※この作品はR-18です。

異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話   作:もう万体

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第八話(立香)

 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 仰向けに寝そべったマオの上に赤毛の少女が跨がっている。

 立香である。

 頬を上気させて、立香はマオに身体を擦りつけてくる。

 

「マ、マオさん、わたし、も、う……」

「もう降参なのか?」

「あ、う、まだ……頑張れます、ん♡」

 

 苦しげに立香は呻く。

 彼女の衣服はベッド脇に脱ぎ散らかされている。

 その代わり、立香の素肌を覆うのはスライムだ。網の目状に広がったスライムが立香の肌の上を這っている。

 スライムの表面はつるつるしているようでいて、その実微細な毛が構築されている。それが、立香の敏感な肌をなぞり、性的興奮を煽る。とりわけ性器を撫でられた時に感じる快感は、自分の指では決して得られないほど強烈で切ない。

 

「はうう、んふう……あん♡ ふうあ……はあう♡ あふぅ♡」

 

 立香は切なげに吐息を漏らしている。

 熱を帯び、潤んだ瞳は欲望に満ち満ちている。

 立香の乳首にスライムが吸い付く。ざらつく表皮で乳首をなぞる。

 

「ひゃあ、ああん♡」

 

 甘ったるい声を発して立香は仰け反る。

 

「乳首、乳首そんなに吸わないでぇ♡ あッ、あッ、あッ♡」

「乳首、そんなに好きなのか?」

「違います、あん、でも、この子に吸い付かれると、ざらざらがはっきり分かって、あ、あ、ぞくぞくする」

「だけど、腰を止めるのはよくないな」

「ご、ごめんなさい♡ んふ……あ、んん♡」

 

 立香がしているのは素股だ。

 挿入は許可されておらず、マンコの入り口でペニスを擦っている。

 

「はあ、んふう……ふう……ぁはう……ん……ふう……はう……はあ……はあ……ん……ふう」

 

 立香の腰が前後に動く。

 マンコから愛液が滲み出てきて、ペニスに塗りつけられている。

 

「ん、はッ、あッ、ん……スライム、んんッ、はあ……あう……ん……んふう……はあ、はあ、はあ」

 

 立香のアナルをスライムがつつく。

 中に入ってこないのは、マオが禁じているからだろう。

 スライムはもどかしげにしながら、表面を舐めるだけで我慢している。

 

「あッ、く……ん……くう……はあ、はう……あッ、ぐ、く……んん……んひぃん♡」

 

 そして、その刺激は立香にとっても毒だった。

 アナルセックスの快感も、立香は徹底的に叩き込まれている。

 スライムによって全身をくまなく愛撫され、イキ狂う爽快感も知っている。

 身も心も性の欲望にどっぷりと浸かりきった立香にとって、この寸止め状況は苦痛であった。

 

「はふ♡ はふ♡ んふ♡ ふあ、あ、あ♡」

 

 立香は腰を振り、ペニスを捏ねる。

 そうしながら、まるでオナニーをするかのように、クリトリスを擦りつけている。ぐちゅぐちゅと淫らな音が股から響いている。

 

「ね、ねえ、マオさん。まだ、入れちゃダメ?」

「もう我慢できないのか? こらえ性がない。牢で頑張ってた立香は二十日も我慢したってのに」

「あ、あれは、もう昔の話だから。マオさんのおちんちん、こんなすぐ、ここにあるのに、我慢なんて、ん……んん」

 

 立香は我慢できないとばかりに股を擦り付けてくる。

 

 

「そんなに入れたいのか?」

「う、うん、入れたい」

「マシュが帰ってくるまで待てないのか?」

「ご、ごめんなさい、んふう……あ、ま、待てない。今すぐ、入れて欲しい……早く、気持ちよくなりたいよぉ」

 

 切なくて気が狂いそうだ。

 ペニスを入れて膣の奥まで制圧して、子宮の入り口をずんずん突いて欲しい。それがどれだけの快感を与えてくれるのかを立香は知っている。覚えてしまった以上は、目を逸らすことはできない。

 所用で出かけたマシュの帰りを待つという約束も今はもう果たせそうもない。

 

(パブロフの犬みたい。わたし、おちんちん入れてもないのに、濡れちゃってる。お腹の奥、きゅんきゅんしてる。入れるの、楽しみすぎる)

