※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第九十五話(エロなし)

 鼻を突く焦げ臭さに顔をしかめる余裕もなく、ティアナは地面を転がった。大気が熱で膨張して、弾ける音がする。魔力刃で両断された木々が、次々に倒れてくる。操られたアニスは容赦なくティアナを追い回し、マナ・ブレイドを振るってくる。アニスの攻撃はマナ・ブレイド一辺倒で、魔力刃が魔力の出力で若干延長することはあっても近接攻撃の域を出ない。魔力弾を主要な攻撃手段とするティアナとは交戦距離が違うので、互いに自分の得意な距離で如何に戦うかが戦いの行方を左右する。

 ティアナは距離を取るために常に移動する。アニスは距離を詰めるためにティアナを追う。障害物だらけの森の中での追いかけっこは、逃げるティアナに分があった。

 アニスは思考は単純化しているらしい。洗脳されたアニスは、判断をする知性が抑えられている。柔軟で高度な判断が求められる森の中での戦闘とは相性が悪いのだろう。

 木々を利用してアニスの死角に入りながら、魔力弾を放ち牽制する。裸のアニスの防御力は見た目通りだ。強力な魔力そのものが鎧となったところで限度がある。ティアナの攻撃が当たれば、アニスを倒すことは不可能ではない。

 

(強い……)

 

 ティアナはアニスの戦闘力に舌を巻いた。

 剣一本で、ティアナの誘導弾を尽く斬り払った。ティアナをどうやって追い詰めるかという狩猟者としての判断力や戦略は失われていても、目の前の敵への対処という点では十分すぎる性能だ。

 アニスの攻撃はティアナの防御を無効化する。魔力を断つマナ・ブレイドは、ミッドチルダ式の魔法の天敵で、バリアジャケットは気休めにしかならない。精々が、森の枝葉で切り傷を負わないようにする程度である。

 攻撃は最大の防御などと嘯くことはあっても、それを実践するのは極めて困難だ。 

 相手の反撃を許さず、一方的に攻撃し続けるなど、よほど戦力に差がなければ実現しない。

 アニスとティアナの戦いは残念ながら、そのごく希な状況が生まれつつあった。

 ティアナの反撃はアニスのマナ・ブレイドで斬り裂かれる。徐々にティアナは追い詰められている。木々を盾にして枝葉を掻い潜って逃げるティアナを、アニスはまっすぐ追いかけている。邪魔な木を斬り倒し、高出力の魔力に任せた無秩序な斬撃は、結果としてティアナの逃げ道を封じていくこととなった。

 今は、僅かにティアナの有利な間合いで駆け引きができている。シュートバレットで距離を詰めようとするアニスの機先を制し、さっと身を翻して大木の後ろに隠れる。少し油断をすると、すぐにアニスに距離を詰められる。アニスの動きをよく見ながら、タイミングを合わせて引き金を引くということを数え切れないほど繰り返している。

 ティアナと入れ替わりでアニスが大木の裏に走り込む。すでにティアナは銃撃しながら距離を取っていて、アニスの攻撃は空振りに終わる。

 と、そこでアニスの周囲を橙色の星が取り囲んだ。

 

「クロスファイアシュート!」

「ッ!?」

 

 落ち葉の下、木の洞、岩陰から一斉にアニスに向けて魔力弾が襲いかかる。

 大木の影はティアナが設定したキルポイントだ。

 アニスの目を盗み、魔力弾を仕掛けて迷彩スクリーンで隠した。機械にすら効果を発揮するティアナの幻術魔法である。

 限られた時間の中で用意できた弾は十発だけだが、一発当てれば状況が好転する可能性はある。

 上下左右からアニスを取り囲む魔力弾の檻は、ティアナの指示を受けて一瞬で縮小する。まるで、惑星に引き寄せられる隕石のように、アニスという巨星に向かって橙色の星々が落ちていく。

 アニスを星に例えるのなら、それは超新星爆発と表現しても差し支えないだろう。

 目を疑う巨大な魔力の渦が木々を揺らし、ティアナの魔力弾を掻き消した。アニスの内から滾々と湧き出る竜の魔力が、ティアナの小手先の攻撃を力をねじ伏せたのだ。

 旧式の単発銃でミサイルに立ち向かうようなものだ。

 同じ魔力というエネルギーを使用しているからこそ、差が分かる。ティアナとアニスでは出力が根本的に違い過ぎるのだ。やはり、魔法や魔術と呼ばれる能力ないし技術が魔力を動力とする以上は、個々人の魔力容量はそのまま才能という形で影響する。

 アニスは魔法が使えないというハンデがあるという。

 それにしても、この魔力量。

 ただ魔法に加工されていない魔力だけで、ティアナが使う魔法の多くを凌駕している。

 ティアナのリンカーコアは、今も懸命に魔力を精製して全身に駆け巡らせている。が、とても追いつかない。アニスが垂れ流す魔力量が、ティアナが意識して生み出す魔力量よりもずっと多い。

 

(嫌になるわね、本当に)

 

