東郷から恋人である丹羽が倒れたと聞き、犬吠埼風は急いで駆けつける。
5日前、丹羽から乃木園子の治療のためにしばらく帰れないと聞いた時、自分は寂しい気持ちを押し殺しこう言った。
「それはあんたにしかできないことなんでしょ。だったらしっかりやりなさい。でも無理はしないでね」
あの馬鹿、無理するなって言ったのに。
内心で言うことを聞かない年下の恋人に対して悪態をつく。
どうしてあれだけ言ったのに、約束を守らないのか。
いや、馬鹿は自分だと風は自分を叱咤した。
丹羽の性格を考えれば、こうなるのはわかっていたはずだ。彼は他人を助けるためなら自分の身がどうなろうと構わないと思う人間なのだから。
自分や勇者部の皆もそれに助けられた。だから無理しないように恋人の自分が手綱を握っておく必要があったのに。
病院へ駆けつけると、東郷を探す。すると待合室の椅子にその姿を発見した。
「東郷、丹羽は⁉」
「風先輩。声」
知らず心配から大声になってしまったらしい。口元に指をあてる東郷に無言でうなずく。
「丹羽は無事なの?」
「大丈夫。今は病室で眠っています。今はそのっちがついていて」
そのっちという言葉に風は思い出す。自分たちに満開と散華について説明しようとしてくれた少女のことを。
先代勇者であり、現在大赦が保有する最強の勇者。そして丹羽が散華を治すために尽力した少女。
彼女の口から話されたのは驚くべき情報ばかりだった。東郷が先代勇者で満開の後遺症により記憶を失っていたこと。人型のバーテックスのことなど様々なことを教えてくれた。
だがそれよりもなによりも風の心をざわつかせたのは丹羽が彼女を見る目だった。
あの瞳。まるで懐かしいものを見るような、大切なものを失って後悔しているような瞳。
それがずっと気になっていた。
(もしかして)
もしかして乃木園子は、丹羽が記憶のない2年以上前の知り合いなのではないか。
それこそ樹の言ったように、一緒に戦っていたとか。
いや、そんなことはない。
園子も言っていたではないか。男が勇者として戦った記録はないと。東郷と園子、そしてもう1人の勇者、三ノ輪銀の3人でお役目を果たしていたと。
だったら、なぜ丹羽明吾はあんな目で乃木園子を見ていたのか。
それに園子を治すためとはいえ5日間も病院に泊まり込むなんて異常だ。よっぽどの強い思い入れがないとできることではない。
だが、丹羽という人間を知っていると彼なら平気でやってしまいそうだから困る。
なぜならそれほど彼の献身は広く深いのだから。
果たして乃木園子は丹羽明吾にとって特別な存在なのか?
そんなことを考えているうちに、どうやら病室についたようだ。
「入るわよ、そのっち」
ノックの後、東郷がスライド式の扉を開ける。
その光景を見て、風は自分が嫉妬するのがわかった。
眠っている丹羽の手を取り、心配そうに見ている椅子に座った美少女。
敵わないと思った。その無邪気さを含んだ心配そうな瞳に。
勝てないと思った。そのはかなげな美しさに。
犬吠埼風は、一目見て彼女が自分より美少女であると確信してしまう。
「どう、丹羽君は?」
東郷の声で正気に戻る。
よかった。彼女がいなかったら自分は園子につかみかかっていたかもしれない。
ベッドで眠っている丹羽は自分の物だから、返してと。
アタシのものだから取らないでと嫉妬心を丸出しにして。
そんなの全然らしくない。きっと、彼もそんな光景を望まないだろう。
「わっしー。眠ったままだよ」
「そう。あまり変わりないのね。まあ、5日間も眠っていなかったのだからしょうがないけど」
呆れたように、だがどこか誇らしく言う東郷におや? と風は首をかしげる。
彼女は丹羽と仲が悪かったのではないだろうか? いつものドツキ漫才を見るに、そうとしか思えないが。
「えっと、犬吠埼風先輩ですよね。わっしーとにわみんの先輩の」
園子の言葉に、風は固まる。
にわみん? そこにいるのは丹羽明吾ですけど? ごが1文字たりませんわよ?
「風先輩、どうしたんですかそんな顔をして」
「え、東郷。何が?」
「いや、さっきの顔。頭が痛いんですか? すごい顔してましたよ」
後輩に心配され、風は落ち着けと自分に言い聞かせる。
つまらないことで嫉妬しても仕方ない。自分は年上なのだ。しっかりしないと。
「ええ。アタシが勇者部部長で犬吠埼風よ」
「心配してきてくれたんですか。ありがとうございます。にわみんはわたしが看てるので心配しないでください」
んん~?
