生徒会長と話しこんでいた所為で、達也が講堂に入った時には既に半分の席は埋まっていた。
特に座席の指定は無いのだから、最前列だろうが最後列だろうが、端だろうが真ん中だろうが自由に座れるのだが、達也は座っている生徒を見てため息を吐きたくなった。
前半分が一科生で後ろ半分が二科生に分かれているのだ。同じ新入生でありながら前と後ろで綺麗に分かれているのを見て、関心と呆れを感じたのだ。
(もっとも、差別意識が強いのは、差別されている側だろうがな)
達也にはそんな意識は無いのだが、他の二科生も自分と同じだとはさすがに思っていない。この中の何人が達也と同じ思考の持ち主かを見つけるのは恐らく困難だろう。もちろんそんな事はしないのだが。
前後で分かれているのが意識的だろうが無意識だろうが、その流れに逆らって波風立てるのも面倒だと思い、達也も二科生が集まっている後列、その中でも後ろの方に目をつけ、端っこが開いている場所に移動した。
横に誰が座っても別段気にはしないのだが、出来る事なら端っこの方が気が楽なのだ。
(あと二十分か……何をするにも中途半端な時間だ)」
席に腰を下ろして時計を確認して、さてこれから如何やって時間を潰すかと悩んだ。通信制限が掛かっている講堂では端末にアクセスは出来ないし、そもそもこんな場所で端末を広げるのはマナー違反だ。
(深雪は今頃最終チェックをしてる……いや、深雪がこんなギリギリまでそんな事をしないか)
こんな時に自分の妹の事を考える辺り、達也も普通の兄では無いのだろう。自分の考えてた事に苦笑いを浮かべようとしたら、声をかけられた。
「あの、お隣空いてますか?」
寝ようとしてた達也は、組んでいた腕を解いて閉じかけていた目を開いて声のした方を確認する。そこには女子が立っていて、間違いなく自分に掛けられて声だと理解した。
「どうぞ」
別に連れが居るわけでも無いし、どうせ隣に座るならムサイ男よりも女子の方が良いか。そう思った達也はふと、その女子の顔に見覚えがあることに気づく。
(つい最近会ったな………)
達也が内心そう思っていると、となりに座ったその女子が達也の顔を見て、頬を朱に染める。
「あの………先日、お会いしましたよね?」
「ああ、そうだったな」
どうやら彼女も達也のことを覚えていたらしい。
あれは例の魔法師による火災騒動の数日後の話だ。
達也が深雪と外出し、深雪の用事が終わるまで一旦離れていた時だった。
現在隣に座っている少女が柄の悪い男たちに声をかけられて───ナンパされていたのだ。
遭遇したからには見てみぬふりも不味いかと思い、その男たちを軽く叩きのめし、追い払った。
その後、是非お礼がしたいとの彼女の願いで近くのカフェでお茶をすることに。深雪のことに関しては用事が終わるまでまだかかる事と、もし深雪の身に何かあればすぐ分かるようにしてあるので了承する。
「さっきはその、ありがとうございました」
「いや、偶然通りかかった結果だ。そんなに気にしなくていい」
カフェの席で隣あって座ると、そうお礼を言ってくる彼女に気にしないように告げる達也。
「いえ、私とても怖くて……だから、助けていただいたのが本当に嬉しくてホッとして……」
まだ何処か表情に暗さが残る少女。達也はそんな彼女の頭に手を置くと、優しく撫で始める。
「ふぇっ?あ、あの………」
突然頭に手を置かれ、撫でられることに動揺する少女。しかし、そう時間も経たないうちに落ち着いて安らいだ表情に変わっていく。
「もう大丈夫だから、そんな顔はしないほうがいい。せっかくの可愛さが台無しになってしまうぞ?」
