※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第三十話(立香)

 海運業で栄えたノワールにとって制海権の維持は必要不可欠だ。陸路が不便なノワールにとって海こそが外に開けた唯一の道だ。海を他国に奪われることは、喉元に刃を突きつけられるに等しい。

 海運の敵は他国の水軍だけではない。

 海を縄張りとする数々の魔獣や、海賊がノワールの船を狙っている。

 戦争をしなくても、こういった手合いは常に湧いて出る。海上を警戒し、行き交う船の安全を守るノワールの海軍は、必然的に優れた航海技術と豊富な実戦経験を手に入れた。

 今、ノワールの三つの軍港は、かつてない忙しさに見舞われていた。

 同盟国ロドポリスがヒロインの襲撃で陥落し、滅亡したとの報に接し、ノワールは臨戦態勢を急ピッチで整えていた。

 ロドポリスは、ノワールにとって東側の諸国と取引するための重要な窓口となる国だ。小国ではあるが、ノワールを出た船が寄港しやすい場所にあり、重要な補給基地に位置づけている。そうでなくとも、大陸西部のに位置するノワールが南海路を通って東側の国々と取引をするためには、ロドポリスの領海を通過しなければならないのだから、ここを抑えられれば、船の行き来は停止してしまう。

 

「船、でっか」

 

 あんぐりと口を開けて船を見上げるのは立香であった。

 ノワールの船は、ガレオン船が中心となる。

 その中でも艦隊の旗艦となるマグナ・ヘラス号は特に大型の帆船で、動力は風力だが、内蔵した魔力結晶による自力航行も可能という巨大な魔術戦艦だ。

 魔力を兵器に使用すること自体は珍しくはない。マジックアイテム自体は軍には必須の装備だ。それでも魔力を適切に運用できる人間は少なく、人材の枯渇が魔法技術の発展を阻害していた。実用化すれば便利な理論でも、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。そういった技術的な課題を、魔術・魔法の知識のあるヒロインが集まって様々な魔術的加工を施した。

 ワイバーンの竜鱗を貼り付けて補強し、幾重にも重なる魔術結界が外部からの干渉を遮断する。それはもはや海の上を走る移動要塞も同然の規格外の戦艦なのであった。

 

「これほどの船なら、ちょっとやそっとじゃ傷もつきませんね」

 

 防御には一家言あるマシュも納得の出来だ。

 補強工事にたった二週間しかかからなかったというから驚きだ。加工困難なワイバーンの竜鱗を丁寧に貼り合わせた仕事を短時間でこなしたというだけでも、ノワールの職人の技術力の高さが分かる。

 

「お二人とも、どうかしましたか?」

 

 船を見上げていた立香とマシュに声をかけたのは、ミコトだった。

 色白で小柄な少女が陽光の下で眩しそうに目を細める。

 

「ミコトさん、珍しいね。工房から出てくるの」

「今回の遠出はわたしも同行することになりましたから」

「そうなんだ。それは、頼もしいね」

 

 立香の手放しの賞賛にミコトは少し照れる。

 あまり人とコミュニケーションを取ることが得意ではないミコトだったが、立香とは上手く関係を築けていた。

 立香はその辺りの線引きが上手い。話し下手のミコトが困らないような距離感で、ほどほどの会話をしてくれる。

 明るい立香の周りは騒がしいはずなのに、ミコトはそれが不快にならない。どこにでもいそうで、しかし、あまりいない希有な人種と言えるだろう。

 

「わたしはノワールの外に出るのは初めてなんです。だから、少し緊張しています」

 

 と、ミコトが言う。

 

「あれ、そういえばミコトさんて、ノワールにはどこから?」

「わたしは最初からノワールにいたんです。パラディクレールから少し離れた村の外れで目を覚ましました。それから一度も国外に出ていないわけです。立香さんとマシュさんみたいに、外からやって来たわけではないんです」

「へえ、まあ、そういうこともあるか」

 

 船から鐘の音が聞こえる。

 荷物の搬入が終わった合図だ。

 

「先輩、ミコトさん、そろそろ乗らないと」

「いけない、マオさんに怒られる」

 

