異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話 作:もう万体
クロガネ大公国の中西部に位置する大都市ハリマは、グレアム皇太子の所領であり、首都であるキョウを西国から守る位置にある。第二の首都というべき町であり、その領地は他の追随を許さない。肥沃な農地と大河を有し、文化の中心地であるキョウに比べて経済の中心地として国内全体に影響力を持っている。
そんなハリマだが、領主であるグレアムがこの町にやってくることはない。病弱で、キョウで静養したまま戻ってこないのだ。おかげで城は二十年も主を迎えることなく、ハリマは代理を任されたモーガンが取り仕切っている状況が続いている。
グレアムは遠方から手紙で指示を出すばかりで、顔を出すことはない。モーガンですら、年に数回キョウを訪問した際に、グレアムと話をするだけで、今やハリマにグレアムの顔を知る者はほとんどいない。
第二の首都であり、皇太子の領地でありながら、すでにこの地はモーガンの所領も同然となっている。二十年も土地を離れ、実情を何も知らない領主に忠誠を誓う者がどれほどいるだろうか。
この二十年という年月が、ハリマに与えた影響は、おそらくは大公一家が考えているよりも大きい。
皇太子が皇太子としての仕事を果たしておらず、モーガンがその役割を代行している。
災害が起こった時、前線に立って復興に力を注いだのはモーガンだったし、裏で大公や皇太子が動いていたとしても、実際に現場にいるモーガンの姿が民の目に映る。そうなれば、自然と皇太子への忠誠がモーガンへの忠誠に切り替わっていくのは当たり前であり、モーガンもまたこの領国を采配してるのは自分であるという自負を持つに至った。
まして、このところクロガネ大公国全体の空気が悪く、漠然とした不安が漂っている時節柄、よく分からない遠方の領主よりも目の前にいて問題解決に取り組んでいる領主代理のほうが信頼できると思われてしまう。
そうした空気感をモーガンも感じていた。
民からの期待が日に日に領主ではなく自分に直接向けられている。今の子どもなど、モーガンを領主と呼ぶ者もいるくらいだし、学のない親世代もモーガンの後ろにグレアムがいると理解していない者も少なくないのだろう。
このままグレアムが本当にこちらに顔を出さずに一生を終えたら、この町はどうなってしまうのか。モーガンに継承権はなく、あくまでもグレアムの代理でしかない。グレアムがいなくなれば、モーガンはこの町を去って自分の所領に戻ることになるだろう。せっかく二十年もかけて発展させてきたのに、それはあくまでも他人の財産を肥え太らせるだけだったとなれば、まったく得るもののない二十年だったとなってしまうのではないか。
歳を重ねて、ずいぶんと気が弱く、心配性になってしまった。
主君としてはどうしようもない人物だが、それでもモーガンの権力を担保する重要な権威だ。モーガンの力はどこまでもグレアムという保証人があって初めて実力を有するのであって、モーガンの力ではない。それを肝に銘じなければ、勘違いをして破滅した知人など枚挙に暇がないくらいだ。
「お疲れですね、シュゴダイ様」
声を掛けてきたのはメイドのマルガレータだ。
五年ほど前に騎士たちの間で話題になった酒場の太陽であり、その美貌と陽気な性格で城勤めにまで成り上がった鬼才である。
酒場と城の勝手は違うはずだが、順応力も高く、城の仕事もしっかりとこなしてくれる。今では、プライベートな空間の管理も彼女に一任するようになってしまった。
クロガネ大公国の独特な文化として、シュゴ制度が上げられる。
シュゴは一定の広さの領地と兵力を有する有力貴族の当主が任命される役職で、大公に近侍し、身辺警護を行うことを職務とする。言わば親衛隊である。シュゴに任じられた貴族はキョウで暮らすことになるため、領地の経営は信頼できる家臣に任せることになる。領地の経営を任される家臣をシュゴダイと呼ぶ。シュゴダイはシュゴの権威と権限を背景に、領地経営の指揮官として振る舞うことを許されているのである。
