異世界ヒロインが召喚される世界で好き勝手する話 作:もう万体
ぴちゃぴちゃ、じゅるじゅる、と水を啜る音がする。
一定の間隔で、時に小さな呻き声を織り交ぜながら、二人の人影が重なり合う。
一人は金髪の少女、沙条愛歌。
橙色に揺らめくランプの明かりに照らされた彼女の頬は淡く朱を帯びて、しっとりとした汗に濡れている。
もう一人は栗毛の女、ノエル。
床に座りベッドに腰掛けた愛歌のマンコを一心不乱に舐めている。
まだ瑞々しく若い年齢のノエルではあるが、二十代も半ばを過ぎた大人の女である。少女と言っても過言ではない若者が多いノワールのヒロインたちの中では一回り年上の「お姉さん」である。
それが、ヒロイン達の中でも特に幼い外見の愛歌にクンニしている。
極めて倒錯的なプレイだ。
少なくともノエルの常識の中ではあり得ない行為ではある。そもそも、ノエルはこの歳までまともな恋愛をしたことがなく、性経験が豊富とは言いがたい。感性は人並みで、代行者も嫌々ながら勤めていたに過ぎない。
それが、どうして見た目はいたいけな少女に性的奉仕をすることになったのか。
疑問、疑念が鎌首を擡げ……すぐに雲散霧消する。
どうでもいい、とノエルは斬り捨てる。
元の世界の常識も自分の感性も通用する世界ではない。中世ヨーロッパに似た封建制の世界で、現代の価値観など何の意味も持たない。
非力で自分一人で生きていけないノエルは、結局のところヒロインではあっても単独で政局や情勢を左右する影響力は持てず、その土地の権力者の庇護の下で生きていくしかない。
ここノワールではその権力者はマオであり、愛歌はそのお気に入りのヒロインだ。そして、ノエルの上司であり飼い主であった。
「ん……ふう……ぴちゃ、ぴちゃ、れろ……ちゅ……ん、じゅるる……れろ、れろ、れろ」
ノエルは丁寧に愛歌のマンコを舐める。クリトリスを愛撫し、膣口に舌を差し込む。ノエルの舌が触れる度に、まるで感電したかのように愛歌のマンコが反応する。
柔らかな肉襞が動き、しっとりと濡れる。涎と愛液で濡れたマンコにノエルはキスをして、膣口から愛液を吸い出す。
「んちゅ……れろ……れろ……れろ……じゅる……じゅる……ちゅ……はむぅ……ん……ちゅるるる……れろれろ……んんぅ♡ はあ……はあ……れろ、れろ、れろぉ♡」
ノエルはとろんとした表情で愛歌に奉仕を続ける。
マンコを舐める舌使いは、一流の娼婦も同然だ。愛歌の反応を見ながら、的確に愛歌好みの場所を狙う。チロチロとクリトリスを焦らし、ある程度したら強くクリトリスを吸う。愛歌の小さな嬌声を耳にすると嬉しくなって、もっと奉仕してしまう。
「あ、ん……いいわ、ノエル。上手……そう、そこ……もっと吸って」
「はい、愛歌様……」
言われるがままにノエルは愛歌のマンコを吸う。
唇を押し当てて、熱い膣肉の中に舌を埋める。
できる限り舌を伸ばして、届く限りの最奥に舌を届かせる。
ずっと舌を動かしていると疲れてくるが、その疲れも悦びを得る過程の一つである。
はあはあと息を荒げながら、愛らしい主人にかしずいてご奉仕する。
(愛歌様、なんて可愛い……こんなお人形みたいな美少女がこの世にいるなんて。ああ、わたしの舌で、愛歌様の表情が崩れて、感じてもらえてる♡)
ノエルはすっかり愛歌の虜だ。
ペットとして愛歌に飼われるという状況すらこの上なく楽しい。性的奉仕に嫌悪感は皆無で、愛歌を感じさせることができるのは幸せなことだとすら思うのだ。
懐柔され性の奴隷となったノエルにとっては人間以下の扱いでも気にならない。
むしろ、そこまで主人のために擲つことができるという点に意味を見出してしまっている。
「あ、ふぅん、ん……ノエル、ん……あ……イイ……はあ、はあ……もう少し……ん……ん、あ、そこよ、舌、もっと入れて」