 十中八九、これは負け戦だ。

 手を尽くしても、じり貧。どこかで追い詰められる。決着が付くまでの時間を、引き延ばすのが精々である。

 唇を舐める。

 錆びた鉄の味がした。

 唇が切れたらしい。

 身体のそこかしこも痛んでいるのだろう。アドレナリンが分泌されていて、気づかないだけだ。

 ティアナは不敵に笑んだ。

 「才能の壁」は山ほど見てきた。

 数え切れないくらい叩きのめされてきたが、そのたびに立ち上がった。

 そのおかげか、諦めの悪さだけは天才にも負けない自負がある。

 暴力的な魔力の奔流。アニスがマナ・ブレイドの切っ先をティアナが隠れる巨木にまっすぐ向けて、突進してきた。

 進路上のささやかな小枝や小木は、アニスに触れることすらできずに吹き飛ばされている。少女の姿をした台風のようだ。

 マナ・ブレイドの魔力刃が巨木を抉り、軽々と貫通する。

 ここは魔法カードで形作られたフィールドだ。

 手触りも硬さも本物と同じ巨木であっても、魔力で維持されているものと思えば、マナ・ブレイドを防げる道理はないということか。

 魔力刃が幹を貫通したまさにその瞬間、ティアナが動いた。幹の影から颯爽と飛び出して、アニスに銃口を向けた。

 アニスからすれば不意打ちも同然だ。

 幹が目隠しとなってティアナの動きを察知できなかったのだ。

 

「ああッ!」

 

 だが、一流の冒険者でもあるアニスにとって、目と鼻の先に敵が飛び出してくるというのは想定していて然るべきものだ。そして、魔力で作られた巨木の幹は、マナ・ブレイドにとって何の抵抗にもならない。ティアナが銃を構えて魔力弾を生成し、発射する。そのプロセスを踏むよりも、アニスが腕を横薙ぎに振るう方がずっと早い。

 巨木はバターのように焼き切られ、ティアナの胴体もまた同じ運命を辿る。 

 あっけなく、ティアナの肉体はガラスのように砕け散った。

 

「!?」

 

 操られながらもアニスの表情が変わった。

 斬り捨てたはずのティアナの身体が、一瞬で消滅したからだ。斬った手応えがないのは、マナ・ブレイドの切れ味を考えれば当然なのだが、ティアナはただの人間だ。サーヴァントのように死んで消滅することはない。

 即ち、アニスが両断したティアナは偽物。ティアナが用意した幻術フェイクシルエットだ。

 アニスがティアナの幻を斬った時、本物のティアナは、アニスの背後に回り込んでいた。

 光のないアニスの瞳がティアナを映した。

 すでに放たれた魔力弾が、アニスの眼前に迫っている。

 アニスはこれを持ち前の反射神経で頭を振って躱した。

 脅威的な身体能力に目を見張ることなく、ティアナはさらに一歩踏み出した。互いに手が届く間合い。これは、アニスの間合いだ。マナ・ブレイドを握るアニスの右手が、ティアナを狙う。

 

「はッ!」

 

 ティアナはアニスの右手首にクロスミラージュのグリップを叩き付けた。同時にアニスの手首に橙色の手枷が現れた。簡易的なバインドタイプの魔法だ。空間に固定されていて、アニスの右手を拘束した。

 動きを止められたアニスは、最早踏み込んでくるティアナを止める術がない。ティアナはアニスの胸に銃口を押し当てて、引き金を引いた。

 乾いた音が響き渡る。

 魔力弾が、ゼロ距離からアニスを貫いた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「ええぇ、そんな、アニスお姉ちゃんが負けた?」

 

 セラはティアナの勝利が信じられず、絶句した。

 カードモンスターの常識ではあり得ない結末だ。

 特に「攻撃力」が違い過ぎる。

 カードモンスターなら、攻撃力が高い方が勝利する。それが、彼女の常識であり、それを覆すのであれば、魔法カードや罠カードを駆使して立ち回る必要がある。

 ティアナは純然たる自分の力だけでアニスを攻略した。

 これは、セラにとっては想定外だ。

 一方、ティアナからすれば、アニスは辛うじて攻略可能な対象でもあった。

 アニスは操られていて本来の戦闘センスが発揮できていないようだったし、何より彼女は強大な力を持っているものの対人戦のエキスパートというわけではない。

 竜を殺す力を持っていても、その力を人間相手に活かす訓練はしていない。

 魔法を使う犯罪者を捕縛する訓練を積んできたティアナとは、戦い方の方向性が違った。そして、ここでは対人戦の経験値こそが重要だった。

 

「逃げないの?」

「逃げても意味ないでしょ」

 

 《森》は依然として健在だ。

 どうしたところで、セラを倒さなければ、前に進めない。

 事実、こうしてセラはティアナとアニスを付けてきていた。決着がついてから悠々とティアナの前に姿を曝し、これ見よがしに緑色の触手をくねらせている。

 負ければ、アニスと同じように魔力を吸い尽くされる結末を迎えるだろう。

 対人戦ではティアナが勝った。

 次の相手は残念ながら人間ではない。見た目は人の姿をしているが、カードモンスターだ。ティアナの常識に当てはめて戦うべき相手ではない。まして、この疲弊した状況では、逃げられるのであれば逃げるべきなのだ。

