※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第五十一話(唯里)

 仕事をして女を抱く。ここ最近のマオは、そんな一日を繰り返している。可愛いヒロインを堕とす能力を持って生まれたことに今更ながらに感謝している。自分の能力のことは詳しくは知らない。学んで身につける魔法ではなく、生まれつきの体質に左右される超能力系の異能だという程度の認識だ。いずれにしても、ヒロインの能力だけでなく、マオへの敵意も含めて消したり弱体化させたりできる上に、好意を抱かせることもできる力だ。ここまで来るとヒロインを無力化するというよりも、支配するといったほうがよさそうだ。

 もっとも、そんな能力を持っていることを大々的に喧伝するつもりは毛頭ない。

 ヒロインの存在はこの世界最大の神秘であり、現実的な脅威かつ繁栄の礎だ。ヒロインを無力化ないし支配する能力がある等と知れたら、大変なことになる。周辺諸国からタコ殴りにされるリスクが高まるのは、想像に難くない。

 小鳥の声で目を覚まし、一晩眠って凝り固まった身体を解す。首と肩を回すと関節部が軽妙な音を鳴らした。

 朝一番に痛いほど勃起する精力抜群のペニスは、唯里の口の中に納まっている。

 唯里は昨晩抱いた後、そのまま一緒に寝たのだ。少し早く目を覚ました唯里は、そのままマオのペニスを舐め始めたという訳だ。

 マオが調教したとおりに、唯里は従順な女になった。

 自らの意思でマオの支配を受け入れチョーカーを付けた唯里はマオに抱かれることを納得しているし、唯里自身の身体がすでにマオが与える快楽に依存している。

 悪魔の血によって心身共に限界を超えていた唯里をまっとうな世界に引き戻したのがマオだ。マオの力によって救い出され、マオが与える快楽によって苦しみから解放された。

 もう肉体的には悪魔の血は残っていないが、それでも唯里はいつ何時禁断症状の苦痛が襲ってくるか分からない。未来のことは絶対にないとは言い切れない。そう思うと、マオの身体に触れている時が唯里にとって最も安心できる時間となる。

 心が離れられなくなる。

 自分にはもう何もないから、マオの求めに応じるくらいしか人生に意義を見いだせない。

 故郷もないし仲間もない。確固たる自分を維持するのに必要な何もかもを喪失し、悪魔の血によって心も身体も堕落してしまった今、ようやく手に入れた平穏は唯里にとっては新たな毒に等しく、今を失わないためには、何でもするというほどにマオに入れ込んでいた。

 ぬめる唯里の口内でペニスが幸せを甘受する。

 優しく舐る唯里のフェラチオはまだぎこちないところもあるものの、精一杯マオを気持ちよくしようという奉仕精神を感じさせる。

 

「れろ……れろ……ちゅぱ……ちゅ……おはようございます、マオ君」

 

 布団の下から顔を覗かせた唯里は朝の挨拶をした口でフェラチオを続ける。

 

「おはよう、唯里。朝フェラなんて、どこから仕入れたんだ?」

「ちゅぱ……マーリンさんが、男性はこういうのが好みだと教えてくれました。それに、とてもパンパンになってたから、れろ……昨日、満足させられなかったんじゃないかなって思って」

 

 唯里は舐めながらマオの様子を窺っている。

 欲情と不安がない交ぜになった表情は、朝からマオの性欲を刺激する。

 何と言うことはない。

 唯里はマオの朝勃ちを見て、不安になったのだ。

 昨晩、唯里を散々抱いておいて、まだ満足していないとなれば、由々しき事態だ。

 マオが唯里ではダメだと判断してしまうことを唯里は恐れたのだ。

 

「はあ、はあ、れろ……んちゅ……れろ……ちゅぷちゅぷ」

 

 唯里は睾丸にも吸い付いて、舐め回した。

 朝一番の勃起がまったく治まらない。

 唯里を犯した時の勢いが蘇ってくる。可愛い系の唯里の顔をどこまでも汚してしまいたい。

 

「唯里、そのまま咥えろ」

「ん……あ、んんんんんん♡」

 

 唯里の口の中にペニスを挿入する。

 快感に震えるペニスで唯里の口内粘膜を堪能させてもらう。

 頬を窄めてペニスをしゃぶる唯里。

 唯里の口の動きに合わせてペニスが跳ねる。

 マオが感じるポイントを唯里も押さえているので、舌でそういった弱点を舐りながら、涎まみれの口でしっかりとペニスを押さえ込み、強く啜る。

 マオは唯里にペニスを咥えさせたまま、その口の中に射精した。一気に身体を突き抜けていく快感。唯里を支配した嗜虐感が最高だ。 

 