 三人は自分の荷物を持って船に乗り込む。

 ノワールにとっては、実に百年ぶりとなる大規模な出兵である。前回の戦争を知るまっとうな人間はもう一人もいないというほどに、ノワールは平和を甘受してきた。

 しかしながら地形を活かした専守防衛の方針は、その外で生じる時世の変化に即応できない。動かないことをモットーとしたノワール軍に、同盟国を救うことなどできないし、同盟国が滅びれば、必然的に殻にこもっているだけのノワールは干からびるしかない。何もしなければじわじわと崩れていく未来が見えている以上、それまでの方針を覆して出兵するしかないのだ。

 

 

 ロドポリスまでは長い旅になる。

 この船でも五日はかかる船旅だ。さすがにこの二十隻からなる軍艦を襲おうという海賊はそうそういないだろうが、海の魔獣はその限りではない。船にとって最も恐ろしいのは魔獣の攻撃で船底に穴が開くことだろう。船の上は逃げ場がなく、沈没すれば命はない。人間の肉の味を覚えた魔獣は意図的に船を沈めて人を食うとされる。

 ノワールだけでなく、世界各国の海軍はそういった危険な魔獣と戦うプロフェッショナルの集まりでもあるのだ。

 そこに、ヒロインたちが加わっている。

 間違いなく、ノワールの歴代でも最大級の戦力が集結していると言えるだろう。

 今回の遠征には、ハルカ、ミコト、スピカ、立香、マシュ、愛歌、トラム、ヒルド、ユイといったそうそうたる面々が並ぶ。

 マオ不在のノワールの執務をマーリンとシオンに任せ、それ以外の戦力を集中する思い切った人選であった。

 ノワールが出兵するまでに、女神の襲撃を受けた都市国家はさらに三つに膨れ上がった。南洋連合は事実上、崩壊しており、ノワールから南側の各国を繋ぐ南海路は完全に封鎖されているも同然となったのだ。

 おまけに、この混乱に乗じて影響力の拡大を狙うクロガネ大公国が出兵し、領地を広げている。

 クロガネ大公国も力を見せつけて国の内外を引き締めるには、好機と見たのだろう。

 いずれにしても、ロドポリスをクロガネ大公国に奪われるわけにはいかない。

 

 船上では、せわしなく騎士とヒロインたちが行き来している。

 僅かな油断が命取りとなる船旅だ。天気、航路、海中のどれからも目を離すことはできない。とりわけ、目に見えない海中への警戒はヒロインの中でも五感に頼らない索敵ができる「魔術師」が主体となる必要がある。

 愛歌とミコトがその役割を担う。

 海中に放つトークンと万象を見通す千里眼があれば、まず敵を見落とすことはないだろう。

 また、空もヒルドが見張っている。

 今は暇そうに船のマストの上にしゃがみ込んでいたり、時折マストからマストに飛び移ったりと自由にしているが、彼女が船に刻んだ原初のルーンは、航行速度の向上や船の防御力向上に大きく役立っている。

 戦闘に特化したハルカとスピカは遊撃隊として、襲撃を受けた際に現場に急行して戦列を支える。マシュと立香で旗艦の護衛だ。彼女たちの多くの冒険を乗り越えてきた経験が頼りだ。怪我人が出ればユイが対処する。医療面で優れた力を発揮するヒロインの存在は、長期戦では特に大切だ。

 それぞれが自分の仕事に駆け回っている中でマオは旗艦中央に設けた執務室の机に向かっていた。

 といっても、仕事をしているわけではない。

 船の上でマオがすることはあまりない。

 マグナ・ヘラス号の船旅は安定していて、揺れも少なく、船に不慣れなマオにも支障はない。 

 巨大な船とはいえ、活動できるスペースは限りがある。

 半日も経てばマオの仕事はただ座っているだけになってしまう。

 退屈を持て余したマオは、とりあえず誰か抱こうと思い至った。船旅が落ち着いていて、出港時の緊張感が解れてきた頃合いである。

 そう考えていたところで、たまたま執務室を立香が訪れた。まさに飛んで火に入る夏の虫である。マオは立香に性処理を命じた。

 

「はあ、ふう……ふう……れろ……れろ……れろ」

 

 マオの視線の先で明るい赤毛が揺れる。

 机の下に身を隠した立香は、ズボンから取り出したペニスを口に含んで奉仕をしている。

 

「れろ、れろ、れろ、れろ、ちゅぱ……れろ……んちゅ……はあ、はあ、んあ……れろ……れろれろ」

「立香、上手くなったな。フェラチオ」

「そうですか? 自分だと、分かりませんけど。ちゅ……れろ……んむ……ちゅぱ……はあ、ん、れろれろ」

 