ハリマにおいては第一皇子たるグレアムがシュゴであり、ナンバーツーに当たるモーガンがシュゴダイとなる。
グレアムは二十一人いるシュゴを纏めるシュゴ筆頭であるべきなのだが、病弱のため、残念ながら形だけのものとなっている。
「少し早いですが、お茶にしましょうか。新しく手に入った茶葉は、アイリ様も気に入ってくださったんですよ。是非、シュゴダイ様に味わっていただきたいと仰っておりました」
「アイリスフィールも? それは楽しみだな」
安楽椅子に腰掛けて目を揉んだ。
日々の疲れがずっしりと両肩にのし掛かっているような気がする。
最近は気にしなければならないことが多すぎるのだ。
「鎧の町の仕置きを誤ってからというもの、いい話がまったくない。よりにもよって大公閣下も何をお考えなのか。ブリンクウォールと手を組もう等と」
「やっぱり、川辺の町が焼かれたのは、その関係なんでしょうか」
「ウエストローザ辺境伯に不正の疑いがかけられているからな。塩を密売し、不正に得た金で反政府軍を組織しているという話だ。どこまで本当かは、分からないがね。ただでさえ、大公閣下はユーノ皇子のご逝去から塞ぎ込みがちだ。何か、よからぬ話を吹き込んだ輩がいるかもしれん」
モーガンにとって中央の政治腐敗は今に始まったことではなく、知人が失脚して消えて行くのもすぐ近くで見てきた。中央政権に期待することは何もないが、グレアムがこのまま大公位を継承してくれれば御の字だ。
近年のクロガネ大公国の迷走っプリは目を疑う。
モーガンの立ち位置では、中央政府が何を考えているのかまでは見えてこないが、ブリンクウォールと結んで危険なヒロインを国内に引き入れた挙げ句、反抗勢力とレッテルを貼った諸侯を攻撃させるなど、横暴が続いている。
それも、諸侯だけを攻撃するのではなく、領民すらも攻撃対象とする苛烈な虐殺だ。噂でしか聞いていないが、戦場は悲惨なことになっているらしい。先日、ついに門を開いたウエストローザ辺境伯も、助命嘆願が為される前に戦場の露と消えた。城は燃やされ、領民も反体制派として処断されたという。
厳しすぎる対応であり、ウエストローザ辺境伯が反乱というのも疑義がある。
塩の密売は確かに重罪で、場合によっては死罪もあり得るにせよ、裁判もなしに城を攻め落としてしまうのはやり過ぎだ。国内からも疑問の声は上がっているし、大公の苛烈な判断に恐れをなして独立の機運を高めてしまう可能性すらあるのだ。
統治には飴と鞭が必要だ。
今の大公は焦っているのか正気でないのか、少しやり方が鞭に寄りすぎている。
グレアムが政権を継いだとして、この傾いた大国を立て直す政治力を発揮できるのだろうか。病弱で二十年もの間所領の運営すら投げ出した彼に。
「余生と楽しむ暇すらないかもしれんとは、後三十年、早く生まれたかったものだ」
「何を仰っているのですが、シュゴダイ様はまだまだこれからじゃないですか」
「これからがあるから、辛いのだ。何の憂いもない国で、自ままな老後を過ごしたかったのだ、私は」
マルガレータが用意した紅茶が机に置かれる。
紅茶の香りは気持ちが落ち着く。
砂糖を溶かして、口を付ける。
少しの渋みにまったりとした甘みが紅茶の熱とともに喉を伝っていく。心地よい味わいに、モーガンはしばし感慨に耽った。
聖堂に暮らすヒロインの一人であるアイリスフィールは、元の世界でも高貴な家柄の出身らしく、こうした茶の善し悪しも彼女の判断が先にあることが多い。
アイリスフィールは白銀の美しい女だ。人間というよりは妖精のような人外の美しい容姿でありながら、好奇心旺盛で、よく護衛も連れずに外に出てしまう。
直接の戦闘能力が低いので軍に招集されず、衣食住を保証する代わりに聖堂地下の工房で、様々なマジックアイテムの作成に携わっているのであった。