「~~~っ!?はぅぅっ………」
顔がボンッ!と真っ赤に染まり、視線をそらす少女。しかし、何処か潤んだ瞳でチラチラとこちらに視線を向けてくる。
暫しの間そうして時間を過ごし、そろそろ深雪の用事も終わる頃だと達也は席を立つ。すると、少女も途中までついて来て、別れ際────。
「その、今日は本当にありがとうございました」
最後に改めて礼を言ってくる彼女に達也は苦笑しながらも優しい声音で返事を返す。
「俺の方こそ、なかなか悪くない時間だった。礼を言う」
「いえ、そんな……私、さっきはとても心地よくて……胸が暖かかったです。それはきっと、貴方と一緒にいたからです。これは間違っていないって私は思います。ですから───」
そう告げた達也の顔に頬を朱に染めた彼女は言葉を返すと、その手を伸ばした。そして、達也の顔を自分の方に引き寄せると───。
「んっ………」
達也の唇にその──ぷるん、とした柔らかい唇を触れあわせる。
「んぅ……ちゅっ……れる……ちゅぱっ……れぅ……んっ……」
舌も絡みつかせ、達也の口内で暴れさせる少女。ヌルリとした感触が口内を這い回る。その度に少女の唾液が達也の口内に塗り込まれる。
「んっ……ちゅっ……れる………んむっ………ちゅううっ!ちゅぱっ、はぁっ」
達也の口内を舌で舐り回し、唾液まみれにした少女は最後に達也の唇を強めに吸うと、唾液の橋を繋げて顔を離す。
「これはその………………………予約です!」
そう叫んだ彼女はぎゅううっ!と達也に抱きつき、むにゅううううんっ!とその豊満な乳房を目一杯押しつけると、ピューン!と擬音がつくかの如く駆けていく。幾らか恥ずかしかったのだろうか───。
~~時は戻り、現在~~
「あの……私、柴田美月っていいます」
「司波達也だ、こちらこそよろしく」
お互いにまだ自己紹介をしていないということで行うと、こちらをじっと見つめてくる少女、美月。
今さらながら達也は、今時珍しい眼鏡を掛けた女子、柴田美月を横目でじっくりと、だが不快に思われない程度に観察した達也は、無難な返事をして考え込んだ。
(霊子放射光過敏症か?)
よほどの先天性視力異常でも無い限り、今の時代に視力矯正は必要ない。かと言っておしゃれで眼鏡をかけるのなら、あの様な丸眼鏡は使わないだろうと思ったのだ。
角度を変えて見てみれば、あのレンズに度が入っていない事が分かった。つまり視力矯正で眼鏡を掛けている訳では無い事が分かったのだ。そして彼女はおしゃれで掛けていないと決め付けるのなら、やはり霊子放射光過敏症の可能性が高いと、達也は判断した。
(見えすぎる目か……)
霊子放射光過敏症とは、意図せずに霊子放射光が見える、意識して霊子放射光を見えなくする事が出来ない、一種の知覚制御不全症だ。とは言っても病気でもなければ障害でも無い。感覚が鋭すぎるだけなのだ。
霊子放射光は、それを見ている者の情動に影響を及ぼす。その為に霊子放射光過敏症者は精神の均衡を崩しやすい傾向にある。
これを予防するもっとも簡単な手段が特殊加工されたレンズを使った眼鏡を掛ける事なのだ。
(彼女の前では注意した方が良いかもしれないな)
達也には色々と秘密にしなければいけない事がある。いくら彼女が霊子放射光過敏症の可能性が高いとは言え、そう簡単に見破れるはずもないのだが、達也は心の片隅にその事を覚えておく事にした。最も、達也が彼女をモノにするなら話は別だが。ふと、達也は以前の出来事の際に美月からキスをされ、予約だと言われたことについて考えた。
(あれはつまり、そういうことか?)