 立香の舌先が鈴口を穿るように動く。裏筋も竿も満遍なく舌を這い回らせて、涎を塗りつける。テラテラと濡れる舌が亀頭をなぞり、張り出たエラを丁寧に掃除している。

 

「んちゅ……ちゅ……ちゅう……れろ……んあ……はあ、はあ、はあ、大きい、んじゅるる♡」

 

 立香は竿を半分まで口に入れて、強く吸う。

 競り上がってきたカウパー液は吸引されて、立香の喉を潤す。

 

「ふぅ♡ ふぅ♡ んふぅぅ♡ じゅるる♡ ちゅぱ……れろ……れろ……んむ、ぐぷ……ちゅぷ……ちゅぷ……じゅる♡」

 

 ペニスの根元に握って扱きながら、立香は頬を窄めてペニスを吸う。

 熱い口内で舌が動き、裏筋を弄ってくる。

 初めてフェラチオをした頃に比べて格段に上達している。マオが感じる場所を捉えて的確な力加減で扱き、舐め、しゃぶる。

 ほどよい快感がペニスから腰、背中を通って頭に届く。

 射精を堪えて深呼吸をする。椅子に深く座ったマオはリラックスして立香の頭を撫でた。

 

「ふぅ、んあ……れろ……ふあ、ん……はあ、はあ……」

 

 立香は撫でられて嬉しくなる。

 マオに褒められるとどういうわけか心が弾む。少し羽目を外しそうになる。もっと褒めて欲しくなり、さらに深くペニスを咥え込む。

 

「マオさん、いらっしゃいますか?」

 

 ノックと共にマシュの声がマオと立香の耳に届く。

 

「!?」

 

 さすがに立香は正気に戻った。慌てて顔を上げようとする立香の頭をマオは抑えた。目を白黒させる立香を尻目に、マオはマシュに答える。

 

「どうした?」

「定時報告です。入ってもよろしいでしょうか?」 

「ああ、いいぞ」

 

 机の下から立香の抗議の視線が送られてくるのを感じながら、マシュの入室を許可した。

 マシュは黒い鎧に身を包んでいた。いつでも戦えるように換装していたのだ。一枚の羊皮紙を片手に、マシュは机の前にやってくる。

 

「何か異常はあったか?」

「いえ、現時点で航海に支障はありません。バイコーン・マンタの群れが二キロ東の海中に観測されましたが、本艦の航路からは外れています」

 

 手短にマシュが報告書を読み上げる。

 午後三時の報告は、三時間前と代わり映えせず、大きな変化はない。天候悪化の兆しもなければ、魔獣との遭遇もない。

 観測されたバイコーン・マンタも、気性の大人しい魔獣で、漁の対象になるくらいの小型魔獣だ。気にするものではないだろう。

 ペニスの気持ちよさを堪能しながらマシュと雑談する。

 立香はペニスを口に含んだまま、息を殺して成り行きを見守っている。迂闊に音を立てればマシュがそれを聞き咎めるだろう。

 立香とマシュにマスターとサーヴァントの契約はない。そのため、立香がここにいても、マシュが魔力を逆探知するようなことはできないのだ。

 

 

「あ、そうだ、マオさん。先輩を見ませんでしたか?」

「!?」

 

 一頻り雑談をした後、マシュが尋ねた。

 立香は顔を青くしてより一層、身を潜める。

 

「立香? さあ、さっきまでここにいたけどな」

「そうですか。先輩の礼装のことで、話があったんですけど、どこにいらっしゃるか分からなくて」

「もしかしたら、まだそこら辺にいるかもしれないな」

「そうですね。探してみます」

 

 マシュを見送った後、マオは目線を下に向ける。

 立香が顔を紅くして睨み付けている。

 

「んじゅ……ふはッ、はあ、はあ、はあ、死ぬかと思った。マシュにバレたらどうするんですか!?」

「バレるも何も、今まで何度も一緒にしてきただろ」

「そ、そういう問題じゃなくて……」

 

 セックスをしている姿など、もう何度もマシュに見られている。マオの言うとおり、一緒にマオのペニスを貪ることだってある。だが、そうはいっても机の下に隠れてフェラチオをしているというアブノーマルな姿を見られるのが恥ずかしくないというわけではないのだ。

 

「それに、立香も興奮したんじゃないのか?」

 

