異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話 作:もう万体
ヒロインを評価する上で異能の有無は極めて大きな比重を占める。
ゴンドワナ大陸ではヒロイン信仰が二千年以上続いており、大規模な戦争で図抜けた戦果を発揮するのは総じてヒロインであることが多い。また、それと同時に戦地を巡り、負傷者の傷を癒やし、新しい技術を導入するなどして貧困と戦災に立ち向かうのも多くはヒロインである。
生い立ちも能力も性格も多種多様で、その幅広さは個性というにはあまりにも千差万別に過ぎる。
そもそも人間ではないヒロインも珍しくないというのだから、画一的な対応は困難とも言えるだろう。
世界で唯一、マオだけがすべてのヒロインを等しく扱うことができる。
ヒロインがどのような力を持っていようとも対応できるというのは、マオの最大の強みだろう。
「これは見事な出来だなぁ」
と、マオは感心した。
マオの前には、今にも動き出しそうな精巧な彫像が置いてある。裸の少女が、絶頂した瞬間を描き出したガラス質の彫像だ。
表情まで精巧に作り込まれていて、美少女が淫堕に溺れた姿はことさらに男の欲望を刺激する。
臨場感溢れるその彫像は、声を発することもないというのに、その背景が想像できてしまうほど真に迫っている。
いや、マオ自身も分かっている。
ヒロインたちとの接触の末に彼は魔力のなんたるかを学習し、その扱いを身につけている。
この彫像が常軌を逸した魔力を放っていることは明白であり、その大半が彫像の内部を循環している。これは、何らかの魔法の発露である。
これは間違いなく呪いの類で、目の前の少女は哀れにも卑猥な姿を強要され、そのままの形で彫像に変えられた悲劇のヒロインなのだ。
「石化なんてのは、よく話を聞く呪いの代表例だけど、ガラス化はなかなか聞かないねぇ」
と、マーリンは呟く。
彫像となった少女を心配するそぶりは見せない。
彼女にとって、他者は感心を向ける対象とは言いがたい。見ず知らずのガラス化した誰かよりも、マオのほうがずっと価値がある。
「生きたまま姿を変えるっていうのは、本当に残酷だな。敗北した少女像の正体がこういうのだとはな」
金持ちの好事家の中で取引される卑猥な姿をした少女の彫像は、昔から人気のある芸術作品だ。その一方で、時として作者不明の精巧すぎる作品が世に出回ることがあり、特に強い魔力を発するガラスの彫像は最高峰の金額で取引される。
それが悪魔の力で変化させられた少女の姿であることに、気づいている者も少なくない。が、解除する方法は見つかっていないのだから、どうすることもできない。結果、美術品として市場に出回ることになる。人間の業というものか、本物の少女像のほうが美術品として作成されたものよりも遥かに高額になる。こういうものを取引する者は売主も買主もろくな人間ではないので、罪悪感は抱かない。むしろ、彼女たちがどのような過程でこのような姿になったのか、という背景を想像して酒の肴にするのである。
本物のヒロインは手が届かなくても、彼女たちの成れの果ては手元において愛でることができる。それも、日常ではお目に掛かることのできない卑猥な姿を曝しているのだから、金に糸目を付けずに手に入れたいと思う金持ち、貴族は多い。とはいえ、それだけの品だけに偽物も多い。正真正銘の本物は、マオも初めて見た。
「領主様、この娘のことはこれからどうするんだい?」
と、マーリンが尋ねる。
詳細な魔術的調査を終えて、マーリン自身は像に関心がなくなった。シオンも取れるデータはすべて取ったという。
「もちろん、呪いを解く」
「この娘がどういう娘か分からないよ。危ないかもしれない」
「マーリンより危なくはないんじゃないか?」
「えー、そういうこと言うのかい? ボクは君に危害を加えたことなんて一度もないし、この国のために粉骨砕身働いているというのに!」
心外だとばかりにマーリンが大げさに項垂れてみせる。
初対面で吸精しようとしてきた夢魔が何を言っているのか。マーリンがノワールのために働いている事実はあるので、後段はその通りではあるのだが、そもそも世界各地を渡り歩き、好き勝手に振る舞った彼女は、国を超えて要注意人物として名前が広まる程度には問題を起こしてきたという実績がある。
「じゃ、解除するぞ」
マオの力に覆われたノワールは中心に行くほど、ヒロインの力を強く制限する。本来は、この像もパラディクレールに届く前に本来の姿になっているはずだが、今回はマオ自身がこの像を能力の対象外とした。
