異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話 作:もう万体
朝日が昇ると同時に一日が始まる。
目覚まし時計という複雑な機械はまだ普及していないが、愛歌には今も昔も必要がない。一秒の狂いもなく、設定した時間に活動を始めることができるということが、彼女の異質性を物語っている。
疲労を感じることもなく、睡魔に襲われることもない。
根源接続者の彼女は何も感じない。根源とはすなわち「無」であるからだ。
愛歌の人間的行動はすべて「人間のまねごと」に過ぎない。父と妹と教師と友人が、愛歌に投影するイメージを実現するための反応の積み重ねであり、つまり愛歌は人の形をしたロボットも同然の存在なのだった。
だが、そんな愛歌にも変化の時は訪れる。
もともと、彼女のいた世界の法則として肉体の影響を精神も受けるものであった。人間の肉体を持つ以上は、その成長と劣化に彼女の無の精神も無縁ではいられない。普通の人間よりも人格の形成は遅れているが、十代のうちにはそれなりの人間性を構築していたであろう。
そして、今、まさに愛歌の精神性が大きく変容している。
傍目から見ればそうとは分からないだろうが、彼女の内面は確かに「物事に価値を見いだす」という成長を遂げていた。
原因は言わずもがな。
マオの力で根源接続者としての能力を封じられたからだ。
残されたのは何も知らない「無」の少女だけだ。
そこに愛される悦びを教え込まれ、その色に染め上げられてしまった。
変質した自分を不幸とは思わない。
そういった感覚がそもそもなかったためだ。
マオに愛されることは気持ちがイイ。どきどきして、頭が真っ白になる。その一瞬、愛歌はただの女の子になるのだ。
心身に叩き込まれた肉欲が忘れられず、マオに仕えて魔術を取り戻した今でも、過去の自分に戻ろうなどとは露ほども思わない。
朝日を拝むというのは、西向きの斜面に作られた町並みなので残念ながらできないが、日差しを反射してキラキラ光る海を見ながら一日の始まりを実感する。
(マオさんは神殿で亜神トラムの封印を無事に解けたかしら)
千里眼で覗き見るということは、無粋だからと控えるが気になる。
マオのことだからセックスもしているに違いない。トラムの外見は知らないが、神話では美少女として名高いし、同行したマシュもハルカもスピカも魅力的だ。
(やっぱり、もう少し成長したほうがいいのかも)
姿見に映る自分を見て愛歌はそう思う。
バスローブを脱いで、整ったスタイルを鏡に映す。
先端まで艶のある綺麗な金髪に空色の瞳、万人が万人可愛いと評するであろう顔立ち。愛歌は乙女として持つべき物をすべて持ち合わせている。
その一方で少女性は優れていても、男を籠絡する女としてはまだまだ発展途上である。
マーリンのような妖艶さは愛歌にはない。
同じように無垢な印象のあるマシュですら、その肉体は顔に似合わず凶悪だ。
そういった部分部分に着目すると、気になるところはいくらかあった。
自分のスタイルに自信を持ったことはない。興味がなかったからだ。しかし、いざ関心を持って見てみると、少々の不安が胸を掠める。
考えても仕方のないことではある。まだまだ成長の余地はあるし、いざとなれば魔術でどうとでもなる。魔術の腕前はマーリンに匹敵ないし凌駕する。バストサイズの調整くらい造作もないことだ。
余計な思考に流されつつも、身だしなみを整える。
黒と白のエプロンドレスを着て、マオから渡された黒いチョーカーを首に付け、花をあしらったホワイトブリムを頭に乗せる。
本来は目立たず個性を殺した服装であるはずのメイド服も、愛歌が着ると途端に華やいだ雰囲気になる。落ち着いた色合いが、愛歌自身の魅力を引き立てるのだ。
「さて、と。お仕事お仕事」
ノワールに来て、マオに籠絡されてから、一日が充実しているように感じている。鎧の町のみんなには申し訳ないものの、パラディクレールを離れる気はまったくない。不思議なくらい、そういう発想自体が湧いてこない。
もともと、愛歌に求められたのは宮廷魔術師としての仕事である。
超一流の魔術師であり得意不得意のない万能性が彼女の売りだ。しかし、王を補佐した経験のあるマーリンもいる上に技術面でもシオンがマッドな実験開発を繰り返している。愛歌としては、彼女たちの仕事に助言をする程度で、あまり専門で取り組まなければならない緊急的な案件がなく、暇を持て余してしまった。