彼女が作成するマジックアイテムも、ハリマの重要な収入の一つである。ヒロインが作成したというだけでも、高額になる上に効果も確かだとなれば値はつり上がる。戦うこと以外に能がないヒロインもいる中で資金を生み出すことができるアイリスフィールは貴重な存在なのだ。
だからこそ、クロガネ大公国の次代を担うグレアムの所領で彼女は暮らしているというのに、肝心のグレアムとは面識がないというお粗末さだ。やはり、アイリスフィールの拠点をキョウに移そうか。そう考えもしたが、地脈の関係からこの町の聖堂の地下が魔術を行う上で都合がいいらしい。
何かと気を回しているが、上手くいかないことが積み重なっている。
「マルガレータ、チーズを持ってきてくれるか。無性に食べたくなった」
「承知しました、シュゴダイ様」
花瓶の薔薇を手入れしていたマルガレータは、手を止めて、モーガンが所望したチーズを取りに行った。
仕事は山積みで、大公や皇子たちの動きも気になる。それにブリンクウォールの昨今の動き方は派手に過ぎる。クロガネ大公国の衰えはブリンクウォールにとって経済的安定性を欠くことにも繋がるはずなのに、むしろこちらを混乱させようとしているかのような関わり方だ。
「お持ちしました」
「ああ、ありがとう」
モーガンは礼を言ってお気に入りのチーズを受け取った。
「あまり根を詰めすぎると、身体に悪いですよ」
「そうだな。ああ、これを食べたら少し休む。君も休憩に入ってくれて構わない」
「ありがとうございます。それでは、失礼させていただきます。何かありましたら、いつなりともお呼びください」
悠然とマルガレータは去って行く。
彼女と話をしているとつい口が軽くなってしまう。
たかだかメイド一人に話すほどの内容でもないような愚痴を垂れる。
彼女は人の心の内に入るのが上手いようだ。
それが癒やしになっているのは事実だ。あまり、彼女を特別視しないように注意はしているものの、昨今の情勢不安からくる心労は、どうしても身近な癒やしを求めてしまう。
よくないことだと分かっているのだが、なかなか心というものは、自分の思うようには動いてくれないものらしい。
■
ヒロイン生協の面々がノワールを訪れて、三日が経ち、ヒロイン同士の交流も始まった。
同郷だと話しやすいということもあるのだろう。
立香とマシュは真っ先にジャンヌと話をしていた。前の世界では何度も彼女に助けてもらったというから、この世界での再会には感動すら覚えていたようだ。一方でジャンヌ・オルタのほうは、しかめっ面を崩さず、ジャンヌと距離をとり続けている。ジャンヌのほうが気にして、何かとコミュニケーションを取ろうとアプローチしている始末だ。それは、気難しい妹と仲良くしようと悪戦苦闘する姉のようであった。
エクシールはハルカやスピカと顔見知りであるらしい。ダイビートなる組織で共に戦った仲なのだとか。この世界にやって来た直前の時系列が矛盾しているようだが、それはよくある話だ。互いに知識を交換して話の種にしている。
そして、のどかはセクストゥムと同じ世界の出身だという。少し怯えた様子なのは、敵対関係にあったからだそうだ。
同じ世界だからといって、仲良くできるというわけではない。敵対というのなら、立香とジャンヌ・オルタも敵対関係にあった者同士だが、ノワールでは良好な関係を築いている。それを考えれば、今のセクストゥムは人畜無害であって、マオの言う事しか聞かないのだから、怯える必要はないのだが、それは今後のコミュニケーション次第だろう。
彼女たちは賓客だが、これからの話し合いの展開次第では容易に立場を変えうる者たちである。
「あの三人の中で脅威があるとすれば、のどかだろうな」
セクストゥムによれば、のどかは稀代の読心術師であるらしい。
この国にいる間はその能力は制限されるものの、情報収集能力はピカイチだ。いどのえにっきの前には嘘もごまかしも通じないというから破格である。
一国の統治者としては、非常に危険な代物であると同時に是非とも手に入れたい力でもある。
「ブリンクウォールの疑似聖杯とかいうのも、気にならないわけじゃないしな。世界の危機だとか言われても、実感湧かんが……」
