※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第三十二話(エロなし)

 女神が作り出したという岩島は、少しずつ拡大していて、今は最初に確認された頃の三倍の面積になっていた。目に見える範囲がそれくらいなので、海中はもっと広大な岩礁が広がっているに違いない。

 女神の本拠地に乗り込むには船で行くしかない。しかし、厄介なことに海図がないのだ。急速に成長する岩島の周囲は、それ以前の海とはまるで異なる海域となっている。海底の形も変わった。船がどこまで接近できるのかも分からないのでは、船で近づくこともままならない。

 普通の方法では攻略の糸口すら見えない。

 となれば、普通ではない方法で強引に突破するしかない。

 ヒロインの力を最大限に活用して活路を見いだす。

 愛歌の千里眼やミコトのトークンで、安全な航路を探る。女神の絶大な力に対処できるのは、現状ではマオだけだ。

 戦地に向かう船は、一隻で十分だ。

 乗り込むのはマオを含む戦闘特化型のヒロインたち。

 医療面での活躍が期待されているユイは、ホープで待機だ。

 

「それでは、行きます」

 

 すっかりマオのサーヴァントが板についたスルーズが、指を虚空に走らせる。

 原初のルーンがガレオン船の魔力エンジンに火を点けた。

 風向きにも潮流にも左右されない魔法の船となったガレオン船が、ホープの港から出港する。

 目指すは南に二十五キロの沖合に浮かぶ岩島だ。女神が作り出した死の海域は、すでに多くの船を沈め、数多の船員の命を水底に引きずり込んでいる。

 海面を切り裂いて進むガレオン船の速度は通常の三倍にも達し、耳元をびゅうびゅうと風が駆け抜けていく。

 晴天ではあるが、風が強く、波が高い。しかし、ガレオン船はほとんど揺れることなくまっすぐに目的に向かっている。

 高波すらも正面から突き破り、引き裂く。

 船体に刻まれた原初のルーンの輝きが荒波をものともしない航行を可能としたのだ。

 

「やっぱり、神代の魔術って面白いわ」

 

 愛歌が原初のルーンに目を輝かせる。

 魔術の神髄を知り尽くし、その身に修める彼女の目から見ても、大神直伝の秘法は奇蹟の産物に見える。知識として知っていても、実物を見るのは初めてなのだ。昔と違い、人並みの感情を成長させている愛歌には、より感じ入るものがあったのだ。

 

「愛歌、あなたが望むのなら、教授することもできますよ」

「あら、本当? サーヴァント直伝なんて、とても面白そう」

 

 船と平行に飛んでいたスルーズが愛歌に言った。

 

「しかし、あなたの性質を鑑みれば、わたしが教えることはあまりなさそうですね」

「そんなことないわ。自分で視て真似をすることもできるけど、実際に使っている人から直接教えてもらうのも楽しいはずよ」

「楽しいですか。そうだといいのですが」

 

 スルーズは微笑んで加速し、船を追い越していく。前方から飛んできたオルトリンデと交代して、哨戒に出たのである。

 千里眼で見通すこともできるが、即応するにはその場所に身体がなければならない。自由自在に空を飛び回るワルキューレたちは、戦略の幅を大きく広げている。

 

「揺れのない船って新鮮。乗り心地最高じゃない?」

 

 船室から窓の外を眺める立香がマシュに言う。

 

「そうですね。今まで特異点で乗ってきた船は、やっぱり揺れましたからね」

「全然揺れないって、逆に違和感がすごい」

「本当に海の上を滑っているみたいですよね」

 

 世界各地、多くの時代を旅してきた立香とマシュは船旅にも慣れている。嵐の海すら越えて世界を渡ってきた立香からすると、まったく揺れない快適な船旅というのは、大きな違和感がある。身体が揺れるのが当たり前だと認識しているために、揺れないことが不自然だと感じてしまうのだ。

