様々な理由で行き場を失った人々が集まり開拓した村、ハリム。
戦争で故郷と両親をなくした私たち兄弟もこの村に流れ着き、開拓作業を手伝いながら暮らしている。
ハリムでの暮らしは決して快適なものではない。
娯楽も少なく、1日の楽しみは食事ぐらいだ。
しかし、醜い容姿に生まれたという理由だけで故郷やその後訪れた様々な町や村で邪険に扱われていた私たちは、村の一員として普通に接してくれるハリムの人々との暮らしに幸福を感じていた。
そう、私はこの生活に満足していたのだ。
彼女と出会うまでは・・・
「シモンさん、ビルさん、おはようございます。」
私たち兄弟に笑顔で挨拶するパラディエンヌの少女。
「お、おはよう。」
今までの人生で若い女性に笑顔など向けられたことのない私は、緊張で声を詰まらせながら挨拶を返す。
弟のビルは声も出せずに顔を赤らめながら会釈していた。
ユウリィ・アートレイデ。
2ヶ月程前からハリムで暮らし始めた15歳の少女だ。
彼女とほぼ同時期に暮らし始めた村人たちの話によると、私たちと同じ戦争孤児であり、今までかなり過酷な日々を過ごしていたらしい。
(信じられないな・・・)
歩き去るユウリィの後ろ姿をそう思いながら見つめる。
15歳と言えば、私が両親を失った年齢だ。
唯一自分を守ってくれる存在だった両親を失った15歳の私は、この理不尽な世の中を呪いながら、同じ境遇である弟と助け合い過ごしていた。
あの頃の私たちに他人に笑顔を向ける余裕などなかった。
「ユウリィお姉ちゃん!!」
遠くから彼女の名前を呼び、小さな女の子が走ってくる。
優しく、面倒見の良いユウリィは村の子どもたちに慕われており、彼女の周辺には直ぐに子どもたちの輪ができる。
「アキちゃん、おはようございます。」
アキと呼ばれた少女は嬉しそうにユウリィの手を握り、一緒に歩き始める。
「今日の水泳の授業、私泳げないから泳ぎ方教えてね。」
「良いですよ。一緒に泳ぎましょう。」
2人の少女は笑顔を浮かべて楽しそうに会話しながら、ハリムの子どもたちが通う青空教室の方向に向かっていく。普通の大人が見れば、微笑ましい光景だと感じるだろう。普通の大人ならば・・・
(ついにこの日が・・・)
ゴクッと生唾を飲み込む。
「じゃあ、僕は行くけど無理しないでね。兄ちゃん。」
「分かってるよ。お前も気をつけろよ。」
ハリムでの生活は村人全員が扶助し合うことで成り立っており、私とビルは村の近くにある渓谷で山菜等を採取し、それを食料として村に提供している。
普段は一緒に行動する私たちだが、今日はビルに体調不良と嘘をつき、私は渓谷の奥まで入らず近場を散策すると伝えていた。
「行ったな。」
ビルの姿が見えなくなることを確認し、私は高ぶる気持ちを抑えながら足早に村外れにある小さな池に向かう。
到着すると池からは視認できない距離の茂みに身を隠し、望遠カメラを構えながらただひたすらに時が来るのを待ち続けていた。
(ビルにこんな姿は見せられないな。)
両親が亡くなってからは、その代わりとして自分より幼いビルを必死で守り、良い兄になろうと努力してきたつもりだ。
しかし、今の私はきっと良い兄を目指す者がしてはいけない表情をしていると思う。
(全て君が悪いんだよ・・・ユウリィ・アートレイデ。)
池の方に向かって楽しそうに子どもたちが歩いてくる。私はカメラをその輪の中心に居るパラディエンヌの少女に向けた。
「ヒヒヒ、やっぱりデカいな~」
更衣室として設置された池近くの小屋から出てきた水着姿のユウリィ。
その胸の部分を撮影しながら呟く。
「白タイツ脚も良いけど、生脚もいいねぇ~」
カメラアングルを下げ、普段は拝むことのできない貴重な生脚も執拗に撮影する。
ユウリィは撮影されていることに気付く様子もなく、子どもたちと一緒に池の中に入って行った。
(いよいよだ・・・)
周囲を最大限に警戒しながら徐々に池に近付く。
池の中にいる子どもたちも、指導役として同席しているハリムの大人も私の存在に気付いている気配はない。
(本当にこの村はお人好しの集まりだな。)
助け合って暮らしている影響なのか、ハリムの村人は内部の人間に対する警戒心が薄い。
(私みたいに本性を見せていない奴も居るかもしれないのだから警戒しないと駄目だよ。)
施錠されていない更衣室のドアを音を立てずに開ける。
あまりに思い通りに事が進むことに嬉しくなり、笑い声が出そうになるのを必死で堪えながら私は更衣室の中に入った。