 

 立香の膣は涎を零す犬のように愛液を流している。

 マオのペニスを見るだけで発情する。匂いを嗅げば、セックスの準備万端だ。直接マンコにペニスを擦りつけてしまえば、もう頭がどうにかなってしまう。

 すでに飛びそうな理性を頑張ってつなぎ止めている。マオがダメだと言うから仕方なく我慢している。そうでなければ、飛びついて挿入してしまうだろう。

 餌を前にお預けをされた犬のように、立香は切ない苦悶に苛まれている。

 

「そこまで言うなら、入れていいぞ」

 

 マオが許す。

 ガチガチに固くなったペニスが、さらに魅力的に見える。

 

「あ、あはッ、ありがとう。すぐ、するから……はあ、ふう……ん♪」

 

 立香は許可が下りたことで驚喜した。

 腰を起こして、ペニスをマンコに宛がう。

 余計な動作は一切不要だ。

 一秒でも早く繋がりたくて仕方がない。男女の機微も何もなく、ただ繋がりたいという欲求だけがある。

 腰を下ろす。 

 マオに徹底的に教育を施された膣は、マオのペニスを何の疑問もなく咥え込む。

 

「あ……んふッ」

 

 ずぶり、と膣肉を抉るペニスが入ってくる。

 

(あ――――ああ、これ、すごいッ、大きい♡)

 

 びくん、と立香の背中が反る。

 挿入だけで、軽く絶頂してしまった。

 突き上げる快感が頭を真っ白にする。

 

「どうした? 動かないのなら、抜くぞ?」

「あ、ち、違う。軽くイッたから、びっくりしただけ。動くから。マオさんも、気持ちよくするか、らぁ♡ んあッ♡ んふう♡ はあぁ♡」

「動きが単調だとイケないぞ」

「ん、ん、ごめんなさい。ん、あまり、経験ないから。ふう、あう……んッ、んッ、んんんッ」

 

 不慣れな騎乗位に悪戦苦闘しながら立香はペニスを膣で扱く。

 まさか、自分が男とこんな関係になるとは夢にも思っていなかったが、今となってはセックスできないことのほうが辛い。

 この快感をどうしてもっと早く味わっておかなかったのかと不思議に思うほどだ。

 

「んく……んく……んあ……ああん♡ あ、気持ちイイ……ああ……んあ……ふあ……あ、あ、あ、んんッ、あッ」

 

 立香の腰が不随意に跳ねる。

 時に快感が身体を勝手に操作している。

 弾むように腰を上下させ、円運動も取り入れた。

 気持ちよくなるために、ペニスの挿入角度をずらす。

 

「ん、はあ――――あッ、あん♡ はあう♡ おっきぃ♡ あ、太い♡ 指じゃとどかないとこ、とどく……ああ、んあ、あ、あ、あ♡」

「欲しかったチンポもらって、大喜びだな、立香」

「ん、ん、だって、気持ちイイ……あ、ふあッ、あ、これ、欲しかったッ、あ、あ、ふあッ、あん♡ あ、ああーー♡」

「スライムが寂しがってるな。アナルのほうはスライムにくれてやる」

「ふえ……あ゛ッ――――ああああああああ♡」

 

 立香は目を見開いて悶絶した。

 アナルにスライムが突入してきたからだ。強引にアナルをこじ開けて直腸に入り込んでくる。体表につぶつぶを作り出して、より強く立香を感じさせるように工夫までしている。

 

「これッ、これダメぇーーーー♡」

「何がダメなんだ?」

「お、おマンコ入ってるのに、お尻もなんて、同時、あ、あはッ、あ、あああ、動く、スライム、つぶつぶ、ごりごりして、回って、あ、お尻で、んほぉぉぉお♡」

 

 立香のアナルをスライムが出入りする。太い触手のような形状に変化している。人間のペニスとは異なる形状、立香の直腸を性感帯に作り替えたおぞましい魔物が、変幻自在の形態を活かして立香の体内を弄んでいる。

 うねるスライムの動きは読めない。直腸内で回転運動をしている上に表面が膨らんだりしぼんだりを繰り返している。単純に前後に出し入れする動きではない。

 

