異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話 作:もう万体
~半年前~
エルドラドの収容所に一人の少女が運び込まれた。
ランサーのサーヴァント、ブラダマンテである。
リドル・バージェスの圧政を否定し、立ち上がった反政府組織レジスタンスの幹部の一人である。
先日、レジスタンスが拠点の一つを置くエルプラータは、今でこそ地方都市の一つとして扱われる程度の町だが、エルドラド建設前は首都として機能していた歴史ある町である。
レジスタンスが活動する拠点の多くは、当然ながら既存の政権の影響が薄いところに集中する。かつての首都ではあるが五つの城塞都市から漏れたエルプラータは、ブリンクウォールの発展から取り残され、さらには治安維持部隊による横暴に曝され、バージェス家に対する恨みが造成されている。だからこそ、レジスタンスの活動拠点に相応しかったのだが、当然、リドルがそれを良しとするはずもない。レジスタンスの活動拠点は分かり次第破壊し、反抗勢力は殲滅する方針は揺るぎない。例え国民を巻き込むことになろうとも、リドルの心は微塵も揺らぐことはない。
かくして、エルプラータのレジスタンスは執拗な殲滅活動によって壊乱した。殿を務めたブラダマンテは、メディアとバンビエッタを相手に善戦し、仲間の多くを逃がすことに成功したものの、追加投入されたアンジェリカには敵わず、囚われの身となったのだった。
「う……あ、ここは」
ブラダマンテが目を覚ますと、レンガ壁の狭い部屋にいた。部屋の中は魔法の燭台で明るく照らされていて、自分の状況を把握するのは簡単だった。
「捕まっちゃったんですね。みんなは大丈夫かな……く……ぐ」
じゃらじゃらと耳障りな金属音がする。
ブラダマンテの両手には手枷がついていて、首元には金属製の首輪がついている。首輪は壁と鎖で繋がっていて、ブラダマンテの逃走を妨げていた。
湿気が篭っている感じからして、地下牢だ。
噂に聞くエルドラドの収容所であろうか。
「こんな鎖、このッ」
ブラダマンテは手枷と鎖を外そうと腕に力を込める。
サーヴァントの膂力は金属製の鎖を容易に破壊するし、魔術による拘束はブラダマンテには意味を成さない。そういう意味では、彼女を拘束するのは困難なのだ。
「硬ッ、壊れないッ」
音はするがビクともしない。
「これ、まさか宝具」
アンジェリカが保有する宝具の原点の一つだ。強大な神秘を有する鎖と手枷は、ブラダマンテが素手で破壊できる代物ではない。
何度もあの手この手で破壊を試みるが、傷一つ付けられない。
(困ったな。なんとか逃げ出して、みんなと合流しないといけないのに)
と、頭を悩ませていると扉が開いた。
小さな少女の姿をした魔女、メディアの登場だ。
エルドラドの発展を支える宮廷魔術師であり、彼女が出現してからというものレジスタンスは日に日に追い込まれている。
「おはようございます、ブラダマンテさん。傷らしい傷は、もう残っていないと思いますが、お加減はいかがですか?」
「治癒魔術をかけてくれたんですね。ありがとうございます。それで、わたしはいつになったら出してもらえますか? 正直、窮屈で仕方ないんですけど」
「あなたがわたしのお願いに答えてくれたらいつでも解放しますよ」
「そうですか。どんなお願いか、参考までに聞かせてもらっても? ちなみに仲間は絶対に売りませんから」
交渉などという生やさしいものではないだろう。
メディアのほうが立場は上だ。身動きのできない捕虜に頭を下げるようなことはあり得ないわけで、ブラダマンテをどう甚振るかはメディアのさじ加減一つだ。
だが、それでもブラダマンテが口を割ることはない。
自らの保身のために仲間を売るなど絶対にあってはならないことだ。それはブラダマンテの誇りにかけて絶対拒否だ。
「レジスタンスの皆さんの他の拠点とか、メンバーとか色々と教えて欲しかったのですが……」
「ないです。得意の魔術で聞き出してみたらどうですか?」