 しかし、逃げられない場合、背中を見せるのは悪手だ。

 ティアナはシュートバレットを放つ。魔力弾の生成を甘くして、速度を優先した早撃ちだ。会話の切れ目、呼吸のタイミングを見計らった銃撃をセラの触手が弾く。

 舌打ちするティアナは、続けて魔力弾を撃ち込む。

 データ上、《セラの蠱惑魔》は単体の能力としては低い。ティアナがこの森の中で倒してきたカードモンスターのほうが上位ということもあっただろう。つまり、倒せない相手ではないということだ。

 

「クロスファイアシュートッ」

 

 セラが相手では障害物を使って逃げ回るという手も使えまい。面と向かっている以上は、とにかく手数で攻める他ない。

 魔力弾を受けた触手が次々と穴だらけになり、粘液をばらまいて千切れ飛ぶ。

 二丁拳銃というだけでない。空中にいくつもの魔力弾を生成して、セラに叩き込んでいく。

 

「あまり魔力を使わないで、お姉ちゃん。食べる分がなくなっちゃう」

「そんなに欲しけりゃ、くれてやるってのよ!」

 

 煌めく30発にも達する魔力弾の同時発射。セラの目が驚愕に見開かれる。直前まで、セラの目には10発程度しか映っていなかったからだ。突然、それが3倍に増えたのだ。触手の対応が遅れて、守りをすり抜ける。待機させた魔力弾を幻覚で隠した。アニスに仕掛けたのと同じ罠だ。これをティアナはセラを銃撃しながら仕掛けていた。 

 

「きゃあああああッ」

 

 20発近くは触手が防いだが、残りはセラの身体を直撃した。爆発が生じて、セラの小さな身体が跳ね飛ばされる。

 地面を転がるセラにさらに銃口を向ける。

 カードモンスターは戦闘不能になればカードに戻る。そうならないということは、セラはまだ戦える状態だということだ。 

 ティアナは追撃をしようとしたまさにその瞬間、ティアナの足を粘つく触手が絡め取った。

 

「な……しまッ……きゃあッ」

 

 触手は地面から生えていた。これは一応は根に当たるのだろうか。ねっとりとした粘液に濡れた触手はティアナの右足首から一気に太ももまで這い上がり、そのまま逆さづりにした。さらに、振り回して地面に叩き付ける。背中を強打したティアナは、声を上げることもできずに悶絶する。バリアジャケットがなければ即死だっただろう。

 

「うふふ、つーかまーえた♪ ティアナお姉ちゃん、痛いことをされたから、その分はやり返していいんだよね? いろんな穴に触手を入れて、かき回しちゃっていいよね?」

「く、う……ぐ、あ」

 

 触手がティアナの身体に巻き付いていく。強靱な力で圧迫されて、メキメキと関節が悲鳴を上げる。呼吸が止まり、思考に靄が掛かる。魔力を消費しすぎたせいか、バリアジャケットの強度も下がっている。

 

「かひゅ、く、ふ、あ……がッ……ジャケット、パージ!」

 

 ティアナを拘束する触手が内側から弾け飛ぶ。

 バリアジャケットそのものを炸裂させて、拘束を解く奥の手だ。

 欠点は、バリアジャケットを再生成するまでは無防備になってしまうということ。そして、

 

(魔力生成が追いつかない……!)

 

 《森》でほとんどまともに休みを取ることなくここまで戦ってきたティアナの疲労は限界に近い。胸の奥が焼け付くように痛むのはリンカーコアまで悲鳴を上げている証左だ。

 バリアジャケットを再生成する魔力が足りない。その上、触手を迎撃する魔力弾の生成を優先しなければならないのも苦しい。

 魔力を蓄えていたカートリッジもすでに使い果たした。すでに、命を削って魔力を捻出する段階に入っている。

 歯を食いしばり、懸命に触手に抗うティアナ。

 魔力も体力も底を突き、負けん気だけで戦っている。

 

「もう無理でしょ、お姉ちゃん。ヘロヘロで、動けない。早く休んで楽になりなよ」

 

 笑いながらセラが攻撃を仕掛けてくる。

 ティアナの抵抗が弱まり、優位な状況を築いたことでセラには余裕が生まれている。ティアナをいたぶり、弄ぶようになっている。サディスティックな性格はマスターに似たのだろうか。カードモンスターは召喚者の意に従うものだ。セラの性格にも影響していることだろう。

 セラの言うとおり、ティアナはもう満足に動けない。セラが手加減して、痛めつけることを優先しているから決着が長引いているだけで、勝負はほぼついていると言っていいだろう。

 

「お生憎様。こっちは凡人なんで、足を止めたら何にもできないのよ」

 

 精一杯の強がりで、不敵に笑って見せる。

 

「ふーん、じゃあ、もういいや。その頑張りがどこまで保つか、巣の中で試してあげる」

 

