裸ノ乙女達 ~魔力健康法実践の為にすっぽんぽん生活を強いられる御嬢様(ロリ)に執事として仕えることになりました~ 作:室谷 竜司
キッチン内はしばらく静寂に包まれていた。正直、気まずくてユーアさんに話しかけられなかった……。相も変わらず、僕はビビりのようだ。
そんな感じの雰囲気ではあったが、朝食の準備は着実に進み、僕らの無言の連携により支度はすぐに終わった。出来上がった朝食を、二人で協力してダイニングまで運ぶ。その途中、僕は勇気を出してユーアさんに話しかけてみることにした。
「あ、あの……、ユーアさん……」
「……何?」
少し低めのトーンで、ユーアさんはそう一言だけ返事をしてくる。その瞳はまだ恨みがまし気ににも見えるが、よく見てみるとその奥にほんの少しだけ期待しているような色も覗かせているような気がした。
本当に……、本当に僕の予想は当たっているのか……?分からない……。まだ全然自信が持てない……。ただの自意識過剰なのではないかという考えがぐるぐると脳内を駆け巡っている……。
下手なことを言ってユーアさんとの関係に傷をつけたくない。でも……、このまま何もしないというのも、それはそれで何か引っ掛かりを覚えてしまう……。ど、どうすれば良いんだ……。
「もしかして、アルフィオーネ様とのことで何か?」
「あ、え、えっと……、その……」
言葉が出ない。話すべきかどうか決め切れない。一体、何が正解なんだ……。彼女にもっと近づくための一歩は、どうすれば踏み出せるんだ……。やはり僕は、以前までの自分から変わることはできないのだろうか……。悔しさから、僕はユーアさんから目を逸らし、顔を下に俯かせてしまう。
「……ふーん、まだ分からないんだ……」
だが次の瞬間、ユーアさんは小さくポツリとそう呟いた。昨日までの僕ならばきっと聞き逃してしまっていただろうその言葉は、しかし今の僕の耳にはちゃんと届いた。
僕ははっとしてユーアさんの顔を覗き込む。すると僕の瞳に、寂し気な表情を浮かべるユーアさんの姿が映る。心無し彼女の瞳は潤んでいるように見えた。
……いや、僕はちゃんと変われている。昨日までは見えなかった彼女たちの姿が、今はちゃんと僕の瞳に映っている。そして、彼女たちの感情も聞こえている。ここまで分かっているのに、自信だけが足りなかった……。
自分に対して後ろ向きなまま彼女たちに歩み寄ったところで、その先に何も見いだせない。僕が僕を見止めてあげないと、本当の意味で変わることなんてできないのかもしれない……。
僕に……できるか……?しっかり前を向くことが……。姿勢だけじゃなく、心も前向きにさせることが……。
「あ、あのさ……、ユ、ユーアさんって……」
「う、うん……」
僕が口を開くと、ユーアさんの瞳には再び希望の光が灯る。目の前でこんなに分かりやすい反応をしてくれているんだ。ユーアさんを……、いや、僕を信じろ……。
「もしかして……さ……、僕の……」
「ふわぁ、今日も良い匂いだねぇ♪」
「「わっ……!?」」
僕が次の言葉を言い出そうとした瞬間、声を弾ませながらフィノレア様がキッチン内に入ってきた。突然のことだったので、僕もユーアさんも肩をびくつかせて驚きの声を上げてしまった。
というか、なんてタイミングだ……。これじゃまるで、漫画のような展開じゃないか……。でも、フィノレア様の無邪気な表情を見れば、彼女が決して悪意を持ってここにやってきたわけではないことは理解できる。
だから、これはただの偶然……。運が悪かっただけなのだ……。それに、ユーアさんの思いはほとんど確信できたと言って良いと思っている。ならば、次のチャンスを伺う他ないだろう。
「ありゃ?どうしたの?二人とも」
しばらく固まってしまっていた僕とユーアさんの姿を見て、フィノレア様は不安気に首をかしげて僕たちの様子を伺ってくる。しまった、無言の時間が長すぎたな……。フィノレア様に心配をかけてしまうのは本意でない。
「っとと、申し訳ございません。少々考え事をしてしまっておりました」
「あっ、そうなんだ。タイミング悪かったかな?ごめんね」
「いえいえ、フィノレア様が謝る必要はございません。それはそうと、おはようございます。もうお食事は出来上がっておりますので、もう少しだけお待ちください」