 白波が立って、船を叩く。

 淡く光る魔力の筋が葉脈のように船体に走っていて、強引に波を突破していく。

 目的地は、初めから見えていた。

 徒歩で行くには遠い距離だが、目視できない距離ではない。

 黒い雲に覆われた奇岩島は、敵の居城であり、常にロドポリスを威嚇するように海上に浮かんでいたのだ。

 この船の速度なら、それほど時間をかけることなく敵地に到着するだろう。

 ぞくり、と立香の背筋が凍る。

 

「マシュ」

「はい。入りましたね」

 

 性質は立香の知るものとは異なるが、魔力に近しい力の波動を感じる。

 空にはいつの間にか暗雲が立ちこめて陽光を遮っている。

 闇の女神とマオが呼んでいたのも頷ける。

 彼女は闇を操る女神なのだ。

 そのとき、火薬が爆発したかのような轟音とともに、船体が揺れた。

 

「ッ……お出まし!?」

「そのようです!!」

 

 

 

 揺れる船体は、すぐにバランスを取り戻す。

 船の横揺れは恐怖心を煽る。転覆すれば、まず命はないからだ。

 

「ずいぶんな歓迎だな」

「マオ殿、出てきたら危ないですよ」

「この前もそれで乗り込まれてきただろう。それに、しっかりした護衛がいるから大丈夫だ」

 

 スピカの忠告に頷きながらも、今回はマオは下がるつもりはなかった。

 女神の石化の呪いの効果範囲はあまりにも広い。マオが離れては、誰かが戦闘不能にされてしまう可能性があった。

 

「敵は?」

「海中から体当たりしてきたようです。今、ミコト殿のトークンが、迎撃をしています」

 

 海の色が赤黒く変色していく。ミコトのトークンが海中で魔獣を打ち殺しているのだ。

 

「空からも来たぞ」

 

 鳥の群れと見紛う黒い飛翔体の大群が、船を目がけて飛んでくる。

 それは巨大なワイバーンの群れだった。

 数え切れないほどのワイバーンが空を埋め尽くしている。

 

「空の敵はお任せください」

 

 スルーズが白鳥礼装をフル稼働させて飛翔する。

 追随するのはヒルドとオルトリンデだ。

 マオの配下の中で最も空中戦に特化した三騎だ。マオのサーヴァントととなったことで、戦闘力ははぐれサーヴァントだった以前よりもずっと上がっている。

 ワルキューレたちが縦横無尽の空を駆け抜け、ワイバーンを撃墜していく。

 海中のトークンを振り切って、船上に飛び乗ってきたのは魚人だ。鱗を持つ人型の魔獣である。原始的な槍を持ち、マオに向かって突きかかる。

 魚人の槍をマシュが盾で受け止める。

 

「やあッ」

 

 マシュは振り抜いた大盾で魚人を殴り飛ばす。

 乗り込んできた魚人は一体だけではない。次々と船体に飛びついて、甲板に踏み込んでくる。

 青と黄の閃光が駆け抜けて、血しぶきを上げて魚人たちが船外に弾き飛ぶ。

 ハルカとスピカの目にも止まらぬ連携攻撃は、倒された魚人たちですら何が起こったのか分からないほどの手並みだ。 

 

「大きいの来たよ!!」

 

 船上を俯瞰する立香が、声を張り上げる。

 海中から鎌首を擡げた巨大な竜が、波しぶきを立てる。翼を持たないウミヘビのような外見だが、ビルと見紛う巨体で、マオたちが乗るガレオン船が玩具のようだ。

 

「ムートー並みのでかさだな!」

 

 ヒロインの力のない騎士団では手に余る怪物だ。魚人くらいなら、何とかなっても巨大な怪物と海上で戦うのはとてつもない難行であろう。

 竜の口に青い炎がちらちらと見える。莫大な魔力が集中しているのが分かる。

 

「マオ君、危ない!」

 

 トラムがマオを庇おうと前に出る。

 