「お、おうぐ……んあッ、あ、う、くふあ♡」

「立香、腰が止まってる」

「ん、ぃああ♡ ふはッ、あ、あ、ああ♡」

 

 立香は返事もせず、言われたとおりに腰を振り始める。

 熱を帯びて虚になった瞳。だらしない笑顔。普段の彼女とは似ても似つかない快楽に酔い痴れる痴女そのものであった。

 

「マンコとアナル、どっちが好きなんだ?」

 

 と、マオが聞いた。

 立香の膣肉がこうしている間にもマオのペニスを締め付けてくる。

 

「ふ、へあッ、なんで、そんなこと」

「いいから答えろ、どっちなんだ?」

「あ、ん……ま、マンコが好き、子宮の奥、ずんずんされるの大好きで、あ――――い、ぎいぃ♡」

 

 立香が突然呻いた。

 アナルに入り込んでいたスライムが膨張し、ゴリゴリと直腸壁を強く愛撫したのだ。さらに乳首を抓り、強く吸う。

 立香の回答が気にくわなかったらしい。

 

「スライムのヤツ、よほど立香が気に入ったんだな」

「ち、違うよ、スライムくんが、気持ちよくないわけじゃ、ない、へあッ、あ、お尻、強くしないれ……!」

「アナルのほうが気持ちよさそうだな。こっちは抜くか?」

「ダメッ、ダメッ、抜いちゃ、あひッ、おかしく、なっちゃうからッ、あん♡ ふう、ふう、あ、あ、ああ♡」

 

 立香はマンコとアナルの両方を同時に抉られて身もだえする。

 汗ばむ頬に髪を張り付かせ、懸命に腰を振る。アナルを虐めるスライムの動きに邪魔されて、膣での奉仕が不十分だ。唇を噛み、気を逸らさないようにしてマオのペニスに奉仕する。

 膣を意識して力を込める。ペニスの大きさも形もイメージできる。擦り上げて、吸い上げる。

 

「いいぞ、立香。こつを掴んできたな」

「ん……く……ふぐ……あふ……ん、ん、あふ……気持ちイイ、ですか?」

「気持ちイイぞ。その調子」

「はい……ん、動きます。もっと、気持ちよくなってください!」

 

 立香は俄然やる気を出して腰を打ち付ける。

 マンコもアナルも気持ちがイイ。

 すべてが融けて溶けて混ぜ合わさって一体になっていくような感覚。

 

「ふう、ふう、ふう、あ、あ、あ、ああん♡ あ、イク……あう……イクッ」

「ああ、俺もそろそろイク」

 

 マオは登り詰めていく射精欲求を覚えた。

 ペニスが精液の発射態勢に入った。どくんと脈打つ。その脈動は立香にも伝わる。

 

「来て、来てくださいッ、ん、んんッ」

「イクぞ」

 

 マオが立香を突き上げる。

 同時に精液を膣内に注ぐ。

 

「ふ――――んくううぅぅうううう♡」

 

 立香は強烈な多幸感に見舞われる。

 子宮が下りてきて。ごくりごくりと精液を飲み干そうとしている。

 オーガズムの衝撃で頭が止める。理性が蕩ける。 

 

「は、ふう……ぅ、あ……」

 

 ぐったりと倒れ込む立香をマオは受け止めた。

 

「もうグロッキーか?」

「すみません、ちょっと、休憩させてください……はあ、はあ、はあ」

「仕方ないな。じゃあ、しばらくこのままだな」

「あ、う……はい……」

 

 立香は頬を染めて頷く。

 マオがそう言うのならば、そうなのだ。

 ペニスもスライムもまだ繋がったままだが、このまま休憩だというのなら繋がったまま休憩する。恥ずかしいが、セックスを散々している仲だ。否やはない。

 立香はマオの胸に額を擦り付け甘えるように体重を預ける。マオは、そんな立香の髪を指で梳き、しっかりと抱きしめた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 沙条愛歌。