この娘は何を言ってるのかしら。恋人を心配してきた自分に対して。
もしかして自分が面倒みるからもう帰れってことかな?
「風先輩、顔、顔!」
「大丈夫よ東郷。アタシは冷静。冷静」
そう、自分は冷静だ。間違いなく冷静。
断じて目の前の2人がお似合いだとか思って嫉妬なんてしていない。
「彼、わたしのために頑張ってくれたんです。だから、今度はわたしが彼のことを見守りたいんです」
「大丈夫よ乃木。そいつはべつにアンタじゃなくても勝手に人助けして、百合イチャを見て変な顔している奴だから」
「風先輩? 風先輩どうしたんですか?」
東郷が何か言っているが風の耳には入らない。それほど彼女はテンパっていた。
「えっと、ふーみん先輩? どうしたんですかー? そんな怖い顔して」
怖い顔? 園子と比べたらそれは怖い顔でしょうねと風は思う。そして園子と目線を合わせ、告げる。
「そこに寝ているのはアタシの恋人だから、アタシが看るわ。乃木は病み上がりなんだから、無理せず自分の病室に帰りなさい」
風の笑顔に思わず「アッハイ」と園子はうなずき、逃げるように東郷と一緒に病室から出ていった。
「なにやってんのよアタシは」
2人きりになった病室で風は先ほどの行動を反省していた。
参った。まさか自分がここまで嫉妬深い人間だったとは。
園子と一緒にいる姿があまりに絵になりすぎて、思わず取り乱してしまった。
多分、自分はあの娘には勝てない。
本気で丹羽のことを好きになられたら、丹羽は自分を置いて彼女の元へ行ってしまうのではないか。
そんな不安が風の胸の中を渦巻いていた。
「……全部アンタのせいよ、馬鹿」
ベッドでぐっすり眠っている恋人に対し、1人つぶやく。
どうにかこの不安を消せないものか。自分の所有物だとわかるようにこっそり名前でも書いてやろうか。
のんきに眠っている丹羽の頬を引っ張ってみるが全然起きない。
当然か。5日間一睡もせず精霊の力を使って園子の散華の治療をしていたのだから。
自分がそんな状況になっても彼は助けてくれるだろうか?
いや、きっと助けてくれるだろう。自分じゃなくて東郷や友奈、夏凜、樹でも。
丹羽明吾とはそういう男だ。だから自分も好きになったのだ。
「だからって、そんなに誰彼構わず助けてたら、女の子は勘違いしちゃうでしょ」
声に不安をにじませ、風は珍しく気弱になっていた。
自分が彼の物だという確かな証が欲しい。
あるいは彼が自分の物だという明確な証が。
風は丹羽の手を握り、自分の手より大きくてごつごつしている指を見る。
丹羽はぐっすりと眠っていて、当分の間は起きないようだ。
「ちょっとだけ」
出来心だった。
ただ不安を、寂しさを紛らわせたかっただけ。
だからこんな遊びを始めてしまった。
「んっ♡」
意識のない丹羽の手を、自分の腹から胸元にかけて服の中に挿入し、手を使って5本の指で揉ませる。
犬吠埼風の自慰行為には独特な癖があった。
それは寂しさや嫌な気持ちを切り替える時に行うという癖。
そしてそれは1度始まると何度も絶頂するまで続けられ、ふわふわした気分の良さで今まで抱えていた気持ちがどうでもよくなるまで続けられる。
つまるところ犬吠埼風にとってオ〇ニーはストレス解消のために有効な手段だった。
「んっ♡ ふぅううん♡」
いつもと違う自分より大きな手が、ブラに手をかけ上にずらす。
そのまま丘をなぞるように手を動かし、風は背徳感で背中がぞくぞくする。
こんな事いけない。起きたら嫌われる。病院の人にバレたらどうしよう。もし東郷か園子が急に病室に入ってきたら?
そんな考えが浮かんでは消え、胸をいじめる丹羽の手を動かす手を激しくさせる。
ダメ。でも気持ちいい。いけない。でも気持ちいい。
「やぁっ♡ だめぇ♡」
ダメなことは気持ちいい。イケナイことは気持ちいい。
背筋がぞわぞわし、腰から頭にかけて電撃が走るような感覚。
「ふぅううう♡ くぅうううん♡」
何とか絶頂する瞬間自分の手で声を抑えることができた。
(ヤバイ、これ気持ち良すぎ)
いつもより早く絶頂してしまったことに風は戸惑う。しかも胸だけで。
心臓がエンジンのようにドッドッドッドッドと血液を送っている。顔は火が出るように熱いが、背筋は汗でひんやりと冷たい。
片方の手だけでここまで気持ちいいのだ。
2本同時なら……?