 ティアナの笑みに冷徹な眼差しを返したセラは、いよいよこの戦いを終わらせるべく触手を振るった。都合10本の触手がティアナに向かった。魔力弾の生成はまったく間に合わない。迎撃できて2本までだろう。その後は、もうなるようにしかならない。触手にまさに絡め取られそうになったその時、青く澄んだ魔力刃が襲いかかる触手の群れを斬り払った。

 

「アニス!?」

「色々、ごめん! 迷惑掛けちゃって」

 

 ティアナの元に駆けつけたアニスは開口一番に謝罪した。

 

「こっちはいいわ。アニスは大丈夫なの?」

「ん……まあね」

 

 セラに魔力を吸われたというが、それだけではあるまい。アニスが裸に剥かれていたという時点で、陵辱されたことを想像するのは十分である。

 

「その服、何?」

 

 と、ティアナは尋ねた。

 今のアニスは裸ではなかった。黄色と黒の肌にぴったりと貼り付く衣装を身につけていた。それはレオタードに近く、シルエットだけ見れば裸も同然で体型がはっきりと分かるものだった。

 

「あんま、使いたくなかったんだけどね」

 

 と、アニスは恥ずかしげに呟く。

 

「マナ・ブレイドの柄に仕込んでおいたんだよ。緊急用で、実験的に作ったスーツ。まさか、本当に使うことになるとは思わなかったけどね。ティアナのバリアジャケットみたいなもんだと思って」

「そういうもの」

「見た目がちょっとアレだけどね」

 

 アニスとしても、肌に布を貼り付けたようなスーツは気恥ずかしい。敵に捕まり裸にされるような事態でなければ、着用することはなかっただろう。

 これはヒロイン生協のデータベースに記録されていた過去にヒロインが持ち込んだ装備の一つである。

 「魔法を使えない」という制約をこの世界でも背負っているアニスは、魔法ではない魔力を使った技術を活用していくしかなかった。

 「対魔忍」というグループのヒロインが愛用するスーツだ。着用者の特性に合わせた改良が可能で、汎用性が高い。非常に薄く軽量である一方、極めて頑丈ということもありがたい。

 見た目が恥ずかしいという点に目を瞑れば、運用機能を強化してくれる対魔忍スーツは有用だ。

 

「どうして、アニスお姉ちゃんがいるの? ティアナお姉ちゃんに撃たれたのに」

 

 セラは不思議そうに首を傾げる。

 アニスはティアナに撃たれて倒れた。至近距離からの銃撃だ。死ななかったとしても重傷は免れないはずだ。

 

「さあ、教えてあげない」

 

 ティアナはわざとらしく嘯いた。

 ティアナの魔法には、物理的ダメージを与えない非殺傷設定があるのだ。魔力弾で撃たれたアニスは、一時昏倒したものの、怪我らしい怪我をしていないのだ。

 カードモンスターのセラには、ミッド式魔法の知識があるはずもなく、戦線復帰は不可能と判断してアニスを意識から除外していた。

 

「……まあ、でも、今更アニスお姉ちゃんが来たところで変わらないよ。二人とも戦えるほど余裕ないでしょ」

 

 セラが操る触手は際限がないのか、蛇が鎌首を擡げるように、いくつもの触手が現れる。さらに他のモンスターまで召喚してきた。獣人や巨大な昆虫の姿をしている。

 

「ちょっとピンチすぎない?」

 

 アニスの攻撃手段はマナ・ブレイドだけだ。

 離れたところにいるセラを倒すには近づかなければならないが、触手とカードモンスターを乗り越えていくというのは厳しい。

 

「ティアナ、強い攻撃いける?」

「時間ちょうだい」

「どれくらい?」

「1分……いや、2分は欲しい」

「厳しいこと言うなぁ」

 

 見たところ、触手は目に見える範囲で15本。剣と槍を持つ獣人が5体にカマキリ2体、蜘蛛4体、蜂4体、大きな蟻もいる。多勢に無勢は目に見えて明らか。実質的にこれをアニス一人で相手にしなければならないし、何ならおかわりもあるだろう。

 

「無理?」

「いや、余裕!」

 

 アニスはマナ・ブレイドを片手に自らセラに向かっていく。もちろん、それを許すセラではない。触手と配下のカードモンスター達をアニスに襲いかからせる。

 

「たあああああああ!」

 

 地面を踏み込む力が漲る。

 スーツに施した身体強化機能がアニスを加速する。

 魔法は使えない。しかし、魔力で稼働する道具を使うことができる。それが、この世界におけるアニスの性質だ。

 魔法として確立しているもの。

 例えば西洋魔法やミッドチルダ式魔法も、アニスはどういうわけか使用することができない。

 しかし、魔術礼装やアーティファクトのような魔力を流せば起動する道具ならば使用できる。

 対魔忍スーツもまた、アニスの手により改造されている。アニスの魔力に反応し、刻印した魔法が起動するアーティファクトと化している。

 まずは触手3本を斬り捨てる。その余波で踏鞴を踏んだ獣人に飛びかかり、脳天から股下まで刺し貫く。

 

(あっちはあっちで余裕がないんだな。見た目ばかりで中身のない、低級モンスターだ)

