※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第十九話(ハルカ、マシュ、スピカ)

 この日、マオは日の出前から馬車に乗り込んでパラディクレールの町を出ていた。

 護衛に選んだのはマシュとハルカ、そしてスピカの三名である。

 ノワールの旧い同盟者から救援を請われたためであった。 

 それだけならば、ハルカやスピカを派遣すればよいのだが、今回はマオの思い入れもあって、マオ自身が現地に出向くことにした。

 王を補佐した経験を持つマーリンを中軸に据えて、都の守りを任せているので問題はない。北方の問題が片付いたわけではないが、イステネブルはノワールからの物資調達に失敗し、さらに東方から遊牧民族の圧迫を受けているためノワールへの再侵攻は困難であった。

 この遊牧民の動きは愛歌が扇動したものであった。どのような手を使ったかは定かではないが、愛歌は東の遊牧民の一部族に顔が利くらしく、「少しお話ししてくるわ」と言って出かけていったかと思えば、イステネブルに遊牧民が侵入を開始したのであった。とはいえ相性がある。イステネブルの湿地帯は遊牧民が得意とする機動力を活かした戦争ができない。当面、両者の戦いは小競り合いを繰り返す程度に終始することになるだろう。

 マオを守るのは、三人のヒロインだけである。人数だけで見れば、一国の領主が本拠を離れるにしては少ない護衛である。しかし、そのメンバーは、マオを守るのに十分過ぎるほどの戦力であると言えるだろう。ノワールの騎士や大臣たちが、逆立ちしても彼女たちの一人にも及ばないのだ。それが戦闘型ヒロインの特徴であり、三人もお供についているのだから不安要素のほうが少ない。

 特に長らくマオとともにあるハルカや主人を守ることに長けたマシュとスピカの組み合わせであり、マオ一人を守るのであれば、これで十分であった。

 馬車の手綱を握るのはマシュである。

 彼女には『騎乗』スキルがあり、ランクはCと低いものの普通の馬を操る分には問題がない。

 こうして、危なげなく馬車はパラディクレールから南に下っていった。

 

 

 穏やかな日である。

 夏めいた太陽の熱が鬱陶しいが、今日はほどよい風がある。ノワールの海側の平野部は、一年を通して降雪がも雨量も少なく、晴れの日が多い。今日もそんな一日になりそうである。馬車の車輪の音と小鳥のさえずりくらいしか音は聞こえず、雲一つない抜けるような青空の下を馬車は走る。

 道中、小川のほとりで馬車を止め、一時の休息を取ることにした。

 日が出る前に出発し、今は正午。六時間近くも馬車は走り続けていた計算になる。

 

「ずいぶんと長く走っていたけど、あまり疲れなかったな」

 

 と、マオは言う。

 ここまで休憩は一回しか取っていない。それでも、腰も首も痛くなっていない。

 

「やはり、マーリン卿とマナカ殿のおかげでしょう。詳細は分かりませんが、緻密な魔法で保護されているようです」

 

 スピカがぐるりと馬車の内部を見回して言う。

 マーリンと愛歌が共同で馬車を保護するように調整した。馬車を引く馬も含め、かなり強固な「強化」が施されているようだ。

 さらに技術の革新もある。ノワールにもたらされたサスペンションの技術で、乗り心地は劇的に改善した。

 前時代的な馬車は、最新技術と魔術を組み合わせた、ノワール領主を運ぶに相応しいキャリッジへと変貌したのである。

 

「魔法じゃなくて、魔術って呼び分けるらしいぞ、あの二人の世界だと」

「そうなのですか? 違いがよく分かりませんが」

「俺もよくワカラン。何だったか。その時代の技術で実現可能かどうかで魔術と魔法を区別しているみたいなことだったかな」

 

 マーリンや愛歌、それに立香、マシュ、シオン。彼女たちは根幹を同じくする世界の出身だ。共通する異能は魔術や魔法と呼ばれるが、この二つには明確な定義があるらしい。マオからすれば、同じに見えるが、その辺りには拘りがあるようだ。

 スピカは興味深そうに天井を眺めている。そこに魔術の基点があるのだとか。別の世界の技術だけあって、関心があるのだろうか。かつて、あれほど強く反発していたスピカも今ではマオの腹心に成り果てていた。

 スピカとその隣に座るハルカの視線が同時に外に向いた。扉を開いて入ってきたのはマシュであった。

 