マオが許可をすれば、ヒロインは力を振るうことができる。その応用である。滅多に見ることのできない敗北した少女像の本物を生で見たいというマオの意図と、人間を生きたまま鉱物に変化させる神の権能の如き能力を調査研究したいという研究者肌のヒロインたちの意図が合致したため、今の今までこの状態に留めていた。
それも、すべて終わった。
この像自体は素晴らしいが、欲しければ実際に彫ったもので十分だというのがマオの感想であった。よって、呪いを解除して、彼女には自由を取り戻してもらうことにした。
マオの力が像に届くと、瞬く間に色が変わる。
半透明だったガラスの身体に血が通い、肌の色を取り戻す。無機質なガラス質は柔らかい処女の肌となり、彼女の表情、全貌が明らかとなる。
桃色の髪の少女だった。
「か――――あ、はぁ!」
呪いが解けた途端に、少女は大きく仰け反って、倒れた。絶頂した瞬間に固められた身体は、呪いが解けたことで、絶頂が再開したのだ。
「ふぁ、ひあ、あ、んあぁ♡」
幾度かの絶頂の末に、哀れな少女は恍惚の表情を浮かべたまま気を失ってしまった。
♪
「――――と、こんなところですが、質問はありますか?」
ユイにノワールの現状や世界情勢を説明したシオンは、教師よろしく眼鏡をくい、と上げて質問を待つ。
聞き取りの結果、ユイはおよそ十年前に彫像に変えられたことが分かった。十年の年月は、決して短くはない。ユイが暮らした西クレーネは、昨年正式にアンタレア王国に併合されたし、反対派に対する粛正の嵐が吹き荒れたセレスアゴラは近年希に見る惨劇の舞台となったことで有名だ。
目覚めたユイは一時的に錯乱して、大いに取り乱したので、マーリンが心を落ち着かせる魔術を使わなければならないほどであった。
呪いが解けて自由を得たユイは、この十年の時間のずれを修正する必要があった。
「あの、わたしと一緒にいた女の子は……」
「わたしたちがあなたを発見したのは、密貿易の商品を隠していた倉庫です。そこに、別の像はありませんでした」
「そう、ですか」
彫像になっていた時の意識は朧気だ。絶頂の瞬間に固定されていたので、どうあっても壮絶な快感を味わう羽目になっただろうが、あまりのことに記憶も理性も飛んでいる。自分に意識があったのかどうかすらも、実感がない。ただ、ガラスの彫像になっていたということだけは、否応なく理解できた。身体の端から固まって、快楽とともに終わっていく
「あなたと一緒のパーティにいたという女性も、同じ悪魔に襲われて彫像に変えられていたということですか」
「……はい」
地下通路は悪魔の巣となっていて、そこには多くの犠牲者たちの成れの果てがあった。ユイもその一員として、誰も訪れない地下通路を彩るだけのものとなっていたはずだ。
それが気づけば大陸の西の果てにあるノワールで蘇生した。
「推測でしかありませんが、あなたを襲ったクリュスタルス・レクスは討伐されたか、追い払われたかしたのでしょう。そうでなければ、あなたが持ち出されることはないはずですし」
「はい」
「となると、あなたのご友人も含む他の被害者たちも一緒に持ち出されたと考えるのが自然です。あなたが、ここにいる以上、他の彫像も世界のどこかにあることでしょう。悪魔の呪いは強力です。調べてみましたが、ガラスのように見えるのは見た目だけで、普通の方法では傷を付けることもできないでしょうね」
「それじゃあ、リオラを助けることもできるんですね?」
「理論上は。わたしたちのご主人様の力は絶大です。あなたを救ったように、あなたの友人の呪いを解くこともできます。もちろん、この広い大陸のどこかから見つけてくる必要はありますが」
「それでも、見つけられたら助けられるって分かっただけでも、嬉しいです」
ユイの力では、どうすることもできない。が、マオの力を使えば彫像となったリオラを助け出すことができる。地獄のような世界から、解放してあげられるのだ。それはユイにとって大きな希望の光であった。
「まあ、確かにそうですが、問題も」
「問題……」
「呪いを解けるのは、現状はマオさんだけですが、マオさんにはあなたのお友達を助ける理由はありませんよ」
「え……」
ユイは愕然とする。
シオンの言っている意味を理解するのに時間がかかった。