考え、それはさすがに駄目だろうと理性が警告する。
そんな場所、見られたら絶対に言い訳できない。犬吠埼風は眠っている恋人を使ってオ〇ニーする変態だとみんなに知られてしまう。
でも、それでも。
風はシャツのボタンをはずし、丹羽の両手をとる。
そして自分の胸へと導いた。
「くひっ♡」
やばい。軽イキしてしまう。ここからが本番なのに。
丹羽の手を使い、胸を揉みしだく。大きさは東郷には及ばないが、それでも形はいいと自信がある。
「ふぅうううん♡ んっんっ♡ んふーっ♡」
円を描くように丹羽の手を使い胸をもむ。自分でするより思い通りにいかないもどかしさが、イきそうでイけないもどかしさに変わる。
キスしてほしい。あの時の脳が灼けるような快感が欲しい。もっと、もっと。
風は思わずベッドの上に乗り覆いかぶさろうとしかけたが、ギリギリ残った理性がそれを止めた。
彼は今睡眠中。身体を休めている最中なのだ。
自分の欲望のために、それを止めるのはルール違反だ。
だから――
「くひぅ♡ ふっふっふ♡ ふぅいいいん♡」
風は後ろ向きになり、丹羽の手をより激しく自分の手を合わせ揉みしだかせる。
ギシッギシとベッドが揺れる音が室内に響く。その時初めて風は自分がベッドに乗って腰を振っているのを知った。
ああ、これは完全に言い訳できないな。
だったらもう、がまんしなくていい。丹羽の指に手を重ね、中心の乳首に手を伸ばし――
ノックの音が響いた。
「ひゃっ⁉」
思わず止めようとするが、間に合わない。急いで両手で自分の口をふさぐ。
「――っ♡ っ♡♡♡♡♡」
絶頂。絶頂。絶頂。
頭の中に電撃が瞬き、今までにない快感が脳を襲う。
(だめ、このままじゃ本当に、アタシ、変態に)
「風先輩? 風先輩居ますか?」
東郷の言葉が聞こえる。返事をしなければ。早く返事をして、部屋に入らないように言わなければ。
じゃないと自分が変態なのがバレてしまう⁉
「んふぅ♡ な、なに東郷?」
なんとか声が出せた。変な声が出なかっただろうか? ごまかせただろうか?
心臓がバクバクと音を立てるのがわかった。耳の当たりで心音がよく聞こえてうるさい。
「風先輩は夕食どうします? 私はこれから1度外に行きますけど買ってきましょうか?」
「だ、大丈夫。外に食べに行くから。今は丹羽のそばにいたいの」
その言葉に頭の中にいるもう1人の自分が囁く。よく言うわよ。彼氏の手を使ってオ〇ニーに忙しいんでしょ。この変態。
(違う、違う。アタシ、変態なんかじゃ)
東郷がもし入って来た時のために急いで身支度する。頭から下半身までドッと汗をかいたような気がした。
「ごめんなさい風先輩。そのっちが」
ボタンがなかなかはめられない。こんなに着にくい服だっただろうか。
「そのっちに悪気はないんです。ただ、丹羽君と風先輩が付き合っているとは知らなくてあんなことを」
入った。後は丹羽の手をもとの位置に直せば。
「風先輩? 聞いてますか? 入りますよ」
声と共にドアがスライドして開く。
そこには椅子に座って眠っている恋人を看ている風の姿があった。
「どうかした東郷?」
自分の顔を見て不思議そうな顔をする勇者部部長の姿に、東郷は自分の心配が杞憂だったと理解する。
「すみません。なかなか返事がなかったので、ひょっとしたら風先輩も倒れているのかと」
「あはは。ないない。こっちは体の丈夫さだけが自慢だから」
ケラケラと笑う姿に、そうですねと返して東郷は病室を去る。
「じゃあ、お大事に。明日もお見舞いに来ますね」
言葉と共にドアが閉じられ、足音が遠ざかっていく。
やがて完全に人の気配が感じられなくなって、風は大きなため息をついた。
焦った。もう少し遅かったら明日から東郷にずっと冷たい目で見られるところだった。
いや、東郷だけじゃない。友奈、夏凜、なにより妹の樹にもそんな目で見られると思うと寒気が止まらない。
(だけど――)
先ほどの快感が忘れられない。あの、脳を焦がすような電撃的な快感をもう1度だけ味わいたい。
ふらふらと、まるで誘蛾灯に誘われる蛾のように風の手が丹羽の手をつかむ。
