裸ノ乙女達 ~魔力健康法実践の為にすっぽんぽん生活を強いられる御嬢様(ロリ)に執事として仕えることになりました~ 作:室谷 竜司
目覚めと幼天使?
「んん……、んんん……」
真っ暗な空間から意識が浮上する感覚を覚え、僕はそんなうめき声とともにゆっくりと瞼を開く。
すると、僕の視界いっぱいに白い世界が飛び込んできた。回らない頭ではそれ以上何も考えられない。さらに、身体の感覚も朧気だった。
「っ!?め、目覚めたのですか!?」
「えっ、ホント!?」
そんな声が聞こえた気がしたが、僕の脳の処理速度は追いついてくれない。僕はただぼんやりと目の前に広がる白い世界を見つめていた。
「私たちの言葉、分かりますか?」
「目覚めたなら返事を頂戴」
やけによく通る高い声が脳内に響き渡る。その声に引っ張られるように、僕の意識はよりはっきりしたものに変わっていく。
全身の感覚も少しずつ元に戻っていく。そして僕は、何か柔らかくて心地の良い感触に身体が包まれていることに気がついた。
「……布団?」
「はい、今貴方はベッドの上にいます」
「さっきまでずっと眠ったままで、声かけても全然起きる気配なかったのよ、貴方」
「……えっ?」
先ほどまではぼんやりしていて処理できていなかった高い声が、今度ははっきりとした意味を持って僕の耳から脳内に流れ込む。それはよく聞きなれた言葉だった。
僕は横たわったままだった身体を勢いよく起こし、そして声の聞こえた方へと視線を向けた。利きなれない声で聴きなれた言葉を発せられたことに思わず驚いてしまったのだ。
僕が視線を向けた先にいたのは、一目見て幼いと分かるくらい小さな背丈の二人の少女だった。綺麗な金色の瞳や長い銀髪、そして顔立ちに至るまで、彼女たちは瓜二つの容姿をしていた。恐らく双子なのだろう。
そして、その少女たちの容姿が日本人離れしたものであることに、僕は遅れて気がついた。というか、こんな子僕は知らない……。
いや、そもそもここは何処なのだろう?病院……っぽくはない。それっぽい機材も置いてないし消毒液っぽい臭いもない。というか、あれだけ勢いよく車に撥ねられたのだし、むしろ生きている方がおかしい。
じゃあ、もしかしてここは天国……というやつなのだろうか?となると、目の前にいる二人の童女は神様……いや、その見た目的に天使といったところか?そうか、僕は死んで天国に来られたんだ……、地獄じゃなくて良かった。
僕はそんなことを考えながらほっと一つ息を吐く。そして、改めて二人の童女……天使様へと視線を向けた。すると、二人は何やら呆けたように口をあんぐりと開いたまま固まってしまっていた。ん?何事だろうか?心無し頬も赤いような……?いや、気のせいか。
まぁ、とにかくいろいろと話も聞きたいし、ひとまず話しかけてみることにしよう。天使様だったら、きっと何でも答えてくれるだろう。
「あの、天使様方……、お聞きしたいことが……」
「「て、天使様っ!?」」
僕が話を切り出そうとすると、二人の幼天使様はそんな驚いたような声を同時に漏らす。えっ、何か変なこと言ってしまったのか?も、もしかして、彼女たちは天使でなく神様だったりするのだろうか?となると、ちょっとまずいことをしてしまった……。
「そ、そんな……、天使様だなんて……。そ、そんなに褒められると照れてしまいます……。え、えへへ……」
「わ、私は別に照れてないし……。天使とか言われたって何とも思ったりしないし……。アルフィみたいな反応を期待してたかもだけど、私はそんなにちょろくないから。ふん、残念でした」
二人のうち片方は身体をもじもじとさせてうわごとのように何かを呟き、もう片方は顔を真っ赤にしながら僕を睨みつけていた。ヤバい……、怒らせてしまった……。
「す、すみませんっ……、怒らせるつもりじゃ……」
「べ、別に怒ってるわけじゃないわよ……。わ、悪い気はしなかったし……」
「え、えっと……、貴女方は……天使様ではなく、もしかして神様なのですか?」
「「……はい?」」
今度は二人そろって首をかしげる。その仕草もやっぱり似ていると暢気に考えてしまう。思ったより僕の心は落ち着いているみたいだ。
だが、どうも話が噛み合っていないようにも思っていた。何というか、僕が天使様と呼んだ時の彼女らの反応が、まるで可愛いねと褒められた少女の反応のようだった。片方は素直に喜び、もう片方は照れ隠しで強気な態度を見せる……。なんか、そんな感じの反応だったように思えてしょうがなかった。
てっきり天使と神様を間違えたことに対して怒っているのかと最初は思ったけど、もしかすると彼女たちはそのどちらでもなく、普通の幼き少女……なのだろうか?えっ、それじゃあ本当に、ここは何処なんだ!?