そこで、メイドの真似事だ。
器用で家事全般も得意とするところだ。魔術も使える。メイドの仕事に手抜かりはなく、愛歌はあっさりとこの分野に馴染むことができた。
それに、愛しい男に尽くすというのは、しっくりくる。
何であれ、マオのためになることをしてあげたいし、褒めてもらいたいし、愛してもらいたい。そういった欲が日に日に湧いてきて止まらない。
「おはようございます」
「おはようございます、沙条さん」
屋敷のメイドににこやかに挨拶する。
ヒロインということで、愛歌の立場はただのメイドとは次元違いの場所にいる。そもそもどうして愛歌がメイドなどしているのだろうかと、昔からいるメイドたちは疑問を持っていたくらいだが、愛歌のマオに尽くしたいという気持ちがすべてであると知れてからは、良好な関係を築いている。
マオの屋敷に仕えるメイドは五人である。住み込みではなく、外からの通いだ。かつて政争の果てに、住み込みのメイドに犠牲が出たことが原因で、マオはあまり日常生活を他者に頼ろうとしなくなった。
そういう意味では、愛歌のようなマオの日常生活を支えるヒロインというのは、マオの家庭内で重要な立ち位置を確立しつつあった。
マオが不在なので、することと言えば掃除くらいのものである。
後は本業と言うべき魔術の研鑽と他国の情報収集といったところか。それもマーリン一人で如何様にもなるというものだが、鎧の町の関係は愛歌が引っかき回したこともあって、責任を持って対応中だ。
マオのためならば、魔術を使うことは可能だ。鎧の町への干渉は継続している。
ウィリアムは愛歌がノワールから帰らない宣言をしたことに、最初は絶句し、絶望したものの引き続き鎧の町の庇護を続けることに変わりはないということで平静を取り戻した。
彼からすると、扱いきれないと感じていた愛歌をノワールが引き取ってくれた上に、鎧の町の安全保証は継続するという状況なので、考え得る限り最良の落としどころになったと言えるだろう。イステネブルではなくノワールが密かに鎧の町のバックについたようなものだ。クロガネ大公国内で冷ややかな目で見られている鎧の町にとっては、悪いことではなかった。
そうやって鎧の町との繋がりを保持しながら、愛歌はノワールでの暮らしを満喫していた。
生まれる前から無意味と断じた人生に、予想外の価値を見いだしたのである。
マオは愛歌の人生に光をもたらした恩人だ。
感情というものが教科書の中の文字情報から胸を焦がす実感となったことで、愛歌の生活はちょっとしたことでも華やいでいた。
感情とは厄介なものだ。
簡単にラベリングできるものではなく、覚え立ての感情に振り回されてしまっていると思うことも多々あった。
その上で、敢えてこの気持ちにラベルを貼るのなら、そのタイトルは「恋」であったり「愛」であったりするのだろう。それですら、本来は様々な分類に別れるのであろうが、愛歌にはそこまでの感情の細分化は不可能だ。
大きな枠組みとして愛と恋を自覚しているというだけなのだ。
「はあ……」
と、愛歌は深呼吸ともため息とも取れる吐息を漏らす。
一通りの仕事を終えた午後。昼食も摂って、もう一日の仕事は概ね片付いて、最後にやって来たのがマオの寝室である。
掃除をするという名目で入ったマオの部屋で愛歌は掃除に着手することなく、箒をテーブルに立てかけてベッドに歩み寄る。
(すごい、ドキドキ、してる)
心拍数が上昇し、喉が渇いた。意識せずに身体が火照ってしまっているのだ。
(ここでわたしは、たくさん愛してもらったのね)
思い出すだけで心が跳ねてしまいそうであった。
マオに呼び出され、朝まで愛され続けた一晩のことを。
愛歌の身体を時に優しく、時に激しく貪って、快楽の限りを叩き込んだ一部始終を愛歌は明確に思い出せる。何なら脳裏に当時に自分の痴態を快感を再生してみせよう。愛歌の能力があれば、一言一句違わず、快楽の虜となった自分の言動を再現することができる。
愛歌は靴を脱いでベッドに上がった。
ギシリ、と軋むベッドの上であの日の晩を思い出しながら、唇を舐める。
「はあ……はあ……マオ、さん」
小さく声に出してみると興奮の度合いが跳ね上がる。
とてもいけないことをしていると自覚すると、ますます快感が強くなった。