ヒロイン生協が直々に動いて討伐を促すくらいだから、よほど危険な事象なのだろうとは思うが、それを実際に認識できているのが生協だけというのが辛いところだ。
マオ自身も眉唾としか思えないし、ブリンクウォールに戦争を仕掛けても、今のノワールには何の利益もないのだ。
それなら、進んで戦争など起こせない。侵略者の汚名を背負う上に、少なからぬ犠牲が自国民に出てしまうのは避けるべきだ。
そんなことを益体もなく考えていると、立香が部屋に飛び込んできた。
「マオさん、大変!」
火急の用事を伝えようと走ってきたのか、立香は息を荒げている。
「何だ? 騒々しい」
「ユイさんが」
「ユイに何かあったのか?」
立香はゼエゼエと切らしていた息を整えた。
「ユイさんが分裂しました」
「夢でも見てんのか?」
柔らかい立香の頬を抓ってやる。
報告が何かと思えば、何とも非現実的な話を始める。
立香はどうやら疲れているらしい。
「違います、ほんとですって。とにかく食堂に来てください」
わたわたと手をばたつかせる立香を怪訝に思いながら、マオは言われたとおり部屋を出て食堂に向かった。
食堂に到着したマオを待っていたのは、立香の報告が正しかったという事実である。
「ご、ご主人様!?」
一斉に同じ顔が振り返る。
四人のユイと思われる少女たちが、食事中だった。
「……?」
「まあ、そういう反応になりますよね」
と、立香が呟く。
「本当にユイが四人もいるのか? 意味がワカラン。何か攻撃されたのか?」
「魔術の実験に参加したら、こうなってしまいました」
と、手前のユイが言った。
「実験?」
「そこはわたしが説明します」
会話に割り込んできたのはシオンであった。
「やっぱり、お前か。今度は何の騒ぎだ?」
「やっぱりってどういう評価なんですかね、わたしは」
シオンは不愉快そうに唇を尖らせた後、気を取り直して眼鏡をくい、とあげる。
「さて、今回ユイさんにご協力いただいたのは、完全自立型ゴーレムの作成です」
「完全自立型ゴーレム……?」
「ホムンクルスではなくゴーレムに自立した意思を与えるという試みです。まあ、似たようなものは古今東西にありますが、制作者からの補助もなく自律したゴーレムというのは作成困難なものです」
「なんで、そんなものを作ろうとしたんだよ」
完全自立型ゴーレムというのも面白いは面白い。
必要不可欠とはいかないが国境の防衛などには当たらせられるかもしれない。勝手に活動するリスクもあるので、扱いは難しいだろうが、そういった問題を解決すれば、消費可能な兵士として十分すぎる役割を期待できる。
気になるのは、なぜそんなものを作ろうと思ったかだ。
「それはわたしがお願いしたからよ」
答えたのはシオンではなく、アリスだった。
最近加入したばかりの金髪の人形遣いは、申し訳なさと興味深さが入り交じった表情でユイたちを見ている。
「わたしの研究は自立した人形を作ることで、知らない世界の魔術にもゴーレム作成があるっていうから、共同研究を持ちかけたのよ」
「そういうこと。で、ユイが分裂した経緯が分からないままなんだが……?」
「シオンの分割思考とワルキューレ三姉妹の霊器の分割顕現を参考にした、魔力で生成した疑似身体を複数の意識で同時に操る実験よ。まあまあ上手くいったんじゃないかしら」
難しい話なので、すぐにはよく分からなかったが、要するに複数のユイの肉体を魔力で生成して、そこに分割したユイの意識を入れたというようなものだろうか。
と、いう整理をしたが、それも少しずれた認識らしい。シオンが修正意見を入れた。
「ユイさんの意識を疑似身体に入れたというわけではないです。あくまでもユイさんの意識は一つだけで、わたしの分割思考のように同時に複数の思考を並行処理しているのです。その思考の反映先が、それぞれに用意した疑似身体になります。一人のユイさんが思考しているのですが、傍目には複数のユイさんがそれぞれ独自に思考し、行動しているように見えるわけです。ユニークな実験ですね」