「お疲れ様です。どこか、痛めていたりしていませんか?」

「快適だったよ。本当に初めてか?」

「普通に馬に乗るのであれば、経験がありますが、馬車は初めてでした。少し不安だったのですが、よかったです」

 

 『騎乗』スキルは、あらゆる乗り物という概念に適用される。ランクによって乗りこなせる乗り物に違いはあるが、それは対象の神秘の高さに左右されるものであって、神秘を持たない文明の利器で乗りこなせないものはない。

 マシュは手綱を握った瞬間に、熟練の御者と同様の能力を手にしていた。

 マオも貴種の一人として、乗馬の技術は身につけている。しかし、やはりそれは何度も怪我をして、繰り返し失敗をして手に入れた技術である。マシュは馬だけでなく、様々な乗り物を練習することなく乗りこなせるというのだから反則である。

 まったく、ヒロインの超常性を誰よりも理解していると自負しているマオだが、自分が苦労して手にした技術をこうも簡単に凌ぐところを見せられると、改めて彼女たちとの隔絶した違いを認識させられる。

 

「この辺りに危険はなさそうですし、どうでしょう。今のうちに食事にしませんか?」

 

 しばらく口を閉ざしていたハルカがそう提案する。

 どうも、集中して周囲の安全を確かめていたらしい。彼女ほどの猛者にもなると目視で確認しなくても大まかな危険は把握できるのだ。

 目で見える範囲は、マシュが常時確認していたこともあり、ハルカの確認はその再確認になるが、マオの安全を考えれば確認に確認を重ねるのは必要だ。

 

「腹も減ったし、これから先は長いからな」

 

 と、マオは頷いた。

 行程の半分も終えていないのだ。

 腹拵えはしっかりしておくに限る。

 ハルカが持ち込んでいたバスケットを開くと、綺麗に切りそろえられたサンドイッチが入っていた。

 葉物野菜と魚肉ソーセージをメインに、ツナマヨやポテトサラダもある。

 塩気を抑え、素材の味を活かしたシンプルな味付けで、シャキシャキとした野菜の食感と香草を練り込み香り付けした魚肉の風味が美味だ。

 

「美味しいですね、このサンドイッチ」

 

 と、マシュが頷きながらサンドイッチを味わっている。

 

「愛歌さんのお手製ですよ。料理がお得意みたいで」

 

 ハルカは料理ができないというわけではないが、愛歌の料理の腕前には完敗を認めるしかなかった。

 この旅には同行できず悔しがった愛歌であったが、その代わりにあれこれと旅に必要なものを準備してくれていた。昼食はその一つである。マオのために奉仕することに至福の喜びを感じる愛歌は、セックスのみならず、身の回りの世話まで焼こうとするのだ。

 談笑しながらの昼食で英気を養う。小一時間ほどの休息で、マオたちだけでなく馬のほうも力を取り戻した。小川の水を飲み、飼い葉を食って体力を回復した馬の手綱をマシュが握り、馬車は軽快に街道を南下していった。

 

 

 

 ♡

 

 

 

 魔術で強化した馬と馬車のスピードは普通の馬車を遥かに凌ぐ。安全運転に気をつけても、従来の半分以下の時間で目的地に辿り付けそうであった。

 これはただの旅行ではなく、急ぎの旅である。

 大事な同盟者からの救援要請に応える形での出陣なのだ。

 できることならば、昼夜を問わず移動したいところだったが、さすがに馬が潰れてしまっては元も子もない。 

 ミコトのトークンやマーリンと愛歌の使い魔を先行させているので、決して大事には至らないはずだが、今回の決め手はマオにある。

 マオが現地に到着すれば、万事解決だ。そのために、わざわざ首都から出張ってきたのである。

 夜の帳が下りて、満月が空に輝いている。

 空気は澄んでいて、星々もよく見えた。昼間の熱気の名残が残っていて、過ごしやすい暖かさである。

 マオたちの一行は、街道沿い脇の巨木の下で夜を明かすことにした。焚き火を囲み、川で取った魚や持ってきたパンを食す。

 

「マオ様は一国の領主ですのに、このようなところで野営されるなど。やはり、町で宿を取ったほうがよかったのではないですか?」

 

 スピカの言うとおり、マオの立場を考えるのならばこのような形での旅は慎むべきであった。どこに危険が潜んでいるか分からないのだ。いくらヒロイン三人による鉄壁の布陣とはいえ、リスクがゼロになるわけではない。