マオがユイを助けたのは、偶然ユイを発見したからだ。これまでもそうだったが、敗北した少女像の正体を知ったからといって、マオのほうから救出しようと動いたことはない。敗北した少女像のすべてが有能なヒロインというわけではない。中にはヒロインではない者もいるだろう。一軀入手するだけでも、多額の費用を必要とするのが敗北した少女像だ。博愛精神で助けて回るというのは、リスクが大きすぎる。
「あ、なら、それなら、探すのはわたしがしますから、マオさんには、呪いを解いてもらうところだけ、協力して、もらえたら……」
ユイの言葉は後半に行くにつれて尻すぼみになっていく。
まだろくに言葉を交わしたことのない相手の力に縋るしかないのだが、頼むにしてもあまりにも図々しいと理解できるからであった。
マオはノワールの領主だ。
一個人にそこまで肩入れするわけにはいかないだろう。
僅かに見えた希望の光が霞んでいくかのようであった。
落ち込むユイを見かねたのか、シオンが咳払いをして口を開く。
「可能性がないではありません。あなたがマオさんにお願いできる立場になればよいのです」
「ええと、それって」
「ヒロインの能力は貴重です。マオさんだって、あなたの能力に期待したから呪いを解いたのです。つまり、あなたもわたしたちと同様にマオさんに仕え、誠心誠意ご奉仕すれば、その恩恵を授かることはできるでしょう」
「仕える、は分かりますけど、ご奉仕?」
「もちろん、能力を求められれば能力で応え、身体を求められれば身体で応える。そういうことです」
「…………か、からだ?」
ユイの顔が紅くなる。
シオンの言葉が意味するものを知識としては知っている。
「マオさんがあなたを気に入れば、あなたの望みを直接聞いてくれるかもしれませんよ。今のところ、あなたのお友達を助けられるのはマオさんだけです。ヒロインとして、マオさんに仕えてみませんか?」
「そ、そそ、そんなの、いきなり……言われても」
「ふふ、そうですね。すみません。意地悪が過ぎました。ですが、身体云々は置いておいても、マオさんに仕えるのはあなたにも悪い話ではありません。衣食住が確保できますし、それに、あなたの呪いのこともあります」
「わたしの呪い……」
「はい。お伝えしたとおり、マオさんの力であなたは解放されましたけど、果たしてもう大丈夫なのか、そうでないのかは、まだ分かりません。再発の可能性も否定できないのです」
「ッ……」
ユイの顔色が今度は青くなる。
魔王の力すら無力化するマオの力は確実にユイの体内の魔王の魔力を駆逐した。それは間違いない。だが、ユイには未来が分からない。マオの力も魔王の力も分からない。分からないことだらけの中で唯一確実なのは、マオの力がユイを救ったということだけだ。今後、どうなるかは判断がつかない。例えば、マオから離れると、ガラス化が再発してしまうのではないか。
シオンも愛歌もマーリンも、そんなことはありえないと断言する。
魔王の呪いを解除できても、かけ直すことはできないからだ。
だが、それはユイには分からないし、万が一ということは否定できない。
千年前の猛威を振るったヒロインの力は侮れない。
「また、わたし……」
せっかく解放されたのに、再びガラスの彫像になってしまうかもしれない。そんな万が一を聞かされて、内心穏やかではいられない。
目の前で殺された仲間の最期が脳裏を過ぎる。悦楽と絶望に狂った仲間の顔が瞼の裏に焼き付いている。そして、ナメクジの悪魔の触手が全身をくまなく舐り、気が狂いそうなくらいの快感と共によがり狂わされたことを思い出す。
「う……ぅ」
口元を抑えるユイ。
恐怖と不快感に吐き気を催したのだ。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません」
「いえ、こちらこそ、すみません。ですが、悪い提案ではないと思います。あなたにとっても、マオさんの力は必要でしょうから」
マオの力が魔王の力を打ち消してくれる。
まだきちんと会って話をしたことのないノワールの領主の力は、確かにユイにとっては必要不可欠だ。リオラを探し、助けるためにも、そしてユイが二度とガラス化しないためにも。
悪魔の姿も変わり果てた少女たちの最期の表情も、はっきりと思い返せる。ユイにとってはついさっきの出来事と言っても過言ではない。
例え、今、この場に悪魔はいないのだとしても、ずるずるとした悪魔の這う音が耳にこびり付いている。
「はッ、はッ、はッ、はッ、う、ぅぅ」
呼吸が荒い。
恐怖に心臓を鷲掴みにされたような気分だ。心胆から震え上がり、何度も自分の指先を確認する。
(ガラスになってない。大丈夫?)
