ」
これは森崎だけに言った言葉では無く、一科生全員に向けた言葉。
大体の一科生はそれで静まったが、二科生にいい気になられていると思い込み、気にくわない者の何人かが魔法を使おうとCADを構える。
そんな中、ヒートアップし過ぎている一科生を止めようと1人の女子が動いたのに達也は気がつくのだが、魔法は発動前に霧散した。何者かに起動式を打ち抜かれた為に、魔法を発動出来なかったのだ。
「止めなさい! 自衛目的以外での魔法による対人攻撃は、校則違反以前に犯罪行為ですよ!」
聞き覚えのある声に、達也と深雪は声のした方に振り向く。そこに居たのは生徒会長の七草真由美と、もう1人は見覚えの無い女子生徒が居た。達也が目にしている限りにおいてにこやかというか艶やかだった真由美の顔は、こんな時でも、それほど厳しさを感じさせない。まあ、下手に動けば、実力行使となるだろうが。
「風紀委員長の渡辺摩利だ。事情を聞きますので全員ついてきなさい」
現に真由美の隣で摩利という女子生徒が既に起動式の展開を完了している。
───仕方がない。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
「ええ、森崎一門のクイックドロウは有名ですので、後学の為に見せてもらったのですが、自分が狙われてつい手が出てしまいました」
達也の言い訳に一番驚いたのは他ならぬ森崎本人だった。まさか自分が知られているとは思って無かったのだろう。
「ではあの女子が攻撃性の魔法を発動させようとしていたのはどうしてだ?」
摩利の鋭い目に射抜かれたその女子は顔を蒼白とさせ思わず俯いた。しかし───。
「あれはただの閃光魔法です。威力も抑えてありましたし、失明の危険性もありませんでした。周りを落ち着かせる為に注目を集めようとしたのでしょう」
達也がそう言うと息を呑む気配がするのを感じた。顔色を悪くしていた先程の女子も驚いた顔で達也を見つめていた。
「ほぅ、どうやら君は展開された起動式を読み取ることが出来るらしいな」
達也の言い分に興味深そうにする摩利。それも当然のことだろう。そんなことはあまりにも情報量が膨大で普通は出来ないからだ。
「実技は苦手ですが、分析は得意ですので」
誤魔化されていると感じた摩利が値踏みするような、睨み付けるような、その中間の眼差しを達也に向ける。
「兄の言う通り、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
真正面から深々と頭を下げられ、毒気を抜かれたような顔で目を逸らした摩利。
「もう良いじゃない摩利」
「真由美……」
今まで摩利に任せていた真由美が、いきなり達也と摩利の間に割って入る。微妙に達也に近いのは偶然か……。
「達也君、本当に見学だったのよね?」
「………ええ」
達也が頷くと、何やら「貸し一つ」とでも言いたげな笑みを浮かべる真由美。一体何を要求されることやら……まあ、大体予想出来るが。
「生徒同士で教え合うことは禁止されている訳ではありませんが、魔法の発動には細かな制限が存在します。魔法の発動を伴う自習活動は控えた方がいいでしょうね」
「……会長がこう仰せられていることでもあるし、今回は不問とします。以後このようなことがないように」
摩利も真由美の意向を汲み二人ともこの場から去っていく。一科生も二科生も無言でお辞儀をしていたら、ふと摩利が振り返った気配を達也は掴んだ。
「君の名前は?」
「1-Eの司波達也です」
「……覚えておこう」
真由美たちが居なくなった後、森崎に「僕はお前を認めないぞ」等と言われた達也だったが、特に気にする事も無く帰ろうとしたら、閃光魔法を発動させようとした女子生徒が達也の行く手に立っていた。
「何か?」
「あ、あの……」
顔を赤くしたまま何も話さない女子生徒を不審に思い、達也が声をかけると、漸く決心がついたのか女子生徒が口を開いた。
「光井ほのかです! 助けていただいてありがとうございます!」
「……そんなに気にすることはない。本当の事を言っただけだからな」
「でも! お兄さんが居なかったら私……」
どうにも彼女は先程のことを気にしすぎている。達也はそんな彼女の頬に手をやり、微笑む。
「場を収めようとしてくれたんだろう?ありがとう」
そうしたら先程までとは違い、熱に浮かされたような顔で彼女は達也を見つめる。
~~~ほのか side~~~
皆を止めようとして結局何も出来なくて……どうしたらいいか分からない、そんな時───入試の時に見たとても綺麗な魔法を使うあの人が助けてくれた。あの人がいなかったらもっと大事になっていた。皆を止めるためとはいえ魔法を使おうとしていた私も罰を受けていた。そんな私をあの人は助けてくれた───。
私は……もう駄目。
~~~ほのか sideout~~~
「ああ、そうそう。お兄さんは止めてくれ。これでも同じ一年生だからな」
「……はい、分かりました。では、何とお呼びすれば……」
先程から熱に浮かされた顔で達也を見るほのか。達也としては既視感を覚えずにはいられない。
ふと、深雪の方を見ると彼女は達也に「仕方ありませんね」とでも言うような顔を向けていた。
どうやら深雪もほのかの抱える想いに気づいているらしい。
「達也でいいから。苗字だと深雪と区別がつかないだろうから」
「……はい、達也さん!」
そこでほのかの傍にいたもう一人の女子生徒が口を開いた。
「達也さん、ほのかを庇ってくれてありがとうございます」
「君は───」
「北山雫です」
「そうか、よろしく。それから二人とも、別に敬語は使わなくていいぞ?大体同い年だからな」
「そう、ですか?……でも達也さんには敬語の方がしっくりくるんです。だからこのままで……」
「じゃあ私は普通に話すことにするね」
それぞれの対応に苦笑しながらも、達也は帰ろうとしたのだが……
「あの、帰り道ご一緒してもよろしいですか!」
ほのかのこの一言で、大所帯での帰宅となった。
このメンバーでまた昨日のあの店に行こうという話になり、目的地まで向かう途中、深雪のCADの調整をしているのが達也であるという話や、エリカの警棒型のCADについての話、エリカの技の腕前が相当なモノだという話をしているとそう時間が経つのを感じることもなく店に到着したのだった───。
ネタバレを一つ。
次回の話はほのかとのセッ◯スになります。なるべく早く書き上げますのでお楽しみに。それから、新しく活動報告を載せますのでよろしければご覧くださいませ。