 

 身体の動きが悪い。

 疲労でガタガタだ。

 対魔忍スーツが外骨格のような役割を果たして、崩れ落ちそうなアニスの身体を支えている。

 アニスは突き出される槍と剣を避け、上空から針を突き出す蜂を返す刀で斬り付け、蜘蛛が吐きかけてくる糸を身を低くして掻い潜る。

 単体では弱くても、数が揃えば厄介だ。

 一番は司令塔(セラ)を潰すことだが、当然、それは容易ではない。

 ティアナの準備ができるまでは、何とか凌げるか。

 何と言っても、魔物退治はアニスの得意分野だ。ティアナに迷惑をかけた分、ここは頑張らなければならない。

 獣人の剣を半ばから斬り落とし、落ちた刃をセラに向けて蹴り飛ばす。

 セラは苦々しげにしながら触手を盾にする。

 少しでもティアナを攻撃するそぶりを見せると、あの手この手でアニスがセラを狙ってくる。

 召喚したカードモンスターも低級で知性が低い。アニスにいいようにやられている。

 

「ちょこまかと……いい加減、捕まれッ」

「もう捕まんないよ、あなたにはね!」

 

 触手をくぐり抜け、蜘蛛の胸部を突き刺す。倒れる蜘蛛がカードに戻る前に、蜘蛛の腹を蹴って飛び上がり空の蜂を斬る。八面六臂の活躍で、アニスは次々とカードモンスターを討ち果たしていく。 

 

「キリがないッ」

 

 それでも減らない。切った傍から新たにモンスターが追加される。いや、もともと召喚していたモンスターをこの戦場に呼び出しているのだ。この近辺にいるモンスターたちが集まってきている。

 敵を減らしているはずなのに、いつの間にか増えている。

 ティアナを庇いながらの戦闘は、大きな負担だ。永くは続けられない。あまりこの流れが変わらなければ、一か八かセラに突進するしかなくなる。

 

「ティアナ!」

「いい! もう大丈夫!」

「よっしゃあ!」

 

 アニスは魔力をマナ・ブレイドに叩き込み、振り下ろす。

 剣閃がカードモンスターを斬り裂きながら、地面を沸騰させた。

 粉塵を舞い上げて、アニスは大きく後方に跳んだ。

 

「何ッ!?」

 

 爆発と舞い上がる粉塵が、大気をかき回す。

 霞む視界の奥で巨大な力が湧き上がるのをセラは確かに感じた。

 それは、極大の魔力の塊だった。

 橙色の魔力弾。

 ティアナが通常使用する魔力弾が夜空に浮かぶ星々とするのなら、これはまさに太陽だ。

 クロスミラージュをブレイザーモードに変形。

 ガンズモードよりも長い銃身を両手でしっかりと保持する。

 操作を誤れば自滅は不可避だ。

 集約した魔力はティアナの保有魔力量を上回り、恐怖すら覚える密度となっている。

 

「ティアナ、気づかれたよ!」

「分かってる!」

 

 オプティックハイドによるカモフラージュも、これだけの魔力量となれば意味を成さない。

 アニスがセラの意識を惹き付けてくれたおかげで、十分な魔力をかき集めることができた。

 ティアナ一人では決して用意することなどできない大魔力ではあるが、アニスがばらまいた竜の魔力は、霧散することなく漂っている。

 それを一カ所にかき集めて砲弾に加工する。

 

「いくぞ――――全力、全開!」

 

 セラが危険を察して守りを固める。射線上にカードモンスターを強引に引き寄せて、触手を幾重にも重ねて盾とする。

 だが、無駄だ。

 この一撃は小手先の守りを紙くずのように粉砕する。

 今、ティアナが放てるありったけの力をこの一射に込めて、解き放つ。

 

「スターライトブレイカー!!」

 

 それは竜の咆哮にも似た極大の魔力砲。

 周囲の魔力を敵味方問わずかき集め一点に集束することで、自身の魔力を上回る大火力を実現する奥義だ。

 極めて繊細なコントロールを要する最高難度の魔法であり、戦闘で使用する際にも長時間のチャージが必要であるという点でなかなか使いどころが難しい魔法ではある。が、一度放てばその力は絶大で、戦況を一気に覆る必殺となる。

 

「な――――……」

 

 抗うことすら許されない圧倒的砲撃。セラの守りは為す術なく蹴散らされ、断末魔を叫ぶ間もなく橙色の光の中に消えていく。

 カードモンスター達も触手も僅かの抵抗も叶わず砕け散り、そしてセラもまた同じ運命を辿ったのだった。

 

 

 

 

 ♪

 

 

 

 

 

 火花が明滅した。

 暗く深い森の中で幾度も刃を交し、そのたびに激しい火の粉が飛び散った。

 美しく愛らしい二人の少女の顔が、剣戟とともに浮かび上がる。

 一人は笑み、もう一人は苦悶の表情で己の武器を振るっている。

 

「く……ぁ……!」

 