「はい……んちゅ……れろぉ」
ノエルは愛歌の指示に従って舌をマンコに差し入れる。
媚肉がノエルの舌を掴まえて切なそうにしゃぶってくる。
愛歌の性感が高まっている。
それを感じて、ノエルの舌使いも過激になっていく。
「んちゅ……れろ、れろ、れろ、れろ……じゅるる……んじゅるる……れろれろれろれろ」
「あ、ああん♡ それ、激しい♡」
「はあ、はあ……んじゅる、愛歌様、美味しいです……じゅるる……れろれろ、イッて、ください、れろろれろれろぉ」
「あふ……ん……あッ、んッ、ィく……んんッ♡」
愛歌が小さく呻く。
腰が浮き上がって、媚肉が絶頂に収縮する。
「あ、んあ!」
ノエルの顔に愛歌の潮吹きがかかる。
「あ……愛歌、様ぁ」
「ふふ、よかったわ、ノエル。お礼、してあげないと」
汗ばむ愛歌の淫蕩な表情。
青く澄んだ視線にサディスティックな光を見て、背筋がぞくりとする。
ベッドの上で、ノエルは四つん這いになる。
愛歌は自分がイクだけでは満足しない。彼女は本質的にはサディストだからだ。マオに対しては従順な雌犬に成り下がるものの、ノエルというペットに対しては調教して楽しむ悪癖があるのだ。
愛歌は裸に剥いたノエルの尻肉を撫でた。
手入れの行き届いた肌はすべすべしていてハリがあり、それでいて成熟した大人の女の色香を漂わせている。
「ノエルったら、もうこんなにびしょびしょにして」
愛歌がふう、と息を吹きかけるとノエルのマンコがびくびくと痙攣する。すでにノエルのマンコは愛液を垂れ流し、発情しきっている状態だった。
「あッ、あッ、愛歌、様ッ、そ、それは」
「それは、なぁに? ふふ、わたしにクンニして感じてたの?」
「あ、う……」
「答えてちょうだい、ね」
愛歌がノエルのマンコをぺろりと舐める。その刺激に腰を浮かせるノエル。
「あ、ひいぃ……ご、ごめんなさい、感じてました。愛歌様のおマンコを舐めさせていただきながら、感じてました!」
「そう、こういうことをして欲しくて?」
次に愛歌が責めたのはアナルだ。
人差し指を差し入れて、腸壁を愛撫する。
「愛歌様ッ、そこ、汚ッ、あぁ」
「ちゃんとお掃除してるでしょう? 大丈夫」
「そんな! あん、あ、あ、掘り進めたら、ああん!」
「感度がいいわね。マオさんにも虐めてもらったのかしら」
「ん……ん、う、あ、あ」
「ちゃんと答えて」
「い、虐めて、いただきました」
「いつ?」
「き、昨日の晩に、あん、マオ様の大きなおちんちん、入れていただいて、んふ、は、ぁ、はあ、はあ、いっぱい、ザーメン、注がれてしまいましたぁ♡」
ノエルのアナルはすでに調教済みだ。性感帯としてマンコに負けず劣らずの感度である。マオもノエルのアナルを気に入ったのか、彼女を抱くときにはよく使う。
卑猥な台詞に興奮したのかノエルのマンコから愛液が滴った。
「悪い子、ご主人様に隠れてマオさんに抱かれたのね」
「あッ、あッ、ああ~~~~~~♡」
ノエルのクリトリスを愛歌は抓った。
びくん、びくん、とノエルの尻肉が震えている。
「悪い子にはお仕置きが、いるわよね?」
「あ……ひぃ、そんなぁ」
「ふふ、欲しいわよね? お仕置き」
「あひ……え、へへ……ほ、欲しいです……愛歌様のお仕置き、ください」
愛歌の視線に射貫かれてノエルは自己を砕かれる。
性欲に支配され、愛歌に魅了され、自らの尊厳を徹底的に放棄する。
虐げられる快感は他では得ることのできないもので、ノエルの被虐思考は日々加速していく。
「ええ、分かったわ。今日はどうしようかと思っていたのだけど、マーリンからもらった特別な印をあなたに上げるわ」
「印?」
「ええ、印」
そう言って愛歌はノエルのアナルに指を差し込む。人差し指と中指と薬指の三本だ。先ほどの三倍の太さでアナルを拡張する。