 二年前に鎧の町に現れた聖女である。

 金色の髪と碧眼の愛らしい少女の姿をしたヒロイン。

 彼女のおかげで、衰退する一方だった町は蘇った。

 愛歌が振りまく妙なる技の数々は、まさに伝説そのものだ。

 家畜を襲う魔獣をあっさりと退け、野盗を討ち、腐った湿原を実りある畑に作り替えた。

 川の形が変わるほどの大氾濫を経験して以降、人が足を踏み入れることのなかった湿地帯が、小麦の生産地に生まれ変わったのは、鎧の町にとってこの上ない成果だった。

 町長のウィリアムにとって、愛歌は大きな収入源であり、鎧の町の核となった。

 町の人々も挙って愛歌を賞賛した。

 奇蹟の人とか聖女とか、そう呼ぶようになった。

 その一方で、すべてが鎧の町にとって有益であったかというとそうでもない。

 最大の問題は、中央政府との関係だ。

 もともと、クロガネ大公国において、ヒロインの所有権はすべて大公一人に帰結する。どれほどの身分があろうとも、ヒロインを占有することは御法度だ。

 それはヒロインが、何者であっても劇薬であり、正しく管理しなければならないという基本的な考え方があるからだ。

 ヒロインの力を使い、領土を拡張、統治してきた国家ならば、彼女たちの脅威を理解している。ヒロインに対して厳しく当たる国もある中でクロガネ大公国は上手く関係を築いていると言えるだろう。

 鎧の町の現状は、そうしたクロガネ大公国にとって明確な内憂である。

 愛歌が、ただの無能力者であれば、まだ何とでもしようがあった。だが、愛歌はおよそ百年近くも軍部の中核をなしてきたヒロインを討ち取ってしまうほどの怪物である上に、中央政府に流れてくる情報だけでも、その能力の幅が広い。

 各国政府が血眼になって探している、万能型の能力者だ。それも、トップクラスに強力な。何としてでも、中央政府で囲い込む必要がある。

 だが、愛歌への対処が喫緊の課題であるにも関わらず、クロガネ大公国は二年もの間、軍を発することがなかった。

 理由は単純で、愛歌に敗れたヒロインの抜けた穴が大きすぎたのである。

 クロガネ大公国は軍の中核に一騎当千のヒロインを置き、周辺諸国に睨みを利かせていた。

 彼女は強いだけでなく、不老でもあった。

 ヒロインの中には、そもそも人間でないものもいる。彼女はその類であった。先々代の大公の時代から、軍事力の中心として活動していたヒロインがいなくなったのだから、中央政府が青ざめるのも当然だった。

 もちろん、クロガネ大公国にいるヒロインは一人だけというわけではない。が、愛歌の実力が未知数であり、倒されたヒロインが国内有数の能力者だったことから、さらに別のヒロインを送り込む勇気は大公にはなかった。

 屋台骨を失った大公軍の再編成と、不安定な周辺諸国への対応なども重なり、鎧の町への対応が後手後手になったというのは否めなかった。

 鎧の町には、愛歌を除いて戦力らしい戦力はない。せいぜい、町の自警団くらいのものだ。ならば、国内の引き締めと周辺諸国への睨みを最優先として、愛歌のことは監視程度に止めておく、というのがクロガネ大公国のとりあえずの対応だった。

 そうして、図らずも手に入れた時間的猶予が、鎧の町を成長させた。

 たったの二年。

 それでも、農業の生産性を向上させるだけで、人々の生活水準はかなり上がる。愛歌が暮らした二十一世紀の日本に比べ経済は単純で、自然への依存度が高いため、自然を自在に改良できる愛歌の力は相性がよかった。

 

「たくさん実ったわね」

 

 倉庫にうずたかく積まれた麻袋はパンパンに膨らんでいる。中に入っているのは小麦だ。小麦の生育が難しい湿地を乾かし、土壌改良を施して育てた鎧の町産の小麦である。

 小麦があればパンを焼ける。冬の飢えを凌ぐことができる。もともと、食料自給率が低い鎧の町は、他の町からの行商によって食料を得ることが多かったが、中央政府との関係悪化の煽りを受けて、行商人の足が遠のいていた。事実上の経済制裁を受けている状態と言えた。それでも、この冬は問題なく乗り越えられるだろうし、次の一年も不自由はないだろう。

