※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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獣○注意


第二話(ハルカ、マシュ、立香)

 午後の柔らかい日差しが差し込んでくる。傍らに寝そべるハルカを抱きながら、マオは寝室に吹き込む風を感じて深呼吸する。

 ついさっきまでハルカに騎乗位をさせていた。淫らに泣き叫ぶハルカにたっぷりと中出しをして満足したところだった。

 パタパタと一羽のカラスが飛び込んできた。首には籠を掛けていて、紙の束をベッドの上に落として出て行った。

 配達鳥は、異世界からもたらされた技術の一つだ。魔術を使って操る、あるいは作成した使い魔による配達サービスである。

 

「ヒロイン特報。号外なんて珍しい」

 

 各国のヒロインの動向を伝える新聞だ。眉唾なものもあれば、真に迫るものもある。ヒロインというのは好きにせよ悪きにせよ、注目度が高い。建国神話に関わる存在なので、もともと神聖性があった。近年は彼女たちの能力や容姿を求めた権力者たちの争いが頻発し、かなり世俗的になっているが、それでも特別であることに変わりはない。異世界ヒロインを側に置くのはステータスだ。戦う力を持つヒロインは希少価値が高く、軍に編入されやすいが、すべてのヒロインが戦えるわけではない。中にはこの世界では真価を発揮できないヒロインやそもそも異能を持たないヒロインもいる。そういうヒロインでも、異世界ヒロインというだけで価値があって、権力と金を持つものは裏でヒロインを取引する者もいる。戦いに敗れて捕虜になったヒロインや召喚されたばかりで右も左も分からないヒロインを騙して、調教して取り扱うような業者もいるわけだ。

 ヒロイン特報も最近は戦火の拡大で苦しい立場だ。戦うヒロインは軍事機密でもある。こうした新聞への圧も日に日に増していて、定期的な刊行ができていないのが実情だった。

 

「今日はどのようなお話ですか?」

「従軍記者と大差ないよ。北の大湿地帯での戦争のことが書いてある。巨大な化け物を呼び出すヒロインと炎を操るヒロインの戦いで湿地の一部が砂漠のようになったとある」

「それは、よほど強力な力のある方なのですね」

「ハルカは勝てそう?」

「もちろんです。マオ様の敵はすべからく殲滅すべし、です」

 

 そっと寄り添ってくるハルカの髪を撫でる。

 

「戦争だけじゃないな。生協のことも書いてある」

「生協ですか」

「ヒロイン生協に灰の魔女が加入だそうだ。各地への配達業務に就くんだと」

「灰の魔女。ああ、イレイナさんですね。生協に入ったんですか」

「知ってる人?」

「昔、少しだけ。魔獣退治の折り、一緒に戦ったことがあるんです。どこにも属さず、各地を旅して回っていると言っていました」

「旅するヒロインね。ま、そうでもなければ生協には入らないよな」

 

 ヒロイン生協とは国家の枠組みに縛られないヒロインたちの自治組織だ。この世界に召喚されたヒロインのすべてがどこかの国家や個人に帰属するわけではない。支配を嫌い各地を放浪する者やヒロイン同士で結びつき、組織を作って活動する者もいる。彼女たちは各国を股に掛けて活動し、その力を使った慈善活動をしているのである。

 旅するヒロインというのであれば、生協に属して配達業務に携わるのも分かる。

 新聞を折りたたみ、ベッド脇のテーブルの上に投げる。その直後、マオの身体に軽い電気が流れたような違和感。

 これは警告だ。

 

「誰かが結界を超えて領内に入ってきたな」

「この感じ、ヒロインのようですね」

「そのようだ。どこの手の者か……まあ、普通に召喚されただけかもしれないけど」

「どうしましょうか?」

「あそこは式神を放っている地域だから、しばらくは放っておいても大丈夫だろ。何かあれば、ハルカに頼む」

「はい、承知しました」

 

