※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第六十二話(静謐)

 西日が差して、執務室を明るく照らす。

 海に面した山の斜面を利用して作られたパラディクレールは、どこからでも夕焼けが綺麗に見える。

 柔らかな風に揺れる白波がきらきらときらめき、太陽はその遙か向こうの水平線に沈んでいく。

 空の色がみるみる変わるこの時間は、街の象徴であり誇りでもある。

 朝日を拝むことが難しいこの街の住民にとって、夕陽は最も特別だ。

 ノワールの紋章が水平線に消える夕陽をモチーフにした図像なのも、数百年の長きにわたって、この儚くも強烈な光を目に焼き付けてきたからであった。

 太陽が海の向こうに消えて、空が群青色に塗りつぶされる。残された橙色の光も、十数秒後には完全な黒に取って代わられる。

 執務室のランプに魔法ランプに光が灯る。

 部屋が暗くなると自動的に灯りが付く仕掛けだ。

 シオンが開発した魔術礼装の試作品で、大量生産が叶えば輸出することも考えている。夜に灯りがあるかないかで生活は大きく変わる。今は多くの家庭では、油や薪の火を灯りにしていて、魔術を用いた照明器具は上流階級にしかない高級品だ。安価に生産することができれば、外貨稼ぎを期待できる商品になるのではないかと期待を寄せている。

 そんな魔法ランプをテーブルの上に乗せて手元を照らし、羊皮紙の巻物を広げた。

 魔法ランプは気軽に使えるので、夜になっても仕事ができる。 

 真っ暗であれば、それを言い訳に仕事を放り出すこともできるが手元が見えるのならば、切りのいいところまで進めないと落ち着かなくなる。これはこれで便利さから生まれる弊害とも言えるだろう。マオの執務室には以前から別の照明器具があったのだから、これは今に始まったことではないが、民間に普及すれば庶民の生活習慣にも劇的な変化があるに違いない。

 新時代の到来を思わせる新商品に照らされた羊皮紙には、決して明るくない報告が並んでいる。

 山々に挟まれたノワールはまだ日和見の姿勢だが、大陸西部は日増しに不穏な気配が広がっている。クロガネ大公国もブリンクウォールも国内で多くの流血が発生している。内戦に至っていないが、その一歩手前といった状況だ。とりわけ、クロガネ大公国という大陸西部の盟主的立ち位置にある大国の弱体化がもたらす治安の悪化は、一国の内部に留まらない。

 その影響は少しずつノワールにも出始めている。

 例えば、この羊皮紙に記されている盗賊の報告がまさにそれだ。

 クロガネ大公国の情勢の変化で食い詰めた者が、盗賊化するのである。不用意にノワール領に踏み込めば、山野に放った使い魔たちが「適切に対処」するのだが、完璧に流入を防ぐことは難しい。経済や治安の悪化が人心の乱れに繋がっている。

 ノワール国内で見ても、汚職で失脚した貴族の領地は治安が悪化しやすくなる傾向がある。それは、貴族の汚職が地域経済の一部と繋がっていることや、領民と領主の世代を超えた繋がりがあるからだ。単に頭をすげ替えればそれで解決というわけではなく、その土地の新しい領主は領民の信頼を得るところからスタートしなければならないので、苦労するのである。

 とはいえ、ノワールの治安維持が機能する範囲であれば、現状では大きな問題は起こりにくい。統治機構さえしっかりしていれば、人心は何れ落ち着くはずである。周辺諸国に比べて戦乱の影響を受けにくく、社会不安を実感しにくいというのが功を奏している。ノワールの戦績も悪くない。むしろ、好調であるとすら受け取れる状況だけに、領主の咎が領民に及ばないことを説明すれば、その地域は早々に落ち着いてくれる。

 むしろ、現時点で問題視すべきは国境の外からやってくる盗賊集団だ。

 それも、巡礼の道の向こう側、レイヨンに巣くった盗賊はすでに三十名を超える集団を形成しているという。

 なるほど、確かに目の付け所は悪くない。

 レイヨンはマオの力が及ばないノワールの外にあり、どの国の支配も及ばない治外法権の大自然が広がる土地だ。

 魔獣の巣窟として恐れられ、人の目が全くと言っていいほど入らない上に、ムートーとの戦いの後、レイヨンには魔獣があまり近寄らなくなったらしい。魔獣にとっても危険な土地と認識されたのかもしれないが、いずれにしても、官憲の目を逃れようという盗賊団にとっては、非常に都合のいい土地になったということだ。

 

「放置というわけにはいかないな」

 