 立香の顔に勃起したペニスを乗せる。涎とカウパー液で光るペニスは立香の顔ほどもあって、むわぁと、熱い雄の臭いを放つ。

 

「ふあ……ぁ、はあ、はあ、ぅぁ……」

 

 立香は目を見開いて固まる。

 強烈な雄の臭いに思考がショートする。立香の口の端から涎が零れた。ずっとペニスを口に入れていたから、立香の口内は涎でいっぱいになっていた。涎を飲む音すらマシュに聞かれないようにしていたから、もう限界だった。

 

「へふ……んふ……れろ……れろ……んじゅるる♡」

 

 立香は犬のように涎を零してペニスにしゃぶりつく。

 命令されるまでもなく、身体がそうするのが正解なのだと理解していた。

 実際のところ、立香はすでに快楽の虜だ。理性も本能もマオを求める。そうなるように心身にマオへの従属を教え込んだ。立香はマシュに見られたところで、フェラチオを止められない。羞恥をスパイスにして、より興奮してしまうからだ。

 

「立香、もういいぞ。立て」

「ん……ちゅぱ」

 

 立香は名残惜しそうに舌先で亀頭をなぞってから、机から出た。

 マオは立香の机の上に組み敷いて、彼女のスカートとショーツを下ろす。

 

「マオさん、あの、鍵を」

「勝手に入ってくるヤツはいない」

「でも、みんな、働いてるのに……あッ、んん!」

 

 ペニスを立香に押し込む。膣肉をこじ開けて根元まで挿入すると立香は足をガクガクをさせて快感に呻く。

 

「ふぐ……ふあ……あ、入ってくる。わたしの膣内ぁ」

「あまり大きな声を出すと外に聞こえるかもしれないぞ」

「!……ん、ふうッ」

 

 立香は手で口を塞いだ。

 そんな立香をマオは背後から襲う。ペニスを出し入れして、快感を与えていく。

 

「ふぅ、んふうあ、んん、ふう……んあ……んあ……んん……ふう……んふぅ♡ んあぁ♡ ん、ふうぅ♡」

 

 立香の柔らかい膣肉を解し、蕩けさせる。フェラチオだけで十分に興奮していた立香は、ペニスを挿入された刺激でイキそうになっている。

 

「ん……ん……ん……ん……んあッ、んあッ、んふあッ、ああん♡ ん、んんッ、ふぐ、あぅ……ダメ、強くしちゃ、あッ、ん、んん、声、出ちゃうから、ふぅッ♡」

 

 ぐりり、とペニスを奥にねじ込む。マオのペニスはパンパンに膨れ上がっていて立香の膣全体を圧迫する。カリ首は肉襞をゴリゴリひっかいている。

 

(声、声が出ちゃう。気持ちよすぎる。頭が真っ白になって、我慢ができない)

 

 羞恥心に任せて唇を引き結ぶ立香。 

 それを知りながら容赦なくペニスを抽挿するマオ。

 立香の髪を指で掬い、感触を味わう。

 立香の耳を背後から舐める。立香は「ひぃん♡」と愛らしい声を漏らした。不意打ちの耳舐めに立香の砦に罅が入る。

 

(今のヤバい。我慢が、身体が、一気に)

 

 罅からどろりと負け癖の毒が滲み出る。立香の心をへし折ったマオのペニスは天敵だ。マオ以外が相手なら持ち前の根性が発揮されるのだが、マオはダメだ。心が求めてしまう。マオに組み敷かれ、敗北する悦びを知っているから、弱いのだ。

 

「んん――――ふぉん♡」

 

 立香が仰け反る。手の平を超えて声が漏れる。

 強く固いペニスの抽挿。立香の膣肉がペニスに抉られ、快感で溶けていくようだ。

 

「んん……んんッ、んふッ、ふあッ、ん、ん、んんん!」

(いやぁ、ダメ、頭がおかしくなる。気持ちイイの、これ以上続けられたら)

 

 奥歯を噛み締め、声を殺す。

 そんな立香が愛おしくなり、マオは抽挿を続けながら立香の耳を甘噛む。

 

「!? あッ、それ、んんッ、それ止め、てぇ、んふ♡ ひゃ、ぁう、んむ……んぐぅぅ♡ い、イグ、イグ、ぐぅ、んんん!」

 

 イケば何もかもどうでもよくなって大きな嬌声を上げてしまう。

 それを防ぐため、立香は死に物狂いで絶頂を堪える。

 