 閃忍の力は凄まじい。普通のヒロインならば一方的に討ち果たせるだけの力がある。そこに、マオの特殊能力が加われば、まず負けはない。

 とはいえ、ハルカが出張るまでもないかもしれない。

 結界や式神は、陰陽師を名乗るヒロインが編み上げたものにマオの力を乗せた対ヒロイン用の特別製だ。ヒロインである以上マオの力の前には無力なのだ――――。

 

 

 

 ♪

 

 

 カルデアのマスターとしてサーヴァントとともに特異点を修復し、異聞帯を切除してきた立香が正体不明のレイシフトによってやって来たこの世界――――便宜的に仮称特異点と呼ぶことにした――――に来てから丸一日。

 立香は朝早くから肉体労働に勤しんでいた。

 乳牛の餌やりだ。家畜の臭いが立ちこめる牛舎の中で、せっせと飼料を牛たちに与える。特異点を旅する中で立香が培った雑草魂は、肉体労働にも大いに活きる。特異点の旅では、馬を世話することもあったので、その延長だ。

 

「先輩、お手伝いしましょうか?」

「大丈夫、こっちはもう終わったから。マシュも終わったみたいだね」

「はい。特異点での経験が活きてよかったです」

 

 マシュは子牛にミルクを与える仕事を任されていた。

 二日前、森を出たところで、荷馬車が魔物に襲われているところに遭遇した。立香たちは魔物を追い払い、襲われていた商人を救出することに成功したのだ。

 この牛舎は、その商人の一人が持っていて、泊めてもらったお礼に簡単な手伝いを買って出たのだ。

 

「シオンは、まだ起きてないの?」

「はい。昨日も遅くまで調べごとをされていたみたいですから」

「ま、仕方ないか。吸血鬼ってヤツなんだし、朝は苦手なのかな?」

「シオンさんが吸血鬼かどうかは何とも。吸血鬼にもいろいろと種類がありますし、血を吸うから吸血鬼というわけでもありませんから」

「そうだっけ?」

「シオンさんの場合は吸血種というくくりではありますが、死徒というわけでもないですし」

「それ、前にもどこかで聞いたような気がする」

 

 立香は頭を悩ませ、記憶を遡ろうとする。

 立香は巻き込まれてマスターになっただけの元一般人だ。レイシフト適正が高いという才能があっても、魔術はからっきしだし、知識も表面的なものばかりだ。

 

「この特異点のことも、きちんと調べないとね。そもそも、特異点とは違うかも知れないって言われてもピンとこないよ」

「そうですね。わたしたちがここに来た理由も関係あるかもしれませんし」

 

 二日間、立香たちはのんきに農場の手伝いをしていたわけではない。人間が文明を築いている世界であり、どういうわけか言葉が通じるというラッキーも重なって、牧場主の夫婦からこの世界のことを聞き取ったのである。

 そこでいろいろと情報を整理していると、立香たちがいた世界と明らかな違いが見えてくる。特異点は大なり小なり史実と違う世界を形成しているものだが、ここはそもそも世界の成り立ちからして異なっている。これほどまでに違いがあると、特異点というよりも、異聞帯に近い。ノウムカルデアが観測できなかった異聞帯なのか。

 立香は預かった農具を小屋に戻して、手を叩いて埃を落とす。

 

「よし、朝のお勤め終了」

「お疲れ様です、先輩」

「マシュもね」

 

 額の汗を拭った立香。聞くところによると、この地域には四季があり、今は春に当たる。まだまだ早朝は肌寒さを感じる季節だが、力仕事をしているとすぐに汗をかいてしまう。

 

「シオンがいつにも増して頭を悩ませてるって思うとちょっと新鮮」

「それは、まあ、仕方がないと言いますか。状況が状況ですから」

「おとといもさ。なんだっけ、この大陸の名前を聞いたときに滅茶苦茶固まってたよね」

「ゴンドワナ大陸ですね。それも、当然かと。わたしたちの知るゴンドワナ大陸だとすれば、シオンさんが固まるのも分かります」

「わたしたちの世界にそんな大陸あったっけ?」

「今はありませんが、昔はあったんですよ。石炭紀の頃に存在していたとされる、超大陸です」

「石炭紀……?」

「三億五千万年前から三億年前です。神代なんてものじゃないですね」

「ジュラ紀は知ってる」

「それは、だいたい一億九千万年前なので、石炭紀よりも後です」

「なるほど、つまりわたしたちは恐竜よりも昔の時代にいると」

「人類がいる時点で、それはないかと」

「そうだよね。だから、ここが特異点なのか異聞帯なのかも分からないって言ってるんだもんね」

「人類史から分化した世界なら、そこまでは汎人類史と同じ歴史を辿っているはずですからね。ただ、今のところ、この世界と汎人類史との共通の歴史が見えてきません。地名も地形も、汎人類史とは別物です」