「いや、あいつは大丈夫そうだ!」

 

 マオが手を突き出す。

 体内を流れる自分の力。未だ理屈がまったく分からないヒロインを無力化する力の流れを掌握し、一方向に打ち出す。

 ガレオン船程度の大きさなら瞬く間に焼き尽くし、灰に変える超高温の火炎放射が、空中でかき消える。

 それどころか、竜の頭が大きく仰け反る。不可視の拳で殴り飛ばされたような動きだ。

 

「もしかして、あれもヒロイン?」

「どっちかっていうと、使い魔じゃないか」

「そう。でも、だからってあの図体に動き回られたら堪んないわよね」

 

 トラムが剣を抜き放ち、青い極光で竜を薙ぎ払う。竜だけでなく、その近くにいたワイバーンも纏めて両断され、海中に没した。

 

「何あれ、生き物ですらなかったの?」

「機械的だな」

 

 使い魔といっても様々で、異界から召喚したり魔力で作ったりするタイプは倒されると死体が残らず消滅することが多い。中にはこの世界で生物として根付くものもいるが、多くの場合それはもともといた魔獣などと魔術的な契約をして使い魔に仕立てているものだ。

 今、倒した竜はどのどちらにも当てはまらない。

 切断面から見えるのは、人工的な配線や骨組みだ。生き物ではなく機械や人形の類だったのだ。

 

「新手のゴーレムか何かかしら」

 

 ともあれ、ヒロインの力を使ったゴーレムだ。

 これが女神の手によるものであればいいが、そうでなければ敵方に水の魔法使いの他に、もう一人ヒロインがいることになる。

 

「岩礁地帯に入ります。衝撃に気をつけてください」

 

 オルトリンデが上空から声をかける。

 およそ十秒後、耳をつんざく轟音とともに船が岩礁に乗り上げる。激しい振動とともに、船が岩礁を砕きながら前進する。若干の速度の低下はあるが、問題ない。鋭い岩も硬い岩も関係なく抉り進む船は、さながら砕氷船のようであった。

 

「すごい船だな。ほんとに」

 

 マオは冷や汗を浮かべながら笑った。

 この異様な光景には、もはや笑うしかない。

 魔術でコーティングした船体にマオの力も流している。ヒロインの力に対してはめっぽう強い。この岩礁が女神の力で構築されたものならば、船の突進を防ぐことはできないし、岩礁そのものは海底にある元の岩を使っていたのだとしても、原初のルーンを初めとする魔術で徹底的に守りを固めたこの船に、魔術的な加工もしていない自然の岩礁が耐えることはない。いずれにしても、岩礁は船の進行を妨げるものではない。

 ワイバーンを蹴散らし、海獣を退けて、ついにマオたちは女神の待つ神殿を見上げる位置にまでやって来た。

 

「ここから先は船ではいけませんね」

 

 と、スルーズが言う。

 島はすべてが漆黒の黒曜石でできているようだ。

 

「黒曜石の塊。すごいな、これは」

 

 黒曜石は、昔は日常生活でも使っていたようだが、今はその艶のある漆黒を活かした装飾品の原材料にするのが一般的だ。

 

「こっちから行けそうです」

 

 立香が手を振ってマオに呼びかける。

 岩山の上には白く輝く神殿が鎮座している。黒い岩山の頂上に建つ真っ白な神殿は、荘厳な神聖さを感じさせる。

 マオたちは神殿に向けて駆け出した。

 

「道があるんだね。わたし、女神様が一から作ったっていうから、こういうのはないんだと思ってたけど」

 

 と、立香が言う。人跡未踏の地をいくつも踏破した健脚は健在だ。滑りやすい湿った黒曜石の地面をしっかりと踏みしめて走っている。 

 

「女神様だからだと思うわ。女神だっていうのなら、人間からの信仰は大事にするでしょう。自分を祀る神殿を作ったのだから、巡礼のための道も用意するんじゃないかしら」

 