「うーん、そもそもあなたに魔術は効果ないですし、困りましたね」
ブラダマンテには、強力な「対魔力」と「魔術解除」のスキルがある。神代の魔女ですら、正攻法でブラダマンテに魔術をかけることは不可能だった。おまけに「頑健」スキルと「戦闘続行」スキルを複合した「白羽の騎士」に「クレルモンの勲」スキルで決して諦めない精神を担保している。肉体的にもA+ランクの「耐久」を持つという頑丈さの塊だ。
これを屈服させろと命じられたメディアもまた頭を抱えたものだ。
得意の魔術は効かないし、肉体的にも精神的にも頑丈極まりない鉄の女だ。もうまっとうな手段では攻略できないだろう。
「ええ、そういうことなら時間をかけるのはもったいないですし、実験的ですが色々試してみますね」
と、メディアは吹っ切れたように言う。
そして、メディアは手袋を外した。
メディアの右腕、肘から手首にかけてびっしりと紋様が刻み込まれていた。紋様は膨大な魔力が濃縮されており、それがただの刺繍ではないことを窺わせる。
「ッ……まさか」
「はい、令呪です」
令呪。
それは、聖杯戦争においてサーヴァントに対する絶対的な命令権としてマスターが保持する呪紋である。通常、一人につき三画宛がわれ、マスターはこの令呪の縛りでサーヴァントを使役する。三回までという回数制限付きではあるが、その強制力は絶対的で魔術への抵抗力を示す「対魔力」スキルもBランクまでならば即座にサーヴァントを自害させることができるほどだ。
「どうして、聖杯なんてないはず」
「はい。わたしたちはあくまでもサーヴァントという形でこの世界にやって来ただけで、聖杯に由来する存在ではありません。ですので、令呪も存在しませんが、サーヴァントである以上、令呪とは何かということは知っています。ですので、はい、作りました。魔力をかき集めて、それらしいものを模倣するくらいはできますから」
元の世界においても最高位の魔術師の一角を担うメディアの真骨頂である。魔力があればおよそ万能。サーヴァントとの対決を見越して、疑似令呪を作成していた。
「必要な魔力もこの町ならいくらでも採取できます」
「令呪はマスターじゃないと使えない……」
「まだ気づいてませんか? あなたのマスターはわたしですよ?」
「え……?」
「意識のないサーヴァントと主従契約を結ぶくらい、大した苦労はないです。まして、マスターのいないはぐれサーヴァントなら、契約を切る手間もないですしね」
サーヴァントとマスターの絆はそう簡単に断ち切れるものではない。メディアをして、魔術のみでこれを為すのは難しい。だが、そもそもマスターがいないのであれば、契約するだけで事足りる。強制契約だけなら、サーヴァント相手にも通じる。もっとも、契約が確定しているわけではない。対魔力の壁は高い。令呪の魔力を届けるパスを繋ぐので精一杯だ。
「ではさっそく、我が傀儡に命じます。【レジスタンスの拠点を教えてください】」
令呪が光る。膨大な魔力がブラダマンテに注ぎ込まれ、
「ぐ、がああッ、ぐぐううッ」
ブラダマンテは唇を噛んで言葉を封じる。
「やっぱり「対魔力」は厄介ですね」
Aランクの「対魔力」があれば、オリジナルの令呪にも抵抗はできる。「魔術解除」と重ねれば、令呪三画消費してもブラダマンテを自由にすることはできまい。
「ふふ、まあ、予備はたくさんありますから、気長に行きましょう」
「そんな令呪もどきに絶対負けません。あなたが、何をしようと絶対」
「【ちゃんとわたしをマスターとして認めてください】」
「こと、わるッ、ぐうう!」
「【反抗しない】【忠誠を誓いなさい】【拠点を教えなさい】【メンバー名前と能力を教えなさい】」
「い、や、だああッ、絶対に、絶対に、言うとおりになんかするもんかあああああああああ!」
身体が勝手に暴れ回る。流し込まれた魔力がブラダマンテの精神を圧迫し、言葉を引き出そうとしている。それをブラダマンテは全力で拒否する。
(メディアの令呪も回数制限がある。強制力もオリジナルには遠く及ばない。今を乗り越えればいい! 気をしっかり持て、わたし!)