 個々の事情はどうあれ、盗賊団は巡礼の道を越えて旅人や町の住民を襲っている。これを放っておくというのは、ノワール全土を預かる領主としてあり得ない。

 本来であれば、その地域を管轄する貴族に討伐させるところだが、周辺貴族が持つ戦力でレイヨンという危険地帯を行かせるのは自殺行為だ。

 地の利はすでに盗賊団にあるし、魔獣と遭遇するリスクは低くなったとはいえ、依然として存在している。

 盗賊団の対処そのものは、さほど難しくはない。彼らが住み着いた土地の危険性を無視すれば、普通の騎士でも何とかなるが、そこは人命と効率を重視するべきだろう。こうして、マオの元に報告が上がってきたからには、地元の貴族たちの手には余ると判断したからでもある。

 マオは視線を落とした。

 机の下に隠れ、マオの股の間にしゃがみ込む静謐のハサンの頭を撫でる。

 

「は……ん」

 

 静謐はこそばゆそうに目を細める。彼女の口はマオの巨根を咥え込んでいて、涎が顎先まで伝っている。

 静謐の宝具は全身をくまなく猛毒とするもの。その毒性は常人ならば即死するし、魔獣であっても、その多くが命を落とすほどに強力なものだ。とりわけ、粘膜に含まれる毒は強力で、触れるだけでも十分に相手を殺害せしめることができる。

 だが、それもマオが相手では何ら意味がない。

 マオの指揮下にある静謐はまったくの無害だ。彼女の身体には一切の毒素がなく、虫一匹殺すことはできない。

 

「ん……ん……んふう……じゅる……じゅる……じゅるる」

 

 静謐はペニスを咥えて離さない。

 頬張ったまま、舌先で亀頭を穿るように愛撫する。

 甘い快感がマオのペニスをひくつかせる。

 

「ちゅ……はあ……ぴくんとなりましたね……ちゅ……れろ……気持ちよくなってくださっているのですね……はあ……れろ」

 

 静謐は蕩けたような表情でペニスに舌を這わせる。睾丸を優しく愛撫しながら、カリ首を丹念に舐め回す。

 静謐にとって、これは特別だ。

 あらゆる命に触れることすらできなかった彼女は、特に毒性の強い口内粘膜を使って奉仕ができるという状況には喜びすら覚える。

 焦がれに焦がれた身体的な接触が、何の憂いもなくできる。ただそれだけで静謐の身体は熱く火照る。

 ペニス全体を舐めて涎を塗りたくり、根元まで頬張る。

 頬を窄めてカウパー液を吸いながら、じゅぼじゅぼと音を立てて顔を前後に動かした。

 

(マスターを口の中に感じる。ペニスの熱。マスターの魔力が、激しく猛って、もうわたし……)

 

 静謐の一生懸命な口奉仕は、マオを欲情させるには十分だ。

 舌のざらざらが裏筋を這い回り、熱く濡れる口の中もしっかりと竿を挟み込む唇もすべて気持ちがイイ。

 精液が生産されていくのが分かる。それは、あたかも体内の魔力が睾丸を通じて精液に変換されているかのような感覚だ。

 

「静謐……ッ」

「ん……!」

 

 静謐の頭を掴んで、深く喉の奥にペニスを押し込む。苦しげな彼女の喉奥に精液を一気に解き放った。

 

「が……ん! んぐ……んん!」

 

 びく、びく、と静謐が痙攣する。

 流し込まれた精液の飲み、マオの魔力がサーヴァントの身体に染み渡る。

 静謐は口にペニスを含んだまま、腰をひくつかせ、涙を浮かべた。じわりと広がる熱は静謐の心を蕩かしていく。

 

「はふ……んちゅ……んあ……ぁ……」

 

 口から引き抜いたペニスは静謐の涎でベトベトだ。

 惚けた静謐は口内に残る精液を飲んで、脱力している。

 

「静謐、終わってないぞ」

「はい」

 

 机の上から這い出した静謐を立ち上がらせる。

 年若い少女の姿をしているが、彼女の肉体は妙齢の女性のようにも見えるほど熟れている。均整の取れたしなやかな肢体に大きすぎず、小さすぎない絶妙な乳房の先にピンと立つ乳首を主張を強めている。

 マオはそんな静謐の乳首を摘まむ。固くコリコリとした感触だ。くすぐるようになで回すと静謐は吐息を荒げながら、太ももを擦り合わせる。

 

「もう我慢できないのか?」

「は……う……」

 