 

「うん、まあ確かにそうだ。だけどな、俺もこういう旅してみたかったんだよ。ほら、立香から旅のことをいろいろと聞いたからな」

「先輩からですか?」

「君たちは本当にいろんなところを旅して回ったんだろう? 野営することのほうが多かったと聞いたぞ」

「……そうですね。確かに、言われてみれば先輩やサーヴァントの皆さんと、こうして焚き火を囲んでいろいろとお話したこともあります。わたしたちの旅は、人里を巡ってばかりでは、ありませんでしたから」

 

 焚き火を眺めるマシュは、過去の旅路を思い返しているのか感慨深そうだ。

 苦しい旅ではあった。自分だけの命ではなく、まさしく世界のすべてを背負った旅路だった。立香がこの世界でぽっきりと心が折れてしまったのも、そうした旅路で背負った命の重さがあったからだ。

 

「わたしはマシュさんの旅のことは、よく知りませんが、きっといい旅だったんでしょう。かけがえのない仲間と過ごした日々はいつだって大事な思い出です」

「はい。わたしもそう思います」

 

 スピカも元の世界では苦しい戦いを繰り広げた経験を持つ。ハルカもそうだし、戦闘型ヒロインの多くは何かしら大きな戦いを経験している。彼女たちにとって、野営そのものは特別な作業ではない。そこで仲間と語らった思い出こそが大切なのだ。

 マオにはそういった経験はない。

 建物の外で寝泊まりするということそのものが、極めて希有なことだ。

 焚き火が爆ぜる音が耳に心地よい。

 隣に腰掛けるマシュの顔を見ていると、どうにも心の猛りが抑えられない。

 いつもと違う環境にいるからだろう。

 気が大きくなっているのかもしれない。

 マシュの頬を撫でて髪を梳いた。マシュは少し驚いた様子だが、すぐに身を委ねる。

 

「マオさん、その、外ですよ?」

「どうせ誰も見ていない。結界も張っているんだろう?」

「そうですけど」

 

 周囲を結界で囲んでいる。外部からマオたちの姿は見えないし声も聞こえない。存在そのものに気づかせない高度な結界だ。

 マシュの柔らかく肌つやのある頬から唇へ指を走らせる。頤を上げると、マシュは身体の力を抜いて唇を差し出した。

 マオはマシュと口付けを交わす。押しつけた唇から舌を出してマシュの唇を舐めると、マシュは自分の舌でそれに応えた。

 

「んふ……ん……ちゅ……ちゅ……れろ……ふはぁ……んん、ちゅ……れろ」

 

 舌を絡めてゆったりとキスを味わう。マシュの豊満な胸を揉み、乳首を撫でると小さく呻いて身体をひくつかせる。

 

「あふ……んふ……ちゅ……れろ……んちゅ……ちゅぱ……んふあ、んん」

 

 マシュは快感と羞恥でいっぱいになった。ハルカとスピカが顔を紅くして口付けする二人を見ている。

 

「ハルカ、スピカ。お前たちも来い」

 

 と、声をかけられれば、ハルカとスピカは同意するほかない。

 外で行為に及ぶという羞恥心も、快感を助長するスパイスにしかならない。

 明かりに吸い寄せられる羽虫のようにハルカとスピカはマオに寄り添う。そして、目一杯愛しい男の香りを吸いながら、ズボンに手を掛ける。

 

「はあ……すごい」

「もうすっかり大きくなっていますね」

 

 マオのペニスを取り出したハルカとスピカは、うっとりと屹立する雄の象徴に見とれる。

 

「マシュ、お前も混ざれ」

「はい」

 

 ハルカを真ん中にして、スピカとマシュがペニスを挟み込む。

 一本のペニスに美少女三人が顔を寄せて、涎に濡れた舌をこれでもかと伸ばす。

 

「ふぁふ……れろ……れろ……れろ……れろ……れろ……れろ……れろ……れろ」

「ちゅ……ちゅ……んむ……ちゅる……ちゅ……れろ……ちゅぱ……れろ」

「ちゅ……ちゅ……ちゅ……はむ……ちゅる……じゅるる……れろれろれろ」

 

 ハルカの舌先が鈴口を弾く。スピカの舌が棹の側面を舐め上げ、マシュが睾丸の皺を丹念に伸ばす。三種の舌のざらつきが不規則にペニスの各部をなぞり、卑猥な水音が響く。

 