ともすれば、メディアにひれ伏したくなる衝動を堪えてブラダマンテは気丈に振る舞った。
メディアの拷問が始まって三日が経った。
ブラダマンテは、脂汗を浮かべながらもまだ屈してはいなかった。
令呪の戒めはブラダマンテに幾重にも重ね掛けされており、一歩間違えば堕ちてしまいそうな苦痛と快楽を与えている状況ではある。
そのままストレートに「お願い」してもブラダマンテは絶対に答えない。だから、メディアはブラダマンテの心を折る方向で調教を進めた。
令呪を用いた快楽調教。
ブラダマンテのような我慢強い精神は苦痛への耐性は凄まじい。どれだけ痛めつけても跳ね返すだろう。故に、快楽だ。快楽は基本的に良いものだ。生物は生存のため良いものを求める習性があり、本質的にこれを排除することはできない。
精神論には限度があるのだ。
「く……ひ……うう……言わない、言わない、ぃ」
ブラダマンテは焦点の合わない目でうわごとのように呟いている。
令呪で増幅した性感は、彼女の心を蝕んでいる。
「これだけ令呪を積んでも堕ちないなんて、すごいですね」
「はあ、はあ、はあ、はああッ」
メディアはブラダマンテのアナルに指を入れた。
裸に剥かれたブラダマンテの玉のような肌は引っ掻かれるだけで快感を生みイってしまうほどに敏感だ。全身くまなく性感帯に改造された中で特に念入りに調整されたのがアナルだった。
ブラダマンテの誇りを汚し、貶めて心を弱らせる。そういう方針だったので、不浄の穴を最高の性感帯に仕立て上げたのだ。
「ひぃ、ふあ、あ、ああああ♡ 触るな、触るなぁ♡」
「顔が蕩けてますよ。どうです、しゃべっちゃう気になりましたか? ひと思いにしゃべってくれれば、今以上に気持ちよくなれますよ?」
「なる、わけない、気持ちイイのなんて、いらない!」
ブラダマンテはてこでも動かないとばかりに否定する。
「はあ、本当に強情なんですね」
「あ、諦めて、殺せばいい。どうせ、わたしがあなたのサーヴァントになんかなるはずないんだから」
「そうですか。残念です。ですが、マスターからはあなたを引き入れろと言われているんですよね。ですので、考え方を変えます。今のあなたがダメなら、素直なあなたを作ればいいですね」
「何……ッ」
メディアが取り出したのは、フラスコだ。中には真っ黒な泥のようなものが詰まっている。
(なに、これ……寒い、怖い……極大の呪い!)
一目見て、それが恐ろしい呪詛の塊だと分かった。いったい、どれほどの恨み辛みを濃縮したこうなるのか想像もできない。
「サーヴァントの本質が霊体である以上は、この呪詛から逃れる術はありません。普通は発狂するなり霊器を同化吸収されてしまうでしょうが、もしも耐えきることができたなら……さて、どうなるでしょうね」
メディアはフラスコの栓を抜いた。
そして、中身をブラダマンテの頭から注ぐ。
「が――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
途端、ブラダマンテが咆哮する。
黒い泥の魔力がブラダマンテの霊器を浸食する。猛烈な苦痛がブラダマンテを襲った。全身を引き裂かれる程度では済まない痛みだ。
常人ならば発狂する間もなく死滅し、泥の一部になってしまう。そういう類の泥だ。
(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い)
想像を絶する苦痛は、ブラダマンテのものではない。名前のない誰か、この町で、この牢獄で朽ち果てた何者かの怨嗟の念だ。
頸部切断、眼球摘出、脳髄破砕、毒殺、焼却、凍結、鞭打ち、四肢切断、臓器摘出、薬液注入――――、
「ぎ、ひ、あッ、かはッ、あああッ、ぐ、う、ぎぃああ、あ、ああ、あああああああ!」
ブラダマンテの四肢が引き攣り、瞳がひっくり返る。
どうしようもない苦痛が全身の筋肉をでたらめに動かす。
「バージェス家は、二代前から不老不死を探求する一族だったそうです。当時の皇帝陛下に命じられ、不死を求めてたくさんの実験をしました。人間も魔獣もヒロインも使って、様々な死を調べました。この牢獄は当時の実験施設です。そんなことを繰り返したので、わたしが召喚されたとき、この地下空間は魑魅魍魎でいっぱいで、マスター以外には立ち入れない空間になっていました。ええ、それはもうすごい量の怨念でして、それらは負の魔力の塊ですから、払ってしまうのももったいないので、全部纏めて煮詰めて保存していたのです」
「あッ、あッ、あぐ……ぐひッ、あ、ゆる、さない……おまえ、たち……絶対、が、ぐ……うぅッ」
メディアを見るブラダマンテの瞳に憎悪が宿る。