「んく……じゅる……じゅるる……んちゅ」

 

 唯里は精液を吐き出すこともなく飲んだ。

 

「朝から、濃厚……ん♡」

 

 唯里は口元を押さえて、しっかりと最後まで精液を喉に流し込んだ。

 苦く、生臭く、飲みにくい。

 だが、どこか癖になる。

 マオが気持ちよくなった証ならば、いくらでも飲んであげられると思うくらいには、唯里はマオの虜になっていた。

 

 

 

 ♪

 

 

 

 朝食のフレンチトーストと海藻とカニのスープで空腹を満たした後、マオは公務の続きに取りかかった。特に気に掛けるべきはホープ市の現状である。事実上、ノワールの支配下に置かれ、ノワールの行政区分に組み込まれたホープ市は、表面上は平穏無事な状態を維持している。しかし、それはノワールの騎士団が駐屯して治安維持に当たっていることや、ホープ市の外の悲惨な状況が生み出した恐怖の影響が大きい。

 ロドポリスの政治体制は完全に崩壊している。クロガネ大公国の手に渡った内陸部の主要都市ロドギルドは今や死の都と化している。静謐の毒に犯されたクロガネ大公軍の遺体と石化した住人の石像が放置されたままになっており、禁足地となっていた。

 静謐の毒は遺体にもしばらくは残り続ける。

 遺体を啄む鳥も虫もいない。それどころか、腐敗菌も発生しないので、遺体は壮絶な最期を遂げた姿のままミイラのようになっていくことになる。

 ホープ市の人々にとっては、自分の国がいつの間にか滅んでいたわけで、ノワールに対しては救出されたという自覚に乏しい。石化したことすら気づいていない住民も大勢いて、彼らにとってはある日突然ノワール軍に占拠されたという印象が強いのだ。それを統治するのは、骨が折れる。しばらくは住民の反感を買わないようにしつつ、新しい政体と融和してもらうしかない。

 ノワールにとって領土の拡張は数百年ぶりだ。

 戦争そのものからも距離を取り、自分の領国を維持することにのみ心血を注いできた歴代領主の判断を誤りとは言わないが、異国を統治するノウハウが全くないというのは、今後が心配になってくる大きな問題だ。

 クロガネ大公国の国内事情は、少しずつ悪化しているというし、イステネブルもマオとの小競り合いで想定以上の騎士を失ったことで弱体化著しく国外に手を出す余力がなさそうである。両国の軍事力の低下は、この周辺諸国のパワーバランスを揺さぶっている。

 今まで、領国内から一歩も外に出なかったノワールが、ホープ市を植民市化したように、他の諸国も動き出すだろう。

 そうした動きを押さえようとクロガネ大公国の動きも活発化してくる。

 大陸西部を押さえる大盟主というのがクロガネ大公国の矜持だ。

 その立場を堅持するためには、常に軍事的優位性を内外にアピールしなければならない。戦乱の世の中で、頼りない大将に従う者はいないのだ。

 そんなクロガネ大公国だが、目下の所ノワールを仮想敵国に設定したようだとの情報が入った。

 ユーノ皇子の死が、大公にノワールの存在を強く意識させたらしい。

 

「……さて、俺が何かしたかな」

 

 報告書を読んで、マオはそう嘯く。

 ユーノ皇子の不慮の死は、風土病の一種であろう。残念だが、異国に遠征する以上はそういったリスクは常に負うことになるものだ。

 まさか、彼が引き連れていた騎士団が軒並み遠征先で命を落とすことになるとは、大公も思っていなかっただろうが、それをノワールの責任のように言われるのは言いがかりというものだ。

 確かにユーノ皇子とはにらみ合いとなり、互いに妥協点を探り合ったものの、こちらに戦争をしようなどという意思はなく、クロガネ大公国と事を構えてまで、ロドギルドを領有する意図はないのだ。