「ん、ちゅ……ちゅ……はふ……れろ……ちゅ……ちゅ……ちゅぱ」

 

 ハルカのフェラチオは丁寧だ。

 愛おしそうにペニスにキスを落とし、カウパー液を舐め取り、裏筋への愛撫も忘れない。ハルカの技術はヒロインの中でも最高だ。マオに籠絡されてから日々技術を高めてきた。マオの敏感な場所など、目隠ししてもすぐに特定できる。

 

「あ……ちゅ……れろ……れろ……れろぉ……はあはあ、んふ……はあ……れろれろ」

 

 新入りのスピカのフェラチオはまだぎこちない。ハルカとマシュに負けじと必死に舌を動かしている。快感をペニスに与えようと試行錯誤しているのが見て取れる。

 

「ちゅぷ……ちゅぷ……じゅるる……じゅるる……んちゅ……じゅる……れる……ちゅぱ」

 

 マシュもここ最近は技術を目覚ましく向上させているヒロインの一人だ。

 マオの護衛を務めている関係で一緒にいる時間も多く、性処理の機会もそれに比例して多くもらっている。

 上をハルカが責めるのならと、マシュは自主的にペニスの根元への愛撫に努めた。

 

「ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、ん……ふう……れろれろ……熱い、もう……ちゅ、れろ……出そう、ですか? れろ……れろ……れろ」

 

 ハルカが上目遣いで確認してくる。

 この三人同時のフェラチオだ。

 見ているだけで射精ものである。実際にペニスを舐め回されているとなると、そう長く我慢できるものではない。

 三人の吐息がこそばゆく、熱い舌は縦横に蠢いている。

 

「あん、ん、れろぉ……♡」

 

 マシュは微笑みを浮かべながら舌の腹を棹に押しつけて舐め上げる。

 すっかりフェラチオも慣れたものだ。雄を感じさせることに悦びを見いだしている。

 

「ちゅぱ、ちゅぱ……れろれろ……びくんて、しました。感じているのですね?」

 

 スピカが頬を染めて舌先でチロチロとカリ首を舐めている。

 ハルカとともに亀頭への重点的な愛撫を始める。

 

「すばらしい……黒光りして、脈打っています……ちゅ……れろ……なんて、ご立派な……すう、はあ……」

 

 スピカはすっかり上気した頬をさらに朱に染めて、奉仕を繰り返す。

 とろりと零れた涎が混ざり合って、粘性のある雫となって棹を伝い、マシュが下からそれを舐め取る。

 

「皆さんの、ちゅ……零れてますよ……れろれろ、はしたないです。ちゅ……んちゅ……れろぉ」

「マシュさんこそ、そんな風に大胆に舐めて、人のことを言えませんよ。ちゅ……れろ」

「すみません、でも……これ……ちゅ……れろ……止まらなくて、はふ……ちゅ」

 

 肉欲に溺れた三人は、息を荒げながらペニスにしゃぶりつく。

 ペニス全体から甘く蕩ける快感が伝わってきて、堪らず呻き声を漏らしてしまう。

 これ以上の我慢は不可能だった。

 熱く弾ける性欲を思い切り解き放ちたい。

 

「三人とも、口を開けろ」

 

 そう指示した。

 マオの指示に三人はすぐに従った。ひな鳥が餌を求めるように口を開けて、舌を出した。

 

「んく……イクぞ」

 

 爆発するような射精欲求の発露。

 精液が弾けて、三枚の舌の上を白濁に染める。さらに収まりきらない衝動が、精液を飛び散らせ、美少女の顔をこれでもかと汚した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 長らく続いた平坦な道は終わり、ついにノワール国内の最後の町を後にした。草原は次第に樹木生い茂る森に変わり、道は上り坂になっていく。

 天に向かって聳える山が二つ。

 東西に走る大山脈の最も西側にある頂で、標高は一千五百メートルを越えるという。

 峻険な岩山は、一千メートルを越えたところから急激に勾配が急になり、やがて垂直にそそり立つようになる。

 その見た目から、二つの塔が並んでいるように見えるため、双子の塔と渾名されている。国境を跨ぐには、この双子の塔の間を通ることになる。

 この道は一般人の立ち入りが厳しく制限されている危険な道だ。

 危険を冒して進んだとしても、人里に辿り着くことはない。

 すでにその本来の意味を忘れ去られた「巡礼の道」であった。

 