「うーん、分かんないね。どこかに聖杯があって、一から誰かに作られた世界とか」

「その可能性もありますね。そうなると、誰が聖杯を持っているかということが分かれば、ノウムカルデアへの帰還もできるかもしれません」

 

 マシュと話をしながら、状況を整理するが、やはり情報が少なすぎる。分からないという結論以外にないのが残念だが、どんな旅も最初はこのような感じでスタートする。分からないものはどうしようもないので、調べたり人に聞いたりしながら進んでいくしかない。そういう意味では、普通に言葉が通じるこの世界は優しい部類ではないか。

 

「じゃ、後はサーヴァントだね」

 

 サーヴァントの誰かがこの世界に召喚されていれば、現地の協力者になってくれるかもしれない。少なくとも、立香たちと共通の世界の出身者なので、こちらの立場を理解してくれるはずだ。

 幸い、サーヴァントらしき情報もある。

 この世界には昔から、不思議な能力を持った女の子が突然現れるというのが一般に知られているらしい。異世界のヒロインと呼ぶ彼女たちは、大帝国の建国に関わるだけでなく、現在でも各地でそれぞれ活躍しているという。

 立香の知識と照らし合わせれば、女性サーヴァントの可能性が高く、誰かに目通りしたいところだった。

 

「立香さん、マシュさん、朝食の支度ができたようです」

 

 いつの間にか、起床して身支度を調えたシオンがやってきた。

 

「朝食はパンと牛乳、品種不明の豆類に塩を添加した煮物です。わたしとしては、人工血液があれば申し分なかったのですが、無い物ねだりをしても仕方がありませんね」

「血はさすがにねぇ。ていうか、大丈夫なの?」

「まあ、その辺はどうとでもなります。死徒と違い、必ずしも血液が必要な身体ではありませんので」

「またそういう死徒とかいう専門用語使う」

「割と基礎の部分ですよ、吸血種は魔術業界ではポピュラーな魔ですからね」

「そんなこと言われても……」

 

 一から覚えることが多すぎて、未だに魔術の世界には馴染めていない。ダ・ヴィンチもホームズも、立香が魔術師になるのを快く思っていないところもあって、立香は知識の基礎からしてかなり穴があるのだ。

 

 

 朝食はシオンが言った通り、パンと牛乳と豆の煮物だ。味はほとんどない。簡素な食事だが、贅沢は言っていられない。この家の主人は、比較的余裕のある生活を送っているものの、文明レベルは汎人類史の中世ヨーロッパに近く、潤沢な食事ができるわけではない。立香たち三人分の食費すら、本来は彼らで消費する蓄えの中から出ている。あまり長居をするわけにはいかないのだ。

 

「もう旅に出るって? もう少し、いてくれてもいいのよ」

 

 と、農場の夫人は言ってくれた。アレクセイ夫人。年齢は四十を過ぎたくらいだろうか。夫婦二人で人里離れた国境の農場を切り盛りしている。

 

「ありがとうございます。でも、長居をするわけにはいきませんし」

「行き先は決めているの?」

「はい。東にある鎧の町にサー……ヒロインさんがいるみたいなので、会ってみたいなって思って」

「……鎧の町? 確かに、そういう話は聞いたことがあるけれど、あの町、いい噂は聞かないわ。考え直したほうがいいんじゃない?」

「そうなんですか? 治安は悪くないって聞きましたけど」

「そうね、あそこは、そう閉鎖的、なのよ。もともと領主様から独立しようとしてる町でもあるから」

「そうなんですね。まあ、そこは行ってみてから考えます」

 