僕は気持ちを切り替え、フィノレア様に向き直り言葉を返す。ユーアさんも直に硬直状態から抜け出し、メイドモードに戻った。
「おはようございます、フィノレア様。今からお食事をお運びいたしますね」
「あ、はーい♪あっ、今日もお手伝いしたい!」
「ふふっ、ありがとうございます。では……、これをお願いします」
「うん、任された♪」
そう言ってフィノレア様が皿を抱えてキッチンから出ていった。するとユーアさんは先ほどまでのメイドモードをオフにして大きく嘆息した。
「はぁぁ……、なんだかなぁ……」
「さ、さっきのこと……なんだけどさ……、また帰ってきてから話そう?その方がお互い落ち着いて話せるだろうしね」
「……分かった。き、期待しても……良いんだよね……?」
「え、えっと……、多分……?」
そんな曖昧な返事をしてしまう。確信はしているけど、こういうところがまだまだなんだろうな。これからもっと頑張らないと。
「い、いまいち信用できない……。け、けど、期待しちゃうからね……?違ったら嫌……だからね……?」
「う、うん。そ、それじゃあ、残りのお皿も運んじゃおう」
「うん、了解」
それから僕とユーアさんの二人で手分けして食事が盛り付けられた皿を順々に運んでいった。僕とユーアさんの間に、先ほどまでの気まずさはもうほとんどなかった。
にしても、まさかユーアさんが僕のことを……。アルフィ様もそうだったけど、どうして僕なのだろう……?もちろん嬉しいよ?嬉しくはあるんだけど、アルフィ様ともユーアさんとも、出会ってまだ数日しか経っていないのだ。そんな数日間の付き合いしかない僕に一定以上の感情を抱くのが何とも不思議でならない。
僕、女の子に一目惚れされるほど良い容姿しているのかなぁ?ただただ年の割に小さくて頼りない男にしか見えないと思うのだけど……。くっ、言っていて悲しくなってきた……。本当、どうして男性器以外育たなくなってしまったのだろう……?悔しくてしょうがないよ、僕は。……うん、この話はひとまず置いておこう。これ以上は僕の心が病んでしまう……。
でもまぁ、理由がどうであれ、彼女たちが僕のことを思ってくれるなら、僕も当然その思いに真剣に向き合うつもりでいる。これは、言ってしまえば僕なりのけじめみたいなものだ。
改めてそんな決意を固めながら、僕はユーアさんの背中を負って、最後の皿を手に持ちキッチンを出た。彼女の細い尻尾は、少しだけ嬉しそうにゆらゆら動いていた。……あくまで見ていたのは尻尾だから……。お、お尻じゃないから……。
*
そうして全ての皿を運び終わり、今は全員がダイニングテーブルの周りに集合している……のだが……、
「くん……くん……、すん……すん……」
「ひぁ……♡く、くすぐったいですって……、フィノレアさん……」
よく分からない光景が広がっていた。唐突にフィノレア様がアルフィ様の身体の匂いを嗅ぎ始めてしまったのだ。いや、本当に何なんだろうね、この状況……。
「なんかアルフィ様、昨日とは違う臭いしてるよ?すん……すん……、何処かで嗅いだような臭い……だね……」
「えっ、に、臭います!?それってもしかすると……」
「あぁ、この臭い、ナギサくんの臭いだ!」
あっ……、臭いで気づかれた……。やっぱり分かってしまうものなのだろうか?い、いやまぁ、今朝タオルで身体を簡単に拭っただけだから、臭いはそれなりに残ってしまっていたのかもしれないな。
それに、フィノレア様は狐系の亜人族だったはずだ。狐がどれほどの嗅覚を持っているかは僕にはよく分からないが、少なくとも普通の人間よりかはずっと敏感だと思う。そりゃ、気づかれないはずがないよね。そのことに何故僕は気づけなかったのか……。
「んぅ……♡そ、そうですか、えへへ……♡ナギサさんの臭いがちゃんと染みついているのですね……、嬉しい……♡」
周囲に他のユニットメンバーが勢ぞろいしているにもかかわらず、アルフィ様はうっとりとした表情を浮かべてしまわれていた。この人、本当に隠すつもりがさらさらないようだ。まぁ、それがこの世界の普通らしいのだけど。
「すん……すん……すん……、なんか……ここから特に強い臭いがするね……」
そう言いながら、フィノレア様はアルフィ様の剥き出しの股間に鼻を近づけ、くんかくんかと臭いを嗅ぐ。フィノレア様はフィノレア様で結構大胆だなぁ……。これが亜人族の普通なのだろうか……?