恐怖に竦んだ心は、簡単には癒やされない。
指先を目で確認して、血が通っていることに安堵しつつ、明日にはどうなっているか分からないという不安に苛まれる。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません」
「無理もないです。魔王が残した悪魔に襲われたわけですからね。伝わっている話がどこまで真実なのかは確認の余地がありますが、魔王が作成した悪魔たちは、どれもこれも女を辱めることに関しては超一流だったようですから」
「魔王の悪魔。他にもいるんですか?」
「魔王が趣味と実益を兼ねて作成した生物兵器のようなものでしょう。現代に伝わっている情報はかなり少ないようですが、ノワールは比較的資料が保存されているほうなので、悪魔たちの名前だったり姿だったりを調べることはできます。あなたを襲ったクリュスタルス・レクスは、戦場ではなく、魔王軍の拠点防衛に使われた種のようですね」
千年前の戦争で投入された多数の悪魔。魔王謹製の生物兵器たちの犠牲になったヒロインは数多い。クリュスタルス・レクスは、人前での活動が少なかったためか記録がほとんど残っていない。戦乱の世に突入してからは各国が情報統制を敷き始めたので、ますます現代に残った悪魔の情報は伝わってこない。
まして、その犠牲になった少女たちがどこに運ばれたのかを調べるのは容易ではない。
「悪魔の生き残りやその子孫は今でも世界のどこかに暮らしています。数は少ないですけどね。ノワールの領内であれば、一匹も悪魔はいませんが、余所は悪魔を飼育している国もあると聞きます」
「し、飼育、ですか?」
「家畜化できれば、戦力としては申し分ないですからね。魔獣の一種と考えれば、突出した力があるのは間違いありません」
ユイは絶句した。
あの恐ろしい悪魔を飼育している国があること自体が信じられない。
もしもクリュスタルス・レクスをけしかけられたら、正気でいられる自信はない。
「ですから、マオさんを頼ればいいのです。マオさんの下にいる限り、あなたに魔王の呪いは届きません。当然、あなたのご友人を見つけられれば解放する目処は立ちます」
シオンは、テーブルの上にショッキングピンクの液体が入った小瓶を置いた。
「あの、それは?」
「あなたがマオさんに従うのでしたら、夜のお相手も必要になります。一歩踏み出す勇気がないのなら、これを服用してください。気分が盛り上がりますよ」
「それ、ええと、ええ?」
初心なユイでも何を求められているのかは理解できる。
自分が置かれている立場も、分かっている。
十年もの時間をガラスの彫像として過ごしてきたのだ。もう、あの姿には戻りたくない。マオの力は本物だ。そうでなければ、クリュスタルス・レクスの呪いを解くことはできない。マオに従っていれば、ユイが抱える問題のほぼすべてが解決するかその目処が立つ。残す問題は、マオの期待に応えることができるかどうかということであった。
■
光石ランプの光が照らす寝室で、マオはかび臭い書籍に目を通していた。
千年前のノワール領主が残した本だ。
魔王軍との戦いは、戦後数年のうちにタブーとなり、百年もすれば伝説となった。帝国を支えた電子文明は全盛期の竜王ムートーの電磁パルスによって壊滅し、今でも当時の技術水準に追いついていないという状況だ。
トラムによれば当時の記録の主流は電子機器での情報集積で、今のように文書では残していない資料も多く、それらが纏めて破壊されたので、膨大な記録をパンゲア帝国は失ったのだそうだ。
その中でも歴史と伝統だけで生きてきたノワールは、紙文化が残っていたし、その後の千年間に戦火に巻き込まれることもなかった。そのおかげで、今でも当時の文書を探すことができるのだ。
「クリュスタルス・レクスが、ユイを襲った悪魔か。魔王は、少女像を自分の傍らに置いて美術品として愛でていた、というかそのために作った悪魔なのか」