「疑似身体はユイの魔力を抽出して作っているわ。彼女が内包した力の姿を象ったものね。ただ、魔力を外に出して固定化してしまったから、一つ一つの身体で見れば、弱体化してしまっているわね」
シオンとアリスが腕組みをしてユイを眺める。
この状況を作り出した根源の二人は、反省している様子もなく、実験結果に満足しているようだ。
「あの、実験が上手くいったようでなによりなんですけど、わたしはいつ元に戻れるんでしょうか?」
ユイの一人が尋ねた。
「うーん、核にしたゴーレムの元が力をなくすまでだから、あと一日ちょっとってところかしら?」
「そうですか」
「今回はユイの思考を核にしたサーヴァントもどきだけど、何れは人形が意思を持つようにしたいわよね。意識と身体の関係性。もう少し他の魔術体系も取り入れて、整理していかないとダメかしらね」
アリスの視線がユイを睨めつける。
ユイの深層まで見通そうというかのような視線に、ユイは身を引いた。
「まあ、ユイに問題ないならいいか。じゃあ、後は、ユイたちの呼び方だな。ユイだけじゃ、紛らわしいしな」
同一人物だから、顔も声も全部同じだ。思考を分割しているだけで、大本が同じなのだから性格にも違いはない。
違いがあるとすれば、髪型と衣装だろうか。魔力の質も若干、異なっているようだ。これはそれぞれの肉体を構成するユイの力の種類が異なるためだろう。実は一人だけ茶髪なのだが、理由はよく分からない。
「じゃあ、手前のユイは……なんか、いつも通りだから普通のユイ」
「普通のユイ!? ちょっと、雑じゃないですか?」
「奥のユイは、その格好見たことあるな。プリンセスフォームとか言ってたヤツだろう」
「はい。プリンセスフォームの力が核になったみたいで、むしろ、プリンセスフォーム以外になれないわたしです」
「じゃあ、略してプリユイ」
「プリユイ……意外にしっくりきました」
プリンセスフォームはユイの最強の攻撃形態だ。本気になると翼が生えて、空も飛べるしピンク色の極太ビームを発射できる。ユイの基本が治癒魔術を主体とした後方支援なのに対して、プリンセスフォームに変身すると超攻撃型の魔法を連発するようになる。欠点は、エネルギーの消費量が多いことで、食事の量が増える。本人も気にして、プリンセスフォームに変身するのは控えているらしい。
今もショートケーキを口に運んでいるあたり、一番食い意地の張っているユイなのは間違いないだろう。
そして、プリユイの向かいにいるユイは、初めて見るスタイルだ。左右の髪を三つ編みにして輪を作る独特の髪型。魔力で形成した衣服は白い羽衣のようなものを身体に巻いただけの露出の高い服である。
「エロユイ」
「違いますよ!? 儀装束っていうんです! 自然と一体になれるすごい服なんです!」
「儀ユイは言いにくいからなぁ。まあ、いいか。儀ユイで」
「投げやりな感じがしますよ、ご主人様」
儀ユイは顔を紅くして頬を膨らませる。
「で、最後に、なんで一人だけ茶髪なんだ?」
「ええと、よく分からないんです。どうしてでしょうか」
桃色の髪をした三人に対して、彼女だけが茶髪だ。しかも、このユイからは魔力をまったく感じない。異能らしい異能を持たない普通の人間も同然のユイだ。
普段は桃色の髪のユイを見ているので、茶髪のユイは珍しい。もともとユイが持っていた素朴で大人しい女の子といった雰囲気が、より強まっている。
「草野です。草野優衣です」
「立香と同じ響きの名前だな」
「そうですね。確かに、どうしてでしょうか。うーん、夢の中でそんな感じの名前だったような気がするんです」
「夢……?」
シオンとアリスのほうをマオは見る。
「正直、こちらのユイさんのことはよく分かりません。術式に間違いはないはずなので、この方もユイさんの一部のはずです」
「深層心理のユイなのかしら。夢って言ってるし、普段のユイとは違う心の奥底にいるユイなのかもしれないわ」
この事案の原因になった専門家も、この「優衣」についてはお手上げのようだ。