 立香は前向きに答えた。

 じっとしていても何も情報は集まらない。農場に逗留していれば生活はできるが、そこに胡座をかいているわけにはいかないのだ。

 立ち止まるよりは動いていた方がいい。よく分からない世界だからこそ、見聞を広めてノウムカルデアへの帰還方法を調べなければならない。

 この農場の西には要塞都市ノワールがあり、そこにもヒロインがいるらしいが、峻険な山脈と深い森が間に横たわっているので、選択肢から除外した。東にある鎧の町なら、草原を横切るだけでいい。安全にたどり着けるはずだ。

 夫妻にお礼を言って農場を出た立香たちだったが、半日後に思わぬ形で予定を変更しなければならなくなった。

 鎧に身を包んだ騎士たちの襲撃である。この地の領主が立香たちを捕らえるために送り込んできた正規兵である。

 平原ではどうしても身を隠すところがない。立香たちは進路を逆に変えて、黒い森に身を潜めることにした。幸いなことに、騎士たちはさほど強くない。オルテナウスを着用したマシュ単体でも、蹴散らせた。

 

「はあ、はあ……まったく、何なのよ、いきなり」

 

 巨大な倒木を背にして、立香は座り込む。

 

「先輩、お水です」

「ありがと、マシュ」

 

 水筒の水を飲んで、一息つく。

 マシュとシオンは、まだまだ体力が残っていそうだ。

 

「一先ずは追手をまいたようですね。いやー、急展開でしたねぇ。まさかヒロイン殿なんて呼びかけられる日が来るとは」

 

 シオンが腕を組んで感慨深そうに言っている。

 

「サーヴァントと間違ってんじゃないの? こっちはただの人間だっての」

「一つはっきりしたのは、彼らの言うヒロインというのは、異世界からやって来た女性全般を指しているということでしょう。サーヴァントもそうですが、わたしたちも所謂ヒロインというカテゴリーのようです」

 

 シオンの言うとおり、立香たちを追ってきた騎士は、マシュと立香の区別がついていなかった。サーヴァントと人間を見分けることができないだけでなく、そもそも、そういった概念の区別なく立香もマシュもシオンもひっくるめて異世界のヒロインとして括っていた。

 異世界からやって来た特別な力のある女性という分け方をすれば、確かに立香もシオンも同じではある。

 

「マシュならともかく、わたしがヒロインは違和感あるけどね」

「先輩……」

「この後、どうする? あの人たち、あんまり強くないし、鎧の町に行けないってわけじゃなさそうだけど」

 

 立香の問いにシオンが険しい顔をする。

 

「鎧の町まで、普通に歩いて一日。騎士さんたちとの戦闘を避けるともっとかかるでしょう。見渡す限りの平原で、身を隠しながらの移動というのは現実的ではありませんね。それに、所謂ヒロインの扱いにも疑問がありますし」

「そうだよね」

「この世界にとって特別な存在なのは分かりました。領主様とやらは我々を力尽くで手に入れようとし、鎧の町はヒロインの力で半独立勢力になりました。あの騎士に捕まったら、ろくなことにならないでしょう」

「そうすると……」

 

 立香は深い森の奥に視線を向けた。

 広大な森と峻険な山に囲まれた堅固な都市が、この先にはある。

 

「要塞都市ノワール。この大陸で二番目に古い都市らしいですね」

「谷間の道を行き来するのは特別な許可をもらった行商人くらいのもので、ほとんど人の往来はないみたいですね。魔物も出るし、見たまんまの険しい山道です。こんなことでもなければ、ノワール行きなんてナイナイ、と言っていたところなんですけども、ま、仕方ないですね」

 

 行商人が行き来するのだから、越えられない山ではない。谷間を通る道は一本道でノワールに続いているというし、自分たちを狙ってくる騎士に追われながら平原を移動するよりはいい。幸い、立香が着ているのは極地用の魔術礼装だ。三千メートル級の山の環境にも耐えられる。

 

「それじゃ、行きますか、ノワールに」

 