 この世界は食糧と水があれば、生きていける。

 中央政府との距離が開いて、経済活動が滞っても、農業の土台ができていれば何とかなる――――そういうことに、町民たちが気づいた二年だった。

 すべて、愛歌のおかげである。

 愛歌がそのように魔術をかけた。結果が出るのは当然だ。すべて分かりきった話である。

 当初、中央政府との対立は町民を大きく不安に陥れたし、逃げ出す者もいたが、たったの二年で大きく変わった鎧の町の状況は人口を微増させている。五年もあれば、都市機能は大きく拡充されるのではないだろうか。

 

「愛歌様の奇蹟のおかげです」

 

 ウィリアムが恭しく頭を垂れる。

 町長として町の権限の頂点に立つ彼は、最も多くの奇蹟をその目で見てきた人物だ。

 二年という月日は、ウィリアムが愛歌の奇蹟に酔い痴れる期間でもあった。

 

 

「奇蹟なんかじゃなくて、魔術なんだけれど。これくらい、色位ならやってのける程度のものでしょうし」

「色位というものが、何か私には分かりませんが、あなたの奇蹟は紛れもなく我らの救いとなりました。パンを用意していますので、ご休憩されてはいかがですか?」

「あら、そうなの? じゃあ、そうしようかしら」

 

 愛歌にとって休憩は必要不可欠のものではない。

 彼女は人の身である。

 極東の魔術の名門である沙条家の生まれなので、先祖に人ならざるものが入っていないとも言えないが、少なくとも両親は魔術を伝えるだけの純粋な人間であった。彼女もまた人であることに違いはない。

 だが、疲労を感じるということがなかった。

 愛歌の肉体は、常に最良の状態を維持する。疲労だけでなく、毒も病も呪いも彼女を侵すことはあり得ない。それこそ、幻想種すらも殺傷する毒ですら、彼女は顔色を変えることもなく無効化する。

 その力はもちろん、彼女だけでなく他者にも有効で、

 

「聖女様! 聖女様! どうか、息子を診ていただけませんか!?」

 

 倉庫から町長宅に戻る時にも、こうして急な頼み事をする者がいる。

 五つになろうかという男の子を抱きかかえた母親だ。

 腕の中の子どもはどこか痛むのか苦痛に顔を歪ませて、歯を食いしばっているようだ。

 

「どけどけ、愛歌様はお疲れなんだ、そんな些事にかかずらっている場合じゃない」

 

 ウィリアムが愛歌の前に出て、母親の訴えを退ける。

 愛歌は特別だ。

 その力は万能で、まさしく奇蹟だ。

 普通の町民が願う程度の奇蹟ならば、片手間で叶えてみせるだろう。

 理屈は分からない。

 魔術という特別な技術だということは教えてもらえたが、ウィリアムが手を出せる類ではないということが理解できただけ。

 人の欲望は、願いは無限にある。

 その一方で愛歌はたった一人しかいない。

 もしも、愛歌の力が有限だったなら、と思うとウィリアムは恐ろしくて堪らない。

 彼女の力で富を得た。

 中央政府に睨まれながらも、今日まで鎧の町が存続できたのは愛歌の存在があるからだ。もしも、万が一にも愛歌の力が失われるような事態があってはならない。

 ウィリアムは、次第に愛歌と他者が接触するのを厭うようになっていた。

 

「そんな、お願いです。お腹が痛いって、ずっと言ってるんです。どうか、どうか」

「もしも、流行病だったらどうするのだ。愛歌様が体調を崩されたら、この町は終わりなんだぞ」

 

 忌々しげにウィリアムが怒鳴りつける。

 町長としての権利権限は、封建制の社会では絶大だ。

 誰も彼を裁くことはできないし、ウィリアムがいなければ行政は回らない。愛歌もウィリアムの管理下にいる。

 もしも、ウィリアムの意に反する行動ができる者がいるとすれば、それは、愛歌本人以外にはいない。

 

「いいじゃない、おじさま。少し診るだけなら時間はかからないのだし」

「し、しかし」

「大丈夫。その子、流行病なんかじゃないから」

 

 ひょっこりと恰幅のよりウィリアムの影から顔を出した愛歌が、うずくまる母親の前に歩み出て、子どもに手をかざす。

 苦悶に顔を歪めていた子どもが身体の力を抜いた。

 本人も何が起こったのか分からないといったようにきょとんとしている。

 

「あ、あの……今のは?」

「虫垂炎になってしまっていたみたいだけど、今、治したわ」

「そ、それではこの子は……」

「ええ、もう大丈夫。ほら、自分で立てるでしょう」

 