「しょうがないな。立香、こっち向け」

「ふえ、あ!」

 

 立香を振り向かせるマオ。

 身体を捩った立香の唇を奪う。

 

「ん、あ……ん、ほら、口塞いでてやるから、好きなだけイケ」

「あ――――ん♡ んんぅ♡」

(そんなこと言われたら、わたし♡)

 

 立香は食いつくようにマオの唇を吸った。舌を伸ばしてディープキスをする。声を出せないという枷がなくなり、欲望が一気に噴き上がる。

 

「んんんんッ、イク、イク、から、んちゅ……れろ、んん!」

 

 マオに助けを求めるように口付けを強請る立香。彼女の要望に応じて、マオはがっちりと唇を重ねた。空気を通す隙間すらないほどしっかりと口を塞ぐといよいよ立香も観念するしかない。

 ペニスで膣を抉る。

 突き重なった快感が弾けて絶頂が立香を襲う。

 

「ふぐ――――んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん♡」

 

 射精と同時に立香が果てる。

 悶絶する彼女の嬌声は口腔内に響いた。

 脈打つペニスから精液が立香の胎内に注がれる。その熱と魔力が立香をさらに絶頂に導く。どうしようもないくらいにマオの身体に慣らされてしまった立香に抗う術はなかった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 風を掴んだ帆が限界一杯まで膨らんだ。

 船団は予定を上回る速さで海上を進む。夜に襲ってきた嵐も、原初のルーンで強化された船体を覆すことはなく、順調な船旅だ。

 大陸を左手に臨みながら、マオの船団は着実にロドポリスに近づいている。

 これから神様と戦争をしようと意気込んでいる軍艦に順調な航海などできるはずがない。

 異変に気づいたのは、愛歌であった。

 

「下からくるわ」 

 

 防御機構が展開するとともに、マグナ・ヘラス号が大きく揺れた。

 水しぶきが上がり、海面が滅茶苦茶に揺れて波立つ。

 騎士たちの悲鳴が上がり、作業中の水夫が足を滑らせて船外に振り落とされる。

 

「うああああああああああああああ!」

 

 落ちた水夫を目がけて海中から巨大なトラバサミが立ち上がる。

 牙のある海獣の大顎である。

 外見は立香の知るクジラに近い。しかし、顔だけはワニのようだ。

 は虫類と両生類を掛け合わせたような外見のその生き物は、この世界で海竜種と分類される魔獣の一体であり、立香や愛歌の世界ではかつて海洋を支配したモササウルスに類似していた。

 海獣の口が閉じ合わされる瞬間に白銀の閃光が割って入る。

 間一髪でヒルドが水夫を受け止めて、危機を脱したのだ。 

 

「大丈夫?」

「ああ、はい、ありがとうございます」

 

 旗艦に戻った水夫は茫然自失となっていて、お礼を言うのがやっとだった。

 

「マオ様、一匹だけではありません。まだまだいます」

 

 甲板の上にいたマオを庇うトークンたち。ミコトは呪符を掴んで、手早くトークンを再召喚して海中に飛び込ませる。

 そこかしこから水柱が立ち上がる。

 船団が海中から攻撃を受けていて、船が横揺れするのだ。

 

「俺の力が通じないところを見ると、ヒロイン無関係の魔獣どもだな」

 

 マオは舌打ちをした。

 マオの力はヒロインに対しては絶対だ。神だろうと精霊だろうと関係なく屈服させる。しかし、ヒロインの力を介さないものは対象外だ。

 モササウルスが飛び上がり、船を上から押し潰そうとする。 

 

「はあああ!」

 

 マシュが大盾をかざして、モササウルスの巨体を受け止める。

 

「お願いします」

「お任せください!」

 

 スピカの青い光の槍がモササウルスの喉を掻ききる。赤黒い血を流して海中に没したモササウルスの死体を他の肉食獣が食い荒らす。

 

「仲間の死体を……と、思いましたが、別の種もいるようですね」

 

 スピカが見通した海中には、モササウルスだけではなく他の巨大生物がひしめいている。それがお互いに食い合いながら船団にも襲いかかってきているのだ。

 海中は戦争状態だ。

 いつの間にか海の水は相争う海獣の血と肉で真っ赤に染まっている。

 

「何が起こっているんだ?」

「とにかく下がってください。マオさん、船の中なら安全です」

 