 立香と併走する愛歌は息を切らしてもいないし、汗もかいていない。深窓の令嬢といった雰囲気の少女だというのに、まだまだ余裕がありそうだ。

 彼女の衣服もこれから社交界にでも出席するのかというような可愛らしいドレスである。戦場に立つにはあまりにも似つかわしくない衣装だ。

 一本道は黒曜石に岩山をくりぬいて作ったような形状で、左右の壁面が圧迫感を与えてくる。

 

「あら、来たわね」

 

 視線の先に、白髪の少女が立っている。セクストゥムだ。女神に仕えるという氷使いのヒロインだ。すでに彼女の手の平に膨大な魔力が集まっていた。

 

「いや、ヤバくない!?」

 

 立香が焦りを見せる。

 飛び出したのはマシュだ。

 氷と闇の破壊の吹雪をマシュが前方に展開した盾が受け止める。

 

「うおお、さすがマシュ」

「先輩、ご無事ですか?」

「わたしは大丈夫」

 

 マオの力を帯びたマシュの盾はヒロインが発するあらゆる攻撃を無効化する鉄壁の城壁だ。セクストゥムの闇の吹雪が山肌を抉る威力があろうと関係ない。

 そして、それは相手も分かっていることだ。

 みしり、と嫌な音がする。

 左右の壁に罅が入ったのだ。

 

「壁を崩す気か」

 

 マオの周囲が特に酷いひび割れだ。蜘蛛の巣状に割れた崖が、次の瞬間には数え切れない瓦礫の山となって降り注いできた。

 

 

 マオに魔法が通じないのは最初から分かっていた。

 理屈までは分からないが、知恵の女神でもあるセクストゥムのマスターはマオにそういった力があることまでは見抜いていた。

 案の定、闇の吹雪は防がれた。盾の少女とは一度戦ったことがある。守りに関しては特筆するものがある。

 規模の大きな魔法で前方に注意を惹き付けて、頭上から無数の瓦礫で押しつぶす。普通の人間は死ぬだろう。ヒロインであっても、対応できなければ同じだ。雁首揃えて攻め込んできたからには、これだけで全滅するとは到底思えないが、特に抵抗するそぶりも見せなかった。さて、次の一手があるかどうか。

 

「――――え」

 

 セクストゥムの目が驚愕に見開かれる。

 突如、眼前にマオが現れたからだ。

 無造作に伸ばされる手を弾く。かくん、と力が抜けて、そのまま組み伏せられた。

 

(バカな。いったい、何が)

「う……げほ……かは……」

 

 内蔵に強烈な不快感。激しい頭痛と倦怠感が襲いかかってくる。強力な呪いの類だ。

 

「よし、拘束」

 

 マオの声が聞こえる。

 何が起こったのか分からないまま、セクストゥムの視界が真っ暗になった。

 

 

 

 マオは額の汗を拭って、しゃがみ込んだ。

 崩落した崖を見る。下敷きになれば死んでいたかもしれない。

 

「助かったよ、ミコト」

「ありがとうございます。マオ様のお役に立てて光栄です」

 

 銀髪の陰陽師がはにかんだ。

 あわやの時に、ミコトの時間停止スキルが役に立った。範囲内の敵の動きを止め、さらに強烈な呪詛を叩き込む「破邪滅殺の結界」は、セクストゥムにも通用した。

 セクストゥムからすれば一瞬でマオたちが移動したように見えただろう。実際は停止時間中に全力で危険な場所から脱出し、セクストゥムに反撃したのである。

 セクストゥムを拘束し、魔術的な封印処置を施したことで敵の大きな戦力を削り取った。

 

「後、もう一人いるかもしれないんだったか」

「ゴーレム使いがどこかにいる可能性はあります。ですが、今は女神の元に急ぐのが先でしょう」

 

 ハルカが見据えるのはあくまでも神殿だ。女神を倒すか否かが、この戦いのすべてなのだ。

 