それでも愛歌の細い指が三本分程度の太さなら、マオによって調教されたノエルのアナルは易々と受け入れる。
「んおッ、お、ぎ、ひぃ、あ、ふあ、ああッ」
それでもアナルを穿られるというのは羞恥心をそそり、息苦しさと快感で頭がおかしくなりそうだった。
愛歌はアナルに指を根元まで挿入した。
そして、そこで何かしらの魔力を注入する。
「あ、う……な、何……?」
「印、ここにつけたわ」
「へ……?」
愛歌はアナルから指を抜いた。
ノエルは訳が分からず困惑する。
何らかの術式が自分の直腸に打ち込まれたのは理解しているが、それが何かが掴めない。
が、すぐにその正体が判明する。
「あつ、い!?」
どくん、と脈打つ術式。
愛歌が打ち込んだ術式がノエルの腸壁で熱を発している。
「ひぃ、な、何ですか、これぇ」
「淫紋、ふふ、打ち込まれた場所がとってもエッチになる印よ。どうかしら。気持ちイイ?」
「淫紋って、こんな、お尻の中、あ、あ、ヤバ、い、これ、う、ううう!」
厄介なのは指が届かないところに打ち込まれたことだ。
身体の表面であれば、オナニーと同じように愛撫すればよかったのだが、アナルの奥深くとなるとそう簡単ではない。
ノエルは脂汗を浮かべながら、四肢と突っ張ってアナルの快感に悶える。
腰をフリフリしながら、どうにかしてこの快感を治めようと必死だ。
「ふふふ、そんなに腰を振って、はしたない。お仕置きにならないのだけど、特別に慰めてあげる」
楽しげに呟く愛歌の手にはいつの間にかディルドがある。
それを見た瞬間にノエルの中で理性が弾ける。
「あ、あ、それ、それ、欲し、い……あ、ああ」
「どうしたいかちゃんと言いなさい」
「お、お尻にそれを入れて、かき回してくださいぃ」
涎を垂らしながらノエルは愛歌に尻を向ける。自ら尻肉を左右に広げてアナルを見せた。愛歌は満足げに自らの涎で濡らしたディルドをノエルのアナルに押し込む。
「お゛お゛ぉおお!?」
ぶっしゃああああああ! とノエルのマンコが決壊する。
想像を絶する快感に仰け反り絶頂したノエルは、野太い絶叫を響かせた。
そして、愛歌はそんなノエルを容赦なく責めた。
ディルドを抜き差しして、ノエルのアナルをぐちゃぐちゃに犯す。
「あぎいいいい♡ んおおおおおお♡ イグッ! イグッ! んおお♡ すごおおおおおぃ♡ お尻の穴が掘り返されて、イグうううう♡」
ノエルの雄叫びは完全に理性を失った野獣のようだ。
淫紋を刻まれた直腸が、歓喜にむせび泣く。
ディルドがちょうど淫紋に触れる。その時の電流のような快感はノエルの脳細胞を一気に沸騰させる。
「ひぎいいいい♡ つよい! もう、無理でぅ、おかじぐなる♡ んぎいいいい♡」
ノエルの泣き言に愛歌は応えない。
これはお仕置きなのだから当然である。
まして、ノエルが自ら望んでアナルを差し出しているのだ。今更、後戻りなど許されないことだ。
「おほ♡ おひ♡ ひぎいい♡ あああああ、じ、じぬ、死んじゃう、いき、くるし、ひい、んほおお♡」
白目を剥くノエル。
アナルの快感は彼女の理性の限界を軽く上回る。
「きひぃいいいい♡ おおおおお♡ イグ、お、ふおおおおおおおおおおおおおおお♡」
泣き叫んでノエルは激しい絶頂に達する。
もう醜聞も何も気にしない。愛歌の手でイカされる快感に勝る物はない。淫紋から伝わる快感にノエルは素直に従った。
初めからノエルには自由などない。
愛歌の手の平の上で転がされるだけでしかないのだ。
ノエルは白目を剥いて情けないアヘ顔をさらして気絶した。
体力をすべて絞り出してイキ狂った挙げ句にお尻を丸出しにしたまま愛液を垂らして意識を飛ばしてしまったのだ。
愛歌はそんなノエルのマンコをお掃除するかのように舐めた。