 愛歌に促された少年が立ち上がった。

 まったく痛みを感じていない。病巣は取り除かれ、健康な状態に戻ったのだ。この町の医療水準を考えれば、少年の命は危うかった。それを触れることもなく治してしまう。これを奇蹟と呼ばずして何と呼べばいいのか。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「気にしないで。できることをしただけだもの」

 

 傷も病も愛歌にとってはあってないようなもの。他者から取り除くことも、料理をするよりも簡単にできてしまう。

 感極まりながらお礼を言って去って行く母子。

 その後ろ姿を見送り、ウィリアムが言う。

 

「愛歌様、おいそれとお力を使わないでください」

「どうして?」

「際限がありません。町民の要望にすべて応えるのは不可能ですし、愛歌様に頼り切りでは、あれらが自分で何もできなくなってしまいます」

「そういうものかしら」

「そういうものなのです」

「でも、さっきの子は放っておいたら死んでしまっていたわ。見捨てるのはおじさまの立場としてもよくないんじゃない?」

「それは、確かにそのとおりですが」

 

 事実、町民を見捨てたと風聞が立てば町長としての立場が危うい。ただでさえ、大公と対立してしまっているのだ。ウィリアムが町長でいられるのは、本来は大公の承認があってこそなのだ。

 愛歌の力を背景にウィリアムは何とか町長としてこの町を治めていられる。

 愛歌の力を独占しているという陰口が密かに出回っているような状況である。さらに悪い風聞が立てば、町民が敵に回りかねない。

 愛歌は、概ねウィリアムの言葉に従ってくれる。

 理由は分からない。

 ウィリアムが最初に彼女に衣食住を提供したからだろうか。

 これほどの奇蹟の技を修めながら、愛歌は我欲を見せない。支配もしない。淡々と、「こうすべき」を実践する。ウィリアムの都合のいいように。

 それが不可解ですらあったが、だからといってウィリアムがとやかく言うこともできないのであった。

 愛歌はブラックボックスすぎて扱いに困る。

 ウィリアムの唯一の生命線であるが故に下手なことはできない。させられない。できることならば、神殿の奥に引きこもり生涯を神に捧げる修道女か巫女のようにひっそりと生きてもらいたい。

 

「そうだ、おじさま。一つ、提案があるのだけど」

 

 と、愛歌は言う。

 ダイニングでパンを食べているときのことだ。

 

「珍しいですね。どのようなお話ですか?」

「この町のお隣の川辺の町のことなのだけど」

 

 川辺の町は、その名の通り川に面した商業都市で水運で栄えている。交通の要衝であり、国内の流通拠点の一つである。

 そして、それだけの重要拠点であるからこそ、クロガネ大公国においても有力な貴族ウェストローザ辺境伯が取り仕切っている。当然、鎧の町との関係はこの二年で冷え切っており、それが経済的に鎧の町が困窮する原因の一つであった。

 

「昨日、ウェストローザ辺境伯とお話をしてきたのだけど、彼が取り仕切っている塩の販売ルートにわたしたちの麦を乗せてもらえることになったの。これで、外貨の心配はなくなったわね」

「……は、はい? お話をしてきたとは、いったいどういうことでしょうか?」

「そのままの意味だけれど? 麦を元手に商取引がしたいって言ってたでしょう? だから、話をつけてきたの」

「ふふふ、ご冗談を。川辺の町まで、ここから歩いても半日はかかります。途中から舟を使ったとしても、一日で往復するのはできますまい。昨日、愛歌様はずっとこの屋敷にいたではありませんか」

「そんなことないわ。わたしだって、ふらりと外に出ることはあるもの。おじさまが気づいていないだけだと思うわ」

「そのようなこと……そ、それに我が国の塩は専売制と申しまして、大公殿下の許しを得た商人しか取り扱えないことになっております。ウェストローザ辺境伯と言えども、塩の販売に直接関わることはできません」

「ええ、そう、普通の販売ルートならそうね。だから、わたし、言ったの。お小遣い稼ぎに使ってるルートに混ぜ込んでくれればいいってね」

「お小遣い稼ぎ……そ、れはまさか、密売?」

「いけないことよね。でも、利益は中央政府にもこっそり回してるみたいだから、大目に見てもらえてるようだけど、市場に出回るお塩の値段ばかり高くなって、とてもよくないわ。よくないから、こっちにも少し回してもらえるように頼んでおいたわ」