 気を取り直して立香は立ち上がる。森を抜け山を越えた先にある要塞都市を目指して歩き始めた。それが、地獄の始まりとも知らず。

 

 

 始まりは魔物の襲撃だった。森の中で出会った、体長三メートルばかりの屈強な怪物。牛頭に筋肉隆々の人間の身体。神話に描かれるミノタウロスの姿をした魔物だ。立香たちを発見次第、襲いかかってきた怪物は、本来であればマシュ一人で倒せる程度の力しか感じなかった。

 違和感は、始め、マシュに起こった。

 猛る怪物の棍棒を盾で受け止めたとき、がくんと膝を屈してしまったのだ。

 

(え……?)

 

 そのまま追撃を受けて跳ね飛ばされる。

 

「マシュ!?」

「立香さん、下がって!」

 

 シオンが手早くエーテライトを伸ばす。中枢神経をハッキングして、怪物の動きを止めようというのだ。ミノタウロスの首にエーテライトが突き刺さる。そのまま、神経系を犯そうというとき、

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 凶戦士もかくやとばかりの雄叫びを上げる怪物に、シオンの膝が折れる。エーテライトを引きちぎるミノタウロスにシオンは表情を引き攣らせる。

 

(これは、なにが……身体に力が入らない。麻痺毒? そんなもの、食らった覚えはありませんが。マシュさんもこれでやられたわけですね)

 

 シオンは吸血種だ。並みの人間ならばいざ知らず、人外の存在に変化した彼女をこうも一方的に無力化するとは、どのような作用なのか。それでも、これが毒ならば、対毒スキルを持つ立香は逃げられるかもしれない。

 

「シオンから離れて!」

 

 立香が魔力を回す。彼女の傍らに現れたのは、翠の女狩人。その姿を借りたシャドウサーヴァントだ。

 

「アタランテ、お願い!」

 

 答えはない。

 シャドウサーヴァントはサーヴァントの力を引き出し顕現させた力そのものだ。人格は存在しない。しかし、アタランテのシャドウサーヴァントが超一流の弓使いであることは変わりなく、瞬時に放った五本の矢はすべてミノタウロスの急所に直撃する。

 

「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 二度目の雄叫び。

 強烈な魔力に似た何かの発露を感じる。

 

「アタランテ、次……え?」

 

 立香の傍からアタランテの影が消失する。さらに、体内の魔力の動きが停滞する。魔術礼装の機能が停止し、山の寒さが立香の肌を刺す。

 

「な、なに? サーヴァントが召喚できない!?」

 

 アタランテに射られたはずのミノタウロスには傷一つない。シオンは雄叫びを至近で浴びて失神しているようだ。ピクリとも動かない。

 

「先輩、逃げてください!」

「マシュ!? 待って!? 何かおかしい!」

「はああああああああああああ!」

 

 マシュが大盾を持って、ミノタウロスに突撃する。

 

「シオンさんから離れてください! バンカーボルト!」

 

 スラスターによる加速。速度と大盾の重量を利用した強烈な一撃をミノタウロスに叩き込む。ミノタウロスはさすがに受け止めきれなかったのか、よろめき、後ずさる。

 

「やあああ!!」

 

 そこを逃さず、マシュが盾を打ち付ける。

 ミノタウロスの頭蓋を砕くイメージで盾を振るう。巨岩すら砕く全力の攻撃。如何にミノタウロスが頑強な肉体を持っていたとしても、まったくのノーダメージでは済まないはずだ。

 

「そん……な」

 

 愕然とマシュは目を見開いた。

 ミノタウロスは太い腕でマシュの盾を受け止めていた。力を込めても、盾はビクともしない。

 

「ヴォオオオ……」

 

 牛頭の怪物が盾を押しのける。マシュはひ弱な少女のようによろめき、尻餅をついた。盾はマシュの手から離れて、地面にうち捨てられた。

 

「な……んで、霊基外骨骼(オルテナウス)、全機能喪失……? うぐ……!」

 