千年前の悪魔のことは、マオもあまり知識がない。日常生活ではどこにいるのかも分からない古い魔獣よりも熊や狼のほうが脅威だ。魔獣と悪魔の違いすら、正しく理解する必要性は低かった。
それでも、調べてみると面白い悪魔のオンパレードだ。巨大な捕人葉で捕えた人間を媚薬漬けにして魔力を吸収するラクリマ・ムスキプラや毒針を持つ触手で神経系に直接快楽信号を送り込んで廃人にするトニトルス・プルモなど、野に放つ式神の造形の参考になりそうなアイデアがたくさんある。魔王は怪物のデザイナーとしてもかなり優秀だ。ノワールの領主としては失格だが、先達と仰いでもいいのではないか。
勉強は嫌いではない。古い本を読み込むのも、機械的に書類を処理していくのも、作業に没頭するという点では似通っていて、どちらも性に合っている。
目が疲れてきたので本から視線を外して何となしに反対側の壁に視線を向けていたとき、ドアをノックスする音が聞こえた。
返事の後、入ってきたのはユイであった。
桃色の髪をした愛らしい少女がやや緊張した面持ちでマオの部屋を訪ねてきた。
「シオンの講義は終わったのか」
「はい、今、全部終わったということでした」
「それじゃ、改めて。俺はノワールの領主のマオだ。マオ・パンガイア・ノワール。長いからマオでいい」
「あ、はい。ユイです。その、助けてくれて、ありがとうございました!」
ユイは頭を下げて、お礼を言った。
「本当は一番にお礼を言わないといけなかったのに、遅くなってしまってごめんなさい」
「……そんなに改まってお礼を言われるのはこそばゆいな。シオンから聞いているかもしれないけど、今の世の中は……十年前もそうだったが、一にも二にもヒロインだ。君たちの力が国の力になる。だから、他の娘と同様にユイにも俺の下についてもらいたい」
マオの視線は強くユイを射貫く。ユイの力は直接的な戦闘には向かないものの、何があるか分からない。マオは当然の警戒としてユイの力を抑え込んでいる。その上で、お願いという体裁を取った強制力のある要請をしている。
ユイにはマオの命を断ることができない。
彼女の良心が、恩を仇で返すことを許さないし、クリュスタルス・レクスへの強烈な恐怖もある。それに仲間を助けなければならないという目的もある。それらすべてがマオに仕えることで解決するのだから、拒否する理由がない。拒否したところで一文無しだ。彼女だけの力では、ノワールを囲む山脈の外にも辿り着けないだろう。
ユイは、一度深呼吸をしてから頷いた。
「分かりました。わたしにできることがあれば、どんなことでもします」
「どんなことでもするんだな? それがどういうことか分かっているんだろうな?」
「し、シオンさんからも聞いています。わたし、頑張りますから」
「そうか。ああ、いいぞ。ユイを歓迎する」
マオは立ち上がって、ユイに歩み寄る。
頭二つ分は身長差がある。
マオを見上げるユイの瞳には逡巡と不安と隠しようもない欲望の色が見える。
「ぅ……」
「ユイ、逃げるな」
「あ……ぁ……ん」
ユイの頤を上げて口づける。
血色のよい柔らかい唇にマオは自分の唇を押しつけた。
「ん……んんッ」
ユイが目を見開いて身じろぎをした。
「キスは初めてか?」
「……ぁ、はい……その、初めてです」
「なら、慣れろ。全部受け入れて、ひたすら慣れろ」
「慣れ……んんッ」
マオが再びキスを再開する。
ユイの唇を何度も吸って、キスをしている実感を味わわせるためにいちいち音を立てる。
(わたし、キスをしてる。本当に、男の人と。今日、会ったばかりなのに)
目を瞑りユイはファーストキスを失ったことに失意する。
将来、好きな人とデートをして、ロマンチックなキスをしてみたいと乙女心に思っていた。それが、半ば身売りをするかのような形で初めてを失うことになるのだから、ユイにとってはショックが大きい。
(でも、もう、わたしは悪魔に汚されてるんだもんね。この人がいないと、何もできないんだ)