 

 愛歌の話が真実であれば、ウェストローザ卿が塩の密売で多額の利益を出していたというのだ。おまけに政府高官に賄賂を送り、不正を見逃してもらっていたという。

 愛歌はそうした弱みにつけ込んで、麦を外貨に換えるための商業ルートを開拓したのだ。

 とはいえ、疑問も生じる。

 なぜ、愛歌はウェストローザ卿の不正を把握することができたのか。彼女が外に出るところを、ウィリアムは把握していない。それほどの一大スキャンダルを、どうして握ることができたのだろうか。

 

「別に大した話じゃないわ。見えているんですもの」

「見えているとは」

「そのままの意味だけど。ええ、ウェストローザ卿がこっそり塩を中抜きしていることも、病弱な娘さんを溺愛していることも、奥さんに内緒で別荘に愛人を住まわせていることも、みんな識ってるの」

「あ……いや、その……ははは、それはまた、驚きですな……」

「わたしね、お話のついでに娘さんにも会ってきたの。わたしより少し年上かしら。大腸と肺に腫瘍があって、ベッドから出られなくなってる娘なんだけど」

「また治療されたのですか?」

「いいえ」

 

 愛歌は口元に運んでいたティーカップを下ろした。

 

「病気の進行は止めてあげたの。これで、病気で死ぬことはないし、苦しくもないはずよ。でも、まあ、何かの拍子に、また病気が進行してしまうということはあるかもしれないけれど」

「それを、その娘は知っているのですか?」

「もちろん。元気になって喜んでいたわ。だから大丈夫。ウェストローザ卿は、わたしたちと仲良くしてくれるわ」

 

 ウェストローザ卿が本当に味方になってくれたのだとしたら、それは心強い。が、決してそれは友愛ではないだろう。

 不正を指摘されたくらいでは、彼の屋台骨は揺らがない。すでに中央政府の高官を抱き込んでいるからだ。しかし、娘は違う。脅しを掛けてきた愛歌のことを、娘の命の恩人だと、ウェストローザ卿が認識するはずがない。

 ヒロインを手にした権力者の多くがその力を駆使して権力基盤を整えてきた。

 先人の例に倣うのならば、ウィリアムも愛歌の力でさらなる高みを目指してもいいはずだ。

 だが、愛歌の力を本当にウィリアムは管理できるのだろうか。

 すでに彼女はウィリアムの基本方針を守りながらも、独自に行動を起こしている。

 鎧の町を発展させたいというウィリアムの願いのとおりに、それがウィリアムの思惑を越えたものであっても、彼女には既定路線に見えているのだろう。

 このままで大丈夫だろうか。

 今は、まだ大丈夫だ。

 大丈夫だが、不安は募る。

 愛歌の見えているものが、ウィリアムにはまったく分からないからだ。

 

「あら?」

 

 と、愛歌が窓の外を見た。

 釣られて、ウィリアムも外を見る。

 門の外に女が立っているのが見えた。

 白い女だ。

 身の丈ほどもある大きな杖を持っている。

 

「この町の者ではありませんな」

「ええ、たぶん、わたしのお客様だと思うわ」

「愛歌様の?」

「大丈夫。敵意はないわ。ほら、ちゃんと門の外にいる。彼女ほどの魔術師なら、この部屋の中にだって簡単に入れるのに、そうしないのは、戦う意思はないってことでしょう?」

 

 門の内側は愛歌の領域だ。

 ウィリアムは認知していないが、この屋敷は愛歌の工房として機能している。愛歌と同じ世界の魔術師であれば、警戒して当然。そうでなくとも、似たような知識を持つヒロインであれば、あるいは無数の結界に覆われた屋敷においそれと近づくまい。

 

「まさか、ヒロインのどなたか」

「ええ、そう」

「同じ世界の方ですか?」

「どうかしら。近い世界なのは間違いないわ。上がってもらってもいいかしら?」

「構いません。愛歌様のお客様ということならば、愛歌様のご随意になさってください」

 