その刺激で気絶しながらノエルはまたイク。痙攣を繰り返し、反射的に小さな嬌声を上げ続ける。
愛歌が淫紋を解除するまでに三日間、ノエルはトイレで地獄を見ることになるのは別の話。
♪
天気は晴れ。
風はなく、海は穏やかで絶好の海のマリンレジャー日よりだ。
ユニオニアの港には、多数の商船がひしめき合い、人の行き来も活発だ。
今や世界一治安が安定していると言っても過言ではないユニオニアは、商業的にも成功している。
ヒロイン生協のお膝元で治安もいいとなれば、多くの人が集まるのは当然であり人が集まるところで商業が発展するのも自然なことだ。
今の大陸の主要な移動手段は陸路と海路である以上、効率よく荷物や人を輸送できる船が商業の中心を担うのは言うまでもなく、良港を抱える都市は軒並み発展する傾向がある。
宗教、政治、軍事そして経済。
すべてにおいてトップを走り続けるユニオニアは、まさに世界の中心と言うに相応しい大都市であった。
いろいろな国からやって来た国籍様々な船が並ぶ様を横目にティアナは海沿いの道を歩く。
しばらくすると一転して人気の無い船着き場に到着する。
商船が出入りする船着き場とは別の結界で区切られた区画には、巨大な軍船が何隻も停泊している。
海に面したユニオニアは強力な海軍を持つことでも有名だ。
ここはその本拠地である。
この辺りにいるのは騎士や軍船の整備士であって、先ほどまで道に溢れていた商人たちとは全く違う顔ぶれになる。
結界の内と外での空気感の違いに面食らいながら、ティアナは一隻の船に近づいた。
巨大な城と見紛う軍船の間に小さな船が停泊している。
少し大きめのキャビンクルーザーといったところだろうか。流線型のフォルムは格好良いが、全長百メートルを優に超える軍船が居並ぶ軍港の中ではあまりにも場違いだ。
上を見上げるとデッキ部分で作業している少女がいる。
「すみませーん!」
と、ティアナは声をかけた。
少女は顔を上げて、デッキから顔を覗かせる。
逆光で影になってしまいよく見えないが、おそらくはティアナと同じくらいの年齢であろう。
「あ、はい。今行きます」
少女はそう言うや、柵を跳び越え、デッキからさっと身を翻して飛び降りた。
あっと思う間もなくひらりと着地する。
三メートルはあろうかという高さから飛び降りたのに、怪我をした様子はない。
階段を二、三段まとめて飛び降りた程度の感覚だろうか。
常人以上の身体能力を持つ彼女は、間違いなくヒロインの一人だ。
「ティアナさんですね。こんにちは。B&Gトラベルのジータです。よろしくお願いします」
気さくな笑顔で少女――――ジータは手を差し出した。
金髪のショートヘアが陽光を反射して輝いている。
染み一つない白い肌に強い意志を宿した瞳。
戦っているところ見るまでもなく、その佇まいだけでも相当な実力者だということが分かる。
B&Gトラベルはヒロインが運営する小さな輸送会社だ。
都市部を離れれば魔獣が闊歩している地域は多い。治安の悪い地域も珍しくない。国を跨いで人や物を行き来させるのは大変だ。
B&Gトラベルはヒロインが輸送を担うというだけあって、通常の行商人が踏み込まない地域にも素早く配達するのが特徴だ。
今回はヒロイン生協のヒロイン三名をノワールに輸送するのが仕事である。
会社設立以来、最も大きな仕事となる。
「ヒロイン生協のティアナです。この度は依頼を受けてくださってありがとうございます。危険を伴う仕事をお願いすることになって申し訳ないのですが、よろしくお願いします」
「危ない仕事だっていうのは、承知してますから、そんなに畏まらないでください……なんて、わたしから言うのは変でしょうか」
「そんなことないです……と、お一人ですか?」
「社長はカリムさんのところに行きました。今日、出航ですから挨拶に」