「すごいですね。この山」

 

 スピカは外を眺めて呟く。

 

「伝説ではもとはもっと高い一つの山だったものが、真上から真っ二つに斬り裂かれて今の形になったとされている」

「真っ二つですか?」

「伝説ではな。一人のヒロインが、この地に住まう邪悪な竜を滅ぼしたときに、一緒に山を斬ってしまったって話」

「そのような者がいたのですね。是非とも手合わせしたいものです」

「面白そうだけど、その時には周りの被害を考えてくれよ」

 

 何せ、山が一千メートルも崩壊するほどの力だ。

 試合であっても、人里離れたところで取り組んで欲しいものだ。

 標高が上がるにつれて、気温も当然下がってくる。

 双子の塔のてっぺんには、まだ白い雪が残っているくらいで、今いる地点の気温は春先くらいの肌寒さである。

 そして、山道は悪路である。

 もともと、この道を通る者はほとんどいない。海路のほうが安全で簡単に行き来ができる。わざわざ山を越えて陸路を選ぶ物好きはいない。

 それに、この先に広がっているのは、さらに険しい道の数々だ。ヒロインが山塊を両断した名残の峠道の頂で、マシュは息を呑んだ。

 

「すごい」

 

 見渡す限りの緑の森の中に一つが数百メートル幅になろうかという巨岩が散らばっている。横一文字に地盤がずれたことを窺わせる隆起や、力任せに引き裂かれた大地の痕跡も見て取れた。多くは長い年月の中で緑に覆われたようだが、中には岩肌をそのまま露出しているものもあって、太陽光を受けてその岩肌がきらりと輝いている。

 遥か森の向こうにはぐるりと半円状の岩壁がそそり立っている。

 

 馬車を止め、思わず見惚れてしまう光景であった。

 

「戦争の名残だよ」

 

 と、外に出たマオが言った。

 

「大昔に、ここら一帯で大きな戦争があったんだ。見ての通り、地形が大きく変わるくらいの戦争だったらしい。記録もほとんど残ってないけどな」

「そんな大きな戦争が?」

「双子の塔もその時にできた。竜やら魔獣やら、あとヒロインも何十人も参戦して、敵味方入り交じる凄惨な戦争だったと言われているな。まあ、大半が伝説なんだけど」

 

 話を聞きながら、マシュは思わずバビロニアを思い出してしまった。あの特異点にあった南米風の大自然を連想したのである。

 

「転がっているでかい岩も全部、その戦争の時のものだそうだ。この山を二つに裂いた時に飛び散った十三の巨岩群だな。今では、魔獣の住処だ」

 

 ごう、と風が吹く。

 空を行くのは、巨大な黒いワイバーンだった。

 

「あのようなものがいるんですね」

 

 スピカが目を見張った。

 ワイバーンは翼長二十メートルくらいにはなるだろうか。 

 

「竜なんて、そうそう人前に出てこないレアものだけどな、こっち側にはそれなりの数が今でも棲息している」

「あんなものが棲息しているというのなら、普通の方に陸路は厳しいでしょうね」

 

 スピカにとっては、あのくらいの魔獣ならば容易く葬ることができるが、一般の騎士には厳しい相手だろう。

 それが一体や二体ではなく、生態系として根付いているのであれば、この地域は人間の生活には不向きと言わざるを得ない。

 

「だから、もう何十年いや、何百年もこの道はほとんど使われてこなかった。唯一、神殿に祈りに行くときくらいのもんだ」

「神殿。今回、救援を求められた方がいるという」

「そう」

「このようなところで生活されているのですか?」

「そういうことになるな。昔はな、この道も行商が盛んな道だったらしい。この先にレイヨンっていう大きな国境の町があったんだ。ノワールとも、隣同士だったからな。その当時は、ずいぶんと行き来があったと聞いたことがある」

「その町は……」

 

 スピカは、そこで言葉を切る。

 かつて大きな戦争があったと聞いたばかりだ。

 目の前に広がる大自然に、大きな町があった様子は窺えない。

 レイヨンの町は、遥か昔に滅びたのだ。

 

「さて、もうここまで来れば、あと少しだ」

「もしかして、あれですか?」

 

 マシュが指さすのは、峠を下っていったところに建つ神殿であった。樹木生い茂る密林の中で、そこだけがぽっかりと四角く区画されていて、白い外壁の神殿が鎮座している。

 