 挑発するように聞くと静謐は恥ずかしげに視線を逸らす。

 机に腰掛けた静謐の乳首を弄り続けながら、マオは静謐の表情の変化を楽しんだ。

 暗殺教団の長を務めたという彼女の前歴には相応しからぬ少女然とした反応である。

 乳首をこねくり回すだけで、愛液が溢れてきている。

 

「直接触ってないのに、机にまで零れてるぞ」

「申し訳、あん……あり、ませ……ん、ふぅ、ん」

「感じやすいな。そんなに乳首好きか?」

「あ、ん……そんな……」

「正直に答えろ」

「ん……ふ、あ……はい……好き、です」

「好きか」

「はい……ん、あ、それ、好きです。乳首、マスターに抓られるのが、はぁ、あ……イク……」 

「おっと」

「あ……」

 

 静謐が昂ぶったところで、マオは乳首から手を離す。

 静謐は絶頂の寸止めを喰らって、途方に暮れたような表情をする。

 

「マスター……」

「乳首だけで先にイッたらダメだろう。どうせなら、俺も気持ちよくしてもらわないと」

 

 ペニスがギンギンに勃起している。

 静謐の視線は自ずとマオの一物に向かう。

 静謐を弄っている間に、十分に精液を蓄えた男性器だ。静謐は思わず生唾を飲んだ。それほどまでに、マオのペニスは禍々しく、力強い。

 

(まだ交わってもいないのに、もうわたしの子宮が疼いている)

 

 身体に教え込まれたメスの感動が蘇る。

 求めて止まなかった身体接触とそれに伴う快感は、他と比べるべくもない。

 静謐は潤んだ瞳でマオを見上げている。その表情に興奮しない男がいるだろうか。静謐の膝を押さえて、股を広げる。ピンク色のマンコの肉が褐色の肌と相まってより鮮やかに見える。

 新鮮な媚肉にペニスを擦りつけ、膣穴に亀頭を押し込んだ。

 

「あ……あふ、ん」

 

 静謐の膣肉が震えているのが伝わってくる。ペニスを握った膣肉に導かれ、ペニスは奥へ奥へ挿入されていく。

 熱くぬめる膣内は適度に痙攣しながらペニスにしゃぶりついていて気持ちがイイ。瑞々しいマンコの襞にカリを引っかけて、マオは腰を前後させる。

 

「ひ、ん……あッ、あッ、あッ、んあぁ♡」

 

 机の上に横たわり、静謐は切ない声を漏らす。

 身体が前後に揺れる度、膣が締まってペニスを扱いている。

 静謐の膣内は狭く、隙間なくペニスに絡みついている。少し動かすだけで腰砕けになりそうな快感を与えてくる。自然に心拍数が上がり、抽挿が早まっていく。

 マオは静謐の膝を押して、腰を浮かせる。体重を掛けやすい体勢を取らせて、膣壁にペニスを擦りつけるのだ。

 

「あッ――――んひぃ♡ あ、あ、はあぁ♡」

 

 静謐は身を捩り、快楽を享受している。

 マオと同じかそれ以上の快感を静謐が味わっている。

 人肌の熱をマンコの中に感じるだけで、静謐にはこの上ない満足感に繋がっているのである。

 

「お、奥……ん、あ……イイ、はあ、あ、んん、ああん♡」

「静謐、マンコ締めろ。もっとだ」

「あ、あ、はい、んあ、あ、はあ、ああん♡ んお、おあ、ふああ♡」

 

 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、と粘つく音がする。

 マオのペニスの動きに合わせて、リズミカルに淫音が鳴り響く。

 静謐の嬌声も熱を帯び、全身からしっとりと汗を滲ませる。

 本来ならば、この時点で部屋中に猛毒が散布されているも同然の状況ではあるが、マオと繋がっているからこそ、静謐はこの快感を味わうことができるのだ。

 

「あふ、んあ……あ、マス、ター、あ、ああ、んあ、ああん♡ あ、あ、昇って、くる、ん、すごいのが、あ、ああ♡」

「静謐、出すぞ。しっかり受け取れ」

「は、い……あ、んッ」

 

 静謐は唇を噛んだ。

 ペニスが膣の一番深いところに押しつけられて、意識が飛びそうになる。

 どくん、とペニスが跳ねて灼熱の精液が注ぎ込まれる。

 

「はあ――――ああああ♡」

 

 静謐は腰を浮かせ、背中を反らして悶えた。

 

「イクッ、あ、ふあああああああ♡」

 

 中出しの快感に静謐の愛らしい顔が蕩ける。舌を出して満足げに微笑みながら、彼女の膣と子宮はどくどくと流し込まれる精液を貪欲に啜っている。

 ひく、ひく、と腰が小さく跳ねている。

 静謐にとってマオの精液はそのまま魔力源になる。つまりは栄養だ。快楽と栄養を同時に摂取することができるセックスに、静謐は否応なく溺れていく。

 