 最大の目的地であるホープ市とそこに至る海路の回復ができれば、それでよかった。クロガネ大公国と戦争するなど、時間と命と金の無駄だ。

 ユーノ皇子の死に哀悼の意を表するくらいはするが、ノワールを敵視されるのはお門違いだ。

 今のクロガネ大公国の力は急激に低下していて、さほど怖い勢力ではなくなった。

 このまま内部分裂して崩壊してしまうことすら現実味を帯びてきた状況だ。

 大陸西部においてノワールの次に古い歴史ある名門が傾いていく様子は決して他人事と思っていいものではない。

 背もたれに寄りかかって、疲れた首をストレッチしていると、執務室にヒルドが入ってきた。 

 

「どうした?」

「マスター、お客様だよ」

「客? 誰だ?」

「ヒロイン生協の人だって。強そうな面々だよ。今は船の上にいるけど、どうする?」

「戦闘型か。ヒルドがそう言うんなら、相当だな。サーヴァントか?」

「サーヴァントもいるし、そうじゃないのもいるね」

「……生協ね」

 

 ヒロイン生協の大原則は、内政不干渉だ。

 強大な力を持つヒロインは国家の管理下に置くのが一般的な考え方で、半ば独立国となっているヒロイン生協のあり方は容認されない。しかし、その一方でヒロイン同士の諍いや国家で対応できないレベルのヒロインや魔獣、災害への抑止力として、第三者的立場のヒロイン組織というのも重宝する。そうした政治的なパワーバランスの中でヒロイン生協は存続し、勢力を維持している。

 そのヒロイン生協がわざわざ海を渡ってマオに会いに来るというのは、果たしてどのような要件か。

 あまり喜べない話な気がする。

 船の上で待機しているのは、荒事にする意思はないという表明だろうか。

 

「話は聞こうか。わざわざ海を渡って来てくれたわけだからな」

「了解、じゃあ、案内するね」

 

 

 

 ヒロイン生協からの使節団がやって来た。

 大陸の西の果てであるノワールとはほとんど交流のない彼女たちは、ノワール人にとっては興味関心の的である。

 ホープ市を植民市とした直後だけに、尚のこと注目を集める。三十人の使節団は大通りを通って、マオのいる庁舎兼屋敷に入った。

 三十人中、ヒロインは三人。

 サーヴァント、ルーラーのジャンヌ・ダルク。

 先日、下したジャンヌ・オルタのオリジナルに当たるヒロインらしい。その当たりの関係性は、立香から聞いている。ジャンヌ・オルタと同じ顔だが、こちらのジャンヌはどことなく浮世離れした近寄りがたさを感じる。元の世界で聖女と呼ばれただけのことはある。

 ジャンヌの左に神騎エクシール、右に宮崎のどか。

 エクシールは青い長髪の天界神騎で、スピカの同門だ。スピカよりもずっと格上で、強大な存在である。宮崎のどかは肉体的には普通の人間のようだ。この場にいる以上、何らかの異能を保持している可能性が高い。

 ジャンヌもエクシールも極めて強力な戦闘能力を有するヒロインだ。

 この二人については、元の世界での知己がノワールにいるため、その能力をマオはすでに確認できている。

 戦いに特化したヒロインが二人もノワールを訪れるというのは、穏やかな会談だけが目的ではないと疑ってかかるのが当然であり、事実、彼女たちの要件は戦勝の挨拶でもなければ、親交を深めるための会談でもない。

 これは、掻い摘まんで言えば、戦争への協力依頼であった。

 

「ブリンクウォールの悪名は、俺も聞いたことはある……が、だからといって、ヒロイン生協が出張ってくるようなものなのか? 内政不干渉の原則をねじ曲げるほどとは思えないが?」

 

 ヒロイン生協が名指しした相手はブリンクウォールだった。

 近年、目覚ましい発展を遂げた平原の大国。

 そして、大陸における奴隷市場最大のマーケットを有する人身売買の国でもある。

 ヒロインは余所の世界の常識を持ち込む異物である。

 奴隷制に懐疑的あるいは拒否反応を示すヒロインは少なくない。特に性奴隷は、徹底的に排除しようと動く者が過去に何度もトラブルを発生させている。

 ノワールにおいてはハルカが奴隷制を嫌うヒロインの代表だ。ノワールで奴隷が流行らないのは、その必要性が低い環境ということが大きいが、制度上も積極的に推進していないのはマオにとって「最初のヒロイン」であり唯一の戦力であったハルカの存在が大きく、マオ自身が奴隷に否定的であるというわけではないのだ。