「そうですか。行き違いでしたね」
カリムの執務室からここまでまっすぐ来たが、すれ違った人の中に社長がいたのだろうか。
B&Gトラベルの社長は戦闘型ヒロインではなく、超能力も魔法もないというが、商才には長けているようで、ジータとともに企業して今に至る。
まだ新興企業で規模も小さいが、ヒロイン生協の依頼を着実にこなしてくれていて実績は十分だ。
「中に入りますか?」
と、ジータはティアナに尋ねた。
「いいんですか? まだ準備中じゃ」
「大丈夫です。もう出港準備はできてますから」
集合時間まではまだ三時間はある。
早めに来たはいいが、外で棒立ちになっている必要はないし、クルーザーの中を見て回るのはちょうどいい時間つぶしにはなる。
ティアナはジータに案内されて、クルーザーに乗船した。
船室に入ると思いのほか広く驚いた。
今回乗船する人数分の個室はあるし、共用のダイニングも十分な広さだ。
クルーザー全体に西洋魔法をベースにした防御魔法がかかっていて、万が一の事態への備えもある。内部の広さは空間拡張の魔法だろう。外見よりも一部屋か二部屋分くらいは広くなっているようだ。そのおかげで、スペースにも余裕ができていて、食料と水が多めに備蓄できている。後は、クルーザーの乗り心地がどうかというところだが、そればかりは出港してからみなければ分からない。
「ティアナさん、海は初めてですか?」
「外洋に出るのは初めてですね。わたしがいた世界では空を飛べたので、わざわざ海に浮かべる船を使うというのはなかったです」
「そうなんですか? 空を? いいですね。わたしのいた世界にも騎空艇っている空を飛ぶ船があるんですよ。もともと、空に浮かぶ島で構成された世界だったので、むしろ騎空艇がないと困っちゃうんですよね」
「空に島が浮かんでいるんですか」
「はい」
「何だか不思議な世界」
「この世界にはないですもんね。空に浮かぶ島。探せばあるのかもしれませんけど」
「あなたも騎空艇に乗ってたんですか?」
「わたしは見習いみたいなもので、これからって時にこっちに来ちゃいましたから全然……なので、こっちで騎空士をやろうかと。空はまだハードルが高いみたいで残念ですが、海は海で面白いですから当面は船乗りです」
戦乱の時代に空を飛ぶのはリスクが高い。
どの国も自国の上空をどこの誰とも知らない相手が飛び回るのをよしとはしない。
事前に申し合わせた上で決められたルートを通る、高高度を飛行しないといったルールを作って飛行を認める場合はあるが、それも地域差がある。
ヒロイン生協だからといって、飛行船をノワールまで大々的に飛ばせばひんしゅくを買うのは間違いないし、道中で対空放火を受けることもあり得る。緊迫した世界情勢下での飛行は色々と気を遣うのである。
そのため未だにこの世界では飛行船の技術は発展していない。
地上から空を狙える魔法があるというのも、飛行船の発展を阻害する要因だ。
ジータが空に憧れるのは元の世界からのものだが、彼女個人というよりは世界情勢そのものが足かせになっている状況だった。
一通り見て回ってから、ティアナとジータはダイニングでお茶をすることにした。海棲魔獣のレザーシートだというソファに腰掛けて、ハーブティーを淹れる。爽やかな香りは、疲れた脳をリセットするのにちょうどいい。まだ午前中でこれからが大事な時間帯だ。集中力を高める上でも、このハーブティーは最良の選択だ。
「ティアナさんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
と、ジータは不意にティアナに尋ねた。
「何でしょう。わたしが答えられることなら」
「銀髪のわたしのことを知りませんか?」
「……?」
何を言われたのか理解できず、ティアナは固まった。