「おッ、おッ、おほッ、あ、んあ、あん、お、お、おお♡」

 

 ゆさゆさと身体を揺さぶられて、静謐は軽い絶頂を繰り返す。

 射精したままペニスを抜くことなく、マオは依然として勃起したままのペニスで静謐の膣奥を突き続けている。

 これほどの美少女との結合を一度や二度の射精で終わらせるなどもったいない。満足するまで、マオは静謐の膣に精液を注ぎ続けるのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 マオと交わってから二日後の早朝、静謐はパラディクレールを出た。

 暗殺者のサーヴァントとして、与えられた任を果たすためであり、ノワール南方の国境を越えた先にあるレイヨンにアジトを設けたという盗賊団に対処するためであった。

 盗賊団の実態を調査し、もしも本当に盗賊稼業を働いているというのであれば、静謐の判断で処断することを認められている。

 闇に潜み、情報を集め、時に標的に命を奪う。なるほど、アサシンに相応しい仕事だ。

 大魔術師のマーリンも根源接続者として絶大な万能性を発揮する愛歌も、今はブリンクウォールの対応を優先している。能力は多岐にわたっても魔力は無限ではない。力を発揮する対象は限定しなければならない。

 静謐は霊体化して高速で移動する。

 彼女の足ならば、国境を跨ぐのに二日もかからない。

 魔力をたっぷりと注がれた身体は、絶好調だ。

 直接、胎内に魔力を注がれるということは、静謐の体質的に本来はあり得ないことだ。それが可能なのは、マオを主として戴いているからである。

 静謐にとって、およそ考え得る限り最高の環境にいる。だからこそ、今はただ、マオに仕事を与えられたことが嬉しい。

 愛する男のために仕事ができると思うと、暗殺という後ろ暗い職務すらも前向きになれる。生前ですら、これほどの気持ちの高揚はなかった。

 途中、国境の町で被害状況の調査に一日を費やし、改めて巡礼の道を辿った。

 盗賊団は集団で農場を襲い、家畜や野菜を収奪していくのだそうだ。先日は巡回中の騎士が居合わせて反撃し、五人を討ち取ったものの、多くはし損じてしまったという。ただの盗賊ではなく、訓練を受けた騎士が混じっている可能性が高く、魔法を使う者もいるようだ。

 この世界で魔法を使う才能は貴重だ。盗賊などしなくても、栄達の道はいくらでもあるだろう。しかし、残念ながらそういった正規ルートで働くことができない性分の者も少なからずいるのが人間社会だ。性格なのか、運がなかったのか、道を踏み外す者というのは、どれだけ成熟した社会でも発生する。そして、返す返すも残念なことに、ノワールであっても、そういった者たちの受け皿にはなり得ない。

 日々の糧に困るというほど貧困に喘ぐ国ではないが、安定期が長かったからこそ法秩序が行き届いている。むしろ、安定した社会だからこそ、その安定を覆すような外的要因には強い拒否反応を示す。無法者への風当たりは強く、早急に対処しなければ、治安維持能力に疑問符を付けられてしまう。それは、ノワールでの幸福な生活を享受している静謐にとっても容認しがたいことであった。

 静謐は途中の村で被害状況の聞き取りをしてから、夜闇に紛れて国境を渡った。

 トラムが復活したときの戦闘で、周辺の魔物の多くが駆逐され、その後も開発を進めるための駆除が続けられたため、以前よりも危険性は低下している。

 千年もの間放置された廃墟の町(レイヨン)に、盗賊団が拠点を構えることができたのも、そうした結果の裏返しであった。

 底冷えのする山道を抜けて峠に着くと、のっぺりとした暗闇に沈むレイヨンの町並みを見渡すことができた。

 ポツポツと見える灯りは、盗賊団の焚く火だろう。彼らはブラ・ダルジャン神殿に居を構えているようだ。

 静謐は霊体化して山を降り、気配を殺して神殿に近づいた。

 気配遮断スキルを持つアサシンのサーヴァントが諜報に徹した時、その存在に気づくことはほぼ不可能だ。

 サーヴァントでもなければヒロインでもない一般人に毛が生えた程度の魔法使いでは、何十人いようと結果は同じだ。

 知らない術式の魔術――――魔法によって造られた結界が神殿の周囲に張ってある。見知らぬ術式ではあるが、一目で拙さが見て取れた。ヒロインの手によるものでもなければ、古くからこの神殿を守ってきたものでもなく、盗賊団の魔法使いが張ったものだろう。もともと、さほど難度の高い魔法ではなかったようだし、すでに解れてきているのが分かった。

 百貌のように踊るように結界をすり抜ける技術を静謐は持たないが、この程度の結界ならば、さしたる苦労もなく抜けることができる。

 静謐は難なく神殿内部に侵入し、漂う違和感に足を止めた。

 

(何だ……?)