「あ、あの……、ここは何処ですか……?」
僕はストレートにそう聞くことにした。最初からそうしていれば良かったのだ。勝手にここは天国なのだと決めつけてしまったのが悪かった。
「えっと、ここはローラント家の屋敷でございます」
「ロ、ローラント……?何処ですか……、それ……」
「ローラント家を知らない……、ということは、貴方は他国の人間……?」
「いえ、人間族はこの国にしかいないはずだわ。それに、見た感じでは魔族とも、亜人族とも思えないし……。もしかして、記憶喪失……なのかしら?」
少女たちは何やら難しい表情でブツブツとそんなことを呟いていた。人間族?魔族?亜人族?な、何だそれ……?もしかして、今流行りの異世界に転生した……とでも言うつもりか?そ、そんなまさか……。
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
「あ、はい。望月渚沙と言います。出身は日本です」
「変わった名前ね。それに、ニホン……って何処なのかしら?私、聞いたことないわ、そんな国。アルフィはどう?」
「いえ、私もないです、エルシャお姉様」
日本を知らない……?それも二人して……。日本ってそんなマイナーな国だったかなぁ……?いや、そんなことはない……はずだよなぁ……。
ってか、そもそも彼女たちが使っている言語は日本語だ。それなら、日本を知らないはずはないと思うのだけど……。なんか、疑念がさらに深まったような……。
「でも、名前も出身もはっきり覚えてるのね……。じゃあ、記憶喪失っていう線はないのかしらね……」
「単純にローラント家の知名度不足なのではないでしょうか?」
「そんなことあるのかしら……。お父様もお母様もお兄様方も、みんなこの世界のいろんなところで活躍されているのよ。少なくともこの国でローラント家を知らない人間なんていないはずなのだけど……」
「ですがお姉様、この方はローラント家を知らないとおっしゃっているのです」
「もしかしてあれじゃない?この人の知識不足なんじゃない?」
「お、お姉様っ!そんなこと言ってはなりませんよっ!!す、すみません、姉が失礼なことを……。どうかお気になさらないでください」
そう言いながらぺこぺこと僕に向かって頭を下げてくる銀髪の少女。先ほどからの会話を聞くに、やはりこの二人は姉妹のようだ。そして、今こうして僕に頭を下げているのが妹なのだろう。
そして、少し態度がきつめなのが姉というわけだ。容姿は似ているけど、性格は真逆なんだな。まぁ、それも当然と言えば当然か。
そして、一見容姿は瓜二つに見えるが、よくよく見ると妹の銀髪には少しだけ癖っ毛が混じっていた。最も目を凝らさないと分からないくらいの小さな違いだけど。
「あ、いえ、平気です。その、できればここが何という国なのか教えていただけませんか?」
「はい。ここはアルテロア王国、人間族の住まう国です」
「アルテロア……、すみません、やっぱり聞いたことがないです」
「そう……ですか。貴方は人間……なんですよね?」
「人間です。先ほど、魔族とか亜人族とか言っていましたけど、そんな人種が存在するのですか?」
「え、ええ。いますよ、魔族も亜人族も」
……これはもしかすると、本当に異世界とやらに来てしまったのかもしれない。クラスメイト達が時々話している内容を聞いて覚えていただけで、実際僕自身はそういう類の本は読んでこなかったのだけど。
「ねぇ、さっきから話が全然噛み合っていないように思うのだけど……?私たちにとって当たり前のことは何一つとして分からないみたいだし、ニホン……だったかしら?よく分からない国名を言い出すし……。貴方、ホントに人間?」
「お、お姉様、先ほどから失礼ですよ……」
「でも、こういう疑問を持って当然だと思わないかしら?」
「確かに、何かしら認識に齟齬があるようには感じますが……。それでも、言い方というものがあると思うのです」
「そ、そうよね……。ごめんなさい、流石に言い方が悪すぎたわ」
「あっ、いえいえ、お気になさらず。それより、一つだけ思い当たることがあるのですが……」
そこまで言って僕は少しだけ躊躇いの感情を覚えてしまう。異世界だなんて馬鹿げた話を、彼女たちは果たして信じるのだろうか?
けど、あくまで可能性の話だしな。話すだけ話してみよう。そう思い、僕は再び口を開こうとした……のだが、それを遮るようにコンコンというノック音が聞こえてきた。
僕たち三人はその音が聞こえた方へと視線を向けた。そこには、一枚の扉があった。その存在に今更になって気づいた僕だった。