バージェス家を憎む怨念がブラダマンテに憑依しているのだろう。だが、それもすぐに溶けて消える。ブラダマンテには守護がある。聖騎士でもある彼女は呪詛にも強い耐性があるのだ。
「本当に相性が悪いですね、わたしと」
それでも彼女の霊器は確実に汚染されている。泥はすべて彼女の白い肌に吸収され、その霊核にまで届いている。英霊から怨霊に徐々に霊器が変わっていく。
「はあ、はあ、はあ、ぐ、あ……こんな、酷いこと、ずっと繰り返して、う……くぅ、はあ……はあ……」
「わたしは当時を知りませんが、怨霊の皆さんの怨嗟を見る限りそうみたいですね。リドル様が不死を実現されたことで、ここは使われなくなりましたけど」
ブラダマンテは息も絶え絶えと言った様子で脱力している。
驚くべき精神力だ。
一滴でも触れれば発狂するはずの怨念をフラスコ一杯浴びておいて、まだ個を保っている。
「わたし、は、負け、ない。こんなに酷いこと、してる人たちなんかに、絶対に」
「無事に乗り切りましたか。期待以上の成果です。ブラダマンテさんなら霊器の変質にも耐えられそうですね」
「期待、以上……?」
「はい。今のは泥を生成する過程で生じた上澄み液。本番はこっちです」
メディアが取り出した二個目のフラスコをひっくり返して床にぶちまける。どろどろとした黒い泥が膨れ上がって、直径一メートルほどの球体となった。
先ほど、ブラダマンテが被った泥と比較しても桁外れの濃度だ。
「さっきの泥は三十人分。こっちは一千人分です。大丈夫。あなたなら、耐えられるわ」
泥がブラダマンテに覆い被さる。
「令呪を以て我が傀儡に命じます。【その泥、全部受け入れて】」
「ひッ、いやああああああああああああああああああああああああああああ!! 入ってくる! 入ってくるッ! わたしの中に、知らない人がいっぱいッ! 来ないで来ないで来ないでええええええええ!!」
一千人分の苦痛がブラダマンテを飲み込む。
霊器が黒く変質していく。
すでに呪いは霊核にも脳にも届き邪悪な怨嗟が嘆きが苦痛が恨みと憎しみがブラダマンテの心を塗りつぶしていく。
(苦しい、痛い、千切れる、身体が燃える、熱い、分からない、わたしは、どうしてこんなに頑張っているの? 終わって、早く終わらせて、痛いの苦しいの許してくださいこんな黒いの背負えないわたしの身体が溶けて千切れて砕けていくみんながいっぱいたべていくみんなひとつになってとけてまざってぐちゃぐちゃになって)
「あ――――あはッ、ああ……あは、は」
ブラダマンテは焦点の合わない瞳に笑みを貼り付けて脱力した。
壮絶な呪詛との戦いの果てに、ランサーの霊器は貪り尽くされ、怨霊が隅々まで行き渡っていた。
本来、アヴェンジャークラスの適性など欠片もない英霊であるブラダマンテだが、その適性を外部から強引に入力されれば話は別だ。
がちゃん、と音がして拘束していた宝具が外れた。
ブラダマンテは床に投げ出された。
「ひあ……あ……ゆる、して……ゆるして、くるしい……もう、ゆるして……痛い、終わらせてお願いします、なんでもします、ゆるして、ゆるしてください」
それがブラダマンテの言葉なのか煮込まれ濃縮した怨霊の言葉かは判然としない。
ブラダマンテとしてのなけなしの理性を介した言葉ではあった。
「ブラダマンテさん、いえ、ブラダマンテ。わたしをマスターとして認めますか?」
「…………は、い……みとめ、ます」
「ここに契約は正式に結ばれました。それでは、マスターとしての最初の命令です。ブラダマンテ、その身が完全に染まりきるまで、呪詛を摂取し続けて」
「……ま、まだ」
「はい、まだです。用意したのは三千人分。まだ三分の二も残っています。今のあなたなら、全部自分の力にできる。飲み干した頃には、もうあなたは終わっているはず」
終わらせて欲しいという願いは達せられる。
メディアはブラダマンテを手中に収めるための最善を尽くした。
正気は失われ、白鳥の騎士は黒く染め上げられた。
一昼夜もすれば、変わり果てた殺戮機構のできあがりだ。
青く澄んだ瞳は金色に変色し、赤黒い怨念が蜘蛛の巣状に広がり彼女の右頬まで這い上がっている。脈打つ怨念は自分と同じ末路の誰かを望み、戦場の狂乱の中で血を求める。
ブラダマンテ・オルタはこうして誕生した。
ブラダマンテはメディアの天敵
対魔力だけでも魔術効かない上に魔術解除まであるし耐久はヘラクレス級だし精神干渉にも状態異常にも強い。戦闘続行もある。仲間を捕らえて人質作戦しようにも、仲間を助けるプロなのでそれも通じず、どさくさに紛れてメディアが作った神殿いくつもぶっ壊されてしまったので、改造してブラダマンテを止めさせるくらいしかなかった。