 マシュが纏う鎧がそのすべての機能を失った。ただの金属塊となった霊基外骨格は、マシュの動きを阻害する拘束具にしかならない。理屈不明の力の減衰で指先一つ動かせないマシュの霊基外骨格を怪物が引き剥がす。戦うための鎧がいとも容易く分解される。その事実にマシュは言いようのない恐怖を感じた。

 

「マシュから離れて!」

 

 果敢にミノタウロスに殴りかかった。拾った木の枝しか武器はない。それでも目を突けば怯ませるくらいはできるかもしれない。

 

「この、この、この!」

「ブモォ」

 

 マシュのバンカーボルトで傷一つ突かない身体に、立香がどれだけ攻撃したところで意味はない。蚊に刺された程度の効果もなく、ただ鬱陶しがられるだけだ。

 ミノタウロスと目が合う。唸り声が耳から脳を犯す。

 

「あ……れ」

 

 くらりとして力が抜けた。膝から力が抜けて、跪きそうになる身体に活を入れて、立香は踏みとどまる。

 

「先輩、ダメです。この魔獣は、わたしたちの力を無力化する能力が……とにかく、逃げてください!」

「ダメだよ、マシュを置いてなんて!」

「わたしは大丈夫ですから!」

「でも!」

 

 マシュを置いて逃げるなどということが立香にできるはずがなかった。何よりも大切な仲間だ。第一、立香もまた足腰に力が入らない状況では一人で逃げ切ることができるとは思えない。

 なおもミノタウロスに掴みかかる立香の背後に黒い影が現れる。

 

「先輩、後ろ!」

「え……? あッ!?」

 

 立香を襲ったのは、不定形の泥のような何かだ。灰色で半透明。薄暗い森の色に溶け込んでいたスライムである。それが立香の背中にまとわりつき、地面に押し倒した。

 

「先輩!!」

「く……何これ、気持ち悪い。あぐ、取れない!」

 

 スライムは立香がどれだけ暴れても離れない。彼女の抵抗をすり抜けて、体積を拡大している。このままでは立香は飲み込まれてしまうだろう。

 

「ちょっと、冗談じゃない、なんで、こんなッ、この、離れてよ、この!」

「離してください! 先輩が、先輩が!」

 

 力を失いただの少女も同然となったマシュの細腕ではいくら怪物の胸板を叩いたところで意味はない。理不尽なほどの力の差。無力のままにマシュの鎧と衣服が引き剥がされる。

 

「グモモオォォ」

 

 余計なものを引き剥がしたミノタウロスは準備万端とばかりに一度立ち上がる。腰蓑に隠れていた怪物の一物が起き上がり、極太のペニスが露わになる。

 

「あ、嘘……それ、まさか、わたしに……」

「ダメッ、マシュ、逃げて!」

「せ、先輩ッ、あ、助けッ、い、嫌ですッ、こんなッ」

 

 ミノタウロスがうら若き獲物の懇願を受け入れることはない。立香やマシュの知るアステリオスならぬ魔物は、マシュを交尾の相手としか認識していない。

 マシュの未通の割れ目をペニスの先端で探り当て、まだ何の準備も整っておらず恐怖で萎縮した肉体を強引に刺し貫く。そこに愛もなければ労りもない。

 

「い、あ、あああああああああああああああああああああ!?」

 

 マシュの絶叫が森に響き渡る。

 

「マシュ!!」

「グモオオオッ!!」

 

 マシュの膣を強引に押し開き、怪物のペニスが押し込まれる。人間のそれよりも強く、強靱なペニスだ。盾の乙女の抵抗を難なく突破して、膣の奥まで押し広げる。

 

「あ、あああ! こんな、こんなぁ……あ、ああ、いやです、動かないでッ、苦しい、あぎッ、あ、大きすぎて、んはぁッ!?」

 

 マシュが苦しげに喘ぐ。その声すら怪物を喜ばせることにしかならず、男を知らないマシュの膣を魔物ペニスが穿り返す。腰を振って、剛直が何度も膣奥を叩く。

 

「マシュ、マシュッ、あ、ああああ! そんな! こんなのって、酷い! 離れて、離れてよ!」

「ひぐッ、あぐッ、あ、あ、あッ、いぎッ、んあッ、あ、ああッ、壊れ、壊れるッ、こんな、太いの、お腹の中で暴れたらッ、あああッ」

 