「じゃあ、そのゴーレム使いって人はわたしが探します」

 

 立香が言った。

 

「先輩、危ないですよ」

「マオさんの護符もあるし、それに女神様と戦ってるときに横やりがあるとよくないでしょ」

 

 立香だけではなくヒロイン全員にマオの力を込めた護符を渡していた。

 マオの力を有効活用する方法は、ミコトが以前から研究を重ねていた。シオンや愛歌、マーリンが加わって、一時的に道具に力を付与することができるまでになったのだ。

 消耗品だが、相手がヒロインなら極めて有効な防御手段だ。

 

「藤丸さんだけじゃ危ないなら、わたしも行くわ」

 

 名乗りを上げたのは愛歌だ。

 

「沙条さん来てくれるの?」

「あなた一人じゃ、闇雲に走り回るしかないじゃない。この島、空間が乱れてるから、千里眼も確定しないけど、何もないよりはマシでしょう」

 

 確かに立香がサーヴァントの瞬間的な召喚を可能とするといっても、愛歌の千里眼すら乱すこの島の特異な魔術的環境下では万全とは言えない。何の当てもなく走り回ることになるのは目に見えていた。

 

「マシュは、マオさんのことをちゃんと守って」

「え、あ、はい……」

 

 マシュは立香について行きたそうにしたが、今はマオのサーヴァントだ。それに立香からも言われたのでは受け入れるほかない。

 

「立香も愛歌も気をつけろよ」

「マオさんのほうこそ」

「そうよ。本命はそっちなのだから」

 

 愛歌は敵ヒロインの居場所を概ね把握しているようで、迷いなく立香を先導して神殿の反対側に歩いて行く。島の反対側に下って行く道があって、そこを進んでいった。

 

「じゃあ、俺たちも行くか」

 

 神殿からは高密度の魔力が渦巻いている気配が伝わってくる。この島全体の魔力が、この神殿を基点にして蠢いている。魔力のホットスポットとでも言うのだろうか。人工的に形成された霊地というには、あまりにも規模が大きい。さすがは、女神というだけのことはある。

 

 

 

 神殿の中に余計なものは何もない。

 神々を称える神像すらもなく、ただ一人玉座に座る女神がいるだけだ。

 像を用意するまでもない。女神がここにいるのだから、他の要素は一切無意味だと言わんばかりの簡素な神殿は、その一方で完成された美を感じさせるものでもあった。

 石の蛇と石のフクロウがマオに襲いかかるが、寸前で力を失って砕け散る。

 

「妾の力をこうも無効化して見せる。あなたはいったい、何者だ? 神殺しでもないただの人間だろうに」

 

 女神の姿は初めて見る。

 銀色のショートヘアに夜の闇を凝縮したような黒瞳だ。

 人間で言えば十代の半ばか、もしかしたらさらに幼いかもしれない外見だが、何千年も生きてきたかのような老練した重圧がある。

 

「自分が何者かなんて、俺も分からんけどな。ただ、ノワールにとって邪魔なお前を排除するだけだ」

「やってみるがいい。神に手を伸ばす慮外者め。神殺しにも勝るとも劣らぬ愚者よな」

 

 女神の周囲に黒い靄が立ちこめて、一瞬で肥大化する。爆発的な勢いで神殿を満たしたのは死の呪詛だ。

 さらに、女神の瞳が輝き石化の呪いが発動する。

 暗闇に燦然と輝く白亜の城壁が、女神の呪詛を弾き返す。 

 

「ギャラハッドの力というわけか。異なる天地、異なる理に生きた英雄とはいえ、妾の力によく抗う」

 

 マシュの力を褒め称える女神はさらに圧力を強める。

 だが、マシュの守りは揺らがない。

 マオの力で補強した盾は、相手が女神だろうとその力を完全に無効化してみせるのだ。

 