 

 神殿の内部は静まりかえっている。

 重厚な闇がどこまでも厚く広がっていて、耳が痛くなるほどの静けさが横たわっていた。

 静かなのも暗闇なのも、それは問題ない。夜更けなのだから、宴が盛り上がったとしても、そろそろ眠りに就く頃合いだろう。

 だが、それにしても静かすぎる。

 盗賊団の全数は分かっていないが、十人から二十人は神殿の中にいるはずだ。松明に火がついているのだから、誰もいないということはなく、見張りが立っていてもいいだろう。

 魔法の結界を過信して見張りを置かなかったのか、あまりにも無防備ではないか。

 答えはすぐに明らかになった。

 暗闇に目をこらすよりも先に、嗅覚が鋭敏にその異変を捕らえていた。

 それは紛れもない血の臭い。

 それも一人や二人ではない。

 夥しい数の人間ないし獣が神殿内で血を流していることを示唆していた。

 この時点で静謐の活動は、盗賊団の調査から捜索に切り替わっていた。

 

(これは……魔物の手によるものか?)

 

 息を潜めて霊体化した静謐は、神殿内の探索を続ける。

 廊下にも部屋にも、そこかしこに糸のようなものが張ってあるのに気づいた。

 それは鋭く鋭利で、ピンと張ってあり、知らずに触れれば人間の肉も骨の簡単に切断できてしまいそうだった。

 おまけに、魔力が通っていて常人の目に見えないようになっている。

 霊的存在である今の静謐への影響はないが、この糸が張り巡らされた神殿で常人が生活するのは不可能だ。

 状況証拠からしても、盗賊団の生存は絶望的といっていい。

 糸の密度は神殿の奥に進むほど高くなっていく。

 霊体への攻撃性を持たないので、静謐には障害にならない。

 案の定、廊下に男性の死体が転がっている。

 流れ出た血が床を赤く染めている。

 ここだけで三人分の死体があって、バラバラに切断されていた。

 近くの部屋の中も同じような状況だ。逃げようとしたのか窓を開けたまま胴体を切り落とされたと思われる死体もあった。

 静謐が神殿に到着する、ほんの少し前にこの惨劇が発生したようだ。

 

(首はどこに?)

 

 奇妙なのは、どの死体にも首がない。

 腕や足、胴体はあるが首だけが消えている。この惨劇を引き起こした何者かが持ち去ったのだと考えると自然だが、その動機は分からない。

 糸の密度が高くなっていく方向に進み、行き着いたのは、礼拝堂だ。

 この神殿で最も広い空間があった場所である。

 

(これでは、まるで蜘蛛の巣だ)

 

 四方から伸びる無数の糸が、礼拝堂の中心で巨大な球になっている。色とりどりの糸が形作られた球の傍らに少女が腰掛けている。

 空中に張った糸を椅子にして、宙に浮かんでいるようにも見える。

 露出の多い黒い衣装に、艶のある黒髪のボブヘアが目を引く。

 腰に下げた刀や衣装から、おそらくは立香と同郷か、それに近い文化圏からやって来たヒロインの一人だろう。

 ノワールに登録されているヒロインではないし、気配からして人間というわけでもなさそうだ。

 人の姿をした魔物の類。

 静謐の警戒心が、さらに一段階上昇した。

 彼女は髑髏を片手に髪を梳っている。楽しげに微笑みながら、髑髏に残った金髪を櫛で梳くと、髪はまるで生きているかのように伸びて神殿に張り巡らされた糸の仲間入りをする。

 

(これはすべて髪!)

 

 静謐は驚嘆して息を呑む。

 少女が手にする髑髏は一つではなく、髪の球の表面にいくつもぶら下がっているし、床にも置いてある。

 ここを根城にしていた盗賊団も、彼女の手に掛かったのは確実だ。

 人を害する魔がここにいる。

 それが分かっただけでも収穫だ。

 彼女が次にどのような行動に出るか分からないが、ここで静謐が戦うのは時期尚早だろう。

 相手の能力が不透明な現状では、これ以上の深入りは厳禁だ。マオに報告しつつ、調査を継続するのが望ましい。

 静謐は、息を潜めて神殿から引き上げて、一路、マオの元に走った。

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