 腕が痺れるほどの斬撃を受けてカスピテルは後退する。

 ステラの戦闘形態。悪魔を祓うための変身状態で、巨大な槍が彼女の象徴である。

 カスピテルの足下に影がかかる。ハッと顔を上げると青く輝く刃が落ちてくる。柄を掲げて剣を受け止めたカスピテルは唇を噛んだ。

 

「お姉様……!」

「なんですか、シスターカスピテル?」

 

 在りし日と変わらないミカエリスの柔和な笑み。

 それがあまりにも痛々しい。

 技も力も変わらない。

 目の前にいるのはエクソシスター・エリス、その変身した姿であるミカエリスだ。

 会いたくて探し続けた姉と慕った相手である。それが、剣を自分に向けているということが受け入れられない。

 

「おね……うぐッ」

 

 鍔迫り合いの最中、ミカエリスは力を抜いた。バランスを崩したカスピテルの腹部をミカエリスが蹴り抜く。嘔吐感を堪えてカスピテルは体勢を立て直した。水を思わせる魔力を纏う光の剣が、暗闇の中で輝いている。

 

(やっぱり、お姉様。間違いない。でも、どうして……)

 

 ミカエリスが軽く振るった剣の切っ先から魔力刃が放たれる。カスピテルは、木々を斬り裂く斬撃を飛び退って躱した。ミカエリスの攻撃方法はよく知っている。一緒に長く戦ってきた仲だ。元の世界でもそうだったし、この世界でもヒロイン生協で同じチームで戦ってきた。紛争介入や魔物討伐で大きな戦果を上げてきた。戦争孤児の支援や療養所の運営のための寄付を集める慈善活動も欠かさなかった。

 

「どうしてこんなことをするですか!?」

「どうしてって、わたしたちは所詮はカードモンスターでしかありません。マスターに従うのは当然でしょう?」

「ち、違います。わたしたちはカードから召喚されたわけではありません。ヒロインとして独立しています。従う必要なんてありません! お姉様、目を覚まして!」

「必要性の問題じゃないんですよ、シスターカスピテル。わたしは、従いたくて従っているんです。マスターのご指示の通りにあなたを連れ帰ります。戦いたくないのなら、ちゃんとついてきてください」

「で、できません。ヒロイン生協の任務がありますから。それに、お姉様が悪いことをするのなら、それを止めないと、くッ」

 

 剣戟が重たい。

 カードモンスターとしての力は互角だ。

 カスピテルが圧されるのは、ミカエリスが何らかの強化を受けているから。それに、心理的にもカスピテルはミカエリスを敵として認められていない。

 カスピテルがミカエリスと別れたのは一年ほど前のことだ。任務中に敵の襲撃に遭い、あえなく部隊は壊滅。ミカエリスは遺体が発見されなかったので敵に捕らわれたものと見られていたが、結局、発見には至らなかった。生存を信じていたが、このような形で再開するのはあまりにも不本意だ。

 

「マスターは素晴らしい方ですよ。あなたもきっと忠誠を誓いたくなります。そして、また一緒に旅をしましょう」

「どこの誰とも知らない人に忠誠なんて誓いません。お会いする必要もないです。お姉様こそ、ヒロイン生協に戻るべきです。戻ってきてください!」

「ヒロイン生協? ふふ……あははははッ。戻る? 何を言っているの? あなたたち、結局助けに来てくれなかったじゃない」

「え……あッ、きゃあッ」

 

 ガツン、と強烈な斬撃を受けてカスピテルはまた後退を余儀なくされる。

 

「お、お姉様」

「わたしは、待ってたんですよ。あなたがきっと助けに来てくれると信じて、マスターの誘いを断り続けたんです。ですが、無駄でした。あなたは来なかった。生協はわたしの捜索を打ち切った。そうでしょう?」

「そ、それは……違う、違うんです、そんなことは……」

 

 外形的には、確かにミカエリスの言うとおりだ。結局、カスピテルは部隊を離れることになった。部隊が壊滅した時に負った怪我は、身体的にも精神的にも彼女を追い詰めていた。むしろ、精神面のダメージが大きく、任務に堪えられなかった。ヒロイン生協としては、ミカエリスの捜索は継続していたが、何の手がかりもないまま延々と探し続けることはできない。人員は縮小され、別の任務に回されるのはこの情勢下ではやむを得ない判断だ。

 そういった細かな事情が、ミカエリスに伝わることはない。多分に脚色された話を、監禁生活の中で吹き込まれたのであろう。いずれにしても、囚われた彼女からすれば、見捨てられたも同然の状況だ。

 

「マスターは厳しくもお優しい方です。わたしに選択肢をくれました。自らの意思で降るか、このまま意地を張って説得を受け続けるか……わたしは、マスターの誘いを受け入れましたが、あなたは、さて、どれくらい意地を張れるでしょうか」

 

 剣戟はなおも続く。

 カスピテルは防戦一方だ。

 敬愛するミカエリスの告白は、カスピテルを打ちのめすには十分過ぎた。槍を握る手が震える。ミカエリスの剣を弾き返すのが精一杯で攻めに転じる余裕がない。そもそも、戦意がまったく湧いてこない。

 