 だが、奴隷制への見解の相違は戦争を引き起こす道理としては程度が低い。少なくともこの大陸では、当たり前の慣習であり、それで生計を維持している者も大勢いるのが現状だ。

 内政不干渉という大原則に真っ向から背いてでも、ブリンクウォールを攻撃したいというヒロイン生協の見解は、あまりにも唐突ではないか。

 ヒロイン生協は強大な組織であるが故に中立でなければならない。

 そうでなければ、真っ先に周辺諸国から潰されてしまうだろう。

 ヒロイン生協だけで、独立を維持し続けるには、戦力が足りない。個人がどれだけ強くても、国家規模の戦争を何年も継続できるわけではないし、すべてのヒロインが戦えるわけでもないからだ。 

 ヒロイン生協は戦争屋ではない。

 彼女たちの理念はヒロインが安心して暮らせる社会の実現だ。

 性奴隷を推進するブリンクウォールをそういう意味では、仇敵といっても過言ではないが、それだけを理由に戦争を起こせるほどの力は、彼女たちにはないのである。

 

「ブリンクウォールの実情には、我々も思うところはあります。ですが、仰るようにそれは内政不干渉の原則を破るものではありません。わたしたちが、能動的に動くのは、政治に関わりのない小規模なお手伝いかあるいは、国家の枠組みを超えて対処しなければならない危機的状況を危惧している時です」

 

 ジャンヌは真剣な眼差しでマオを見つめている。

 

「危機的状況というと?」

「ブリンクウォール国内で、国家主導の虐殺が確認されています。小規模な村の焼き討ちだけでなく、貴族が保有する荘園すらも攻撃対象としているものです。焼け出されて放浪している方々が、難民キャンプを作っていますが、それすらも執拗に攻撃している状況です」

「何か犯罪の過激な取り締まりというわけでもなくか? あの国は反政府運動をしている者もいるようだし、内戦の一つではないのか?」

「レジスタンスの方々の活動拠点とは無関係の村も襲われているので、それはないと思います」

 

 ブリンクウォールは経済発展を続けている割には貧富の格差が極めて大きい国だ。辺境は過酷な税の取り立てで疲弊し、中央は連日連夜パーティを催す盛り上がりよう。内乱が起きるのは当たり前だが、ヒロインの力でこれを強引に押さえ込んでいる。

 

「これだけだと危機的状況とは言えない。ノワールが関わる理由にはならないが?」

「はい。もちろん、それはブリンクウォールの内政問題であって、我々もあなた方も手出しすべきことではありません。わたしたちが危惧しているのは、リドル・バージェスがなぜ、無益な虐殺を継続しているのかという、その理由です」

「何か意味があっての虐殺というわけか?」

「そうです。先日、難民を襲ったブリンクウォールのヒロインから、リドル・バージェスの目的を聞き出すことに成功しました。こちらが、それを纏めた資料です」

 

 ジャンヌがマオに渡した羊皮紙には、リドル・バージェスの計画が克明に綴られていた。

 世界を変革するほどの魔力を燃料として、自らの魂を至高の領域に進化させる自己進化計画。不老不死を探求してきたバージェス家の執念の結晶とも言うべき計画だ。

 肉体も魂も、いつかは老いて朽ち果てる。

 権力の座についた者が、次に取りかかるのは寿命対策というのはよくある話で、世界各国から様々な呪法を取り寄せて試し、長寿のヒロインを解剖し、陰惨な研究を重ねて辿り着いた不老不死計画が、大詰めになったといったところだろう。

 

「国民を生け贄にして魔力を収集しているっていうことなのか」

 

 リドルが必要とする膨大な魔力は、どうやって生み出すのか。その結論が、国民からの搾取だ。それによって発生する強い怒りや恨みといった負のエネルギーをかき集め、濃縮して燃料とする計画である。そのために、国民に理不尽な死をばらまいているのだ。

 それも一息に終わらせず、恨みを募らせるために敢えて時間をかけて村々を潰している。

 まさに究極の権力者だ

 国民の命は、すべて尽く自分の命を遥か未来まで伸ばすための推進剤にすぎないという扱いだ。 

 

「このようなことをしても国は成り立たないのですが」

 

 と、ジャンヌの隣でエクシールは顔を曇らせる。

 