 ウィリアムが口出しできるはずもない。

 愛歌だけでも手に負えそうにないのだ。魔術師。よく分からない。愛歌と同類というのなら、下手に争うより好きにさせたほうがいい。

 

 

 やって来た女魔術師は、白皙の美貌に笑みを湛えていた。純白の美しさ。しかし、無垢のようには見えない。妖しい女である。

 応接間で愛歌と女魔術師が向き合っている。

 

「一応、紅茶を用意したのだけど、あなたはこういうものを嗜むのかしら?」

「本来、ボクらにとって飲食は必要のない行為だけど、人の感情を摂取する関係で嗜好というものは出てくるんだ。今の僕は、そうだね、味の理解はないなりに、楽しもうという意欲だけはあるというくらいかな」

「そう、それならよかった。まったくの無駄にはならなかったわね」

 

 愛歌と女は互いに紅茶を味わった。

 愛歌は紅茶を美味しいと思う。この世界の紅茶の中では、そこそこいい茶葉を使っている。ただ、前に座る彼女はまったくそう感じていないのだろう。女魔術師の味覚は人のそれと全く違うのだ。

 

「でも、まさか、あなたとお話しできるなんて思ってなかったわ。わたし、驚いていたの。伝説の大魔術師マーリンが、こんなに美しい女の子だったなんて」

「それはこちらの台詞だよ。この世界に来てからいろいろと視てきたけど、根源の姫がいるとは思わなかった」

 

 花の魔術師マーリン。

 アーサー王伝説に語られる高名な魔術師だ。

 現在を見通す目を持つ彼女は、この世界に顕現してからもその能力を遺憾なく発揮し、あらゆる事象を見つめてきた。

 その過程で、同種の能力を持つ愛歌と「目が合った」ことがある。

 

「あなた、わたしのことを知っているの?」

「君じゃない君を知っている。ボクのオリジナルがいた世界と君は若干違うところから来たらしい」

「そういうこと。あなたがいた世界のわたしは、あなたと面識があったのね」

「さて、面識があったかどうかは微妙なところだけどね」

「今日はどうしてこの町に来たのかしら?」

「ボクは根無し草だからねぇ。今は、旅の途中なんだ。ちょうど、この近くに来たから思い切って会ってみようと思ったんだよ」

「嬉しいわ。あのマーリンが、わたしにわざわざ会いに来てくれるなんて」

 

 愛歌は、手を叩いた。

 まるで、今夜はご馳走ね、と言い出しそうな顔である。

 

「ところで、旅って、どこに行く予定なのかしら」

「ノワール」

「あら、あの山の向こうの?」

「そう。古代から続く歴史と伝統ある古都。要害堅固な山脈と海に囲まれた古の第二帝都さ」

 

 山脈の向こうにある都市国家のことは愛歌も聞いている。

 戦争が長く続くこの世界にあって、表だって戦いにかかわらず現代まで存続する希有な国。罪を犯した皇族が流される大陸の果て。 

 

「でも、どうしてノワールなんかに? あそこ、そこまで発展してるとも聞いていないのだけど?」

「どんなところか興味があるからさ。参考までに聞きたいんだけど、君の瞳にあの国はどんな風に映るかな?」

「何も……不思議よね。あそこは、何も視えないし、分からないわ。あの山も目では見えるけど、魔術的な感覚には何も映らない。ぽっかりと開いた穴みたいな感じかしらね」

「君でもそうなんだね」

「じゃあ、マーリンも?」

「ボクの目にも、あそこは映らないんだよね。だから、ここは直接視てみようとね。行商人は普通に出入りしているみたいだし、人の住まない魔境ってわけじゃないだろうからね」

 

 単純な好奇心。

 自分の目で見通せない奇妙な町の様子を見に行ってみたいというだけの冒険心だ。

 

「急ぎの旅というわけじゃないのなら、一晩くらい泊まっていかない? わたし、あなたからいろいろとお話を聞いてみたいわ。アーサー王伝説のこととか魔術のこととか」

「ああ、一晩くらいなら、いいかな。この屋敷は快適そうだ」

 

 白い乙女はふわりと笑う。

 男ならば蕩け堕ちてしまっただろう。そんな夢魔の視線にも、愛歌は動じない。むしろ、興味深そうに見つめ返した。

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