これが他の誰にも考え得る現象なのか、それともユイというヒロインの特性によるものかは検証が必要だ。
「他のユイは心当たりあるか? 実は昔は茶髪だったとか」
「そういうことはないと思います」
と、ユイが答える。
「そうですね。でも、何となく懐かしい感じはある、かな?」
プリユイも心当たりはないらしい。
「確かに、記憶にはないけど、違和感はないんですよね」
「昔、茶髪だったっけ……みたいに思っちゃうくらいには自然だよね」
儀ユイとユイもプリユイと同じ感覚のようだ。
茶髪だった時代はないものの、突然出てきた別人というわけでもない。
三人のユイが茶髪の優衣に違和感を抱かないのは、間違いなく同一人物だからなのだろう。
「ちなみにマオさん。本体は誰だと思いますか?」
と、シオンが話しかけてくる。
「本体?」
「言ったじゃないですか。このユイさんたちの身体は魔力を抽出して作成した疑似身体だと。なので、抽出元の身体は生身で残っているわけですよ」
「ああ、確かに。気にしてなかった……茶髪か?」
「その通りです。なんで髪色がまで変わったのか分かりませんが、魔力が抜けた後の身体が、この茶髪のユイさんなんです」
「髪色は魔力が抜けたのとは関係ないんだな?」
「はい。ただ、このユイさんには魔力が感じられませんので、一般人と同じ程度でしかありません。不思議ですが、ユイさんのヒロインとしての性質なのだと思います。本人には自覚がないようですが」
ユイはただでさえ美少女なのに、それが四人も集まっていると思うと眼福だ。一日限定の短さがもったいないが、あまり長くこの状態を続けるのもユイに負担になるらしい。ワルキューレが三騎同時顕現すると消費魔力が跳ね上がるといった事例に近い。
「ユイさん、四人とも空腹感はどうですか?」
シオンがユイたちに尋ねた。
ユイたちが食堂にいたのは、四人になったときに極度の空腹に襲われたからだ。何か口にしないと貧血で倒れてしまいそうなくらいにエネルギーが不足していた。
「今日の昼食美味しかったよね。お腹が空いてたから余計に美味しく感じたのかも」
「ミートソースのパスタ、久しぶりでよかったよ」
「わたしはピザかな。肉厚なトマトがよかった」
「そうだね。あ、でも、プリンセスのわたしはもう少し野菜を摂った方がいいと思うよ」
「う……ピザが美味しくてつい」
自分と同じ顔が三人もいて、同じ食卓を囲んでいるという状況にユイはすっかり慣れてしまったようだ。他人というわけではなく、思考も根本で繋がっているので、会話も違和感がない。ユイにとっては頭の中の会話が現実に出力されているだけだ。
「なるほど、なるほど。空腹感、つまり魔力の欠乏も、食事で解消可能と。だとすると、この逆はどうか」
「逆?」
「ええ、はい。皆さんが四人になったときに感じた空腹は、一人分のエネルギーを四等分したからでしょう。当然と言えば当然ですね」
「あー、そういうことなんだ。それは、そうだよね。四等分したら、お腹減っちゃうよね」
「うんうん。分裂時にエネルギー四等分。となると、統合時にはどうなるか」
「へ……?」
「四分の一に分かれた身体がそれぞれエネルギーを補給して、それぞれが「一」のエネルギーを確保したとすると、明日、統合された身体はどうなるか。ええ、大変興味深いですねぇ」
シオンの眼鏡が光った。
よい実験材料を見つけたとばかりのマッドの表情だ。
だが、そんなシオンの眼光もユイには届いていない。
彼女はもっと深刻な問題に直面していたからだ。
四分の一に減ったエネルギーをそれぞれの疑似身体が補給してから肉体に戻ったとして、もしも、疑似身体で摂取したエネルギーも本体に戻ると考えると、本体が摂取するエネルギー量は、単純計算で普段の四倍の量を摂取したことになるのではないか。
サァッと、ユイたちの顔が青くなる。
「う、運動しよう!」
「そうだね、今のうちに消費しないと」
「明日まで? どうしよう、時間ないよ!?」
「んッ……ん」
「プリンセスのわたし、なんで食べてるの!」