「降伏しろ、女神様。悪いようにはしないぞ」

「ふん、人間風情が妾に大口を叩く……妾はアテナ。女神アテナ。冥府の闇を支配する女王にして天空の知恵を司る女神なれば、あなたの口車には乗らぬよ」

 

 女神は漆黒の鎌を取り出した。触れたものの生命力を瞬時に奪い、凍結する死神の鎌だ。気位の高い女神が人間に負けを認めるはずがなかった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 立香と愛歌が、向かうのは島の反対側だ。愛歌の「目」が、そこにゴーレム使いの姿を認めた。

 木々が一本も生えていないので、見晴らしがいい。高台から水平線の向こうまで一望できる。

 

「あ、いた」

 

 立香も目視で確認した。

 海岸に向かって走っている少女がいる。遠くてよく見えないが、おそらく自分と同じくらいの年代ではないか。

 

「あら、逃げようとしてるみたいね」

 

 亀のような姿をした魔獣が海から顔を出している。

 どうやら、あれに乗って逃げようとしているようだ。

 

「どうする?」

「もちろん、捕まえるわ。マオさんの敵なんだもの」

「そうだよね」

 

 逃げる者は追わない。無駄な戦いはしないというのも一つの選択肢ではある。もちろん、情けを掛けるというわけではなく、戦力を温存して次ぎの戦いに備えるという戦略の中での選択肢だ。

 だが、逃がした敵が勢力を強めて反撃に出てくることは往々にしてあることだ。

 後の憂いを取り除くためにも、ここで敵はすべて片付けてしまうのがいい。

 それはそれとして愛歌は敵を逃がすつもりは毛頭ないようではあった。

 マオの敵という時点で、彼女からすれば抹殺対象になる。ヒロインは今後役に立つかもしれないし、マオを楽しませる玩具になるかもしれない。そういう可能性を考えて、捕えるという選択をするだけで、基本的には温情はない。

 

「メディア、お願い」

 

 立香がメディアの影を召喚する。

 瞬時に魔法陣が描かれて、立香と愛歌を転移させる。

 ほんの数百メートルの距離を転移するくらい、神代の魔女ならば造作もないことだ。立香と愛歌は少女の前を塞いだ。 

 

「きゃッ……あ、何」

 

 少女は尻餅をついて座り込んだ。

 可愛らしい顔立ちだ。

 さらさらとしたショートヘアの童顔で、紫がかった色素の薄い髪と紅い瞳が特徴的だ。

 

「あなたがゴーレム使いの女の子ね?」

「ゴーレム? 何それ、そんな魔法みたいな……あなたたちも魔法使いなの? いきなり、出てきて」

「あなたも似たようなものじゃないの。あの大きな竜。あなたが作ったのでしょう?」

「だ、だとしたら何?」

 

 背の低い愛歌に少女は気圧されたように座ったまま後ずさった。

 

「あなたの怪獣で、わたしのご主人様の船が沈みそうになったの。もし、あの人に何かあったら、どうするつもり?」

「え……いや、わたしは別に、ただ、怪獣を作れって言われて、わたしは……そんなこと、言われても」

「まあ、いいわ。あなたには興味ないけれど、お仲間みたいなものだし、後の処置はご主人様に任せるわ」

「な、何、わたしをどうする、つもり……」

 

 愛歌の目を見た瞬間に、少女はうとうととしだして、すぐに気を失った。

 少女に従っていた海の魔獣もすぐに沈黙し、まったく動かなくなった。

 

「魔術師じゃなかったみたいね。あっさりと暗示にかかったわ」

「じゃあ、超能力とか」

「わたしたちとは世界のルールも違うみたいだから、なんて言うのが正解か分からないわね」

 

 上のほうも終わったようだ。

 核爆弾もかくやとばかりに渦巻いていた膨大な魔力が綺麗さっぱり消え果てて、黒雲の隙間から陽光が漏れ出している。

 女神との戦いも、マオの力であっさりと終わったのだ。

 

 

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