「あ、ええと、すみません、いきなり変なこと聞いちゃって」
「いえ、銀髪だったんですか?」
「そういうことじゃなくて、多分ですけど、この世界にわたしと同じ顔をした娘がいるんです。髪が銀色なので、見た目はちょっと違いますけど」
「姉妹ってわけじゃなさそうですね」
「どういう人なのか分かりません。ただ、この世界に来たばかりの頃に一度だけ会ったんです。ちょっとわたしより年上っぽかったですけど、たぶん、いえ、間違いなくわたし自身でした」
「なるほど……わたしはまだ経験ないですけど、この世界は時々別の自分が召喚されることもあるみたいですから、別の自分と会うということもあり得なくはないですよね。生協の過去の記録を見ると、わたしも二百年くらい前にいたようですし」
「何か変な感じですよね。ただ、わたしの場合はちょっとわたし自身であってそうじゃないみたいな……すごく、嫌な感じでした。人を簡単に傷付ける、悪いわたしです」
「ジータさんが? とてもそうなるとは思えません」
「ありがとうございます。わたしも悪いことはしません。でも、この世界に来た時に会ったわたしは、控えめに言って極悪人でしたから、わたしにはそういう未来もあるのかもしれないんです」
「……それで、その銀髪のジータさんとはその後……」
「その時に、わたしはコテンパンにされてしまって、駆けつけたヒロイン生協の方達に助けてもらって一命を取り留めたんですけど、あのわたしがどこに行ったのかは分からないままです。だから、こうしていろんな所に行ける仕事をしていたら、いつかはあの娘の情報も入ってくるんじゃないかなって思ってたんです。ティアナさんは情報通みたいだったので聞いちゃいました」
「残念ながら、わたしはそんなに情報入って来ないんですよ。総長秘書って言っても、何でもかんでも報告が入ってくるわけじゃないんです」
実際、ティアナがヒロイン生協で総長秘書を務めているのはカリムから引き上げられたからだ。実績を上げて評価されたからではなく、個人的な情報網まで構築できてもいない。業務上必要な情報共有はされるが、現場レベルで対応した案件まで具に把握できるかというと無理だ。
(それでも、銀髪のジータさんが悪事を働いているというのなら、報告があってもいいはずだけど)
ヒロインの悪事はヒロインでなければ解決困難だ。
目の前のジータはまだ発展途上だが、話に出てくる銀髪のジータはかなりの凄腕だ。
それだけの実力者が周囲にいれば話題になるはず。まして、それが悪事を働くとなればヒロイン生協としては見過ごせない案件だ。
後でカリムに確認してみよう。
ジータが救助された日の記録があれば、その前後の犯罪の記録などを参照できるかもしれない。
空は雲一つない快晴で、気温はほどよく上昇している。風がないこともあって舗装された地面からの照り返しがいつも以上に辛い。
体感温度は、温度計が示す温度以上だろう。
集合時刻に合わせて軍港に集まったヒロイン生協のヒロイン三名とB&Gトラベルのヒロイン二名の計五名からなる少数精鋭だ。
これからクルーザーでノワールに向かう。
ノワールは大陸の西の果てだ。
ティアナだけでなく、日頃から輸送の仕事に従事するB&Gトラベルの二人にとっても過去最長の移動距離になる。
そのため、緊張感を持って臨まなければならない。何より、海の上でのトラブルは命に直結する。助けがくる可能性は万に一つも無い世界だ。
「まずは自己紹介から。まあ、知っている顔もあるけど、点呼も兼ねてね」
肩口で切りそろえた金髪が眩い碧眼の女。色白の美女は、B&Gトラベルの社長アリサ・バニングス。ヒロイン生協の庇護の元で漫然と生きるのではなく一旗揚げて独立しようと起業する行動力とそれを軌道に乗せる手腕を持つ若き経営者である。