「そう。千年前に滅んだレイヨンの町の中心。ブラ・ダルジャン神殿だ」

 

 

 

 街道は峠を下ってすぐに行き止まりになった。整備されていたのはここまでで、この先は生い茂る樹木で塞がれていたのだ。

 そして、滅んだ町というのは比喩ではなく、事実そのものであったらしい。

 街道の左右には人工物の痕跡がいくつも転がっている。

 背の高い樹木に囲まれた廃墟の数々だ。大きな火災があったのだろうか。焼け焦げた壁や炭化した柱の跡がそこら中に転がっている。

 

「まるで遺跡、ですね」

 

 と、マシュは呟いた。

 ここには人の生活の痕跡がある。そして、それらを破壊した戦争の痕跡も。

 大きな町だったのだろう。

 それが、千年という歴史の中で樹木に覆われ、密林に飲まれていったのだ。

 その中で、ただ一つだけ往時の姿を止めているのがブラ・ダルジャン神殿であった。

 敷地の中は、不思議と静かな空気に満ちていた。

 

「長かった。でも、今までよりもずいぶんと早く到着できたな」

「強化魔術で移動速度がずいぶんと変わりましたからね」

 

 ハルカが馬たちを労い、首を撫でる。

 かつて、この神殿にマオが来たときには四日はかかった道のりだ。休憩時間を短くしたこともあるが、やはりサスペンションの導入と強化魔術を用いた移動は、それがない状態と雲泥の差があった。

 

「ミコト殿のトークンですね」

 

 スピカの視線の先には、金剛式鬼がいる。ミコトが作成するトークンの中では、もっとも一般的なトークンだ。三メートルばかりの筋骨隆々な巨体で、金棒を持ち歩いている。それが神殿の周囲を歩き回っていた。

 その他、小さな式鬼たちが走り回って、草むしりや外壁掃除に精を出している。

 

「こうして見ると、ミコトさんのトークンも愛らしいですね」

「小さいうちはな」

「そうですね。大きいのもまあ……んん」

 

 マシュはぽっと頬を染める。スピカは今の会話に何か恥ずかしがるところがあっただろうかと疑問符を浮かべた。

 

「しかし、どことなく荘厳な雰囲気がありますね。いえ、神殿だからというわけではなく……強い魔力を感じます」

 

 マシュがごくり、と生唾を飲んだ。

 神殿そのものが持つ神聖な雰囲気だけでなく、その内部から漂う明瞭な神気を感じ取っているのだ。

 同様の思いを抱いたのはスピカであった。

 

「確かに、この感じ。天界にいた時の空気感にそっくりだ」

 

 神霊系サーヴァントと接したことのあるマシュや聖なる存在に作り出されたスピカは共通して、この神殿が形だけのものではないのだと肌感覚で察し、緊張の面持ちを浮かべた。

 

「やっぱり、そういうのが分かるヤツには分かるんだな」

「ということは、やはりここにいる方は神性……」

「さてと、まずは挨拶しに行くぞ」

 

 旧知の友人に会いにきたというくらいの気軽さでマオは石畳を歩いていく。

 徐に神殿の扉を開く。

 内部は照明などないのに昼間のように明るい。壁に備え付けられた魔力の結晶が、光源となっているのだ。

 天井は高く、長椅子が整然と並んだ様子は、十字教の教会や礼拝堂のようであった。

 ステンドグラスには、剣を持つ少女が竜を倒す姿が描かれている。

 

「まさかと思ったけど、こんなに早く来てくれたのね、マオ君」

 

 不意に訪れたその声は、神殿の中に小気味よく反響した。

 いつの間にそこにいたのだろうか。

 ステンドグラスの真下、祭壇に腰掛けた少女が微笑んでいた。

 ブロンドの豊かな長髪が眩しい見目麗しい少女だが、やはり目を引くのは白銀に輝く右腕だ。超一級の宝具を思わせる絶大な神秘を感じる。右腕の銀の義手ということもあり、マシュはベディヴィエールを思い起こした。

 

「あなたは……」

 

 マシュは思わず息を呑む。

 少女の身体に強大な神性を感じたからだ。知らない気配。だが、気圧される。神霊系のサーヴァントと近しい気配だ。生物としての存在の格が違うと、そう感じてしまうのだ。

 

「わたしはトラム。亜神トラムよ。この神殿で、神様やってるの。まあ、最後に人が来たのは十年も前なんだけどね」

 

 

 

 

 

 

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