受け入れて慣れるというのは、そういうことだろう。
これまでの自分の理想も憧れも全部は投げ捨てて、これからのノワールでの生活に順応していくのだ。今日がその第一歩なのだろう。
「んむ……んッ、ちゅ……んあ……ぁ……んん♡」
マオはユイの口内に舌を滑り込ませた。
ユイが初経験だからといって加減はしない。
女を蕩けさせる舌使いで、ユイの口内をたっぷりと愛撫する。
「んッ、んッ、んんんッ、んあ……ふあ、あ、んんッ、ちゅ、ちゅぱ……れろ……ふあ♡」
まずはゆっくりと舌を絡める。挨拶代わりの舌の接触から、上顎、内頬、舌の裏側、歯茎に至るまでねっとりと舐める。
初めのうちには若干の抵抗があったユイだが、一分、二分と時間をかけてディープキスとしていると、慣れてきたのか自分からも舌を動かし始めた。
「ちゅ……れろ……れろ……れろ……ちゅ……んちゅ……ちゅ……んふぁ♡ あ……ふあぁ♡」
唇を離すとユイは惚けたような表情をしていた。
すっかりできあがっている様子だ。
「ユイ、ベッドで続きだ。いいな?」
「ん……は、い」
ユイの頬は紅くなって、熟れたトマトのようだ。
それでも逃げ出さないのは、彼女の身体がマオを求めているからだ。
服を脱いだユイは、顔に似合わぬ見事な恵体であった。
豊かな乳房にくびれた腰、童顔のアンバランスさが、男の欲情を誘うのだ。
マオのベッドに仰向けに寝そべるユイは、緊張感に固くなっている。
「もうマンコの準備はできているな」
「い、言わないでください……ん、ひん♪」
ユイの太ももが痙攣する。
マンコにマオが指を入れた刺激に反応したのだ。
ユイのマンコはキスだけで大洪水になっていた。マンコの中に入れた二本の指に、柔らかな膣肉が絡みつき、締め付けてくる。
「ひあッ、あッ、あッ、ひぃん♡ ああん♡ いや、なんで、こんなに……あひッ、あ、あ、あ、あああああ~~~~~~♡」
ユイは腰を跳ね上げてイク。
いとも簡単に、マオの指にイカされてしまったのだ。
「はあ、はあ、はあ、ふはぁ」
「敏感すぎるな。こんなに簡単にイッてたら、後がもたないぞ」
「これは、シオンさんの薬の所為、です。ん……はあ」
「シオンの薬をここに来る前に飲んでたのか」
「マオさんに抱かれる、勇気が出るからって、ふう、ふう……」
いつもなら性的な耐性の低いユイはマオに抱かれる決心がつかなかったかもしれない。しかし、シオンの薬を飲んでからは身体が火照って、男に抱かれる羞恥も後ろめたさも薄らいだ。
「そういうことか。なら、このまま続きをしてもいいな」
「あ……ひゃ」
ユイは可愛らしい悲鳴を上げた。
マオのペニスがそそり立っていた。
「あ……あ、大きい」
「見るのは初めてか?」
「はい……その、初めてです」
「これをユイのマンコに入れるんだ。覚悟しろよ」
ユイは生唾を飲んでペニスを凝視する。
(エッチな動画で見たのと同じ。でも、マオさんのはもっと固そうで、すごい出っ張ってるし、わたしの中に入るのかな)
マオがユイの膝を押さえて、股を広げる。
しっとり濡れたマンコは、マオのペニスを拒否することは絶対にない。
グロテスクな亀頭がユイの割れ目に吸い込まれる。
「あ……んん、ああああ♡」
そのまま、ユイのマンコはペニスをずるりと飲み込んだ。ねっとりと絡みつく肉襞がペニスを包んで離さない。
「んく……なかなか、大した締め付けだ。気持ちイイよ、ユイ」
「ひッ、あ、大きい……あ、ああ♡」
「慣らす必要はなさそうだな。ふふ、動くぞ」
「あ、待ってくだ、さいぃいいいッ、あッ、あッ、んあッ、ひゃああ!」
ユイのマンコからペニスが出たり入ったりする。
男女の営みを想像し自らを慰めた経験がないわけではないが、マオのペニスを受け入れた快感に比べたら、ままごとだった。
「ああ、んああ、ひゃん、あん、ふあん♡ あ、あ、ああ♡」
「ユイ、いきなり乱れるじゃないか」
「だ、だって、これ、こんな、ん――――あん♡ ふあ、いや、ダメなのに、こんなエッチなことして、んん、初めて、なのに、あ、ひゃ、ひん♡」