異国では戦闘能力のないヒロインの扱いは時に非人道的になりがちだが、ヒロイン生協のお膝元は彼女のような力のないヒロインでも地力で生活できる地盤が整っている。そういう環境では戦闘以外の才能を発揮できるので、さらに経済や学問、さらには娯楽までが発展するのである。
「じゃあ、まずはうちの社員から」
「はい、B&Gトラベルのジータです。主に戦闘から荷物運びまで何でもやります!」
と、元気よく挨拶するジータ。可愛い顔をして、戦闘能力は侮れない。基本的には剣士だが、資料によれば遠距離戦もある程度はこなせるようだし、剣に頼らない柔軟な判断ができるだけの経験もあるという。
アリサが前線に出られない分、ジータが戦いを担当するのが基本だ。
「じゃあ、次はわたしね。ヒロイン生協の総長秘書のティアナ・ランスターです。実はアリサさんとは、元の世界でお会いしたことがあります」
「あたしは記憶にないのが残念。なのはの部下なんだって?」
「はい」
「優しい顔してる割に厳しいでしょ、あの娘」
「ノーコメントで」
あはは、とアリサは屈託なく笑う。
ティアナとアリサは世界観を同じくする世界からやって来た。アリサはティアナと面識ができる前にこちらに来たようなので時間軸はかみ合っていないが、世界が同じというだけでなく共通の知り合いがいるというのは、仲良くなるのに最良の条件だ。
ティアナは咳払いの後、隣に視線を向ける。
内側にカールする栗色の髪の少女だ。修道服を思わせる衣装の生地は分厚く、様々な強固な防御魔術に裏打ちされた防具でもある。
「それで、こちらが……」
「ステラです。ヒロインの分類としては、カードモンスターの魔法使い族になります」
カードモンスターは分類の難しいヒロインの一つであるが、概ね元の世界ではカードの中で生きていると自覚するヒロイン達ということになる。かなり曖昧な概念であり、複数の世界で同様のヒロインが確認されているため、一口にカードモンスターと言っても世界観を共有しているわけではない。
カードモンスターではないヒロインには非常に分かりにくい背景を持つヒロインと言えるだろう。
「はい、トリはわたしですね。アニスフィア・ウィン・パレッティア。こう見えて元の世界では一国の姫でした。今は色々あってカリムさんに滅茶苦茶借金してるんで馬車馬のように働きます。よろしくお願いします!」
明るく元気にアニスフィアが手を上げる。
言っている内容は笑えないのだが、彼女は口を開けば周囲を明るくするタイプだろう。
このメンツの中では一番のムードメイカーになりそうだ。
「借金苦で船に乗せられるって、うちの船は蟹工船か……ま、お金返さないといけないのはあたしも同じだし、頑張りましょ」
「社長も借金あるんですか?」
「あたしのは企業のための借り入れ。損害賠償とは別物」
にべもなくアリサは言い放つ。
アニスフィアがむぅと唇を尖らせる。
集まったヒロインは全員年齢が近いようでもあり、さながら学生の旅行のような雰囲気すらある。厳しい旅になると自覚していないわけではないが、初めから士気を下げる意味もない。
社長兼船長のアリサが手を叩いて、始まった雑談を切り上げる。
「じゃあ、そろそろ行くわよ。今日は沖の方も落ち着いているみたいだし、雑談は船の中でしましょ」
♪
白亜の城塞都市ユニオニアは遠くからでも輝いて見える。
人里離れた険しい山の中でもユニオニアの白い塔は天を突かんばかりに聳えているのが分かる。
広大な大陸の中でも指折りの高層建築である。
塔の先端は百キロ先にまで届く光を放ち、闇夜の海を彷徨う船の道しるべともなっているのだ。
多くの商船の寄港地になっているのは、ユニオニアの治安の良さや活気だけでなく、安心して港に入れるよう設備を整えているからでもある。