「1回だけ」
そう。1回だけだ。1回やって、それが終わったらもうやめる。
風はジーパンの留め具を外し、ジッパーを下ろす。
1回だけ、1回だけ絶頂したらもうやめるから。
それがただの言い訳になっていることは、自分が1番わかっていた。
だが、これは丹羽も悪いのだ。
自分の知らなかった快感を教えてくれた丹羽が。
本当はキスしてほしいのに眠ったままの丹羽が。
自分以外の女の子に優しくして勘違いさせた丹羽が悪い。
だからこれは上書きだ。
自分の1番大事な場所で、彼女が握っていた手を自分の匂いで上書きする。
そのためにこれは絶対に必要な行為。だから――
「ひゃうっ⁉」
ショーツ越しに触れた指に、思わず腰が跳ねる。
まだ触れただけだ。動かしてもいない。もちろん中に挿れたりも広げてなぞったりも。
それなのに、いままで自分でシた時よりずっとずっと気持ちいい。
(駄目だ)
これ以上は駄目だ。引き返せなくなる。ただの1人エッチじゃ我慢できなくなる。
でも、それでも…。
(キモチヨクナリタイ)
はぁはぁと荒い息が風の口から漏れる。
風は自分の手でショーツをずらし、丹羽の中指を秘部になぞらせてみた。
「っ♡ くぅうううん♡♡♡」
絶頂、絶頂、絶頂。
信じられない。ただなぞっただけで絶頂してしまった。
これでもし、弄ったら、指で弾いたら――どうなってしまうんだ?
確かめたい。
「ふぅっ♡ ふっふっふ♡ んーん♡」
指が止まらない。止められない。
自分の指と違い、丹羽の指は細長いくせにごつごつしていて、風が届かない場所にまで届く。
「んーむ♡ ふぅううん♡ ふぅううん♡」
絶頂しても止まらない。風の下の口から漏れる体液が丹羽の手を汚し、皮膚にしみこんでいった。
「んー♡ んんー♡ んむーっ♡」
3連続絶頂。だが風はその行為をやめられない。
結局この行為は丹羽の手がテラテラに光りふやけるまで続けられ、夕飯をコンビニに買いに行った風は替えのパンツを買いに行く羽目になったのだった。
翌日。目を覚ました丹羽はソファーで寝ている風を発見し、彼女が倒れた自分を心配してきてくれたのだと察した。
「ありがとうございます。風先輩」
まだ眠る彼女にタオルケットを掛け直す。しかし妙に肌つやがいい気がするのは気のせいだろうか?
と同時に室内にノックの音が響く。「どうぞ」と言うとスライド式のドアが開いて園子が入って来た。
「にわみん、もう起きて平気なの?」
「ええ。かわいい恋人のおかげですかね」
ソファーで気持ちよさそうに眠っている風に優しい顔を向ける丹羽に、「そっか」と園子は自分の初恋が破れたのを知った。
「でもたった1日で治るなんて愛の力は偉大だねー。このこの」
ぐりぐりとひじを丹羽に押し当てていた園子は、丹羽からいつもと違う匂いがするのに気付いた。
「この香り…ふーみん先輩? なんでにわみんからふーみん先輩の匂いが?」
そうだ。これは間違いなく風の匂いだ。最初病室ですれ違った時に感じた匂い。
園子の疑問に丹羽は不思議そうな顔で「そんな匂いしますか?」と言っている。本人に覚えはないのだろう。
だとしたら…。
「やるね、ふーみん先輩」
「何か言いました?」
「ううん、なにも。ふふ、にわみんはいい恋人を持ったねー」
「ええ。俺にはもったいないくらいの頼りになってかわいい人です。ってにわみんってなんですか?」
園子と丹羽の言い合いの中、風は熟睡していた。
目が覚めるのは、もう少し先になりそうだった。
園子「にわみんからふーみん先輩の匂いがする。なんでだろ?」
東郷「どうしたのそのっち?」
園子「あ、わっしー。わっしーからは…ゆーゆの匂いがするよー」
東郷「そう? 同じシャンプーをしてるからかしら」
園子「えー、それだけー?」
東郷「あと同じ朝食と同じ水と同じ歯磨き粉と同じ化粧水を」
園子「へ?」
東郷「あと友奈ちゃんが空手の稽古をしている道着とかは洗濯する前に思う存分クンカクンカさせてもらってるわ。そのせいかしら?」
園子「もしもし、ポリスメン?」