「いや、もともとリドルは国とか気にしてないんだろう」

「……と言いますと?」

「今のブリンクウォールはリドルの先祖が時の皇帝から下賜されたエルドラドを中心に発展した国なんだが、その始まりは皇帝から不死の研究を命じられたことだ。皇帝からの命令は絶対。その地に存在するすべてを使い潰して不死を完成させようとするのは、当時の皇帝の意に沿うものでもあるわけだな。だから最初からブリンクウォールの人々は国民ではなく不死を探求するための材料なんだよ」

 

 ブリンクウォールは国家規模に膨れ上がった不老不死の実験場だ。国の形を為しているのは、材料を自給自足するために都合がいいからでしかなく、バージェス家の人間は、統治者としての責務など一切背負っていないし、感じていないのではないだろうか。

 

「これが世界の危機? これだけなら、リドル一人の問題に見えるぞ」

「それだけならばよかったのです。いえ、よくはありませんが、仰るように個人で完結します。ですが、彼女が収集しているのは人間の負の想念、極大の呪詛です。当然、そのようなものを扱いきれるはずがありませんし、誤作動を起こせば世界に呪いがまき散らされることになります。そうでなくとも、兵器として運用することも不可能ではありません」

 

 ジャンヌが険しい表情で断言した。

 人間の負の想念は世界と今を生きる人々への呪詛だ。怨念は誰彼構わず生きとし生ける者を呪い、犯し、殺し尽くすものである。

 

「不老不死になるための魔力リソースとして人間の負の想念を集めているとして、どうやって不老不死を実現するんだ? その手法まで調べているんだろうな?」

「もちろんです。彼女たちは、擬似的な聖杯を作成するつもりです」

「聖杯? ……聞いたことがあるな。サーヴァントのいる世界にあるっていう、どんな願いでも叶えるマジックアイテムだったかな。他の世界にも似たような物はあるみたいだが」

「はい。ブリンクウォールには、キャスターのサーヴァント、メディアがいます。彼女はわたしたちの世界でも最上位の魔術師で、聖杯同様の機能を持つ魔術式を開発することも不可能ではありません。物が用意できれば、後はその燃料となる魔力をかき集めればよい。虐殺の規模が大きくなっていることから、わたしたちは、すでにブリンクウォールでは、疑似聖杯自体の準備ができているものと推定しています」

 

 ブリンクウォールで疑似聖杯が作られるということも懸念材料だが、その材料が人間から採取された膨大な怨念であるということが、なお不安だ。ジャンヌの啓示スキルに頼るまでもなく、霊的直感力を有する様々なヒロインたちが総じてこれを危機的状況であると感じ取っていた。

 それは未来視であったり、直感力であったり、高次存在からのお告げであったりと様々だが、高い確率でこの件は世界の危機に発展するという結果に繋がっている。

 

「いくつか腑に落ちないところもある……リドル・バージェスはもうすでに不老不死なんじゃないか? 八十年は容姿が変わっていないみたいだぞ」

 

 と、マオは尋ねた。

 そもそも、リドルはバージェス家の悲願である不老不死を実現した現代の魔王だ。

 大衆の面前で、その不死性をアピールするため、自ら串刺しになって見せたという話もある。

 彼女は死なず、未だに若々しい容姿を保っているというのに、改めて不老不死を求めるのは筋違いではないか。

 

「あの人の不老不死は、まだ完全ではないんです」

 

 と、回答したのはのどかだった。

 

「リドルさんが求める不老不死は、絶対に歳を取らず、何があっても死なない身体と魂を手に入れることです。今のところを完全な不老と完全な不死を実現した人は、どの世界にも存在しません。それはリドルさんも同じです。彼女は確かに歳を取らず、例え心臓を刺されても死にませんが、その能力は絶対ではないのです」

「不死身のリドルが実はそうじゃなかったってことか」

「そうです。そして、その不死身の理由が、今回ヒロイン生協が立ち上がった理由の一つでもあります」

「どういうことか、説明してもらえる?」

「はい」

 

 のどかは頷いて、口を開いた。

 

「まず不老不死と一口に言っても様々です。エルフさんたちのような老化を停滞させる種族としての能力やどんな攻撃にも耐えられる無敵の身体、一度死んでから復活する蘇り能力などありますが、どんな能力でも今のところ、完全な不老不死はなく、何かしらの方法で攻略可能です」

 

 実のところ、不老不死を標榜する者が他にいないわけではない。

 例えばのどかが話題に出したエルフ族。

 彼らはもともと数千年を生きる長寿の一族で、絶滅寸前ながら深い森の中でひっそりと暮らしている。エルフ族の祖となったのもヒロインだったが、とうの昔に人間に殺されてしまった。もちろん、その末裔である現エルフ族も不老不死といいつつ、その実態は長寿ではあるが殺されれば死ぬ生き物だ。