 立香は叫び、身を捩ってスライムを引き剥がそうと暴れる。それをあざ笑うかのように、スライムは立香を包み込んでいく。重圧が増していて、立香の抵抗力をそぎ落とす。立香もまた、今となっては普通の少女と同程度の筋力しか発揮できない。魔術礼装の起動もサーヴァントの召喚もできないのだ。目の前で怪物に後輩が汚されるのを見せつけられながら、スライムに飲み込まれていくのだ。

 

「こんな、こんなろくでもない終わり方なんて、できない。ダメなのにッ、くそ、この、この、ああああ!」

 

 世界最後のマスターとして七つの特異点を巡り、魔術王を倒して人理を取り戻した。白紙化した地球を救うために、異聞帯をいくつも滅ぼしてきた。仕方がないと割り切ることはできない。たくさんの人と世界の犠牲の上に自分たちは立っているのだ。必ず世界を取り戻さなければならない。背負った使命があるのだ。どことも知れない森の中で怪物に犯されて旅を終えるなど、許容できるはずがない。

 

「あッ、あッ、あッ、んふッ、あッ、あぐ……ん、くはぁッ、あ、い、お腹、奥、むずむずして、ああッ、どうして、わたし、こんなにッ、はひッ、あ、ふぐぅ♡」

 

 マシュの声が蕩けてくる。処女を失ったショックだけではない。牛の怪物が放つある種のフェロモンが、マシュの性感を刺激しているのだ。ペニスが膣奥を突く。その度に嫌悪感が薄れて、強制的に発情させられてしまう。

 

「ち、違う、違うんです。こんな、感じてなんか……あひッ、あ、あ、そんな、強い、あ、あ、奥、熱いッ、ひはぁ♡ あ、これ、ダメです。ダメなのに、あ、んあ♡」

「マシュ、ダメ、負けないで、マシュ!」

「せ、先輩ッ、これ、おかしいんです。こんな、酷いこと、されて、あッ、無理矢理、でも、あ、んぐ……あ、ああ、頭が、おかしく、あ、あああ、何か来るッ、来るッ、わたし、もうッ」

「マシュ!」

「あ、んはぁああああああああああああああ♡」

 

 激しい抽挿の末にマシュの膣内でミノタウロスの精が迸った。愕然とする立香の前でマシュは高みに登った。強制絶頂。今まで聞いたことのないマシュの爛れた叫び。表情を蕩けさせて、怪物に組み敷かれて悦ぶマシュから、立香は思わず目をそらした。

 そして、立香もまたスライムに身体を飲み込まれていった。

 

 

 

 

 ♪

 

 

 

 

 ヒロインが国境を越えたことで警備体制を強化していたマオのところに、式神から知らせが届いた。式神の作り主は、ハルカとともにノワールを守る「陰陽師」ミコトである。マオが彼女を味方に引き入れて以来、長らく敵の侵入を拒んできた峻険な山脈に式神を配置することでさらに国防力を強化することに成功した。式神の中にはマオの血を使って生み出した分身とも言うべき怪物がいて、それはヒロインの力を無効化し屈服させるというマオの特殊能力を与えられている。

 

「捕縛したヒロインは三人。一人は強制絶頂の雄叫びを至近距離で叩き付けられて失神。もう一人は牛鬼が確保、リーダー格の女もスライムが確保、か」

 

 牛鬼はマオの性欲までコピーしたのかヒロインと見るや陵辱する悪癖がある。マオも便乗することが多々あるので、悪と断じることはない。

 

「ヒロインたちは、今日中には施設に搬入完了か。これはいい収穫になるか?」

 

 異世界からやって来たヒロインの能力は多種多様。中には何の能力もない娘もいる。戦時下においては戦力になり得るヒロインが求められるものだが、この三人はどうか。牛鬼と戦ったところを見るに、戦闘力を有しているタイプのヒロインなのは間違いないが、堕落させ、手に入れることができればこれは大きな収穫になると言えるだろう。

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