「ふう……さすがに、上手い。やる気がない割には、持ち堪えますね」

「……お姉様には、身を守る術をたくさん教えていただきましたから」

「そうでしたね。でしたら、こちらはもっと苛烈に攻めるとします。できればあなたを傷付けたくないので、早めに降参してくださいね」

 

 ミカエリスはどこからか魔法カードを取り出した。

 発動と同時にミカエリスの背後に巨大な石の壁が出現する。 

 

「ふッ……!」

 

 浅く息を吐いて、ミカエリスが剣を投擲する。予想外の攻撃にカスピテルの反応が遅れる。豪槍を振るって剣を打ち払うが、ミカエリスを見失った。それはほんの一瞬の隙ではあったが、カスピテルの槍の間合いの内側にミカエリスが滑り込むには十分な時間だ。

 

(しまッ……!)

 

 焼け付くような痛みが腹部に走る。

 咄嗟に身体を捻り、全力で横に跳んだことでダメージは最小限に抑えられたようだが、鋭い刃物で切り裂かれた服から血が滲む。さらにミカエリスの素早い追撃を槍では捌けないので左手で払いのけながら、ミカエリスの膝を蹴り付ける。ミカエリスの突進を止めつつ、その勢いを利用してさらに後ろに跳んで安全圏まで退避した。

 

「足癖の悪いこと」

 

 と、ミカエリスは呆れたように呟き、長い鉤爪(・・・・)に付着した血を舐めた。

 ミカエリスの右手に漆黒の鉤爪が装備されている。五本の指すべてが鋭利な刃物と化している。

 

「お姉様、それ……どういう……こと」

 

 カスピテルは目を見開いて唇をわななかせた。

 姉が敵に回ったという事実だけでも彼女に膝をつかせるには十分だったのに、さらにこれは追い打ちとなった。

 カスピテルはハッとして、ミカエリスの背後を見遣る。

 先ほどの魔法カードで呼び出された巨大な石壁が真ん中から左右に開いている。それは、壁ではなく門だ。何かが出てくるというものではない。ただそこにあるだけで効果を発揮するフィールド魔法。扱いとしては、カスピテルを取り込んだ《森》と同系統の魔法カードだ。

 

「《暗黒界の門》……それに《闇竜族の爪》……なんて、あなたが、そんな」

「気づきました? こんな風になってしまったんです、わたし」

 

 ミカエリスのスピードが著しく上昇する。

 一足飛びにカスピテルに接近して、右手を振り下ろす。槍と鉤爪では、明らかに槍が有利だ。何と言ってもリーチが違う。しかしながら、槍に限らず長柄の武器は取り回しが難しい。高い攻撃性能は、重量とリーチの二つに優れるからではあるが、その反面、懐に入られた時の対処が困難になるという弱点もある。

 ミカエリスはカスピテルを速さで翻弄しながら穂先の内側に入り込もうとする。

 それを防ぐため、カスピテルは切っ先をミカエリスに突きつけて牽制する。

 ミカエリスの鉤爪が穂先を斬り付けた。重量差をものともしない衝撃が走り、槍が跳ね上がる。信じがたい。信じたくない事実として、ミカエリスの攻撃力が大幅に上昇している。《暗黒界の門》と《闇竜族の爪》の恩恵を受けているのだ。

 《暗黒界の門》は悪魔族モンスターを強化するフィールド魔法であり、《闇竜族の爪》は闇属性モンスターを強化する装備魔法だ。

 ミカエリスは戦士族の光属性モンスターであって、本来はこれらのカードの強化対象にはならない。

 しかし、厳然たる事実としてミカエリスの能力は向上している。それは、つまり――――。

 

「そうです。今、あなたの目の前にいるのは闇属性、悪魔族。要するに、エクソシスターの敵なのです!」

 

 鉤爪が振るわれる。

 跳ね上がった攻撃力は、カスピテルを凌駕する。

 ミカエリスが凶悪な笑みを浮かべて躍りかかる。悪魔族と化したからなのか、それとも抑えきれない理不尽への怒りなのか。愛憎入り交じる感情がカスピテルを前にして歯止めが利かなくなっているのだ。

 

「あ……きゃあああ!」

 

 カスピテルの身体が地面を弾む。泥に塗れながら何とか槍の柄を握り、抵抗する。が、それまでだ。攻撃に転じる余力がない。ミカエリスの動きが、カスピテルの知るそれと全く違う。戦士として斬り結ぶのであれば、ミカエリスの攻撃力が上がっても対処はできただろう。ミカエリスの戦い方は熟知している。だが、今のミカエリスは武器からして別物だ。身体の動きも、剣を振るっていた頃とは似ても似つかない。数多の悪魔を斬り捨てた洗練された剣技は失われ、鉤爪を叩き付け、蹴り、殴るという身体能力に物を言わせた野性味溢れる凶暴な戦い方となった。

 

(これじゃ、まるで本当に悪魔だ……)

 

 奇しくもそれは、エクソシスターとして討伐してきた悪魔達を思わせた。

 あまりにも悔しい。最愛の姉が、このような姿に成り果てた。その責任の一端に自分がいるのは間違いない。

 