 

「バージェス家の家祖は、不老不死の完全確立を目指し、パンゲア帝国の皇帝から不老不死探求の勅命を受けた三人の学者たちの一人だというのは、マオさんもご存じだと思います。そして、学者のうちの一人は吸血鬼化を選択し、自らの血を吸血鬼のヒロインに吸わせることで死徒と呼ばれる怪物になってしまった。ヒロイン生協が内政不干渉の原則適用外として討伐に当たっている夜の国の魔王です。そして、もう一人も同様に屍姫を研究する果てに自らも屍に成り果て、異形の怪物になって放浪する生きた災害になっています。人間性を残したまま何十年も容姿が変わらず、簡単には死なないほどの不死を実現しているリドルさんは異例といっていいでしょう」

 

 寿命を克服しようとする人間が吸血鬼化に手を出すという事例は少なからず存在するし、その結果、町や国が一つ滅ぶということも過去にはある。

 吸血鬼は多くの世界に存在する概念らしく、能力も性質も様々だが、血を吸った相手を吸血鬼に変えたり、超自然的な異能を使えたりと強力な魔物として扱われているケースが多い。

 屍化も吸血鬼化と似たようなもので、人間を止めて魔物になるという試みの一つだ。未練を残して死んだ者が生きた死体(リビングデッド)となって活動する現象の一つであり、理性を残したまま屍になれれば、確かに事実上の不老不死を実現できるだろう。その時点で生物としては死んでいるとしても、自分の意識と肉体を残すことはできる。そして、挑戦した学者は失敗し、完全な怪物となって各地に災いを振りまいている。

 バージェス家は安易な方法には手を出さず、世代を重ねて研究を続け、八十年前にリドルが不老不死に手が届いたと喧伝されている。

 

「条件付きの不老不死であることは間違いありません。その上、リドルさんには電撃を操る能力や魔力を消し去る能力も確認されています。どちらも、八十年以上前、リドルさんの幼少期にはなかった能力です」

「不死身になってから、異能も使えるようになったのか」

「そうです。特にこの魔力を打ち消す能力は非常に強力で、サーヴァントですら歯が立たないほどです。過去に数名のサーヴァントが彼女に挑み、肉体を消滅させられました」

 

 サーヴァントは肉体を魔力で構成しているので魔力を無効化する能力との相性は最悪だ。運が悪ければ一撃で致命傷を負うことになる。

 さらに戦力はリドルだけでなく、極めて強力なヒロインが彼女の家臣となっている。

 ヒロイン生協だけで対応するのは困難な勢力だ。

 

「そして、リドルさんとまったく同じ能力を持つヒロインが存在していたことも分かっています」

「同じ能力を持つヒロイン?」

「はい。お名前は暁零菜さん。生協に所属していた不老不死の吸血鬼で、電撃と魔力無効化能力を持つ強力なヒロインでしたが、八十年前に行方不明になっています」

「リドルがその娘の力を奪った? そんなことが可能なのか?」

「彼女と同じ世界からやって来た方によると、不可能ではないようです。あちらの世界の吸血鬼には、人間を血の従者という従僕に変える能力があるらしく、血の従者になると主人の命令に絶対服従となる一方主人が生きている限り死ぬことはなく、主人の能力を借り受けることもできるのだとか。以上のことから、リドルさんは、零菜さんの血の従者であるというのがわたしたちの結論です」

「……暁零菜って娘の血の従者がリドルだとして、絶対服従になるんじゃないのか? その辺りどうなんだ?」

「零菜さんがリドルさんに命令を出せない状況に置かれているのなら、リドルさんは自由に行動することができます。そして、リドルさんの不死は零菜さんに依存しているので、完全な不死とは言えません。疑似聖杯を使い、今度こそ完全な不老不死を実現するのが、彼女の狙いなのです」

 

 のどかが捲し立てるように言い切った。

 不死身のリドルと息巻いていたが、他人の従僕になることで擬似的な不死を実現しただけだというのだから拍子抜けだ。

 

「リドルの力の正体は分かった。それで、この話はイステネブルやクロガネ大公国にもしているんだよな?」

「事は一国に納まる話ではありませんから、別の使者を派遣し交渉に当たりました。ここと違って空から移動ができますから、順番が前後してしまいました」

 