スカートを捲り上げて、マオの枕に顔を埋めて、その残り香を堪能する。マオが出発して丸一日、洗濯をしたと偽ってそのままに残しておいた枕カバーには、愛しい主人の温もりが残っているような気がした。
「すう……はあ……すう……はあ、んはぁ♡ あ、こんなこと、はしたない……わたし、なんてことしているのかしら、ん……ふう……はあ……あん……ん、マオさん、はあ、はあ、早く……ん♡」
欲情した身体は愛歌の理性の箍を軽々と壊してしまう。
ベッドの主の不在を見計らって、部屋の中に忍び込んで身体を慰めるなど、年頃の乙女のすることではない。
愛歌には常識がある。教科書で学び、家族と友人の間で培った知識は、これが異常な性癖であると訴えている。
「あう……我慢、もう、できない……んふう♡ あ、あ、んんぁ♡」
声を殺しながら愛歌は自慰を始める。
マオを想い、彼に犯された日を思い返して、ゾクゾクする身体を慰めるのだ。
スカートを捲り上げて、下着の中に指を入れる。
甘い痺れが愛歌の身体を駆け抜ける。
クリトリスは勃起して痛いくらいに敏感になっていた。マンコは温かい愛液でしっとりと濡れて、いつでもマオを受け入れられるといった具合だ。
(ああ、ごめんなさい、わたしの身体。マオさんのペニスは、今日はもらえないの)
その代わりに自分の指を入れる。
「ん……くぁう♡ ふぅ、ん、くうぁ♡ あ、ん、ん、すう、はあ……んぅ、んん、あ、んんん♡」
指を二本も挿入して、オナニーに耽る。マオの枕に顔を埋めて、腰をひくつかせる。くちゅくちゅと音を立てるマンコは指に絡みついてぎゅっと締め付けている。
「気持ち、イイ……ん、ふう……あ、もっと……ん、ん、はあ、はあ……んあ……んふ……ぅ、ぅ、んん、あッ! ん、はあ、んふ……あん、あん、んあん、ああ♡」
愛歌はついに自分の乳首も摘まみ、感じられる場所を愛撫しながら身悶えする。
「ひゃ、あ、あ、んん……はあ、あ、はあ、あッ、んあッ、あ、マオさん、もっと、ん、奥、に、ぃ♡ はうぅ♡」
指を根元まで挿入し、Gスポットを探す。ポルチオまでは指は届かない。快感を手早く貪るにはクリトリスとGスポットへの愛撫が一番だ。
指をマオのペニスに見立てて激しく出し入れする。
このベッドの上で犯された自分に重ねて、快感をトレースする。
「はあ、はあ、はあ、ん――――ふぐ、ぅ♡」
びくん、と愛歌の腰が震える。
絶頂したのである。
「はあ、はあ……ふう……やっぱり、ペニスじゃないと、んはあぁ♡」
ごろり、と寝返りを打つ愛歌。
マンコから抜いた指は愛液塗れでぐっちょりと濡れている。
「これが、わたしの身体、なんて。はあ、はあ、ふう……んん♡」
性的快感が癖になってしまっている。身体が欲望を求める。もっと深く、激しく絶頂したいと訴えているのだ。
M字に股を広げてオナニーを続行する。
マオは不在だし、出入りのメイドも仕事を終えて帰っていった。今、この屋敷にいるのは愛歌だけだ。多少大胆に快感を貪っても咎められることはない。
「ふう……ふう……ふう……ふう……んあッ、あ、あ、気持ち、イイ♡ あん、あん、これ、こんなはしたないことなのに、どうして、んふ、止まらない、あ、あ、愛して、愛して、ふあん♡」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、と蜜壺をかき回す愛歌。
挿入した指の動きはより激しくなり、愛液を溢れさせている。
服の上から弄る乳首もビンビンに固くなり、上と下から愛歌を犯していた。
「マオさん、マオさん、マオさん……あ♡ ん、ああん♡ 奥、奥突いて、もっと気持ちよくして……あ、んあ……ふあぁ♡」
マオに犯された時を思い出しながら、愛しい男の名前を呼ぶ。
ここで教えられたキスの快感、フェラチオの技術、直接的なセックスの快楽。そうした経験をおかずにしながら、愛歌はマンコをかき乱す。
「あ、あ、あ、クリ、気持ちイイ♡ はぁん♡ あ、あ、イク、あ、イク、あ、マオさぁん♡」
愛歌は愛らしい顔を悦楽に蕩けさせ、その青い瞳を欲望に曇らせて、絶頂に身を任せる。不道徳的行為への背徳感に溺れながら、にへら、とだらしなく笑う。
これは復習だ。
マオとのセックスを思い出し、快感を味わって、次のご奉仕に資するための仕事である。