「あ……くぁ……かはッ」

 

 天地がひっくり返る。

 槍が手から離れ、地面に突き刺さった。

 

「お姉様……」

「チェックメイトですね、カスピテル」

「ごめんなさい。もっと、わたしが早く、あなたを助けに行けてたら」

「……いりません、そんなもの。あなたの謝罪なんて、求めてないんです。あなたがマスターのところに来てくれれば、それだけで十分です。ねえ、また一緒に」

「お姉様……それは……」

 

 カスピテルはミカエリスを見上げる。

 鉤爪を鈍く光らせて、カスピテルを誘惑する。深紅の紅い瞳は、悪魔族としての本性の現れだろうか。清楚可憐なミカエリスと同じ造形の顔立ちながら、今の彼女は淫蕩な魔を思わせた。

 

「……それは、できません」

 

 カスピテルは、ミカエリスの勧誘を拒絶した。

 本心では、彼女と共にありたい。どこまでも一緒にいたい。だからこそ、今のミカエリスをそのままに受け入れることはできない。悪の道に堕ちたのなら、そこから引き上げなければならない。

 

「一緒に堕ちるのは、責任を取ったことにならないと思いますから」

「そう」

「あなたを助けますよ。絶対に、何があっても」

「そういうの、もっと早く聞かせて欲しかったんですよ」

 

 鉤爪をミカエリスは振り下ろす。 

 カスピテルが素直に従わないのなら、死なない程度に痛めつける他にない。

 多少やり過ぎても治療すればよいのだ。かつての自分がそうであってように。「死なない程度」の調整は、自分の身体で身に染みている。

 爪先がカスピテルの肌を引き裂く直前、不意に周囲にノイズが走った。

 

「まさか……蠱惑魔が負けたんですか?」

 

 瞬く間にノイズが広がり、空間に亀裂が入る。

 《森》を維持していた魔力が尽きた。広大な異空間を生成したため消費魔力が大きい。蠱惑魔に魔力タンクのアニスを捕らえさせて魔力源として利用させたが、結局は失敗したようだ。

 

「さすがに、そう上手くはいかないようですね」

 

 《森》が解除されれば、現実世界に戻ってくる。ミカエリスは舌打ちしてカスピテルから距離を取り、間に割り込んできた魔力弾を回避する。

 

「だああああああ!」

 

 魔力弾に紛れて飛び込んでくるアニスの斬撃をサイドステップを踏んで躱す。その身のこなしは数多の悪魔と戦ってきた歴戦の猛者らしく、髪の毛一本剣の切っ先に掠めることなく避けきった。

 

「ヒロイン生協……まだまだ粒ぞろいというわけですか」

 

 人手不足と嘯きながらも所属するヒロインは数多い。多方面で活動しているからこそ、このノワール行きの任務にまで十分に回せる人員はなかったはずだが、新参のアニスですら、この窮地を乗り切る力を持っている。 

 《森》が崩れて、開けた公園予定地に戻ってくる。

 景色だけでなく、空気の質感すらまったく別物に切り替わるというのは脅威的な魔法である。フィールド魔法そのものは、カードの効果そのものは重視されないが、戦略的には恐ろしい力を持つ。

 

「ステラ、大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

 

 ティアナがカスピテルの手を取って立ち上がらせた。カスピテルは槍を拾い、もう一度ミカエリスに向き合った。

 ミカエリスは首を振り、肩を竦めた。そして変身を解除する。可愛らしいエリスの姿に戻る。かつてヒロイン生協に属した彼女の写真は、ティアナもデータ上で見たことがある。経緯は聞いていないが状況証拠的には彼女が敵だ。それもこの一件の主犯格であろうことは明白だ。

 

「動かないで。エリスさん、ですね。ヒロイン生協のティアナ・ランスターです。詳しくお話を伺いたいので、同行していただけますか?」

「ふふ、怖い顔。それに生真面目なこと。カリム総長の秘書なだけのことはありますね」

 

 エリスが半歩下がった時点でティアナは容赦なく銃撃する。

 轟と旋風が湧き上がる。

 魔力弾を掻き消して、現れたのは一体の竜だ。手綱を握るのは少女騎士。エリスは少女の後ろに跨がり、飛び立った。

 

「残念ですが、引き上げますね」

「お、お姉様!」

 

 エリスはカスピテルを一瞥すると、何も言わずに竜を羽ばたかせる。

 追いかけるという発想は誰にもなかった。

 三対一が竜とその背中の少女も合わせれば三対三になる。疲れ切った今のティアナ達が不利なのは言わずとも分かる。エリスが撤退したのは、時間切れかあるいはこの町にいるジータが合流するのを警戒したのか。それは分からないが、撤退したことで命拾いしたのは間違いなかった。 

 

  




エリス「こんなになっちゃった…たはは。なっちゃったからにはもう…ネ…」

エクソシスターに敵対する勢力は原作にまだ出てないのか。悪魔サイドに乗り換えた元エクソシスターとか悪魔が生み出した偽エクソシスターみたいなのが欲しい。
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