 マシュがマオを船内に押し込む。

 マオの力が通じない相手なら、マオがいても危険に曝すだけだ。船内で結界を張る愛歌のもとで待機していたほうがいい。

 

「すまんが、任せる」

 

 マオも自分が足手まといになることは分かっている。前に出る必要のない指揮官が前に出ても混乱を招くだけだ。

 大人しく引き下がり、報告を待つことにした。

 

「アタランテ、お願い!」

 

 甲板の上では激しい揺れに抗いながら戦闘が続いている。立香はマストにしがみつきながら、アタランテの影を呼び出す。海中から顔を上げたシーサーペントの目を射貫き、海中に沈める。さらにアタランテの射程は船団を覆っているので、この位置からでも全体を支援できる。

 海から顔を上げたシーサーペントや飛び出したモササウルスを、次々と矢が射貫く。

 

「こういうのならどうかな?」

 

 ヒルドが空から海に向かってルーン文字を刻んだ小石をばらまく。それは海中で光を発し、強烈な閃光弾となって炸裂した。

 魔獣とは言え野生生物だ。操られているわけではないのだから、驚かせてしまえば退散する。それでも向かってくる敵は、海中に展開したトークンによる水中戦で掃討し、海上に出てきた者はヒロインと騎士で処理する。

 ハルカの雷撃が迸り、スピカの光が駆け抜ける。風を切って矢が走り、ルーンの輝きが海中で幾度もひらめいた。

 

「よし、行ける」

 

 立香は握りこぶしを作る。

 ハルカとスピカが船から船を飛び移って騎士を支援して回る。アタランテの狙撃能力は、その二人を支援するのに適していた。

 アタランテは狩人だ。魔獣退治は彼女の最も得意とする分野である。

 

「主の力が通じない魔獣が相手だと気づいた時点で、すぐに主を船内に隠した判断はお見事です」

 

 立香の背後から声がした。

 振り返るとそこには白い髪の少女が佇んでいた。男子用の学生服のような服を着た少女は、無機質な瞳を立香に向けている。

 

「そのおかげでわたしも動けます」

(まさか、敵のヒロイン!?)

 

 立香が魔力を回すよりも早く、少女が踏み込んでくる。立香がその動きを目で追うことはできなかった。

 

「先輩ッ」

 

 少女の拳をマシュの盾が防ぐ。

 

「く……ううッ」

 

 立香と一緒にマシュが跳ね飛ばされる。細腕で、防御態勢のマシュを殴り飛ばしたのだ。

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

「何とか」

「あの人は?」

「もちろん、知らない人。どこかで恨みでも買ったかな」

 

 立香を庇うマシュが少女と向き合う。

 凄まじい膂力。それに、彼女の動きは中国拳法に相違ない。その手の技術を極めたサーヴァントを、何人か知っている。

 

「あなたはロドポリスを襲った女神様の仲間なんですか?」

「そうですね。そのように認識していただいて構いません」

 

 マシュの背筋がぞくりと粟立つ。

 咄嗟にマシュは盾をずらし立香の側面を薙ぐ。

 鉄板をひっかくような不快な音が響き、甲板の木材が抉れる。

 少女がマシュを迂回して、立香を狙ったのだ。彼女の右手には魔力で構築された光の剣が現れていた。

 光の剣が触れたことで生じた甲板の傷は、異様に滑らかで、しかも木くずがまったくない。その部分が文字通り消滅していたのだ。

 その理屈を、マシュはすぐに見抜いた。

 

「触れたものを蒸発させる魔術の剣ですか」

 

 殺傷力の高さはピカイチだ。

 彼女の剣は、触れた物質を強制的に気体に相転移させる魔法だ。その過程で周囲の温度が奪われるため、斬り付けられた物体は、その部分をえぐり取られた上に、凍結されることになるので、分類は氷の系統に当たる。

 極めて凶悪な剣の魔法だ。

 ノワールの一般騎士では、例え神鳴流を修めていてもつばぜり合いにもならないだろう。

 だが、マシュは違う。

 守るべきものを背負った彼女の盾は、傷つくことも穢れることもありえない。

 マシュが盾を構えて前に出る。サーヴァントの身体能力を駆使したシールドバッシュは、並みの魔獣程度ならば一撃で打ちのめせる威力がある。

 それは白髪の少女は、マシュの盾を蹴って後方に飛ぶことで回避した。

 

(この人、上手い)

 