ユイは言葉を途切れさせて、喘いだ。
身体が自分のものではないようだった。
パンパンパンと音を立てて力強くペニスが膣内を穿り返す。
ユイは刺すような深い快楽に頭を焼かれているような気がして、はしたなく喘ぐ声を殺そうと唇を噛む。
「ふぅ、んふぅ、んんんんんん――――んひゃあ♡ ああ、んああああ♡」
だが、ユイの僅かな抵抗は、マオの抽挿の前には何ら役に立たない。
ユイは頭を振って快感を逃がそうと藻掻く。
「あ、あ、あ、あああ、こんな、ダメ、ダメぇ♡」
「ダメなもんか。セックスだからな。気持ちイイのは気持ちイイんだよ。ユイのマンコ最高だぞ。ユイも気持ちイイだろう?」
「言っちゃ、言っちゃダメです。そんな、恥ずかしい、アアッ、ああん、奥ぅ♡」
「奥がなんだって?」
「ふぐ、んううぅ、ふぐうぅ♡」
「奥がいいのか?」
「ん……んんッ、んくぅぅ!」
ぐりぐり、とユイの膣奥を虐めるマオ。
ユイは口を手で塞いで嬌声を必死に堪えている。だが、彼女の目尻には涙が浮かび、瞳はとろんと蕩けているのが分かる。口を塞いでいるのは最後の悪あがきといったところだろう。
まったく意味がない。
マオのペニスを締め付けるマンコは、ユイの感じるところを正確にマオに伝えている。
言葉にしなくても、ユイの身体は正直だ。
「ひッ、んふ♡ んふぉ♡ んん、ふぅうう♡」
ずん、ずん、と体重をかけてユイの弱点を突く。ポルチオから発する深く溺れるような快楽信号は着実にユイの脳を犯している。
マオはユイの膣奥に体重を乗せながら、ユイの耳元で囁く。
「ユイ、我慢はするな。シオンの薬を飲んだんだろう? 悪魔に犯された影響も残ってる。素直になっていいんだぞ。それは仕方のないことだからな」
甘い囁き。
辛く苦しい我慢を止めても構わないのだという誘惑だ。
そしてユイはあっさりと、この誘惑に屈した、
当然だろう。彼女を動かしていたのは、あくまでも恥ずかしいという一点であって、その程度の理由でいつまでも強情を張れるはずがないのである。
ダメ押しのディープキスでユイの理性は崩壊する。
「んちゅ……んふうううううううううううう♡」
ユイは両手両足を無意識のうちにマオに絡みつかせていた。マンコは不随意に収縮痙攣を繰り返して精液を搾り取ろうと躍起になる。
強烈な快感で瞳が裏返るほどであった。
「んちゅ……ちゅぱ……ふあ、あ、あ、ああ」
「ユイ、どこがイイ? どうされたい?」
「あ、あ……」
ユイは生唾を飲んだ。
頑張る意味などないのだから、言ってしまおう。
言葉にすれば、もっと気持ちよくしてもらえるし、気持ちよくなれる。
ユイはこれからもっと頑張って、マオに気に入ってもらわなければならないのだ。
「奥、奥が、気持ちイイです」
「どこの奥だって?」
「おマンコの奥です。一番深いところ、マオさんのおちんちんが当たって、腰が溶けちゃいそうで……ああッ」
ユイの言葉が終わらないうちにマオのペニスがポルチオを突く。
「ひゃあああ! そ、そこッ、そこです! そこが一番、気持ちイイです!」
「やっと素直になったな」
「だって、これは、仕方ないですから。シオンさんの薬、飲んじゃったから、んふ、ふあ……あ、あ、ああん♡」
ユイは快楽に溺れて表情筋を蕩けさせている。
亀頭が子宮に挨拶をする。ずんずんと抉るたびに甲高い嬌声があがりベッドの上で肌に汗を滲ませたユイがマオにしがみついてくる。
「ひう、んふう……あう……んあッ、あ、あ、気持ちイイ♡ あ、もっと、もっと、いっぱい、突いてくださ、んへあ♡ あ、イイ、すごい、おちんちん、すごい、イイ♡」
「乱れるな、ユイ」
「あ、ふあ……こんな、すごいなんて、思ってなかったから……あん、んあ、ふああ♡」
「いいぞ、ユイ。このまま俺のものになれ。俺のところにいれば、二度と悪魔なんか怖がらなくて済むからな」