 と、ジャンヌが答える。

 

「その結果は?」

「……正直に言って芳しいものではありませんでした。イステネブルはすでに派兵する余力はなく、クロガネ大公国に至っては、明言はしませんでしたが、おそらくはブリンクウォールと何らかの取引をしているようです」

「だろうな。大公のところでも、派手な内戦があったらしいからな。ブリンクウォールのヒロインがやったんだろう」

「その通りです。非常に危惧すべき事態です。疑似聖杯を完成させるためには、ブリンクウォールの国民だけでは足りません。おそらくは今後、さらに犠牲を増やすために、ブリンクウォールは対外戦争に踏み切るでしょう」

「ノワールも攻撃対象になる、と言いたいわけだ」

 

 ジャンヌは答えない。

 ただ事実としてブリンクウォールはすでにクロガネ大公国に干渉を始めている。救援要請に応えるという名目でヒロインを送り込み、敵味方を問わず殺して回ったのだ。その目的も明白で、疑似聖杯にくべる生け贄を求めての虐殺である。命が足りなければ身近なところから次々と貪り食うことだろう。最終的に自分が不老不死に到達できればいいのだから、自分の国も周辺諸国も必要ない。

 

「改めて、ご協力をお願いします。ブリンクウォールを糺し、これ以上の命が奪われることがないようにしたいのです」

 

 ジャンヌの眼差しは真剣そのもので、国のしがらみを超越して未来を憂えているのが伝わってくる。女好きのマオとしては、美女の真摯なお願いには、精一杯応えたいところだ。女相手に見栄を張るような立ち位置にいるわけではないが、やはりそれなりに格好を付けたいし、世界に危機に立ち上がるというヒーローのような立ち回りに憧れがないということもないのだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「なかなか上手くいきませんね」

 

 と、呟いたのはのどかであった。

 マオが用意した賓客用の客間に三人のヒロインが集まっていた。

 国外からの重要な賓客をもてなすための施設であり、ノワールの宿泊施設の中で最高ランクと言っても過言ではない。宿泊業が持て囃される時代ではなく、大抵のホテルは商人が使うことを想定したものだが、ここはそういった庶民のための宿泊施設とは次元が違う。

 ヒロイン生協の会員ならば、貴族と同格の扱いをしても問題にはならない。そうやってVIPの扱いをしてもらってはいるものの、のどかの表情は冴えない。

 

「いえ、話をきちんと聞いてもらえただけ、希望はあります。クロガネ大公国では、大公閣下が心を病まれていて、政策の決定権を巡って皇子たちが対立している状況ですし、イステネブルは軍事、経済共に破綻寸前で国外を気にする余力がありません。南洋諸国も、クロガネ大公国の混乱やロドポリスの滅亡に引きずられて緊迫した状態が継続しています。この辺りで安定しているのは、ヒッポリュテさんが率いる遊牧民の皆さんと、ノワールくらいのものです」

「逆に、この不安定な社会情勢は怨念の魔力を集めようとしているブリンクウォールには都合がいいですね。戦争はそれだけで死と憎しみを発生させる。怨念の回収装置と化したブラダマンテがいれば、魔力の収集は容易に進むでしょうね」

 

 エクシールも内心の危惧はどんどん強まっている。ジャンヌのような未来への道筋を感じ取る啓示スキルもなく未来を読み取ることもできないが、邪悪なモノのなんたるかは知っている。

 エクシールは以前に一度、ブラダマンテと交戦している。

 その時に発生した膨大な呪詛の奔流は、世界を滅ぼすに相応しい凶悪さであった。

 ほんの一部が漏れ出ただけだが、それでも泥に触れた土地は向こう十年使い物にならないだろう。

 世界の危機というのは、何も大げさに言っているわけではないのだ。

 

「疑似聖杯が完成すれば、その時点で大陸西部の人口の大半が失われるはずです。失敗しても、溜まりに溜まった呪詛が弾ければ同じです。そうなる前に何とかしなければ、十万や二十万では済まない人命が失われることになります」

「……もう規模が大きくて、想像ができないですね」

 