 中国拳法に詳しいわけではないが、体裁きや判断能力はマシュが出会ってきたサーヴァントに引けを取らない。おまけに彼女の本職は魔術師と見えて、すでに詠唱を終えている。

 

氷爆(ニウイス・カースス)

 

 一瞬でマシュの視界が真っ白になる。超低温の爆風が、大気を凍り付かせながらマシュを襲う。マシュの盾と対魔力がこれを防ぎきったとき、少女はすでに無数の氷の槍を頭上に配置していた。

 

氷槍弾雨(ヤクラーティオ・グランディニス)

 

 マシュの頭上に展開した氷の槍が、一斉に降り注ぐ。

 マシュだけでなく、立香や騎士たちを纏めて攻撃範囲に含んでいる。

 

「いけないッ」

 

 マシュの盾は間に合わないか。

 氷爆で視界を奪われた一瞬の隙が、判断を遅らせた。

 

「マシュ、そのまま前に!」

 

 立香の声がマシュの耳に届く。

 振り返ることなく、マシュは少女に突貫する。

 

「何……!」

「やああ!」

 

 ガツン、と強烈な音が響いて少女が船外にたたき出される。同時に、甲板に着弾して騎士たちを血肉に変えるはずだった氷の槍が、空中で爆発、霧散する。

 立香が召喚したアタランテとメディアが、一発残らず撃ち落としたのである。

 

「あの娘、海面に立ってる」

「それどころか、空も飛べそうですね。空中を蹴ってましたから」

「なにそれ、チートじゃん」

 

 少女の瞳は相変わらず無機質で感情を読み取ることはできない。マシュに殴り飛ばされた直後だというのに、これといってダメージはなさそうだ。

 確実に殴りつけたが、感触が浅かった。どうも、強力な結界に阻まれて衝撃が散ってしまったようだ。

 

「さすがに、一筋縄ではいきませんか」

 

 ざん、と鈍い音とともに少女の身体が上下に分かれる。

 トラムの斬撃が積層多重魔法障壁の上から少女を両断したのだ。

 

「銀腕のトラム。ムートーと相打ったと聞いていましたが、この感じ、同一人物ですか?」

「あなたがまだいるなんて、びっくりよ。ここは一応、久しぶりって言った方がいいかしら。セクストゥムさん」

「そうですね。きっと、そうなのでしょう。もっとも、今も昔も敵同士。仲良く語る口はありませんが」

 

 上半身と下半身が分かたれたのに、セクストゥムは饒舌だった。

 流れる血はなく、彼女の身体はすぐに液体になって海に溶けてしまった。

 

「と、トラムさん、さっきの娘は!?」

「逃げたわ。水の分身。わたしが斬り付ける寸前に入れ替わったみたいね」

「え、あ、そうなんだ」

 

 立香は納得して吐息を漏らす。

 敵ではあるが、見た目は同年代の少女だ。それが真っ二つになったのだから、長い旅の中で見慣れているとはいえ、何も感じないほど心がすさんでいるわけではない。

 

「そろそろ、落ち着いてくるかしらね」

 

 全体的に戦闘は終息しつつある。

 突如襲ってきた魔獣の群れも、今は逃げ散って、多くの魔獣の死体と血が漂う血海となった海面が荒々しく波打っている。

 この海域に集まった獰猛な海獣たちが散り散りになれば、後は生き物のいない海が残るだけだ。

 

「さっきの娘、知り合い?」

 

 船に戻ったトラムに立香は聞いた。

 

「千年前に魔王軍にいた娘よ。凄腕の魔法使いで拳法家。わたしは最終決戦には参加できなかったけど、あの娘はどうだったのかしらね」

 

 トラムの記憶ではセクストゥムはトラムが封印された後も生き残っていたはずだ。記録上はトラムが眠りに就いてからそう時を置かずして魔王軍との最終決戦が勃発したらしいので、そこにもセクストゥムは参戦していたはずだ。

 それがまさか、今になって出てくるとは思ってもいなかった。

 彼女は純粋な人間ではなく、どちらかというと人形の部類だ。魔法で形成された存在なので肉体の老いはないのだろう。

 ロドポリスを落としたという女神と彼女は仲間らしい。どういう経緯でそうなったのか、気になるところだ。

 おまけに今回の魔獣の襲撃。

 セクストゥムが来た以上は、女神が背後にいるのは間違いない。

 どうやら、ノワールは敵として認識されているようで、なおいっそう気を引き締める必要がありそうだ。

  1. 目次
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