他に答えの浮かばない達也。美月を見つめ返すと、彼女は恥ずかしいのか頬を朱に染め、若干目をそらす。
「あの………」
「ああ、すまない。先日、最後に言われたことを考ていてな」
達也が例の件について触れると、美月は潤ませた瞳で再び達也の顔を見つめる。
「あのこと、ですよね。私が予約ですって言って……キス、したこと………」
「そうだ。もし良ければ、意味を確認させてもらって構わないか?」
もし予想通りなら本来こんな場所ですることでもないが、確認はしないといけないだろう。それに達也に関してはその心配は必要ない。
理由を一言で言えば────ご都合主義である。
「わかりました……じゃあ……」
そう言うと美月は目を閉じて唇を近づけ、あの時と同じように触れあわせてきた。
「んっ……………ちゅっ………れる………んむっ………ちゅぱっ………ちゅっ………」
舌が達也の口内に入り込んで、前回と同じように這い回る。その舌に達也は自らの舌を触れさせ、絡めあわせる。
「んぅっ!ちゅぱっ………ちゅっ……れる……んむ……れぅ……ちゅぱっ……」
ビクッ、と一度反応した美月は自分からも更に舌を積極的に絡ませる。
「んむっ、ちゅっ………れる……れぅ……んっ……」
互いに唾液を交換し、飲み込んでいく。美月は以前よりも貪欲と言える程に、激しく舌を絡めてくる。
(これから式もある。ひとまず、ここらで終わらせておくべきか)
そう判断した達也は美月の顔を強制的に離す。美月は舌を宙に数秒程踊らせていたが、ある程度余韻が消えたのか舌を引っ込めると唇に指を当て、蕩けた表情を浮かべる。どうやら未だ余韻に浸っているらしい。
「美月、先程の答えだが俺の考えている通り、でいいんだな?」
「んぅ、っ…………うん、達也くん♡私、達也くんが好き♡あの時から達也くんのことを考えると胸が暖かくなって、ドキドキするのが止まらなくなって、幸せな気持ちになるの♡」
先程より砕けた口調でそう言って美月は達也の手を取ると、自らの豊満な胸に押しつける。むにゅううっ、とした乳房の感触が掌から伝わり、心地よい。
「そうか、わかった。とはいえ、まだ二度会っただけで、長く交流してるわけではない。少なくとも、結婚についてはそれからだな」
念のため言っておくと、魔法師の世界では重婚は厳禁ではない。秀でた素質を持つ魔法師は関係者───特に他の夫婦間の関係である、或いはそうなる者の同意を得ているなら問題視されることはないのだ。
「ありがとう、達也くん♪ちゅっ♡」
美月は微笑を浮かべ礼を言うと頬に軽く口づけてくる。
と、そうしていると───
「ねえねえ、隣って空いてるかな?」
座席の関係上そう美月に訊ねてきたのは赤髪短髪の女子だった。
「空いてるよ。どうぞ」
そう言った美月に「ありがとー」と礼を言ってその女子は連れの女子2名と席に座る。
「ねえ、名前何て言うの?」
そう聞いてきたので達也と美月は自己紹介をする。
「あたし、千葉エリカ。よろしくね、司波君、美月」
「こちらこそ」
「うん、よろしくね、エリカちゃん」
「それにしても、面白い偶然って感じかな?」
如何やら彼女は活発な女の子らしい、達也はそう思いながら聞き返す。
「面白いって、何がだ?」
「だってシバにシバタにチバでしょ? 何だか語呂合わせみたいで面白くない? ちょっと違うかもだけどさ」
「……なるほど」
言われて見れば似ているような気にもなるが、達也が気になっていたのはまだ別な事だった。
(千葉……また数字付きか? だが、『あの』千葉家にエリカと言う娘は居なかったと思うんだが、傍系と言う可能性もあるしな……)
「ん? 司波君、ジッと見つめられると照れるんだけど」
「ああ、すまないな」
そう言ったエリカの表情にはまんざらでも無さそうな雰囲気が混じっていた。
「ところで、3人は同じ中学なのか?」
残り2人の自己紹介が終わった所で、達也が疑問に思っていた事を尋ねた。入学早々友達が出来たと言う訳でも無いだろうし、それ以外に3人で行動を共にしている理由が思いつかなかったのだ。
「違うよ。全員さっきが初対面だよ」
「初対面?」
「案内板の前でにらめっこしてたら二科生の先輩が声を掛けてくれたんだ」
「案内版? にらめっこ?」
エリカの表現が独特すぎて、達也にはちょっと理解するのが難しかった。
「いや~、講堂の場所が分からなくてさ~」
「……端末は如何した? 地図くらいならそれで分かるだろ」
入学式のデータは会場の場所を含め全て、入学者全員に配信されている。それがあれば端末に標準装備された
「あたしたち3人とも、端末持ってなくて…」
「だって仮想型は禁止だって入学案内に書いてあったし」
「せっかく滑り込んだのに、入学早々目をつけられたくなかったし」
「あたしは単純に持ってくるのを忘れたんだけどね……」
「そう言う事か……」
活動報告でヒロインの設定についてのリクエストを募集しています。是非ご意見よろしくお願いいたします!