「んぐ……ごめん、まだお腹空いてて……うう」
プリユイは悲壮な面持ちでショートケーキを口に運んでいる。
プリンセスフォームの力を抽出した存在である彼女は、プリンセスフォーム以外になることができない。常時、エネルギーを消費し続けることになるので、他のユイに比べて必要な食事量が格段に多いのだ。
食べてはならないという意識はあるものの、本能的に食事を求めてしまう。
「……プリンセスフォームだから仕方ないとは思うけど」
「食べる理由があるの、ちょっと羨ましい」
ユイと儀ユイが複雑そうな表情をする。
プリンセスフォームによる空腹感は、彼女たちもよく知るところだ。あまり強く否定はできない。
「プリンセスのわたしも食べるのはほどほどにしてね」
「事情は本当によく分かるけど、結局ダイエットしなくちゃいけなくなるんだから」
「わ、分かってる。大丈夫、これが最後だから」
そう言いつつ、プリユイはショートケーキの最後の一口を頬張った。
もともと同一人物だからか、互いのことがよく分かっているユイ同士は遠慮がない。そういうユイを見るのは新鮮だ。
「で、アリス、シオン。本当に、これ、大丈夫なんだな?」
「ええ、大丈夫です。先ほど言った通り、一日もすれば元に戻ります。結局はユイさんの力が表に出ているだけで、本体は同一ですから。疑似身体を構成している術式が止まれば、自然とユイさんの力は統合されますよ」
「それぞれのユイは、本体のユイから独立してはいないってことね。疑似身体に封入したユイの力は、本体に紐付いているから、引き離している力がなくなれば、引っ張られて元通りよ。そこは心配しなくていいわ」
シオンもアリスも口々に安全性を保証する。
魔術やら魔法やらはよく分からないマオにとっては、同一人物が四人に分裂すると言うこと自体が異常事態であって、影響の大きさが気になるところなのだが、専門家二人によると問題はないようだ。
強いて言うとユイのカロリーの件だが、こればかりは気をつけろと言うほかない。どのみち、一日の辛抱だ。
ユイが増えたとなれば、マオのすることは明確だ。
これについてはシオンとアリスにグッジョブと言いたい。
どうあっても一日の夢のような出来事ならば、全力で楽しまなければならない。マオは好きなものは真っ先に食べるタイプだ。取っておくというようなことはしない。まして、一日しか持たないのであれば、我慢するべきではないとすら考える。
「わたしだけ、なんですね」
恥ずかしげに優衣が言う。
マオが寝室に呼び出したのは、茶髪のユイこと草野優衣だ。
「四人の中で一番、いつもと違うユイだったからな。それに、優衣が本体なんだろ?」
「そうらしいです。不思議な感じですけど、わたし、普段と見た目もちょっと違うのに。シオンさんたちはああ言ってましたけど、やっぱり魔力が抜けた所為なんじゃないでしょうか」
「詳しいことは分からん。優衣の身体に異常がなければいいんだ」
優衣の髪の手触りは、いつもと変わらない。
身体の柔らかさも、しっとりとした肌も、香りもいつものユイと同じだ。
それでも、髪色が違うというだけで、ずいぶんと印象が変わる。もともと、大人しめの雰囲気の少女だったが、茶髪になるとそれがより一層強調される。
「ん……ふう……ご主人様、もう熱いですね」
ベッドの上で身体を重ねる。
優衣の温もりが肌を温めてくれる。
ペニスを優しく優衣が撫で、恍惚のため息を漏らした。例え、四人に分かれても優衣の心身に刻まれたマオへの忠誠と愛欲は変わらない。
話をしてみると、優衣はいつものユイと変わりがない。記憶に若干靄が掛かるところがあるようで、夢を見ているみたいだと語るもののノワールに来てからのことはきちんと記憶している。
身体のほうも、優衣の感じるところはそのままだ。
「ひぅ……ん……ん……あん……ふぁん……んん♡」
優衣の熱を帯びたマンコがひくついている。
目の前で雌臭を放ちながら愛液を滲ませたマンコを指で弄る。