「ひやん……♡そこ……本当にくすぐったいですよぉ……」
「んん、アルフィ様とナギサくんって、もしかしてパートナーだったり?」
アルフィ様の股間から顔を放したフィノレア様は、今一度アルフィ様に向き直って確信を突く一言を口にした。そんなフィノレア様の言葉に対し、アルフィ様は……
「はい、その通りです♪」
と、満面の笑みで肯定の言葉を言い放った。すごいなぁ、躊躇がないなぁ……。僕は未だに慣れないってのに……。
「えっ、ええっ!?も、もうそんなところまで……!?」
「アルフィったら、行動に出るの早かったわねぇ」
人間族の姫様と魔族の姫様がそれぞれそんな言葉を漏らす。シャルティーナ様はかなり驚いているようだったが、それに対してラトナータ様はそれほど驚いた様子はなく落ち着いていた。
「ア、アルフィ……、貴女……」
「す、すごいです……」
一方、エルシャローゼ様とリレイナ様は唖然とした表情を浮かべてしまわれていた。うん、まぁそう言う反応になるのは仕方ないよね。僕だって、早いなぁと驚いていたわけだし。
というか、僕とアルフィ様が関係を持ったことについて、姉であるエルシャローゼ様はどう思うのだろう?あまり良く思われていなかったらどうしよう……。
「ふ、ふーん、そ、そう。よ、良かったじゃない、アルフィ」
「えへへ、ありがとうございます、お姉様♪」
と思ったが、エルシャローゼ様はそんな祝福の言葉をアルフィ様に送っていた。ちょっと顔が引きつっていたけど、悪感情を抱いているようには見えなかったのでひとまず安心……かな。
「ふふふ、お姉様も頑張ってください♪」
「し、知らないっ」
アルフィ様がエルシャローゼ様に耳打ちし、その耳打ちの内容を聞いたエルシャローゼ様は顔を真っ赤にしてしまっていた。もしかすると、エルシャローゼ様にも意中のお相手がいるのかもしれないな。
「お、おめでとうございます、アルフィさん」
「おめでとう、アルフィ」
「ふふっ、良かったじゃない」
「ええ、ありがとうございます、リレイナさん、シャルティーナ様、ラトナータ様」
その後、リレイナ様やシャルティーナ様、ラトナータ様からも祝福の言葉が送られ、アルフィ様は嬉しそうに顔を綻ばせながらそう言葉を返していた。どうやら、僕とアルフィ様の関係を皆さんに受け入れてもらえたようだ。良かった。
そんな、僕とアルフィ様との関係の報告も終わり、僕たちはようやく朝食を摂り始めたのだった。
「私、ナギサさんの隣です♪」
「え、ええ……、そうですね……」
「ナギサさぁん、食べさせてほしいですぅ♡」
「え、ええっ!?」
食事中、僕の隣の席に腰かけたアルフィ様が、ひっきりなしに僕に甘えてきていたのは言うまでもないだろう。そして、そんな僕たちに、他のユニットメンバーたちから生暖かい視線が注がれていた。……いや、ちょっとばかし冷ややかだったかもしれない。まぁ、どちらにせよ、恥ずかしいことに変わりはなかったのだけど……。
その後、各々朝食を済ませた御嬢様方は学園に行く準備を整えるべくそれぞれの自室に戻っていった。その間に僕は朝食の後片付けを済ませる。
それから、着替えを終えて荷物を持った皆さんが再びリビングに集合し、そして学園へと出発した。最後にアルフィ様に口づけをせがまれたが、流石にそれは恥ずかしかったので丁重にお断りした。
「むぅ、ナギサさんの意地悪……」
「も、申し訳ございません……。ですが、こればかりは流石に……」
「仕方ないですねぇ……。じゃあ、帰ってきたら私のこと、ちゃーんと構ってくださいね♡約束ですよ♡」
「は、はい。分かりました、アルフィ様」
そんなやり取りをした後、アルフィ様も学園へと向かわれたのだった。これで、今日僕はアルフィ様とユーアさんの二人と約束をしたことになるな。だが、僕の気持ちは軽かった。というか、少し心が弾んでしまってすらいた。
「さて、それじゃあ今日も1日、仕事頑張ろう」