そうやって快感に夢中になって自分の身体を研究する。どこがどう感じるのか、マオの指使いに翻弄されて息も絶え絶えになったことを振り返り確認する。乳首もクリトリスもGスポットも、それぞれに違う快感があった。
気持ちイイというのは凶悪だ。
聡明な愛歌の頭脳があっという間に使い物にならなくなる。快楽一色になって、マオ以外のことなどどうでもよくなる。
「はぁ……はぁ……はぁ……ん、ふうぁ♡」
息を整える愛歌。
マオのベッドの上で何回絶頂したのか。
(でも、もうちょっとだけ。まだ時間はあるもの。夕食だって、少しくらいなら後回しにしてもいいでしょうし)
マオがいないので一日のスケジュールは愛歌一人分でいい。この快感を手放すのは惜しい。もっともっと味わい続けたい。欲望を止める手立てが愛歌にはない。快感を優先したいという思いだけが先走っている。
ペニスを想いながらマンコをもう一度弄っていた時、想定外の出来事が起こった。ドアがノックされたのに、愛歌はオナニーに夢中で気づかなかった。
ドアが開いて、初めて愛歌は顔を上げた。
「失礼しまーす。ルームサービスでーす、なんてね」
入ってきたのは、赤毛のメイド。立香であった。彼女もまた、時間があればこうしてエプロンドレスを着て、家政婦の真似事をしている。魔術の知識は皆無に近く、シャドウサーヴァントの召喚能力は、平時から使えるものでもないので、暇な時間が多いのだ。
立香はキャリーカートを押して来た。
荷物を部屋に運び込むつもりでいたようだ。
意気揚々と部屋に入って来た立香が見たのは、ベッドの上で今まさに絶頂したばかりの愛歌である。目と目が合って、互いに動きを止める。
「藤丸さん……?」
「沙条さん……?」
快楽の余韻は吹き飛んで、冷や汗が滲み出る愛歌。そして、立香のほうも想像していなかった愛歌の姿を目の当たりにして唖然とした。
彼女の姿を見れば、何をしていたのかは明白であった。
「あの、あの、ええと、その……ごめんなさい! 覗くつもりじゃなくて、ノックもしたんだけど、ええと、もっと強くノックするべきだったね……あの、ほんとにごめん! じゃあ、ま――――」
「――――はッ」
立香の視界が明るくなった。
ガバッと跳ね起きるとそこはベッドの上であった。
「起きた?」
「うわッ」
すぐ隣から声をかけられたので、立香は驚いてしまった。
「沙条さん、脅かさないで。心臓に悪いよ」
愛歌がベッド脇の椅子に腰掛けていた。
「ごめんなさい。でも、心臓に悪いのは藤丸さんのほうよ。覚えてない?」
「え……ええと、そもそもここは?」
「医務室。あなた、階段から落ちたのよ」
「そうなの?」
「そう。派手な音を立ててね。何事かと思って駆けつけてみたら、ひっくり返って気絶したあなたがいたってわけ」
「そ、そうだったんだ。……あれ、なんだろう。そうだったかな?」
「そうよ。あなたは階段から落ちたの。忘れちゃった?」
「あ――――うん、そう、だったかも」
愛歌が立香の瞳を覗き込む。澄んだ愛歌の瞳に、思わず立香は息を呑む。飲み込まれてしまいそうだったし、お人形のような美少女の顔が近くにあって気圧される。
「でも、ごめんね。沙条さん、ここまで運んでくれたんだ」
「わたしは別に何もしてないわ。使い魔に運ばせただけだから」
「ああ、そうなんだ。うーん、やっぱり魔術って便利でいいな」
立香は頭の後ろを撫でる。
「瘤とか、できてるかな」
「治癒魔術をかけておいたから、そういうのは残ってないと思うわよ」
「そこまでしてくれたの? ありがとう」
「仕方ないわ。頭を強く打ったみたいだから。頭は大事よ。気をつけないと」
「そうだよね。我ながら気を抜きすぎたかなぁ」
気絶するほど派手に頭を打ち付けていたら、場合によっては命に関わる。愛歌が治癒魔術をかけて、介抱してくれなければ、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
人理を取り戻すという絶対目標を失い、それ以前の戦いの日々から解放されたことでずいぶんと気が抜けてしまったらしい、と立香は納得した。
「転げ落ちた時のことは、無理に思い出そうとしない方がいいわ。痛い思いをしたわけだから、ね」
「そうだね」
立香はすっぱりと気持ちを切り替えて笑った。
愛歌はそんな立香を観察するようにじっと見つめていた。