「はあ、はあ、んふあ、あ、ああ、はい、はい、お願いします。このまま、んふ、ふあ、あなたの、ものに、して、くださぃ。あッ、あッ、ふあ、あ、ああ♡」
頭の中が快楽に埋め尽くされる。同時に極度の多幸感が悪魔への不安を押し流していく。ユイはここに来て初めて悪魔を忘れた。快楽に支配された十年の地獄が同じ快楽によって洗い流されていく。
快楽は毒だ。
一度受け入れれば、忘れることはできない。
悪魔によって開発された身体をマオが再開発する。もともと快感に弱かったユイの肉体は完膚なきまでに快感を叩き込まれて屈したのである。
「出すぞ、ユイ」
「ひぃ、あ、んへああああああああああああ♡」
身体の深いところに重たい魔力が放たれたのが分かった。熱い熱がじわりと広がり、ユイの頭が真っ白になる。
深い快感がユイを押し流す。
何もかもがどうでもよくなって、この快感に満ちた今だけが世界のすべてだとすら感じたほどだった。
「ひあん、あん、あん、んああ♡ ああ、すごいです。おちんちん、固くて、あん、あん、あああ♡」
ユイをバックで突く。
従順になったユイはひたすら喘ぎ続ける。
射精しては体位を変えを繰り返し、何時間も身体を貪りあった。
終いにはユイ自ら腰を振って奉仕するようになり、時間を忘れたセックスは夜通し続いた。
初めてなのに、あまりにも激しいセックスをして疲れ、気絶するように眠ったユイは、翌日の昼過ぎに目を覚ました。昨夜の淫行を思い出して火が出るかと思うくらいに顔を紅くし、そそくさとマオの部屋を辞した。
まだ、マオの屋敷でのユイの立ち位置は明確ではない。仕事を与えられているわけではないので、急いでしなければならないこともない。
とりあえず部屋に逃げ帰ろう。
そう思って小走りで部屋に向かっていた時、シオンと出くわした。
「あ、シオンさん」
「ユイさん。どうも……その様子ですと、うまくいったようですね」
「うまく……いった、あ、ええと、その、それは……」
上手くいったのは間違いない。マオとセックスをして、彼個人の戦力として認めてもらった。そのうち、何らかの役割も与えられるだろう。
「あ、ええと、シオンさんもありがとうございました。いろいろと教えてもらいましたし、薬もいただいてしまって」
「薬? ああ、昨日渡したヤツですね」
「はい。あのポーションまでいただいて、でもおかげで何とかなったと思います。ありがとうございました」
律儀にお礼を言うユイ。
シオンの後押しで吹っ切れたところがあるので、彼女がいなければ、あるいはマオに抱かれる勇気が出なかったかもしれない。
「ああ、あのポーションですか。気にしないでください。ユイさんは初心そうでしたので、きっかけがあればと思っただけです」
「そうですか。初心って、そう見えますか?」
「そうですね。まあ、あなたと同じくらいの年頃のヒロインの中では一番、普通そうですね」
「普通ですか」
「はい。少なくとも感性については」
ユイも修羅場を潜ってはいるが、さすがにノワールにいる他のヒロインに比べると見劣りはするだろう。
ノワールにいるヒロインたちの多くは、地獄を見てきた者たちだ。
「もしかして、副作用とか気にしてますか? 心配しなくても、あのポーションは偽物ですから、問題なんてナイナイ、です」
「え……偽物?」
「はい。さすがのわたしも初対面の人にいきなり媚薬を渡したりしませんよ。中身は下町で購入したストロベリーミルクです。ですから、身体に異常はでないと思います」
「え――――えええええええ!?」
ユイは愕然とした。
(ポーションが偽物って、それじゃあ、昨日あんな風に感じてたのは、全部、わたしの早とちりだった?)
あまりにも淫らな言動。
欲情に突き動かされるように、マオを求めて身体を重ね続けた夜を思い返し、ユイは顔を真っ赤にした。
「ユイさん、どうしました?」
「あ、え、ええと、何でもない、何でも……あ、ぷしゅー」
「あれ、ユイさん?」
「か、帰ります。失礼します」
ユイは勢いよくシオンの前から逃げ出した。