 のどかは小さくため息をついた。

 世界の危機に立ち向かうのは、前の世界でも経験している。火星に作られた魔法世界の崩壊をどう防ぎ、すべての人命を救うのか。その方法論を巡る対立でもあった。

 善と悪の対立ではなく善と善の対立だったとも言えるだろう。

 だが、今、直面している危機に善の要素は感じられない。

 人の命を貪るだけの、ただの悪逆だ。

 ブリンクウォールは明確に糾弾されるべき行いを重ねている。しかし、それを糾弾する資格を持つ者は、この世には存在しない。ブリンクウォールの中の出来事はブリンクウォールの関係者によって解決されなければならない。

 その上でこの問題を解決するには、レジスタンスのような反政府活動を活性化させて政権を転覆させるとか、他国の軍を動かすしかない。戦争の引き金を引く。それがのどかたちの仕事であって、そのためにノワールにやって来た。

 「世界のために戦争を起こしてください」などという話をあっさりと受け入れてくれる者がまずいない。

 案の定、マオは返答を控えた。

 検討してもらえるだけマシなのだろうか。

 資金面はヒロイン生協がある程度融通することもできるが、人命はそうはいかない。

 ノワールからすれば、貧乏くじもいいところだ。

 もちろん、現在もレジスタンスを支えるために各地の戦闘型ヒロインを集めているところだが、敵方にも強力なヒロインが揃っている。

 

「のどか、いどのえにっきは、ここでは使えませんね?」

 

 ジャンヌの確認にのどかは頷いた。

 彼女のアーティファクト。

 ネギがいないのに機能しているのは分からないが、この世界に召喚されたヒロインは往々にしてこういう事象が発生する。

 マスター不在でもサーヴァントが活動できるように、主となる魔法使いがいなくてもミニステル・マギのアーティファクトは使用可能だ。

 宮崎のどかというヒロインの能力として、この世界で再設定されたものと推測される。

 名前が分かれば相手の思考を絵本に映し出すことができる最高峰の読心術を実現するアーティファクトは、この国では発動することもできないでいた。

 それどころか簡単な魔法も使えない。

 試しに身体強化の魔法を使ってみたものの、魔法として成立しなかった。

 

「ジャンヌさんはどうですか?」

「わたしも同じような感じですね。スキルも機能していませんし、宝具も使えないと思います」

 

 ジャンヌが持つ啓示とカリスマスキルは、交渉において非常に役に立つスキルだ。相手に自分の言葉を信じさせることができる精神干渉にも似たカリスマに未来の道筋を感じ取る啓示は相性がいい。交渉ごとでジャンヌが重宝されるのは、こうしたスキル構成があるためでもある。

 それが、この国ではまったく効果を発揮していない。

 スキルに頼り切った生活をしているわけではないので、不便はないが、何の抵抗もできず、どのような干渉を受けているのかも分からないのに能力が封じられているというのは、不可解で不気味だ。

 

「ですが、だからこそ、この国の内情を覗き見ることは困難。そうですよね?」

 

 エクシールもまた、能力を封じられているという実感があった。

 ノワールは千里眼持ちでも覗き見ることができない不可解な土地だ。外部からの一切の能力による干渉を拒絶していることから、ヒロインの間では気味悪がられている土地でもあるが、だからこそメディアの魔術でもノワールの動きを把握することはできないというメリットがある。

 できることなら首都パラディクレールにヒロイン生協の出張所を設けて、ブリンクウォールで戦っているレジスタンスの支援拠点としたい。

 皮算用ではあったが、マオが義憤を感じ志を同じくしてくれるのなら、活動のしやすさが格段に上昇したのだが、さすがにそう簡単に説得はできなかった。

 マオはジャンヌたちがもたらした情報だけで戦争を始めるほど短慮ではなかった。

 こちらの言い分を聞いた上で検討をするといって明確な回答を避けた。

 善悪だけで兵を出すことはできない。当たり前のことである。戦争を始めれば、この美しい港町を戦火に曝すことになるかもしれない。派兵された騎士の中には、帰国できず戦地で息を引き取る者もいるだろう。

 だからこそ、戦争には見返りが必要だ。

 正義や善悪ではなく、それがノワールやマオにとっての利に繋がらなければ、兵を興す意味がない。

 世界を救うという程度の目的なら、「事情は分かるし協力もしたいが、自分たちが身体を張る必要はない。別の誰かが頑張ればいい」という反応が返ってくるのは自然だ。

 今日の所は、強制的に国外退去にならなかっただけ、ありがたいと思い、明日以降、何とか説得して協力を取り付けられるよう頑張るしかない。

 

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