視線を海原に向ければ、ユニオニアと行き来する大型の帆船が何隻も見て取れる。
「ああ、あれですね」
呟いたのは少女である。
栗色の長い髪を風に遊ばせながら、海上を行き交う船を目で追っている。
年季の入った深緑色の修道服をアレンジしたかのような独特な形状のロングコートはよれて痛みが目立つ。太ももまで届く長い編み上げ靴も、ずっと使い続けてきたものだろう。およそ、年頃の乙女には似つかわしくない服装である。
彼女がいるのは、海に面した急傾斜地だ。小さな岩の上に腰掛けている様は、さながらピクニックにでもきたようではあるが、普通の人間が鎖やロープを使わなければ辿り着けないような急斜面ともなると、そのようなところに少女が一人でいるというのは、異様な光景である。
少女の周囲は海風に曝されて曲がりくねった松が密生していて、ここに彼女がいると知らなければ海からは見えないだろう。
一方で、少女からの見晴らしは極めて良好だ。
水平線の彼方まで遮蔽物は存在しない。
少女の視線の先には、一隻のクルーザーがある。
数時間前にユニオニアを出港したノワールに向かうヒロイン生協の船である。
大型帆船が行き交う海路に、小さなクルーザーは目立つ。大海原を旅するには心許ない大きさではあるが、魔法というのは物理法則を時に凌駕する。あの程度のクルーザーであっても、魔法によって強化されているのなら、海を渡るのも難しくないのだ。
ヒロイン生協の総長秘書は、予定通りに港を出た。そして、この分なら遅れることなく次の寄港地に辿り着くだろう。
この時期、海は落ち着いている。
ノワールに至るまで穏やかな状態で、仮に天気が荒れても、魔法で強化されたクルーザーならば転覆することはまずない。
大きなトラブルがなければ、無事にノワールに辿り着くことだろう。
女は小さく笑う。
この世界を動かしているのはヒロインだけではない。
人口比で見ればこの世界の人間のほうが圧倒的に数が多い。
ヒロインという存在は、圧倒的に強大で無視できないが、所詮はマイノリティだ。それ故に、大小様々な歪みを社会にもたらしている。
それは正の面もあれば、負の面もある。
ヒロイン生協であってもそれは同じだ。
総長の鶴の一声で何もかもが決まるというほど、ヒロイン生協の政治は簡単ではない。
今回の使節でカリムが集めたヒロインがティアナ以外にたった二人しかいなかったのも、政治的な問題が大きい。
貴重なヒロインをすでにノワールには三人送っている上に、周辺諸国にも派遣している。屍との戦いが続いており、他の国との摩擦もある中でヒロインをそう何人も用意することなど不可能だ。
カリムの権限であっても、現時点で用意できるのは扱いが宙に浮いた二人だけだったというのが現実だ。
そして、そういった事情も含めてこの少女の手元には情報が届いている。
ヒロイン生協も一枚岩ではないということだ。
ノワール支援の重要性を多くの協会員たちは理解している。ブリンクウォールの悪質さ、危険性は伝え聞くだけでも恐ろしい。だが、遠く離れた異国の事情でしかないと考える者も少なからず存在するし、カリムそのものへの反感を持つ者もいる。
「ごめんね。これもお仕事だから」
寂しそうに呟く少女は、一枚のカードを取り出す。
緑色に縁取られたカードだ。
子どもの遊戯に使うような玩具ではない。
これ一枚で金貨千枚の価値になるであろう希少なマジックアイテムだ。
一般の市場に出回るような物ではなく、それなりのコネクションや立場がなければ見ることすら叶わない最上級品――――ヒロインがこの世界の持ち込んだ「舶来品」である。
その中でも「カード」系統のマジックアイテムは、魔力を注げば効果を発揮するという使いやすさから度々悪用されてきた歴史がある。
彼女の手にあるカードもそんな危険なカードの一枚だった。