マオと優衣は互い違いに寝そべって性器を愛撫している。側位のシックスナインである。マオはぷっくりと充血したクリトリスを舐めて、マンコを指で広げる。
「ひわわ!? そんなとこ、あん、あッ、舐め、たら、あッ、恥ずかしい……!」
「可愛いぞ。もう、ぐちゅぐちゅに濡れてる。恥ずかしいって言いながら、感じまくってるじゃないか」
「い、言わないでください……ん……あ……うう……」
「優衣も舐めろ」
「あ……♡」
勃起したペニスを優衣の顔に突きつける。
手淫でカウパー液が滲み出て、強い臭気が優衣の鼻を犯す。
優衣はマンコをひくつかせながら、ペニスを舐め始める。
ざらざらとした舌の感触が亀頭に響く。
「あ……ん……ちゅ……れろ……れろ……れろ……れろぉ……ふあッ、あんッ、ん……ちゅぷ……、ちゅぷ……ちゅぱ……あ、ぴくぴくしてる……れろれろ……ん……じゅるるる♡」
優衣はペニスが悦んでいるのを確認して、根元まで頬張った。
教え込んだ性技は健在で、しっかりとペニスを咥えて力強く啜っている。
熱い優衣の口の中で涎を満遍なく塗りたくられて、舌が鈴口を責め立てる。腰が跳ねそうになるのを堪えて、優衣のマンコに口を付けて愛液を吸う。
「ひう……んん! あ……ん……はう……れろ……ちゅ……んん♡ あ、ご主人様、そんな、あ、ん、吸ったら、舐められない……ん♡」
「お返しだよ、優衣、口を止めるな」
「あ、ん……はう! ん! んん! あぁ、ん……んむ……ふぅ、じゅるる♡ んちゅ……れる……れる、れる、ちゅぱ……んちゅぅ♡」
優衣はもどかしそうに腰を動かしながら、フェラチオを続ける。時折、マオのクンニに反応して、愛らしく濡れた声を聞かせてくる。
お互いに性器を舐め合っていると、気持ちがどんどんと昂ぶってきて、マオも優衣も次のステップに進みたくて仕方がなくなる。
ペニスは見るからに勃起しているし、優衣のマンコの熟れて涎を滴らせている。
「ご主人様ぁ」
「ああ、入れるから体勢変えるぞ」
ペニスが痛いほどに勃起している。優衣の膣に入りたくて堪らないのだ。卑しいフェロモンをプンプンと漂わせる優衣の身体を抱き締めて、マオは優衣を背後から犯す。
「ひぃ、あ、あああん♡」
優衣が声を張り上げる。
優衣が悶えると同時に、膣肉がペニスに襲いかかってくる。こちらが優衣を犯しているのに、まるで優衣がペニスを食らってるかのような強烈な刺激だ。
「んん……あん……んああ! あ、あ、あ、んぐ……ふう、ああん♡ ああ、あああ、ああああ♡」
油断をするとすぐに果ててしまいそうだ。
マオは優衣を抱き抱えて、身体を起こした。
背面座位に姿勢を変えて、優衣の胸を揉みしだきながらマンコの感触を味わう。
「うあッ、あ、ああッ、これ、すごい……深い、あん♡ あん♡ ああぁ♡」
「優衣、好きなように動け」
「は、い、んんん! あ、あ、はあん♡」
優衣は恍惚の笑みを浮かべて腰を進んで動かした。上下に身体を弾ませて、尻を叩き付ける。強く大きな動きは、優衣の欲望の現れであり、快楽を貪るべく優衣があの手この手でペニスをしゃぶり尽くそうとしている証だ。
優衣の膣はがっしりとペニスを掴んでいるので、引くも進むも強い快感が襲ってくる。
「はあ、はあ、んはあッ、あ、あ、ああん♡ ふああ♡ ああん♡ ご主人様のおちんちん、すごい、気持ちイイッ、あ、あーー♡ んあ、好き、好きぃ♡」
優衣は媚びるように腰をくねらせて快楽に溺れる。
気持ちよくなるために腰を振り、マンコでペニスを擦り上げる。
「んお、んおッ、んああ♡ あ、あ、イイ、イク、んあ、あ、あ、んはあぁ♡」
優衣の胸を鷲掴みにして、強く腰を跳ね上げる。
精巣が全力稼働して、精液を過剰生産する。もう我慢の必要もなく、優衣の膣が絶頂ともに引き締まるタイミングを見計らって、解き放つ。
「あッ、あああああああああああああ♡」
優衣は仰け反り、オーガズムの波に曝される。
白濁液を優衣の膣に注ぎ込む。
快楽に引き攣る膣の感触は最高だ。柔らかく湿った膣肉に自分の遺伝子をすり込みながら、息を荒げる優衣と深く口付けた。